初期の艦これ   作:弱箔

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62 民間仕様ではない艦船

 

 

7月9日

 

 

鎮守府にどう見ても民間仕様ではない艦船が接岸している

自衛隊が何やらやっていた様だが、こちらには何の話もない

遂に鎮守府内で好き勝手やられる様になってしまった、まあ、自衛隊にして見ればもう直ぐクビになる民間人を相手にするヒマはないのだろう、仕方ないね

執務室から私を運び出した憲兵と船から降りて来た人物を見る

 

「監察官のまいけるだ、取り敢えず食料を持って来たからそちらで搬入してくれ、手続きやらは施設管理室の方にやらせるから心配しなくて良い、艦娘達に早いとこ食事を出してやってくれ」

 

なんだ、この爺さん

 

「後続がまだ来る、搬入を急いで欲しい」

 

えーと、自衛隊の方々が何やら始めたと思ったらこの船が来て中からこの爺さんが出て来て言いたい放題なんだが、なんだこの状況

 

「申し訳ないが、状況が飲み込めない、何がどうなっている?搬入とは?」

 

船を見れば確かに何かを下ろす準備をしている、アレを私に運べと、それも急ぎで、クレーンでパレット下ろしする様だけど、ここから手で運べと?

こっちは資材備蓄の進捗具合と鎮守府の再稼働とをどう整合させるかで無い知恵絞ってる所を憲兵に両脇抱えられてここに運ばれて来ただけなんだが

 

「?なに?食料が尽きて難儀しているのでは無いのか」

 

爺さんに不思議そうに聞かれてしまった

 

「難儀はしてる、が、あんた誰だ、これは何処からの供給なんだ?こちらは何も聞いていない、そちらの言い分を鵜呑みにしてこちらに厄介事を押し付けられても困るんだが」

 

私の言い様に何故か含み笑いの憲兵、それを見た爺さんが若干拗ねた様な顔を見せる

 

「老兵も形無しですな、若い司令官は貴方を知らない様だ、搬入は憲兵隊で面倒を見ましょう、司令官とよく話していただけますか、老兵殿」

 

私と爺さんの遣り取りを見かねたのか、私を運んで来た憲兵が何やら言い出した

 

「……疑り深い上に扱い難いとは、厄介なヤツだな」

 

「爺さん程ではない、と思うが」

 

思わず言ってしまった

 

「!言ったな、よーし、よく分かった、向こうで良く話そうじゃないか」

 

おおう、爺さんが物凄く楽しそうな、見ようによっては邪悪そのものの笑みを浮かべた

何だこの爺さん!

 

「待ちなさい!」

 

声に釣られてそちらを見れば船からもう一人降りて来るところだ

 

「司令官の言う通り何の話も通さずに事を運んだのは事実、鎮守府司令官として、艦娘を率いる責任者として説明を求めるのも懸念を示すのも当然、先ずは説明を尽くし懸念を払拭しなければ司令官の信頼は遠ざかるばかりよ、強引に事を運べば拗れる事は大和が証明済み、こちらには時間が無い、これ以上事態を拗れさせたいの?老兵さん」

 

船からこちらには歩きながら口上の様な長台詞を吐く人物、いや、艦娘だ

しかも軽巡の高練度艦、ウチで高練度の軽巡は龍田だが、その上を行ってる

大本営にこんな高練度艦がいるとは、先に来た天龍の練度が上位クラスかと思っていたが、違う様だ

 

「あら、警戒しなくて良いわ、私は大本営所属、長良型軽巡二番艦の五十鈴、今は老提督の秘書艦を務めている、この鎮守府へは老提督の名代として来た」

 

そう言って、多分握手を求めてだろう手を伸ばして来た

 

「当鎮守府の司令官、佐伯です、失礼は承知だが、その手を取る前に伺いたい」

 

「?なにかしら」

 

「大本営所属の秘書艦は大和だけの筈、それも試験運用的なモノで検証中だと、聞いているが、こちらの情報が古いのか?」

 

私の言い分に五十鈴は手を引っ込めてしまった、不味ったかな

 

「証明になるかわからないけど、これが私の所属I.D.カード、鎮守府の端末でも照会できる筈、事務艦に調べさせると良いわ」

 

そう言ってカードを出して来た

 

「見せてもらっても?」

 

「どうぞ」

 

アッサリと渡して来る五十鈴、私の覚え違いでなければ大本営の所属I.D.って艦娘部隊施設内限定とはいえ電子マネーとやらに対応してた、平たく言って五十鈴は財布を、いやこの場合は金融機関の口座といった方が適切かな、それをアッサリ差し出して来たのと同じなんだが

兎も角カード表面の記載によれば、確かに五十鈴の言い分を裏付けている、事務艦に渡して端末で照会させる所までやらなくても良いくらいに

カードと五十鈴を見比べていたら、五十鈴に着いている妖精さんがひょこり顔を出した

 

「秘書艦、そちらの妖精さんと少し話をさせてもらえないか」

 

カードを示しながら、暗にカード照会よりも妖精さんの証言が良いと誘導してみる、乗って来るかな

 

「いいわよ」

 

アッサリと承諾して来る五十鈴、出て来た妖精さんを手に乗せ、こちらに差し出して来た、その手にカードを返しつつ妖精さんに私の手に乗り換えてもらう

この妖精さん、素直に乗って来てくれた、そのつもりで出て来たらしい、中々度胸の据わった妖精さんだ、初対面の人の手に躊躇いもなく乗って来るとは

 

「で、お前さんはなにしにこの鎮守府へ来たんだ?」

 

手に乗って来た妖精さんはそこから私の腕を伝って肩に移動して来た、なんて人懐っこいんだ、ウチの妖精さんもそれなりに懐っこいが初対面の人にはそこそこの警戒を見せるんだが

 

'難儀している司令官がいると聞いた''どれほど難儀しているのか''興味を惹かれる'

 

何だと?こいつら物見雄山か、面白そうだから見物に来たって事だよな

 

「そうか、折角来たんだウチの工廠へ寄っていくか」

 

'良いのか''他所の同胞''話しても良いのか''それは楽しみ''早く案内しろ'

 

「そう急かすな、工廠は逃げないしウチの妖精さんも喜ぶだろう、歓迎するかは、わからないがな」

 

'歓迎されない''邪魔なのか''喜ぶのか''早く案内しろ'

 

「五十鈴さん、この子をウチの工廠へ案内しても良いか?」

 

「……ちゃんと返してね」

 

「それは、私にではなくこの子の言ってくれ、工廠は妖精さんの巣だ、巣穴から妖精さんを引き上げるなんて無理にもほどがある」

 

そう言ったら五十鈴が私の肩にいる妖精さんに寄って来た

 

「あなたたちちゃんと帰って来る事、約束出来る?」

 

'約束する''心配性だな''早く案内しろ'

 

私の肩でわかりやすく大袈裟に頷く妖精さんにしょうがないという感じを見せる五十鈴

 

「秘書艦も工廠を見に来たらいい、この子も私の肩よりも艦娘の方が落ち着くだろうし」

 

そう言ったら何故か、困惑顔をされてしまった、なんだろう

 

「えっと、五十鈴が行ってもいいの、この鎮守府の工廠は色々あるんじゃないの?」

 

何だ?何の話を始めたのかわからんが勧めてみよう

 

「秘書艦程の高練度艦ならウチの妖精さんも歓迎してくれるだろう、こちらには何の問題も無いが、そちらには何かあるのかな」

 

「……ああ、そういう事」

 

なんか変な納得の仕方をした様な、感じがした、単にウチの妖精さんの好みの問題なんだが

龍田とは違った感じの高練度艦だし、阿武隈や木曾はそこまで練度が高くない

ん?阿武隈って長良型だったな、機会があれば時間を作ろうか

 

「あー、そっちの話は終わったか?」

 

焦れたのか爺さんが言ってきた、見れば憲兵の皆さんと施設管理室の皆さんとで搬入を始めてる、平たく言って陸自と海自が鎮守府への搬入作業に当たってる

 

「こちらの手は要りますか?」

 

一応聞いてみる

 

「要らん、司令官はこちらの老兵と秘書艦、双方とよく話をしてくれ、艦娘部隊内での伊邪胡坐は御免被る、色々行き違いだの誤解だのが多いと聞いているからな」

 

おおう、なんか悪者にされてる、仕方ないね

 

 

 

 

 

私と五十鈴と爺さんの三人で工廠へ向かっている、私が先導する様な感じで二人が後に続いて歩いている

 

「なによ、話なら歩きながらでも出来るでしょ、まさか司令官と二人っきりになれなかったからって、拗ねてるの?」

 

ナニソレコワイ、五十鈴がとんでも無い事を言い出してるんだが、突っ込まない方がイイよね

 

「子供か?三年程度のキャリアで私を子供扱いとは、艦娘ってのはコレだから一般庶民に敬遠されるんだぜ、殊勝な心持ちってのを学ぶべきだな」

 

「あら、残念、私のキャリアは二年程、一年多いわよ」

 

「……口の減らん奴だ、最近の若人はキャリアに対しての敬意が足りん、そういう意味では、五十鈴は司令官と気が合いそうだな」

 

突然こっちに話を振って来る爺さん、どう応えたらたらいいんだ?

 

「そうねぇ、見た感じ悪くは無いと思うわ、けど、今は老提督の秘書艦に就いている、二足の草鞋とするにはムリがありそうね」

 

私が応じる前に秘書艦が応えた、思いっきり出遅れたんだが

 

 

 

 

 

「うーん、変わり映えしないわね」

 

工廠へ着いての五十鈴の一言目がコレだ、一体何を期待したんだか、こっちが聞きたい

 

「施設としては同じだろう、違うのはそこに着いている妖精さんだ」

 

爺さんが何か言ってる

取り敢えず工廠へ声をかける

 

「お客様だ、紳士的な応対を期待してる」

 

私の声に釣られてそれなりの数の妖精さんが顔を出した

 

'お客様''紳士的''遊べばいいのか''だれが来たんだ'

 

ワラワラと集まりだす妖精さん

 

「これといって特別感はないな」

 

言いつつ妖精さんと工廠を見回す爺さん

 

「ほら、いってらっしゃい、しばらく滞在するけどちゃんと弁えるのよ」

 

そう言いつつ五十鈴が自身の妖精さんを工廠の妖精さんに引き合わせてる

 

'お''だれだ''お仲間だ''どこのお仲間だ'

 

工廠の妖精さんが五十鈴の妖精さんの周囲に集まり出した、それを何となしに見ていたら妖精さんの一部が隊列を作って爺さんに敬礼しているのに気がついた

 

「ほう、この鎮守府にも私を知っている妖精さんはいるのか」

 

答礼しながら感心した様に言う爺さん、知っている妖精さんとは?

 

'この人は''あの人と同じ''私達に良くしてくれた''その一人''忘れる訳がない'

 

何だ?妖精さんはこの爺さんを知っている?

 

'知らないのも''無理はない''この人''関わりの深いモノ''着いて行った'

 

「付いて行った?」

 

'そう''着いて行った''この人の故郷へ''私達の新天地へ'

 

「?何を言っているんだ」

 

爺さんに奇異な目で見られてるんだが、なんでだ

 

「こちらの司令官は提督だって、老提督が言ってたのを忘れたの?」

 

呆れた感じの秘書艦

 

「……そうか、妖精さんと話せるんだったか」

 

「大本営発行のI.D.より妖精さんの証言を信用する司令官よ、読み誤ると大和の二の舞になりかねない、忘れないで、これ以上拗れたら老提督でも対処仕切れない」

 

なんか責められてないか、私が悪いのか、そんなこと言ったってどうすりゃ良かったのさ

 

「その為に私が来たんだが、あのお人好しに任せておくと一人で抱え込みやがる、それでもベターな結果には持ち込む辺り優秀な事は認めよう、だが、もっと周囲を巻き込めばよりベストな結果に繋がる筈だ、今回はそれを証明せねばならん、アレも疑り深いからな」

 

ヤレヤレと言葉にこそしないがそう言いたげな爺さん

 

妖精さんの様子をしばらく観察していたが、予想通りに仲良く遊び出した、いや、妖精さん的には遊んでいる訳では無いらしいが、こちらからはどう見ても遊んでいる様にしか見えない

それを見届けてから二人に向き直る

 

「それで、今回の件は老提督の差し金らしいが、私、というよりこの鎮守府になにをさせたいんだ」

 

私の言葉に爺さんが若干嫌そうにしやがった、そういう顔をしたいのはこっちなんだが

 

「させたいというより、協力してもらいたい、今回の件は司令官の指揮能力、統制力、なにより艦娘に対する統率力が必要だ、指揮を受けての働きでは到達し得ない高い水準で司令官としての力量が必要なのだ、その為には現在艦娘部隊と司令官が交わしている契約では制約が多すぎる、契約内容を見直し再締結したい、司令官の力量を如何なく発揮してもらうのに相応しい内容を用意した、それが、コレだ」

 

そういって爺さんがどこに持っていたのか書類を出してきた

 

「……あの、コレを、どうしろと」

 

その書類は枚数そこ少ないが、記載されている文字が恐ろしく小さい、コレを読めと、承諾してサインしろと?

 

「もちろん再契約し、艦娘部隊の司令官として働いてもらいたい」

 

何故か自信たっぷり、こちらからは自画自賛で悦に入ってるとしか思えない爺さん、こんな妖しげな書類で契約をと、云われても、ねぇ

 

「不服か、何処が不満だ、改訂箇所を言ってくれ、この契約変更に関しては私が全権を持つ、この場で改訂する為にだ、艦娘部隊は司令官を高く評価しているつもりだ、可能な限り司令官の要望に応える用意がある」

 

おいおい、いきなり何を言いだすんだこの爺さん、こっちが書類の一文も見ていない事など御構い無しのこの言い様、何処からどう見ても妖しげな話だ、私の感覚では詐欺とか鼠講とか関わらない方が良い類の話にしか聞こえないんだが

 

「やっぱり警戒されるじゃない、だから段階を踏んで丁寧に説明をする様に言ったのに」

 

秘書艦が当然と言いわんばかりなんだが、わかってるのなら対処してくれないかな

 

「何故だ?これ程の条件を揃えたのに何が不満なのだ?」

 

一方で爺さんは物凄く不思議がっている、そう言えば妖精さんがこの爺さんの故郷を新天地とか言ってたな、この爺さん外国の人とかかな

 

「色々調べて見たけど、その書類が良くないわ、それに話の運び方も日本では詐欺の常套手段として注意喚起されてる手法と類似性がある、司令官が困惑するのも当然よね」

 

「なに?!この私がそんな事をしていると思われているのか!?」

 

大袈裟に驚く爺さん、ホンキでわかってなかったのかな

 

「取り敢えず仕切り直した方がいいわ」

 

「そうは言っても司令官と再契約出来ねばその手腕を十全に活かせん、どう話を運べば良いのだ」

 

困惑仕切りの爺さんを見かねたので一つ提案をしてみよう

 

「そうですね、取り敢えずはそれを持って隊長の所に行って相談してみるというのは如何でしょう」

 

そう言ったら物凄い困惑顔をされてしまった

 

「隊長?憲兵隊長か?アレは自衛官ではないか、自衛官に艦娘部隊司令官の契約内容を明かせというのか?」

 

「自衛官でも憲兵ですよ、諸々の守秘義務はあるし、私より法令やら規則に馴染みがある、なにより公務員として細やかな義務を果たすと言ってる、民間人と妖しげな契約を交わすと聞けば相応に乗ってくると思いますが」

 

「……怪しくない、何処にも悪意はない、司令官の手腕を買っての契約内容だ、そんなに、詐欺まがいな事をしている様に見えたのか?」

 

あれ、なんでそんなに大人しくなってるんだこの爺さん

 

「司令官から提案があったのだから、そうしてみたら?こちらに不利という話でも無いでしょう」

 

秘書艦はこちらの提案に乗る気らしい

 

「……わかった、司令官の提案に乗ろう、秘書艦にはその間に色々動いてもらいたい」

 

「わかっているわ、その為に来たのだから」

 

そういう秘書艦は真剣な顔を見せていた

さて、この秘書艦は大本営のどんな無理難題を吹っかけてくるのやら、面倒な事だ

 

 

 

 

 

爺さんが憲兵隊長の所に相談に行き、私と五十鈴が工廠に残っている

五十鈴はどこか落ち着ける場所で腰を据えて話したい様だが、大本営の秘書艦と差しで話すなど私が願い下げだ

結果として工廠で妖精さんの様子を見ながら立ち話をしている、五十鈴の話では事務艦が大和から聞いたと言っていた様に大本営では機能移転後もこの鎮守府の司令官として私を置くことが決定事項としてあるそうだ

これは先発隊の漣も言っていた、しかしそれでは大和の言動が説明出来ない、アレは一体なんなのか

大本営の士官の秘書艦だと思っていたからクソ官僚の派閥争いを反映しているのだろうと考えていたが、そもそも大和は老提督の秘書艦だと言う

私が勘違いしたのだ、前に老提督がこの鎮守府に視察に来た時に一人で来ていたから

秘書艦という立場の艦娘なら当然随行してくる筈、それが無かったから老提督の秘書艦という可能性すら考えていなかった

 

大和が老提督の秘書艦だったというのは五十鈴も認めている、序でに今は貴方の秘書艦だと言ってきた

なにそれ聞いてない、いや第二陣を率いてきた初期艦はそんな様な話をしていたが、言われてみれば初対面の時に大和がこの鎮守府に配属されたとも言っていた様な気もする

この手の話は口頭で済ませる話ではない、正式な移籍なら辞令を交付される、それが確認出来ない限りは話だけなのだ、人事異動が口頭で済まされるとか何処のワンマン経営会社だよ、艦娘部隊でそんな人事はしていない、今回の話は大本営から鎮守府への移籍だ、このレベルの移籍が口頭で済まされるとかあり得ないんですけど

 

私の困惑振りに五十鈴が輪を掛けて混乱している、思わず落ち着く様に工廠の休憩所へ誘導したくらいだ

自販機で適当に飲み物を仕入れて五十鈴に勧める、私も五十鈴の向かいに座って頭の中で話を整理してみる

 

「はー、確認なんだけど、」

 

勧めた飲み物を一気に飲み干した五十鈴が言い出した

 

「そこから話が通ってないって、貴方、大和と会っていないの?」

 

「挨拶程度には会った、詳しい話は事務艦に聞いてもらった、私の視る限りあの戦艦とは話しても時間の無駄だ、事態を把握出来ていないし、自己都合を押し通すことしか考えていない、なにより練度が足りない、艦種だけで全権持ちの代表とか最も扱い難い立ち位置の艦娘だな」

 

そう言ったら目前の秘書艦は困った様子を見せた

 

「練度が足りないのは、その通り、もしかして司令官はそこで大和を交渉相手として不足と見做してしまったのかしら」

 

「練度不足を理由にしたら、建造艦と話が出来ない、拠ってそれはない、そもそも大和とは交渉をしていない、話を聞いただけだ、大和が交渉だと思っていたかは、わからないが」

 

私の言い分に目前の秘書艦が盛大に溜め息をついた、呆れ切ったと云わんばかりに

 

「……大和が完全に空回っている、そういう事?あの子がそこまで空回りするなんて、余程司令官を意識してしまった様ね、ちょっとソレは予想してなかった、大本営ではVIP相手に卒なく案内役を熟していたのに、貴方を相手にそこまで空回りを起こすなんてね」

 

五十鈴が私に言うというより独り言の様に淡々と言葉を並べた

 

「空回り?」

 

「んー、なんて言ったらいいのか、まあ、大和も乙女なのよ、わかってあげて」

 

「???」

 

なんだそれ、意味が全くわからない

 

 

 

 

 

その後五十鈴が大和と私の会合を設定した

それで小会議場(という名目の未使用部屋)に集まっている

出席者は私と大和と五十鈴と長門の四人、何故この面子なのかは五十鈴しか知らない

私としては遠征隊の進捗が気になるのだが、初春の言っていた様に遭遇戦は回避出来る様子なので突発的な事態が起こる確率は低い

何かあれば龍田が対応するという事でこの面談に引き出されてしまった

 

「さて、大和、司令官は貴方とは交渉していないと言っている、これまでなにをしていたのか、五十鈴に説明して頂戴」

 

五十鈴に問われた大和が可哀想なくらいに身を縮こませている

 

「なにを、と言われましてもこちらの要件をお伝えして協力をお願いしました」

 

「司令官、大和はこう言ってるわ、何故協力しないの?」

 

この秘書艦、一々挙げつらって正していく積りか、そんな悠長な話に付き合っていたく無いのだが

 

「無理があるからだ、そちらの秘書艦の言い分は私には暴挙にしか聞こえない、拒否するしかない」

 

私が応えなかったからか長門が言い始めた

 

「暴挙?大和がなにを言ったの?」

 

「司令官に対し鎮守府に駐留している自衛隊を追い出せなどと、暴挙以外の何だというのか、自衛隊は司令官の要請で我等艦娘に協力する為に鎮守府に駐留しているのだ、我等だけでは得られようもない海域情報や自衛隊の哨戒情報が提供された、我等の作戦行動に多大な協力をしてくれた、借りのある相手を追い出せなど、非礼を働けと言ってくる秘書艦の発言を暴挙と言わず何というのか」

 

「司令官というより艦娘部隊に自衛隊に対する指揮権は無い、その点からも、もし、自衛隊を追い出せ何て発言が有ったのならば、問題ね」

 

言いながら大和を見据える五十鈴

 

「それは司令官に対しての事で自衛隊にその様に発言した訳では……」

 

何か言い出した大和が尻すぼみに声を小さくした

 

「それは無理筋だと、わかっているでしょう、何故そんな事を?」

 

大和を見据える五十鈴の眼がだんだんと違って来てる、気がする

 

「司令官を交渉に乗せる為です、こちらの話になかなか乗ってこない司令官を如何にかして乗ってもらう為に無理を承知で押し込みました」

 

「馬鹿なの!!そんな事をしたら不信を買うに決まってる!」

 

おおう、吃驚した、いきなり大声を出さんで欲しい

 

「済みません、他に司令官を乗せる方法を思いつかなかったんです」

 

軽巡に怒野される戦艦って如何なのさ

 

「つまり、司令官を動かす為の方策だった、という事か?大和は司令官を動かすのに誠意と見識を以ってするのでは無く、策を用い詭弁を弄すると言うのか」

 

驚きと呆気にとられている様に見える長門、余程大和の言い分が想定外だった様だ

 

「そういう事になるわね、でも、擁護する訳ではないけど大本営ではそれが当たり前なの、大和は建造艦、大本営しか知らないのよ、だからこそ、司令官に託す事が最善だと、老提督は判断した」

 

なんだ?こんな所で持ち上げられてもケツすら痒くならんが、なにを目論んでいる、この秘書艦

 

「そんな眼で私を見ないでもらえる?司令官」

 

五十鈴に指摘されてしまった、そんなに凝視したつもりでは無いんだが

 

「このまま大和をあの船団の全権代表に置くのか」

 

長門が誰にというわけでも無く聞いてきた

 

「無理でしょうね、五十鈴も詳しくは聞いていないけど、船内の艦娘達も事態の進捗の無さに不満を言い始めている、今は初期艦達が必死に説得して回ってるけど長くは持たないでしょう、そこで司令官、事は前後してしまうけど、貴方があの移籍部隊の全権を掌握して欲しいのだけど」

 

なにを言いだすんだこの秘書艦、鎮守府司令官にそんな権限は無い

私の表情からなにを読み取ったのか定かでは無いが、五十鈴が話を続ける

 

「その為にも老兵さんの持ってきた契約書にサインしてくれないかしら」

 

ホントになにを言い出すんだこの秘書艦、あんな妖しげなシロモノにサインとか、どんな実害が湧いてくるのかわかったもんじゃない

 

「一応言っておくと、あの契約書に書いてある事は司令官の保護規定が中心で司令官としての行動を支援する内容が盛り込まれている、文言を作成したのは老兵さん本人よ、自分が契約したいくらいだって自画自賛してたから、そんなに警戒せずに読むだけ読んで見ると良いわ」

 

「契約?何の契約だ?司令官は既に艦娘部隊と契約している筈ではないか」

 

長門から質問だ

 

「今の契約はいち鎮守府の司令官としての契約、老兵さんが持ってきてる契約は艦娘部隊との抱括的な、現行の取り決めより行動の自由とより広い権限の範囲とより堅固な法的な立場を保証する為の契約、性質が違うわ」

 

五十鈴が答える、しかしなんだそれは、如何聞いても厄介事をより多く抱えさせようとしている様にしか聞こえない

その抱えさせられた厄介事を司令官という名目だけで対処しろと?無理に決まってる、遠からず破綻するのが眼に視える

そんな契約をしろといわれても、二の足を踏むしかない

 

「大和は貴方の秘書艦、詭弁も策謀も貴方を利する為に活用させれば良い、大本営で、陸の上で必要な技量は大抵身につけている、後は司令官が活かせば良い、簡単でしょ」

 

ホントに簡単に言ってくれる、如何しようかコレ

 

「大和は、それで良いのか?艦娘として、戦艦種として、陸の上で身に付けた技量を活かす立場で、良いのか?」

 

長門がなんか聞いてる、私は五十鈴の提案を承諾した覚えは無いんだが、如何しようか

 

「大和は、人から危険視されています、今回の移籍は大和が大本営に所属出来なくなった事情を鑑みて老提督が手配して下さいました、佐伯司令官の事は叢雲さんから沢山伺いました、大和は今度こそ秘書艦として十全に務めようとしましたが、大和一人で空回り、独り相撲って言うんですか?こういうの?他の移籍予定の艦娘達も事態を進行出来ない大和を見限り始めています、今は初期艦の皆さんの説得に応じていますが、五十鈴さんの言う通り時間の問題です、もう、大和には実態を伴わない名目だけの肩書き以外、なにもありません、大和は大和の指揮権者である司令官の、佐伯司令官の指揮に服します」

 

なんだろう、この戦艦は此の期に及んで事態が認識出来ていないのか、これは練度と関係無く別の意味で問題がある様だ

 

「秘書艦、」

 

と言ったら大和と五十鈴がこっちを向いた、ああ、紛らわしい

 

「五十鈴秘書艦、そちらの話、大和がこの鎮守府に配属されたという件だが、私の元に辞令が来ていない、口頭で艦娘の移籍が決定されるという事は無い、もし、大本営で交付していないのなら、至急取り寄せてもらいたい、辞令がなければ着任の手続きが出来ない」

 

そう言ったら、何故か五十鈴が目を丸くした、驚いているのだろうか?

 

「辞令って、大和?辞令は交付した、大本営機能移転の行動計画書も作成して渡した、如何いう事なの?」

 

エッ、そうなの?ならなんでこの戦艦はそれを出して来ないんだ?

 

「提出先が定められておらず、司令官からの要求もなかったので、私が所持していますが」

 

それを聞いた五十鈴が思わず顔を両手で覆った、まあ、色々あるんだろう、御苦労さん

 

「?何か??」

 

事態を把握出来ていない様子の戦艦種の艦娘、困ったねコレは

 

「それよ、それを提出していないから話がこんなに拗れているのよ、辞令も無しに乗り込んで配属されたと言っても鎮守府司令官の権限では何も出来ないのだから、そこに大和が思い付いたっていう方法を押し込んだら道理を退かせようとしてる様にしか見えない、警戒するなという方が無理、行動計画書も提出していないのなら、あの引き篭もり達の事も司令官は知らないのでしょう、工廠の新設が急務な事情すら説明されてないのよね、司令官は」

 

いきなりこちらに話を振られても、なんのことやら、思わず長門にアイコンタクトで知ってるか?とか意味不明な事をしてしまった、勿論長門は知らんと返してきた

私と長門の遣り取りを見て五十鈴が又も盛大に溜め息を吐いた

 

「おっかしぃな、なんだってこんな事に?幾ら何でもドジが過ぎる、大本営であれだけVIP相手にそつなく立ち回っていたのに、なんでだろう」

 

心底わからない、困ったと言う様子を見せる五十鈴、困ってるのはこっちなんだが

 

 

 

 

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