初期の艦これ   作:弱箔

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86 憲兵隊長がやって来た

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

自衛隊_憲兵隊:隊長

 

 

執務室で雑務を片付けていた所憲兵隊長がやって来た

 

「また何か言ったそうだな」

 

入室するなり不機嫌そうに声を発した憲兵隊長、その表情も渋い

 

「……何の話ですか?」

 

正直心当たりが多過ぎてどの話を言い出すのか当たりが付けられない

 

「一つ一つ確認させてもらう、忙しいだろうが、こっちも同様だ、司令官の発言で仕事を増やされてるんだ、文句は無しにしてもらおうか」

 

「どうぞ……」

 

それ以外に言い様が無い

 

「海自の航空隊から問い合わせがあった、内容に心当たりは?」

 

「探り合いをしている時間があるので?」

 

いきなり海自の航空隊?何の話を出して来たんだろうか?

 

「では、ハッキリ言おう、この鎮守府所属艦娘の龍驤搭載機が南鳥島に緊急着陸した、駐留部隊は取り敢えず着陸を許可したが、その後の扱いに困っている、自衛隊としても正式に対処せねばならない、説明を」

 

おう、偵察機を遠くまで飛ばしたってヤツか、引き返せないとは言っていたがこういう強行策に出るとは、想定しておくべきだったか

 

「心当たりはある、が、こちらからの指示ではない、広域探索を担っている軽空母が想定外に探索範囲を広げているとの報告から範囲を縮小し、担当海域内に留めるように指示したが、間に合わなかったのかも知れない」

 

詳細を知らない話にアレコレ憶測を並べても仕方ない、分かっている範囲で話すしかない

 

「それにしては遠すぎないか、南鳥島だぞ?鎮守府の担当海域からは距離があり過ぎる、駐留部隊の話では非常事態宣言が出されていたそうだ、しかも宣言が出された空域では他に代替地がないから受け入れざるを得なかった、狙って出された非常事態宣言にしか見えないが?」

 

こちらの説明に不足を感じている様子の憲兵隊長、もしかしたら何か隠し事でもあるのかと疑われている、或は話せない事情があると思われたかな

 

「そこは直接運用している軽空母から話を聞かないとわからない、自衛隊の部隊運用と艦娘の部隊運用は異なる、逐次通信により情報や状況を更新し、常に後方指揮を確立出来る訳ではない」

 

こちらとしては単に知らないだけ、これ以上の説明は今の段階では出来ない

 

「艦娘の通信装備は旧式だとは聞いているが、出来ない事はないだろう」

 

説明に納得しかねているらしい憲兵隊長

 

「私は一般公募の司令官職に就いただけの民間人ですよ、現地指揮は艦隊旗艦に任せてます」

 

「鎮守府の司令官職は鎮守府の運営が主目的だったか、面倒な、何れにしろそこは詳しい説明が必要になる、整理しておいてもらいたい、当座の問題として緊急着陸した機体はどうする?自衛隊では艦娘の扱う航空機を扱えない、確か、あの航空機にも妖精さんがいるのだろう?」

 

取り敢えずは自衛隊の現地指揮官と鎮守府司令官とは指揮内容が違う事は分かってもらえた様だ

そこは纏めて置く様にと宿題にされてしまった、次いで着陸したという艦載機の取り扱いに話が移る

 

「雨風凌げる場所に保管出来れば良いのですが、可能でしょうか」

 

「保管と云われてもな、アレはどうやって動かすんだ?着陸したのはいいが滑走路上から持ち運んで良いのか?」

 

あー、そういう事ですか、扱いを知らないからホントに困ってるのか、現地の航空隊の方々に苦労をお掛けしている模様

 

「自衛官の方なら模型とかを扱った事がありませんか?自分が何ヶ月もかけて仕上げた模型の様に扱ってもらえれば、大きな問題にはならないと思います、後、雨風凌げる場所に保管の後に出来たら飴とか、お菓子を少しで良いですから同じ場所に置いて下さい、それで妖精さんの機嫌も変わるでしょうから」

 

隊長が妖精さんも話に乗せてたのでその辺りの対処も言って置く

 

「……それってもしかして、お菓子を妖精さんが食べる、のか?」

 

「直接食べる訳ではないですが、まあ、お供えみたいなモノと思って頂ければ」

 

「直接食べる訳ではない?相変わらずわからんな、妖精さんってのは」

 

直接見える訳ではない隊長には扱い辛い所かどうして良いのかすら分からない妖精さんに困っている様子

これは現地の航空隊の方々も同様だろう

 

「余計な事だとは思いますが、もし可能なら以前ウチに来ていた技術士官の方、空自の方ですが、そちらに問い合わせる事も有効な手段になる筈です」

 

あんまりな様子だったから、自衛隊内でも対処出来そうな手段を言ってみる

 

「ん?それは、どういう意味で言っている?」

 

以前この鎮守府に駐留していた技術士官、陸自と空自の違いはあれど、憲兵隊とは無縁の自衛官ではないのだし、妖精さんを相手にしていたのは隊長も知っている

 

「あの方妖精さんとの相性が良いらしく、ウチの妖精さんはあの声に耳を傾けていました、尤も技術士官の方は妖精さんがそこにいる体での交流に苦労されていましたけど」

 

「……ナルホド、では次の案件だ」

 

陸自が憲兵隊として鎮守府に駐留する事になり、海自は元から鎮守府運営の補佐部門として駐留を決めていた

唯一空自だけが鎮守府との接点を持たない事態に何を思ったのか、技術士官の駐留が決まって数人が滞在する事になった

妖精さんとの技術交流を目的としていた為、派遣された技術士官の方々には頭の痛い任務だっただろう

 

この後も憲兵隊長からの尋問紛いな確認作業が続いた、元はと言えばこちらが撒いたタネでもあるし、仕方ない

 

 

 

 

鎮守府-第二食堂(鎮守府専用食堂)

鎮守府:司令官

???:戦貴棲姫(権兵衛さん)

鎮守府所属艦:大和

大本営所属艦:一組の初期艦二

 

 

話に慣れさせようと大和に戦貴棲姫の相手を頼んだ訳だが、様子を見に食堂に出向いた

 

「あっ、司令官」

 

「そのままで良い、何か問題は?」

 

取り敢えずは話が出来ている様子を見て安堵しつつ、聞いてみる

 

「大有りだ、時間を割くとは言ったが、事をどこまで拡げるつもりだ、この戦艦が言う所では大本営との話では済まずに日本政府やら艦娘部隊上部機関とも話す事になっているではないか、我等はそこまでヒマではない、交渉の妥結すら見込めていない現状でそこまでそちらの都合を聞き入れる謂れはない、こちらとの交渉をサッサと再開しろ」

 

大いに不満な様子を見せる戦貴棲姫、その不満はここにいる誰に言っても解消出来る類のモノではない

それこそ不満の最たる部分になっているのだろうと推定されるがどうにもならない

 

「……言い分は理解するが、私の立場は艦娘部隊の鎮守府司令官であって独立組織のトップという訳ではない、組織的な柵というモノは避けられない、そこに不満を並べられても私の対処出来る範囲を越えてしまっている」

 

「我等の要求は鎮守府司令官の職権の範囲内だ、組織的な柵は関連して来ない筈だ」

 

どうにも私の言い分には不満をぶつけないと治らないくらいには色々と溜め込んでいる様子

 

「前にも言ったが、その点については戦貴棲姫の主張と司令官職に於ける規定は違う、部外者であるそちらの主張を聞き入れても私は規定違反に問われるだけだ、そんなに私を国際裁判の被告席に引き出したいのか?」

 

「……身体拘束に諸般の違約金に罰金と罰則がどれ程積み上がるのか、やってみないとわからんな」

 

前々から話題として出て来ている前提条件のズレ、認識の違いは戦貴棲姫も理解はしている

理解した上で文句を並べて来る辺りは人が悪いというか、不満度の裏返しなのだろう

 

「戦貴棲姫はそれが望みか?」

 

下手に反論せずにその論説に沿った応答で相手の出方を見る

 

「交渉相手でなければそれでも良いのだがな、そうもいかん、抑の話として、我をその様な会議に列席させる事自体、司令官には不利な状況を作っているのではないか?」

 

予想外にもこちらの心配をしている戦貴棲姫

認識の違いは違いとして把握しつつ、こちらの状況も相応に判断出来ている

立場の違いや視点の差異を正確に掴めるだけの理解力を持つ厄介な相手だと改めて思う

 

「列席といってもここからの参加だ、実際に席を並べるのは日本政府と大本営の御歴々だ、上部機関とは通信回線を使っての遠隔参加で済む様に大本営側で調整中だと聞いている」

 

ここは迂闊な事は言わずに状況説明に留めた方が良い、無用で無益な事態に発展しかねないし、そんな可能性とは無縁でいたいから

 

「厄介な」

 

簡潔に返して来たが、この一言にどれだけの意味が含まれているのか、発した本人にしか分からないだろう

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

艦娘部隊上部機関_監察官:老兵

 

 

「サインしろ」

 

唐突に現れ書類を出して来た老兵

 

「……なんの書類です?」

 

「以前司令官が憲兵隊に見せる様に提案して来た書類だ、向こうで検証されてる、文句はあるまい」

 

老兵の言っている話を思い出すのに少し掛かった

 

「以前来た時に持っていた権限拡大用とか言ってた契約?ですか?」

 

「そうだ、憲兵隊だけでなく防衛省の法務局まで出て来て難儀させられた、内容は日本式に沿っているし自衛隊幕僚の意見も入ってる、勿論、ここの憲兵隊長のお墨付きだ」

 

「……」

 

話は分かったがだからと言って内容も確認せずにサインしろと云われても、困るんだが

 

「あんたはそっちの仕事を続けなさい、契約内容はこっちで確認しておくから」

 

そう言って老兵から書類を貰おうとする叢雲(旧名)

 

「……誰だ?」

 

面識はある筈なのにこう聞いて来るのは、老兵なりに何らかの違和感を持ったからだろうと推定

 

「ああ、改めてになるのかな、紹介しておきます、ウチの元初期艦、名前をどうするかも決まっていないので未だに叢雲のままですが、艦娘から人になった叢雲です」

 

推定に基づいて紹介するが、何か納得行かない様子の老兵

 

「……人になった?」

 

「アメリカの鎮守府で人を艦娘にした事例があるそうですね、その逆パターンと理解してください」

 

「そう言えば老提督からそんな話を聞いたな、戸籍の取得に難儀しているとか、無国籍ではこの国では不都合が多過ぎるからなんとかしてやりたいと言っていたっけな、それで?司令官はこの元初期艦をどうするんだ?」

 

聞いたって、何を他人事の様に言っているんだか

それをしたのは老兵がアメリカに連れ出した妖精さんなのに

そこには関心がない様子のままで元初期艦の事を聞いて来た

 

「どうもしない、取り敢えず法的立場が確定するまでは私の補佐に付いてもらっています」

 

変に突っ込みを入れても話がややこしくなるだけなのは分かっているから問いに答えるだけにしておく

 

「……鎮守府司令官の保護下でなければ、問題が多いな、ん?保護下、で良いのだよな?」

 

何を考えたのかは分からないがそういう素振りがあった

 

「保護下と評するか、庇護下と見做すか、そこは差して問題では無いです、問題なのは法的立場が確定しないと叢雲は鎮守府から出られない、という事です」

 

元初期艦の処遇に関心がある様なので一番の問題を提起してみる

 

「身元不明者だからな、鎮守府の外に出たら警察でも自衛隊でも、保護下に置るわけか、合法的に」

 

敢えて、だろう言い方は何を目的としているのか、何か誘導したい先でもあるのだろうか

 

「そんな賭けはしたく無いのですよ、私は」

 

そう言ったら合点が行かなかったのか、首を傾げ出した老兵

 

「……賭け?というと例の艦娘を鹵獲してるとかいう輩にも目を付けられていると言いたいのか?可能性はあるが、自衛隊の包囲下でそんな行動に出るとは考え難いが」

 

「貴方はどうなんですか?人になった艦娘に興味はないんですか?」

 

いい加減面倒になって来たから明から様に切り出した、こちらの老兵は妖精さんから一定の信頼を得ている事を知っているから出来る暴挙でもある

 

「疑ぐり深い奴だ、私はとっくに退役した身だぞ?艦娘鹵獲の件については老提督に協力している、何を疑っているんだ?」

 

老兵とはあまり接点が無いからこの人の独特な言い回しが分からない、持って回った言い方、思わせ振りな言い様は単に話し方のクセなのか、言質を取る為の誘導ではないのか

 

「老提督ほどの干渉は受けていない、という事なのかな、貴方は妖精さんをアメリカに連れ出したと聞きましたが、その後は?連れ出しただけなんですか?」

 

合点が行かない表情から何の話をし始めたんだ?とまるで意図が掴めてなさそうな老兵

 

「?何を聞きたいんだ??」

 

疑問しかないと言わんばかりにこう聞いて来た

 

「老提督は提督と艦娘達から呼ばれている訳ですが、理由をご存じない?」

 

「知らないが……」

 

「まあ、今更な話かも知れませんが、老提督は人の中で初めて妖精さんを見る事が出来た、それまで何年もそういった人は現れなかったそうですね」

 

「そう聞いている、だからなんだ?」

 

何の話をしているのか全く以って疑問しかない様子の老兵

 

「初めて妖精さんを見る事が出来た老提督に、妖精さんは過度の期待を寄せた、当時の妖精さんは他に選択の余地がなく過剰な干渉が為された、それを承知の上で老提督はその干渉を受け入れた、結果として本来司令官に留まる筈の人が提督としての資質を持つに至った、だからなんだ?と云われればそれまでの話ですが、アメリカの鎮守府の例と併せて考えると、どう思いますか?」

 

「……私が提督の資質を持たないのは妖精さんの期待が薄かったから?なのか?」

 

考えるだけの間を開けた老兵から出て来たのは自身に対しての疑問だった

何処かに誘導しようとしていた訳ではない様だ、となるとあれらの発言は単に老兵の話し方のクセなのだろう

 

「そうではないでしょう、貴方の場合は他の選択が出来た、老提督を始めアメリカの司令官達という選択の余地があった、だから貴方は提督の資質を持たずに済んでいる、と私は思います」

 

「まるで提督の資質を持たない方が良い様に言うのだな」

 

この老兵の言葉は私には単に感想を述べている様に聞こえた

 

「……老提督を見ていて、貴方は良い様に思えますか?」

 

「苦労は多いが、遣り甲斐のある仕事と立場を考えれば悪くはないだろう」

 

「そうですか、妖精さんも人選を誤った、という事ですか、老提督ではなく貴方を提督にしていればここまで話が込み入る事も無かったのかも知れません」

 

「司令官に留まっている私では、提督の苦労は分からないとでも?」

 

何でそんなに不満そうに言うのかな、余程気に障ったらしい

 

「問題はそこではないです、将来的には解消されると思いますが、このままでは提督の資質を持ち艦娘を指揮する立場にあるのが私だけになってしまう、一時的にせよそういう期間が出来る、それは途轍も無いハイリスクな状況な訳ですが、現状はそれが創られつつあり、尚も進行中、問題だとは思いませんか?」

 

司令官の資質を持つ老兵ならこの問題のヤバさは解る筈

 

「……老提督の話では日本にいる艦娘の七割が司令官の指揮下に入る見込みと言っていたが、そんなに問題なのか?」

 

あれ?なんてアッサリ……

チョット待て、今なんて言った?

 

「……七割……そんなに?」

 

思わず声にしてしまった

 

「老提督の話ではこの指揮権は代替も代理も効かないと言っていたぞ、お前が指揮しなければならない艦娘だ、今更逃げ出せはしない、ケツにリキ入れて踏み止まるしかない、その為に我々も協力して来たんだ」

 

状況に対する意識の違いはお互い様だった

老兵は老兵でこちらの甘い考えを如何にかしようとしていて、こちらもヤバイ状況を如何にか出来ないかと画策していた

双方が相応に対応しないと事態は悪化の一途を辿るのは確定している、そこだけは意見の一致を得られただろうが、問題が解決した訳ではない

 

「ちょっと、あんまり脅しをかけないで貰いたいんだけど」

 

叢雲(旧名)から声が掛かった

 

「……女房気取りか?」

 

「バカな事言ってないで、こんな状況で脅しをかけても意味を成さない事くらい分からないの?今は煽てて囃し立てて調子に乗せないと逃げ出すわよ?コイツは」

 

「酷い云われ様だ、まあ、否定出来んが」

 

これらの遣り取りをどう見たのか、老兵は話を戻しにかかった

 

「……兎も角、サインしろ、それで大抵の事態には対処できる様になる、何より我々が直接支援する立場に立てる、そうなれば今よりは幾らかはマシな状況を作れる筈だ」

 

「直接支援?」

 

「契約内容にあるわ、司令官は無条件に退役軍人会に対し協力を要請出来るそうよ」

 

書類を確認していた叢雲(旧名)から補足が入った

 

「……ロハでは無いだろう」

 

「記載は無いわ、個人的なコネクションに加えられるでしょうけど」

 

「そして無理難題を吹っかけられると、そんな要請条項なんて使えば使うだけ柵が増えるだけじゃ無いか、使う度に縛り付けるモノが増えて、最後にはそれが絡まって身動き出来なくなる、使わないに越したことは無いな」

 

面倒な柵が増えるだけにしか聞こえず、相手が叢雲(旧名)だった事もあり感想を言った

 

「それは慎重過ぎるな、これだけの艦娘を率いるのならそういった柵を使い熟す術を学ばないと、どう転んでも身動き出来なくなる」

 

老兵がこちらの感想に異論を付けてきた

 

「……その通りだとは思う、正直なところ私にはそれですら荷が重過ぎる、この鎮守府だけで手一杯なんですよ、困った事に」

 

老兵の異論に反論は無いが、状況は既に手一杯、外に協力を要請出来る様になった所でそれを活かせる機会を作れるのか?

スタートラインにすら立てないという情け無い問題に直面してしまう可能性が出てくる

 

「既に手から溢れてるし、所属艦娘達の補佐に頼り切って如何にか取り繕っているけど、上乗せされたらどうなるか、不安がないとは言い切れない」

 

叢雲(旧名)さん?ここで追い討ちは必要か?甘言をとは云わないが蹴落とさなくても良くない?

 

「そうか、一般公募の民間登用者ではここらが限界か、なら、良い手がある、今すぐ退職してここの指揮権を他の司令官に渡せ、退職時には相応の資金を提供しよう、重荷を降ろせるぞ」

 

大真面目に提案して来る老兵

本人の希望を通す、組織の拡充を図る、部隊としての冗長性を確保する、等々

老兵の中では至極当然の結論に達した模様

 

「あのねぇ、そういう馬鹿話は他所でやって、その話を進めたいなら老提督に話を通してからにして丁第、それと、二度と口にしないで」

 

然し乍ら、それに叢雲(旧名)から文句と要求と宣告が老兵に対して行われた

 

「なんだ?いい話だろ?司令官には」

 

「……提督でなければ、という条件が付きますがね」

 

司令官の資質、提督の資質、この違いを口頭で説明出来る程系統的な解釈は出来ていない

こんな面倒事は物好きで酔狂な書き物好きの提督が現れれば他者にも理解が及ぶ機会が出来るかも知れない程度には説明が困難で厄介、誤解と錯覚からの混乱を避ける方法が無いのなら、単に解らない、としておいた方がマシだと思う

 

「提督でなければ?」

 

老兵から尤もな疑問が投げられる、それに叢雲(旧名)が応じる

 

「老兵さんは司令官の資質に留まっているから分からないのでしょうけど、現時点で妖精さんが提督と認識しているのはここにいる佐伯司令官だけ、意味が分かる?」

 

「あいつが、老提督が提督の資質を喪った?まさか……」

 

「そのまさかの状況に成ってる、更に言えば提督の資質を持つナニモノかが艦娘部隊上部機関本会議場にいる可能性を初期艦が指摘してる、この意味が分かる?」

 

「……まさか、そんな事は無い、上部機関には提督の資質どころか司令官の資質を持つ者は居ない、居ない筈だ」

 

「今、佐伯司令官を艦娘部隊から排除したら、上部機関にいるナニモノかが艦娘部隊を掌握するでしょう、老兵さんはそれが目的でここに来たの?」

 

「……そんな話は何処からも聞いていない」

 

「だから、老提督を通してと言ってるの」

 

「提督の資質を喪っているのが事実なら、その話に信憑性が出て来る、という訳か」

 

そんな叢雲(旧名)と老兵との遣り取りを他人事の様に眺めていたら、叢雲(旧名)から書類を突き付けられた

書類の一部分を指して記入を要求していた

 

 

 

 

鎮守府-第二食堂(鎮守府専用食堂)

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

???:戦貴棲姫(権兵衛さん)

鎮守府所属艦:初春/大和/叢雲(初期艦)

大本営所属艦:一組の初期艦二

 

 

「いつまで待たせるつもりだ?」

 

食堂に顔を出したら早速戦貴棲姫から文句が飛んで来た

 

これまでは一組の漣と電が暇を持て余さない様に話し相手になっていたが、大和に人との話し合いに慣れさせる様に頼んだ結果、暇を持て余してしまったらしい

 

「まだ暫く掛かる様だ、其方の準備は整えられたか?」

 

「なんの準備だ、時間は割くが話し合いに応じる気はないサッサと済ませてもらおうか」

 

不機嫌さを隠しもせずに言い放つ戦貴棲姫、宜しく無い傾向だ

 

「指摘されているとは思うが、其方の要求は私よりも大本営や上部機関にした方が話が早い、割く時間を減らしたいのなら話し合いに応じた方が建設的だと思うが、戦貴棲姫には違う考えがあるのか?」

 

如何にかしてその傾向を変えてみようと誘導を試みた

 

「言った筈だ、我等の交渉相手は鎮守府司令官であり目的は交渉の妥結だ、艦娘を指揮下に持つ鎮守府司令官でなければ意味が無い」

 

随分な拘りを見せる、正直な所そこまで拘る理由を掴みかねて敢えてそれを聞いた

 

「大本営や上部機関はその鎮守府司令官を指揮下に持つんだが、それでは意味が無い理由は?」

 

「我等が得ている話では、鎮守府司令官は艦娘に対し広範囲な指揮権を行使出来る、大本営や上部機関とやらはその状況を補佐するに過ぎない、指揮下に置いてはいない、従って艦娘を相手にする我等からは鎮守府司令官と交渉せねば意味を成さない」

 

どうも戦貴棲姫を始めとした我等の方々が得ている話を前提にしている様子

それはこちらの前提と異なっていると指摘しているのだが、前提の擦り合わせに応じない

仕方ないから先方の前提で話を続ける、とはいえ異なる前提をこちらとしても受け入れるわけには行かない

 

「こちらには来ていない運用規定の変更ではそうなっていると?大本営司令長官がこの鎮守府に来ているのにその話は未だに何処からも聞こえてこない、前々から司令長官の秘書艦もこの鎮守府に滞在しているのにも関わらずその話は来ていないんだ、そこに拘られてもこちらとしては対処の仕様がない」

 

「……」

 

何度目かの指摘、それに戦貴棲姫は沈黙してしまった

 

「そんな所で考え込んだってしょうがないでしょう、下手に考えるよりも打開策を出したら?」

 

黙ってしまった戦貴棲姫に叢雲(旧名)から声がかかる

堂々巡り気味の前提条件の違い、この前提条件は鎮守府の現状を見れば明らかな訳で、現状に沿った前提条件を基にしている司令官には変更しようがない

司令官には鎮守府の全権はあるがそれは飽くまでも艦娘部隊の一部分の話、戦貴棲姫の前提はその一部分を超えている、それを司令官相手に如何にかしろと言っても無理でしかない

そこまで拘るのならその打開策は無理を押している側が出さないと話にならない

 

「交渉の前提に齟齬がある、それを解消しろという事か、どうやって??」

 

思い掛けない問いに反応に困る叢雲(旧名)

 

「ちょっと?しっかりしなさいよ、それを私に聞いてどうすんの、我等の方々がいるんでしょう?さっきまで広範囲な我等とも協議してたんじゃないの?それは交渉の為じゃないの?少しは知恵を絞りなさいよ」

 

「……」

 

叢雲(旧名)の言い分に再び沈黙してしまう戦貴棲姫

それをどう見たのかは本人にしか分からないが、ここまで大人しくしていた漣が助け舟を出してきた

 

「あー、叢雲?ちょっと厳しいんじゃないかな、この状況は先達の助言が必要な場面だ、でも戦貴棲姫には助言を受けられる先達者はいない、下手を打つと追い詰める事にもなりかねない、もう少し加減しても良いと思うけど」

 

漣の言い様に叢雲(旧名)の視線に鋭さが加わった

 

「漣、流されてない?今は休戦状態とはいえ戦貴棲姫はこの鎮守府を包囲し無理な要求を飲ませに来た指揮艦、変な馴れ合いは司令官は勿論鎮守府にも不利に働く、踏み止まる場面で少しでも退けばそのまま押し切られるかも知れない状況で流されないで」

 

艦娘、それも初期艦が戦貴棲姫に同情的になるというのはどう考えても良い結果に繋がらない

それが分かっているだけに叢雲(旧名)の口調は堅い

 

「そういうつもりはないんだけど、指揮艦といっても思ったほど傲慢な訳でも分からず屋な訳でもない、理解を促した方が良いと思うんだけどなぁ」

 

堅い叢雲(旧名)に対していつもの軽い調子の漣、どうやら感情的な理由で助け舟を出した訳でもなさそうだ

 

「理解を促して、どうするの?」

 

何を考えているのかは分からないが、何か考えがあっての言動らしいので、それを聞く叢雲(旧名)

 

「相互理解が進められるのなら、今は一時的な休戦状態だけど、もっと長期的な休戦状態、もしかしたら停戦とか和平にまで持っていけるかも知れない、とは思わない?」

 

呆気に取られた、それで返答までに間が空いてしまった

 

「……漣が突拍子も無い事を言い出すのはいつもの事とはいえ、それはどうなの?これまで話して来た中でその可能性が視えたの?」

 

「いや、全然」

 

「ちょっと、単に思い付いただけ?」

 

あんまりな漣の言い分に刺々しい返答の叢雲(旧名)

 

「今は可能性も視えないけど、相互理解を進められる環境を創れるのなら、見えて来るかも知れない」

 

尤も漣はそんな棘など気にする事もなくいつもの調子だった

 

「和平?和平とは何だ?」

 

戦貴棲姫からの質問だ、もしかしたら知らない原語、概念なのかも知れない

 

「和平というのは交戦状態を解消して隣人として仲良く共存していきましょうって事、大雑把な説明で悪いけど戦貴棲姫に今細かい説明しても分からないだろうし、今直ぐどうこうって話では無いから、そういう道もあるって知っておいてほしいんだ」

 

漣の応えを聞き、考えながらもどこか腑に落ちない感じで不思議そうな戦貴棲姫

 

「……共存?人、とか?」

 

「出来ない?」

 

「我等の群れの中に人の組織が形成されていると話しただろう、コレは共存ではないと?」

 

ナルホド、戦貴棲姫からするとそれが共存になるのか、思い返せば初期艦を寄越せっていう要求も人の組織と我等の群れとの間を初期艦(の妖精さん)に取り持ってもらい組織全体の強化が目的、いや手段だったかな

あれ?目的ってなんだったっけ?

 

「……共存といえばそれも共存の一つの形ではある、私が言っている道、これからの選択はそれとは違う、お互いに建設的に互助的な関係性を構築して相互利益を最大化させる方向性を確保し、共存共栄を目的とする、現時点では夢物語だけどね」

 

夢物語ね、夢を語る艦娘か、初期艦はそういう傾向が強いらしい

 

「……鎮守府司令官は、この初期艦の話をどう聞いた?」

 

漣の話をどう判断したのか、或いは考えあぐねたのか、こちらに振って来た戦貴棲姫

 

「共存共栄は出来るのならその方が良いとは思う、現時点では夢物語にもならないのが惜しい所か」

 

ここで夢の話を続けても仕方ないと思う反面、全否定するのも惜しいのが悩みどころ

 

「えっと、理由を聞いても?」

何故か漣から質問が来た

 

「……なんで艦娘に、それも初期艦にそれを問われるんだ?大丈夫か」

 

叢雲(旧名)が懸念している事案が杞憂では済まない事態に発展していたらとても面倒なのだが

 

「少し話してる時間が長過ぎたみたいね、戦貴棲姫の影響を受けてしまっている、暫く休みなさい、電もね」

 

早速叢雲(旧名)が反応した

 

「戦貴棲姫がどれ程の規模を掌握しているのか不明なのです、仮に最大規模を想定したとしても、深海棲艦全体の規模を考えれば、和平という条件が満たされたと判断してくれる人はいないのです、結果として和平協定を結んでも人は不履行を理由に破棄してしまいます、そうなってしまったら今よりも厳しい事態になるのです」

 

漣と同様に扱われた電には異論がある模様

 

「……電はここに残りたいの?漣と一緒に休んで来てからでも間に合うと思うけど」

 

一時的であれこの場から退く事は電の本意ではない様子、大人しく話を聞く側に徹していても意見は意見としてあるし、話が良からぬ方向に進む事は避けたいのだろう

 

「電は殺し合いより話し合いが良いのです、でも相手が耳を貸さないのなら、先立ってやらなければならない事があると、考えています」

 

一号の電は逃げるタイミングを計る必要があるくらいにはヤバイ雰囲気を醸し出す場合があるが、そんな雰囲気を持つのは特異な一号だけで一組の電はとても良い子だしそんな事はない、と思っていたのに思い違いだった

同型同名艦は別個体でも本質的な部分で似通う場合もある様だ

 

「電は戦貴棲姫が話し合いに、交渉を諦めない限りは応じる考えか、その時間があると良いんだけどね」

 

そんな電の雰囲気に慣れっこなのか、漣は調子をそのままに話を続ける

 

「無いと考えているのですか、漣は」

 

ここに来て自身の主張を翻す様な事を言い出す漣

和平交渉なんて手間暇がどれ程掛かるのかはやって見なければ分からない、それが始めから出来るのなら必要なのは交渉では無く調整だ

 

「まるっきり無い訳じゃない、けど、十分な時間があるかとなると、無いだろうと思う、だから今はその道がある事だけでも知って欲しい」

 

つまり漣の狙いは戦貴棲姫に余計な知恵を付けて将来的な切っ掛け、何かの取っ掛かりに出来ないかという事か

その知恵は付けてもどの程度考えに入れてくれるのか、心許ない限りだ

 

「初期艦、その道は人が勝手に深海棲艦という一括りにした枠を人が再定義しなければ実現不能だろう、我等が知っているだけでは何の意味も持たない」

 

意外にも戦貴棲姫から真っ当な返答が返ってきた

もしかして検討してくれているのか、先方にそのつもりがあるのなら話は変わってくるかも知れない

 

「わかってる、そこは私達初期艦が司令官にその道をどこまで示せるか、司令官がどこまで人に働きかけてくれるのか、人の組織がどこまで応じてくれるのか、コッチ側の対応が必須な事はわかってる、でも、戦貴棲姫からの働きかけも重要なんだ、それがなければ私が何を言っても絵空事にしか見られない、可能性を、実現性を何らかの形でハッキリ出さないと誰も耳を傾けない、今は佐伯司令官でさえその可能性を見つけられない状態なんだ、現状を如何にかして変えていかないとその道に向かう事すら出来ない、このままの状態が続くという事は艦娘と深海棲艦は戦い続ける事になる、永遠に終わらせる事の出来ない戦いになってしまう」

 

「初期艦は随分と楽観視しているのだな、それとも我等を見下しているのか?」

 

漣の言い分に不満が有りそうな戦貴棲姫

 

「艦娘と深海棲艦、絶対数の違いが闘いの結果に大きく影響するのです、現状では深海棲艦との戦いを維持する数にすら艦娘の数は届いていない、戦貴棲姫が、我等の方々が今直ぐに攻勢に出るだけで、艦娘は人の前から姿を消す事になるでしょう」

 

「そうなれば人に残された道は緩やかな消失、種として存続出来なくなるだろうね」

 

その不満に間を置かず即答する電と漣

 

「初期艦は人に含む所があるのか?我等は人がそこまで脆弱だとは考えていない、海から離れた陸に相当数の人が残留すると考えている、我等の行動目的に人の殲滅はない、我等の手の届かない奥地に引いているのなら放置する、現時点でも我等は積極的な攻勢には出ていない、艦娘や人の軍が普段相手にしているのは我等の統率下に無い深海棲艦だ、人が一括りにしたこの呼称を我等は我等の統率下に無い似て非なるモノの呼称として用いている」

 

一組の初期艦二隻の返答に軽く訂正と若干の情報を付け足す戦貴棲姫、この言い分が事実なら、本人が言うのだから事実なのだろうが、人の身でそれを確かめる術はない

もし、確かめる事が出来たのなら艦娘部隊の行動方針にも影響しそうな話だ

 

「似て非なるモノ、ですか、正直な所艦娘からは識別というか見分けが付かないんだけど、どうやって判別してるの?」

 

「初期艦ですら見分けられないのか、ならば、艦娘には出来ない事だ、その機能が付与されていないと考えられる」

 

興味深い考えだ、少し掘り下げてみようと思い話に参入する

 

「戦貴棲姫にその機能が付与されているのなら、妖精さんの協力で艦娘にも付与できるかも知れないな」

 

「……付与して如何するのだ?」

 

なんか凄く不思議そうに聞かれたんですけど

 

「艦娘にも見分けが付けられるのなら停戦相手と闘わずに済ませられるじゃないか、そういう状況を確かに創れるのなら人の中にも耳を傾けてくれる組織なり集団があるかもしれない」

 

「そこから拡げて和平とやらに持ち込むのか?強引過ぎて実現性が無い、そちらだけでやってもらおう、我等は関知しない」

 

アッサリというか、全く関心が無い、関わるだけ時間の無駄、そう言わずとも態度がそう物語っていた

 

「この交渉の強引さを棚上げしちゃうの?戦貴棲姫の目的と比べれば軽い方だと思うけど?」

 

その態度に漣から突っ込みが入る

 

「……我等だけが強引に交渉を進める事に不満があると」

 

とても面倒臭そうな様子の戦貴棲姫

 

「そっちの強引な交渉だけを聞けって態度は、傲慢って言わない?交渉の前提は対等な立場とか関係を認める所からじゃ無いの?」

 

「対等か、なるほど、鎮守府司令官はそこを気にして我等に大本営やら上部機関に話をする様に言っているのか、艦娘部隊の組織構成を見れば確かに鎮守府司令官は幹部級の立場とは言い難い、だが、我等がそれを承知の上で鎮守府司令官を交渉相手に選んだ、そこを理解してもらいたいのだ」

 

ナニソレ?戦貴棲姫や我等の方々はそれを承知で私に話を、交渉を持ち掛けて来たと言うのか?

その意味する所は、なんだろうねぇ、知りたくも無いが放っておく事も出来ずに聞いてしまった

 

「えっと?それって私に過重労働を強いるって事かな?」

 

「一人で負えばそうなるな、嫌なら交渉を打ち切るなり対応策を講じるなりする事だ」

 

「……」

 

あんまりな言い分に絶句してしまった、なにその丸投げな前提は?交渉を纏めるといいながら纏める労力を全部コッチに丸投げですか、そうですか

 

「良かったわね、戦貴棲姫に高く評価されてるわよ」

 

叢雲(旧名)からアリガタイオコトバを頂戴した

 

「喜んでいい事、なのか?それは」

 

他人事だと思って、いや実際他人事なんだろうが、あんまり過ぎる言い草だ

 

 

 

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