7月17日
「司令官!御悩みを解決して差し上げましょう!!」
「……」
いきなりそう言われても、なんか工作艦が面会要請を出して来たから執務室に通したんだが、第一声からこれってのは、どうなの
「あれ?御悩みでない?」
反応に困っていることなど御構い無しの工作艦
「まあ、取り敢えず話を聞こう」
言いつつ長椅子の方へ誘導する、大人しく誘導された工作艦と私に事務艦がお茶を持って来てくれた
「ああ、ありがとう、で、私の悩みというのは、どれの事だ?」
「司令官は艦娘の修復に掛かる時間を気にしていますね、現状の修復時間ではあの移籍組の修復に恐ろしいほどの時間が必要、これを短縮するには工廠を増設するしかなく、増設した所で敷地面積の都合上然程の短縮は見込めない、ここまでは合ってます?」
取り敢えず最後まで聞いてみようと思う
「その通りだ」
「そこでこの工作艦明石は考えました、工廠を増設して同時に入渠出来る艦娘の数を増やし並列処理で作業時間の短縮を図るのではなく、修復に掛かる時間自体を短縮し工廠の増設をする事なく修復出来る数を増やそうと、あれ以来妖精さんも協力的になってくれましたし、今回は余剰の妖精さんまで手を貸してくれたので開発が捗りました」
「……」
なんだか物凄く楽しげに語ってくれるのは良いんだけど、余剰の妖精さんの手を借りた?
それで開発したと、研修中の叢雲の入渠以降、工廠の妖精さんは特務艦や初期艦から逃げたり避けたりすることはなくなった、工作艦の言うあれ以来と言うのはこれだろうが、ちょっと詳しく聞かないとならない事態の様だ
「何を開発したのかな」
「修復材です、それと副次的に建造材も出来ました、これを使えば建造と修復に掛かる時間を大幅に短縮出来ます」
えーと、どうしよう、もう少し続けてみるか
「短縮とは、どのくらい短縮出来るんだ?」
「予備検査で何時間もかかると見積もられる修復でも数分で終わります、建造についても同様に数分で終わります」
色々聞きたいことはあるんだが、どこから聞いたものか
「あれ?ノーリアクション?何故?司令官は私の自信作にご不満が?」
ここに来て漸く楽しげな様子から不安そうな顔に変わった、そこまで不安そうにしなくてもいいと思うんだが、確かにノーリアクションは無いかと思い直した
「言っている事の半分でも実行出来たらすごい事だ、それは私でもわかる、しかし今の話からは多くの事案を確認しなければならない、報告書等に開発内容をまとめて来たか?」
「あ、纏めていません、兎に角出来たら直ぐに司令官に知らせたくて……」
工作艦がやっとこちらがノーリアクションの理由に気がついた様だ
「事務艦、初期艦を、特務艦の研修担当の初期艦を呼び出してくれないか」
「わかりました」
事務艦が内線で初期艦を呼びだしている
「そんなに落ち込むような事でもあるまい、今お茶受けを用意するから、楽にしててくれ」
「はい!」
お茶受けと聞いて機嫌を直すとか、まあいいか
「話したの、まだ待つように言った筈だけど」
事務艦に呼び出されて事情を聞いた初期艦は明から様に不機嫌になった
「何を待つんです?司令官に知ってもらわないと何を開発しても私の研修が終わらないんですけど」
なんの話を始めたんだか
「高速修復材も高速建造材もまだ漣達の検証が済んでない、実用にするには時間が必要なのよ、司令官は自身の指揮下に居る艦娘をその手の被験者にする事を嫌う、この鎮守府との関係を拗れさせる要因は作りたくない」
不機嫌を隠そうともせず言い放つ初期艦
「被験者なら、資材を持ってくる他の鎮守府所属艦でも、誰でもいいんですけど、なんなら私がやりましょうか?」
そんな初期艦を見てもまったく気にした様子を見せない工作艦
「それはダメ、特務艦は二隻目が建造出来ていない、明石で試すくらいなら私がやるわよ」
話が長くなりそうだから、戻って来てもらおう
「あー、そっちの話は後にしてもらっていいか、その高速なんたらってヤツを開発したのか?その話を聞かせてもらいたい」
「明石が言った通りのモノよ、修復でも建造でも数分で終わる、効果は妖精さんのお墨付き、後は実用試験で検証して問題が無いことを確認するだけ、資材からの抽出方法は確立済みで大本営に居る一号の初期艦達でも調達出来るから、それが終わるのを待っている所」
そうなんだ、しかし一号の初期艦は大本営で複製の件を抱えてる、平行で検証なんてできるのか、疑問なんだが
「工作艦の研修が終わらないというのは?」
取り敢えず他の質問をしてみよう
「特務艦の研修はその特性を活かせるかどうかに掛かってる、工作艦なら開発や修復といった工廠の作業、給糧艦なら食料の備蓄とか食事の提供とか、補給艦は艦隊行動に随伴しつつ補給が実施出来るか、その辺りの最低限の特性を発揮出来ると確認出来れば研修は修了となる、それには司令官の承認が必要になるって事」
そんな必要があるって話は聞いてないんだが、こちらに回って来た行動予定では研修に協力する様に要請されているだけで研修そのものに関与するとは書いてなかった
研修そのものはこの初期艦が主導するとなっていたし、それ自体が初期艦研修の一環だとも書いてあったから、こちらから積極的に関わってはいない
「司令官には、多くを求めても手に余るだろうから、時期を見て話すつもりだった」
「そういう場合は、取り敢えず話してくれ、手に余ったらそっちに投げるから」
話を持って来てもらわないと対処しようがないしな
「そうですね、取り敢えず話してみないと、司令官はエスパーでも鎖咄唎でもありません、ただの人なので、私達が補佐しているのです、叢雲さんも補佐されては如何ですか?」
珍しい事に事務艦が口を挟んで来た
「……そうね、考えてみる」
なんだろう、随分と考え込んでいる様子の初期艦
「それでですね、今回の開発実績で研修の修了としてもらいたいんです、何時迄も初期艦の下で開発の真似事ばかりでは工作艦としての腕が鈍ってしまいます」
「あんたねぇ」
不機嫌にいう初期艦
「駆逐艦に工作艦の指揮は取れんな、それは正論だ、だがその理屈で行くと私も工作艦の指揮は取れんぞ、艦娘の装備開発やら資材関係とか開発やらはさっぱりわからん、もっと言えば艦娘の工作艦に開発の真似事ではなく腕を鈍らせない運用は誰にも出来ない、理由はわかるか?」
「アレですか?物理法則を無視するにも程があるってヤツ、自衛隊は匙を投げたって聞いてます」
まあ、知ってて当然だな
「その通り、その手の話は妖精さんでないとわからない、しかし艦娘の立場は艦娘部隊に所属し司令官の指揮下にある事が前提となっている、この前提がある以上艦娘の工作艦は開発の真似事ばかりで腕が鈍ってしまう環境に身を置く事になる、その辺りについて何か考えている事があるのなら聞かせてもらいたい」
なんの考えも無しに研修修了を言い出した訳ではないだろうしな
「私に工廠を任せて下さい、司令官の要望と期待に応えてみせます」
オイオイ、何を言いだすかなこの工作艦は、鎮守府の、艦娘運用拠点としての最重要施設を任せろと、大きく出たな
「そういう台詞は、報告書をマトモに出してから言ってくれ」
しかし現状では無理があり過ぎる
「……」
何故か呆気にとられた様な顔を見せる工作艦
「書類作成も仕事の内、任せてもらいたかったら、書類もキッチリ仕上げる事ね」
初期艦が言ってる
「……えー、苦手なんですけど」
おいおい、それで任せろって言ったのか?
「苦手で済ませるのなら、任せてもらえるわけないでしょ」
初期艦から突っ込みが入った
「……ご尤もで」
どうやら話は着いたらしい
五十鈴からの面会要請があった
話の内容は予測が付くが、こちらは対応を決めかねている、しかし五十鈴は諦めそうにない、困った事だ
取り敢えずそちらは曖昧にしておいてこちらの相談事を持ち出してみた
「事務処理に長けた艦娘?移籍組の中で?」
「そうだ、工作艦が工廠を任せろと言って来た、しかし事務処理というか書類作成が不得手だそうだ、このままだと工作艦が遊んでしまう、これまでの研修資料から見ても遊ばせておくよりは工廠で働いてもらった方が良いだろう、そこの補佐というか共同で工廠に詰められる様な艦娘は居ないか?」
随分と考え込んでいる五十鈴
「……いないでもないけど、どうなんだろ」
なにその不安そうな顔は
「本人に話だけでもしてみてくれないか、選択の一つとして」
「遠征隊を率いることの出来る軽巡なんだけど、この鎮守府は軽巡が足りていないのではないの?」
そんな事を不安視してたのか、どちらかと言えば要らんお世話の類だ
「それを言うなら事務艦だって艦種としては軽巡だ、アレは建造直後に事務処理研修に出して今日まで事務艦やってくれてる、艦娘なのに海に出れない状況を受け入れてくれてるよ」
「建造直後にって、右も左もわからないままであの研修に出したの?酷い話」
なにその呆れ顔は、あのドタバタの中で他に選択の余地が無かったんだ、仕方ないじゃないか、ウチの初期艦のお勧めだったし
「それでも事務艦としてやってくれるんだから、艦娘ってのは人とは違うんだと、熟思うよ」
「艦娘の生まれながらに持つ能力は人とは違う、でも、艦娘は人との共生を選ぶ、建造艦なら司令官との共生をね、上手い事活用してるじゃない、艦娘の習性を、その調子で他の艦娘も活用して欲しい所ね」
「それで、話だけでもしてくれるのかな」
五十鈴の嫌味は触らずにおこう
「わかった、話はしてみる、それと話は変わるけど、今空いている場所に食堂を増設する気はない?」
変わり過ぎだろ、なんの話を始める気だ
「増設して、誰が使うんだ?」
取り敢えずは質問して探りを入れてみよう
「実は移籍組から船の外に出たいって要望が多いのよ、だからその要件として食堂の利用時に限りとしたいのだけれど、今の食堂の規模だと無理があるから」
工作艦の研修修了の話に他の特務艦も託けて来たのか、特務艦は五隻いるし、五十鈴の話に当て嵌まるのはその内の二隻
「その運用に給糧艦を当てるのか?」
「そのつもり、あの二人も工作艦と同様に何時迄も初期艦の下にいても仕方ないと考えている、かといって工作艦の様に何処かに詰められる訳でもない、既存の食堂は運営業者がいるからね、それに通常の方法では給糧艦だけで食堂を運用するには諸般の問題がある、それで私の所に相談に来た、司令官に相談しても解決策が出るかわからないし、給糧艦達もどうすれば良いのか思いつかなかったみたいね」
諸般の問題ね、それにしてもなんだって特務艦達はこの手の相談を初期艦に持っていかないんだ、もしかして持ち込んだ相談を却下された結果、私や五十鈴に持ち込んでるのかな
「なるほど、増設した食堂の利用者を艦娘に限定すれば法的な問題は回避出来るか、建造からの期間を持ち出すまでもなく、現状で給糧艦はその手の資格を持ってないから人を相手にした食堂の運営なんて出来ないからな、そうなると食材費は?そっちで持ってくれるのか?」
「予算を上乗せするから鎮守府で持って欲しいんだけど、作業船に食料とか色々補給の手間を取り辛い状況なのよ、大本営のゴタゴタが予想外に長引いてるおかげでね、こっちの当初予定からの遅れも思ってた程目立たないのはいい事なんだけど、監察官達が大本営のゴタゴタに掛り切りって他に手も目も向かないみたい」
なんでもない様にいうが、それって大問題じゃないのかな
「食料調達量を増やすことになるのか、施設管理室の方々と話さなきゃならないな、予算のこともあるし、食堂運営に関しても助言をもらいたいしな」
大本営のゴタゴタに嘴を突っ込む程暇ではない、こちらはこちらのやることをやるだけだ
早速施設管理室に出向き相談をした所、予算があるのなら調達自体は問題ないとの回答を得た、但し食堂運営には難色を示した、なにしろ無資格者が運営するというのだからそれを承知で食料調達に協力すればとばっちりを受けかねない、せめて現行の食堂運営をしている業者の監督下という体裁を整えられないかと提案して来た
仕方ないので、憲兵を呼び出して利用者を艦娘に限定した場合でもなんらかの資格が必要かを協議、結果として艦娘部隊専用施設として管理運用を鎮守府内で行う事を条件に妥結した
この件は直ぐに大本営にも通知を出して承諾を取り付けた、なにかあっても艦娘部隊内の事として処理される様に
そこからは早かった、なにしろ話を聞きつけた工作艦が給糧艦の要望と営業規模から食堂の図面を事務艦に持ち込み私に設置許可を要請して来やがった
事務艦に話を通す辺りに何か意図があるのかとも勘ぐったが、考えてみれば事務艦と工作艦は居室が同室なのを思い出した
工作艦にとって最も身近な相談相手が事務艦だった訳だ
移動指揮所に詰めている自衛隊の方々とも話をつけたら工作艦が妖精さんを引き連れてあっという間に食堂を新設した
自衛隊の方々には話には聞いていても初めて間近で見る妖精さんの建設作業に驚きを隠すことさえ忘れた様子だ
まあ、初見ならアレは手品か魔法の類にしか見えないし、実際の所も人から見ればソレと大して違わないし、仕方ないね
自衛隊の方々は頻りにこれなら鎮守府を大増設すると息巻く訳だと呆れるしかなかった模様、現実感の無いあんまりな状況を目の当たりにして考える事を放棄したらしい
そんな訳で初期艦が受け持っている特務艦は補給艦の二隻となった
工作艦の相方には取り敢えず初期艦を付けている、その内に五十鈴からの紹介があるだろうからそれまでの繋ぎだ
給糧艦は早速食堂の開業準備にかかり施設管理室からの食料調達と提供するメニュー作りに取り組んでいる、それが済めば移籍組を対象にした食料供給が始められる
食堂運営というよりは炊き出し扱いだが、そこは理解してもらうしかない
補給艦も直ぐに研修修了かと思っていたが、艦隊随伴の部分で躓いている
現状では遠征隊による資材集積の優先度が高く駆逐艦の全速に着いていけない補給艦では遠征隊に組み込めない、だからといって補給艦の船速では深海棲艦から逃げ切れるか疑わしい、その為艦隊随伴の予定が立てられずにいる
取り敢えずは初期艦と行動を共にしてもらっているが、矢張り研修修了の目処が立たない事は不満らしい
そうこうしていると五十鈴が移籍組から三人連れて執務室に来た、なんでも工廠を覗いたら初期艦に二人も付いて三人で工作艦のフォローをしてたから三人連れて来たんだそうだ
「それで、説明はしてくれたのか?」
「一応はね、三人共に司令官とも話したいっていうから」
そりゃそうだ、尤もな意見だね
「司令官の佐伯です、知っているとは思うが、改めまして」
「軽巡の夕張です」
「軽巡の北上だよ」
「飛行艇母艦の秋津洲、かも」
「かも?」
「あー、気にしないで、秋津洲は二式大艇を兵装として扱える、偵察機としては最長航続距離を持つ兵装だから使い手があるわよ」
なんだろう五十鈴が誤魔化しにかかった様な気がする
「申し訳ないがあまり時間が取れない、話は簡潔にして欲しい、それで良ければ話を聞こう」
五十鈴の誤魔化しは取り敢えず置いておく事にして三人に問う
「んじゃ、簡潔に聞くけどさ、あんた移籍組って云われてる私等を纏めて指揮下に置けると思ってるの?」
早速北上からの質問だ
「修復後の所属に付いて、という事なら一義的にはウチの所属になる、但しこれは最終的な決定ではない、有り体に言って移籍組の最終的な所属がどうなるかはまだ定まっていない、私としてはそちらになんらかの希望があれば上申するつもりだ」
「上申って、あんたが決定権を持ってるんでしょ、他人事として話すのは、どういうつもりなのかなぁ」
私の回答に北上はご不満な様子、なにやら誤解がある様な発言もあったし
「私が受けた依頼は移籍組の修復の完遂だ、そこを間違えないでもらいたい」
「へぇ、私等を指揮下に置かないっていうの?」
やけに突っかかってくるなこの軽巡
「それは状況次第だ、現時点ではなんともいえない、少し鎮守府内を見て回れば分かると思うが、移籍組の全員を受け入れるには現状の施設や設備では不足だ、それに数の偏りも過ぎる、この鎮守府に過剰な数の艦娘を集めておく事は、周囲との摩擦や軋轢の原因になりかねない、何れにしても状況を見極めなければ決めようがない」
「ふーん、じゃあアレは?艦娘を人に作り変えるってヤツ、どうなってる?」
なんで移籍組の軽巡からこの質問が出てくるんだ、そんなに広まってる話なのか?
「それは大本営にいる初期艦に聞いてくれ、私に聞かれても答えようがない」
「それはオカシイね、あんたが決定権を持つ筈だ、あの眠り姫はこの鎮守府の所属なんだから、こっちが知らないと思ってトボけてんの?」
「ちょっと北上、」
なんか夕張が北上を突いてる
「今更なにさ、聞けば民間上がりの素人司令官だっていうじゃないか、名ばかり司令官の風下になんて、なんだってこの北上さまが立たなきゃならないのさ」
「北上さん、抑えるかも、こんな所まで来て解体はイヤかも」
秋津洲まで北上に言い出した
「かもちゃんは大艇ちゃんを取り戻したいんだっけ?」
北上に聞かれても大きく頷く秋津洲
「メロンはなんかあったっけ?」
「メロンいうな、私はこの話に乗れば修復の順番が早くなるかなーと、それに工作艦っていうのも興味あるし」
「二人は其々の理由があると、で、北上は?」
面白そうだから聞いてみよう
「素人司令官にしては、随分と強気に出るね、もしかして、艦娘は司令官に絶対服従とか思ってる?」
聞いた途端に大笑いしてしまった、艦娘が司令官に服従?ナニソレ知らない
「なにが、おかしいのさ」
私の大笑いは北上の機嫌をエラく損ねた様だ
「おかしいだろ、私に服従する様な艦娘など見た事ない、どいつもこいつも言いたい放題だ、どれだけ手を焼かされてるか知らん様だな」
「……」
北上がなんか呆けた顔になってる、大丈夫か?
「まあ、話はここまでにしよう、この件に乗るかどうかは秘書艦に言ってくれ、悪いが時間だ」
「ちょっと待つかも!大艇ちゃんの事が聞けてないかもー!!」
「五十鈴秘書艦、後は任せる、それと工廠へ案内して工作艦共々引き合わせをしてもらいたい」
「面倒事だから押し付けようっての?」
五十鈴に睨まれてしまった
「移籍組の代表は五十鈴だ、それに軽巡は私が気に入らない様だしな、ここは無用なトラブルを避けるとしよう」
それっぽい理由を並べてみる
「トラブルね、それなら案内役を二人貸して、一人でこの三人の手綱は取れないから」
「手綱って、」
夕張がなんか言ってる
「事務艦、人選は任せる、二人付けてくれ」
どうやら押し付け成功の様だ
「わかりました、直接工廠に向かわせます、皆さんは工廠で合流してください」
そう言いつつ四人に退出を促す事務艦、こういう所だけは頼りになる
突然に指揮所司令官(代理)が面会を求めて来た
それも重要な話があるから時間を確保して欲しいとの要望付きだ
嫌な予感しかしない、だからと言って会わないわけにはいかない
指揮所の開設は私の要請に自衛隊が応えた結果なのだから
大急ぎで執務を出来るだけ片付けて時間を作った
事務艦に多大な負荷が掛かるがここは許容してもらいたい、でもこの負担はどうにかしないといけない案件だ、ただでさえ事務艦には負担が多いと私でも思うし
指揮所司令官(代理)に開始時間を伝え、来るのを待っている
一体なんの話をして来るのやら、面倒事である事だけは間違いないだろう
指定時間きっかりに扉がノックされた
やれやれと思いながら顔に出ない様に気をつけて扉を開ける
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
「あ、ああ、ありがとう」
扉を開けたら何故か驚いた顔に出会した、指揮所からは司令官(代理)と随伴が三名か
話を聞くのに長椅子に誘導したら、座ったのは司令官(代理)だけで随伴の三名は椅子の後ろに立った
それで人数分のお茶を持って来た事務艦が困った感じにこちらを見て来た
「えっと、後ろの方々はお座りになられないのですか?」
「小官等の事はお気遣いなく、代理で来られている各務空将補との二者会談だと思ってください」
なにそれ、それなら来る事ないだろうに
「お茶は二人分で良いそうだ、済まないが仕事を進めてくれないか」
「……わかりました」
司令官(代理)と私の前にお茶を置き仕事に戻る事務艦
「それで、重要なお話とは?」
本題を促した、この各務空将補とかいう司令官(代理)、呑気にお茶を啜ってるんだが、変に深読みしない方が良いのか、如何なのか
「それなんだが、こちらにこういった要請なり要望が出せない取り決めになっている事は承知している、しているのだが、敢えて言わねばならない状況にある事を理解してもらいたい」
前置きに反応しても仕方ない、続きを待つ
「艦娘部隊の、この鎮守府の再稼動を急いで欲しい、出来るのなら全ての鎮守府を稼働させ、海域の確保を艦娘艦隊で実行出来ないか?」
あらま、自衛隊の窮状はそれなりに聞こえて来てはいたが、直接言ってくる程追い詰められたのか
「ご承知の通り取り決めがあります、そういった話は大本営へお願いします」
「大本営ではラチがあかないから、言っているんだ」
後ろから声が上がる
「……二者会談では、無かったのですか?」
後ろに立った士官と思われる自衛官に聞く
「二者会談だよ、今のは無視してくれて良い、済まないね」
しれっと悪びれもせずに言って来る司令官(代理)
なるほど、そういう役割か、小狡い手を使うなこの代理は
「ならばもう一度言いましょう、大本営に言ってください、鎮守府司令官の権限では大本営の命令を無視できません」
「つまり、今この鎮守府は大本営の命令で動いている、その為に自衛隊の要請に応えられないと、そういう事かな」
「自衛隊の要請に応えるも何も、元から受け付ける事自体が想定されていません」
「鎮守府司令官は指揮下の艦娘に全権を行使出来る、と聞いているが、違うのかな」
「それと、先の話とは関連がありません」
「指揮下の艦娘に出撃を命令すれば、こちらの要請に応えられる、それが出来ないのは、何故かな」
「各務空将補、でしたか、あなたは何処かから要請があれば独自の判断で陸自や海自を出動させるんですか、そういう話ならあなたは自衛官を私兵か私物だと誤認している、と民間人の私には見受けられますが」
「ほう、指揮下の艦娘に全権を行使出来るといっても、艦娘達は司令官の私物ではない、と言いたいのか、では、何なのだ、鎮守府司令官の私物でなければ艦娘とはなんなのだ?」
「大変な誤解です、艦娘の身分は艦娘部隊に所属し、且つ司令官の指揮下にある事で保護されています、間違っても司令官の所有権が艦娘を保護しているのではありません」
「では、あの眠り姫と呼ばれている初期艦は如何なのだ、大本営の命令によりあの眠り姫はこの鎮守府の所属から外れている、指揮下では無くなっているのだろう、それでも司令官は眠り姫を保護しているな、所有権の主張が大本営に認められたからではないのか?」
おいおい何を言いだすんだこの代理は
「所属から外れている?それは何処で確認したんですか?」
「とぼけなくて良い、調べは付いてる」
あれ、なんか話が変な方向に行ってるぞ、如何したものか
「何処で何を調べたのかは、後日問い合わせるとして、明確にしておきましょう、あなたが言う大本営の命令は撤回されている、従ってウチの初期艦は当鎮守府に所属したままだ」
「……下手な嘘は付かなくて良い」
おう、丸っ切り聞いてない、言いたくはないが、一応言っておこう
「そこまで仰るのであれば、大本営の秘書艦が当鎮守府に滞在しております、ここに呼びましょうか?」
「不要です」
なんで後ろから即答があるのかな、退室してもらおうかな
「そうだな、本題はそこでは無い」
代理もなんか言ってるし、何なんだよ、しかし考えてみれば大本営秘書艦がいるのに大本営に言ってもラチが明かないと、私に言って来る事がオカシイな
「本題ではないのですか?そちらの話は大本営秘書艦に話してこその案件でしょう、鎮守府司令官でしかない私に話すよりも遥かに建設的な筈ですが」
「……」
「各務空将補、続けますか?」
後ろから声がかかる、その声に少し考える間を置く司令官(代理)
「代理で無ければ、続きをやりたいんだがな、田名部からも無理を押すなとクギを刺されてる、ここは引くことにするよ、吉報を待つ、何とかしろ」
そう言うと立ち上がり、一人だけで退室してしまった
あれ、何が如何なってるの?あんまりな事態に声も掛けられずに見送ってしまった
「仕切り直したいが、宜しいか」
「えっと、如何いうことでしょうか?」
「元々我々が司令官に話をする事になっていたんだが、司令官(代理)が俺がやると言いだしてね、止められなかった、申し訳ない」
「アレでもかなり抑えられているんだ、情報担当が鎮守府司令官の判断の正当性を主張して今回も判断を待つべきと強硬に意見したから」
「それは、以前来た情報士官の方、ですか?」
「そう、その情報士官はアレでそんなに暇ならと、この鎮守府の戦術の分析と自衛隊のソレを比較して纏める様に言い渡されて、それを進めて行く内に自衛隊は戦略ミスを犯しているとの結論に辿り着いた、その結論は司令官の戦略が正しかった事の証明でもある、自分が専門馬鹿になっていた事に気が付かなかったと反省していた」
あの情報士官があの代理の行動を抑えるのに一役買ってくれたらしいがよくわからない話だ
「それで、仕切り直しとは?」
「情報交換をお願いしたい、こちらから出せる情報は可能な限り提供する、そちらも出来る限りの情報を提供してもらいたい、ただ、秘匿情報に関しては守秘義務を課すことになる」
なんだろうね、なんの情報が要るんだろう、こちらに隠し事なんて、無いと思うが、大本営には逐一報告してるんだし
ここはサッサと知りたがってる情報をくれてやり、お引き取り願う場面かな
「そういう事なら、先ずはお礼を言わせて頂きたい、遠征隊に海域情報と深海棲艦の位置情報を提供していただき資材集積効率の安定に大変な効果がある、ありがとうございます、その代わりにと云われるのであればこちらに断る理由はないです、私に答えられる話ならば良いのですが、取り敢えずはなんの情報が必要ですか」
そう言ったら、何故か三人が互いに顔を向けあって無言の相談を始めてしまった
「あっ、差し支え無ければ、お座りください、お茶は要りますか?」
長引かれても困るので差し障りのない様に突っ込みを入れてみる
「あ、いや、お気遣いは無用です、しかし立ち話もなんですから、着席はします、失礼」
ようやく三人が座った、これで落ち着いて話せそうだ
「早速だが、そちらの、艦娘部隊の現状を聞かせて欲しい、活動再開に手間取っている要因は何か」
やっぱり鎮守府の活動再開を急かしたいのね、まあ、代理とはいえ指揮所司令官がああいうくらいだからな、余程余裕がないのだろう
「大本営の命令を履行するに当たって準備が多く足並みが揃わない、一つの鎮守府では履行の可能性無しと見込まれているので、如何にかしている最中です」
「鎮守府全体での合同作戦の準備という事か」
「合同作戦自体は既に実行中です、ムラは多いですが」
「そのムラを縮小しつつ、大本営の命令を履行するのか」
「そうなります」
敢えて簡潔に答えてみた、さて、突っ込みがあるか、ないかでこの先の話をどうするかを決めないとな
「確か、二つの鎮守府が所属艦娘の数を大きく減らした、様に聞いたが、その影響もあるのか」
まあ、知ってるよね
「無いとは言えない状況ではありますが、大本営の遠征隊が加わった事により合同作戦は継続中です」
なんか三人揃って無言の相談をしてるんだが、目の前で相談してるのに内容が全くわからない、自衛官ってのはこんな特殊技能まで持ってるのかと感心してしまう
「では、現時点で再稼動はいつ頃になるか、目処も付かないのか」
「鎮守府の再稼動を急かしているのは、大本営も同様です、ですがその大本営からの許可、この場合は準備に必要な許可ですが、それらを取り付けるのに手間取っている部分もあり、予定日を定めれらません、ご理解いただきたい」
また無言の相談を始めてしまった
「その許可とやらが降りれば直ぐにでも再稼動は可能なのか」
「再稼動は可能です、しかし自衛隊の求める所は海域の確保では?それを達成するには再稼動した後に一定の期間が必要になります」
「そうか、言われてみれば海域確保の為に出撃していた艦娘艦隊、そちらの呼称では攻略隊という様だが、あれらの艦隊は長い所だと一ヶ月近くも海に出ていないのか」
「それだけ大本営の監査が長引いているという事でもあるな」
「詰まる所、大本営が止まってる限り、我々を取り巻く状況は好転の見込みが薄いと、憲兵隊に喝を入れた方が早いんじゃないか」
「難しいだろう、長引かせてるのは、アレだし、アレにはこっちの幕僚連中は勿論政治屋も寄り付かん」
「そうなのか?防衛省の事務方が張り付いてるって聞いたが」
「あー、その辺りは話さない方が良い、司令官は民間人だ」
「おっと、そうだった」
なにその態とらしい小芝居は、そう言えば桜智の奴が自衛官の噂話が聞こえたとかの話をしてたな、こんな感じだったのかな
「兎も角、この鎮守府は現在再稼動に向けて最善を尽くしている最中なのだな」
「その通りです」
「わかった、最善を尽くし、最短での再稼動及び海域確保に向かってくれる事を期待しよう」
「ああ、今のはお願いです、こちらには艦娘部隊に命令は勿論要請も出来ませんから」
これは嫌味かな
「時間を割いていただき感謝します」
そういうと三人揃って立ち上がり、そのまま退室していった
「なにしに来たんだ?」
自衛官達が出て行った方を見ながら感想が出てしまった
「急かしに来たのでは?」
ご尤もな意見をありがとう事務艦
登場艦娘
初期艦研修中の叢雲、現在外地研修として特務艦隊を引率中、教導艦は天龍に変更されている
単に初期艦との表記であればこの叢雲を指す、筈
一号の初期艦、吹雪、漣、電、五月雨 (叢雲は鎮守府にて睡眠中)、大本営で色々と試行錯誤中
一組の初期艦、漣、電、五月雨 (吹雪は解体、叢雲は改修素材で二名欠員)、佐伯司令官の補佐担当
老提督(大本営司令長官)秘書艦の五十鈴、艦娘部隊大本営代理人の側面を持つ
大本営の遠征隊、天龍等が率いる遠征隊、各鎮守府を巡回していたりもする
移籍組、本編中では引き籠り達として出て来ていた高練度艦達
特務艦、工作艦一、給糧艦ニ、補給艦ニ、この五隻が研修中
登場人物
老提督
・研修中の叢雲からは視察官、一期で視察官として鎮守府に来ている時が初対面だったから
・一号の初期艦からはじーちゃん、お爺さん、艦娘部隊発足前から色々あった経緯から
・稀に最初の人、艦娘の言う妖精さんを見る事が出来た最初の人
・現在監察官の一人として大本営の監察中、大本営を上部機関が統括下に置いている間の臨時司令長官
監察官
艦娘部隊上部機関より派遣された、退役軍人、国家代表、元上級官僚、という方々、大本営を監察中
老兵
・老提督に続き妖精さんを見る事が出来た二人目の人、退役軍人
・老提督と同様に艦娘部隊上部機関に席を用意されてる艦娘部隊の重鎮の一人
・監察官の一人として大本営を監察中の筈
・現在大変な厄介事を抱え込み難儀中でもある
移動指揮所の自衛隊
佐伯司令官の要請で舞台となっている鎮守府に駐留、自衛隊内部で扱いが割れて紛糾中、現場の自衛官は艦娘部隊に協力姿勢を示している
移動指揮所の司令官
本来の司令官は何処かに出張中、その留守預かりの司令官が来ている
情報士官、60話参照
佐伯司令官、増設された五箇所の鎮守府の一つに着任した司令官、舞台となっている鎮守府の司令官
その他
作業船、移籍組の乗って来た旅客船、現在も接岸して停泊中、移籍組の宿舎扱い