初期の艦これ   作:弱箔

90 / 96
85 食堂の一角を占める集団

 

 

 

鎮守府-第二食堂(鎮守府専用食堂)

鎮守府:司令官

???:権兵衛さん

鎮守府所属艦:大淀(事務艦)/長門/龍田/初春/大和/叢雲(初期艦)

大本営所属艦:一組の初期艦二

 

 

食堂に行くと一角を占める集団が目立っていた

 

「楽しくやっている様で何よりだ、今、少し良いかな?」

 

此方の言い様に何かを感じ取った様子の初期艦が少し考える間を空けてそれを口にした

 

「……司令官?あまり時間が取れないの?」

 

「いつまで待たせるつもりだ、サッサと交渉を再開しろ」

 

初期艦の言動から状況を把握した権兵衛さんから文句が出て来た

 

「権兵衛さんには悪いが、コッチのゴタゴタが増やされてしまった、今大本営から司令長官が来てる、それに関して権兵衛さんには幾つか話を通しておきたい、少し時間をもらうよ」

 

「……大本営?司令長官?我等にはあまりにも関わりのない手合いだ、鎮守府司令官の方であしらっておけ」

 

面倒事の気配を察したらしく詳細を聞こうともせずに拒否られてしまった

 

「生憎だがそうもいかない、向こうは権兵衛さんとの話し合いに来ている、手間をかけさて申し訳ないが、向こうとも話をしてもらえないか?」

 

だからと言ってハイそうですかとも行かず、なんとか要件を伝える

 

「我等に何の利益があるのだ、余計な手間なだけでなく厄介事にしか、ならんではないか」

 

明から様に面倒事に関わりたく無い様子を見せる権兵衛さん

 

「そうとも言えないでしょう、これまでの話を振り返れば、大本営からの指示なり命令があれば権兵衛さんの目的は達成出来る事が分かっているんだし、ソレをしたら良いんじゃない?」

 

初期艦から援護が来た

 

「……釣り餌の初期艦、我等を馬鹿だと思っているのか?それとも釣り餌をぶら下げているつもりか」

 

然し乍ら権兵衛さんはその言動には乗って来ない

 

「権兵衛さんはその餌が気に入らないと?釣り餌だからといって喰い付いたら負けって訳じゃない、敢えて食い付く事も選択のうち、に出来ると交渉方法にも幅が出てくるんだけど、まだ難しいか」

 

漣からも援護が来た

 

「……初期艦、貴様は当初より我を妙な方へ誘導しようとしているな、何が狙いだ」

 

初期艦への対応とは違いを見せる権兵衛さん

 

「その釣り餌の初期艦ってなによ、叢雲よ、叢雲、ちゃんと覚えなさいよ」

 

「初期艦などどれも同じだ定冠詞を付けるだけでも感謝しろ」

 

その違いが不満な初期艦が遠回しにクレームを付けるもつれ無くあしらわれてしまった

 

「定冠詞って、それならそれでもうちょっと如何にかならないの?」

 

あしらわれ様が気に入らなかったらしく初期艦がクレームを重ねる

 

「我を権兵衛呼びしている輩に過度の配慮をしているが?更なる配慮をしろと?」

 

「そんなに根に持つなら決めなさいよ、自分の名前くらい、そもそもない訳じゃないんでしょ?」

 

あんまりな言い分に呆れ出してしまった模様

 

「んー、もしかして、司令官に付けてもらいたい、とか?」

 

そこに漣から別の見解が出された

 

「……」

 

 

それに無言で応じる権兵衛さん

 

「エッ、本当に?それならそうとハッキリ言わないと、付けてくれないよ?」

 

意外な成り行きに驚き気味の漣

 

「まるで言えば付けてもらえる様に言うのだな」

 

「付けてくれると思うけど?権兵衛さんよりセンスのある名前になるかは、オッズの悪過ぎる賭けになるけど」

 

「そう……なのか?それはそれで、考え所だな」

 

何だか分からない展開になったと思いつつも流れに便乗してこちら要件を如何にかしようと試みる

 

「えっと?何、名乗らないのはそう言う事なの?付けようか?」

 

「待て……今考えている」

 

否定されなかったから取り敢えずこちらの要件を並べてみよう

 

「考えながらで良いから聞いていてくれ、今来ているのは大本営の人員だが、もう時期日本政府のお偉いさん達も来るそうだ、コッチも権兵衛さんとの話し合いを望んでる、纏めて相手にするか、個別にするか、そのくらいしか鎮守府司令官の立場ではままならん状況だ、これらの話し合いは大本営主導で私には拒否権が無い、どうしても応じたくないとしてもソコは大本営の人員と話してもらわないと、司令官職では何もできない」

 

「全て我が主砲で薙ぎ払えば済む」

 

権兵衛さんの回答は迷いも何も感じられなかった、放っておくと実行しかねない印象を受ける程に

 

「……それをされるとだな、私の立場が不味い事になるんだが、まあ、権兵衛さんには関係ない事か、困ったねこれは」

 

本気で困った、権兵衛さんは言った通りにするだろうし、こちらには止める手立てはないだろう

どうしたものかと考えていたら権兵衛さんから提案が出て来た

 

「名を付けろ、それで話を聞いてやろう」

 

権兵衛さんから意外過ぎる言葉が出て来て少し返答が遅れてしまった

 

「……権兵衛さんに代わる名を?」

 

「それは一般名称だと言っていなかったか?固有名称を付けろ、少しくらいなら聞く時間を割いてやる」

 

「固有名称ね、因みに、どんなのが良さそうだ、漣?」

 

時間を稼ぐ意味でも知恵を借りる意味でも漣に話を振る

 

「何故に漣?」

 

話を振られた漣は心底不思議そうに聞いて来た

 

「権兵衛さんと話していた時間が一番長いだろう、どんな感じだ?」

 

この言い分で漣は察してくれた様だ、初期艦といっても個体差はある訳で適材適所な使い方は必要になる

 

「んー、そうですね、一般名称に近いですが、立場からすると女王とか?あー、でも単独トップって訳じゃないから、王女とか姫とか、ん?これだと立場が違ってしまうかな、宰相とか、総統って方向は無いって感じですかね」

 

咄嗟にしても良く回る口だ、こういうアドリブ的な対処は漣ならではだろう

 

「権兵衛さんの艦種は?戦艦だっけ?」

 

「当人は違うと言ってますけど、艦娘準拠だと戦艦種だと思いますよ?」

 

「当人は何と?」

 

「希少種貴族?だったっけ?」

 

「ほーう、あんまり奇を衒ったのもなんだし、深海棲艦との読み合わせも考えると、戦艦姫(せんかんき)?」

 

「まんまですな、やっぱりオッズの悪い賭けだった」

 

若干の呆れと諦めを乗せた呟きが聞こえてきた

 

「戦貴族(いくさきぞく)とか、戦姫(いくさひめ)の方がいくらかマシな感じよね」

 

初期艦も漣に同意らしく別の名称を口にする

 

「全部訓読みにすると深海棲艦との読み合わせが悪そうなんだが」

 

異論というよりも名称から来る印象をそのまま言って見た

 

「そこ、拘る所なの?」

 

意外な言い分だったのか初期艦は目を丸くしていた

 

「人への紹介なら、読み難いか、読み易いかは、拘り所だぞ?」

 

「戦艦貴艦(せんかんきかん)?とか?」

 

私の言い分を受けてなのか、漣がボソッと零した

 

「ゴロが悪いな……戦貴棲姫(せんきせいき)、これでどうよ」

 

言った瞬間目を逸らされた

 

「……オッズの悪い賭けでした」

「……ノーコメントで」

 

挙句に出て来た二人の感想がこちら

 

「決まったのか?」

 

考え中の権兵衛さんが何かを感じ取ったらしく聞いて来た

 

「……こっちの二人には頗る不評だ、気に入らないなら、改名して……」

 

どこまで聞いていたのか判然としなかったから、曖昧に答えた

改名を希望すればこの話を引っ張れる、時間を割いて貰う交渉は続けられるのだから

 

「一々、戦貴棲姫と名乗るのも面倒そうだな」

 

「なら、改名して」

 

交渉の延長か、そう思った

 

「……それの方が面倒だ、このままで良い」

 

あれ?良いんだ?

 

「良いんだ……権兵衛さんって変わったセンスの人?」

 

漣からも疑問というか不思議そうな声がかかる

 

「……権兵衛ではない、戦貴棲姫だ」

 

あれ?もしかして、気に入ってもらえたりしたのか……な?

 

「だって、本人が良いって云うのなら問題ないでしょう」

 

初期艦の感想を以って権兵衛さんが、戦貴棲姫に改名した

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:大淀

大本営:司令長官(老提督)

 

 

「今、少し良いかね」

 

執務室に戻って仕事していたら老提督が顔を出した

 

「……どうぞ」

 

長椅子の方を勧める

 

手際よく事務艦、改め大淀がお茶を持って来た

 

「ああ、ありがとう」

 

「ご用件は?」

 

老提督の向かいに座って尋ねる

 

「ん、先程言っていた、艦娘の鹵獲を目論んでる集団がいると云う話だが、私の友人からその後の経過を聞いたので、伝えておこうと思ってね」

 

「……友人ですか」

 

「司令官も会っている筈だが、その時には老兵と名乗っていたと思うが」

 

やっぱりか、あのジジィ米軍の退役軍人だという話だった

 

救助要請を出した軍が米軍なら有耶無耶にされて終わりじゃないか

 

「民間警備会社が関わっていた、警備会社といっても日本のソレとは違い退役軍人で組織された実働の警備会社だ、俗に民間傭兵会社などとも云われているような会社だ、知っているかね」

 

「……一般に出回る噂くらいなら」

 

「まあ、日本では馴染みのない会社組織だ、その会社が運用中の船舶が横須賀に向かう途上の米海軍艦艇に拿捕された」

 

「……」

 

やっぱり有耶無耶か、こっちには何も知らせず適当にカタを付けるのか

鳳翔達になんて言おうか、反発されるだろうし、悪くすれば見放されるな

 

「拿捕の理由はその船舶から米軍の使用周波数を使った通信がなされていた事、それも秘匿回線でだ、登録外の秘匿通信を受けその船舶と接触した所、船内から米軍仕様の機材が多数発見された、現在乗員の拘束と機材の出所を捜索中だそうだ」

 

「……」

 

シナリオ通り、拘束したという誰かさんに被せて尻尾切り、機材やら船舶なんかは捜索中という名目で霧の向こう、結局何も分からないし、変わらない

 

つまり、今回の様な鹵獲行動は今後も続けられる、そういう事だ

 

鹵獲なんて行動に出る事自体が疑問なのに、根本解決すら見込めない

こんな状況でも鎮守府は増設して国外の司令官を受け入れなければならない

艦娘部隊としては鎮守府を各国に開設したいのだろうし、ソレを希望する国は多い

艦娘の拡散は止められない、そうなれば鹵獲している集団は今よりも遥かに容易にサンプルを収集出来るだろう

 

鹵獲された艦娘が自己解体する様な扱いをする集団だ

真っ当な輩でない事だけは確定している、そんな集団と新規着任の司令官が無関係だという保証は何処も誰もしてくれはしない

 

「そんなに難しい顔をしなくて良い、私の友人がその友人達と組んで上部機関に対応を求めている、司令官にも悪い結果を聞かせないで済む筈だ」

 

「……友人、達?」

 

「有り体に言えば、退役軍人会、それも海軍中心のね、参加している退役軍人は世界中にいる、上部機関を始め、古巣に話を通してもらっている」

 

「混乱するだけでは?」

 

話を通したからどうなるという事も無いだろうに

 

「するだろうね、しかし一部の者達が抜け駆けしている事も明らかになる、そこで、退役軍人会はどう動くのが、古巣の為か」

 

「全ての海軍が意見の一致を見るとは、思えませんが」

 

退役しているのなら利害関係やら実務関係とは離れてはいるだろうが、其々の立ち位置の違いが無い訳では無い、参加者全ての意見を一致出来る場面を見る事は無いと思う

 

「抜け駆けしていると知らされれば、取り得る手段はより先を行き出し抜こうとするか、抜け駆けしている集団を抑止し情報公開を迫るか、私としては情報が共有され抜け駆けする意味を無くす方向へ持ち込みたい、と考えている」

 

「……無理では?」

 

「何故かな?」

 

間を置かず聞き返されたのはこの返答を予期していたのだろう

つまり、理由を言わせて答え合わせというか、意見の擦り合わせをしたい、という所だろうと推測した

 

「抜け駆けするのは艦娘を取り巻く技術体系が人には不明な事に起因します、端的にいって妖精さんの技術解明が動機である以上、それは容易では無い、妖精さんの技術体系全般の解明などいつになるか分からない、また、その一端を情報共有した所でそういった集団は行動を止めないでしょう」

 

「うん、そうだね、司令官の言うことは尤もだ、行動は止められないかも知れない、しかしその行動を司令官が知る所となる様に、制限を付けることは出来るのでは無いかな」

 

「……止められないなら、無意味では?」

 

意見の擦り合わせでは無いのか?早とちりしたかな?

 

「抜け駆けしている集団は、自己資金で動いていると、思うかい?」

 

「?」

 

自己資金?何の話を始めたんだ?

 

「民間会社を実働組織としている、つまり法人としての会社、として見ればやりようはあるのではないかな」

 

なるほど、組織として縛ろうというのか

老提督の言い分は理屈としては分かる、分かるが今回の場合は意味を持つのか判断するだけの材料を持っていない

 

「……米軍の機材を持ち出せる民間会社相手に、何をどうするんです?」

 

材料になりそうな話を出してみた

 

「そう聞かれると……難しいね、軍だけでなく政府機関の協力が必要となってくる」

 

「……」

 

態とらしい、こんな事知って言ってるに決まってる、決まってはいるが、敢えてこちらにソレを指摘させた事に何か意味でもあるのか、まさか、そこまで考え無い馬鹿だと見做されているのか

 

「うん、これは上部機関に議題として取り上げて貰わなくてはいけない、提唱者である司令官には、上部機関本会議に提唱者として参加を要求する」

 

えっと?これは、嵌められ……た?

 

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:夕張

 

 

工廠に向かって歩いている

いるんだが、鎮守府内の様子が何か、変わっている

取り立てて何が、という事は見当たらないにも関わらず様子が変わっていた

取り敢えずは要件を済ませようと明石を探す

 

「あ、司令官」

 

工廠に着くなり夕張に見つかった

 

「もう良いのか、急ぎの要件は無かったと思うが」

 

休む様に言い付けた手前聞いておく

 

「お陰様で頭を冷やせましたよ、もう、色んな事がグルグルしてましたから、スッキリとはいかないけど大分マシになりました」

 

あの憑かれた表情はしていない夕張に大分マシになったというのは強がりでは無いだろうと判断、ここに来た本題に入る

 

「明石は何処にいる?」

 

「明石?あー、今休憩に入っています、呼びますか?」

 

言われて明石も過労気味だった事を思い出した

 

「……夕張で分かるのなら、呼ばなくても良いんだが」

 

「取り敢えず聞いてください、調べられる事なら対処しますから」

 

その後、空母達の検証結果のレポートを受け取り、幾つかの確認を済ませ工廠を後にした

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:長門/大和/叢雲(初期艦)/大淀

大本営所属艦:高雄/愛宕/摩耶/妙高/那智/足柄/三隈

鎮守府:叢雲(旧名)

 

 

執務室に戻ると、どういう訳か司令部要員が揃っていた

司令部要員七名と大淀、大和、初期艦、それに長門

なんだってこんな面子が揃って執務室に居るんだか、嫌な予感しかしない

 

「何かあったのか?」

 

取り敢えず聞いてみる、真っ先に高雄が応えてきた

 

「あったのか、ではありません、上部機関の本会議に出席されると聞きました、司令部として最大限のサポートをさせて頂きます、出席する要件を仰って下さい」

 

「司令長官たる老提督から直接出席を要請されたと聞きました、老提督からも不慣れな場であろうから補佐をと依頼されています、是非に大和を随行させて下さい」

 

高雄に続き大和この言い様、誰が何をしたのか、把握するのに十分過ぎた

 

あのジジィ、コッチを搔きまわすつもりか、そんなに手数をかけさせたいのか、本人に悪気は無いのだろうが、余計な事をしてくれる

 

「提督、こういった話は提督から直接聞きたいものだ、最近は大淀からですら無くなっている、第一艦隊旗艦としては不満だ」

 

「……」

 

不味い、長門が思いっ切り不機嫌だ

 

「色々不手際があった様だ、それについては申し訳ない、ただ、私の身体は一つしかないのだ、全てに対応する事は出来ない、そこは考慮してもらいたい」

 

「その為の司令部です、使って下さい」

 

「大和は司令官の秘書艦という事になっています、何でも言い付けて頂いて構いません」

 

「初期艦って、こんなに脇に追いやられるの?扱いが雑過ぎない?」

 

不味い、司令部要員も秘書艦も初期艦まで不機嫌だ

どうしようか、取り敢えず隠し事をする気は無いし、ぶっちゃけるのが良いのかな

 

「はいはい、あんた達、そんなに一遍に言い立てるから、困ってるじゃない、大体の概要は分かってるんだから、不明瞭な部分の確認からにしなさいな」

 

居たのか、叢雲(旧名)、全然気が付かなかった

 

「司令官が上部機関本会議に出席を要請されたのは、例の艦娘を鹵獲しているとされる集団についての意見を求められての事です、これまでの艦娘部隊の対応に司令官は不満をお持ちです、それを解消するには鎮守府司令官の権限ではどうにも成りません、上部機関本会議にて対処を提起する様に老提督に求められています」

 

あらま、叢雲(旧名)と大淀のコンビで場を仕切られてしまった

 

「……初代初期艦と元事務艦か、なるほど、これまで無為に司令官に酷使されていたのではない、そういう事だな」

 

長門が妙な理解?解釈?で納得している様だが、放って置いても良いんだろうか

 

「……初期艦としてまだまだ不足という事ね、大人しくしていたら不足したままになってしまう、司令官、サッサと不足分を充足させるから、覚悟して?」

 

「現状では司令官の警護が必要となります、大和が側に付きます」

 

「司令部は司令官の指示を確実に履行します、何人いると思っているんですか、お一人で抱え込む必要は全くないんですよ?」

 

あー、もうコレどうすんだよ

こうなってしまったら、如何にかしないといけない、正直面倒臭いんだが

 

「司令部は鎮守府運営に支障がない様に各員持ち場を抑えてもらいたい、秘書艦は私では無く権兵衛さん、改め、戦貴棲姫に付いて人との話し合いに幾らか慣れさせてもらいたい、初期艦は大淀から指導を受けてもらいたい、鎮守府運営を始め、対処すべき事象は多い、当面は陸での仕事になるだろう」

 

「それは三隈の役割では?」

 

鎮守府対応を依頼している司令部要員の三隈から役割被りが指摘された

 

「初期艦だから始めから完璧に仕事しろと?駆逐艦だぞ?」

 

「ああ、フォローに回るのですね、分かりました」

 

こちらの言い分を判ってくれた様だ、理解の速い艦娘だ、仕事振りも良いし流石は重巡といった所か

 

「妙高達は鎮守府所属の艦娘達に状況を説明、良く話し合ってもらいたい、高雄と愛宕は各所の進捗、状況の取り纏め、補佐が必要なら直接対応して良い、摩耶は天龍等が行なっていた資材管理業務全般を統括出来る様に、老提督からの要請に関しては、こちらで足りる、気にしなくて良い」

 

指示が途切れたと見た愛宕が戸惑い気味に質問を出してきた

 

「あの、移籍組への対応は?」

 

「知らん、五十鈴が如何にかするだろう、老提督秘書艦な上に老提督本人がここに来ているんだ、大本営所属艦まで面倒見れんよ」

 

移籍組への対処は正直鎮守府側では荷が重すぎる、大本営の事は大本営側で対処を期待したい

 

戸惑いをそのままに愛宕は続ける

 

「……私達も大本営所属艦なのですが」

 

「あ、愛宕?」

 

愛宕の言い様に高雄が困っている様子、高雄は既に鎮守府所属艦として行動しているつもりらしい

愛宕は手続きが為されていない以上、所属は変わっていない、そこを曖昧には出来ない様だ

 

「……ソレを持ち出すのなら向こうで大人しくしていてもらう他ない、指摘する通り大本営所属艦は本来鎮守府司令官の指揮下ではないのだから」

 

私としても愛宕の言い分は理解しているつもりだ、所属を曖昧にしても艦娘には良い事は無いだろうし、下手をすれば都合よく使われた挙句に所属違いを理由にされたら何も打つ手は無いのだから

ただ、私がソレをする様な輩だと見做していなければ出て来ない見解でもある

 

「愛宕がソレを気にしているのなら、無理にとは言えない、司令官の言う通り船で大人しくしていて良い」

 

少し考えていた様子だったが、高雄は愛宕の意見を汲んだ

 

「ちょっと、高雄?」

 

高雄の言い様に不満気な愛宕

 

「……まあ、姉貴がそこを気にするのは、分からんでもないしな、指揮系統なんて元から無い様なモンだったから、あたしは今更って感じだけどな」

 

そんな愛宕に摩耶も一部の同意と高雄への賛同を言う

今更所属なんて気にした所でこれまでとどう違うのか、大本営所属を堅持したら何か良い事でもあるのか、ここでは仕事を割り振られて相応の評価も付くのにあの大本営所属期間はどうだったのかを考えると、予定とはいえこの鎮守府には所属見込みで、それは鎮守府司令官も承知している、単に時期を前倒ししているに過ぎない

この状況で大本営所属を前面に掲げる愛宕の意図が摩耶には分からなかった

 

そこに別方面から声がかかる

 

「ほう、愛宕は修復待ちの一人として同様の立場にある移籍組という括りで呼ばれる艦娘達が気になると言うのだな」

 

「那智?」

 

同意者がいない愛宕をに見かねた訳でも無いだろうに突然の那智の割り込みに妙高が訝っている

 

「妙高、司令官の言い分も分からんでもないが、鎮守府と移籍組との間を取り持つ渡し役は必要だと思う、五十鈴だけがその役割を担うと言うのは移籍組からは不安に感じるだろう、なにせ移籍組の殆どは修復終了後、ここに着任するつもりでいる、立場を同じくする私や愛宕などが鎮守府との間に入った方が良いのではないか」

 

「……那智の言い分だと、五十鈴は大本営から移籍しない様に聞こえるけど?そう聞いたのかしら?」

 

其々の言い分を聞きながら何か考えていた様子の足柄から質問が入った

 

「移籍、するのか?司令長官秘書艦が?」

 

姉妹艦を気にし過ぎてちょっとした行き違いを起こした五十鈴、それで移籍組とは微妙な事になってはいるが、姉妹艦が大事なのは艦娘なら理解は出来るし五十鈴自身は大本営所属艦として内部から移籍組、引き籠もり達と云われ続け冷遇されていた元大本営所属艦にアレコレ手を尽くしてきた事は皆知っている

移籍組の中でも五十鈴の扱いは微妙な加減を要する、今は大本営司令長官秘書艦の肩書きが強くてそこ以外を考慮出来ないが、それさえ無くなれば無闇に排除や対立したい相手ではないのは確かなのだから

 

「……その為にはその辺りの役職を退かないと、無理よね」

 

色々考えながらも簡潔な応答に留める足柄

 

「足柄の言う通りだ、五十鈴にそのつもりがあっても現状では秘めるしかない事だ、そして誰もそこには触れられない、五十鈴の立場を悪くする以外の効果が無いからな」

 

那智は出来る範囲で五十鈴に協力しようとしている、妙高にはそれが読み取れた

五十鈴はあの闘いで単独で本国まで帰還し、漂流者の救援を嘆願した

その結果として自衛隊が外洋や外国内にまで出張って漂流、漂着した艦娘を拾って回った

五十鈴の嘆願は切っ掛けなだけで、それが無くても自衛隊による艦娘の回収は行われたかも知れないが、自力帰還出来ずに漂流するしかなかった移籍組としては本国まで帰還を果たした五十鈴に色々と思う所は多い

 

「……その通りね、でも鎮守府との渡し役を那智が?工廠のスケジュール管理は?」

 

それはそれとして、那智には別の仕事が割り振られていた、妙高はそこを質問した

 

「今は工廠組が揃っているし、何より夕張が管理システムを組んで管理業務を始めている、正直、私の出る幕が無い」

 

突然聞いていない話が出て来た、そのまま流すわけにもいかないから聞いてみる

 

「えっと?ナニソレ?管理システム?高雄、聞いているか?」

 

「……いいえ、そういった報告は受けていません」

 

司令部は知らない様だ

 

「管理システムはまだ試行段階です、業務全般を管理出来ていません、夕張からは試行段階を終え実用の目処が立ち次第報告を上げると聞いています」

 

変わって大淀から報告があった

 

「なるほど、大淀、司令部とも情報共有してくれ、どうも司令部が暇を持て余している様だ」

 

「……わかりました、でも、何処まで共有するのでしょうか?」

少しの驚きと不満を見せた大淀、それでもこちらの指示通りに動いてはくれるらしいが、条件を付けたい様子

 

「全部、事務艦として扱っていた情報の全てだ」

 

「えっと、無理、では?」

 

司令部と共有と言っても司令部には七名いて、其々に仕事が振られている

情報共有を通常業務の片手間にやれる程の熟練度が今の司令部にあるのか、この点に疑問しかない大淀はその手間を考えて無理と判断している模様

 

「初期艦と愛宕と那智、三人纏めて良い、三隈、大淀を補佐してやってくれ」

 

「はい、承りました」

 

三隈の良い返事と共に司令部との情報共有は開始された

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

 

 

集まっていた面子は其々の仕事の為に其々の場所に散っていった

執務室に残ったのは司令官と叢雲(旧名)

 

「大丈夫なの?」

 

司令部の本格運用を始め色々と不安材料には事欠かない状況ではあるが、言う程の心配はしていない様子の叢雲(旧名)

 

「何とでもなるさ、依頼されたのは艦娘の鹵獲行動に対しての懸念、不合理で非効率でリソースの無駄遣いだって主張をして、それらの行動を無くす、少なくとも抑える行動が必要だと提案する事だ、難しい事じゃない」

 

問い掛けに応えた司令官が口にしたのは鎮守府の内情では無く、上部機関への招致に関してだった

ここから司令官の心配事は鎮守府内には無いと察してそちらへ話を向ける

 

「……その鹵獲行動を何処で知ったのかと、問われるわよ?」

 

「それは無い、と思う」

 

思いがけず即答された、何を考えているのか、どんな目算を立てているのか気になった

 

「日本政府を当てにしてるの?」

 

「いいや、当てにしているのはそっちじゃない」

 

こちらの推定はハズレらしい

 

「じゃあ老提督?今は大本営司令長官な訳だし」

 

「権兵衛さん、じゃない、戦貴棲姫だよ」

 

想定外の事を言い出した司令官に思わず声が上ずった

 

「同席させるの!?」

 

「老提督の話だと上部機関への出席といっても本会議場に行くわけではなく、この鎮守府からの参加になるそうだ、所謂テレビ会議ってヤツ、中継基地局としてあの鎮守府派遣隊が使ってた指揮所の機材を活用する手筈になってるんだとさ、その関係で折角退避したのにあの派遣隊の面子が来る事になってしまった、経緯はどうあれ謝っとかないといけないだろうな」

 

司令官はお気楽そうに言うがあんまりな事態には違いない、少しクギを刺しておいた方がいいかも知れない

 

「何を呑気な、人の世話より自分の心配をしなさい、上部機関は国際機関、世界中の凡ゆる分野の代表者達よ?腹に一物背中に荷物、なんて莫迦な事言える相手じゃない」

 

「なーに、鎮守府司令官の立場からすれば只の雇用主だ、雇用契約を結んだ相手として話をするだけだよ、難しく考える必要は無い」

 

どうやら私の懸念は杞憂とはならなかった様だ

 

「……日本語、通じるとイイわね」

 

「通訳くらい、いるだろ……えっ?!いないの?」

 

漸く事態の賭場口くらいは認識出来た様子の司令官は不安気な顔を見せていた

 

「司令官職の契約書は日本語で書かれていたでしょ?アレ大本営が用意した物で艦娘部隊上部機関が作成した契約書じゃない、意味が判る?」

 

「……直接雇用契約じゃなくて、間接雇用契約、って事?ウソ?」

 

状況の誤認、少なくともどこかに認識のズレがある事を理解した司令官はますます不安気だ

 

「間接雇用契約とも違うんだけど、大本営は日本支部みたいな説明があったと思うんだけど、覚えてる?」

 

「ああ、艦娘部隊が本社で大本営が地域支部で、鎮守府はその出張所的な説明だった」

 

「あんたが契約したのはその地域支部だって事、その支部のトップが司令長官、今は老提督って事、上部機関とは雇用関係に無いから雇用主ではないって事、その辺り履き違えてると痛い目では済まないと思うけど?」

 

「支社との雇用関係が成立しているのなら、本社が相手でも雇用主と見做して良いと思うんだけど、違ったっけ?」

 

何処か納得行かない様子を見せる司令官、兎も角今の司令官は上部機関への招致が一番の心配事なのだからそこを出来る限り解した方が良いと判断

 

「国際機関だって忘れてない?契約書にもその辺りの事は書いてあった筈だけど」

 

「……チョット見直して来る」

 

そう言い残して司令官は執務室を後にした

 

 

 

 

鎮守府-旅客船(移籍組宿舎)_司令長官室(臨時)

大本営:老提督

鎮守府:司令官

 

 

「雇用関係?すまないがソレの何が問題なのか、説明してもらえるかな」

 

話がいきなり過ぎた、多少の困惑を見せる老提督にどう説明すれば良いのかこちらも困ってる

 

「上部機関での提案を行う際、私はどういう立ち位置になるのですか?」

 

「鎮守府司令官、という立ち位置以外に、あるのかね」

 

「その鎮守府司令官の立ち位置は、上部機関ではどういう立ち位置になっていますか?」

 

話を重ねるうちに何と無しに論点が見えて来たのか老提督が少し考える様な素振りをした

 

「……司令官職契約の規定、という事かな、確かに司令官が結んでいる契約は上部機関との契約を大本営が代行して締結されている、だからといって上部機関がその規定を無視はしない、規定は上部機関にも承諾されている、問題とする必要は無いと考えるが」

 

どうやら老提督の知る範囲では問題は無いとの結論に達したらしい

その結論で済むのならこんな話をしに来たりはしない、如何にかして論点を理解してもらわないといけない

 

「お手数ですが、その辺りを確認してもらいたい、上部機関での鎮守府司令官の提案はどういう扱いを受けるのか、先程契約の規定を読み直してみたのですが、鎮守府司令官が上部機関に直接提案や状況への対処を求める事は禁則事項と読める条項があります、これを実行すると規定違反になり、様々な罰則が適用される可能性がある、老提督にそのつもりがない事は承知していますが、このまま上部機関への提案を行うと私は契約を打ち切られるでしょう」

 

「……そんな禁則事項は知らないのだが、何か読み違えてはいないかい」

 

私の言い分に考え過ぎ、穿ち過ぎでは無いか?といった印象を受けた様子の老提督

 

「契約文章の解釈をここで論じても結論は出ません、無理筋かも知れませんが、憲兵隊に検証を依頼出来ませんか、老提督は現在大本営司令長官の立場にあります、契約当事者であっても私には契約書類を憲兵隊に開示出来ない、守秘義務で禁止されています、大本営側から検証を依頼出来ませんか?」

 

又も考える様な素振りを見せる老提督、こちらの言い分を何処まで汲んでくれるのか

 

「……契約破棄、上部機関が司令官を艦娘部隊から排除する口実に、利用すると、そういう事かな?」

 

「可能性の話です」

 

どうやら大枠では汲んでくれた、細部はこちらでなんとかするしかないだろう

 

「司令官の指摘している問題は理解した、ただこちらも準備や手続きで手が足りない、勝手ではあるが、大和をこちらの秘書艦に戻してもらえないだろうか」

 

え?五十鈴が専属で付いてるのに手が足りない?などと余計な事を考えた所為で返事が遅れた

 

「……大和はこちらで準備業務に就いてもらっています、戻せていわれても」

 

「事務艦、いや、大淀や司令部要員では代われない準備業務、それが何かは問わないが、重要な準備なのだろう、これは困った」

 

ホントに困ってる様だ、どうしようか

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。