7月10日
執務室で仕事をしていたら誰かが扉を叩いた
今は事務艦が出払っているので仕方なく応対した
「どうぞ」
扉を開けたのは隊長だった、こちらの顔を見るなり室内を見回して事務艦がいない事を確認、身を滑り込ませたと思ったら扉を締めて、何故か鍵をかけやがった
思わず身の危険を感じたが、隊長の様子からワケありと判断、隊長の出方を待った
「忙しいだろうが、少し時間をもらいたい、出来るだけ手短に済ませる」
そう言いつつ執務机に歩み寄って来た、逃げちゃダメかな
「あー、いらん事を考えてるな、まあ、憲兵隊長が部屋の鍵かけたら、誰だってそうなる、それはわからないではないが、今はそれどころではないのだ、回り諄く聞いても仕方ないからストレートに聞くが、司令官、お前さんあの退役将校に、何を言った?事と次第では、私の首どころか憲兵総監の責任問題になりかねない」
「?」
なんの話を始めたんだ?
「思い当たらないか?司令官はあの退役将校に艦娘部隊の最重要機密に属する文書を憲兵隊に公開するように言ったそうだな、心当たりはないか?」
「??」
機密文書?はて、なんだろう
「申し訳ないが、思い当たらない、そもそも、退役将校とは誰の事だ?」
「……そこからか、そう言えば、食料搬入に手を貸した隊員から司令官が老兵を知らない様だと報告があったな、司令官は老兵の通称を持つあの御老体をホントに知らないのか」
なんか呆れられてる、ような気がする、なんでだ
「あの爺さんの事か?そういえば秘書艦も老兵さんと呼んでたな」
「秘書艦?あの戦艦か?」
「いや、爺さんと一緒に来た軽巡、老提督の秘書艦だそうだ」
そう言ったら隊員が驚いた顔になった
「老提督の秘書艦は大和、あの戦艦ではないのか?」
「大和は元秘書艦らしい、あの船団を率いるに当たり交代でもしたのではないか、しらんけど」
あらま、隊長がなにやら考え込んでしまった、手短に済ませるんじゃなかったのかな
「私の記憶違いでなければ、あの戦艦は秘書艦と名乗っていたと思うが、老提督に秘書艦が二人就いているという事ではないのか」
「それを私に聞かれても、大本営に問い合わせてもらうしかないが」
「そりゃそうだ、確かに聞く相手が違うな、で、話を戻すが、司令官の言うあの爺さんに何か文書を憲兵隊に公開する様に言わなかったか?」
ここ迄云われれば何の事か当たりは付けられる、しかしそれが何だってこんな事態を引き起こしているのかがわからない
ここは馬鹿正直に答えると、跳ん出も無い事態に巻き込まれる恐れがある、こう言う時こそ回り諄く躱すに限る
「なにやら妖しげな契約をさせようとして来たから、詐欺も意識高い系の勧誘も間に合ってるとは言った」
「怪しげな契約?」
「そう、いい条件を付けるし足りなければもっと付け足すなんて勧誘して来たから、妖し過ぎる、もし妖しく無いなら憲兵隊長に見せて来いとね」
あれ?隊長がなんか顔色を悪くしてるんだけど
「……そんな流れで公開?最重要機密文書を?憲兵隊に?」
あらま、隊長の顔色が、血色を無くすってこう言う事かな
「いや、本来ならこういうのは警察案件なんだろうけど鎮守府内の事なら警察より憲兵でしょ、こういう場合は」
「……憲兵は名目だけで、こちとらただの自衛官なんだが」
「自衛官なら公務員でしょ、ささやかな義務を果たしてください、私は司令官職に就いているだけの民間人なので」
そう言ったら何故か隊長の顔に血色が戻った、どうしたんだろ
「そういう事か、なるほど、司令官に味方と見られているんだな、憲兵隊は」
「敵味方とかではなく、公務員としてささやかな義務を果たしてください、という事ですよ」
「わかった、そういう事なら、司令官の狙いが政治的な意図でも艦娘部隊内での権力や影響力の拡大でもなく、民間人としての防衛策だというのなら、憲兵隊として艦娘部隊上部機関と交渉しよう、こちらの結論が出るまで司令官の言う怪しげな契約は出来なくなるが、それは承諾してもらえるのか」
「勿論です、隊長から話が来る前に妖しげな契約話が来ても憲兵隊に持ち込みますよ」
「わかった、憲兵総監とも話して対応する、忙しい所邪魔をした」
そういうと隊長は退室して行った
なんだろう、隊長が若干慌てている様に見えたが、気の所為か
五十鈴が大和を伴い執務室に来た
大和の手には書類が、辞令と行動計画書だろうものがある
書類は事務艦に任せて揃って来た要件を聞く、まさか書類の為だけに来たわけでもあるまい
「書類に目を通して欲しいのだけれど」
五十鈴から文句を言われてしまった、なんでだ
「書類は事務艦が上手くやってくれる、私の手が要るならこっちに回って来るから任せて良い、揃って来たからには、何か要件があるのではないのか」
「工廠の新設を急いでもらいたいのよ、あの引き篭もり達の不満がかなり強くてね、変に期待させ過ぎたかもしれない」
なんの話だ、先にも出て来た引き篭もり達というのは一体
「書類を読んで貰えばわかるんだけど、あの船には高練度の艦娘が大勢乗船している、ただ、現状ではあの子達は兵装を扱えない、新設する工廠での修復作業が必須なのよ」
「艦娘が兵装を扱えない?」
有り得ない事だ、兵装を扱えない艦娘という事は艤装を持たない艦娘だろうと推測されるが、そもそも艤装を持たない艦娘なんているのか?
それに、修復すれば兵装を扱えるというのなら大本営で修復すれば良い、なんだってウチでソレをやるんだ?
「詳しい経緯は書類に書いたから読んでもらうとして、大本営での修復作業は打止めなのよ、この鎮守府で工廠を新設してそこで修復作業を完遂して欲しい」
なんだか胡散臭い話になって来たな
「司令官」
事務艦に呼びかけられた
「こちらの記載によると、大本営に新設された工廠は欠陥があり現在使用禁止の措置が取られている、とあります、ウチの鎮守府に新設しようとしている工廠はその欠陥を改良した新規設計の工廠だそうです、この記載は大和からの話を裏付けるものとして良いかと思われます」
事務艦が言ってきた、大和の話は事務艦に任せていたから、事務艦がそういうのならそうなんだろう
「すると、先ずは工廠を新設して、その引き篭もり達とやらを修復する事が当面の目標という事か」
「そうなるわ、出来るだけ急いで欲しいんだけど」
随分と急かすんだな五十鈴は、もしかして短気なのかな
「そちらだけで進めるのなら私が口を挟む理由は無い、しかし、私を含めウチの鎮守府の手間を取らせるというのなら、断る」
「……何故かを、聞いても良いかしら」
そんなに睨んでも駄目なものはダメ
「以前事務艦が大和から聞いたという話では、ウチの工廠から妖精さんを借り出すという事になっているそうだが、今ウチの妖精さんは状態がかなり不安定だ、通常のルーチンワークですら危うい、そんな妖精さんをイレギュラーな任務に就けたくない、また、新設した工廠は大本営から妖精さんを連れて来て運用する、と聞いたと事務艦は言っている、ならばその妖精さんを今直ぐ連れて来て新設させれば良い、こちらの手は必要ないだろう」
これを聞いた五十鈴がどういう訳か、大和に視線を向けた、結果大和は身を縮こまらせた
「妖精さんの状態が不安定とは、どういう事?」
大和を追及した所で現状は変わらない、そこは五十鈴も理解している様だ
「どういう訳か知らんが、あの初期艦を予備検査に入れたら妖精さんが不安定になった、妖精さんの主張ではあの初期艦を入渠させろと、入渠させないなら工廠を止めると何時に無く強行姿勢でね、資材が貯まり次第あの初期艦を入渠させる予定になってる」
これを聞いた五十鈴が何やら考え込んでしまった
「……あの初期艦、第二陣を、特務艦隊を率いている叢雲の事?司令官がこの鎮守府の初期艦にと要望しているあの子が妖精さんを不安定にした?」
五十鈴の言い様が誤解や錯覚混じりの気がしたので、訂正を試みる
「その辺りの詳細はよくわからん、言っておくが、あの初期艦が予備検査を受けたのは私の指示を受けての事だ、結果そうなってしまったという事だ」
「あの子が悪企みしたなんて思ってないわ、でも、あの子は大本営でも入渠してた筈、損傷は無いのよね」
「予備検査の結果では、損傷無しとなってる」
「損傷の無い艦娘を妖精さんが入渠させる様強行に主張して来た、どういう事なの?」
「わからん、わかっている事はあの初期艦を入渠させないとウチの工廠は機能不全という事だ」
これを聞いた五十鈴が頭を抱えてた、大本営の秘書艦は苦労が多い様だ、御苦労さん
予定外の食料消費に関わる事情聴取の為の会談は開始を見合わせていたが大本営から秘書艦、艦娘部隊上部機関から監察官の来襲という事態を受けて扱いが有耶無耶となってしまった
食料問題は監察官が持ち込んだ食料で一応の解決を見ているし、何よりこの案件を重要視していた憲兵隊長が現場を離れる事になり、憲兵隊は一通りの調書を作成するに留まった
序でに指揮所司令官も鎮守府から離れた、何処かに出張だそうだ、代理の指揮所司令官に慌ただしく引き継ぎをして取るものも取り敢えずといった感で出張していったそうだ
移籍組は鎮守府所属艦の大和から大本営所属艦の五十鈴に代表を変え鎮守府と交渉を再開するつもりらしい、五十鈴は老提督の秘書艦じゃなかったのか?
大本営にいる老提督は秘書艦無しで仕事に励んでいるのか、元気な事だ
民間船とは思えない船で乗り込んできた爺さん、老兵という通り名らしいが、この爺さんも姿が見えない、五十鈴が言うにはとてつもない厄介事を抱え込んだとかでその対応に追われていると言っている、何のことやら
そして現時点で目前の問題は大和の帰属だ
辞令が交付されている以上この鎮守府に所属する事にはなる、なるのだが、鎮守府側の手続きを大本営が承認しなければ正式な着任では無く内定扱いで艦娘として運用出来ない
大本営に承認を求めた所、毎度お馴染みの無視に会い承認されなかった
ここまでの事情を大和に話し対応を話し合っている、大本営所属の五十鈴秘書艦にも同席して貰っている
「えっと、大和の移籍を大本営が承認しない、と言うのですか?辞令を交付しているのに?」
驚いているらしい大和に呆れて物も言えないと言った風の五十鈴
「そういえば、天龍がそんな事言ってた、今思い出した、冗談だと思ってたけど、本当に無視されてるようね、今の話しが本当なら」
「五十鈴秘書艦が疑うのも無理は無い、希望するのならウチの通信室の通信ログを好きなだけ見てきて良い、見てくるか?」
「お生憎様、五十鈴はヒマじゃ無いの、事務艦が管理している通信端末の通信ログなんて面白くないに決まってる、丁度良いわ、こっちから大本営に問い合わせたい事もあるし、五十鈴がこの鎮守府の端末から大本営に連絡を入れる、それでハッキリするでしょう」
やっぱり短気だな五十鈴は、先発隊に同行してきた旅客船なら大本営との連絡を確実に出来るだろうに、態々無視されてる鎮守府の端末から連絡するなんて、二度手間になるぞ
結果として五十鈴は二度手間所か多大な労力を費やす事になった
五十鈴がこの鎮守府の端末から通信した所、これまでと同じ様に既読通知だけで済まされた
それを四回ほど繰り返した辺りで五十鈴の何かのスイッチが入ってしまった
事務艦が止めるのも聞かず鎮守府の端末から大本営の受信端末情報を引き出し担当者を特定、旅客船から連絡を入れ直してこの担当者を連れて来いと旅客船通信室内で不運な大本営通信担当者に秘書艦権限を行使、しかし記録上既読通知を出した担当者は通信に出ず代わりに監察官の随伴者を名乗る者が出てきた
これを秘書艦命令不履行として、今直ぐ大本営に戻るから担当者を捕まえておけと啖呵を切って通信まで切ろうとした所で随伴者を名乗る者が食い下がった
「それは不可能なのです、ご理解頂きたい」
「不可能?幽霊を捕まえろと言っているんじゃない、大本営の担当職員を其処に置いておけと言っているだけ、話にならない、五十鈴はヒマじゃ無いの」
「同じ様なモノですよ、秘書艦が置いておけと言っている職員は存在しないのですから」
「何を言い出すのかと思えば、端末に担当者の記録がある、存在しないなんてありえないでしょ、どういうつもりなの」
「つもりはありません、事実をお伝えしています、また、この通信は暗号強度が弱く傍受されると筒抜けになる恐れがあります、詳細は大本営帰還後に説明致します」
「筒抜けで構わないから、説明しなさい」
五十鈴の声がとても低い、何処から出しているのかと疑問に思うくらいの低音を発している
「今回の秘書艦の通報で担当部署の職員に聞き取り調査を行った所、以前この手のシステムに明るい職員が勤務していたそうです」
「それが説明?」
五十鈴の機嫌がとても悪い
「この職員が端末上にしか存在しない架空の担当者を作り、鎮守府からの通信に既読通知を出させていた、本来なら既読通知を出した後に当直の職員が通信内容を確認し、対応する手筈なのですが、現在大本営自体がこの有様なので対応する職員がいなくなっていた、という事です」
「ありえない、架空の担当者って何?既読通知を出させていた?通知発信用のbotだとでも言いたいの?それが大本営通信室内の端末で稼働していた?そういう事が起こらない様に一定期間毎に検査が入ってるし、その結果次第では端末全てを入れ替える事までしてるのよ、新規の端末にどうやって架空の担当者を作ったのよ、その以前勤務していた職員は」
「その、端末は入れ替えますが、業務停止時間の短縮を目的にバックアップが残されます、端末入れ替え後にそのバックアップを戻す事で入り込んでしまった様です」
「……それじゃあ、端末を入れ替える意味がないじゃない」
「仰る通りです」
「〰〜〜!!!!」
五十鈴が壊れた、いや、冷静に観察している場合ではないな
大和に五十鈴を抱えてもらい、通信を代わった
「突然申し訳ない、五十鈴秘書艦が会話できる状態にない、私が代わって話をしたいのだが、よろしいか」
「……どちら様でしょう」
「申し遅れました、私は鎮守府司令官の佐伯と言います、五十鈴秘書艦は現在当鎮守府に滞在しており、今回の連絡も当鎮守府の通信状況を確認する事が目的の一つになっている、それで私もこの通信室にいるのだが、どうだろうか」
「佐伯司令官?この通信は大本営機能移転に伴う作業船として運用されている船舶から発信されている、何故、鎮守府司令官がその船舶の通信室にいるのか」
おっと、厄介事の予感、乗船許可がどうのと、船内設備の無断使用だのと難癖つけてきそうだ
「先に述べた通りだ、他に意図はない」
さて、どう出るかな、自称監察官の随伴者は
「申し訳ないが、こちらに佐伯司令官と確認する手段がない、身元確認出来ない現状では何も話せない」
あらま、真っ当な事を言いだしたぞ、どうやら大本営のクソ官僚ではないらしい
「ん?なんです、少しお待ち頂きたい」
通信の相手はそういうと席を立ち何処かに行った様だ、聞こえてきた音的にそんな感じだ
「司令官、久しぶりだね、私で良ければ話をしようと思うが、どうだろうか」
誰かが席に座りこちらに話しかけてきた、この声、聞き覚えがある、というかなんであのクソジジイがこの通信に出て来るんだ
「お久しぶりです、老提督、視察の際にはお世話になりました」
音声通信で良かった、画像付きなら色々ぶち撒けてしまいそうだ
「世話になったのはこちらだ、あの時は本当にありがとう、また、今回の司令官の働きは艦娘部隊を日本に残留させるのに大いに貢献してくれた、本当にありがとう、世話になるばかりで申し訳なく思っている、だが、今は司令官に頼るしかない、状況が他の選択を赦さない、こちらに出来ることは多くはないが、優秀な秘書艦と現役復帰さえ出来れば即戦力となる高練度の艦娘達を司令官に委ねる事にした、司令官の裁量で存分に活躍させて欲しい」
「っざけんな、黙って聞いてればあんたのオツムで出来上がった妄想話じゃねーか、コッチはそんなもんに付き合いきれねーよ」
言ってから、気が付いた、ヤベーよ、つい言っちまった
「はぁ、艦娘には夢見てないで起きて現実を見ろと言われるし、司令官には妄想話には付き合えないと言われてしまった、やはり、歳だな、どうしても心残りを無くしたかった、それだけなんだ」
お、なんだ?小言が返ってくると思ったら、様子が変だぞ
ん?なんだ、妖精さんが、通信機に集まり出した、どっから湧いてきたんだよこの妖精さんは
「おお、妖精さん、励ましてくれるのか、頼りない年寄りでわるいなぁ」
通信機が相手の声を届けてきた、向こうも妖精さんが湧いて来ているらしい
「司令官さん!探したのです!!」
「電、司令官はお話中だよ、静かに」
「ご主人様!誰とお話しですか?漣も混ざって良いですか?」
「あんたら!司令官の邪魔しちゃダメでしょ!」
「まあまあ、叢雲ちゃん、取り敢えず声が大きいと思うよ、通信中でしょ」
通信機越しに聞こえて来た声、大本営の初期艦達か?それにしては五月雨の声が、あれ?
「おお、どうした皆揃って」
「どうしたじゃないわよ、突然行き先も言わないで居なくなったら探すでしょ、歳なんだから猫みたいな真似はやめてよね」
「ちょ、むらくもー、ご主人様に猫の真似って、あ、ダメ、想像しちゃった」
かなり遠慮のない笑い声が聞こえてくる
「司令官さんが猫の真似をするのなら電も一緒にやるのです、にぁ」
「するとは言ってないから、電、早まらないで、落ち着いて」
「そういう五月雨こそ落ち着いて、そのまま行くと……遅かったか」
なんか、かなり良い衝突音が聞こえたんだが、大丈夫か
これはコレで聞いていると面白いが、何時迄も聞いている訳にもいかない
「随分と賑やかですね、出来れば紹介してもらえませんか」
「ん?ああそうだね、紹介しておこう、二組の皆、今通信している相手は佐伯司令官だ、こちらで賑やかにしているのは二組の初期艦達だ、これまで働き詰めだったからね、長期の休みを出した、行く所が無いと言ってはこうして私の所に来て賑やかにしているよ、良い事だ」
「佐伯、司令官?」
「これは空気読む所だね」
「仕方ないのです」
「……」
「どうしたの、叢雲?」
聞こえて来た音から推測するに二組の叢雲が無言で通信室を出た様だ、それに釣られて他の初期艦達も通信室を出た模様
「嫌われてしまいましたか」
完全に冗談でそう言った、が、老提督はそう取らなかったらしい
「それは違う、あの子等はまだ人に慣れて居ないのだ、ドロップしてから碌に人と関わっていない、そんな状況に置いてしまった私の失態だ、挙句に指摘されるまでこの失態に気付く事なく今迄過ごしてしまった、こればかりは自分の莫迦さ加減に呆れたよ、もう、昔の様には動けない、歳なんだと思い知らされた、嫌という程にね、だからこそ、私は君に、佐伯司令官に多くを託そうと思っている、尤も君には迷惑な事だろうが、他に託せる者がいない、どうか、この年寄りの頼みを聞き入れて欲しい」
なんだ?老提督は何を言い出したんだ?
「司令官さえ望むのであれば、私に割り当てられている艦娘部隊上部機関の籍を譲渡する事も構わない、私が差し出せるモノなら全てを差し出そう、どうかこの年寄りの心残りをなくしてはくれまいか」
なんだかなぁ、勝手に盛り上がられてもコッチは話がさっぱりわからん
「なにを仰りたいのか分かりかねますが、こちらは通信状況を確認したいだけです、五十鈴秘書艦から話を聞いていませんか?」
話が通ってなかったら説明しなけりゃならない、ぶっちゃけて面倒臭いんだが
「大和の着任が大本営に承認されない、と言って来てはいる、秘書艦の報告に基づきそちらの鎮守府からの通信状況を大本営でも確認させている、まだ始まったばかりだというのに通信システム技術者、ん?SEというのか、プログラマーというのかよくわからんが、その専門家達が大問題だと、大本営のコンピュータシステムを総点検する様に意見書を出して来ている、正直な所私には全く判断出来ない事案でね、困っていた所に私の友人が信頼の置ける優秀な若者達を紹介してくれた、今その若者達にこの事案の調査をしてもらっているんだ」
老提督の友人?信頼の置ける優秀な若者達?嫌な予感しかしない、関わらない方が良さそうなんだが、司令官という立場上そうもいかない
「五十鈴秘書艦から、この船を掌握する様に依頼がありましたが、その辺りは何処までご承知でしょうか」
話の筋道を曲げて関わらない様に、厄介事は遠くに行く様に話題を転換してみることにした
「全て承知している、秘書艦の発言は私が無条件で追認する、司令官には心置き無くその手腕を発揮してもらいたい」
はい?なんだって?もしかして藪蛇ってヤツか、コレ
「鎮守府司令官の職務から逸脱します、また、職権に照らしても問題があります、私は一介の司令官職に就いているだけの一般人でしか無い、買い被られてもご希望に応えられません、申し訳ありません」
「聞いたよ、私の友人が持って行った契約書類を胡散臭いと一蹴して、怪しく無いなら憲兵隊に検証させる様に言ったそうだね」
おう、暴露暴露じゃねーか、もっと回り諄くやんわり言ったのに、滅茶苦茶省略されてる
「おかげで私の友人は憲兵隊ばかりか自衛隊と防衛省の法務担当官を相手にせねばならなくなっている、私の友人も古巣の協力を取り付けた、結論が出るにはしばらくかかるだろう」
古巣の協力って、あの爺さん退役将校とかいってなかったか?
それに自衛隊に防衛省だって?文官なんだろうけど、今自衛隊はそれどころでは無いハズなんだが、良く人員を割いたな
「しばらくかかるからと言って結論を待つ必要はない、秘書艦が依頼した内容を実行するに当たり私が、大本営司令長官の立場にある私が全面的に支持する、漏れ聞こえて来た所に依ると司令官は現状の契約に於ける制限を気にしている様だが、私の権限に於いて全て処理する、何をどう間違っても司令官が裁判の被告席に立つ事は無い」
ふーん、簡単に言うと大本営司令長官権限とやらが職権行使の範囲になるのか
問題なのはその権限の範囲を私が知らないという事だな
「如何あっても、私に、一般公募に応じただけの司令官に過大な責務を負わせると、言われるのか」
「そうだ、現状では他の選択は出来ない、少なくとも鎮守府の大規模増設が軌道に乗り、計画の進捗が順調である結果が出るまでは、司令官には重責を負ってもらわねばならない、その為の支援や協力は惜しまない、可能な限り人員でも艦娘でも予算でも大本営にあるだけ提供する、提供の見返りに鎮守府大規模増設の成功があるのなら、惜しむべき何物もない」
どうやら本気らしい、しかも秘書艦が言っていた目標から数段跳ね上がった目標到達を求められてる
正直、到達出来る目標だとは思えない、だからと言ってこの場で断る訳にもいかない状況だ
さて、如何するか
「所属の艦娘達と協議が必要だ、結果はこちらの端末から事務艦が通知する、但し、事務艦が通知を出してから、十二時間以内に返信がない場合、この話は大本営から拒否されたモノとする、そうなれば私は鎮守府を去らねばならない、次の職を探さなければならないのでね」
傍受されれば筒抜けの通信であんまり際どい事は言えない、こちらの言い様を老提督が何処まで汲んでくれるか、次第によっては無理を押さないといけない
「……辞めたいのかね、司令官を」
お、半分くらいは汲んでくれた様だ
「艦娘達はいい奴らだし、給料も良いし、待遇も悪くない、こちらから辞める理由はない、ただ、司令官職の契約上、大本営から紙切れ一枚届くだけで離職を強制される、抵抗手段は無い、現在の私の立場はそんな感じですよ」
「……早急に鎮守府司令官との契約内容を確認する、いや、話せて良かった、いずれ折を見てそちらにお邪魔させて貰うことにするよ、では失礼」
言い終わるなり一方的に通信が切られた
なんだったんだ、あの爺さん、最後はヤケに深刻そうな雰囲気を出してたが