7月18日
いつもの様に天龍が資材を持ってきた
定期便になっているからこれ自体は問題ない、問題なのは通常編成ではなかった事だ
余分な六隻、軽巡ニと駆逐四、この軽巡というのが五十鈴が言っていた未帰還者、駆逐は一号の初期艦、元鎮守府配置の初期艦で現在大規模増設に必要な諸般の検証をやっている筈の初期艦だ
何故揃って来たんだ?
なんにしても話を聞かないと対処しようがない、それで天龍と余分な六隻を執務室に呼んでいる
まあ、この七名を呼んでいるからには秘書艦と初期艦も付いてくるだろうが
来るまでに出来る限り書類の山をなんとかしないとな
ふと、気がつくと、書類がかなり減っていた
こんなに減っているという事は、相応に時間が経っているわけで、そんなに長い間来なかったのか
事務艦に呼び出し中の七名はどうしたと聞いたら、帰ったと返されてしまった
帰ったって、呼び出しを無視してか、そりゃ相手は大本営所属艦娘だから鎮守府司令官には指揮権は無いよ、無いからってその対応は如何なの
「その件については、五十鈴、叢雲両名より面会の要請がありました、司令官も了承されていますが」
そう言って連名の面会要請書を出して来た、そこにあるのは、私の了承印
あれ?覚えがないんだけど
「司令官、お疲れの様ですね、少し休暇を取られてはいかがでしょう」
「休暇って、この状況では……」
「この状況だからです、司令官が過労に倒れる様な事態は誰も望んでいません」
それは、そうなんだろうが、現状の鎮守府体制では私の留守を預かれる艦娘がいない
これはあいつが目覚めなくなってから続いている事で、もう慣れてしまった
「申し上げ難いのですが、司令官の勤務状況が大本営の監査にて問題視されています」
はい?ナニソレ
「こちらをご覧ください」
そう言って束ねられた書類を出して来た
「鎮守府司令官勤務状況の実態報告書?なんだこれ?」
「鎮守府に駐留している憲兵隊が纏め、大本営の監査に来ている監察官に提出された資料だそうです」
「そんな資料が何故ここに?」
「天龍さんが持って来ました、鎮守府司令官に配る様に指示されたそうです」
なにをしてるのかな、大本営は、そんな事よりする事はもっと違う方にあるだろうに
「先に目を通させていただきましたが、当鎮守府の司令官の勤務状況が悲惨と評価されています、負っている任務とその責務に比し、報酬も待遇も過小に過ぎると、速かに司令部の構築を促し司令官の負担を軽減すべきと意見が付けられています」
「……コレ、纏めたの、上部機関?官僚達?ではないか?」
パラパラ捲っていたら、如何も憲兵隊の資料を基に監察官等が意見を追加した書類らしいと読めるんだが、発行自体は大本営となってる
「資料を纏めたのは憲兵隊です、それを問題視した監察官が意見書に纏め直した書類です」
なんだろう、モヤモヤするね、コレ
「五十鈴秘書艦を呼んでくれないか」
「……お待ちください」
そう言って内線を掛ける事務艦、呼ぶのは長門でも龍田でも良かったんだが、生憎とスケジュールを思い出せなかった、確実に呼べる相手が五十鈴秘書艦しか思いつかなかった
しばらくして五十鈴が来たので、長椅子の方に移動して事務艦が出して来た書類を示す
「如何思うか」
その書類をパラパラと斜め読みしている五十鈴
「どこからの書類?」
「事務艦がいうには大本営が天龍に配らせている書類だそうだが」
「?事務艦、これは天龍から直接受け取ったの?」
確認の為だろう質問をしている五十鈴
「いえ、工廠に出向いた時に天龍さんからの預かり物だと、妖精さんから渡されました」
「?」
疑問の表情を浮かべる五十鈴
「その書類は防水用にパッケージに包まれた状態で渡されました、それに添付されていたメッセージがコレです」
さすがに妖精さんから渡されました、だけでは説明不足と思ったのか事務艦が説明を足している
その添付されていたという付箋には司令官に渡す様にと天龍の署名で書かれていた
「他の鎮守府にも配られいるというのは?」
その付箋を見ながら質問を続ける、五十鈴もこの書類には警戒感を覚えるのか、なら私のモヤモヤも間違いではなさそうだ
「それは、中に書かれています」
「ああ、ここね、確かに大本営が鎮守府に向けて配布するとあるわね」
どれどれと覗いて見た
「……日付、おかしくないか?」
「んー、おかしく思うかは微妙な所、無理はあるけど不可能では無い」
「はっきりさせよう、事務艦、憲兵隊に連絡して一人でいいから執務室に寄越す様に依頼してくれ」
「わかりました」
事務艦が連絡を取ったら直ぐに憲兵が来た、あんた等暇なのか
「呼び出しとは、何かあったのか?」
殆ど待ち時間も無く執務室に来た憲兵が聞いてくる
「お忙しい所申し訳ありません、確認してもらいたい書類があるのです、こちらの書類なのですが、憲兵隊の方で覚えのある資料ですか?」
失礼とかいいつつ憲兵が書類を取り中身を見ていく
「これ、預かっても?」
「それは困る、そこにもあるが、鎮守府に配布するとなっているから私の手元から無くなるのは避けてほしい」
「なら、コピーを取らせていただきたい」
「えっと、」
困ったな、コピー機なんて執務室には無いぞ
「ああ、これで撮らせてもらっても構いませんか」
憲兵が出して来たのはデジカメだ、話が変な方向に行っても困るから素直にどうぞと返した
書類を撮り終えた憲兵は出来るだけ早く回答すると言い残して執務室を後にした
「あの感じだと、真っ当な資料を纏めた書類では無さそうね」
憲兵が去ると五十鈴が言った
「どういう事でしょうか?」
事務艦が聞いてくる
「大本営の官僚達が鎮守府への影響力を回復しようとアレコレ動いてる、この鎮守府にもそれが来たって所かしら」
「えっ?!資料は妖精さんから渡されました、その可能性は低いのでは?」
驚きを隠せない事務艦
「それより、事務艦には聞きたい事があるんだけど、司令官が呼び出してくれて丁度良かったし」
「?」
なんの話をしているんだ秘書艦は
「私の姉妹艦を追い返したのは、何故かしら、司令官から呼び出しを受けていたのに追い出したそうだけど」
なにそれ聞いてない
「司令官は多忙です、抱えなくても済む問題は排除していかなければ、なりません」
迷う事なく回答を出す事務艦
「だ、そうよ、司令官、良い部下を持っているわね」
ナニソレ嫌味かな
「事務艦、アレ、承認印、押した?」
先程出された面会要請書を指す
「……この要請をした覚えは無いけど?」
指した書類を見に行った五十鈴が言う
「司令官は働き過ぎです、もっと所属艦を使ってください」
どうやらこの承認印を押した覚えが無いのは私がボケた所為では無い様だ
「私より、事務艦の負担を軽減する方が先だな、と言う訳で秘書艦に聞きたいんだが、あの特務艦達をウチの所属にするにはどうすれば良いのかな」
それが出来れば初期艦の外地研修は終わる筈だしな
「残りの二人の研修を終わらせるのが先よ、それから所属申請を大本営に提出して、大本営での決裁は老提督が受け持っているから、問題なく通る」
「研修中の所属は仮状態、と言う事か、初期艦と同じ様に」
「建造艦やドロップ艦も所属申請だけでほぼ無審査で通るでしょう、そういう事よ」
おう、例の未帰還者となっている姉妹艦達にもそうしろって事か、後日にバレたらどうすんだよ
五十鈴と同程度の高練度艦なら耳目を集める事になる、そこからバレるのは時間の問題でしか無いと思うんだが
そんな事を考えていたら執務室の扉を叩く音がした
「憲兵隊だ、入室許可を」
「どうぞ」
言うなり扉が開いた、憲兵が四人も入って来た、もしかして大事かな
「早速だが、この資料はどこで入手した物か、聞かせてもらいたい」
デジカメからプリントしたと思われる束を持って来ている憲兵
「それが現物か?」
「待て、話が先だ」
長椅子の前のテーブルに置いてある例の書類を取ろうとした憲兵が他の憲兵に押さえられた
押さえた憲兵もその書類は気になる様子
「中に書かれていますが、これは大本営から鎮守府に配布された物です、それ以上の事はこちらではわかりません」
「確かに、書かれていた、だが、ただ配布された物だというのなら、憲兵隊に何を確認させたかったのか、聞かせてもらいたい」
事実確認は大事だよね
「内容から憲兵隊が資料を提供して作成された書類だとわかる、私の覚えが確かなら憲兵隊は大本営にこういった資料を提供していないハズだ、資料提供の確認と説明を」
「資料自体は憲兵隊で作成した物に間違いない、しかしこの資料を大本営に提供した事実は無い、説明はこちらが求める所だ」
ほう、あっさり認めて来た、憲兵隊の方でも把握していないのか、隊長が不在なのと関係あるのかな
「つまり、漏洩の可能性があると?」
「……可能性は全ての事象に付いて回る、軽々には判断できない」
「ここで押し問答するより、他の鎮守府に何が配布されたのか、調べなくて良いの?」
五十鈴の質問の意味を掴めなかった様子の憲兵達が顔を見合わせている
「どういう意味だ?」
五十鈴に聞き返す憲兵
「憲兵といっても自衛官、情報戦は不得手の様ね」
五十鈴の一言にハッと気が付いた顔になる憲兵達
「!!」
「まさか、そこまでの状況に?」
「確認が先だ」
「副隊長に意見具申して来ます!」
言ったら即行動で一人が執務室を出た
「あの、事情を飲み込めません、何がどうなっているのでしょうか?」
憲兵が退室する時に空いた間に、事務艦が恐る恐る聞いて来た
「もうわかってるでしょ、この書類自体が貴方を動かす為のエサ、そしてエサに釣られた貴方は……」
「止めろ、それ以上は要らない」
五十鈴の解説を止める、今更聞いても仕方ないしな
「……」
事務艦が落ち込んでしまった
「なにやらある様だが、こちらの話を続けて良いか?」
なにか考えでもあるのか憲兵は先に進めたいらしい
「構いませんが、続きとは?お互いに求める所の説明が出来ない状況としか、わかっていませんが」
「それをこちらに渡してもらいたい、現物でなければ証拠にならない」
「証拠?これは大本営からの配布物に過ぎない、現物というのなら大本営で抑えなければ無意味では?」
そう言ったら少し考え込んだ後に頷いた
「……なるほど、配布物もこの写真プリントも複製品というのなら同じ事か」
「事務艦、防水用のパッケージはどうした、それとさっきの付箋をくれないか?」
兎も角憲兵は証拠が欲しい様子、なら協力しないとね
「え、パッケージはゴミ箱に、付箋はこちらです」
「工廠のゴミ箱か?」
「いえ、分別用のゴミ箱は食堂にしかないので、そちらに」
「聞いた通りです、説明しますと、この書類は防水用のパッケージに包まれた状態で事務艦に渡された、それに付けられていたのがこの付箋、パッケージは食堂のゴミ箱だそうです」
憲兵にそう言ったらなんというか形容し難い顔をされてしまった
「取りに行けと?」
「要らないのであれば構いませんが、証拠が必要なのでは?」
そう言ったら憲兵達が嫌そうな顔をした、折角証拠集めに協力してるのに、理不尽な
「……隊長の苦労が偲ばれる」
「ボヤくなよ、それと、後ほど事務艦には協力頂きたいのだが、宜しいか」
「後ほどというか、同行させましょう、事務艦、頼めるか」
「はい、了解しました」
「食堂に行って来ます、先に施設管理室ですか」
「そっちは自分が行くから食堂の方を頼む」
そう言って二人の憲兵と事務艦が退室した
「司令官、余計なお世話な事は、承知しているけど、事務艦に問題が多過ぎない?この鎮守府の資料は見せてもらったけど、交代させる予定はないの?」
五十鈴が言い出した、まだ憲兵がいるんだけど、そういう話は憲兵が退室してからにしてもらいたい
「司令官があの事務艦を優秀と評価しているのは承知している、しかし越権行為と素行不良が目立つとも聞いている、交代を考えても良いのでは?」
なんで憲兵まで言い出すのかな、もしかして、示し合わせたりしてんのかな
「事務艦は私の指揮下にある、何か問題が?」
そう言ったら秘書艦と憲兵が溜息を吐いた、なんでだよ
登場艦娘
初期艦研修中の叢雲、現在外地研修として特務艦隊を引率中、教導艦は天龍に変更されている
単に初期艦との表記であればこの叢雲を指す、筈
一号の初期艦、吹雪、漣、電、五月雨 (叢雲は鎮守府にて睡眠中)、大本営で色々と試行錯誤中
一組の初期艦、漣、電、五月雨 (吹雪は解体、叢雲は改修素材で二名欠員)、佐伯司令官の補佐担当
老提督(大本営司令長官)秘書艦の五十鈴、艦娘部隊大本営代理人の側面を持つ
大本営の遠征隊、天龍等が率いる遠征隊、各鎮守府を巡回していたりもする
移籍組、本編中では引き籠り達として出て来ていた高練度艦達
特務艦、工作艦一、給糧艦ニ、補給艦ニ、この五隻が研修中 (名目上を含む)
登場人物
老提督
・研修中の叢雲からは視察官、一期で視察官として鎮守府に来ている時が初対面だったから
・一号の初期艦からはじーちゃん、お爺さん、艦娘部隊発足前から色々あった経緯から
・稀に最初の人、艦娘の言う妖精さんを見る事が出来た最初の人
・現在監察官の一人として大本営の監察中、大本営を上部機関が統括下に置いている間の臨時司令長官
監察官
艦娘部隊上部機関より派遣された、退役軍人、国家代表、元上級官僚、という方々、大本営を監察中
老兵
・老提督に続き妖精さんを見る事が出来た二人目の人、退役軍人
・老提督と同様に艦娘部隊上部機関に席を用意されてる艦娘部隊の重鎮の一人
・監察官の一人として大本営を監察中の筈
・現在大変な厄介事を抱え込み難儀中でもある
移動指揮所の自衛隊
佐伯司令官の要請で舞台となっている鎮守府に駐留、自衛隊内部で扱いが割れて紛糾中、現場の自衛官は艦娘部隊に協力姿勢を示している
鎮守府駐在の憲兵隊
・現在隊長は何処かに出張中
・五つの鎮守府には憲兵隊が配置されている
・憲兵隊は大本営改称と同時期に創設された部局
・陸自内に憲兵総監部が設けられ指揮系統が分けられている
佐伯司令官、増設された五箇所の鎮守府の一つに着任した司令官、舞台となっている鎮守府の司令官