執務室での話は一旦お開きになった、というのも初期艦が言っていたように漣が帰ってこないと話が進められない
大本営の遠征隊は暫く待機、丁度良い機会なので給糧艦が運営している炊き出し食堂へ行くそうだ
事務艦は朝方資材関連の伝達があると言って出たきり未だに戻って来ない
それで今執務室に居るのが私と初期艦、何故か初期艦が事務艦が戻るまで書類整理をやると言い出したからだ
こちらとしてもコレを一人で相手するのは如何かと思っていた所だし、何よりこの初期艦がなにか言いたそうにしているので、手伝いを頼んだ
「……あの、司令官?」
「なんだ?」
書類整理を進めながら聞く
「いつもこんな感じで執務をしているの?」
「そうだが、なにか変か?」
答えつつも手は止めない
「多過ぎない、書類」
「これでも事務艦がそれなりに整理していってる、随分助かってるんだ」
「……」
なんだ?急に大人しくなったような感じがした、チラ見だが初期艦を見る
如何も書類整理はあまり得意では無い様子、事務艦と比べられる域に達していないのはわかってる、それでもコレを一人で相手するよりは余程マシというものだ
「……このくらい何とでもしないと、司令官の役に立てない」
多分独り言だろう台詞が聞こえた、もしかして、この初期艦は事務艦と作業量を競う気か、アレは専門職だから、初期艦でもあの域は無理なんだが
艦娘の専門職というのは実に恐ろしいレベルで仕事を熟す、その実例を事務艦で見ているから大和が専門職と聞いて警戒したんだが、如何やら警戒し過ぎたらしい事が後になってわかった
艦娘の専門職といっても個体差というか其々なんだと認識を改めた事例だ
なんにしても切りの良い所までは進めてしまおう、溜めてもいい事ないしな
「しれーかーん!なんですかアレは!!工作艦って凄過ぎませんか!!!」
いきなり執務室の扉が開いたと思ったらコレだよ、ウチの駆逐艦だけでも元気が良過ぎるのに初期艦までこうなったか、良いんだか如何なんだか
「漣、執務室に入る時はノックぐらいして、驚くでしょ?!」
あーあ、初期艦が慣れない事務作業のストレスに祟られてる、仕方ないね
「あれ、叢雲ちゃん?なんで事務作業なんてしてるの?」
「良いでしょ、別に」
漣の突っ込みにそっぽを向いて応える初期艦
「そんな事より、司令官、工作艦の協力で検証が済んでしまいましたよ、これで諸々一気進行出来ます、さあ、始まりの鐘を鳴らしましょう!!」
えーと、なんの話だ、随分と盛り上がってるが、私には何のことやらさっぱりだ
「あれ?司令官?何故にそんなにテンション低いんです?」
「私が低いのでは無い、で、何?」
兎も角話を聞かないとさっぱりわからん
「はい!報告します、漣は工作艦の協力の元、高速修復材と高速建造材の検証を完了しました、序でに兵装開発やら装備改修に使える開発資材と改修資材も出来ました、これで艦娘の練度に頼り切らない運用も視野に入ります、使い道が増えたんですよ、司令官の仕事ですよ、艦娘をどう運用するのか知恵を絞れるんですよ」
ん?それって喜ぶ事なのかな?司令官的には仕事が増えただけじゃないかな?
「詳しくはやまちゃんに説明しておきました、後でじっくり聞いてくださいね!」
えー、そんなん聞いてるヒマないんだが
「工作艦が作った例のヤツ、実用性はどうだった?」
もう無断で検証しやがった事は置いておこう、突っ込み疲れた
「完璧です、明石は数分と言ってましたけど、秒でしたよ、秒!これで工廠を阿保みたいに並べなくて済みます、早速大本営でも実用に移りますよ」
「検証の被験者は?」
初期艦から突っ込みが入ったか
「移籍組の三人、工作艦の手伝い要員だって言ってたから、検証させてもらった、丁度修復待ちだって言うからさ、叢雲の許可をもらってね」
ん?叢雲の許可?そうか、あいつこの鎮守府の初期艦のままだ、それが許可したのなら司令官としては文句が付け難い、考えやがったな
「そんな訳で司令官、サッサと事を進めましょう」
「まあ、落ち着け、検証したと言ったな?」
このまま漣の勢いに押される訳にも行かないし、チョット時間を稼ぐとしよう
「言いましたよ?」
「報告書は?先ずはそれを見て考えよう」
「……以外と慎重なんですね、叢雲の話から結構勢いの人だって思ったんですけど」
何その批評は、というかあいつは私を何だと思ってるんだ?
漣は何処に持っていたのか、報告書を出してきた
「初期艦、コレに目を通して概略の説明を頼む」
そう言ったら、初期艦が目を丸くしていた
「わたし?!漣の報告書なんて読んでもわからないわよ!」
なんだそれは、威張れる事じゃないだろう
そんな初期艦を見た漣が何処から見ても意地のワルイ笑みを浮かべた、のが見えた
「おやおや~、司令官のサポートを断るんですか~、そんなんじゃ初期艦研修が終わらないぞ~~」
語尾を伸ばすな、しかしこれで時間を稼げたな、この隙に天龍達を執務室に呼ぶとしよう
初期艦は漣に絡まれつつも報告書に目を通してる、内容が理解出来るかは別の話だが
天龍達を呼んだからある程度の人数は予定していた、しかしこんな大人数を引き連れてくるとは思わなかった
なので、執務室から場所を移す事を提案したら何故か食堂が選出されてしまった
この場合の食堂は元からある業者運営の食堂だ、ここだと自衛官達にも聞かれるんだが、なにか隠す事がありましたか、と問われて思い直した
そんな訳で食堂の一角を占め、協議を再開した
参加艦娘、大本営所属艦から五十鈴秘書艦、研修中の初期艦、遠征隊五、工廠から特務艦三と手伝いの移籍組三、鎮守府から六
総計十九、そこに私、多過ぎだろ、少し減らそうかな
「司令官、この程度の参加数で多いとか言っていたらこの先持たないわよ、訓練だと思って仕切って見なさい、半数以上が貴方の指揮下の艦娘なんだから」
私の目論見を見透かした様に五十鈴秘書艦からクギが飛んで来た
そんな事云われてもですね、名実共に指揮下な艦娘は六名だけなんですが、そこは考慮してもらわないと、厳しいんじゃないかな
取り敢えずウチの主要艦娘が揃い過ぎだから、色々確認が要る
「長門、遠征隊の組み替えは?どの程度間引いたんだ?」
「心配は要らない、事務艦と共にスケジュールを組み直し既に実行中だ、全艦隊が入れ替わるのは明日になってしまうが、提督の予定している状況を作れる、詳細は後で事務艦にきいてくれ」
事務艦は帰って来ないと思ったらそっちに捕まってたのか、アレも忙しい身の上だな
「ウチの初期艦はどうしている?」
あいつも聞き込んで来ると言った切り帰って来ない、事務艦は時間が限られていると言っていたが、大丈夫なのだろうか
「凄い勢いで話を仕入れてる、なんでも時間がないとか、言ってた、初春の妖精さんを持ち出しているのは見かけたが、今何処にいるのかは、知らない」
答えて来たのはウチの駆逐艦だ、恐らく初春に押し出されてこの協議に来たと思われる
五十鈴を連れ出したのに初春がこの場に来ない辺りで、色々と察してしまう
「そうそう、叢雲から人化処置を依頼されました、実施の許可をください、叢雲はこの鎮守府の所属なので」
漣からだ、あいつ本当に言ったのか、言うと分かっていた事でも驚きはある
「五十鈴秘書艦、今漣が言った件で協力を頼みたいんだが、宜しいか」
「……本当に実施するのね、分かった、人化後も司令官の側に、この鎮守府に残れる様に協力する、ただ、どういう形での協力になるか、そこまではこの場で確約出来ないけど司令官の期待には応えさせてもらう」
「へぇ、初期艦を人にして迄側に置きたいんだ、変わった趣味の人?」
「北上、止しなさいよ、アレを見たでしょう、巻き添えなんて御免だからね」
「大艇ちゃんが帰って来ました!!ありがとかもー!!!」
なんだこいつらは、工廠の手伝い三名が好き勝手言い出した、が放っておこう、触ると長そうだし
「そうだ、提督、秋津洲の兵装、二式大艇は凄いぞ、鎮守府周辺海域の哨戒を任せられる程だ、日中に限られるが、哨戒部隊の負担をかなり軽減出来る筈だ、急かす様で悪いが、移籍の手続きはいつになるのか?」
長門が触りやがった、長引かない事を願おう
「修復完了と同時にこの鎮守府の所属になる手筈だが、工作艦?書類作成が間に合っていないのか?」
「鎮守府配置の初期艦権限で実施されたんですよ?書類作成は初期艦の仕事では?」
との工作艦の弁
「あれ、叢雲はウチの工廠は工作艦に任されているって言ってたけど?」
との漣の弁
「明石さんがそういう希望を司令官に言っただけだと聞きましたが」
「それを認めたから移籍組から手伝いの艦娘を配置したんじゃなかった?」
との補給艦達の弁
「五十鈴秘書艦?移籍組の三名に説明していないのか?」
説明したと言ってた筈だが
「詳しい説明をしたのは夕張だけね、あの時引率に二人借りたでしょ?」
なんでもない様に軽く言って来るんだが、どうしてくれよう
まさか、もしかして、だけど、ウチの駆逐艦が二人も来てるのは、その引率をしたから、なんて事は、ないよね?
「所属確認の書類は大本営に送付しました、現状は確認待ちです」
嫌な予感に冷や汗をかいていたら、夕張が言って来た、どうやら手続きはやってくれている様だ
「それが済めば秋津洲には哨戒部隊と兼務してもらいたい、良いか、提督」
「任せる、運用は確実にな」
「分かった、攻略隊と哨戒、即応部隊も待機として良いか」
「所属確認が先だ、遠征隊の入れ替えが終わる頃合いを見て調整を」
「ほう、皆に話をするタイミングとしては分かるが、短いな」
「なら、調整を上手くやってくれ」
「なんとかしよう」
そう長門が答えた、取り敢えずウチの方はこれで何とかなるだろう
「では、本題だ、初期艦、突然で悪いが、今実施中の外地研修が終わったらウチに着任してもらう、初期艦研修については打ち切るか、初期艦着任後に残りを履修するか、大本営で教導艦とよく話して欲しい」
「!!?えっ、そんな事出来るの?」
初期艦が予想外に驚いている
「やってもらう、ウチの叢雲もこの鎮守府に来る事になるから、共同で当たってもらう事になるだろう」
「あー、そう言う事、なら教導艦としては言う事ないぜ、司令官の良いように」
天龍が答えて来た、教導艦ってこの天龍だけなのか、大本営に所属している三隻の天龍が全員教導艦と言う訳では無いのか
「何を他人事のように言ってるんだ、お前も、大本営には天龍は三人いるんだろ、一人来てもらうぞ、龍田と共同で遠征隊を率いてもらう、資材関係を任せたい、ここまでは良いかな五十鈴秘書艦」
大本営で元の仕事に戻るよりこっちに来て、資材配分を任せた方が私の仕事が楽になる
「良いわよ、そのくらいなら予測の内だし」
あっさり認める五十鈴秘書艦
「天龍は大増設計画に関わる資材供出の具体案を、大本営の鎮守府増設との調整をしつつ速やかに作成してくれ」
「ん?大増設自体は大本営でやるのか?」
あれっといった感じで天龍に聞かれた、そう聞いたが、違ったっけ?
「天龍達がやれると言っていると聞いたが、違うのか?」
「ああ、アレね、でもそうなると大本営の遠征隊が回らないぜ、そっちの手当ては?」
大本営の事情まで私に持ち込まれてもどうしようもないんだが
「知らん、大本営でなんとかしてもらうしかない」
ここはキッパリと答えた、変に含みを持たせて良い事案では無い、断られたら別の手を考えないといけないが
「マジかよ」
嫌そうな顔をしつつも天龍は私の方針を何とかする方向で考えてくれる様だ
「漣、複製技術の供与と実用化にどのくらいかかる」
「大本営から三組の漣も呼んでもらえれば、近日中に可能です」
「五十鈴秘書艦、呼んでくれるか?」
「分かった」
「初期艦、漣の方が完了したら大増設計画の進捗に合わせて初期艦及び妖精さんの分配を調整、出来ればスケジュールを作成してくれ」
「やってみる」
やってもらう、私は妖精さんと会話は出来ても細かい意図までは判別が難しい、そこの所は初期艦に一日の長というかそういった類いのモノがある、餅は餅屋ってヤツだな
「初期艦や妖精さんの配置は一号の技術供与でこちらでも出来る様になるが、司令官の配属は大本営で実施してもらいたい、今に至るも着任予定の司令官の情報はこちらには一切ないのだから、司令官の人事権は大本営で持つのだろう」
そう予測しているが、予測なんだから確認しないといけない
「そうよ、司令官には艦娘に対しての権限しか無いんだから、そこは大本営で持つ」
五十鈴秘書艦の発言から推察すると、司令長官にはそういった人事権まで付いて来そうだ、そんなのに持ち上げられる前に実施に漕ぎ着けて大本営持ちのままにして置きたい
「後、何か不足している部分は?気になる部分があれば言ってくれ」
「前に移籍組から提案のあった遠征隊を空母種の艦娘が扱う飛行隊で支援するというのは採用するの?」
早速五十鈴から質問だ
「誰か空母艦娘の運用に詳しくアレを指揮統率出来る適任者が居れば、採用したいが、私では無理がある、空母種の艦娘の運用は私にはわからない」
何と言ってもこの鎮守府に空母種の艦娘は着任していない、水上機と艦載機って同じ扱いで良いんだろうか
「ふーん、適任者ならここに居る、私が運用の指揮を執る、良いわね」
はい?この秘書艦は何を言い出すのかな、老提督の秘書艦をどうするつもりだ
もしかして、姉妹艦がこの鎮守府に来るから、それでか?それだったらどうしよう
「変に邪推しないで、仕事は仕事、キッチリ熟すわ」
おう、顔に出てしまった様だ、五十鈴から突っ込みが入った
「そうなると、大本営との調整は誰がやってくれるんだ?」
「大和がいるでしょ、秘書艦なのよ?この鎮守府に配属されている艦娘で貴方の秘書艦、使い熟すのも貴方の仕事」
マジですか、それはもしかしたら一番の難題ではなかろうか
「司令官は何をするのかな~、艦娘にお仕事割り振りすぎてやる事がなくなりそうね~」
龍田の奴絶対に分かって言ってる、揶揄われてんのか?
「移籍組の修復完遂と最終的な所属の調整、大増設計画で消費する資材を優先とする為に修復、再艤装だっけ?兎に角、双方で消費する資材と集積される資材量から鑑みて修復作業に調整が入る事になるだろう、この位置に艦娘は配置出来ない」
「あらあら、そんな良い所に立とうだなんて、司令官は変わった趣味なのかしらねぇ」
なんか龍田の突っ込みが厳しいんだけど、不機嫌って訳でもなさそうだし、なんだろう
「龍田、そのくらいにしておけ、司令官が困ってるし、伝わっていないぞ」
長門が言って来た、伝わってないとは?
兎にも角にも、御老体の無茶振りに応え、艦娘部隊の残留を確実なモノにするとしよう
数日の間は空いたが、鎮守府大増設計画は一気に動き出した
登場艦娘
初期艦研修中の叢雲、現在外地研修として特務艦隊を引率中、教導艦は天龍に変更されている
単に初期艦との表記であればこの叢雲を指す、筈
一号の初期艦、吹雪、漣、電、五月雨 (叢雲は鎮守府にて聞き込み中)、遠征隊として鎮守府に来ている
一組の初期艦、漣、電 (吹雪は解体、叢雲、五月雨は改修素材で三名欠員)、佐伯司令官の補佐担当
二組の初期艦、吹雪、叢雲、漣、電、五月雨 、老提督の補佐担当
三組の初期艦、吹雪、叢雲、漣、電、五月雨 、老提督の補佐、遠征隊のサポート担当
秘書艦の大和、秘書艦に任命されているが鎮守府に転属となり秘書艦は名目のみとなっている
老提督(大本営司令長官)秘書艦の五十鈴、鎮守府滞在中、艦娘部隊大本営代理人の側面を持つ
大本営の遠征隊、天龍等が率いる遠征隊、各鎮守府を巡回していたりもする
移籍組、本編中では引き籠り達として出て来ていた高練度艦達
特務艦、工作艦一、給糧艦ニ、補給艦ニ、この五隻は鎮守府へ着任手続き中
工廠の手伝いの移籍組、北上、夕張、秋津洲、明石の補佐役として他の高練度艦より先に着任手続き中
五十鈴の姉妹艦達
・大本営で未帰還者として記録されているあの海戦の生還艦娘
・海戦からそれなりに経つが戦没扱いに出来ない事情がある、らしい
・現在五十鈴の主導、天龍達の協力により何処かに隠匿中
・大本営には同型同名艦が所属している
・鎮守府へ着任手続き中
登場人物
老提督
・研修中の叢雲からは視察官、一期で視察官として鎮守府に来ている時が初対面だったから
・一号の初期艦からはじーちゃん、お爺さん、艦娘部隊発足前から色々あった経緯から
・稀に最初の人、艦娘の言う妖精さんを見る事が出来た最初の人
・現在監察官の一人として大本営の監察中、大本営を上部機関が統括下に置いている間の臨時司令長官
・佐伯司令官に在るだけ提供すると言った為に多大な労苦を負う事になっている模様
監察官
艦娘部隊上部機関より派遣された、退役軍人、国家代表、元上級官僚、という方々、大本営を監察中
老兵
・老提督に続き妖精さんを見る事が出来た二人目の人、退役軍人
・老提督と同様に艦娘部隊上部機関に席を用意されてる艦娘部隊の重鎮の一人
・監察官の一人として大本営を監察中の筈
・老提督の労苦を見かねて手を貸している
移動指揮所の自衛隊
・佐伯司令官の要請で舞台となっている鎮守府に駐留
・自衛隊内部での扱いがこれまでと別の意味で割れて指揮権上位の方では紛糾中
・現場の自衛官は艦娘部隊に協力姿勢を示している
・艦娘部隊の大規模計画遂行を注視、色々思惑がある様子
佐伯司令官、増設された五箇所の鎮守府の一つに着任した司令官、舞台となっている鎮守府の司令官