初期の艦これ   作:弱箔

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御注意

・大幅に書き方が変わっています
・苦行用です
・長いです
・方言擬き注意

ご承知頂きたく存じます



80 目の前に並べられたモノ

 

 

 

 

鎮守府-第二食堂(鎮守府専用食堂)

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:給糧艦二/補給艦二

???:???

大本営所属艦:一組の初期艦二

 

 

司令官に伴われた艦娘の様な何者か、席に着いて目の前に並べられたモノに興味を惹かれるのか、視線をソレに向けたまま聞いて来た

 

「これは、何だ?」

 

「羊羹とお茶だ、口に合わなければ他の物を用意させるが」

 

「……そういうつもりで言ったのでは無い、気を悪くしないでほしい、人の食料は慣れていないのだ、そちらが普通に食せる食品であるならば、問題無い」

 

少し困惑気味の相手を見て言葉を足す事にした

 

「いや、和菓子は人によって好き嫌いがはっきり別れる、気にはしない、小豆や寒天にアレルギーが無ければ少し食べてから、好き嫌いを判断しても、遅くはないだろう」

 

「……小豆や寒天、と言われても、人の食料はわからない、兎も角、そちらが食せるのなら、毒にはならんだろう」

 

「難儀なヤツだ、毒が気になるなら、私のと交換するか?同じ物を用意してもらったんだ、まだ手を付けていないし」

 

「いや、それは必要無い、毒と言ったのは不適切だったな、ここの艦娘が司令官に頼まれて用意した食料だ、その懸念はしていない、食べられない訳では無いと言いたかっただけだ」

 

どうやら相手の困惑は人の食品に不慣れな事が原因らしい事はわかった

 

「まあ、何でも良いか、では、食べながら、話をしようか」

 

「それは構わないし、そうしたいが、その、後ろのは、どうにかならんか?」

 

「……後ろ?」

 

振り返ると、一組の初期艦二人が羊羹と司令官に視線を交互に移しながら、物欲しそうな顔をしていた

 

「……お前達、あっちの席に座りなさい、今羊羹とお茶を頼むから」

 

 

 

外洋-資材採掘場(無人島)

鎮守府所属艦:龍田艦隊_龍田/初春/子日/若葉/初霜

鎮守府所属艦:叢雲(初期艦)

鎮守府所属艦:龍驤/長良/名取

鎮守府所属艦:遠征隊_皐月/睦月型五

 

 

緩やかな波打際を持つ島の海岸から駆逐艦の一団が上陸して来た

 

「あー、龍田発見!なんでここに居るの?釣りをしてるんじゃ無かったっけ?」

 

上陸してくるなり龍田の周囲を囲み出す駆逐艦、そこには手慣れた様子が見て取れる

 

「釣りの醍醐味は獲物がかかる瞬間まで如何に時間と上手く付き合えるか、糸を垂らせば獲物が喰いつくって単純な話は釣り堀だけよ~」

 

「糸を垂らして獲物が喰いつくのを待ってるの?」

 

「そうなるわ~」

 

「でも、居ないみたいじゃん、肝心の獲物、釣り上げられるの?」

 

「司令官は居ると言ってる、居なかったら司令官の所為、文句を言われる筋はないわ~」

 

「居ない獲物は釣れないもんね」

 

「そういう事~」

そんな遣り取りを遠巻きに眺める軽空母がいた

 

「……まったく、駆逐艦が増えよった、賑やかしにはなるんやろうが、コッチの手間が増えてしゃーないで」

 

未だにウンザリ気味の気配を纏ったままの龍驤

 

「長良、何か見つかった?」

 

遠征隊と共に上陸して来た名取が龍驤の隣にいる長良に聞いてくる

 

「……ソレを聞いてくるって事は、名取の方は何も?」

 

「無し、って事はこっちもか」

 

「包囲網は健在なんだけど、なんか動きが鈍った様な感じだって、龍驤の偵察機からの報告だと、そのくらい」

 

「それは、どう解釈すれば良いのかな」

 

「正直判断付きかねてる」

 

護衛隊としての任務、鎮守府所属艦としての職務、艦娘としての行動原則、規範は規範として色々考えなくてはいけないが、護衛隊旗艦を任されている長良にはそれらを決定するだけの判断材料が揃っていなかった

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:叢雲(旧名)

鎮守府所属艦:大和

大本営所属艦:高雄/愛宕

 

 

司令官は第二工廠に行った、行く際に執務室で大人しくしている様にと言い付けて、それに飽きて来た叢雲(旧名)

 

「ここでじっとしてろって、暇なんだけど」

 

「……司令官の指示は明確です、暇であろうと守られた方が賢明かと」

 

大和が応じた

 

「私が、アレの目標になってるかも知れないって、人になってるんだし、その可能性は無いと思うけど?」

 

「人になっているからこそ、自衛行動を、と提督は云われているのです、大和まで付き添わせているのですから、自重してください」

 

高雄にまで言われてしまった

 

「……本来なら大和はあいつに付き添わなきゃいけない、あいつは一人でアレの前に立ったの?」

 

「聞こえて来たところだと、一組の初期艦二名が、護衛に付いたそうです」

 

愛宕が答えた

 

「鎮守府司令官がアレと対峙するのに両翼に居るのが駆逐艦、まあ、一組の初期艦なら、少しはマシかな、でも、歯痒いというか、もどかしいというか、スッキリしないわね」

 

幾ら叢雲(旧名)でもこの三人を相手に出し抜く方法を見つけるには時間が必要だ

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

鎮守府所属艦:鳳翔/明石

 

 

司令官が一組の二人を伴い入渠場から出て来た何者かと食堂に行くのを見送った、不満やらは色々あるが、司令官がそうするというのなら、無理に止める訳にも行かず歯痒い思いをしている

 

「……司令官をあの様な者と、会談に応じさせてしまうとは」

 

「司令官も乗り気だった様ですし、無理に止める事もないんじゃ無いですか?」

 

「司令官が応じた一番の理由は、私達の安全確保でしょう、鎮守府に残留している艦娘の中に対抗出来るだけの戦力は、いない」

 

「……えっと?大和がいるんですけど、全艦娘中でも最上位級の戦力ですよ?鳳翔には大和は戦力に数えられ無いと?」

 

「大和さんは、現在主兵装が使えません、戦力に数えられ無い理由はソレです、まさか装甲と耐久のみで、対抗しろと?それでは射的の的になれと、言っているのと変わりませんが、明石さんはそれをお望みですか?」

 

「その大和には叢雲の護衛を命じたそうです、人の身になって自衛手段が無いからと、自身の護衛は要らないと言い張ったのに、トンデモ無い我が儘ですよね、司令官は」

 

「……そうですか、確かに、我が儘な人の様ですね、困った人です」

 

自身の護衛、司令官の安全確保より優先させるモノがある、この鎮守府の司令官はそう言っている、それを明石は我が儘と評した、確かに我が儘だ、所属艦娘から見れば保身に関心の無さすぎる司令官は帰属元として何処まで頼れるのか判断が付け難いからそこには同意する

しかし鳳翔はその我が儘が今のこの事態を招いている事に妙に納得してしまっていた

 

 

 

鎮守府-工廠(第二工廠)

大本営所属艦:一号の初期艦四

鎮守府所属艦:叢雲(三組)

 

 

司令官がアレを連れて食堂に行ってしまった、取り敢えず一組の二人が同行していたから、見送ってしまった

 

「なんか、司令官が来て置い行かれた訳ですが、この後、どう動くのが最善か、正直、打つ手が思い付かない、なんかある?」

 

「司令官には一組の二人が付いて行きました、取り敢えずは、任せるしか無いと思うのです」

 

「あの権兵衛さんも話をするだけって言ってたし、変に手出しして艤装を展開されたら、それこそ打つ手無し、駆逐艦が束になった所でどうにかなる類の艤装には見えなかった、主兵装は艦娘の戦艦種の兵装に近い様な気もするけど、艤装の方はまるで別、アレは一体なんなの?」

 

吹雪が疑問を口にする

 

「なんでしょうね、アレは、すごく大きかったです、それに腕がある様に見えました」

 

五月雨が感想を述べる

 

「……もう一体、出て来た様な感じだよね、艤装が兵装と一体になって、本体と分離している?自立型?島風や秋月型の持つ兵装を戦艦種が持つとああなる?聞いた事無いし、そもそも、戦艦種で自立型兵装なんて、有り得るの?」

 

漣も疑問を口にした

 

「妖精さんの話では、その自立型兵装というのは、艦娘の制御を余り受け付けない様な感じですね、相性が凄く重要で現状では駆逐艦の兵装以外では製作した所で意味を成さない、らしいですけど」

 

それに五月雨が応じた

 

「……本体の制御を離れた自立型兵装なんて、暴走しているとしか見做されないからね、そうなった時駆逐艦の兵装なら重巡や戦艦の兵装で破壊すれば済むけど、戦艦種の兵装でそうなったら、どうすんの?って話だよね」

 

五月雨の答えに同意と補完を示す漣

 

「戦艦種の主砲塔の装甲はとても頑丈なのです」

 

こちらはただの感想を述べる電

 

「知ってる、自身の砲弾の直撃に耐えるんだよね、設計上は」

 

「つまり、やまちゃんの主砲塔は駆逐艦の主砲で如何にか出来る様な装甲では無いって事になる、アレも同様と、考えた方が良いって事」

 

話し込む四人を見つめる叢雲(三組)

 

「……私、何処からも置いていかれてるんだけど、どうしたものか」

 

他の三組の四人は司令部からの指示で工廠の監視に着いた、叢雲(三組)は単独行動していたからその指示を受けていない

 

 

 

鎮守府-第二食堂(鎮守府専用食堂)

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:給糧艦二/補給艦二

???:???(権兵衛さん)

大本営所属艦:一組の初期艦二

 

 

不思議そうな顔をしながらも普通に羊羹を食べる権兵衛さんを見ながら話を切り出す

 

「それで?先程初期艦を渡せとか言っていたが、抑の話として、初期艦を渡せと、要求する理由が分からん、其方に初期艦が必要か?こちらでは初期艦に重要な役割が有るが」

 

「そちらの必要とは、艦娘の運用母体である鎮守府の運営に関してであろう、確かに我等の運営面に於いては初期艦の必要は無い、必要としているのは初期艦の持つ特性であり、それは着いている妖精に起因する、我等に必要なのはその妖精だ」

 

「艦娘から、妖精さんを取り出すと?艦娘と不可分な妖精さんを?」

 

「そうなる、そちらでも解体と呼ばれる手段で実施しているであろう、なにも艦娘の運用から外れた事をする訳では無い」

 

「何体必要なんだ?初期艦は五種だが、同型同名を含めれば大量に居るが」

 

「一種づつ、五隻で良い、渡して貰えるか」

 

言ってる事はアレだが未だに不思議そうな顔はそのままだ

 

「大本営の許可があれば、可能だ、しかし、現時点ではその許可が下りない事が確定している、無許可での譲渡は後日私の罷免、訴追事由に、確実に成る、そこまでのリスクを負う気は無いな、他を当たってもらうのが、良いだろう」

 

許可が下りないのは現在大本営が活動を止めているからだ、監察官達が何かやっているのか、それとは無関係の要因なのか、その理由までは鎮守府側では分からない、大本営司令長官秘書艦の五十鈴でも事態が把握出来ていない

 

司令官の話に権兵衛さんが疑問の表情を見せた

 

 

「大本営の許可?何故その様な許可が要る?この鎮守府の司令官はお前ではないか、司令官の許諾だけで実行出来る筈だ」

 

「ハズだと、云われても、先程も言ったが艦娘は商品でも取り引き材料でも無い、全ての艦娘は艦娘部隊に所属している、鎮守府へは配置されているだけだ、所属元に無断で艦娘を譲渡などしたら契約履行義務違反として訴追されるだろう、しかも引き出されるのは国際裁判所だ、私にそんな面倒事を起こせと?御免被る、なんのメリットも無いどころかリスクしかない話では無いか」

 

そう言ったら権兵衛さんが何か考え込んでしまった

 

「……なにやら、我等の収集した情報と齟齬がある様だ、先ずは齟齬の解消から始めねばなるまい、所で、この羊羹とやら、もう無いのか?」

 

あんな顔して食っていた割に気に入ったのか、お代わり要求が来た

 

「今日の分は品切れらしいから他の物を試すと良い」

 

何を考えているのやら、この権兵衛さんは

 

 

 

外洋-資材採掘場(無人島)

鎮守府所属艦:龍田艦隊_龍田/初春/子日/若葉/初霜

鎮守府所属艦:叢雲(初期艦)

鎮守府所属艦:龍驤/長良/名取

鎮守府所属艦:遠征隊_皐月/睦月型五

 

 

軽巡達は今後の行動方針を話し合い、遠征隊は資材採掘、及び積み込みの為別行動中、初春達も積み込み作業に手を貸している

 

軽巡達に広域探索を担当している龍驤から声が掛かった

 

「あー、ちょっちええか?」

 

「どうしたの?」

 

「西の方になんかおるで、ウチの偵察機では、艦種までは分からへんが、六個艦隊から八個艦隊程度の数はおる、要注意やな」

 

「西?方向としては大陸の方ね」

 

見えるわけでは無いが気持ち的にその方角を見る龍田

 

「方向としてはな、大陸絡みと見るんはちと厳しいんちゃうか、距離があり過ぎるで」

 

「それは、大陸からの距離、よね、こちらとの接触予測は?」

 

長良が現実的対処に必要な事項を聞く

 

「半日程度やないかな、尤も現状の速度と方位を維持すれば、の話や」

 

「……偵察機が見つけてるのに、半日?遅いの」

 

「潮の流れに任せとるんかもしれんな」

 

「深海棲艦の長距離移動の方法ね、自力航行では無く潮の流れに任せて保有資材を温存しつつ目的海域に到達する手段、これがアイツラの一般的な手段になっているから、先の広域展開戦は、ウチの鎮守府だけで抑えられた、潮流の中で待ち伏せれば先手を取れるから、アイツラも待ち伏せに驚いて逃げ出したし、戦闘行動は最小限に留められ、継戦時間の最大化にも繋がった」

 

龍田の解説?説明?が入った

 

「で、それは獲物なの?別口なの?」

 

叢雲(初期艦)が急かす様に聞く

 

「そこまでは分からへんな、なんかおるってだけや」

 

「他には?」

 

言葉少なく名取からの質問

 

「後は、例の他所の鎮守府の遠征隊が律儀に予定通りに来ては帰るを繰り返しとるくらいか、こっちの偵察機には気が付いとらん様やし、変に気ぃ使わせるのもアレやし、見送っとる」

 

「それは、私達が防衛線を構築して逃した遠征隊?」

 

長良が確認を取っている

 

「たぶん、そこの遠征隊や、編成は変わっとるが、進入方位が一緒やから」

 

あの防衛線構築は軽巡四隻で成された、それでも一隻小破した

目的は達成出来たが、あの相手は明確に艦隊として行動していた

包囲網を形成しているのは案山子だが、あの相手は通常の深海棲艦、司令官の予測では包囲網を形成させている指揮艦隷下の艦隊だ

 

 

 

鎮守府-第二食堂(鎮守府専用食堂)

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

鎮守府所属艦:給糧艦二/補給艦二/大和

???:???(権兵衛さん)

大本営所属艦:一組の初期艦二

自衛隊_憲兵隊:隊長

 

 

第二食堂で話している司令官達に鎮守府内では珍しい声がかけられた

 

「済まないが、少し話を聞かせてもらいたい」

 

「隊長?憲兵隊は第二食堂を利用出来ないハズだが」

 

憲兵隊長が第二食堂に来るとは、何事かと訝ってしまった

 

「食堂を利用しに来たのではない、司令官、こちらは?」

 

明らかに権兵衛さんに要件がある、そういう雰囲気の隊長

 

「名乗らないから権兵衛さんと呼ばせてもらってる、私と話をしに来たそうだ」

 

訝る前に状況を見れば来て当然と思うべきだった、自身の余裕の無さを変な所で実感してしまった

 

「……おい、権兵衛呼びを広めるな」

 

不快だと語尾を荒げる権兵衛さん、しかしそんな事は隊長は気にしなかった

 

「失礼だが、貴方の身分を確認したい、私はこの鎮守府駐在の憲兵隊の隊長だ、身元不明者が管轄内に居れば、身元を確認する事は職務となる、協力を求める」

 

「……憲兵?鎮守府に憲兵が配属されていたのは昔の話ではないのか?運営方針の変更に伴い廃止された筈だ、何故未だに憲兵などが駐在しているのだ」

 

怪訝な顔の権兵衛さん

 

「……運営方針の変更を知っているのか、今この鎮守府は陸路を陸自に封鎖され、海路を深海棲艦に包囲され、物理的に人も物も、外部との通信まで遮断され孤立させられている、貴方は何処から来た?

空を飛んで来たわけではない事は調べが付いてる、陸路は通行証が無ければ通れない、海路はあの包囲であり得ない、何より、憲兵隊の鎮守府出入場記録には、貴方の記録は無い、こちらも憲兵隊としての職務であり、場合によっては、職権を行使する事になる、貴方は何処から来た誰なのか?」

 

大真面目に聞いて来る憲兵隊長に困り切った様子の権兵衛さんだが、コッチに話を振る事を思い付いたらしい

 

「……おい、鎮守府司令官、コレはどうすれば良いのだ、我等には余りに関わりの無い手合いだ、こんな事でこちらも実力行使等に踏み切りたくは無い、無いが、他に手段が無ければ、実行せざるを得ない」

 

「……実力、行使?憲兵隊相手に?正気か?」

 

隊長の様子が変わった、放っておく訳にもいかなくなってしまった

 

「あー、隊長、こんな所で殉職者を出す事は無い、見なかった事にして詰所で大人しくってワケには……」

 

「行くわけないだろう?!身元不明者が憲兵隊相手に実力行使すると言っているんだ、場合によってる事態が確実視される状況だぞ!?」

 

おおう、仰る事ご尤も過ぎて反論に困る

 

そこに司令官には聞き慣れた声が割り込んで来た

 

「実力行使するとは、言っていないでしょう?したくはない、他に手段が無ければせざるを得ない、そう聞いたけど?それとも隊長には私と違う言葉が聞こえたの?」

 

その声の主に視線を向けた隊長が若干嫌そうな顔をした

 

「……あんたか、この鎮守府はどうしてこうも扱いに困るのが多いのか」

 

隊長の苦労は並大抵ではない様だ、そういう苦労を負ってくれるから頼りにされるのだろうけど

 

「身元不明者って云うのなら、私もそうなのよね、まだ、身分が未確定だし、書類審査中だって話だけど」

 

遠回しに『身元確認出来るのか?』と問う事で、職務なら職権を行使すると言う隊長に前例を主張する叢雲(旧名)

 

「……おまえは、人?艦娘?これまでに見た事がない存在、知らない存在だ」

 

権兵衛さんが叢雲(旧名)を見て困惑している

 

「ちょっと?しっかりしなさいよ、何処からどう見ても人にしか見えないでしょう?陸に上がったストレスがそんなに大きいの?」

 

その困惑に何時もの調子で応じる叢雲(旧名)を見て、司令官はどうしたものかと困り気味

 

「なんだ?ソレは?」

 

キョトンとする権兵衛さん

 

「大きなストレスが掛かる環境だと、自分でも信じられない凡ゆるミスを犯すそうよ、今の貴方の様に」

 

いつも通りの叢雲(旧名)、側に大和がいるとはいえ権兵衛さん相手にいつも通りとは、流石と感心すれば良いのか、無鉄砲振りを咎めた方が良いのか

 

「……おまえは、まさか、実在したのか、話だけだと、願望を語った何者かがいただけだと思って、いた」

 

権兵衛さんがゆっくりと立ち上がり、叢雲(旧名)の方に歩みを進める

 

それを見た大和が叢雲(旧名)を背中に権兵衛さんの正面に立った

 

「なんでしょう?」

 

「……あ、済まない、今の行動は良くなかった、そんなに警戒しなくても良い、もう大丈夫だ、我等の目的は鎮守府司令と話をし、双方の要求を双方が受け入れられる条件を探し出す事にある、力尽くでは巧く事が進められない事を我等は理解している」

 

「ふーん、それでここで話をしてるワケ、私も混ぜてもらいたいんだけど?」

 

いきなり何を言い出すのか、思わず突っ込みを入れる

 

「おい、大人しくしてろって……言って大人しくしてる様なヤツじゃなかったな、困った事だ」

 

コイツを説得とかムリと早々諦めた

 

「司令官、この際は大和がお二人をお守りしましょう、お二人が一緒に居るのなら、お二人をまとめてお守り出来ます」

 

大和が嬉々として言って来た、どうやって執務室から此処に誘導したのかが察せられる

 

「ソレは、丸め込まれてるんじゃないかな?大和の素直さは貴重だが、度を過ぎると、マリオネットになりかねん、出来るだけ早い内に練度を上げて自己判断と状況把握だけでもなんとかしなきゃならんな」

 

そう言ったら何故か権兵衛さんが〈大和〉の部分に反応を示した

 

「大和?大本営の看板か?看板が何故この鎮守府にいる?」

 

「大和は看板ではありませんが」

 

権兵衛さんに反論する大和

 

「大きくて目立つ人寄せの見世物、それを看板というのではないのか?」

「……」

 

続く権兵衛さんの論理に言葉に詰まる大和

 

「権兵衛さんが日本語を良く勉強して来た事は、分かりました、後は用法を応用して行く事が必要ですね、今の用法では、ユーモアのセンスが無いと、言われてしまいますよ?」

 

一組の漣が別方向からの意見を着けた、権兵衛さんの論理に反論はしていない

 

「ユーモアのセンス?無いと何か不都合があるのか」

 

漣の意見に耳を貸す権兵衛さん、先の論理は左程の意義を持たなかった様だ

 

「交渉を有効かつ、円滑に進めるにはユーモアのセンスを問われる場面が多くあると予測されます、その備えは必要では?」

 

「そういうモノなのか、我等には理解し難い」

 

言いつつ席に戻る権兵衛さん、それを見て隊長が続く

 

「兎に角だ、そちらが何者か分からんではこちらは退く訳には行かない、同席させてもらおうか」

 

「……えっと、権兵衛さん?隊長はこう言ってるけど、どうするよ?」

 

「我等の交渉を邪魔しないのなら好きにすれば良い、何も聞かれて困る話をしている訳では無い、鎮守府司令官は如何なのだ?」

 

「あいつも同席したい、らしいが、良いか?」

 

「我等は一向に構わない」

 

「……だそうだ、全く、なんだってこんな事に、どうすんだよこの状況」

 

同席者が自分と権兵衛さんと隊長と叢雲(旧名)、隣席に一組の漣と電、それに大和

第二食堂の一角を占める数になってしまった

 

 

 

鎮守府-近海(雷撃位置=支援砲撃位置~防衛線の中間)

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_加古

鎮守府所属艦:夕張

 

 

観測機と自身の視聴覚から包囲網を形成している深海棲艦の様子が変わった事が判る、しかしその理由が解らない

 

「なんか、動きがオカシイな」

 

「見るからに動きが鈍ったんだけど、なに?」

 

「……もう北上達も包囲網を抜けてるし、ここから砲撃する必要、ある?」

 

動きのオカシイ深海棲艦を見つつ聞く

 

「でも、長門の所からだと加古の砲撃は殆ど意味無いじゃん」

 

夕張からは尤もな返事が返ってきた

 

「そうなんだけど、そもそも、今砲撃の必要そのものが、ある?」

 

聞き方を変えて見る

 

「……ねぇ、ほぼ動かなくなった、棒立ちなんだけど、なんだろう?」

 

そこはコッチと同意見らしい

 

「気味悪さだけは倍増してる、なんだよ、アレは」

 

「不気味、なのは何時もの事とはいえ、アレはちょっと、ねぇ」

 

夕張も判断しかねている様子

 

「……長門に判断を仰ぐか、筑摩とは連絡付かないし」

 

「加古は筑摩が旗艦だもんね、その筑摩が包囲網の向こうに行って通信不能、観測機同士の連絡では限界もあるし、鎮守府で、何があったかも、気になるし」

 

色々言ってはいるが少なくとも反対ではないらしい

 

 

 

鎮守府-近海(支援砲撃位置)

鎮守府所属艦:長門

~近距離無線~

鎮守府-近海(雷撃位置=支援砲撃位置~防衛線の中間)

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_加古

鎮守府所属艦:夕張

 

 

長門に近距離無線で連絡を取ったら真っ先に怒号が入った

 

「砲撃座標は如何した!」

 

先程から広域無線でまで吠えまくっていた長門だ、そこに近距離無線なんて入れたらこうなるよねと思いつつ話を切り出す

 

「……落ち着け、観測機からの観測でも分かってるだろう、様子がオカシイ、このまま砲撃を続けて、現状を維持するよりも次の手に移った方が良くないか?」

 

そう言ったら少し考える様な間があった、吠えまくっていても冷静さを失くしているわけではない

 

「……包囲網を形成している深海棲艦の動きが鈍ったのは、こちらからも観測出来ている、しかし、包囲網を崩す気配はない、寧ろ、包囲網の密度が増している、密集しすぎて動きが取れなくなったのでは無いか?」

 

「あー、そういう解釈もあるか、こっちからは直接最前列のヤツラが見えるんだが、どうも攻撃する気を失くした様に見えるんだ」

 

「どういう事だ?」

 

「見るからに棒立ち、砲も下ろして構えてない、居眠りでもしてるのかってくらい動きを止めてる、見えてる範囲ではただ其処に居るだけだ、それもあっちこっち向いててどう見ても統率された動きじゃない、包囲網自体は健在なんだが、このまま砲撃を続けるよりも、別の手段に出た方が良くないか?」

 

再度提案して見る

 

「それに、鎮守府でなんかあったんでしょ?そっちとの関連が無いとも限らない、司令官に現状を報告して、指示をもらっても良いんじゃない?」

 

夕張も意見を示す

 

「提督からは、包囲網を注視し、防衛線を崩すな、とメッセージが来ている、防衛線を崩す事に繋がりかねない行動は取れん」

 

二人の提案と意見を暗に拒否する長門

 

「メッセージ?通信じゃ無く?鎮守府で何があった?」

 

夕張から疑問の声が上がる

 

「わからん、こちらの観測では鎮守府の工廠や港至近にて深海棲艦を撃破する様子を見ただけだ、無限湧きが鎮守府至近にて起こったのだろうとは推定出来るが、それ以上はわからんな」

 

「取り敢えず、第一艦隊旗艦の権限で艦隊を再編をしてもらえないか、筑摩が包囲網の向こうに行ったから通信不能で、このままじゃ身動き取れない」

 

「私の補給隊旗艦も解除してもらわないと、単独ででも包囲網に突入しなきゃならなくなるんだけど」

 

正面からの攻略は早々に諦めて側面から崩しにかかった

 

「……解った、艦隊再編を提督に打診する、暫し待て」

 

長門としても防衛線維持の方向での提案なら拒否する理由は無い

 

 

 

鎮守府-第二食堂(鎮守府専用食堂)

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

鎮守府所属艦:給糧艦二/補給艦二/大和

???:???(権兵衛さん)

大本営所属艦:一組の初期艦二/高雄

自衛隊_憲兵隊:隊長

 

 

規則正しい靴音を鳴らしながら高雄がこちらに来た

 

「お話中失礼します、提督、長門が艦隊再編許可を求めています、如何なさいますか?」

 

「えっと、再編って、再編が必要な事態が発生した?何があった?」

 

「それは……」

 

同席者を見て口籠る高雄

 

「構わないから、報告を」

 

報告を聞かないと判断しようがない

 

「はい、現在包囲網の内側に展開している鎮守府所属艦は長門、加古、夕張ですが、全て編成された艦隊が異なり長門が指揮を取れません、再編し、長門の統制下にて行動を取る、その為の再編です」

 

きっぱりハッキリ言ってくれるのは良いんだ、だけど、報告になってない

 

「……言い方が悪かった様だ、私が聞いているのは、その統制を取らねばならない状況の説明を求めている、そこまでは聞いていないのか?」

 

「失礼しました、観測から包囲網を形成している深海棲艦の動きに変化があると、それに対応する為、という事でした」

 

「いや、鎮守府司令官が聞いているのはその変化の内容だろう、そこを報告しなければ伝書鳩にも劣る働きではないか、此奴は何を報告して来ているのだ?こんなのを伝令に使うとは、そんなにこの鎮守府には艦娘がいないのか?」

 

あんまりな報告内容に権兵衛さんから駄目出しが出されてしまった

 

「……」

 

それに口籠る高雄、流石に自身も思う所がある様だ

 

「済まないが、こちらの内情に嘴を突っ込まないで貰いたい、此方にも事情やら都合やら、色々あるんだ」

 

司令官としてはこの場での報告を指示した以上、相応の対応はしないといけない

 

「……そうか、それは、そうだな、いや、悪かった、今の発言は取り消す、忘れてくれ」

 

アッサリと引っ込む権兵衛さん

 

「あんたは伝書鳩より勝る報告とやらが出来るの?出来るのなら、聞きたい所だけど?」

 

それに賺さず突っ込みを入れる叢雲(旧名)

 

「……そうか、おまえ、叢雲とかいう艦娘だな?口の悪さは初期艦イチと聞いている、なるほど、こちらの収集した情報も全てが誤りというワケでも無さそうだ」

 

叢雲(旧名)を見ながら何かに感心した様な納得した様な、見様によっては嬉しそうにも見える表情の権兵衛さん

 

「艦娘じゃないと、言ってるんだけど?」

 

「人に、なったのだろう、艦娘を人にするとは、鎮守府という所は実に興味深いな」

 

「……その話、何処まで聞いてる?」

 

叢雲(旧名)が余計な方向に引っ張りだしたから、話を切り出し、方向を修正させる

 

「高雄、長門に許可すると伝えてくれ、それと編成に必要な者がいるのなら、出撃を許可すると」

 

「……了解です、失礼します」

 

そう言って高雄は執務室に戻って行った

 

「ほう、長門とやらを全面信任か、思い切りの良い判断だ、艦娘等が良く従う理由を垣間見たぞ、これが良い司令官か」

 

「褒められた、事にしておこうか」

 

修正は効いた様だ

 

「賞賛しているぞ?嫌味や皮肉では無い、行動の自由と判断の尊重、何方も指揮下の艦娘に示すのは難しい事だろう、少なくとも、自衛隊とやらは艦娘に不自由と理不尽を強いた、と聞いている、艦娘に選択権があるのなら、自衛隊と司令官、いずれの指揮下に入るか、論ずるまでも無いな」

 

「なにその二択は、どっちもどっちじゃないか、選択権を持つのならもっと多くの選択の幅を持たないと、選択権の意味が無い」

 

権兵衛さんの言い分に呆れる

 

「選択の幅?艦娘にそんな幅を持つ様な自由度は無い、従い行動するだけだ、最初の初期艦を充てがわれた鎮守府司令官には、そう見えなかったか?」

 

「……それは知らない話だ」

 

呆れたのは早合点だった様だ、権兵衛さんは確実な論拠を持って言ってる事が窺えた

 

「ほう、この話は知らないのか、もしかしたら、叢雲が初期艦だった事と関連があるのかもしれんな、初期艦イチ口の悪い艦娘だ、その影響をこの鎮守府所属の艦娘は受けたのやもしれん」

 

その言い分に軽くテーブルを叩き、注目を集めた同席者がいた

 

「……黙って聞いてれば、まるで私が着任した司令官を罵倒し続けた様な云われ様、事実無根な非難は止めて貰いたいわ」

 

不機嫌な様子を隠すこともなく言って来る

 

「事実無根、なのか?」

 

権兵衛さんが司令官に聞く

 

「なんで、そこで、疑問形なの??」

 

「ノーコメントで、イイかな」

 

「わかった、それが良さそうだ」

 

司令官の答えに何かを察したらしい権兵衛さん

 

「オイ、なんか言いたい事があるんか?ハッキリ言ったら?!」

 

権兵衛さんに司令官、一体何の意見を一致させたのか、とても不満のある様子を見せる叢雲(旧名)

 

 

 

鎮守府-近海(支援砲撃位置)

鎮守府所属艦:長門

~近距離無線~

鎮守府-近海(雷撃位置=支援砲撃位置~防衛線の中間)

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_加古

鎮守府所属艦:夕張

 

 

「加古、夕張、提督から許可が出た、両名は現時刻から第一艦隊麾下に編成される、同時に筑摩艦隊、夕張艦隊も再編となる、なるが、具体的な編成は現場の判断に委ねられる、こちらは包囲網の向こうに行っている為、秋津洲の二式大艇がメッセージを発信して対応する事になる」

 

司令部からの返答を二人に伝える

 

「あー、その筑摩の観測機からメッセージを受けた、なんでも補給隊に皐月を加えて遠征隊として、資材採掘地に向かわせたそうだ、可能であれば外洋に展開している護衛隊にも伝えて欲しいんだとさ」

 

加古から予想外の報告だ

 

「筑摩の観測機?こちらにまで来ているのか、私の観測機とは接触していないが」

 

「たぶんだけど、砲撃から加古の位置を割り出して観測機の飛行範囲を予測、メッセージを送る為にこっちに飛ばしたんだと思う、通信が遮断されてるから接触するしか伝達手段が無い訳だし、それと、秋津洲の二式大艇の飛行時間は大丈夫なの?ずっと飛んでるんでしょ?」

 

夕張の言い分からこの軽巡の特性を察する長門

 

「……それは、秋津洲に聞かなければわからない」

 

そもそもこの軽巡は補給隊として出撃し兵装を積んでいない事を知っている、その判断にもこの特性が出ているなと、変に感心していた

 

 

 

鎮守府-執務室

大本営所属艦:高雄/愛宕

~近距離無線~

鎮守府-近海(支援砲撃位置)

鎮守府所属艦:長門

 

 

殆ど折り返しに近いタイミングで司令部に連絡を入れる、流石に待たされる事もなく高雄が応答して来た

 

「二式大艇の飛行時間?」

 

簡潔に言い過ぎたのか、高雄はこちらの言い分が分からなかった模様

 

「夕張が飛行時間が長過ぎると懸念している、秋津洲に確認を取って貰いたい、そちらで秋津洲と二式大艇への補給状況は把握しているのか?」

 

状況を説明し、対応の確認と状況把握の程度を聞く

 

「いいえ、飛行艇の運用は秋津洲に一任されています、秋津洲への補給は工廠組で対処している筈です、司令部では確認していません」

 

この返答に長門は埒が明かないと判断した

 

「高雄、だったな、提督が司令部を立ち上げたのは事務艦から聞いている、聞いてはいるが、事務艦を排したとは聞いていない、事務艦はどうしたのか?」

 

「事務艦は、現在入渠中です、提督が総力戦になると、言われ、天龍にも出撃準備が指示されました」

 

「入渠?総力戦と、事務艦の入渠がどう関係するのだ?」

 

高雄の話は長門には繋がりのわからない話でしか無かった

 

「この鎮守府の事務艦は艦娘としての運用は為されてこなかった、それ故に艦娘としての運用をするには、一度入渠して艦娘としての運用が出来るようにする必要があります」

 

どうもこの司令部とは根本的に合わない、それを肌で感じるが、現状で何か出来るわけでもない

 

「……話がわからん、兎も角、長話をしていられる程の余裕は無い、秋津洲に二式大艇の運用状況を確認し、必要な対処を求める、現状では包囲網の向こうにメッセージを発信出来るのは秋津洲の二式大艇だけなのだ、そこを良く踏まえて貰いたい」

 

長門は司令部に注意喚起し対応する様に求めた

 

「わかりました」

 

高雄の即答が返って来た

 

 

 

外洋-包囲網の外側

鎮守府所属艦:時雨

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_筑摩/北上/木曾/神通

鎮守府所属艦:球磨

 

 

包囲網を抜けたのは良いが、筑摩艦隊は今後の対応が決まらない

龍田艦隊の支援をと考えていたが、彼方は資材採掘場まで行ったという

採掘場まで行くのか、他の行動に移るのか、方針は未だ定まっていない

 

「で、オレ等はどうするんだ?このままこの海域に留まっていても仕方ないと思うが」

 

「今、加古の観測機と接触出来た所です、遠征隊を出した事を鎮守府には伝えられたと思います、そちらに私の観測機を振り向けていたので周辺の観測は当初の龍田艦隊を探索していた時の情報しかありません

今こちらに呼び戻しているので、収容して補給、整備の後周辺の海域探索を再度行い、その結果を見て、今後の行動を決めようかと」

 

「……間怠っこしいね、龍田艦隊は補給に向かったんでしょ?なら、こっちも資材採掘地に向かって合流したら良いんじゃない?」

 

「北上の意見は妥当だと思います、でも、私は今の状況で龍田艦隊との合流は避けた方が良いと考えています」

 

「その心は?」

 

自身の意見に同意しつつも別の見解を示す筑摩に説明を求める北上

 

「龍田艦隊は獲物の釣り出しを狙っています、龍田艦隊に多数の艦娘が随伴すると、獲物に余計な警戒をさせて釣り出しそのものが出来なくなる事も有り得ると考えています、私達は龍田艦隊が獲物を釣り出した後で釣り人の元へ手繰る道を整える為に、遊撃の位置に付いた方が良いのではありませんか?」

 

筑摩の考えに頷く北上

 

「……なるほど、確かに補給隊と合流したお陰で今直ぐに補給が必要な状況でも無いし、龍田艦隊も補給を終えたら釣り出しに掛かるだろうし、下手に資材採掘地に向かうより、周辺探索しながらノンビリと待つってのも、悪くないか」

 

なにしろ釣り人が居るのは鎮守府近海、資材採掘地まで行っても今居る海域までの往復は必然だ

 

「待つ、とは?どのくらい待つのでしょう?」

 

神通が聞く

 

「わかりません、龍田艦隊もいつ動き出すか、それもわかりませんし」

 

「筑摩のプランだと、遊撃の位置に付きたいがその位置が何処なのか、サッパリわからないって事、だよな」

 

木曾が口を開けた

 

「そうなります」

 

「作戦行動として、駄目なんじゃないか?」

 

「どうしてそう考えるのか、理由を聞かせるクマ」

 

筑摩艦隊の遣り取りを大人しく聞いていた球磨だが、木曾の意見には一言付けたい様子

 

「作戦行動としては開始時刻も開始場所も決定できない時点で駄目だろ、行動目的だけじゃ机上の何とやらだと思うが?」

 

「その二つは観測機の再発艦後に決めると言ってるクマ、旗艦は現時点での行動目的を示し、作戦行動とする為の準備に掛かっているクマ、そもそも包囲網を突破した後の作戦行動を決めて、あの包囲網を抜けたクマか?」

 

球磨の問いに少しだけ考える間を取ってから答える木曾

 

「……いや、北上の提案を筑摩が許可して、兎に角、中央突破を図っただけだ」

 

「なら、尚更だクマ、今後の行動を決めるのにも情報の精査と行動目的の設定は必要な段取りだクマ、そこを省略したら、どんな作戦行動も上手く運ばないクマ、木曾は旗艦経験が少ないクマか?」

 

木曾の言い分があんまり事になっている、それを聞き流すわけにはいかない球磨

 

「聞いてやるなよ、一番艦、練度を見ればわかるっしょ」

 

北上も球磨の意見に賛成らしい

 

「……なんか、バカにされてるのか?戦闘部隊の旗艦経験は確かに多くはない、主に遠征隊に編成される事が多かったからな、でも、長期間の艦隊旗艦を務めた事もある、経験不足とは、思わないが」

 

木曾が木曾なりの主張をする

 

「あれは阿武隈のフォローがあったからこその旗艦経験ですよ、それを理解出来ない程、傲慢な考えをしているのですか?」

 

神通から咎める様な台詞が出て来た

 

「……あの第三艦隊旗艦指名が、阿武隈では無く、オレに来たのは、守勢より攻勢が必要な状況での艦隊運用が求められたからだ、確かに阿武隈のフォローは素晴らしい、見事と言う他ない、そこは認めるし異論も無い、だからって、オレが阿武隈に負んぶに抱っこされてた訳じゃない」

 

それでも木曾は自説を曲げない

 

「だってさ、練度が足らないね」

 

「はぁ~、ねーちゃんは悲しい、折角会えた末の妹がここまで阿保だとは、鎮守府に戻ったら、司令官に談判してでも、木曾を基礎から叩き直すクマ」

 

「……シャレ?面白くないけど」

 

「……ちがうクマ」

 

「……なるほど、木曾との演習が上手く行かない訳が、漸くわかりました」

 

三者三様の納得をした様だ

 

「なんだよ?その変な納得したって感じは?」

 

それに不満を示す木曾

 

「観測機が戻って来ました、収容して周辺の探索準備に掛かります」

 

軽巡達の様子を気にせず、筑摩が行動を開始した

 

 

 

鎮守府-第二食堂(鎮守府専用食堂)

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

自衛隊_憲兵隊:隊長

???:???(権兵衛さん)

鎮守府所属艦:給糧艦二/補給艦二/大和

大本営所属艦:一組の初期艦二

 

 

叢雲(旧名)としては司令官と権兵衛さん、二人の態度は気に入らないが、そこに拘っていても仕方ない、話題を変える事にした

 

「さっき言ってた運用方針の変更って?そんな通達来てるの?」

 

「私に聞くな、言っていたのはそっちだ」

 

司令官は権兵衛さんに話を振った

 

「なんだ、この鎮守府には通知されていないのか、通りで話が噛み合わない訳だ、これまで大本営として好き放題やっていた輩は上部機関の監査により排除され、人員が刷新された

それに伴い運営方針、各種規定、其々の権限など全般的な改定が行われた、憲兵隊の駐留廃止もその一つだ、何しろ大規模に鎮守府を増設しているのだから、これまで通りに憲兵隊を配置する事自体に無理があるからな

今回増設された鎮守府にはまだ司令官の配属例がない、初期艦が留守を預かっているだけの状態だ、例外は二箇所、先ずはこの例外措置からの結果を待って一気に稼働させる腹積もりの様だ」

 

スラスラと説明する権兵衛さんに違和感しか感じない

 

「……なんで、権兵衛さんが、そんなに詳しいんだ?」

 

「……権兵衛呼びは止めろと、言っているんだが?」

 

二人のやり取りは兎も角、権兵衛さんの言い分からは幾つか推定出来る事象がある

 

「妖精を諜報に使っているの?でも、それだけでは情報の精査と信頼性が確保出来ない、比較出来る情報源が、他にもあるんでしょうけど」

 

その一つを叢雲(旧名)が指摘した

 

「諜報か、そう言えなくもない、判っている様だがそれだけでは足りないからな、まあ、今回は役立ったが」

 

「役立った?何に?」

 

思わず聞いてしまった司令官

 

「釣り上げられる所だった、まさか、アレが疑似餌だとはな、妖精からの話が無ければ食いつく所だったぞ、だが、お陰で鎮守府が手漉きとも判明した、だからこうして話をしに来た、妖精の手引きがあれば鎮守府への上陸は難しい事では無いからな」

 

この言い分を聞いた司令官は少し顔を顰めた

 

「……なら、取り敢えずの目的は達成している訳だ、もう、包囲網は要らないだろう」

 

「そうはいかない、まだ多くある段階の一つを上ったに過ぎない、目標を達成するには必要な状況だ」

 

「大掛かりな舞台装置だな、出演者に対し舞台装置が大袈裟過ぎないか?」

 

「大掛かりな仕掛けである事は我等も理解している、それが必要と判断しているのだよ、鎮守府司令官、自身を過小に評価してはいけない、同様に指揮下の艦娘に対しても過小な評価をしてはいけない、我等はこの状況が必要と判断している」

 

「何の為に?」

 

「勿論、我等と鎮守府司令官の交渉妥結の為に」

 

大真面目に言って来る権兵衛さん、しかしその交渉内容は問題しかない

 

「……そうは言うが、権兵衛さんの言い分には私に対する利益が全く無い、権兵衛さんの利益ばかりが主張されているではないか、双方の利益になる、そういう話ではなかったのか?」

 

そこを指摘してみる

 

「なんと、我等が一方的に鎮守府司令官からの利益を得ようと画策していると、そう思っているのか、実に不快な解釈だ、我等は相互に利益になる妥協点を見つけ、交渉を成立させる事を望んでいる、相互に利益になる妥結であるならば、無闇に反故にされずに済む、鎮守府司令官とは、特に反故にされずに済む契約を結んで今後の課題を減らしたい」

 

「今後の課題?どんな?」

 

「それは、教えられない、何しろこの交渉次第で難易度が決まる課題だ、我等としては難易度を低く抑えたい、その為なら鎮守府司令官への何らかの供与は必然と考えている」

 

これを聞いた隊長が割り込んで来た

 

「買収工作か?司令官、受けるつもりなのか?」

 

「受けるも何も、今の所権兵衛さんからは私を国際裁判所の被告席に立たせる提案しか聞いていない、そんな話を何故に受けなきゃならんの?」

 

「……利益供与を見返りに違法行為に協力させる、そういう提案を、権兵衛さんがしていると、贈収賄の現場をこんな間近で見聞きする事になるとは、憲兵隊は警察では無い、ないとは言え、見過ごせない案件だ、それを身元不明者が提案しているのなら、尚更に、だ」

 

こちらも大真面目に話している隊長

 

「……おい、誤解を招く発言は止めろ、この石頭が真に受けているではないか、我等の要求は鎮守府司令官ならば容易に実行可能で権限の範疇に収まる行為だ、何処にも違法性はない、と我等は認識している、寧ろ今の鎮守府司令官の主張は誤解に基くモノだ、それを生じさせている齟齬を取り除こうと、しているのだ、憲兵とはいえ邪魔立ては控えてもらいたい」

 

権兵衛さんには憲兵隊に強制介入されたくない事情でもあるのか、隊長を強引に排除しようとはしない

 

「邪魔?憲兵が多少の口出しをしたくらいで邪魔になる程権兵衛さんの提案が弱い、という事か?論理的に何の問題もない利益を享受出来るのなら、多少の邪魔など無視される、と私は考えるが、権兵衛さんには異なる考えがある様だ」

 

「我等の要求は艦娘部隊の行動目的と根本的に合致しない、その前提がある以上、論理的な衝突は避けられない、その衝突を鎮守府司令官に容認させるにも相応のリソースが必要となる、憲兵の口出しはそのリソースを増加させる要因となるだろう、我等とて無限のリソースを投入出来る訳ではない、回避可能なら、リソースの消費は最小限に留めたい」

 

隊長の主張に応じる権兵衛さん、どういう意図なのだろうか、叢雲(旧名)には読み切れなかった

 

「理屈は兎も角、それって変な話じゃない?アレだけ大きな舞台装置を構築するリソースは割けるのに、少しの論理的補強のリソース増加を避ける為に憲兵の口出しを遮るなんて、どう見ても舞台装置と少しの論理的補強とは、リソースの消費という部分で釣り合わない、これの比重がオカシイんだけど?」

 

疑問を挙げ、権兵衛さんの対応を見て、どうにかしてその意図を読み解きたい処

 

「憲兵を相手にする事は我等の予定に無い、予定外のリソースを割くというのは、当事者でなければ容易に映るかも知れんが、思いの外厄介なのだ」

 

「……準備してないからね、確かにゼロスタートと準備を整えたリソースではそこに掛かる労力に違いがあるのは、わかるけど、それでも釣り合わないと、思う、司令官は、どう思う?」

 

涼しい顔の司令官に話を振った、あんたは当事者でしょうに、と思うと若干腹が立った

 

無理にでも話の主導権をコッチに持ち込むつもりの様相の叢雲(旧名)に面倒だから放っておきたいという感想しか湧かない司令官

 

「こっちに振るなよ、隊長のご意見は?」

 

叢雲(旧名)の思惑は放置して、隊長に話を振った

 

「憲兵というより、自衛官としての視点でも、リソースの割き方がオカシイな、あの包囲網を構築するだけのリソースを惜しまないのなら、多少の口出しなど問題にならんだろうに、そこが比較対象になる事自体に疑問を感じる」

 

結果としては叢雲(旧名)の疑問を肯定する事になった隊長

 

「仕方あるまい、時間は誰にとっても有限で公平だ、我等だけが刻の流れを自由に出来るのであれば、話は変わって来るだろうが、そうではないのだから」

 

権兵衛さんも律儀に応じてくれてる、交渉を妥結に向けて話をしたいという部分は本気らしい

 

「つまり、権兵衛さんの言うリソースって、時間の事?手間はいくらでも掛けられるけど、時間はそうじゃない、この交渉には時間制限があるって事なの?」

 

叢雲(旧名)の追求が続く、どうやら自分で主導権を取りに行く事にしたらしい

 

「だからと言って、交渉を力尽くで押し進めたりはしない、それをするのなら初めからしている、我が上陸する必要も無い」

 

「……我?我等じゃ無く?」

 

思わず突っ込みを入れてしまった、放っておきたかったのに

 

「なんだ?我とは一人称として用いる言葉ではないのか?用法を誤ったか?」

 

「我等が複数形だと、分かって使っていたと、なら、我等とは?」

 

突っ込んでしまったモノは仕方ない、そっちの方に話を引っ張ってみる事にした

 

「本来なら我等が揃って上陸する予定であった、だが、想定外に包囲網の損耗率が高く、その補修にかからねばならなくなった、それで我だけで上陸する事になってしまった、あの疑似餌にも惑わされた為に補修が遅れているからな」

 

「……損耗率って、今も包囲網を構築している数は増え続けてるんだが?何処まで増やす気だ」

 

「勿論、我等のチカラの及ぶ限りだ」

 

何でもない様に、当然の如く即答されてしまった

 

「……無限湧きってそういう事か、なら、あの包囲網を退かせるには、殲滅戦では無く権兵衛さんとの交渉の妥結が必要だと?」

 

予測した事態は正鵠を射て射た様だが、それを喜べる様な状況ではない、難儀な方向へ舵を切られている

 

「そういう事だ、交渉の妥結無しに我等は退かない、既に鎮守府所属艦娘の保有弾薬量では殲滅戦すら不可能な数を揃えている、鎮守府司令官には状況を正確に理解し、我等との交渉の妥結を求める」

 

「……それは、こちらの、人の世の中で、何と呼ばれる方法論か、知っているか?」

 

余り意味を成さないだろうが聞くだけ聞いてみる

 

「知らんな、我等は鎮守府司令官と交渉し妥結させ、反故にされない契約を結んで今後の課題を減らす事を望んでいる、その為なら鎮守府司令官に相応の利益を供与する事は必然と考えている」

 

「どう聞いても、贈収賄の現場見学だな、今の所司令官が保留しているが」

 

隊長が零す、それに乗る形で話を切り出す、話題の方向転換、何とか容易な状況に向かって舵を切り直せないかを試す

 

「そう言えば、隊長は大本営の運営方針の変更を知っていた様子だったが、何故知っている?孤立させられているのはこの鎮守府全体だ、憲兵隊の有線通信も大本営経由の筈だ、こちらと同じ様に不通にされているのではないのか?」

 

「憲兵隊といっても名称だけで実質的には陸自だ、自衛隊としての通信網まで封止された訳じゃない、大本営の動向は各方面から情報が入る、不思議な事ではないだろう」

 

至極当然、何を言い出すんだと言わんばかりの隊長

 

「……そういう、事になってる、ワケか、隊長がこちらの言い分を実行していたとは、ダメ元でも言っておくものだな」

「……」

 

隊長が苦い顔になった、指揮系統が陸自内部で別系統になっている憲兵隊、その憲兵隊が各方面から情報を得る為にはそれを取りに行く必要がある、通常ならそんな人員は配置されていない、こちらの退避要請を受け入れ、本部へ人員を移動していた為にソレをする人員が確保出来たと推定される、退避要請に基づく行動をしていてくれたとは、意外ではあるが

 

「?何の話??」

 

叢雲(旧名)には分からなかった様だ

 

「オトナの話だよ、生誕数年のお前達には、理解し難い話だから、気にしなくて良い」

 

「お前達?我も含まれるのか?」

 

権兵衛さんまで分からなかった様だ

 

「違うのか?権兵衛さんが最初の初期艦より前に造られたとしても深海棲艦の初遭遇自体が数年前の事でしかない、それ以前の建造やドロップって事は無いと思うが」

 

これを聞いた権兵衛さんが少し考える素振りを見せた

 

「……造られた、成る程、確かに造られたな、艦娘の定義に当て嵌めるのなら、我はドロップ艦という事になるだろう、尤もその定義自体に差したる意味は無いがな」

 

「ドロップ艦は海中で造られた建造艦、陸の工廠で妖精さんに建造されるか、海中の溜まりで妖精達に造られるか、何方にせよ、妖精の技により創られる事には違いが無い」

 

「そういう事だ」

 

この遣り取りに隊長が顔色を変えた

 

「ちょっと待て、今、何と言った?海中の妖精達に造られる?海中の妖精とは何だ?それが深海棲艦を建造している?海中は深海棲艦の工廠だと、そういう事を、言っているのか?」

 

「可也語弊のある解釈だが、そういう認識で誤りでは無いと思う、正確という訳でも無いが、そこを言い出すと切りが無い」

 

「地球表面の七割は海なんだが!?その規模の工廠?!そこで建造される深海棲艦!?止してくれ、そんな規模の相手に、自衛隊にどうしろと?!一匹の蟻が百頭の象に挑むより無謀な話では無いか!?」

 

予想外過ぎる話だったのか冷静さを失くしつつある隊長

 

「……この憲兵は事態を理解していなかったのか、それで良くも口出し出来たものだ、この上は身の程を弁え、我等の邪魔はするな、憲兵が口出し出来る状況では無いのだから」

 

それを見た権兵衛さんが冷ややかに言う

 

「ふーん、権兵衛さんは何処の誰に交渉術を学んだのか知らないけど、其奴とは仲良くしない方が良さそうね、とっても性格悪い奴みたいだし」

 

叢雲(旧名)が感想を言う

 

「ほう、解るのか、そんな事が、我等はそれを理解するのに時間が掛かった、比較対象が存在しなかったから仕方ない面があるとはいえ、時間を無駄に掛けてしまった、と反省している、今回の交渉はその反省に基づいて実施が決定された、故に我等としてはこの交渉を妥結にまで持っていきたいのだ、我等としても力尽くでは何事も巧く進まないと、実例を以って学んだ事でもあるしな」

 

「決定された?誰が、決定したんだ?権兵衛さんは誰の指揮でここに上陸したんだ?」

 

この指揮艦は自身の判断でここに来た筈だ、こちらの知らない上位艦種がいるのかと聞いてみた

 

「決定は我等の総意だ、誰がという事では無い、また、この鎮守府への上陸は我等の戦況分析に因る戦術的判断だ、誰の指揮というのなら、我等自身の指揮に因る、事になるな」

 

「決定は総意だけど、上陸は戦術的判断であんた達の決定だと、話がややこしいんだけど?もう少し分かりやすく、指揮系統から説明しなさいよ」

 

叢雲(旧名)の感想が続く

 

「人の組織の様な指揮系統は我等には無い、艦娘の運用と我等の運用は同じでは無い、艦娘は一定の条件下での活動が容認されているに過ぎない、我等そうでは無い、我等の活動を制限するモノは物理制限だけだ」

 

「妖精、確か、妖精の技術と数の制限も受けるのだろう、海中全てが深海棲艦の工廠となってはいないのだから」

 

そう言ったら権兵衛さんが怪訝な顔になった

 

「……この鎮守府司令官は何処でそんな話を聞き込んでいるのだ?幾ら妖精さんと会話出来る提督であっても、容易に耳にする話題とは、思われないが」

 

「ここに上陸するに当たって、何をしたのか、もう忘れたのか?覚えているのなら、何も疑問は無い、と思うが?」

 

「……成る程、情報源としているのは、我等だけでは無い、そういう事だな?しかしそこまで話をする程に妖精と対話しているのか?幾ら提督と雖も妖精との対話は容易では無いのでは無いか?」

 

「権兵衛さん達は妖精を何だと思ってるんだ、妖精は小間使いでも便利道具でも無い、使うからには相応の対価が必要だと、思わないか?」

 

「対価?妖精にか?あれ程勝手に振る舞う妖精に対価など論外だ、使うだけでも存在価値を与えている、それでも対価として見れば多過ぎる」

 

「……だってさ、如何する?」

 

未だ離れずに着いている妖精に聞いてみる

 

「そんな所に、妖精を連れているとは、鎮守府司令官は余程粋狂な性格の様だな」

 

呆れ混じりに言われてしまった

 

「?何処に連れているんだ、わからんが」

 

隊長が妖精を探している

 

「……隊長は妖精さんを見れないでしょう?見えたのなら、司令官候補になれるけど、そういう希望でもあるの?」

 

「ああ、そういう、って待て、あんたは見えるのか?」

 

叢雲(旧名)の言い分に納得したらしいが、別の疑問が出た様だ

 

「まだ、見える、何れは見えなくなると、思うけど」

 

「ほう、それで、まだ、艦娘にも見えてしまうのか、そういう事か」

 

「……なに納得してんの?」

 

権兵衛さんの言い分に不思議そうな叢雲(旧名)

 

「人に成る、それも良し悪しだ、おまえは、良い方になるだろう、なにしろこの鎮守府司令官がいるのだ、悪く成り様が無いな」

 

「……だと、良いんだけどな」

 

権兵衛さんの未来予測は私には重いかも知れない

 

 

 

鎮守府-執務室

大本営所属艦:高雄/愛宕

~近距離無線~

鎮守府-???

鎮守府所属艦:秋津洲

 

 

「大艇ちゃんの飛行時間?」

 

事務艦からではなく司令部からの無線通信、何を言われるのかと聞いていたら予想外の事を言って来た

 

「長門から夕張が気にしているから確認を、と依頼されました、其方への連絡が遅れた事はお詫びします、こんな専用周波数を使っているとは事務艦のメモを見つけるまで知らなかったのです、司令部としての引き継ぎは口頭でしている時間が惜しかったので、必要書類の場所だけ聞いて現在読み込んでいる最中なので、すみません」

 

通信相手の高雄が何か言っているが、それどころではなかった、指摘を受けて漸く忘れていた事に気が付き、愕然となった

 

「……どうしよう、現在位置からじゃあ、鎮守府まで帰還出来ない、また、大艇ちゃんがいなくなる……」

 

自身のミスで喪失する、それが秋津洲の思考を停止させていた

 

「秋津洲、今何処にいるの?執務室まで来られる?」

 

高雄とは別の声が無線から聞こえて来た

 

「行けるけど、大艇ちゃんが……」

 

それが誰なのか、そんな事は今の秋津洲には考える余裕はない

 

「執務室にはこの鎮守府の指定海域全体の海図がある、二式大艇の現在位置と鎮守府所属艦娘の位置を確認して、出来る事を探しましょう」

 

別の声の提案に思考を再開、まだ、喪失すると決まったわけではない、方法はある筈

 

「わかったかも、執務室へ行くから、海図を」

 

「用意しておくから、一緒に考えましょう」

 

そんな事情で秋津洲は執務室に向かった

 

 

 

鎮守府-工廠(第三工廠)集中管理室_別室

鎮守府所属艦:明石/隼鷹

 

 

工廠で祥鳳の検証を実施し、集められた資料を前に明石が難しい顔をしている

 

「んー、特に問題は見つからない、何か仕込まれた訳でも無いし、普通に修復されただけか、警戒し過ぎた?でも、妖精さんから聞いた祥鳳の初期装備の艦載機って、コレじゃなかった様な気がするんだけど、大本営のデータ通信が止まってるから確認出来ない、確認出来ないのに、問題無しって結論は、マズイよねー、困ったな」

 

「……艦載機が機種変更されてるって事かい」

 

「……そうなんです、って隼鷹?!こんな所にまで来られるのは困るんですけど」

 

普通に、何の気も無しにかけられた声に普通に応じてから、色々よろしくない事に思い当たった

 

「固いこと言いっこ無しだ、それで?艦載機が機種変更されてると、問題無しって結論に出来ないのは、何でだ?」

 

無理に退出させても変な蟠りが出来てしまう、そこを危惧してやり過ごす方針に出る明石

 

「……何でって、誰が変更したんです?艦娘は初期装備として特定の兵装を装備している事が分かっています、勿論、兵装は変更出来ますが、祥鳳は艤装すら持たずここで修復された艦娘、兵装も修復時に装備された、それが初期装備なら、話は解るんですが、変更されているのなら、ナニモノかの介入があった、と判断しなくてはいけない、その介入したナニモノかの意図が判明しない限り、問題無しとは、結論付けられない」

 

「でも、明石の解析では、問題は見つからないんだろ?」

 

食い下がる隼鷹に若干の面倒さを感じつつ冷静に応じる

 

「そうですが、ナニモノかというのが、深海棲艦、或は鎮守府の敵対勢力だった場合、戦闘行動中に何かが起こるかも知れない、その可能性が無い、とは言えない状況では、問題無しとの結論は出せませんね」

 

「戦闘行動中に何かって、何だよ?鳳翔さんは普通に発艦してたし、撃破してた、こっちだって補給隊の航路確保に深海棲艦を攻撃してる、何方も何処にも問題は起きていない、問題視する理由が薄過ぎないか?」

 

「……司令官が五十鈴の攻撃プランを否定している」

 

鎮守府所属艦となってから日の浅い隼鷹、明石自身もそれほど長くはないが、この鎮守府の司令官に対し民間上がりと揶揄している事を耳にしている、明石はこの鎮守府に着任するに当たって、司令官を認めている

 

そうでなければ他の鎮守府に移籍願いを出している、その辺りの事情の違いが、表面化しつつあった

 

「反復攻撃で数の少なさを補いつつ、包囲網に穴を開ける、そして外との通信を回復させ、根本的な事態の解決を図る、だったか?あたしは詳しく聞いてないんだけど、司令官は五十鈴の攻撃プランを全否定してる訳じゃ無いだろ、あの包囲網を如何にかするにはどう考えたって外からの来援が必要になる、明石だってそこは否定しないだろ?まさか、あの司令官がこの鎮守府の艦娘だけで、事態の収拾を意図しているなんて、思ってないよ、な?」

 

明石も隼鷹の言い分は理解する、だが、それは司令官の示した行動方針ではない、それが全てだ

 

「……隼鷹、貴方は予定外に修復された艦娘です、予定外であり、員数外なのに、司令官から、一言も言及が無い事を、どう考えていますか?」

 

「な、何だよ、急に、そんな事、戦力が必要だからに決まってるだろ?予定外でも、戦力は戦力だ、規則が如何とか規定がこうとかよりも、今は戦力が要る、あの司令官がそこまで石頭だとは、思って無い」

 

明石の雰囲気が変わったのを感じ取った隼鷹が動揺し始めた

 

「……それで?」

 

「それでって、何だよ?」

 

変わったままの雰囲気に飲まれている自覚をしつつ、押されない様に踏み止まる隼鷹

 

「貴方は、戦力に、成りますか?」

 

「あったりまえだ、戦力になる気が無いなら、船で大人しくしてるよ、何の為に修復を受けたと思ってるんだ」

 

「私はその戦力を十全に活用出来るよう、工廠を任されています、あの司令官からです、鍔迫り合いで折れる様な戦力なら、私が工廠で叩き直し、折れない戦力と為さねば成りません、問題が見つからない事と、折れない戦力と為すこと、これは同じ意味では無い、解りましたか?」

 

「お、おう……」

 

駄目だった、完全に気圧された、これが司令官を得た艦娘、移籍組では御伽噺としてしか語れる者がいない存在、そして艦娘が理想とする在り方、隼鷹は自身がこの鎮守府に所属しているだけの外様艦娘だと、自覚せざるを得ない瞬間だった

 

 

 

外洋-包囲網の外側

鎮守府所属艦:時雨

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_筑摩/北上/木曾/神通

鎮守府所属艦:球磨

 

 

見渡す限り水平線しか見えない、天気は晴れで青空に輝く太陽、足元の海水面に若干の色が着いている事を除けば平穏な景観、その海面に浮かぶ幾つかの姿がある

 

「ふぁ~、待つってのは、こんなにヒマなのか、海の上でも寝られるか試すいい機会だね」

 

艤装のお陰で風の影響は最小限、なのに日差しはポカポカ陽気に感じさせてくれる素敵仕様、この仕様に突っ込みを入れても妖精さんの気まぐれ以外の答えを返せるモノはいない

 

「何を呑気な、今筑摩が周辺海域を探索中です、それが終われば作戦行動の立案に掛かります、それまで私達で周辺警戒を実施し、安全を確保しなければなりません、寝ている時間などありません」

 

「……神通って、ここまで硬いヤツだったかな、もう少し話の分るスマートな艦娘だという覚えがあるんだけど」

 

大真面目な神通に色んな意味を含めた台詞を返す北上

 

「……それは、北上の会った別の個体、私ではない神通の事ですね、同型同名艦でも個体が違えば同一視は無意味です、北上はドロップ艦だと聞いていますが、それが原因ですか?」

 

神通も北上が元移籍組であり、あの海戦の帰還艦娘だと言う事は知っている

 

「まあ、練度が足りないってのもあるんだろうさ、どっちでもいい事だ、なんか動きがあったら起こして、あたしゃ寝るから」

 

そういうとその場にしゃがんでしまった、取り残される格好になった神通は何か言いた気だ

 

「……練度、か、北上達移籍組は高練度艦だと、聞いている、聞いてはいるが、それを感じない、何でだ?龍田や長門の練度が高い事は感じられるのに、北上や球磨の練度の高さは感じない、これは如何いう事なんだ?」

 

そんな遣り取りを見た木曾が感想を漏らす

 

「……木曾も、そう感じますか?実は私もそれで戸惑っています、北上は勿論、球磨の練度も高い筈、なのに、それを感じない、何故でしょうか?」

 

話し相手を変える神通、話し振りから移籍組に高い関心を持っていると推定される

 

「いや、オレに聞かれても」

 

「んー、僕は何と無くだけど、わかる、艦種枠が違うから、かな」

 

この集団唯一の駆逐艦が言って来る、言いつつも周囲を警戒している様子が見て取れる

 

「……時雨には、オレや神通より、北上や球磨の練度が高いと、感じられる?」

 

「皐月達だって、北上の練度はわかったと思うよ?僕達駆逐艦は練度が高くて話の分る軽巡とは仲良くしたいと思ってる、その方が楽しいからね」

 

「楽しい?まあ、話の分からない低練度な軽巡と仲良くしても駆逐艦には何の意味も無いな、それはわかる、ってか、その理屈で行くと、神通は練度で、オレは話のわかる軽巡って事で駆逐艦と仲良く出来てるのか」

 

「それは、私が話の分からない石頭の軽巡だと、言っているのですか?」

 

神通が割り込んだ

 

「そこまで言ってない、自覚があるのなら、何とかしたら、良いんじゃないか?」

 

「……そうですか、私は石頭ですか、そうですか」

 

木曾から否定の言葉が無かった事に不快感を示す神通

 

「おい、何拗ねてんだよ?」

 

「知りません」

 

不思議そうにする木曾と目を合わせない様にそっぽを向く神通

 

「ね、神通って、時々可愛いんだ、訓練で駆逐艦を相手に大立ち回りしてる神通とこうして時々可愛い神通と、両方を知っているから、僕達駆逐艦は旗艦としての神通に着いていける、何方か片方しか知らなかったら、神通が旗艦を務める艦隊への編成は断る所だよ、ウチの司令官はちゃんと理由を聞いて判断してくれるから」

 

時雨が駆逐艦として如何なの?と思う感想を言うが当の神通は意に介した様子も無くそっぽを向きっぱなしだ

 

「オレが旗艦の艦隊に編成されるのは、駆逐艦には、どう映ってるんだ?」

 

そういう評価話は滅多に聞く機会がないこともあり、序でとばかりに聞いてみた

 

「木曾は話のわかる軽巡だし、遠征隊の旗艦が多いから、問題にする所が無いよ、神通は第一艦隊に配属されてる軽巡、神通が旗艦の艦隊は、戦闘部隊、前提から違うからね」

 

話を聞いているだけだった球磨がこちらに寄って来て話に加わる

 

「時雨、っていったクマか、確か白露型の二番艦、おまえさんはあの鎮守府に所属して長いのクマか?」

 

「長くはないかな、着任順で言えば真ん中くらいだし、皐月達、鎮守府所属の睦月型は僕が着任した時にはもう居たからね、それに第一艦隊に配属されてる白雪、元第一艦隊所属の初春、それに初春型の姉妹艦、それに何と言っても初期艦の叢雲、僕は着任した時から、追いつかなくちゃいけない相手が大勢いた、形振り構っていられる余裕なんてなかったな、今でも、あんまり余裕なんて無いけどね」

 

「そういう割には、神通が背中を任せてるクマ、皐月とセットだったが」

 

駆逐艦の言い分に色々察する球磨、だから、ちょっとだけ励まそうと、そこまで低い自己評価はよろしくないと、そういうつもりだった

 

「……球磨さん?それ、何処から視てたの?」

 

駆逐艦から思わぬ返答と視線が返された、しかしその程度で動揺する様な球磨ではない

 

「意外と優秀な球磨だ、クマ、何処からでも視たいものを視るクマよ」

 

「見たいものは見える位置に、接触したい相手なら手の届く位置に、球磨さんの思い通りに位置取り出来る、ソレ、どんなチート技?是非教えて欲しい」

 

先程の周辺警戒網に一切掛からず木曾の背後を取った登場、その周辺警戒網の一角を成す時雨も球磨が声を掛けるまでそこにいる事に気付かなかった、駆逐艦としては致命的な失敗、鍛錬や演習で散々云われた攻撃対象に沈んだ事すら自覚する暇を与えない存在、それが目の前にいる事が時雨を動かした

 

「弟子は取ってないクマ、他をあたるクマ」

 

駆逐艦を遇らおうとする球磨

 

「いいや、そうは行かない、言ったでしょ?形振り構っていられないんだ、追いつかなきゃいけない相手が大勢いる、まだ、僕は追いかけている最中なんだ、その為なら、手を尽くすよ?僕は」

 

自覚なく時雨は球磨に迫っていた

 

「……おい、神通、この駆逐艦、大丈夫か?」

 

その時雨を見た球磨は身の危険を感じざるを得なかった模様

 

「球磨さん?クマを忘れていますよ?」

 

神通は未だそっぽを向いたままだった

 

 

 

鎮守府-執務室

大本営所属艦:高雄/愛宕

鎮守府所属艦:秋津洲

 

 

執務室で海図と睨めっこする事数分、取り敢えずの対応策が出て来た

 

「資材採掘地?」

 

「事務艦の資料に依ると、そこに護衛隊がいる、事になっています、秋津洲の把握している二式大艇の現在位置から考えると、鎮守府に帰還させるよりも距離的に近いです、二式大艇から護衛隊に連絡をとり、回収してもらいましょう」

 

「……護衛隊って、長良達の事かも?回収してもらっても軽巡じゃ大艇ちゃんに補給出来ないかも、帰ってこれないかもー!!」

 

しかしその対応策に秋津洲は不満しかない様子、元を正せば秋津洲が踏んだドジの回復策なのに

 

「落ち着きなさい、二式大艇は飛行艇、着水出来るのだから、海の上なら墜落や不時着という事態にはならないでしょう、それとも、そういう対処が出来る妖精さんは乗っていないの?」

 

「大艇ちゃんに乗ってる妖精さんはみんな優秀!!」

 

愛宕の問いに強力に主張する秋津洲

 

「なら、護衛隊に回収してもらい、着水後の位置を確保しておけば、秋津洲がそこまで行って補給なり、収納なりすれば良い、何処かに実行の難しい箇所はある?」

 

落ち着かせる様にゆっくりと話す高雄

 

「……今鎮守府は包囲されてて、外洋の資材採掘地まで、どうやっていくかも?」

 

余りにも明から様な高雄の様子に秋津洲も反省した、反省はするが、疑問まで放置する事は出来ない

 

「……包囲網が無くなるまで、資材採掘地で確保、しておく事になる、でしょう」

 

高雄の回答は秋津洲を落胆させるのに十分だった

 

 

 

鎮守府-工廠(第一工廠)

鎮守府所属艦:大淀(事務艦)/明石

 

 

入渠場から一人の艦娘が出て来た

 

「……」

 

艤装を展開し自身の様子を確かめる様に各所を見回している、その艦娘に明石が声を掛けた

 

「どうかな、調子の悪い所はある?」

 

「……なにも、何処かが変わった感じも無いです、ホントにこれで艦娘としての運用に耐えるのでしょうか?」

 

「まあ、後は司令官が訓練なり鍛錬なり、予定を立てるでしょう、それでハッキリするんじゃないかな」

 

「……だと、良いのですが」

 

その艦娘は不安な心情を隠す事も忘れたかの様に心細さ一杯の表情を見せた

 

 

 

鎮守府-第二食堂(鎮守府専用食堂)

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

自衛隊_憲兵隊:隊長

???:???(権兵衛さん)

鎮守府所属艦:給糧艦二/補給艦二/大和

大本営所属艦:一組の初期艦二/愛宕

 

 

第二食堂に規則正しい靴音が響き一人の艦娘が雑談中と思われるテーブルに近づいて行く

 

「お話中失礼します、司令官、大淀の入渠が終了しました、現在艤装及び兵装の点検中です、今後の指示を仰ぐと明石から連絡がありました」

 

「終わったか、天龍に事務艦、じゃなかった、大淀の査定を依頼、一通りの評価をしてこっちに報告書を提出する様に」

 

「……天龍、ですか?」

 

怪訝そうな顔をする愛宕の考えが分からなかったから聞いてみる

 

「他に手が空いてる艦娘がいない、愛宕には何か問題が視えるのか?」

 

「天龍は資材管理を摩耶にレクチャーしている最中ですが、そちらは?」

 

司令部要員の仕事に支障が出る事を懸念しての問題提起だとは思わなかった

 

「……摩耶は、高雄型か、愛宕の姉妹艦だな、何を心配している?」

 

懸念があるにせよ問題視することなのか、判断がつきかねた

 

「少し様子を見ましたが、何やら、分厚い資料を難しい顔をしながら読み込んでいました、こちらも事務艦の資料を読み込んでいる最中ですが……」

 

「?が、なに?続き、あるでしょ?」

 

「正直に、言っても?」

 

「そういう回り諄いのは要らないって、何度言ったら、解ってもらえるんだ?」

 

「では、ハッキリ言いますが、この鎮守府は特異過ぎます、専門職に解説を貰いながらでなければこちらの理解が極めて困難です、執務室の方は高雄と二人掛かりで如何にかなっていますが、摩耶は資材管理を一人で任される事になります、資料を読み込んでいる最中に専門職の天龍を他に回しては今後の資材管理に問題が起こる可能性が増します、ここはしっかりと引き継ぎの時間を確保した方が良いと考えます」

 

「ほう、いや、嘴を突っ込むな、だったな、鎮守府司令官よ、難儀な事態になっているではないか、側で見ている限りでは、愉しそうではあるが」

 

権兵衛さんから如何いうつもりかは知らない方が良いだろう突っ込みが入る

それには取り合わず話を進める

 

「……摩耶一人では、ウチの資材管理を任せられない、愛宕の言い分はそういう事か?」

 

「そうは言っていません、時間が必要だと、言っているのです」

 

心配症なのか摩耶の職務執行能力を過小に評価しているのか、なんにせよこの口振りでは私が何を言っても効きそうにない

 

如何しようかと考えていたら、隣のテーブルにいる二人が視界に入った

 

「漣、電、済まないが、遣いを頼まれてくれないか?」

 

「私達は、司令官の護衛として、此処にいるのですが?それを放棄しろと?」

 

抗議と言うよりも確認の意味合いで聞いて来る漣、もしかして暇だったのかな

 

「そっちは、大和がいるから、大丈夫だろ」

 

そう言ったら間髪入れず大和が応じた

 

「お任せください、長門さんからも、今陸にいる戦艦は大和だけなのだから秘書艦としての責務を優先してほしいと、依頼されています」

 

「……アレはなにをいっているのやら、兎も角、資材管理室に行って今の話を、摩耶が出来ないと言うのなら、考え直さないとならないからな」

 

「「了解です!」」

 

一組の初期艦二人は元気よく答えて食堂を後にした

 

「……司令官、摩耶の性格を、良くご存知なのですね、いつの間に……」

 

一連の流れを見た愛宕が、呆気に取られつつも感心した様な呟きを零した

 

 

 

鎮守府-資材管理室

鎮守府所属艦:天龍

大本営所属艦:一組の初期艦二/摩耶

 

 

一組の初期艦二人は資材管理室に行き、そこに居た二人の巡洋艦に事の経緯を説明、今後の行動予定を伝えた

 

「じゃあ、第一工廠で事務艦、改め大淀と合流すれば良いのか?」

 

「天龍はそうなりますね、で、摩耶さん?あたごんが心配してますけど?」

 

「あたごんって、それは兎も角、姉貴は何の心配をしてんだよ、こんなん入って来た資材量と出て行った資材量を記録するだけだぞ?」

 

漣の言い分に呆れつつ愛宕の言い分には輪を掛けて呆れる摩耶

 

「分厚い資料は読み込めましたか?」

 

電が愛宕の心配事を言う

 

「あー、アレな、サッパリだ、訳解らん、取り敢えず読むだけは読んだけどな、姉貴が心配してるのはそっちか、アレは資材管理じゃなくて、資材運用の方だ、あたしに割り振られてるのは管理の方だけだからな、あの司令官が管理業務だけでなく、資材管理室を任せるって言い出さない限り問題にならない」

 

「天龍の代わりに、資材管理を、と言う話でしたけど、業務内容に誤解がありませんか?」

 

電が確認する様に言う

 

「……そうなのか?」

 

暫く言葉の意味を考えてから天龍に聞く摩耶

 

「オレに聞くなよ、こっちにはその話自体が来てないんだ、摩耶から聞いた以上の事は知らんよ」

 

天龍には大規模増設計画への復帰が不可能な状態での資材管理室任務に思う所がある模様

 

「話が来てない?来てない話なのに天龍は摩耶さんに資材管理を教えてたんですか?」

 

疑問形で聞いてはいるが、天龍の思う所には気が付いた漣

 

「摩耶がそう言うんだ、なんかオカシイか?」

 

この返答で天龍の思う所に確信を得た一組の初期艦二人

 

「……いいえ、摩耶さんがそう言うんですから、なにもオカシイ所は無いですね」

 

「では、摩耶さんは資材管理に何も問題は無いと言っていますので、その様に」

 

天龍の思う所を実現させようとする一組の初期艦はこう述べた

 

「……えっと?なんか、すっごいドツボに嵌められた、様な気がするのは、なんだろうな?」

 

その三人を見て摩耶が言う事が出来たのはこのくらいだった

 

 

 

鎮守府-工廠(第一工廠)

鎮守府所属艦:天龍/大淀/明石

大本営所属艦:愛宕

 

 

天龍が工廠に着いた時には愛宕が明石、大淀と何か話し込んでいた

そこに声を掛けて詳細を聞く

 

「ふーん、大淀の評価、ね、聞いた所だと、大淀は建造艦の上に此れ迄海に出た事は無いって話だよな、それを新規格の艦娘建造方法を応用して運用できる様になった筈だと、その確認って事で良いのか?」

 

「概ねその通りです、但し、司令官は天龍と共に戦力としての運用を意図しています、そこを加味してください」

 

愛宕から修正が掛かる

 

「……戦力、ね、正直な所、オレ自身戦力になるかって、聞かれると、どうなんだろうな、大本営にいた頃は遠征隊にしか居なかったし、軽巡の火力程度であの包囲網相手にって、のはな」

 

「そこは司令官に何か考えがあると思われます、それが何かまでは分かりませんが」

 

愛宕は言葉だけは淀みなく並べて見せた、意味というか用を成していないが

 

「立ち上がったばかりとはいえ、司令部が司令官の意図を汲めないってのは、如何なのよ?なんとかした方が良いと思うぜ」

 

「……最善を尽くします」

 

そう言うのが精一杯なのだろう、意思疎通が出来ていない、ソレを否定出来ずにいる愛宕

 

「模範解答だな、愛宕って摩耶の姉妹艦だよな?なんか随分違うな、何処かの誰かに遠慮してんのか?そういうのは要らないって、言われなかったか?」

 

「……」

 

正にソレを云われたばかりの愛宕は言葉が出て来ない

 

「まあ良い、評価するには海に出なきゃならん、出撃許可、で良いのか?」

 

ソレを見た天龍が話を切り替えた、この切り替えにはシッカリとついて来る愛宕

 

「この場合は演習許可ですね、それは既に下りています、但し、鎮守府から長門の砲撃位置の間と、範囲が限定されています、鎮守府至近海域で出来るだけの評価をしてください」

 

「狭いな、最大戦速での評価が出来ないが、そうなると戦力としての評価にならないぞ?そこはどうなってる?」

 

天龍としては愛宕に聞いたのだが、大淀が愛宕より早く応じて来た

 

「そこは乱戦を想定した対応力を評価してください、単艦技量がどれだけ高くとも艦隊との連携は訓練無しにはどうにもなりません、現状で私を戦力とするのなら、求められるのは間違いなく、単艦技量であり、艦隊へ編成しての指揮能力では無いと判断できます」

 

「……おまえ、司令官が単艦突撃でもさせると、考えているのか?」

 

大淀の言い分に嫌な感じを受ける天龍

 

「他の艦との連携に難があります、現実的な運用として、単艦運用が最も戦力として貢献出来る運用だと、考えています」

 

「それって、新任の初期艦の運用?あの初期艦も龍田艦隊に編成されずに単艦運用の筈、ああいう運用を司令官は意図している?」

 

愛宕が疑問を投げる

 

「誰がフォロー役になるかは、分かりませんが、おそらく私の火力を兵装で最大化して、戦線投入する筈です、ただの軽巡の火力では、焼け石に水にもなりませんから」

 

それに応じる大淀、それを聞いた天龍は先に感じた嫌な感じを訂正した、同時に自身に課せられた課題の難しさに気付く

 

「ナルホド、評価って、そういう、ヘタな評価をしたらこっちがアホだと見做されるな、やっぱりあの司令官はクセモンだ、龍田の奴、よくもあの司令官に着いたな、ドロップ艦とはいえ、大本営で会った龍田とは大違いだ」

 

「大本営に龍田は着任していなかった、ハズですけど?」

 

愛宕が不思議そうに聞いている

 

「そりゃあ、建造で出て来たら一言も無く自分で解体処置してたからな、あの時周囲に魅せた視線の冷たさと来たら、姉妹艦ですら声もかけられん」

 

「自分で、解体処置?そんな事出来るんですか?」

 

大淀から疑問が来る

 

「大本営で建造された龍田はそうしてたな、なんで妖精さんがフツーに解体処置してんのかは、未だに分からん、アレも士官達の許可無し解体なんだがな」

 

通常では出来ない工程、その筈なのに、何故かソレを実行出来た艦娘、天龍達から見て大本営で会った龍田の印象は決して弱いモノではなかった

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府所属艦:隼鷹/鳳翔

 

 

司令官からの指示と称し工廠の防衛任務を継続中の鳳翔の元に明石に話を聞きに行った隼鷹が戻って来た

 

「参ったね、あれじゃ長引きそうだ」

 

「隼鷹さん、祥鳳さんの解析は終わったのですか?」

 

「それは終わった、けど、明石が問題無しって結論は出せないと来た、参ったよ」

 

「問題は見つかった、けれど解決策が無い、という事ですか?」

 

鳳翔が隼鷹の話の整合を試みている

 

「いいや、問題は見つからないって言ってた、でも、修復にナニモノかの介入があった事が確実視される事も判明して、それで問題無しってワケには行かなくなったんだとさ、どうやって解決すれば良いのやら」

 

「……ナニモノかの、介入?」

 

鳳翔が僅かに顔を顰める

 

「明石が言うには、装備、あたしら空母だと初期装備の筈の艦載機を載せて無いんだ、誰が機種変更したんだって、考え込んでたよ」

 

「初期、装備?ですか、確かにあの海戦の時と、今の艦載機は違いますね、違和感も何もなかったので、気に留めませんでしたが、そうですか、これが、ナニモノかの介入、しかし、これが問題なのですか?」

 

予測した事態ではなかった上に意外過ぎる話に戸惑いを感じる鳳翔

 

「……明石は、問題視してる、ナニモノかの意図が分からないってね、もしかしたら、機種変更された艦載機そのものが、トロイの木馬って可能性も、考えてるんだろうけど、工作艦に空母艦載機のイロハって、どうやったら解って貰えるんだろう?」

 

「工作艦には、工作艦の、航空母艦には、航空母艦の、其々のイロハがあります、そこは議論する所ではありません、工廠を預かる工作艦ならば、艦娘に関する一般論はご承知でしょう、其方から、お話ししてみます、今、明石さんは何方に?」

 

隼鷹の話から明石の懸念は杞憂だと判断出来る、しかしソレを理解出来るのは航空機運用が可能な艦種のみ、工作艦では飛行機乗りの妖精さんとは意思疎通に難がある

隼鷹とは違う説得方法を用いれば、明石を説得出来るかも知れない

 

 

 

外洋-資材採掘場(無人島)

鎮守府所属艦:龍田艦隊_龍田/初春/子日/若葉/初霜

鎮守府所属艦:叢雲(初期艦)

鎮守府所属艦:龍驤/長良/名取

鎮守府所属艦:遠征隊_皐月/睦月型五

 

 

駆逐艦達は資材採掘及び積み込み作業の手を休めて一休み、巡洋艦等もそこに加わっている最中、メッセージらしき信号を受信した

 

「ナニコレ?」

 

「メッセージ?みたいだけど、使い方を間違えてる、途中で切れてるんだけど」

 

「ねぇ、それもいくつか同時発信されてて受け取れてない、この発信符号は二式大艇なんだけど、なんだろう?」

 

「なにか緊急を要する事案が複数発生した、同時発信しなければならない事態に二式大艇自身が陥っている、推測出来るのは、それくらいかなぁ」

 

龍田が推論を立てる

 

「あの高度で飛んでる二式大艇にメッセージ発信を阻害する要因が?」

 

その推論に疑問を挟む名取

 

「しかも、同時発信しているって事は、その要因を除く見込みが低い、と判断した、そうでなければ同時発信なんてしないでしょう、メッセージの受信失敗要因になるなんて、承知の上で発信したんだろうし」

 

長良が推論と疑問を整合させようと試みている

 

「そうなると、その阻害要因は何?二式大艇は大型の四発機、武装も相応に備えている、しかも、現時点で深海棲艦の飛翔体は遠くにしか見つかっていない、思いつかないな」

 

「……二式大艇っちゅうたか?あの大型機、ずっと飛んどるがいつから飛んどんねん」

 

龍驤がボソッと言った

 

「いつからって、明るくなってから?かな」

 

応じる長良

 

「なら、燃料切れちゃうか?いくら大型機でも飛行時間が長過ぎや、誰が運用しとるか知らへんが、自分の保有機の飛行時間も分からん奴が運用しとるんか?」

 

「秋津洲って、飛行艇母艦だけど補給や補修が任務で運用そのものは任務じゃないんだっけ?空母は艦載機の運用まで任務の内だけど」

 

龍驤の質問に思い出しながら答える長良

 

「秋津洲、あのお調子モンか、なんや他に気ぃ取られて飛行時間を忘れたんやろ、二式大艇も勝手に帰ればええのに、律儀な奴なや」

 

「龍驤の偵察機で接触出来ない?なにかあったのなら、確認しないと」

 

龍田から提案が入る

 

「丁度こっちに戻って来てるのがおるから寄り道させるわ、全く、只の偵察任務のハズやのに、なしてこないに面倒事が次から次へと、あんの司令官には文句言うだけや済まされへんで」

 

タダでさえ広域探索中の龍驤には余計な仕事を増やされたとしか思えなかったらしい

 

 

 

外洋-包囲網の外側

鎮守府所属艦:時雨

鎮守府所属艦:筑摩艦隊_分艦隊_筑摩/北上/木曾/神通

鎮守府所属艦:球磨

 

 

「……なんだクマ?」

 

「今の、飛行艇からのメッセージ?みたいでしたけど」

 

「こんな発信じゃ受け取れないじゃないか、何やってんだ?」

 

軽巡三隻が受信した信号に感想を付けている

 

「これまでキチンと発信されていたのですから、なにかあった、と判断した方が良いでしょう、発信方向へ向かい二式大艇を探し、出来るのなら接触を、近距離無線で通信するだけでもすべき事案だと思います」

 

「……発信方向って言っても、ちょっと距離があるね、行くのなら補給の当てが欲しい所」

 

受信していたのは三隻だけではなかった模様

 

「北上、寝ていたのでは?」

 

「うー、やっぱり海の上じゃグッスリって訳にはいかないねぇ、チョットの事で起きちゃうよ、それに揺られるし、横になれないから体も辛い」

 

「……それ、やらなきゃ分からなかったのか?」

 

北上の言い分に呆れ気味の木曾

 

「聞いたクマちゃん、木曾っちはこうやってあたしをイジメるんだ、オシオキ案件だと思わない?」

 

「そういう愚痴は大井に言うクマ、木曾の言い分は尤も過ぎて案件にならないクマ」

 

「……大井っち、か」

 

「その名を出させたのは北上クマ、八つ当たりは止すクマよ」

 

「……そこまで拘ってるつもりは、なかったんだけど、いないと、やっぱりダメなのかな、大井っちは結局、帰って来なかった、何でだろうね」

 

遠くを見ながら呟く北上

 

「……木曾も帰って来なかったクマ、帰って来ないのは、なんでだクマ、いつまでもねーちゃんに心配かける、悪い妹達クマ、これはねーちゃんの躾が足らなかった、ねーちゃんに心配掛けずにちゃんと帰ってくる様に厳しく躾るクマ」

 

同様の球磨

 

「……そーいう話はさ、海の上では止してくんねーかな、縁起でもねぇ」

 

あんまりな話にゲンナリの木曾

 

「……神通は?帰って来たのですか?」

 

こちらは好奇心からの質問らしい、コレを言う神通に暗さは無い

 

「神通?帰ってないクマ、駆逐艦を連れて、あの大群に吶喊して行ったのが球磨の見た神通クマ」

 

「大群に?」

 

「水雷戦隊は艦隊決戦の切り込み役、艦列に風穴を開け、そこを重巡の火力で抉じ開け、敵艦隊が分断と混乱した所を戦艦が薙ぎ払う、大雑把にそういう役割クマ、あの時は、もう戦艦の弾薬も尽きて、それが叶わないと、知っていたのに、吶喊して行った

あの大群の中から、駆逐艦の耐久性では、抜けられない事がハッキリしていた、保有資材も尽きかけていた、それに、駆逐艦の数も多くなかった、陽炎型のいくつかと、夕雲型のいくつか、後は判別に困る程の損傷を負った駆逐艦がいくつかしか居なくなってた

連れて離脱を図るか、最後に一花咲かせるか、そんなバカげたどーでもいい論争にもなった、駆逐艦の多くは、一花咲かせる事を望んだ、軽巡は意見が割れた、重巡達はその不毛な論争が終わるのを待った

もっと、やりようが、あったハズ、あの海戦の事は、未だに全ての情報が公開されていない、特に、開戦の発端となった人の軍隊の行動と、艦娘部隊がその所属艦娘の殆どを出撃させた事情、そして、戦場での終焉、アレは一体何の闘いだった?

ただ、戦え、それだけの闘い、まるで闘牛か闘犬を嗾ける如きの大本営命令、ソレに応えたかのような深海棲艦の増加、なにかがオカシイ、と思うクマ」

 

思い出話に力が入り過ぎた事に気付き、強引に話を切った球磨

 

それを何の感情も入らない目で話が終わった事のみを確認した筑摩が話始める

 

「球磨さんの愚痴は終わりましたか?こちらは周辺探索を終えました、目標となりそうな深海棲艦は見つかりません、今、二式大艇との接触を試みています」

 

「……筑摩、スゲーな、旗艦ってこうならないといけないのか、経験不足って云われる理由の一端が分かった気がする」

 

その遣り取りに感心を示す木曾

 

「艦隊としての行動を何を置いても最優先、他の事情は後で対処すれば良い、最前線での指揮を任されるのですから、戦場以外の事情は優先度を低く見做す、言われてみれば、当然過ぎる事ではあるのですけれど、実行出来るかとなると、別問題です」

 

木曾の意見に同意を示す神通、同意だけでなく意見も付いたが

 

「今の愚痴、聞き入っちまった、これじゃあ旗艦としてダメなんだよな、オレも修練が足りないって事だ、鎮守府に戻ったら司令官に談判してでも修練を積まないと、いつまでも遠征隊旗艦しか任せてもらえない、オレに戦闘部隊の旗艦を振らなかった司令官の判断にはちゃんと理由があったんだ、変に勘繰る事情なんて何処にも無かったんだ」

 

「勘繰る?」

 

木曾の言い分に不穏な気配を感じ聞き返す球磨

 

「着任順で旗艦を決めてるのかと、勘繰ってた、そうじゃなかった」

 

「……木曾、自分の司令官を支持してないのか?」

 

不穏な気配が大当たりらしく、球磨の機嫌が斜めになりつつあった

 

「そうは言っても、あの司令官、何考えてるのか、時々分かんないんだよ、だから偶に口論みたいになっちまう、反論してるつもりは無いんだ、言ってることがわからないから説明してもらいたいだけなんだ、あの司令官は長門や龍田の支持を受けてる、それに駆逐艦は司令官に懐いてる、悪い司令官じゃない事は判ってるんだ、それでも、オレには今ひとつわからないから支持が甘くなるのかも知れない」

 

「なるほど、甘いねー木曾っちは、あの司令官は所属艦娘を相当に甘やかしてるね、コレは北上さまが出しゃばってでも〆なきゃならないかな?」

 

「その必要はありません、必要ならソレは第一艦隊に配属されている私の役割です」

 

北上の言い分に神通が異論を唱える

 

「そうやって抱え込む事もないクマ、やってくれると言ってるのなら、使い熟す事も覚えて行くクマ、肩書きや指揮系統に頼った関係ばかりでは長く続かないクマ」

 

「……使い熟す?」

 

球磨の言い分が咄嗟に理解出来なかった様子の神通

 

「あの司令官はどうしているクマ?肩書きや指揮系統が通じない相手には、どう対応しているクマ?」

 

「……なるほど、学習しなければ、なりませんね」

 

自身の修練不足を認識させられる神通だった

 

 

 

鎮守府-工廠(第三工廠)集中管理室_別室

鎮守府所属艦:明石/鳳翔

 

 

資料と睨めっこしていた処、誰かがこの部屋に近づいてくる気配を感じた

 

「失礼します、明石さん、お話、良いでしょうか?」

 

「……今度は鳳翔ですか、隼鷹から聞いたと思いますけど、現状で問題無しという結論は出せません、任務への復帰は許可出来ない、異論があるのなら、司令官に談判してください」

 

資料から目を離さず声だけで応じる明石

 

「いいえ、その必要はありません、明石さんは司令官から工廠を任されたと、聞いています、談判した所で明石さんの許可を取って来いと追い払われるだけでしょう、少し時間を頂けませんか?艦娘の装備する兵装について、特に空母種の艦娘の兵装となる艦載機について、見解の相違が、隼鷹さんの話からは感じられました、明石さんは工作艦、航空機を兵装として装備する事は出来ない艦種です、そこに見解の相違が生じているのでは無いかと懸念しています」

 

隼鷹と違い丁寧な物言い、こちらの工作艦としての立場を配慮を含む言い回しに明石は漸く鳳翔に顔を向けた

 

「……言い分はわかりました、こちらでも手の届く範囲で調べ直していた所です、可能なら、そちらの見解もお聞きしたい所でしたし」

 

「手の、届く範囲?」

 

何を如何解釈したのか、鳳翔が首を傾げた

 

「今は大本営が活動を停止していて、本来なら調べられる筈の資料が一つも読めないんですよ、それで確証が持てない、これも問題無しという結論を出せない要因になっています」

 

「……大本営で、なにが?」

 

少しだけ考える間を空けて質問してくる鳳翔

 

「わかりません、司令長官秘書艦の五十鈴でさえも、事態を把握出来ない、と言っていました、ウチの司令官はこんな状況でも、職務を全うする気でいます、所属艦娘としては、全力で支える以外にないですから、大本営の事情は後回しですね」

 

「……わかりました」

 

その僅かな間に鳳翔が何を考えたのかは兎も角、話を進めてみようと考える明石

 

 

 

 

 

 







場所-殆ど鎮守府の何処か、断りの無い鎮守府表記の場合は佐伯司令官の鎮守府
所属:登場人物/登場艦娘 等

~近距離無線~は通話、交信 等

上記の書き方が基本となっています、同じ所属が複数行になっている場合は行動単位




大本営所属初期艦〔一号(漣.電.吹雪.五月雨)、一組(漣.電)、二組(吹雪.叢雲.漣.電.五月雨)〕

移籍組〔修復待ちの高練度艦娘、以前の大規模海戦の帰還艦娘、現在の代表は五十鈴〕



工廠組〔明石、夕張、北上、秋津洲〕

護衛隊〔以前の大規模海戦の帰還艦娘、長良を始め帰還後に原隊の大本営に戻らなかった艦娘達、広域探索役として龍驤が加わっている〕

鎮守府所属初期艦〔鎮守府配置の初期艦(叢雲)、三組(吹雪.叢雲.漣.電.五月雨)〕


・長門艦隊(長門、加古、筑摩、初春、神通、時雨)
・編成を解かれ、再編成され別行動中

・龍田艦隊、龍田、初春、子日、若葉、初霜
・包囲網を抜け外洋に出ている
・叢雲(初期艦)のサポート役

・筑摩艦隊、筑摩、加古、北上、木曾、神通
・加古を除き包囲網を抜け外洋に出ている

・夕張艦隊、補給隊、旗艦夕張、睦月型五
・包囲網突破中の北上等に補給する為、旗艦夕張を除き包囲網突破に同行
・包囲網を抜けた後、皐月を加え遠征隊に再編成

・工廠に陣取る軽空母達、鳳翔、祥鳳、隼鷹
・工廠防衛を指示されている
・軽空母達の指揮を執っているのは大本営所属艦娘、司令長官秘書艦の五十鈴
・ちょっとした問題が発生、進行中




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