7月15日
合同作戦により資材も必要量は備蓄出来た所で鎮守府を再稼動させる訳だが、現状のままでの再稼動は無理がある
自衛隊の活動限界が見えて来ている現状で再稼動したら海域情報の提供が無くなり遠征隊の遭遇戦が増すのは避けられない
判り切っている事態を回避するには他の鎮守府も再稼動してもらう必要がある
その為の許可を再三大本営に申請しているのだが、何故か却下される
此の期に及んで大本営はこの鎮守府一つで海域全てに対処しろ等と寝言を言いたいのだろうか
この鎮守府一つで周辺海域全てに対処できるわけがない、そんなことも分からなくなったかと事務艦に色々と資料を集めさせてあの手この手で許可申請を出してはいるのだが、初期艦を鎮守府に戻す許可が降りない
だからといっていつまでも再稼動を延期する事も難しい
こちらの状況は鎮守府に居座っている移動指揮所の自衛隊の方々に筒抜けなのだから
それに憲兵もいるし、下手に延期して職務怠慢だとか難癖つけられても敵わない
困った事態を打開すべく初期艦四名と秘書艦二名、それと長門と龍田を呼んで対策を考えている
本人が嫌がらなければ初春にも参加してもらい所ではあるのだが、初春に云わせるとその役割は叢雲の仕事で妾の努めではないという、遠慮では無いがこういった協議には頑として参加したがらない、こちらとしても無理強いはしたくないし、した所で意味が無い
「さて、鎮守府の再稼動が暗礁に乗り上げて座礁中な訳だが、サッサと離礁したい、何か案はないか」
「自衛隊がいつまで海域哨戒を続けられるか分からない以上、確かに他の鎮守府も再稼動してもらわねば対処しきれなくなるな」
最初に長門が応じた
「先の行動でこの鎮守府だけでも海域全てを抑えられると思われちゃったかな〜」
いつもの調子の龍田
「それはないわ、先の行動での戦果が自衛隊に依る所が大きい事は大本営でも理解している、ただ、他の鎮守府の再稼動には慎重論が強い、理由は大本営の、この場合大本営の官僚達と言った方が正確かな、その影響を測りかねている、安易に再稼動させてそこからあの官僚達が鎮守府への影響力を取り戻したら老提督が振るった大鉈の意味が無くなる、それだけは避けなければいけない」
五十鈴もいつもと変わらない、流石に高練度艦多少の事では動じない
「それは大本営の問題であろう、提督の行動計画を遅延させる理由としては筋違いではないか?」
長門から質問だ
「解決策ならあるわよ、司令官が老兵さんの持って来た契約書にサインすれば正式に艦娘部隊の司令長官に任命出来る、そうなれば鎮守府司令官に対しても指揮権を行使出来る、合同作戦に参加している鎮守府を佐伯司令官の元で再編する事だって可能になる、ね、簡単でしょ?」
ホントに簡単に言ってくれるな五十鈴秘書艦は
「それは司令官の望む解決策ではありません、あの契約書は未だに憲兵隊での検証が終わっていません、ここは大本営の懸念材料をどうすれば取り除けるかを考えた方が良いかと」
大和が異論を挟んだ
因みに大和は肩書きとしては秘書艦のままではある、実態としては秘書艦ではない
肩書きを除こうかとも思ったが、そもそも大和の肩書きは大本営が付与したモノで鎮守府司令官には除く権限が無かったからそのままだ
「それを取り除くのは憲兵隊のお仕事、司令官の職務では無いわねぇ〜、やまとちゃんは司令官に憲兵さんになれって言いたいのかなぁ〜」
軽巡なのに、相手は戦艦なのに、まるで駆逐艦を相手にしている様な龍田
「そうは言っていません、憲兵隊と協力し元官僚達の排除を徹底すれば大本営も初期艦の再配置を許可するのではないか、という事です」
「同じ事ではないか、それは、提督の仕事を五割り増しにする提案には同意出来ない」
呆れながらも大和の相手をする長門
「うーん、やまちゃんはここの所駆逐艦の相手をし過ぎて視野が狭くなってしまいましたか、色々再訓練しなきゃ、ですな」
漣も長門に同意の様子
「大本営には監察官が大勢詰めかけているのだから、序でに鎮守府も監査してもらえば?どうせ暇を持て余してお爺さんの邪魔をする算段を捏ねてるんだし」
こう言って来たのは五月雨だ、一号の五月雨とはだいぶ違う、最初に会った時ともかなり変わっている
先の提案通りに一号の初期艦達と入れ違いでウチの鎮守府に来ている一組の初期艦達
この三人は一号の初期艦より癖が強い、我が強いというよりも独特のクセがある
これでも暇を見てだいぶ灰汁抜きしたんだが、まだまだクセが強い
一号の三人が忠告めいた事を言っていたのは大袈裟では無かった
「それをするとこの鎮守府にも監察官が来るし、来たら来たで司令官が相手をする事になるけど、良いの?」
五十鈴が私に聞いて来た、なぜ私にそんな分かりきった事を聞く、嫌がらせか
「御免被る、あの老兵とかいう爺さんでさえアレなんだぞ?あんなのが鎮守府に居座ったら落ち着かん」
「そうよね、ここは難しく考えないで工廠を増設して他の鎮守府の艦娘達の修復もここでやればいいんじゃないかな、ね、簡単でしょ?」
「工廠を三つも四つも増設しろと?余剰施設になるのが見え見えだ」
「それに工廠で消費する資材備蓄施設も追加しなければならなくなる、場所が足りない」
簡単に言って来る五十鈴に異論を主張したら長門まで言い出した
「ではどうするんですか?」
いや、大和?それを考えてるんだけど、その質問に答えられたらここで膝を突き合わせたりしてない
「司令官、再稼動を延期するとしたら、どのくらい延期出来る?」
なんだそれは、時間を稼ぐと良い手でも出て来るのか、叢雲の考えは分からないが質問が来たら答えは出した方が良いだろう
「条件による、無条件なら後二、三日、再稼動の日付が確定出来るのなら二、三週間くらいではないかな」
「そこまで待てない、当初予定より既に一週間以上過ぎている、言ってはこないけれど、老提督は大本営で針の筵に座らされている様なモノ、二組の初期艦が付いているとはいえ精々二週間、当初予定より一ヶ月以内には鎮守府の大規模増設に着手出来なければ、大本営自体が解体されかねない」
五十鈴が面倒事を言い出した
「つまり、上部機関が艦娘の撤収と再配分にかかると」
「その圧力が増す事だけは確かね」
平たく言い直したらほぼ肯定されてしまった
「実は、天龍にもう少し待つ様に言われてる、大本営での検証が、漣達が試してる方法が確立出来るまで待つ様にと」
何を言いだすかなこの初期艦は、そういう事は司令官に報告しないとダメじゃないかな、この初期艦的には違うのか、研修中という事情もあるしな
「いつまで待てと言ってるの、天龍は」
五十鈴が聞く
「はっきりした日付はわからない、もうすぐだとは言ってたけど」
「他には何か言ってなかったか?」
今度は長門が聞く
「方法が確立したら大本営の遠征隊を総動員して鎮守府の開設を始めるそうよ、資材さえあれば一日で十以上の鎮守府が建設出来る、と言ってた」
「……そんなに整地済みの土地があるの?」
思わず聞いてしまった
「聞いた所だと、鎮守府用地として整地済みなのは五十箇所前後だそうよ、五日で用地が足りなくなる計算ね」
なんでもない様に五十鈴が答えて来た
「こんな無闇に広いのに、それを五十、政府は何を考えているんだ……」
呆れてしまった
「ここを始めとする増設した鎮守府より敷地は広くない、最低限の施設しか建造しないから」
「最低限ね、敷地よりも着任待ちの司令官と初期艦が足りないんじゃないか」
思い付いたので言ってみた
「司令官はわからない、初期艦はなんとかなるって言ってた」
初期艦から返事があった
「初期艦が五十もいるのか、大本営には」
あんまりな数に呆れる、ウチから送った初期艦は二十隻に足りなかったから三十以上居たことになる
「前に言ったでしょ、複製技術を使うって、そういう事でしょう」
あっさりと五十鈴が答えて来た、複製?ということはそこまでは居ないのか
「あの一号の初期艦達の複製?大丈夫なのか?」
面識のある身としては着任待ちの司令官達に同情するが
「大丈夫な様に対策を講じている所なの、一号の初期艦達が試してるのはそこなのよ、本人達に問題意識が有ったのは意外ではあるけど」
何気に五十鈴の言い分がヒドイ、私でもそこまでは言わないぞ
「ならばそれが終わるまでは急がずに待つ方が良いのではないか、鎮守府だけを建造した所で艦娘部隊の拠点として意味を成さない」
長門の意見は尤もだ、目処も立たないのに無理を押してまで鎮守府だけを建造してもしょうがない
「叢雲ちゃんはどうなるのかなぁ、一号の初期艦と大本営で区分されている叢雲ちゃんはウチで保護してる、複製元の艦娘が一号の初期艦なら叢雲だけ複製元を変えるのかしら〜」
龍田から質問だ
「……えっと、それについて、なんだけど……」
なんだ?いつになく言いにくそうに口籠る初期艦、お前さんも叢雲だろうに複製元の候補じゃないのか
暫く躊躇っていたが意を決したのか話し出した
「一号の漣から提案を受けてる、前例はないけどほぼ十割の確率で叢雲を、この鎮守府に配置された最初の初期艦の叢雲を起こす方法が見つかってる、司令官の要請があれば実行可能、司令官、要請する?」
なんだそれは、起こせるわけないだろ、妖精さんが無理と結論付けてるし、何より今保護してる理由は改修素材としてだ、改修を受ける本人が何を言い出すのかな
「司令官、眉間に皺を寄せ過ぎてるわよ、そんな顔してたらこの子が怯える」
五十鈴に注意されてしまった
「そんなに、寄ってたか?」
「ああ、ここ最近では見かけないくらいには寄ってたな」
長門にきいたら普通に返されてしまった
「あなたが改修に使うと、司令官に提案したと、聞いたけれど、起こしてから改修するのかしら」
龍田の質問が続く
「いいえ、起こすには通常の方法ではなく、新設した工廠に取り入れた海外で開発された技術を逆用する、妖精さんにも実行可能な事は確認済み」
「叢雲ちゃん?聞いているのは、起こしてから改修するのか、よ、どうやって起こすかでは無いの」
龍田が聞き直してる、いや、確認かな
「だから、いいえ、だってば、起こすけど改修はしない、というより出来ない、この方法で起こせば司令官の叢雲は艦娘ではなくなるから」
「艦娘ではなくなる?なんだそれは」
何を言い出すのかなこの初期艦は
「人に作り変えるのよ、国外の鎮守府で人を艦娘に作り変えた事例があってね、それを逆用すれば艦娘を人に作り変えられる、一号の漣はその実例をあなたの初期艦で、と考えている」
いつもと変わらない口調で、なんでもない様に五十鈴が答えて来た
「はい??」
何を言っているのか言葉はわかったが理解は出来なかった
「人に作り変えて起こすというのか、そこまでして起こす必要があるのか、私には疑問だが」
長門がなんか言ってる
「まあ、あれよ、必要とか理由とかはなんとでも付くのよ、この提案の一番の問題はそれを許容出来るか、だと思う」
五十鈴が答えてる
「許容?」
長門には意味がわからなかったらしい、とんでも無い事を提案して来た事だけは、理解が追いついた
「艦娘を人に作り変えるのよ、本人が許容出来るか、司令官が許容出来るか、この鎮守府に所属する艦娘達が許容出来るか、作り変えられた艦娘を人として許容出来るか、人の社会の方が拒否したら厄介では済まない事態になる、その時何処の誰が叢雲を保護出来るか、相応の社会的な立場が無いと保護どころか所在確認すら難しいモノになるでしょうね」
軽く言う五十鈴、コイツもしかしなくても私にケンカ売ってるだろ、しかもすごい高値をつけて来やがった、幾ら何でもこれを即金で買い上げられるほどのモノは持ち合わせていない
「それは、直ぐに判断が必要な事案なのか?」
「先送りしても良い事は無いと思うわ、ただ複製元として必要と言っている訳では無い、そこは間違えないで欲しい、このまま永遠に眠らせて置くわけにはいかないでしょう、予定通りに改修素材にするも良し、漣の提案を入れるも良し、どうするのかは、司令官にしか決められない」
それをケンカ売ってると言うんだが
「ウチの叢雲の所属は曖昧になってる、大本営は鎮守府から配置した初期艦を取り上げた、こちらの抗議を認めたからウチで保護を続けてはいるが、大本営で手続きされていれば私の指揮下ではなくなっているかも知れない、確認がいる」
そう言ったら五十鈴の眼が変わった、ケンカの売買交渉は決裂した様だ
「……司令官、五十鈴は老提督の秘書艦だって忘れてない?」
「五十鈴、もう少し加減して欲しいかなぁ、他所の所属艦に司令官が苛められているのは、見ていても聞いていても、愉快な感情は湧かないなぁ」
龍田が口を挟んで来た、元々龍田がウチの叢雲をどうするのかを聞いたのが発端なんだが
「ふーん、司令官を苛めるのは、あなたの特権だと、言いたいの龍田さん?」
あれ?何この雰囲気
「わたしの?大本営の秘書艦様でも冗談が言えるのね、ユーモアのセンスが感じられないけれど」
「……」
「……」
え?何この雰囲気、もしかしなくても、逃げた方が良いかな?
「やめないか二人共、提督の前というだけならまだしも、駆逐艦の前で軽巡が見苦しい様を見せるんじゃない」
長門の台詞にハッとした様に龍田と五十鈴が通常体制に戻った、変わり身速いね君等
「提督の前ならって、長門、それが一番不味いんじゃないの?」
聞いて来たのは五月雨だ
「そうなのか、他はどうか知らぬがウチでは何時もの事だ、今更どうという事はない」
あれ?そうなの?なんだろうこの気持ち
「私は戦艦だぞ、不味い事など何もない、そんなに心配そうにするな」
言いつつ五月雨に手を伸ばしてその頭を撫でる長門、落ち着かせようとしてる、のか?その必要あったかな?
「なんだ、電、どうした」
五月雨を撫でる長門の手というか腕を電が凝視している、何か見つけたのかな
「戦艦の長門が何故駆逐艦の妖精さんを乗せていているのです?」
「は?」
今声を上げたのは五十鈴だ
「ああ、この子はウチの叢雲から預かっている、役に立つから預かれと強引に渡されてな、返そうにも返せる状況ではないから、預かったままなのだ」
「長門、大丈夫?」
撫でられている五月雨が聞いてる
「私に着いている妖精さんは話が分かるし頼りになる、駆逐艦の妖精さんだからといって粗雑な扱いなどしない」
「答えになってないのです、でも、馴染んでいますね、妖精さん」
「この長門に着いたからには駆逐艦の妖精さんだろうと戦艦の妖精さんだろうと私の妖精さんだ、なにも問題ない」
「……司令官?貴方の戦艦が変な事言ってるんだけど、大丈夫なの?」
長門の言い分に五十鈴が目を丸くしている、驚いているのか、呆れているのか
「他所ではそうなるみたいだな、妖精さんは艦種毎に別れていて別艦種だと馴染めないのだろ、ウチではそんな事にはならないんだが、何が違うのかまではわからん」
取り敢えず説明して見た
「……この鎮守府、他と違い過ぎ、独自発展にも程があるわ」
呆れているのか感心しているのか、感想らしきモノを零す五十鈴
「だから、この鎮守府を手本にって提督は言ってるんですよ、やっぱり鎮守府の複製元はここしかないか」
漣がなんか言いだした
登場艦娘
初期艦研修中の叢雲、現在外地研修として特務艦隊を引率中、教導艦は天龍に変更されている
単に初期艦との表記であればこの叢雲を指す、筈
一号の初期艦、吹雪、漣、電、五月雨 (叢雲は鎮守府にて睡眠中)、大本営で試行錯誤中
一組の初期艦、漣、電、五月雨 (吹雪は解体、叢雲は改修素材で二名欠員)、佐伯司令官の補佐担当
老提督の秘書艦の五十鈴、艦娘部隊大本営代理人の側面を持つ
秘書艦の大和、秘書艦に任命されているが鎮守府に転属となり秘書艦は名目のみとなっている
大本営の遠征隊、天龍等が率いる遠征隊、各鎮守府を巡回していたりもする
移籍組、本編中では引き籠り達として出て来ていた高練度艦達
長門、鎮守府所属、第一艦隊旗艦、海域攻略隊
龍田、鎮守府所属、遠征隊の実質的な纏め役、高練度な為に攻略隊にも編成される
初春、鎮守府所属、駆逐艦達の世話役、高練度な為に攻略隊にも編成される
登場人物
老提督
・研修中の叢雲からは視察官、一期で視察官として鎮守府に来ている時が初対面だったから
・一号の初期艦からはじーちゃん、お爺さん、艦娘部隊発足前から色々あった経緯から
・稀に最初の人、艦娘の言う妖精さんを見る事が出来た最初の人
・一組の漣からは提督と呼ばれている
・現在監察官の一人として大本営の監察中、大本営を上部機関が統括下に置いている間の臨時司令長官
監察官
艦娘部隊上部機関より派遣された、退役軍人、国家代表、元上級官僚、という方々、大本営を監察中
老兵
・老提督に続き妖精さんを見る事が出来た二人目の人、退役軍人
・老提督と同様に艦娘部隊上部機関に席を用意されてる艦娘部隊の重鎮の一人
・監察官の一人として大本営を監察中の筈
・現在大変な厄介事を抱え込み難儀中でもある
移動指揮所の自衛隊
佐伯司令官の要請で舞台となっている鎮守府に駐留、自衛隊内部で扱いが割れて紛糾中、現場の自衛官は艦娘部隊に協力姿勢を示している
佐伯司令官、増設された五箇所の鎮守府の一つに着任した司令官、舞台となっている鎮守府の司令官