64 この鎮守府だけではどうにもならない
老提督の話した計画を実現するにはこの鎮守府だけではどうにもならない
何と言っても資材調達が間に合わない、これを解決するには何が無くとも資材調達の実務に就く艦娘の数がいる
そこで以前から連絡をつけていた桜智司令官を鎮守府に招いて協力をお願いした
まあ、そこから色々と詰め寄られたりしたんだが、詳細は省く
結果として桜智司令官は協力を約束、序でに他の鎮守府司令官にも話して可能なら協力を取り付けると言ってくれた
ただ、交換条件に初期艦を、現状では大本営所属になっている元鎮守府配置の初期艦を自身の指揮下に戻す事を言って来た
それは老提督秘書艦の五十鈴と交渉してくれと言ったら、あの軽巡は好かない、なんか関わらない方が良い感じがすると返して来やがった
こっちはその艦娘と協調して事を運ばないといけない立ち位置にいるんだけど
桜智の奴に言わせるとその辺りを含めて全部交換条件だそうだ、何だよそれ
他の鎮守府司令官達は桜智からどう聞いたのか知らないが、桜智と同様に五十鈴秘書艦との直接交渉を遠回しに拒否して来た、それで否応無く五十鈴秘書艦と各鎮守府司令官との間に立たされる事になってしまった
会ってもいない艦娘に何だってこんなに警戒するのか、訳が解らない
機能不全を起こしていた工廠は初期艦の入渠と天龍の遠征隊が連れて(載せて)来た新設された工廠を運用する妖精さんと合流した事で再起した
結局アレはなんだったのか
妖精さんは'一度には話せない''長い話だから''少しづつ話していく''楽しみに''待っていろ'と思わせ振りな言い様だ
大本営からの資材供給を担っている天龍の遠征隊はこれ以降定期的に資材を運んでくるようになったが、必要量を見れば焼け石に水、何しろ工廠を新設した後に多数の大型艦を修復しなければならない、この鎮守府は戦略部隊である第一艦隊を運用するにも資材の備蓄量を気にしながら出撃させるくらいの資材集積能力しかない
そこに鎮守府の大規模増設を軌道に乗せろと無茶振りだ、どう考えても無理だろ
正直、所属の艦娘達が反対すれば無理だと、断るつもりでいた
私の予想に反し艦娘達は実現に向けて非常に前向きな姿勢で問題の洗い出しと解決法の策定を短時間で纏めた
ここでも問題になる資材集積能力、艦娘達は他の鎮守府の艦娘達に協力を求める事で解決出来ると結論付けていた
他にも他の鎮守府と協力体制を整え結束して対処する事で解決出来る問題は幾つも列挙されていた
簡単にいえば、五つの鎮守府が総力を挙げて取り組めば達成は可能だ、そういう纏めだ
こういった経緯もあり桜智の奴に協力をお願いする運びになった
ただ、私に言わせればこの纏めは前提が間違っている
五つの鎮守府が全て同じ資材集積能力を持つ訳ではないし、所属艦娘も各鎮守府で様々だ
この鎮守府を基準にしてそれを五倍してもそれは実現しない
しかし艦娘達の意見は意見なのでこれを中間報告として大本営に通知、この報告の実現に向けて検証用の資料を要求した
これまでの例からすると早くて翌日、遅ければ四日程掛かった資料が当日に手元に来て驚いた、定期便となっている遠征隊が増便で資材と共に持って来てくれた
「本日二回目の資材供給だ、で、こっちが要求のあった資料だ、足りない資料があるなら言ってくれ、もう一回くらいなら増便を出せるぜ」
執務室に来た天龍が言う、が、この天龍初対面では?大本営には天龍は三隻いるんだっけ
「資料を運んでくれた事には礼を言う、しかし、初対面の司令官に書類だけで済ませるとは、何か気に触るような事があったか?」
そう言ったら呆気に取られたような顔を見せる天龍、なんだろう
「……そういや、わかる司令官だったな、あんた」
どうやら大本営ではこれで通ってしまうらしい、天龍が言っていた個体差が見分けられないというのはこういう事だろう
「大本営所属の軽巡、天龍だ、大本営では遠征隊の統括をしてる、まあ、聞いてるだろう、他になんかあったか?」
「当鎮守府で司令官職に就いている佐伯です、大本営には天龍が三隻いると聞いている、定期的に来るのは同じ天龍だから別の天龍に会えてホッとしているよ」
「?同じ天龍が来ると不味いのか」
不思議そうに聞かれてしまった
「不味くはない、三隻いるのなら三隻とも会っておきたいと思っているだけだ」
「個体差がわかるってだけで、同型同名艦にも会ってみたいと思うのか?」
興味でも湧いたのか面白そうに聞いてきた
「大本営の天龍三隻は揃って遠征隊統括艦娘の肩書きを持っていると聞いた、なら定期的に資材供給を受けている側としては三人とも会っておきたい」
「ああ、そりゃ誤解があるな」
ん?なんだろう、少し困った様子が見えたが
「あいつはその肩書きで俺等が勝手に持って来てる風に言ったそうだが、この資材供給は老提督の指示によるものだ、勝手にやってる訳じゃない」
ああ、アレね
「それは五十鈴秘書艦から聞いている、こちらとしては大本営の遠征隊統括責任者とは仲良くしておいた方が何かと良さそうなのでね、それで会っておきたい」
「っんだよ、資材欲しさに媚びでも売る気か?」
なんでそんなに不機嫌になる、なんか地雷でも踏んだかな
「もしかして大本営でも足りていないのか、資材は」
「他所に配る程余ってねーよ、五十鈴が海域哨戒から外れて資材の積載量を減らさなきゃならないのにこれまで通りの備蓄を要求されてんだ、回転上げなきゃ追いつかねーよ」
「哨戒から外れた?五十鈴秘書艦は大和と共に老提督の秘書艦をやっていたのではないのか?」
「……大本営の内情には明るくない様だな」
あれま、呆れられたかな
「無理を言うな、大本営の内情なんて一介の司令官にわかる訳ない、精々問い合わせて返ってきた内容から推察するくらいだ」
「?他の鎮守府司令官は結構知ってるぜ、どこから聞き付けてるのかは知らないが」
「そうなのか?と言うかソレを何故知ってるんだ?」
「そりゃ、色々手を回してるからな」
うーむ、どうやら情報戦で完敗してるらしい、これは困った
「あんた、真面目に司令官をやり過ぎだ、そんなんじゃ壊れるぜ、司令官が壊れたら指揮下の艦娘が路頭に迷う、なんか手を考えた方がいい」
天龍は良い奴だな、呆れながらも心配してくれるらしい
「例えば、どんな手を?」
取り敢えず聞いてみよう
「それをオレに聞くなよ、初期艦と良く話せ、所属違いの艦娘に聞くことじゃない」
生真面目な奴だ嘴突っ込んで来ないとは、分を弁えての事だしこちらからはこれ以上押せないか
「初期艦、ね」
初期艦には独自の情報網でもあるのか?そう言う話は聞いたことがないが
7月13日
「予定通りだな」
行動計画に各方面の進捗表を照らし合わせて念入りに確認する
複数の鎮守府が合同で一つの行動計画を実行するなんて始めての事だ
事の発端は自分の呼び掛けからとはいえ他の鎮守府司令官が乗ってくるとは、その支援に桜智の奴に根回しを頼んだのが功を奏したのか、司令官其々に思惑があるのかはこの際どうでも良い
「司令官、予定通りではありますが、大本営の計画基準では遅れています、どこかで詰める必要があるかと」
心配そうに言ってくる事務艦
「大本営の計画基準では実行不能だ、そのケツ持ちまでこちらに回されては堪らんよ、あっちにいる爺様に何とかしてもらうしか無いな」
「大本営の機能停止に伴う混乱、それを理由にすると機能停止させた上部機関にまで類が及びます、どんな反動が跳んでくるか、不安です」
「反動が来るのなら、退職させた私を収監してからじゃないかな、こちらの計画が予定通りに完遂されれば表向き鎮守府にも艦娘にも手は出せなくなる、例の条約を批准していない国は限られるからな」
「アレ、ですか」
「何処まで効力があるのかはわからないが国際司法関連の方にも上部機関から話は通してるそうだ」
「良く承諾しましたよねアレ、聞こえてきた所では艦娘部隊付き保険というとを売り出そうと準備していたそうですが」
「だから、艦娘部隊は対深海棲艦戦に特化、国際社会としての対抗手段だ、これは老提督が艦娘部隊創立の契機となった演説でも同様の主張をしている、利害関係の多い組織や国が艦娘部隊を独占したり交渉手段として扱われたりしない為には国や組織に属する訳にはいかない、独立機関として自立するしかない、ただ、これだけでは艦娘を超法規的な存在として規定しなければ成らない、艦娘を指揮する司令官との間で法的な立場の問題が避けられない」
「そこで国際公務員、ですか」
「別にこの為に新設された訳じゃない、国際公務員の規定は以前からある、以前からある国際公務員との違いはその公務全般を国連では無く艦娘部隊上部機関が定め艦娘部隊としての自立を確保している点だ、上でどんな話があったのか知らんが」
「それが、良かったのか、どうなのか」
「少なくとも老提督が未だに上部機関の籍を維持してる辺りからすると、ベストでは無くともベターな結果なんだろうな」
「でなければ、司令官の要求は大問題ですよね」
「人聞きが悪いな、目的達成の為に凡ゆる手段を講じただけだ」
「なるほど、勉強になります」
なんの勉強だよ、兎も角これで私が失職しても艦娘達は一定の法的保護が得られる
実効性はわからないがなにもないよりマシだ
登場艦娘
大本営の遠征隊、天龍等が率いる大本営所属の遠征隊、その内の一艦隊が定期便として連日資材搬入に来ている
事務艦、本来は鎮守府所属艦の中から大本営で受講させた後、鎮守府庶務全般を担う苦労請け負い所、但し配置は司令官の任意であり艦種制限もある為に配置される事は殆どない、本編の様な司令官の補佐役は初期艦の職務であるが、舞台となっている鎮守府では初期艦が問題の為にそこの職務まで持たされている
秘書艦、その肩書きを持つのは現在二隻のみ、運用は任命した大本営の気紛れで定まった規定が策定されていない
現在舞台となっている鎮守府には大本営所属の一号の初期艦四名と老提督の秘書艦の五十鈴、それに移籍組の元引き籠り達に加え特務艦の研修とやらで六名が滞在中
登場人物
老提督
・研修中の叢雲からは視察官、一期で視察官として鎮守府に来ている時が初対面だったから
・一号の初期艦からはじーちゃん、お爺さん、艦娘部隊発足前から色々あった経緯から
・稀に最初の人、艦娘の言う妖精さんを見る事が出来た最初の人
・現在監察官の一人として大本営の監察中、大本営を上部機関が統括下に置いている間の臨時司令長官
監察官
艦娘部隊上部機関より派遣された、退役軍人、国家代表、元上級官僚、という方々
老兵
・老提督に続き妖精さんを見る事が出来た二人目の人、退役軍人
・老提督と同様に艦娘部隊上部機関に席を用意されてる艦娘部隊の重鎮の一人
・監察官の一人として大本営を監察中の筈
・現在大変な厄介事を抱え込み難儀中でもある
移動指揮所の自衛隊
佐伯司令官の要請で舞台となっている鎮守府に駐留、自衛隊内部で扱いが割れて紛糾中、現場の自衛官は艦娘部隊に協力姿勢を示している
桜智司令官、最初の鎮守府が大本営に改称された後に増設された五箇所の鎮守府の一つに着任した司令官
佐伯司令官、増設された五箇所の鎮守府の一つに着任した司令官、一期の鎮守府