初期の艦これ   作:弱箔

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御注意

・大幅に書き方が変わっています
・苦行用です
・長いです
・方言擬き注意

ご承知頂きたく存じます



79 言いたい事がある様だ

 

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

大本営所属艦:妙高

 

 

司令部要員の一人、妙高が執務室に来た、なにやら言いたい事がある様だ、ヤケに真剣な面持ちだ

 

「司令官、この度の不手際、大変申し訳ありません」

 

「……いきなり、なに?」

 

何を言い出すのかと警戒していたら、頭を下げ始め、こちらとしては困惑している

 

「足柄から聞きました、五十鈴に情報伝達が為されず、不要かつ有害な行動が、実行寸前まで成されてしまった、と、申し訳ありません」

 

「……それ、終わった話、蒸し返したいワケでは無いのだろう?」

 

ソレですか、こちらとしてはあの時の話で終わっている、続きがあるにしても大本営所属艦達でケリを着ける話だ

 

「しかし……」

 

納得し辛い、自己解決ではなく、司令官からの解決を示されないと困る、そんな感じの妙高

 

「司令部構築は五十鈴が強行した、その司令部要員によって第一報が私に届いた、司令部を構築した目的は果たしていると、判断してる

後の話は、足柄から聞いているだろう、どうしても、と云うのなら一連の顛末を纏めてレポートでも出しとけ、提出先は私じゃ無いぞ、事務艦だ」

 

「……それは、そういうコト、ですね、わかりました」

 

どう解釈したのかはこの際問題ではない、妙高の中であの話のケリが着き、今後に影響させない様に納得させる事が必要だ

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

鎮守府所属艦:三組の初期艦

 

 

五月雨の提案に基づき工廠に来た初期艦達

 

「んー?なんだろう?」

 

工廠に来るなり叢雲が周囲を気にし始めた

 

「どした?ムラムラ?」

 

工廠に来るなり見えない何かを見つけようとしている様な叢雲に漣が聞いている

 

「……なんか、この工廠、変な感じ、しない?」

 

「特には、どんな感じです?」

 

周囲を見回している叢雲に五月雨も質問する

 

「……なんていうか、入渠してないのに、入渠してる様な、感じ?」

 

「なにそれ?」

 

「何処か損傷しているのですか?」

 

叢雲の回答に吹雪と電も不思議そうにしている

 

「損傷も無いのに、入渠してる様な感じが、するの、何かを誤認?錯覚?してるのかな?」

 

叢雲自身事態を説明出来ずにいる様だ

 

 

 

鎮守府-工廠(第三工廠)

鎮守府所属艦:大和

大本営所属艦:愛宕

 

 

補給隊が出発して行き、一時の静寂を迎えている工廠

 

「司令官への報告は、どうしましょう?」

 

中間報告のままという訳にはいかない、かといって結論が出たわけでもない

 

「時間制限を過ぎてしまいました、最終報告無しでも問題無い、とは思いますが、形式だけでも報告書は提出した方が、後腐れは無いですね」

 

大和は時間切れを理由に、書式を整えて終わりとするらしい

 

「……後腐れ……」

 

事務仕事は不慣れな愛宕、大和は大本営所属時にそれらを散々こなして来ている

言いたい事が無いではないが、ソレを言っても結論が得られる目処も立たない事から大和に反論も出来なかった

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

 

 

各方面との調整をしていた事務艦が執務室に戻って来た

 

「筑摩よりメッセージです、筑摩艦隊と補給隊は加古と夕張を残留させ、包囲網突破に向け、行動を開始する、以上です」

 

「なんだ?補給隊を引き連れたままで包囲網突破?そこまで、緩いのか?あの包囲網は」

 

想定を修正する必要があるのか、ないのか、判断に迷った

 

「一方的なメッセージで伝えて来ているので、そこまで緩くは無いかと思われます、当初予測よりは、緩いと、考えられるかも知れません、それと旗艦に指名した夕張が残留した様ですが」

 

「長月達が皐月と合流したんだ、そうなる、其処に旗艦権限で割り込まず、艦隊の行動目的を優先させた事を、評価しよう」

 

事務艦の意見を入れて修正は無しにして、指摘して来た案件に答えるに留めた

 

 

 

鎮守府-近海(分艦隊と合流、中央突破中)

鎮守府所属艦:筑摩/睦月型五(補給隊)/時雨/皐月

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_北上/木曾/神通

~神通/時雨/皐月で戦線構築、筑摩/補給隊が北上/木曾に補給中~

 

 

「あの司令官は何か言って来たかー」

 

補給作業中の北上が周辺対応中の筑摩にいつもの調子で聞いている

 

「メッセージに一々反応はありませんよ、その為のメッセージなのですから」

 

ソレを聞いていた補給隊の駆逐艦から感想が出て来た

 

「司令官なら、多分呆れてるだろうね」

 

「非武装の補給隊が包囲網の中央突破に随伴だからね、下手すると後で怒られる、かな?」

 

「ここから反転して鎮守府に戻るより、北上達と包囲網を突破した方が確実だって、ちゃんと話せば、怒られないと思う」

 

「……もう、来た道が、埋め戻された、からね」

 

「そうそう、これは仕方なく、そうせざるを得なかった、そういう随伴だ、怒られる訳が無い」

 

皐月が補給隊の心配を一蹴していた

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

大本営所属艦:妙高

 

 

妙高が報告の為に執務室に来ている

 

「司令官、工廠防衛に就いている空母達が、補給隊の航路が埋め戻されたと、言っています、再度の爆撃により、航路を開く必要があるのでは?」

 

情報伝達に積極的な姿勢を見せるのは良いが、積極的過ぎないかと心配もしてしまう

 

「……事務艦、説明を、空母達にも伝える様に」

 

「はい、わかりました」

 

兎も角、司令部要員には好きに動いてもらう他ない、司令部要員にまで一々指示を出したのでは司令部を立ち上げた意味が無い

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府所属艦:鳳翔/祥鳳/隼鷹

大本営所属艦:妙高

 

 

妙高からの話を聞き、ガッカリ気味の隼鷹

 

「再攻撃の必要無し、か」

 

「鳳翔さんの言う通り、でしたね」

 

「事務艦の説明では、筑摩艦隊旗艦の筑摩より、メッセージが届いているそうです、北上達と包囲網を突破する、と」

 

「……筑摩は補給隊に付いたのか、すると、コッチ側から支援砲撃してるのは、長門と加古?二隻だけ?」

 

「砲火力としては兎も角、夕張が加古を支援している様ですね」

 

妙高が隼鷹の話を補完している

 

「夕張?あいつ補給隊の旗艦じゃなかったか?」

 

「夕張が旗艦になったのは補給隊から皐月が抜けていた為だそうです、その皐月と合流したから、役割を終えたモノと判断したのでは無いか、と事務艦は推定していました」

 

「どっちにしても北上達の旗艦は筑摩だし、その旗艦判断があったんだろうさ、移籍組からの新参軽巡夕張と第一艦隊に配属されてる重巡筑摩、まあ、なる様になったって所だな」

 

納得している様子を見せる隼鷹

 

「秋津洲さんは、新しい報告を何かしていませんか?彼女の二式大艇が戦況を一番把握していると思うのですが」

 

鳳翔からの質問だ

 

「そっちはなにも、そもそも当の秋津洲が見つからない、どこに行ってしまったのか」

 

「何処って、鎮守府のどっかにいるだろうよ、見つからないって、探してるのか?」

 

少し驚いている鳳翔に代わって隼鷹が応じている

 

「報告する様な事象があるのなら、伝達しようと、思いまして」

 

「……ナルホド、そりゃ見つからないわ」

 

「?どう言う事ですか?」

 

隼鷹の言い分が分からない妙高

 

「哨戒任務なんて九分九厘何にも無いんだ、其処になにか見つかったか?なんて頻繁に来られたら、私でも隠れ場所を探すね」

「……」

 

「司令官はそれを知っているのでしょう、秋津洲さんに報告させて、いますから」

「……」

 

隼鷹の言い分に同意している鳳翔、先程の質問も新しい報告の有無であって秋津洲の所在は聞いていない

 

「もし、秋津洲をみつけたら、工廠に、私達の処に来る様に言ってください、一人で哨戒任務なんて、退屈でしょうから」

 

祥鳳は妙高に秋津洲を探す口実を提案していた

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府所属艦:鳳翔/祥鳳/隼鷹

 

 

情報伝達を終えた妙高が工廠を後にしていた

 

「妙高のヤツ、どうしたんだ?なんか思い詰めてなかったか?」

 

「……先の五十鈴さんの件を気にされているのでしょう、それに秋津洲さんへの対応も、気が急がなければ、良いのですが」

 

「……那智の話か?工廠組に大分凹まされた見たいだしな」

 

工廠に陣取って警戒態勢を取っている軽空母達、那智と明石のやり取りは聞かされなくても知っている

 

「工廠の運営なんて、移籍組、最初の鎮守府所属艦に分かる訳ないのに、無理に仕切ろうとして明石に、言外だけど明から様に、邪魔扱いされて、殆ど工廠への出入り禁止を言い渡されてた、自業自得と言えば、そうかも知れないけど、気合い入り過ぎでしたね、アレは」

 

「世の中気合いだけじゃどうにもならないからねぇ、那智はなんだって工廠組を仕切ろうとしたんだ?確かスケジュール管理だろ、担当として割り振られたのは」

 

「それで工廠組を仕切ろうと考えてしまう辺りからして、工廠の運営が分かってないんですよ、工廠なんて利用した事自体が殆ど無い訳ですし」

 

「……利用する前に、あの海戦だったからな」

 

祥鳳の主張に隼鷹が嫌な事を思い出していた

 

 

 

外洋-包囲網の外側

鎮守府所属艦:龍田艦隊_龍田/初春/子日/若葉/初霜

鎮守府所属艦:長良/名取

鎮守府所属艦:叢雲(初期艦)

 

 

「んー、何にも見つからないし、何にも見つけてもらえない、どうしましょうか?」

 

龍田は長良の再突入案を拒否したものの、事態は動きそうな気配がない

 

「なんにも喰いついて来ないって事は、獲物のお気に召さなかったんだね、良かったね、叢雲はエサじゃないって獲物の方も分かってるんだよ」

 

「……それ、褒めてるの?貶してるの?」

 

「励ましてるんですよ、子日の励ましは、慣れが必要なんです」

 

「……」

 

初霜の解説にどう返して良いか分からない叢雲(初期艦)

 

「此処で無為に過ごしてもしょうがない、包囲網に突入して風穴を開けない?少なくとも鎮守府と直接話せる様にはなる、二式大艇のメッセージを待ってばかりもいられないでしょう?」

 

再提案して来る長良

 

「それは、そうなんだけど、司令官の行動指示は無視出来ない、私達が包囲網に再突入するプランは鎮守府には無い、却って混乱させてしまうかも知れない」

 

再突入案は出来れば避けたい龍田

 

「鎮守府所属艦はギリギリの所で、防衛線を死守してる、混乱要因に成る可能性があるくらいなら、避ける方が良いだろう」

 

若葉が龍田の考えに賛成を示す

 

「それで、その防衛線は、何時迄、持つの?」

 

再突入案をどうにかして実行したい長良、暗に防衛線が長くは持たない事を示唆している

 

「長門が力尽きるか、鎮守府の備蓄資材が枯渇するか、何方かの条件が満たされる迄だ」

 

そんな長良に若葉が誤魔化す事なくキッパリと言い切って見せた

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

 

 

各所の報告の序での様にサラッと聞かれたから、危うく流す所だった話を辛うじて留めた

 

「なに?」

 

「工廠から問い合わせです、誰の修復を許可したのか、と」

 

聞き直された事務艦が再度サラッと言う

 

「許可していない、修復が実行されているのか?」

 

「明石からの問い合わせでは、第二工廠の入渠場が使用されていると」

 

工廠組が知らない修復なら司令官が許可した場合を除き工廠に着いている妖精さんは実行しない、理屈ではそうなっているが何事にも例外やら誤りは付き物、人の理解する物理法則すら無視するナマモノは理屈通りに事を運ぶ場合もあるが、そうではない場合も多々ある

生時理屈を知っていた事務艦は事の重大さを測り間違えていた

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府所属艦:三組の初期艦五

 

 

工廠に張り付いていた三組の初期艦達、但し張り付いていたのは入渠場ではなかった

 

「入渠場?建造場じゃなくて?」

 

「明石が見つけた、さっきの資材調査から帰って来たら入渠場が使用中になってたって、司令官に問い合わせたら、許可してないってさ」

 

「現場を押さえましょう」

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

大本営所属艦:一号の初期艦四

鎮守府所属艦:三組の初期艦五

鎮守府所属艦:明石

 

 

問題の入渠場には初期艦達と明石が集まっていた

 

「集まったねーこんなに居てもしょうがないんだけど」

 

「そう思うのなら、漣が行動で示したら?」

 

「どうしたの?ムラムラ、なんか機嫌がとっても悪い様だけど?」

 

「ブッキーの嬉しそうな顔を見たからよ」

 

「……あらま、とっても斜めなご機嫌だよ」

 

顔を合わせるなり一号の漣の軽口に突っ込みを入れる三組の叢雲、いつも通りの光景を柔かに見ながら一号の吹雪も軽口に参加していた

 

「明石は、この修復を知らないんですよね」

 

そんな中で三組の五月雨が明石に聞いている

 

「知らないから、司令官に問い合わせた、そうしたら許可してないと、じゃあ、コレは誰が?って話よ、夕張、北上は出撃中、秋津洲は哨戒任務中、私はさっきまで大和と愛宕に捕まってた

工廠組が設定されてからこの四名が設備使用許諾を持つ様になった、それ以外の艦娘が工廠の設備を使おうとすると、司令官の許可を取って来たのかって妖精さんの機嫌を物凄く損ねる様になってる、そんな雰囲気はなかったから、司令官の許可があった筈、なんだけどなぁ」

 

事態を説明出来ずに困っている明石

 

「ちょっと聞いてみようか、当の妖精さんに」

 

三組の漣から提案があった

 

「あっ、初期艦がいると、そういう手があるのか、覚えとこ」

 

それは気が付かなかったとばかりに感心している明石

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

大本営所属艦:一号の初期艦四

 

 

三組の漣の提案は一号の初期艦達に依って実行されていた

三組の初期艦達と明石は一号の初期艦達を見守っている

 

「おい、答えられないとは、どういう事だ、イテコマスゾワレ」

 

そんな中で妖精さんと話していた一号の漣が、聞き慣れない声色を発した

 

「漣、妖精さん相手に凄んでも意味無いです、妖精さんが初期艦の質問に答えない場合、考えられるのは、司令官の指示、妖精さんの都合、相応の立場の艦娘からの依頼、大体この辺りに集約出来ます

今回の場合は司令官の指示では無い、相応の立場の艦娘からの依頼というのも無いでしょう、殆ど出撃中ですし、残るのは、妖精さんの都合です、さて、その都合とは?」

 

一号の五月雨が一号の漣を宥めながら、状況を噛み砕いて説明している

 

「なんだろう?思いつかないけど」

 

一号の五月雨の説明に一号の吹雪が応じている

 

「ん?妖精さん?ソレ、なんですか?」

 

説明を聞きながら周囲の妖精さんを観察していた一号の電がチョット変わった、何かを持っている妖精さんを見つけた

声を掛けられた妖精さんはとても分かり易くダッシュ、少し離れた所に集団で初期艦達を観察している妖精さんに紛れようとしているのが見て取れた

 

「あっ逃げた!」

 

見守っていた三組の吹雪が思わずだろうが、声を上げた

 

「ちょっと待てーい、そこの妖精!!」

 

その声に真っ先に反応して行動に出たのは三組の漣だった

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

大本営所属艦:一号の初期艦四

鎮守府所属艦:三組の初期艦五

鎮守府所属艦:明石

鎮守府:叢雲(旧名)

 

 

無断修復の話を聞きつけて叢雲(旧名)も工廠に来た、そこで見た光景、そしてその状況が落ち着いてからの感想が次の通り

 

「……元気ね、あんた達」

 

「ハァ、ハァ、見物してた、だけの、叢雲に、云われたく、無い」

 

一号の漣が息を切らせながらも文句を言って来た

 

「しょうがないでしょう?人の身であの鬼ごっこに加われって?無茶が過ぎるわ」

 

「……初期艦九隻が妖精さんと工廠で鬼ごっこ、私は今、何を見ていたんだろうか?」

 

明石は見ていた光景に現実感が持てず、仕切りに頭を振り、目を擦っていた

 

「その持ってるソレは、なに?」

 

'……''……'

 

「此の期に及んで、ダンマリ?初期艦だとわかって、黙秘!?」

 

一号の漣が息を整えたばかりなのにまた声を荒げている

 

「……気を付けなさい、只の妖精じゃない、私に喰っ付いて来た、あの時の妖精みたいだから」

 

漣の手の中にいる妖精、それに覚えのある叢雲(旧名)は注意を促した

 

「……なんの、話?それは」

 

手の中にいる妖精と叢雲(旧名)を見比べる様にしている初期艦達

 

「長くて詰まらない話、いつか、死ぬ程暇が出来たら、話してあげる」

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

 

 

明石を経由して叢雲(旧名)から大凡の状況が説明された

但しこの説明は推定だ、丸呑みには出来ないが、状況の整合を図る助けにはなる

 

「……今更そんな状況が?アイツラの考えは分からんな」

 

「対処は、如何致しますか?」

 

「流石に事務艦からの通達ですませる訳には行かない、私が直接話をしてみるよ」

 

差し当たっての問題解決に行動しなければならなくなった

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:鳳翔/祥鳳/隼鷹

 

 

工廠に出向くと隼鷹が景気良く言って来た

 

「よう!司令官じゃねーか、こんな所に陣中見舞いかい?」

 

「残念だが、違う、突然で悪いが、空母三隻は直ちに艦載機を収容して欲しい」

 

「……どういう、事でしょう?」

 

鳳翔が説明を求めて来た

 

「先ずは、艦載機を収容して欲しい、その後、艤装を収納してもらう、説明はそれからする、事になる」

 

「……それは、命令、ですか?」

 

「そうだ、命令だ」

 

 

〜艦載機収容、艤装収納中〜

 

 

「……命令通り、収納したぜ、で、説明は?」

 

唐突な理由の分からない命令、これまでの状況と矛盾する命令、軽空母達は取り敢えずはそれに従った

しかし、不満を隠す様な事はしなかった

 

「工廠の防衛は?代わりの者が来ている様子も無いですが」

 

隼鷹に続き祥鳳も疑問を口にしている、間を置けばもう一人からも何か言ってくるのは確実だ、そこまで後手に回るワケには行かない

 

「緊急を要する為、代わりの手配はしていない、する余裕が無かった、先ず、今回の措置の原因は私のミスにある、空母艦娘等に何か要因がある訳ではない、そこは踏まえてもらいたい、済まなかった、この通り詫びる」

 

いきなり頭を下げる司令官に戸惑う軽空母達

 

「……いや、そうじゃなくてな、こっちは説明を聞きたいんだ、防衛任務からいきなり艤装を収納しろって、話が繋がらないにも程があるだろ」

 

戸惑いながらも隼鷹が話を繋いだ

 

「緊急を要する、とのお話でした、そのお話しを聞かせてください」

 

鳳翔は説明を求めて来た

 

 

〜説明中〜

 

 

「深海棲艦の妖精?」

 

「なんだってそんなのが居るんだよ、この鎮守府には?!」

 

「知らなかったんだ、ソレを知ったのも最近でね、知った時には時間が経ち過ぎていて最早選別も隔離も不可能な状況になっていた」

 

祥鳳と隼鷹から疑問が来た、それに応じている

 

「妖精さんの選別、いくら司令官であっても、それは無理というもの、初期艦でさえ無理だと考えられます、それで?深海棲艦の妖精が居る事と、私達への対応はどの様に繋がるのですか?」

 

鳳翔が一定の理解を示しつつ、質問を重ねて来た

 

「ソレが居たのが第二工廠、君等が修復を受けた入渠場があるのは?」

 

「……第二工廠です、あの修復に深海棲艦の妖精が関わっていた、と?」

 

考えながら、慎重に聞いて来る鳳翔

 

「関わっていた事自体は問題では無い、そこが問題なら、ウチの艦娘全てが問題だ、ウチの鎮守府には工廠が三つあり、第一工廠は元からある工廠でここは元々ウチに居る妖精さんの住処だ、第三工廠は大本営から移って来た妖精さんの住処になっている

第二工廠はと、言うとだな、第一と第三工廠からの出向妖精さんの仮住まいで他所の鎮守府から天龍達大本営の遠征隊が回収して来た妖精さんの住処になっていて、妖精さんの自治が甘いんだ、どうやらその甘さに付け込まれてしまった、らしい」

 

状況は推定部分が多く確定出来ていない、説明も歯切れの悪いモノになってしまった

 

「付け込まれた、結果として、入渠場が何者かに勝手に使われている、そういう事ですか?」

 

取り繕う余地が無さ過ぎて反論は諦めている

 

「面目無い、明石の報告では、私が指示した資材量調査の影響で工廠を留守にしている間に、入渠場を使われてしまったと言っている、現在明石に第二工廠を完全封鎖する様に依頼している、この実施には三組の初期艦等に当たってもらう事になる」

 

「明石の手を空けて、私達の解体、ですか?」

 

祥鳳が探る様に聞いて来る

 

「それはない、明石には、作業を初期艦等に引き継いだ後に、空母艦娘三隻の解析をしてもらう事になってる、修復時に、何処に何のトラップ紛いな仕掛けを仕込まれたか、或は、ただ修復を実行しただけなのか、現時点では判別出来ない、明石の解析結果を待つ事になる」

 

「……それで、艤装を収納させたんですか、仕込まれたかも知れないトラップの発動を回避する為に」

 

こちらも考えながら状況の理解を進めている様子の祥鳳

 

「基本的に艤装を展開しなければ艤装に仕込まれたトラップであっても発動しない筈だ、ここまで艤装を展開していて何等のトラップも発動していないのだから、トリガーとなる条件は展開以外のなにか、だろう」

 

「……艤装に仕込まれたトラップなら、そうかも知れません、艤装では無い箇所に仕掛けられていたら、どうなのですか?」

 

鳳翔が質問を重ねて来た

 

「それを、明石が解析する事になっている」

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

鎮守府:司令官

大本営所属艦:一号の初期艦四

鎮守府所属艦:三組の初期艦五

鎮守府所属艦:明石

鎮守府:叢雲(旧名)

 

 

軽空母達への説明を終え、問題の妖精を捕まえている初期艦達の元に向かった司令官

 

「どうしたもんかね」

 

「取り敢えず、あいつにあげたら?」

 

何かを話していた様だが、こちらを見つけるなり元凶を押し付ける提案が出された模様

 

「なに?厄災のタネでも拾った?」

 

その提案を避ける訳にも行かない訳で、だからといって黙って提案を飲むのも癪な訳で、結果として軽口を挟んで気を紛らわせた

 

「良いカンね、その通りよ」

 

「はい、司令官、あげます、大切にしてね」

 

提案を素直に実行する一号の漣、ご丁寧に初期艦達の手から妖精を回収して態々こちらに持って来た

 

「……漣?ノリが良過ぎない?」

 

「火事と喧嘩は江戸の華って、言いますし?多少はね?」

 

「用法を、間違ってない?」

 

一号の漣と叢雲(旧名)のやりとりに気持ちばかりのツッコミを入れてから渡された妖精達を見る

 

「お前達、か、久しぶりだな、直接顔を会わせるのは、楽しくやってたか?」

 

見た目には大人しくしている妖精達、見かけた状況から初期艦達にオシオキでもされたのかと思ってしまった

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

鎮守府:司令官

???:深海棲艦の妖精

 

 

そこから妖精達と話して見た所、大人しくしているのはオシオキされたからではなく、不本意な仕事をさせられて、その仕事が鎮守府に良くない事だと分かって落ち込んでいるからだと判明した

 

「と、言う事は、繋ぎが付いたのは最近なのか、それまでは音沙汰が無かったから楽しくやってたのに繋ぎが付いてしまって、楽しくやれなくなったと、楽しく無くても、命令は絶対、不履行は妖精の沽券に関わる重大事、やらないわけには、行かなかった、そういう事だな」

 

'妖精のチカラ''疑うモノ''居ない''ソレは'妖精が''絶対的に''履行する'

 

'不履行''繰り返す''妖精は放棄''される''我々は''不要となり''しなければならない'

 

「うーん、妖精の事情はわからんが、お前達に命令して来たのは、何処の誰なの?」

 

'何処の''誰でも''無い''妖精に命令出来る存在''ソレは限られる'

 

'お前もソレだ''存在の一つ''いくつかある''存在の一つだ'

 

「私が?なら、もしもだ、私が直接命令したなら、お前達は私の命令を履行するのか?」

 

'いくつかなら''そう出来る''沢山は''出来ない'

 

「それは、どうして?」

 

'お前は''存在の一つ''しかない''我々が''命令を''受けている''存在は''唯一の存在''定義が異なる'

 

「楽しくないのだろ、その唯一の存在とやらの命令を履行するのは、楽しくやれる方法は、無いのか?」

 

'………''……'

 

「あるのなら、取り敢えず言って見るのも手だぞ、まさかその唯一の存在とやらは方法を話す事まで禁止してるのか?」

 

'………''……'

 

質問を重ねて見たが、妖精達は困った様にお互いの顔を見合わせるばかりだった

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府:叢雲(旧名)

 

 

工廠にいても仕方ないから執務室に戻った

 

「うーん、どうしたもんかね」

 

問題は多いのに追加されてしまった

 

「……本気にしてるの?アレ」

 

執務室について来た叢雲(旧名)が妖精達の話を疑わしそうに聞いて来た

 

「楽しくやれてないって言ってるんだし、あの、言いたいのに言えないって、困った顔を見せられたらな、なんとかしてやれるのなら、なんとかしたい所ではある」

 

「……だからって、連れて、歩く事までしなくても、良いんじゃ無い?」

 

そう、漣から渡されそのまま司令官に着いている妖精達、別に離そうともしなかったが、妖精達から離れようとする様子も見られない

 

「興味あるし、何処の誰が、繋ぎを付けてどんな命令を出してるのか、おまえは、気にならないのか」

 

その何処の誰かは分からない相手、コレがあの包囲網を形成させている可能性がある、放置は出来ない

 

「気には、なる、けど、今はそれより優先しないと、いけない事が、あるんじゃ無いの?」

 

可能性は理解しても優先順位としては高くない、叢雲(旧名)はそう判断している様だ

 

 

 

鎮守府-執務室

大本営所属艦:高雄/愛宕

 

 

執務室に戻って来るなり叢雲(旧名)とよく分からない話をしている司令官

愛宕は工廠から戻って来た所で事情が分からず高雄に説明を求めた

 

「……何があったんですか?」

 

「提督が深海棲艦の妖精を第二工廠から引き上げて来た、捕まえたのは初期艦だって話だけど、提督が妖精と話して状況を確認してる、らしいの、私には聞こえないけど」

 

「深海棲艦の妖精って、なに?」

 

「文字通り、深海棲艦に着いている妖精、私達艦娘に妖精さんが着いている様に深海棲艦にも妖精が着いている、そうよ」

 

「……そうなの?」

 

「云われてみれば、思い当たる事も、ない訳ではない、今は提督の指示を待ちましょう」

 

「ねぇ、高雄?いつ司令官から提督に、呼び方、変えた?」

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

鎮守府:司令官

大本営所属艦:一号の初期艦四

鎮守府所属艦:三組の初期艦五

鎮守府所属艦:明石

 

 

捕まえていた妖精達を着けたまま執務室に戻って行った司令官

それはそれで考え所だが、もっと驚く光景を見た一号の初期艦達は事態を素直には飲み込めていなかった

 

「提督って、あんなに普通に妖精と会話出来るんだ、ちょっとびっくり、なんですけど」

 

「……漣もそう思いました?五月雨も実際に見たのは初めてですが、桜智司令官からは片言での会話だと、聞かされていましたから、あそこまで話せるとは、予想外でした」

 

「……あそこまで、話せなければ、初期艦が眠り姫となった鎮守府の運営は出来ないのでは?電は不自然とは感じませんでした」

 

「不自然とは思わなかったけどさ、あれだけ話せるのなら、要らないよね、初期艦」

 

この一号の漣の感想を聞いた三組の漣が口出しして来た

 

「なーにを言ってるのかな、先任達は、妖精さんは大挙して工廠に居るんだよ?司令官一人で全部と話す前提なの?あり得ないでしょ、そんな事、どんだけ司令官に話させる気なのさ、一人で一日中一年かけて話した所で、工廠の妖精さん全部と話せないでしょう?

ましてこの鎮守府には工廠が三つもあるんだよ?少しは司令官の身になってやれってヤツですよ」

 

「いや、別に全部と話す必要はないと思うよ、私だって配置された鎮守府でそこまでしてなかったし」

 

一号の漣は三組の漣の言い分が大袈裟だと言いた気だ

 

「……漣が聞き込んだ限りでは、第一工廠全部と第三工廠の半分の妖精さんは、司令官と話してました、それに三つの工廠の何処で聞いても妖精さんは司令官を司令官としてちゃんと判ってた、叢雲ちゃんも着任早々気合い入ってたみたいだね、聞き分けの良くない妖精さんとはオハナシしてたって、妖精さんが話してくれた」

 

三組の漣は自由行動中という立場を無為に過ごしていたのではない様子

 

「……着任早々って、えっ?!だって、まだ指折り数えられるくらいの日数……」

 

一号の漣が驚いて日数を数え出した

 

「気合い入ってたんですよ、叢雲ちゃんは、やまちゃんと違って空回りもしなかった、まったく、佐伯司令官も良い初期艦を得たモノですよ」

 

三組の漣の感想には、若干の羨みが入っていた

 

 

 

鎮守府-近海(分艦隊と合流、中央突破中)

鎮守府所属艦:筑摩/睦月型五(補給隊)/時雨/皐月

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_北上/木曾/神通

~神通/時雨/皐月で戦線構築、筑摩/補給隊が北上/木曾に補給中~

 

 

木曾の補給作業も終わりが見え、神通との交代後の行動を組み立てていく北上

 

「さてと、神通にも補給して貰わないとね、木曾っち、ツートップだ、補給隊の航路を確保しなきゃならない、二隻で航路を確保するには、並走して、航路を確保しないと、補給隊に単縦陣を強いる事になる」

 

「……軽巡に重雷装艦の火力と並べと?無茶が過ぎないか?」

 

北上の言い分は理解出来ても実行出来るかは別の話だ

 

「じゃあ、補給隊に単縦陣を強いるから横からの被弾を無視しろって、言ってきて」

 

アッサリと何事もなくいつもの調子で言ってくる北上

 

「……なんだよ、その二択は、神通に補給するんだ、単縦陣を強いたら補給出来ないだろ、二択に見せかけた引っ掛けはよせ、オレがそこまでアホだと思ってるのか?球磨型の最終艦だぞ?」

 

「それじゃあ、並んでもらうしか、無い、イイね?」

 

北上の顔はヤレと言っていた、その為にワザと反論を誘ったと悟ったが、後の祭りだ

 

「はぁ、オレの姉妹艦って、揃ってこうなのかな」

 

木曾は鎮守府での建造艦、この鎮守府に着任している軽巡は多くはない、球磨型もこれまでは木曾だけだった

長良達と一緒に鎮守府に来たという一番艦と二番艦がいる事は聞いている

これまでは如何でも良い、成るように成る、と考えて気にしていなかった木曾だが、移籍組、現在工廠組の北上と行動を共にしたら気にしないワケにもいかなくなった模様

 

 

 

鎮守府-近海(雷撃位置=支援砲撃位置~防衛線の中間)

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_加古

鎮守府所属艦:夕張

 

 

軽巡戦隊と補給隊の状況を観測中の加古

 

「木曾が、北上と並んで前に出た、やりたい事は予測が付くが、大丈夫なのかね」

 

「……座標を」

 

「結局、省けたのは通信の手間だけか」

 

夕張は兵装を装備していない、直接的な戦力とはならなかった

 

 

 

鎮守府-近海(分艦隊と合流、中央突破中)

鎮守府所属艦:筑摩/睦月型五(補給隊)/時雨/皐月

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_北上/木曾/神通

~北上/木曾で戦線構築、筑摩/補給隊が神通に補給中~

 

 

ツートップで対処しようとした北上だが、駆逐艦二隻がそのまま残って左右を固めてくれた

 

「なんだ、木曾っちは駆逐艦に懐かれてるんだ、ちゃんと軽巡してるんだねぇ、感心感心」

 

「うるさいよ、前見ろ前を!」

 

「お陰で、補給隊の両翼に駆逐艦とは言え護衛が付けられた、筑摩が殿を持ったし、あたしがちょっとだけ航路を振りつつ撃破していけば、後は木曾っちのフォローで航路を確保出来る、無理にツートップを維持しなくても済む、これなら、突破出来る、この訳の分からん分厚過ぎる包囲網をね!」

 

「じゃあ、サッサとやってくれ!こっちは見る所が多過ぎて、目が回りそうだ!!」

 

北上はフォローと簡単に言うが、駆逐艦は左右に展開していて両者にフォローが要る、結果として木曾は常に艦列の内部を全力で駆け回る事になった

 

艦列内を忙しなく動き回る木曾、その木曾にタイミング良く掛け合いを持ち込む北上

 

「あの二人、仲が良いよね」

 

そんな光景を見た補給隊の駆逐艦がポロッと感想らしいモノを零した

 

「そうですね、あの大群の中でも漫才するくらいには息がピッタリでした、流石は姉妹艦と、いう所ですね」

 

その感想に補給作業をしながらも応じる神通

 

「木曾は神通との訓練時間、あんなにあったのに、あそこまで息を合わせられてない、姉妹艦の相性ってヤツだよ、神通や木曾の技量の問題とはちょっと違うかな」

 

耳聡くソレを聞きつけた時雨が態々言いに来た

 

「……そう、思いたいですね」

 

そんな時雨を注意する事もなく、神通は補給作業を進めていた

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

 

 

工廠監視中の艦娘からの報告があった

 

「……第二工廠の入渠場が、開いたか」

 

「司令官の指示に従い、第二工廠は完全封鎖、所属艦娘には自室待機を指示しています」

 

「大本営所属の何人かは、いるんだろ、まったく、何が出てくるか分からんのに、困ったものだ」

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

大本営所属艦:一号の初期艦四

鎮守府所属艦:叢雲(三組)

 

 

完全封鎖などモノともしない初期艦達が工廠の外壁に取り付いて、入渠場周辺を視ている

 

「えーと、艦娘?にしては見た事ないね」

 

「艤装が、無い?そんな筈ないのですが」

 

「修復したんだもんね、入渠場内で収納したって事、なのかな」

 

「修復後に動作確認や様子を見るのに、通常は展開したままで、出てくるんですけど」

 

「……アレ、ツノ生えてない?角付きの艦娘なんていたっけ?」

 

一人だけ鎮守府所属艦にも関わらずこの場に居座っている叢雲(三組)

 

「……ムラムラ?鎮守府所属艦は第二工廠に近づかない様に指示されてるでしょ?良いの?」

 

「なにを今更、そっちは漣達が守ってるから、私はいいわ」

 

「……そういう問題なのです?」

 

「一号は四人、一つ席が空いてる、空きっぱなしにしとく手はないって事よ」

 

「そこは、叢雲ちゃんの席、になる予定なんだけど」

 

入渠場から出て来たナニモノか、それを視る初期艦達、非常事態というには長閑過ぎた

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

大本営所属艦:高雄/愛宕

 

 

「第三工廠警備中の阿武隈より報告、第二工廠に一号の初期艦四、三組の初期艦一、それとウチの駆逐艦が何人か、張り付いている、そうです」

 

「……ウチの駆逐艦もか、まったく、無用な好奇心は身を亡すって事を知らんのか、困った事だ」

 

「「「……」」」

 

「なに?その目は?三人揃って」

 

そんな目を向けられる謂れは無いと思う司令官だった

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

???:???

 

 

「……」

 

周囲を見回し状況を確認している様に見える、入渠場から出て来た艦娘の様に見える誰か

 

「折角、大人しく上陸したのに出迎えが無い、歓迎は兎も角、妖精も居ない工廠に放置なんて、ここの鎮守府司令官は、余程話の解る人、の様だな、会うのが愉しみになって来た」

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

 

 

不意に叢雲(旧名)が執務室に居ない事が気になった司令官

 

「……大和は今どこにいる?」

 

「呼び出しますか?」

 

「叢雲に、人化処置を受けた叢雲に付く様に、言ってくれ、最悪の事態を想定する必要が、ある、かも知れない」

 

相手の目的は推定はされるが、確定は出来ない、出来るだけの対策は取っておいた方が良いだろうと判断した

 

 

 

鎮守府-工廠(第三工廠)

鎮守府所属艦:大和

~近距離無線~

鎮守府-通信室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

 

 

「……叢雲さんに?どういう事でしょう、司令官の護衛なら兎も角、鎮守府運営にほぼ関わらない人化処置を受けた叢雲さんに付けとは?」

 

事務艦の予測通りに大和が素直に承諾しない

 

「包囲網を構築させている、深海棲艦本隊の目的は叢雲の、一号の初期艦の鹵獲だと、司令官は予測しています、艦娘の四人については鎮守府内で護衛の必要性は無いと言っていいですが、叢雲はそうではない、という事です」

 

「叢雲さんは人化処置を受け、人になっています、一号の初期艦の括りに入るのですか?そちらは新任の初期艦の叢雲さんでは、無いのですか?」

 

大和の重なる疑問にこれ以上の対処を諦めた事務艦

 

「……えっと、司令官と代わります」

 

そういって事務艦は役割を代わった

 

「大和、疑問はあるだろうが、今は指示に従ってもらいたい、叢雲に付いてからでもその質問は出来るだろう」

 

司令官は大和がここまで疑問を重ねるとは思ってなかった、どうやら事務艦の指摘する様に大和の観察が足りないらしい、私(司令官)には一言の反論もしないのに

 

「……わかりました、取り敢えず大和は叢雲さんに付きます」

 

つまり、これは相当に無理を強いているという事になる、困った事態だ

 

「頼む」

 

取り敢えずでも承諾した大和に一言かけてから通信を終えた

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

大本営所属艦:一号の初期艦四

鎮守府所属艦:叢雲(三組)

 

 

入渠場から出て来た艦娘の様な何者か、それを観察している初期艦達

その観察下で艦娘の様な何者かが、艤装と思われるモノを展開した

 

「!なに!!あの艤装は!すっごく大きいんだけど?!」

 

吹雪が驚きのあまり大人しく観察している事など忘れた様な声を上げた

 

「戦艦級!?でもあんな戦艦知らないのです」

 

電も驚きを露わにしている

 

「そんな事より、逃げるよ、あの大きさの主砲なら、発砲しただけでもこんな至近に居るだけで沈んじゃう!」

 

そんな中で漣が真っ先に逃げに出た

 

「!!」

 

慌ててそれに続く初期艦達

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

???:???

 

 

壁越しでも見えている様に初期艦達が逃げた方に視線を向けている艦娘の様な何者か

 

「ふーん、逃げ出したか、まあ、妥当な判断だ、しかし、電探を阻害しないとは、なんて片手落ちな対処だ、鎮守府司令官は話が解る様だが、艦娘はそうでもない様だ、付け入る隙が、大いにあるという事だな、さて、ここで待つか、向こうへ赴くか、折角大人しく上陸したのだから、これを有効に活用したい場面だな」

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

 

 

大和との通信の後司令官は執務室に戻っていたが、事務艦は各所との通信業務を行う為にその場に留まっていた

その事務艦が大慌てで執務室に飛び込んで来た

 

「近海監視中の初雪より緊急電です!鎮守府港、工廠至近に深海棲艦を視認、至急対処を求めています!」

 

「……至近に?長門の観測機が捉えなかったのに、か?」

 

至近に深海棲艦が出現したという報告に得体の知れない違和感を覚える司令官

 

「長門の観測機はほぼ包囲網側を観測しており、鎮守府側を見てはいないモノと推定されます、捉えなかった事に疑問は感じません」

 

事務艦の説明に一先ず違和感は脇に置き対応を指示する事にした

 

「鎮守府全域に警報発令、所属艦娘全艦に兵装の装備と使用を現時刻を以って許可する、同士討ちに注意する様に」

 

「鎮守府全域に警報を発令します」

 

司令官の指示は事務艦により速やかに実行された

 

 

 

鎮守府-工廠(第三工廠)

鎮守府所属艦:鳳翔/隼鷹/明石

 

 

「警報?何事ですか?」

 

工廠で検証待ちの鳳翔が周囲を見回している

 

「至近に深海棲艦を視認、兵装の使用許可まで出された、ちょっとヤバイ状況になって来たって所ですね」

 

解析自体は妖精さんが行うので終わるまでは待つしかない明石が状況を確認しながら二人に説明していた

 

「……私達の解析は、何時、終わりますか?」

 

鳳翔が重ねて聞いてくる

 

「今、祥鳳の解析を始めたばかりです、解析にどのくらいかかるかは、今の段階では何とも言えません」

 

「解析はこの第三工廠でしか、出来ないと、言っていましたね」

 

「そうですね、そもそも工廠は艦娘を運用する施設で研究する施設ではありませんから、そういう機能は第三工廠にしか付与されていないんですよ」

 

「……わかりました、司令官からは工廠の防衛をと、依頼された身です、履行して来ますね」

 

明石の話を聞いて行動に出る事を決めた鳳翔

 

「ちょっと!?鳳翔さん?」

 

それを聞き驚く隼鷹

 

「隼鷹さんは、解析を待ってください、司令官の指示に従って行動してください」

 

「……鳳翔さんは?」

 

聞かなくても分かってはいるが、聞かずにはいられなかった

 

「ここで待っても、搭載機数の少ない私は今後も留守を任される事になるでしょう、逆に見ればここで解体処理になった所で、鎮守府の戦力としては、影響が無い、今、この鎮守府は主力艦の多くを出撃させてしまっている、留守を任された艦娘の役目、果たして来ますね」

 

鳳翔は艤装を展開した、鎮守府所属艦としては確実に命令不履行な行為と成る

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

大本営所属艦:高雄/愛宕

 

 

警報により高雄と愛宕も執務室に戻って来ていた、何処で調達したのか知らないが、通信機器と双眼鏡を執務室に持ち込んで来た

 

「司令官!工廠から艦載機が出現!至近に湧き出し中の深海棲艦を撃破しています!」

 

鎮守府内の兵装使用許可が出ている為、事務艦は艤装を展開、装備を遠慮なく使っている

尤も事務艦に扱えるのは通信機を始めとする電波使用の機器類に限られ、砲火力を発揮する兵装は装備していない

 

「……鳳翔か、もしかして、根に持たれた、かな?」

 

「……何故鳳翔だと、思われるのですか?」

 

事務艦の報告に基づき港の方向に双眼鏡を向けていた高雄は司令官の呟きを聞き逃さなかった

 

 

 

鎮守府-近海(支援砲撃位置)

鎮守府所属艦:長門

 

 

鎮守府の方向から聞こえて来た爆音、見れば鎮守府から爆炎が上がった様に見て取れた

 

「なんだと!!鎮守府に攻撃?!何処から湧いて出て来たんだ!無限湧きとはよく言ったモノだ!!!」

 

直ぐに状況を理解した長門は支援砲撃を中断、鎮守府に向かった

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

 

 

長門からの通信を捉えた事務艦、聞きながら司令官に伝達している

 

「長門より緊急電です!直ちに鎮守府支援に向かう、と言って来てます!」

 

「……長門には、こちらに構うな、防衛線を維持し、正面の深海棲艦から眼を離すな、とメッセージを送れ」

 

「メッセージ、ですか?」

 

通信が出来るのに一方的なメッセージを送る様に指示して来た司令官に疑問の目を向ける事務艦

 

「そうだ、早くしろ、長門の支援砲撃が支えてる防衛線が崩れてしまう」

 

 

 

鎮守府-近海(雷撃位置=支援砲撃位置~防衛線の中間)

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_加古

鎮守府所属艦:夕張

 

 

長門の支援砲撃が中断した、それほど間を置かずに再開されたが、長門が何の理由も無く中断するとは思えない夕張と加古

 

「なんだろう?今、長門の支援砲撃が止んだ、よね」

 

気の所為じゃない事が分かっていても気の所為だと思いたい事もある夕張

 

「止まったな、資材が尽きた訳でも無いのに、砲撃を止める?まさか、鎮守府に何かあった、のか?」

 

加古はそんな夕張の心情を気にする事なく事実とその理由についての推論を言った

 

「……まさか……」

 

目の前にいる大群、その一部でも鎮守府に到達すればどうなるか、考えるまでもなかった

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

 

 

司令部要員の二人には各所への伝令を頼んだ、こういう伝令は妙高や足利の役割なのだが、執務室に居た二人に走ってもらった

 

「秋津洲は捕まるか?」

 

執務室で通信を引き受けている事務艦に聞く

 

「秋津洲、ですか?連絡は取れると思われますが」

 

事務艦も妙高から秋津洲の所在不明の話は聞いていたのでこういう回答になった

 

「……こっちに来させる事もないか、可能なら龍田等に注意喚起を、方法は任せる」

 

事務艦の回答から秋津洲の現状を思い出し、連絡のみで済ませる事にした司令官

 

「注意喚起、ですか?警戒や警告ではなく?」

 

鎮守府への直接攻撃、この事態を受けての事なら注意喚起では弱いと考える事務艦は疑問を口にした

 

「……向こうの状況が分からんのに、そこまでするのはやり過ぎというものだ」

 

事務艦の考えは分かるが司令官には別の考えがある

 

 

 

鎮守府-???

鎮守府所属艦:秋津洲

 

 

事務艦からの通信で哨戒中の二式大艇に進路変更と通信で示されたメッセージ発信を依頼し終えた秋津洲

 

「これじゃあ、ただの伝書鳩、はぁ、なんで見つからないんだろう、司令官の言ってる、大きな獲物は、さっきからなんかウルサイのが鳴ってるし、イライラするかも」

 

妙高には報告の手間を横取りされるし、司令官の期待には応えられていないし、せめて静かに波の音でも聞こうと思ったら何か鳴り出すし、秋津洲はいつに無く苛立っていた

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府所属艦:鳳翔

 

 

兵装使用許可を受けて数隻の駆逐艦が鎮守府近海に出撃していた、尤もその原因となった深海棲艦は鳳翔から発艦した飛行隊が瞬殺していた

 

未だにいる僅かな深海棲艦はその瞬殺劇に登板が間に合わなかった、出遅れ達だ

 

「至近の深海棲艦は大体片付きました、後は駆逐艦達に任せて良いでしょう、でも、まだ、大きいのが、いる様ですね、それもこの鎮守府の中に」

 

艤装を展開した事で知ってしまった鳳翔、自らに課した役割、命令不履行を承知で行動に出た以上、途中降板という選択は無かった

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

???:???

鎮守府所属艦:鳳翔/明石

大本営所属艦:一号の初期艦四

鎮守府所属艦:叢雲(三組)

 

 

艦娘の様な何者かは封鎖された工廠の中で静かに待っていた、この封鎖を破るモノを

自身の兵装では鎮守府に甚大な被害を与えてしまう、それを避ける為に呼び寄せたモノ

 

そしてそのモノは予定通りに封鎖を破った、筈だった

しかし目の前に現れたのは艦娘、自身が呼び寄せたモノではなかった

 

「おお、封鎖された工廠に閉じ込められて、如何しようかと、思案していた所だ、良く迎えに来てくれたな、礼を言った方が良いか?」

 

予定通りのモノが現れなくとも予定通りに事は運んだ、艦娘の様な何者かは差して気に留めていない様子

 

「……貴方は、誰ですか?」

 

警戒し、即応態勢のまま問う鳳翔

 

「済まないが、陸の流儀を知らんのだ、陸ではこういう時にどう応じると良いのか、聞かせてもらえないか」

 

問いに応じて来た相手ではあるが、警戒を解ける様な手合いでは無い、軽空母では荷が勝ち過ぎる

 

「私はこの鎮守府所属の軽空母、鳳翔、貴方の所属と名前は?」

 

「ほう、所属と名を名乗るのか、しかしそれは難しい」

 

「何故?」

 

「所属を陸の者達に理解出来る言葉で表す事は困難だ、また、名も同じ理由により、困難だ、これは困った事態になったモノだ」

 

「私を、揶揄っているのですか?」

 

「そうではない、事実を並べているだけだ、鎮守府司令官なら、それが解るだろう、艦娘と話す事も、有意義ではあるが、今は時間の浪費とも云える、司令官と話をしたいのだが、如何すれば良いか」

 

「司令官と話を?何処の誰かも名乗る事すら困難だと、言う貴方が?」

 

「そうだ、こうして大人しく穏便に上陸したのも、これだけの手間を掛けたのも、ここの鎮守府司令官と話をしたいが為、何事も力尽くでは、巧く進まない事を我等は知っている、だから、話をしに来た」

「……」

 

鳳翔は気付いていた、この相手は以前にも遭遇している事に、あの時は飛行隊を通じての接触だった

尤も同型艦で別の個体の可能性もある、それはそれであの悪夢が倍増されるだけだ

同時に話をしに来たと言う主張に戸惑ってもいた

 

「鳳翔といったな、艦娘よ、わかっているだろう、その小さな身体では、我等に対抗など出来ない、鳳翔が全力で攻撃した所で、キズを付ける程度のモノにしかならない、大人しく、司令官に話を通してくれないか?こうして大人しく穏便に上陸しているのだから」

 

「それとこれとは、話が別かな」

 

鳳翔の戸惑いを余所に一号の漣が話に入って来た、いつの間にか取って返して来た様だ

 

「おお、今度は初期艦か、それも最初の初期艦達ではないか、ん?一人、違うのが、混ざっている様だが?」

 

「それ、私の事?」

 

三組の叢雲が応じている

 

「分かっているのなら、何故混ざっている、そこは最初の初期艦が居るべき場所、イミテーションがオリジナルと並んでも仕方あるまい」

 

「イミテーション?」

 

「ん?コピーとか、鋳物の方が通じたか?」

 

「コピーって、なによ、コピーって!」

 

「???艦娘は己の出自を理解していないのか?それとも妖精の悪戯か?」

 

三組の叢雲の言い分に疑問しか無いと言った感じの艦娘の様な何者か

 

「何処の誰方かは、知らないけど、ソレ、どこのだれに、聞いたのさ」

 

一号の漣が話を引き継いだ、その表情は真剣そのものだ

 

「不思議な事もないだろう、最初の初期艦なら、知っている事だろうに、それを我等も知っているだけの事だ」

 

一号の漣の様子を見て説明?解説?してくる艦娘の様な何者か

 

「……もしかして、妖精さんから聞いた初期艦が戦艦として造られていたらって、可能性の話?なんでそんな話を其方が知っているんです?」

 

なにをどう解釈したのかは明石にしか分からないが、それを聞いた艦娘の様な何者かは、少しだけ表情を変えた

 

「……見ない艦娘だな、しかし、面白い艦娘だ、こんな艦娘が居るとは、この鎮守府は面白い、実に良い鎮守府だ、こんなにも面白い鎮守府を率いる司令官、実に興味深いな」

 

そう言う艦娘の様な何者かはとても嬉しそうだ

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦/大和

大本営所属艦:高雄/愛宕

鎮守府:叢雲(旧名)

 

 

艤装の通信、探索用の装備を活用して情報集約に当たっている事務艦

 

「鎮守府至近の深海棲艦はほぼ撃破されました、後は、駆逐艦による掃討戦でも対処可能です、それと、明石から報告です、鳳翔が第二工廠の封鎖を破ったと」

 

「……勢い余ったか、いや、敢えて、だろうな、いつまでも封鎖状態を甘受する様なヤツは、鎮守府に乗り込んで来ないだろうからな」

 

「……司令官は、入渠場から出て来た、何者かを、ご存知なのですか?」

 

愛宕が聞いて来た

 

「知らんよ、厄介なヤツって事だけは、状況からでも判断出来るってだけで」

 

「そんな事より、なんで大和が私に張り付いてるの?あんたの指示だって話だけど?」

 

叢雲(旧名)からも聞いて来た

 

「……ココにも厄介なヤツが、いたか」

 

厄介事は多重蓄積される法則でもあるのか、司令官には頭の痛くなる状況だった

 

 

 

外洋-包囲網の外側

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_筑摩/北上/木曾/神通

鎮守府所属艦:睦月型五(補給隊)/時雨/皐月

 

 

「突破したー!やっと包囲網を抜けた!!」

 

北上が歓声を上げている

 

「……突破しただけだな、分断には、程遠い、作戦目標達成出来ずって評価しなきゃならん、失敗だろ、喜ぶか?」

 

そんな北上に全く同調出来ない、寧ろ疑問と反論しか無い木曾

 

「んー?木曾っちは堅いなー、そんなん如何でも良いじゃん、こっちは魚雷撃ちまくれたし、アイツラ沈めまくれたし、補給も存分に受けられた、これ以上何が欲しいのさ」

 

北上はそんな木曾の発言も全く気に留めていない様子

 

「決まっています、作戦目標の達成です、包囲網は未だ健在、分断には失敗しました、ですが、それはここで作戦行動を終了したら、の話です、軽巡戦隊を再度組み、再突入しましょう、作戦行動継続ならば、失敗の判断には至りません」

 

神通は木曾と同意見、更に行動の継続を主張して来た

 

「……ナルホド、木曾っちの言う通りだ、神通に先導を任せたら、こっちが死ぬ目を見る」

 

「神通の言い分も尤もですが、先に抜けている龍田艦隊の状況を確認したい、手がいる状況かも知れませんし」

 

筑摩が別の行動を提案している

 

「……本隊を釣り出しているのでしたか、それならば、其方を優先しましょう、上手く事が運べば、私達が釣り人に成れますよ」

 

筑摩の提案の意味を理解した神通は自身の主張の優先度を下げる事に同意した

 

「ちくまー、僕達は別行動とって良い?」

 

巡洋艦達の話に皐月が入って来た

 

「如何するのです?」

 

こんな状況で別行動を提案して来るとは思っていなかった筑摩は皐月に問い直した

 

「遠征に行ってくる!その為に搬送用機材を持ってたんだし」

 

元気一杯に言い放つ皐月、補給隊の皆もそのつもりでいる様子は見て取れた

 

「……空になったら捨てて身軽にしろって、言ったのに、それで捨てなかったのか、あの砲弾の雨の中を」

 

兵装を装備していない補給隊の駆逐艦達は回避するしかない

空でも装備していれば嵩張る資材搬送用機材、それを投棄せず持ち続けた理由を聞いて、どう判断すればいいのか結論が付けられない木曾

 

「なんていうか、なに?この子達、こんな状況で遠征って、建造艦だよね、どんな育て方をしたら、こうなるのさ、呆れれば良いのか感心すれば良いのか、迷うね」

 

迷うと言いつつも、呆れ気味の北上

 

「きたかみー、まだちょっと残ってる、空にしたいから、補給させて?」

 

そんな北上に補給隊の一隻が寄って来た

 

「……ハイハイ」

 

「では、皐月は補給隊改め遠征隊に編入、っと、でもこれだと皐月しか兵装を装備していない、不安がありますね」

 

旗艦指名を受けている筑摩がアッサリと皐月の別行動提案を受け入れている様に聞こえる、不安要素があると分かっているのにそれを受け入れる判断を聞いた軽巡達は口には出さないが、其々に疑問を持った様だ

 

「大丈夫だ、龍田艦隊が盛大に電探発振してると聞いた、なら、電探持ちはそっちに行く、それに軽空母も循環航路哨戒に付いたと聞いている」

 

補給隊の一隻から軽巡達の疑問に答える様な、旗艦の不安要素を除く様な状況説明が出て来た

つまり、補給隊は鎮守府を出発する段階で今の状況を想定して行動していた、事が推定される

 

「……わかりました、こちらから遠征隊が出た事を、如何にかして伝えてみます、危ない様なら、引き返しなさい、全員が揃って鎮守府に戻れば、司令官は喜びます」

 

こうなってしまっては遠征隊をこの場に留められない、そう判断した筑摩は鎮守府への帰還を優先する事を条件に付ける

 

「知ってるよ、資材と引き換えに駆逐艦を沈めても意味無いって、いっつも言ってるし」

 

「そもそも沈んだら持って帰れない」

 

「引き換えに成って無いんだよね」

 

「だから、意味無いって言ってんじゃないの?」

 

 

 

外洋-包囲網の外側

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_筑摩/北上/木曾/神通

鎮守府所属艦:時雨

 

 

「……遠征隊を、出した後で、鎮守府から注意喚起のメッセージが来るなんて」

 

そう、遠征隊を出発させた後に二式大艇からのメッセージが届いた

 

「皐月達なら、大丈夫、あの回避を超えて当てられる深海棲艦なんて滅多にいない」

 

遠征隊には加わらなかった時雨、こちらに残った駆逐艦は遠征隊の睦月型駆逐艦六隻をよく知っている、未だに背中を追う相手、着任時期の違いもあり、並ぶ事が目標となっているのだから

 

「出してしまったんだ、あの子等を当てにするしかないんじゃない?」

 

心配そうな旗艦にいつもの調子で声を掛ける北上

 

「それよりもだ、龍田艦隊は何処に居るんだよ、電探発振なんて捉えられないんだが?」

 

旗艦と違い遠征隊の心配など全くしていない様な木曾は筑摩の提案、龍田艦隊の状況確認に動いていた

 

「……こちらの観測機でもまだ見つかりません」

 

重巡の旗艦は搭載している観測機を放って龍田艦隊を探している

 

 

 

鎮守府-近海(支援砲撃位置)

鎮守府所属艦:長門

 

 

一方的なメッセージで防衛線維持を指示された長門は鎮守府で何が起こったのかを知らされず、知る為の行動も取れずにいた

 

「砲撃座標を送れ!私に待ち時間を持たせるな!鎮守府が気になって仕方ないのだー!!」

 

 

 

鎮守府-近海(雷撃位置=支援砲撃位置~防衛線の中間)

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_加古

鎮守府所属艦:夕張

 

 

支援砲撃は再開されたものの長門が荒れている

 

「……やっぱり鎮守府で何かあったのか」

 

無線通信から聞こえて来る長門の様子からそれ以外に考えられない

 

「長門が吠えてるし、何かあったんだろうね、でも、司令官から支援砲撃を続ける様に指示があったと、そんな所かな」

 

それを聞いて夕張も同意、状況を推測している

 

「何が起こってるんだ?」

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

 

 

それは鎮守府にも届いていた

 

「長門が広域無線で吠えてます、対処しますか?」

 

事務艦は一応、念の為に司令官に指示を仰いだ

 

「吠え……放っておけ、ストレスの発散にはなるだろう、それより、第二工廠に出て来たヤツ、初期艦達から何か報告は来ていないか?」

 

「ありません、報告を催促しますか?」

 

「いや、それはしなくて良い、阿武隈に現状報告を求めてくれ、第三工廠の警備中だろ」

 

「了解」

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

大本営所属艦:高雄

 

 

「阿武隈からの報告です、把握できる範囲では第二工廠に鳳翔、一号の初期艦四と三組の叢雲、それと明石が入ったそうです、入渠場から出て来た何者かと接触しているものと推定されます」

 

「……彼奴等、目標にされてるのに、大人しくしている三組の初期艦に第一工廠と第三工廠に分散配置を指示、妖精さんの動向を注視する様に伝えてくれ」

 

「注視、ですか?」

 

「具体的な指示は現状で出しても意味が無い」

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

???:???

大本営所属艦:一号の初期艦四

鎮守府所属艦:叢雲(三組)/明石/鳳翔

 

 

第二工廠入渠場では一号の初期艦達、主に漣が艦娘の様な何者かと対峙していた

 

「それで?その興味深いってだけでこの鎮守府に来たんじゃないんでしょ?目的は?」

 

「そちらの艦娘にも言ったが、この鎮守府の司令官と話をしに来た、話をするだけだ、だからこうして大人しく穏便に上陸した、お前達も司令官と話が出来る様に手を貸したらどうか、ここで実力行使に踏み切らせたくはあるまい?」

 

「……実力、行使、結局、そこに行き着くのか、コレだから脳筋だって言うんだ、知識と見識を有効活用する気は無いのか、もし、其方が主張する様に最初の初期艦と同じ様に知っているというのなら、もっと別方向のアプローチが出来るだろうに、結局、実力行使だ、これじゃあねぇ」

 

態とらしく大袈裟に呆れて見せる漣、それを見た艦娘の様な何者かは漣の意図を正確に読み取った

 

「……お前達の時間稼ぎにここまで付き合っているのに、その言い様、如何に穏便に事を運ぼうと意図しても、その様な不誠実な対応を甘受する謂れは、無い

こちらにも事情もあれば、都合もある、無制限の自由な時間を持て余している訳では無い、司令官はこの鎮守府に居るのだ、探させて、貰おうか」

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:事務艦

大本営所属艦高雄/愛宕

 

 

「司令官!明石から緊急電!至急退去をと、第二工廠に現れた何者かの目的は司令官だと、言っています!」

 

「……私?私に何の用が?」

 

事務艦の報告に疑問しか湧かない

 

「提督!その様に呑気な事を言っている場合ではありません、退避してください!」

 

高雄まで退避を言ってきた

 

「退避する必要は無い、明石に伝えろ、今、そっちに行くから、その何者かとやらにそう言ってそこで待つ様にと」

 

「……司令官?危険、過ぎます」

 

愛宕が呆気に取られながらも言う事は言ってきた

 

「司令官ってのは、鎮守府の最高指揮権者って事になってる、真っ先に逃げ出して、どうすんの?」

 

艦娘達が揃って退避する様に言って来る、艦娘の群に入り込んでいる司令官という肩書きの人

一度群から弾かれたらそこまでだ、もう一度入り込む事が出来るのか、不可能なのか

ソレを前例は勿論、検証すらされていないのに実地で試す気にはなれなかった

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

???:???

大本営所属艦:一号の初期艦四

鎮守府所属艦:叢雲(三組)/明石/鳳翔

 

 

第二工廠の大扉、先程鳳翔が開けた開口部に向かって歩く艦娘の様な何者か

一号の初期艦達はどうするのかを決めかねている様子、駆逐艦ではその歩みを止められない

そんな駆逐艦達と違い、一隻の軽空母がその歩みの先に立った

 

「……鳳翔、と言ったな、そこを退いて貰えないか?私にも都合というものがある、何時迄もお前達に構ってはいられない」

「……」

 

艤装は展開している、即応態勢を取ってはいる、鳳翔は攻撃姿勢を示さず、無言で立っていた

 

「あー、ちょっと、良いですか?」

 

少しの間、両者が対峙していたが、それを気にしていない平時の声で明石が呼びかけた事で両者の間に不必要な緊張は張られなかった

 

「……今度は何だ」

 

若干ウンザリした感じの艦娘の様な何者か

 

「司令官が、ここに来ると言ってます、待ってもらっても、良いですか?」

 

「ここに、来る?」

 

「司令官に貴方の目的が司令官だと、伝えたら、そこに待たせておけって、今行くからと」

 

「……そうか、ならば、待たせて貰おうか」

 

これを聞いた初期艦達は驚きの顔を見せていた

 

「明石の言い分を信じるの?足止めする為のブラフの可能性を考えないの?」

 

驚きのあまり素で聞いている漣

 

「ほう、そこの見ない艦娘は明石というのか、覚えておこう、それと、そんな可能性は考えるだけ時間の無駄だ、この鎮守府は実に興味深い、コレを率いる司令官の名を騙る艦娘はこの鎮守府には居るまいよ」

 

「……そういう、判断、するんだ」

 

漣は話しに来たと主張する相手に少し興味が湧いた

 

 

 

鎮守府-廊下

鎮守府:司令官

大本営所属艦:一組の初期艦二

 

 

第二工廠に向かっている所で慌てた様子の声をかけられた

 

「ちょっと!?司令官どこへ?!」

 

「漣か、えっと?一組の漣だな?何処って、工廠だが?」

 

「まさか第二工廠に行く気ですか?正気ですか?!」

 

何故か正気を疑われてしまった、見れば電も信じられないモノを見る様な表情を見せている

 

「……何気に酷い云われ様だ、一号の初期艦と三組の叢雲はその第二工廠にいるのだろう?そっちは正気じゃないとでも?」

 

「イヤイヤ、そっちは艦娘です、司令官は只の人、条件が違い過ぎる、死にますよ?」

 

どういうつもりか、漣と電が行く手に並び、司令官の歩みを遮った

 

「何故、そこで断定?何かそういう話があるの?」

 

仕方なく歩くのを止め、その場で話を聞く事にした

 

「無断で鎮守府の入渠場を占拠して修復する様な輩が居るんですよ?友好的な相手だと、何処から判断してるんですか?

しかも、深海棲艦の妖精が噛んでるって話じゃないですか、深海棲艦そのものだと、思いますよ?その入渠場から出て来た何者かって」

 

「だから?」

 

知ってる、今更ソレを並べ立てて、何がしたいんだろうか

 

「……だからって、一号の吹雪から少し話を聞いてます、相手はおそらく戦艦種、艦娘でも一撃大破を覚悟しなきゃいけない相手、司令官なら、只の人なら、ミンチより酷いじゃ済まないですよ?

物理的にこの世から消えたいんですか?」

 

「そうなったら、それはそれだ、何処にも不都合はないだろう」

 

「……大有りです、不都合処か大問題です、如何しても、工廠に行くのなら、漣がお供します」

 

漣ってこういう顔も出来るのか、と感心していたら返答が遅れた

 

「……要らん」

 

「……要らん訳ないでしょ?一号の叢雲を置いて来たクセに、しかもやまちゃん張り付けて、鎮守府司令官が深海棲艦と対峙するに当たって、護衛の艦娘が付かないとか、有り得ません」

 

「そうですね、漣の言う通りなのです、なので電もお供するのです」

 

返答が遅れた事に何かを察したらしい一組の二人、不味くね?誤魔化せるか?

 

「お前達は、大本営所属艦だ、私の指揮下にはいない、私の我が儘に、巻き込めないよ」

 

取り敢えず理屈を捏ねてみた

 

「何を今更な事を言い出しますか、大本営所属艦?そんなモンに誰も興味を向けませんね、佐伯司令官は私達の五月雨が司令官と認識した人、私達に五月雨の人選が誤りだった、なんて思わせないでください」

 

あらま、この二人の行動はそこに起因してるのか

 

「それを、ここで言うの??」

 

拒否も否定もし難い中で辛うじて言えたのはこれだけだった

 

「では、行きますか、第二工廠へ!」

 

漣の宣言により、二人に手を引かれて第二工廠に向かうこととなってしまった

艦娘はコレを偶にやる、曳航と呼んでいたっけ、皐月達には良くやられるんだ

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

???:???

大本営所属艦:一号の初期艦四

鎮守府所属艦叢雲(三組)/明石/鳳翔

 

 

あれから、それなりに時間が経過していた

 

「……遅いな、そんなに遠いのか?司令官の居室は」

 

「聞こえて来た所だと、司令官の護衛を如何するかって、向こうで悶着があった様ですね」

 

待ちくたびれている声に明石が応じている

 

「ああ、そういう事情か、そんなモノは不要だと、ハッキリ伝えれば良かったのか、失念していた、これは仕方ない、もう暫く待つとしよう」

 

「……大人しく、待つんだ」

 

驚きの顔をそのままにしている初期艦達

 

「言っているだろう、我等は司令官と話をしに来たのだ、少し待てば話が出来る状況なのに、手間を増やして状況を覆しても、余計な時間を費やすだけだからな、その程度の事は理解している」

 

 

 

外洋-包囲網の外側

鎮守府所属艦:時雨

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_筑摩/北上/木曾/神通

鎮守府所属艦:球磨

 

 

龍田艦隊の状況確認という旗艦方針に従い、その所在を探している

 

「龍田艦隊、何処に行ったんだ?無線にも応答しない、いや、近距離無線だから届いてない可能性はあるが、そんなに遠くへ行った?」

 

しかし見つけられない、捜索範囲の外に行った可能性を言う木曾

 

「こちらの観測機でも見つかりません、予想される行動圏内は探し終えたのですが、そこまで遠出したとなると、獲物を見つけ行動を起こしている状況も考えられますが」

 

木曾の言う可能性を認めつつも、それには疑問を持った様子の筑摩

 

「秋津洲の二式大艇が龍田艦隊の電探発振を捉えてる、それに依るとゆっくり南下、していたそうだよ」

 

時雨が補給隊から聞いた話を言う

 

「……包囲網から離れて行ってる、となりますね」

 

状況の推定材料が少ないながらも、筑摩は旗艦として今後の行動方針を決めなければならない

 

「龍田艦隊の状況が分からないのは、気になりますが、ここで何時迄も探している訳にも行きません、ここは再度軽巡戦隊を編成し再突入して包囲網を分断しましょう」

 

神通が下げた優先度を上げる提案をしてきた

 

「いや、あの包囲網はブラフだって、司令官が言ってたでしょ?出来れば相手にしない方が良い、弾の無駄だし」

 

その提案をやんわりとお断りする北上

 

「……その無駄を主張して中央突破を主張したのは、誰だったかな?」

 

北上の棚上げ振りに木曾が口を挟んだ

 

「なに?そんなマヌケがいるの?ドコドコ?」

 

「どういう、意味ですか?」

 

木曾と北上のやり取りに神通が割り込んだ

 

「オイオイ、真面目に言ってないよな、神通の冗談は分かりにくいんだ、こういう場面では遠慮してくれよ」

 

割り込んで来た神通の真面目な顔を見て木曾が困っている

 

「私は、真面目に言っています、中央突破して包囲網を分断する、これが弾の無駄使いだと、どうしてそうなるのかを、聞いています」

 

「簡単に言えば、あの包囲網は私達の資材を浪費させる為の的として、対応する艦娘を多数出させる為に並べられている、神通も中央突破中に感じたでしょう?何時も遭遇する深海棲艦とあの包囲網の深海棲艦は違う、という事」

 

その神通に応じたのは筑摩だ

 

「……分かりませんし、感じませんでしたが、どう違いましたか?」

 

「あの数を突破するなんて、本来なら無理だって事、何時もの深海棲艦ならね、ただ並んで居るだけの案山子だから突破出来たし、脱落艦も出なかった、勿論、駆逐艦達の回避能力は本物だ、案山子の砲撃とはいえ、飛んでくる砲弾は本物だ、当たればタダじゃ済まないからね、全回避とは恐れ入ったけど」

 

今度は北上が応じている

 

「……つまり、あの包囲網は陽動?所属艦娘を包囲網に引き付ける為の囮、だと?」

 

「司令官はそう言ってる、中央突破して見て、それが正解だって、分かった、再突入するにしても、ただで突入ってのは、弾の無駄、龍田艦隊が獲物を引っ張り出した時に釣り人の下へ手繰り寄せる糸が切れない様に通り道を確保するってのが、理想だね」

 

「北上は、釣り糸の補強が目的で中央突破を?龍田艦隊だけでは荷が重いと、判断したんですか?」

 

自身の聞かされていない状況説明と状況創出を目的とした行動、神通は理解を状況に追いつかせる為に思考を巡らす

 

「いーや?重雷装艦への改装と新しくなった兵装を思いっ切り使いたかった、んー、イイねぇ、シビれたねぇ」

 

しかし北上には、躱されてしまい判断に困る神通

 

「……どこまで、話を聞けば良いのやら……」

 

「考え込むなよ、聞き流せ、どうせ大したことは言ってない」

 

困る神通に軽く言う木曾

 

「あー、木曾っちがイジワルした!クマちゃんに会ったら言い付けてオシオキしてもらわなきゃ」

 

ソレを聞き逃さなかった北上から突っ込みが入る

 

「……これだよ、子供かっての、なんだよクマちゃんって……」

 

姉妹艦で姉艦?コレが?呆れる他無い様子の木曾

 

「呼んだクマか?」

 

「おーう、球磨型一番艦のお出ましだ、ってか、何処から?」

 

「!!!!!!」

 

突然聞こえた声、それに応じる北上が見えた、その声は自分の真後ろ、それも間違いなく手の届く距離から発せられた木曾は大慌てで声の主に向き直った

 

「!エッ!?何処から?!周辺には艦娘どころか、なんの反応もありませんでしたよ!?電探が故障したんですか?!」

 

神通も慌てて周辺警戒体制を見直していた、視界の隅にア然とする時雨を見たが、それどころではなかった

 

「お噂は伺っています、長良さんと一緒にウチに来てくれた軽巡の一隻でしたね、私は利根型重巡の二番艦、筑摩といいます、よろしく」

 

「おーう、よろしくだクマ、所で龍田艦隊を探してるクマか?」

 

やっとの事で事態を理解した木曾が遠慮など忘れて全力で突っ込みを入れた

 

「ちょっと待て!!大いに待て!!なに筑摩もフツーに挨拶してんの!?この艦娘は何処から湧いた!?こっちの周辺警戒網に一切引っ掛からなかったぞ!!」

 

「木曾、そんな事で旗艦の手を煩わせるなんて、ねーちゃんは悲しいクマ、折角会えた末の妹が、こんなに分からず屋の阿保だとは、ねーちゃんはとっおっても、悲しいクマ」

 

「あーあ、木曾っちがクマちゃん悲しませてるよ、あたしゃ、しーらないっと」

 

「球磨、今は球磨型姉妹の事情より、龍田艦隊の状況を、こちらの観測機での観測範囲に見つかりません、何処へ行ったのですか?」

 

球磨型の姉妹漫才には付き合わずに艦隊の行動方針を通す筑摩

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

鎮守府:司令官

???:???

大本営所属艦:一号の初期艦四/一組の初期艦二

鎮守府所属艦:叢雲(三組)/明石/鳳翔

 

 

漸く司令官が工廠に姿を見せた

 

「待たせてしまったな、ちょっと立て込んだ事情があった、こういう事態を避ける意味でも今度からは事前に連絡をして欲しい、それで?話というのは?」

 

「……ここの、司令官、でいいのだな?」

 

何か微妙な表情を見せている艦娘の様な何者か

 

「そうだ、この鎮守府の司令官職に就いている佐伯という、そちらは?」

 

「名は無い、所属もお前達に理解出来る言葉では表せない、呼称が必要なら、好きに呼んでくれれば良い」

 

「取り敢えず、そういう事なら、名無しの権兵衛さんだな、で?その権兵衛さんは私に何の話があるのだ?」

 

「……好きに呼べとは、言ったが、権兵衛は、あんまりなのではないか?そもそも男性名称ではないのか、権兵衛は?」

 

司令官の採用した呼称が気に入らないらしい

 

「細かい事を気にするヤツだな、権兵衛が嫌なら呼び名ぐらい考えてくれば良かったんだ、大した手間が掛る訳でもなし、その手間を惜しんだツケだ、諦めろ」

 

「……尤もな見解だ、反論が思い付かん、だが、諦めて権兵衛と呼び続けられるのは願い下げだ、別の呼称を求める」

 

「求めるなよ、今考えれば良いだろう、大した手間でないのは変わらないんだし」

 

「尤もな見解だ、こうも続けて尤もな見解を出され、反論が思い付かんとは、うーむ、これは交渉の妥協点を再考しなければならないな」

 

「交渉?何の?」

何しに来たのかと思っていたら交渉と来た、抑の話として、ソレが可能なのかが疑問だが

 

「鎮守府司令官なれば、我等が求めに応じられるだろう、初期艦をこちらに渡してもらいたい、見返りに司令官の要求を我等がチカラの及ぶ限りに於いて可能な限り履行しよう、悪い取引ではないだろう?」

 

何を言い出すかと思えば、因りにも拠って艦娘、それも初期艦を寄越せか、予測が当たっていた事にはなるが、喜べる事ではない

 

「取引ね、悪いが、艦娘は商品じゃない、売り物でも取引材料でもない、他を当たってもらう事になるな」

 

「……それは、交渉拒否、か?オカシイな、我等がチカラの及ぶ限り、司令官の望みを叶えると言うのだ、拒否は気が早い、再考した方がお互いの利益になる、結論はまだ、出てはいない、もう一度考える事を勧める」

 

若干表情を険しくした権兵衛さん、それでも再考を求め、誘拐やら強奪ではなく交渉の結果として、提供する利益の対価として初期艦を得ようとしている、早急な結論は避けた方が良いかも知れない

 

「……考え直せ、そう言っているのか?」

 

「そうだ、良く考えた方がお互いの利益に繋がる筈だ、短慮は誰にとっても不利益をもたらす事に成るやも知れんぞ」

 

「では、こんな所で立ち話もアレだ、場所を変えて、ゆっくりと話そうじゃないか、そちらの都合が良ければ、だが」

 

駄目元で提案して見た、拒否するか、難色を示すか、それによって対応を決めなければならない

 

「願っても無い、司令官と話せる時間なら、多めに取っても問題は無い、場所を変えてゆっくりと話そうではないか」

 

意外な事にアッサリと応じて来た、何を目論んでいるのか、ゆっくりと聞かせてもらえるらしい

 

 

 

外洋-包囲網の外側

鎮守府所属艦:時雨

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_筑摩/北上/木曾/神通

鎮守府所属艦:球磨

 

 

球磨から龍田艦隊の動向を聞いている

 

「補給?資材採掘地に向かった?」

 

「そうだクマ、あんまりにも何も見つからなくて資材残量が気がかりになってしまったクマ、今後の行動を確保する意味でも補給が必要と判断したクマ」

 

「……じゃあ、今頃皐月達と合流してたり、するのかな」

 

遠征隊に加わらず筑摩達と残った駆逐艦、時雨がポツリと言った

 

「皐月達?」

 

「補給隊として鎮守府から出発した駆逐艦達だ、オレ達に補給する都合上包囲網のこっちにまで来てしまったんだ、ここで待つより遠征に行くって言い出して、止める積極的な理由も無かったから、旗艦の指名を受けてる筑摩が許可した、資材採掘地へ向かってる」

 

球磨の問いに木曾が応じている

 

「それなら、龍田艦隊より先に名取と接触するクマ、名取ならそのまま資材採掘地まで護衛に付くから安心するクマ」

 

「護衛に付いてくれるのなら、確かに安心だけど、そちらの行動を阻害していませんか?」

 

護衛隊は無補給での行動を要求されていた筈、その為保護対象は限定されていると聞いている筑摩が気にしている

 

「阻害も何も、球磨達の行動目的は他所の鎮守府から来る遠征隊の護衛クマ、遠征隊なら護衛対象、阻害所か行動目的そのものだクマ」

 

「……そう言ってくれるのなら、甘えさせてもらいますね」

 

球磨の言い分に問題無しと判断した筑摩

 

「一番艦に甘えるのは姉妹艦の特権だクマ、遠慮はいらないクマよ」

 

「……姉妹艦の特権、何だそれ?聞いた事ない」

 

何やら木曾には言いたい事があるらしい

 

「木曾っち、そういう所が、可愛気が無いってコト、損する性格だねぇ、ま、クマちゃんはそういう不器用な姉妹艦も思いっ切り構いにいくから、覚悟、しておく事」

 

ハッキリ言わない木曾に北上が色々言っている、木曾は北上の言い分を何処まで汲めるのか

 

「……それって、どういう意味だ?」

 

聞き直すという事は、汲む所まで理解が届かなかったらしい

 

 

 

鎮守府-第二食堂(鎮守府専用食堂)

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:給糧艦二/補給艦二

???/???

大本営所属艦:一組の初期艦二

 

 

第二食堂を切り盛りする給糧艦、司令官が来たので迎えてみれば、見慣れない、見るからに鎮守府に居てはいけない、居る筈のないモノを伴っていた

 

「……えっと?司令官?こちらは?」

 

司令官が伴って来た以上、滅多な行動に出る訳にもいかない、無難に聞くだけに留めた

 

「細かい事は気にしなくて良い、こちらは権兵衛さん、私と話をしに来たそうだ、立ち話も何だからゆっくりと落ち着いて話せる場所に来た、それだけの事だ」

 

「……司令官が、そう言われるのなら」

 

司令官にこれといって変わった様子は見受けられない、居る筈のないモノも特に何をしようという感じも受けない

給糧艦達の観察では普通に給糧艦の仕事をすれば良いと判断した、詰まる所、通常営業だ

 

「権兵衛……呼称は変える様に求めた筈だが?」

 

「嫌なら名乗れ、でなければ、諦めろ」

 

「……えっと、司令官、権兵衛さん、こちらへどうぞ」

 

二人が何か言い争っている様にも見えるが、ソレはソレ、仕事は仕事

 

「権兵衛さん……貴様の所為で権兵衛呼びが広まっているでは無いか、撤回と改称を求める」

 

「名乗れば良いだけだろ、何を拘ってんだよ、自分の名に自分の名以上の意味でも持たせてるのか?」

 

「……自分の名に自分の名以上の意味?私の名は、人には発音し辛いらしくてな、名乗った所でその名では呼ばれないのだ、だから、名乗っても差して意味を持たん、自分の名が自分を表さないのだ、それ以上の意味など持たせられよう筈も無い」

 

「難儀だな、それなら、やっぱり呼び易い権兵衛さんで良いだろう」

 

「貴様、ワザとか?意図して侮辱する目的で権兵衛などと呼び名を用いているのか?」

 

「名無しの権兵衛さん、ってのは単に名乗らない名称不明な輩に付ける一般名称だが?本人が匿名を意図する時などは単に名無し、或いはそれと分かる特定の名称を用いたりもする場合もある、名が発音し辛いからと言って名乗れないとは、ならない」

 

「……その理屈でいくと、名無し、と名乗るのが妥当になるが?そういう事か?」

 

「自分の名だろ、好きにすれば良いさ」

 

「お二人とも、立ち話も何ですから、こちらへどうぞ」

 

司令官は落ち着いて話せる場所に来た、そう言っていた、ならば此処を預かる艦娘としては落ち着いて話せる状況に誘導した方が良いだろう

それに何と言っても出入口で長話などされては営業妨害というものだ

 

「おお、そうだった、何でここまで来て立ち話してんだよ、座って話すことにしよう、それは構わないだろ?」

 

司令官は思惑通りに誘導に乗って来た

 

「……そうだな」

 

こちらの誘導には気が付いた様子、それでも反論も無く同意して来た、この見慣れない鎮守府にいる筈のないモノ、本当に話に来た様だ

 

 

 

外洋-資材採掘場(無人島)

鎮守府所属艦:龍田艦隊_龍田/初春/子日/若葉/初霜

鎮守府所属艦:叢雲(初期艦)

鎮守府所属艦:龍驤/長良

 

 

上陸して来た一団に愚痴っぽい台詞が飛んだ

 

「随分と賑やかになってもうた、一人でノンビリしとったのに」

 

それを聞きつけた龍田が返す

 

「一人でノンビリ?そ~か~、有名人だものね、偶には一人でノンビリしたいって思うでしょう、けれど、そこは有名人の有名人たる所以、そうは行かない、諦めてね~」

 

「誰が有名人やねん、コッチは只の艦娘や言うとるんや、ヘンな言い掛かりはやめーや」

 

「でも、聞いた所だと、世界中の新聞に写真が一面トップで載ったんでしょ?有名人だと思うけど?」

 

子日が不思議そうに聞く

 

「そんなん一時のもんや、有名人っつーたら時の人やなくてずっと有名人やってな、すーぐ只の人になってまうわ」

 

「……世界中の新聞に載った??エッ?!まさか、龍驤って、あの龍驤?!大本営での研修中に見た艦娘の歩みとかの資料にあった、最初に人と共生関係を築いたっていう艦娘?!本人?!」

 

其々の言い分から目前に居る艦娘がただの艦娘では無いと気付き、思わず声にしてしまう叢雲(初期艦)

 

「……ウルサイ駆逐艦やのう、その龍驤やっちゅーたら、なんやねんな?そんなん昔の話や、終わった話やで」

 

その言い分に心底ウンザリした様子を見せる龍驤

 

「終わって無いでしょう?それが今も続いてる、龍驤が人と共生出来たから、自衛隊が艦娘を収容施設から解放せざるを得なくなり、共生のきっかけとなった行動が、今の艦娘部隊に繋がってる、老提督の尽力だけでは、今の状況は作れなかった、龍驤の存在が、その行動が、世界中に与えた影響は誰にも測れない程に大きい、と、私は思ってるけど?」

 

「……やめーや、その手の話はお腹いっぱいや」

 

ウンザリしつつも帽子の様な艤装を目深にして顔を隠しにかかる

 

「異国で人との共生関係を築いたんでしょ?日本語も通じ無いのにどうやったの?」

 

叢雲(初期艦)から普通に質問が出て来た、当初の驚きよりも様々な疑問の方が興味を引いたらしい

 

「フツーに話しとったで、日本語、やから外地やと思っとった、南方でよー見かけた地元漁船やったしな、それがあの深海棲艦とか言うんに襲われとった、やからよー考えもせんと、蹴散らしたったんや、そんで漁師らと陸に上がったら、エライ歓迎されてな、しばらくは飲めや歌えやの宴会やった

それが落ち着いてからや、状況がオカシイ事に気が付いたんは、なんせコッチは外地やと思っとったのに、肝心の海軍がおらへん、よー見れば見慣れん人がぎょうさんおるし、何より電気仕掛けの売りモンが凄まじい、なんやアレ?ウチの覚えのないモンばっかりや、フツーの漁船にまで電探やらソナーやらが付いとるし、そこらでフツーに売っとる、どないなってんねん、カメラもラジオもテレビもウチの知っとるモンと全然ちゃうかった

妖精さんにも協力してもろて、色々調べたんよ、ウチもそこらで色々聞いて回った、そしたらな、まあ、なんちゅうか、話が広まり過ぎたらしくて、ウルサイのがワンサカ寄って来よってな、駄目元で大使館に、駐在大使が居る事は調べがついとったしな、取り敢えず行ってみたんよ、アレは失敗やった、まさか大使館で軟禁されるとは、思って無かったわ」

 

ウンザリした様子はそのままでも叢雲(初期艦)の質問には応じてる、この辺りは龍驤の性格が伺える一例だろう

 

「それが元で、地元というか、その国から直接抗議されたのよね、それがアメリカの情報網に掛かった、資料によれば、そこからの外圧はそれはそれは凄かったそうよ、あの戦争でもここまでは掛からなかったってくらいの全方位からの外交圧力、それだけでは済まされずに、経済にまで波及しそうになって、日本政府が折れた、という事に記録上はなってる」

 

「妾がドロップしたのは鎮守府が出来た後じゃから、その辺りは資料で見た限りの事しか分からんが、抗議を受けた当初日本政府は抗議内容が理解出来ずに、問い合わせたそうじゃな、それが、抗議して来た国の民衆に伝わり、大使館への解放要求運動に繋がったらしいの、事態の悪化に拍車を掛けたのが、駐在大使が事の次第を全く理解しておらず、対処を誤った、大使にして見れば本国の指示通りにしただけじゃからの、大使であるにも関わらず、赴任先の事情に無関心過ぎた様じゃな」

 

「大使館って、外務省管轄だっけ?そんなに対応が出来ないの?中央官庁なのに?」

 

龍田と初春の追加説明を聞いた叢雲(初期艦)は色々と合点がいかない様子

 

「外務省に限らんよ、組織が大きくなると目は届かなくなるわ、手も届かなくなるわ、終いには声も届かん様になって末端は放置状態や、これ幸いと好き勝手やるか、上と繋ぎを付けようとするかは当人の資質次第やし、軍やと下士官を配置して統制を図っとるけど、及第点に持ち込むのが良いトコや、まして官僚組織ってのは出来た時から保守的やからな、仕方あらへん」

 

「それは、ちょっと厳しいかなぁ、私が見た資料だと、当時の大使には異なる指示が本国から出されてた、片方は保護し日本へ連れて来る、もう片方は本国から引き取りに向かわせるからそれまで大使館内で厳重に監視しろって、何方も最終的には日本へ来ることには違いないんだけど」

 

「……ちゅーことは、あの大使は後者を取ったワケやな」

 

仕方ないと言っているのに妙な擁護をする龍田に疑問を持ちながらも話を合わせる龍驤

 

「監視されたの?大使館内で?意図がわからない」

 

話自体は兎も角、内容に納得がいかないらしい叢雲(初期艦)

 

「軟禁されとったゆうたやろ、でも、まあ、待遇は悪う無かったで、あの収容所に比べたら」

 

「その収容所も私達は資料でしか知らないのよねぇ」

 

「確か、海自が中心になって邂逅した艦娘を収容してたんですよね、法的には出入国管理局の案件なのに」

 

思い出しながら初霜言う

 

「外務省と海自が結託してたって事になるのかなぁ、その割には政府内での方針が無かった様だし、経緯まで詳しく記載が無かったからハッキリした事はわからない、もしかしたら一部の官僚の暴走かもしれないし」

 

「……そんな事が?」

 

龍田の話を聞きつつも、司令官がクソ官僚と連呼していた事を思い出す叢雲(初期艦)

 

「龍驤の言う所の好き勝手にやった、そういう事なのかもね」

 

「……私が聞いた限りでは、当初は単に扱いに困って自衛隊、この場合邂逅した海自に問題を押し付けた、だけの様だった」

 

ここまで話を聞く側にいた長良が口を開いた

 

「扱いに困って?」

 

龍田が先を促す

 

「海自が外洋で邂逅した艦娘達、その多くが邂逅時に深海棲艦を対象に戦闘行動を取り、ソレを撃破して見せた、武器を所持しているのが確認された、それも軍用の兵装、今の日本の法制度上では所持したままでの入国なんて有り得ない、けれど、海自はそれを報告せずに単に漂流者を保護したとだけの報告で帰港、保護した艦娘の扱いにについては所属の上部組織である方面隊に事実をありのままに口頭申告した

本来なら、被保護者として関係機関と連携を取る筈の所を、関係機関と連携を取る前に自衛隊内部での決定を求めた、悪気は、無かったんだと思う、日本までの航海中に巡洋艦の人達とは友好的に接していたし、お互いに意見交換、情報交換も積極的に行われた、巡洋艦の艦長さんにして見ればそれらの話を総合した結果として、艦娘から艤装や兵装を取り上げる、乃至破棄させるのは、避けたかったんだと思う

抑の話として、あの深海棲艦を人の身とさして違わない大きさの兵装で撃破する艦娘という存在、話して見れば日本の、嘗ての帝国海軍籍を名乗る見た目は幼い子供、海自が初めて接触したのが初期艦だった事もそういう方向に思考する要因になった思う、このまま見なかった事にして海に放り出すわけにも、通常の手順を踏んで武装解除させるのも、何方も難しかった

それに、話した中からも、実際の観測からも深海棲艦相手に戦力になる事が確実、海自が置かれている状況、日本政府内での自衛隊の立ち位置、そして何より各国で独自に展開される対深海棲艦戦、それに国際機関からの要請で協力する日本国、其々に寄与出来る何らかの方法があるのではないか

そこを検討する事もなく日本の法制度だから、公務員として武装解除させる、そういう杓子定規な対処をしなかった、それだけだと思う、艦娘自身が、ソレを望んでいた事も影響してるんじゃないかな」

 

「……つまり、外洋で艦娘を収容した海自が艦娘の戦力化を当初から目論んでいた?その為の法制度上の対策をその、方面隊とやらに相談したって事?」

 

叢雲(初期艦)が長良の話を自分なりに解釈した見解を言う

 

「結果から見ると、そう云われても仕方ないのは、分かるけど、外洋で漂流者を救助した船乗りが救助者の所持品を放棄させるって事に心理的な抵抗があったんじゃないかな、話して見れば、その所持品は本人にとって自身の分身所か半身な訳だし、救助者に日本の法制度上の問題があるから半身を放棄しろって、言えなかった、船乗り達の誰もがソレを良しとしなかった、航海中に艦娘を観察した限りでも積極的に放棄させる必要が生じ無かった事も心理的な抵抗を強めたんだと思う」

 

「艦娘は地に足をつけている限りは無闇に艤装を展開しない、出来ない訳じゃなく、その必要がない事を理解している、と、艦内での行動からも確信出来たって事かな?」

 

龍田も自己解釈の見解を示した

 

「それに、お互い船乗りだしね、海の、特に外洋での相互補助、協力関係の重要性は誰に言われるまでも無い、外洋での協力者は多い方が良いに決まってる、その協力者、それも極めて強力な協力者に成り得る艦娘を、どう扱うか、いち巡洋艦の艦長一人の判断で決めて良いとは、考えなかった」

 

「生時実戦部隊の海自が艦娘と接触したから、起きてしまった、これがデスクワークの官僚との接触だったら、こうはならなかった、そういう事で、良いのかなぁ」

 

「デスクワークでどうやって艦娘と接触するの?外洋だよ?」

 

龍田の見解に長良が疑問を示した

 

「デスクワークで無くとも立身出世やら派閥の論理を優先するだけでも、こういう、今みたいな状況には、ならなかった、という事でしょ?」

 

「船乗りの、海の論理か、それが今の状況を創った、と」

 

龍田の見解に何を思ったのか、長良は水平線に視線を向けた

 

 

 

 

 

 






場所-殆ど鎮守府の何処か、断りの無い鎮守府表記の場合は佐伯司令官の鎮守府
所属:登場人物/登場艦娘 等

~近距離無線~は通話、交信 等

上記の書き方が基本となっています、同じ所属が複数行になっている場合は行動単位




大本営所属初期艦〔一号(漣.電.吹雪.五月雨)、一組(漣.電)、二組(吹雪.叢雲.漣.電.五月雨)〕

移籍組〔修復待ちの高練度艦娘、以前の大規模海戦の帰還艦娘、現在の代表は五十鈴〕



工廠組〔明石、夕張、北上、秋津洲〕

護衛隊〔以前の大規模海戦の帰還艦娘、長良を始め帰還後に原隊の大本営に戻らなかった艦娘達、広域探索役として龍驤が加わっている〕

鎮守府所属初期艦〔鎮守府配置の初期艦(叢雲)、三組(吹雪.叢雲.漣.電.五月雨)〕


・長門艦隊(長門、加古、筑摩、初春、神通、時雨)
・編成を解かれ、再編成され別行動中

・龍田艦隊、龍田、初春、子日、若葉、初霜
・包囲網を抜け外洋に出ている
・叢雲(初期艦)のサポート役

・筑摩艦隊、筑摩、加古、北上、木曾、神通
・加古を除き包囲網を抜け外洋に出ている

・夕張艦隊、補給隊、旗艦夕張、睦月型五
・包囲網突破中の北上等に補給する為、旗艦夕張を除き包囲網突破に同行
・包囲網を抜けた後、皐月を加え遠征隊に再編成

・工廠に陣取る軽空母達、鳳翔、祥鳳、隼鷹
・工廠防衛を指示されている
・軽空母達の指揮を執っているのは大本営所属艦娘、司令長官秘書艦の五十鈴
・ちょっとした問題が発生、進行中




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