初期の艦これ   作:弱箔

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87 四人は食堂にいた

 

 

鎮守府-第二食堂(鎮守府専用食堂)

桜智鎮守府所属艦:村雨/夕立/五月雨/涼風

 

 

三隈に食堂に連れてこられ、利根が騒がしく乱入して来たら、白露が利根と一緒に食堂を後にした

その後もコレといった変化は周囲にしか無く、四人は食堂にいた

 

目前の甘味を頬張る事は忘れずに夕立から一言あった

 

「ねぇ、私達って、忘れられてない?」

 

「忘れられてるってよりは、出る幕が無いって感じだよね、舞台の裾で大人しくしててって感じかな」

 

食休めの美味しい紅茶を楽しみながら応じる村雨

 

「生時舞台の裾にいるから黙って大人しく見てるしかないんだよな、下手に動くと舞台が台無しだ」

 

団子やら饅頭やらが気に入った様子の涼風が緑茶入りの湯呑みを片手に夕立同様に頬張る事は忘れずに応じていた

 

「台無しになんてなったら、司令官はどうなるのでしょう」

 

こちらも羊羹とかゼリーとか固め物が気に入った様子の五月雨がそれ用の楊枝で一口サイズに切り分けながら話に加わる

 

「少なくとも詰め腹切らされるだろうね、介錯を深海棲艦がするのか艦娘部隊の誰かが取るのかの違いくらいは出るだろうけど」

 

「……大人しくしていましょう、そんな事になったら桜智司令官にも合わせる顔が無くなってしまいます」

 

涼風と五月雨の遣り取りに他の二人も概ね同意、同意なのだが、甘味のメニューを制覇した夕立には別の思惑が頭に浮かんでいた

 

「だからって大人しくし過ぎるのも、何か違うんだよね」

 

軽くではあるが、それを口にする

 

「そう言えば、白露と利根は何処に?」

 

何か考え付いた事は察したが、そこには触れず別の話題を提供した村雨

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

桜智鎮守府所属艦:村雨/夕立/五月雨/涼風

 

 

執務室で騒がしい駆逐艦達の来襲を受けた、元気なのは良いんだが、それを私に向けられても困る

 

「暇だって言われてもな……」

 

「暇っぽい、退屈っぽい、遊んで欲しいっぽい!」

 

「……」

 

駄々っ子か?桜智の奴はいつもこんな騒がしい駆逐艦を相手にしているのか、まあ、あいつならなんとでも鯔背そうではあるな

 

「ちょっと、夕立、我儘言わないの」

 

こちらの顔色を伺った村雨が夕立を諌めにかかった

 

「折角お手伝いしに来たのに何にも指示されない、退屈っぽい!!」

 

それでも騒がしい駆逐艦、止まる気配も無い

 

「いや、お前達は五月雨を連れ帰る為に来たんだろ?五月雨とは話をしたのか?」

 

取り敢えずこの駆逐艦達がこの鎮守府に来た目的を言って様子を見る、暇ならサッサと目的を達成すれば良いんじゃ無いかな?

 

「そっちは後でも如何にでもなるさ、今はあの包囲を如何やって崩すかだ、出来なけりゃ連れて帰るどころかこっちまでここで足止めだ、先ずは航路を確保しないと話になんねーな」

 

別の駆逐艦からは明から様に作戦行動を要求して来たんですけど、どうしようか

 

「今は大人しくしててくれ、それしか言い様がない」

 

そんな要求を認める事は出来ないし、要求を飲んだ所で現状は変えようが無い

 

「私は未だ練度も高くありませんし戦力としては至らない所もあると思います、けれど、ただ傍観する為にここに来たつもりはありません、何か私達でも手を貸せる事がある筈です、是が非でも力を貸したい、桜智司令官も手を貸してこいって言ってくれました、お願いします」

 

涼風の次は五月雨か、三隈はどこ行ったんだ?駆逐艦の世話を頼んだのに野放しじゃないか

 

「あのな、そちらの目的は初期艦の五月雨を連れ帰る事なんだろ、サッサと口説いて陸路で帰るって手もあるんだ、私に頭を下げる必要はどこにもないだろう」

 

どうしようかと考えながらも頭を下げる五月雨を放って置く訳にも行かず、目的を果たす様に促した

 

「……陸路?」

 

それに反応を返して来たのは村雨だった

 

「自衛隊に頼めば桜智の所まで送ってくれるだろうよ」

 

「私達は時雨達と別れて行動中です、向こうは外に、外洋の護衛隊と行動中です、私達だけ陸路で帰るって訳には……」

 

最後の方は言い淀んでしまっていたが、この駆逐艦達は別行動を取っている他の白露型と合流したいらしい

 

「そこまでは面倒見切れない、外洋にいるのだから別行動になるのは仕方ないだろう、別れて戻れば良いのではないかな」

 

「それはダメっぽい、皆んなで五月雨を連れ帰る為に来た、皆んなで五月雨と一緒に帰るっぽい」

 

この夕立という駆逐艦ただ騒がしいだけの駆逐艦ではないらしい、練度はウチの駆逐艦達と然程変わらない様に視えるが、艦娘のチカラは練度だけでは測れない

余計な事は言わない方が無用で無益な厄介事を避けられるだろう、つまり現状維持してもらうのがこちらの都合となる

 

「なら、大人しくしててくれ、事が終わればそれも出来るようになるだろうからな」

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

 

 

騒がしい駆逐艦達には如何にかお引き取り頂いた、駆逐艦達の主張を黙って聞いていた叢雲(旧名)がその退室を見てから口を開けた

 

「五月雨にクギ刺しといてもらおうか?」

 

なにを言い出すのかと思えば提案らしい

 

「放って置いて良い、預かった艦娘に何かあってからでは遅いし、五月雨に変に気を使わせたくないしな」

 

私の言い様に何を思ったのか叢雲(旧名)は考える素振りを見せる

 

 

「……白露達が目的だと言っているのに五月雨と接触していないのには、ワケがある?」

 

色々考えて見て司令官の頭の中を推定、何れが今の状況を説明しているのかを判定して様子を伺う

これまでの所では過去に関わった五月雨の行動から司令官は五月雨に迂闊な事を言えない様子が見て取れた

対処に慎重過ぎる様子からも司令官の内心を推し量って対処法を探した方が良いと思う

 

「大したワケがあるって事もないだろうが、下手を打つとあの時の轍を踏みかねない、大人しくしててもらった方が良い」

 

やはり司令官は一組の五月雨の事を気にしていた、でもそれは過ぎた事、何時迄も引き摺っていても良い事はない

それに引き摺らなければならないのは司令官では無く、改修素材として消費した私なのだから

 

「確かに建造艦とはいえ五月雨な訳だし、見てる限り他の姉妹艦が建造艦に配慮し過ぎな様にも見える、轍を踏みかねないのは分かるけど、放置し過ぎるのも違うんじゃない?」

 

放置しても司令官の気苦労を減らす事は出来ない、ここは何らかの要件を割り振った方が良いと判断

叢雲(旧名)としては折角居るのだし、借りられる手なら借り出したい場面でもあるし、司令官が拒否しないのならあの駆逐艦達に頼める要件に心当たりもあった

 

「何か、考えでもあるのか?」

 

取り敢えず司令官は反対では無い様子

 

「まあ、ね」

 

曖昧に答えながらも心当たりを実行するのに話を通す相手を数え始めた

 

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府:叢雲(旧名)

大本営所属:五月雨(一号)

 

 

反対はされないだろうが、話は通しておくに越したことはない相手、一号の五月雨

 

「叢雲、何を企んでいるのですか?」

 

色々考えながら話した所為か、五月雨に余計な事を考えさせてしまった様だ

何か心配そうな顔をしている五月雨に少しだけ説明を足した

 

「あんたの所の姉妹艦が暇だって言うから、ちょっと手間を取ってもらおうと思ってね」

 

 

 

 

鎮守府-憲兵隊詰所

鎮守府:叢雲(旧名)

自衛隊_憲兵隊:隊員1/隊員2

 

 

反対はされないだろうが、話は通しておくに越したことはない相手、憲兵隊

 

「……憲兵隊に持ち込む話ではないだろう、それは」

 

取り敢えずは話を聞いた憲兵は困惑している様子を見せる

 

「じゃあ勝手に動いていいのね、憲兵隊は了承済みって事にしておくわ」

 

「待て、了承してない、勝手に動かれると面倒な事になる」

 

何を慌てる所があるのか知らないが、大袈裟とも思えるくらいの動揺を見せる憲兵達

 

「なら、話を通して」

 

「……はぁ、隊長はいつ戻ってくるんだよ、面倒事が多過ぎる」

 

話自体は憲兵隊に通さなければならない事案では無い、そこは憲兵達も分かってる、分かっているから拒否出来ない

憲兵といっても陸自の自衛官、何故この話を憲兵隊相手に通しに来たのか、その思惑は正確に伝わった

 

 

 

 

鎮守府-旅客船(移籍組宿舎)_司令長官室(臨時)

大本営:老提督(大本営司令長官)

桜智鎮守府所属艦:村雨/夕立/五月雨/涼風

大本営所属艦:五十鈴(司令長官秘書艦)

 

 

秘書艦との話し合いの最中に予定外の訪問者が訪ねて来た

 

「ふむ、佐伯司令官から手を貸すように言われて来たのかね」

 

訪問者達の話を一通り聞いて要点を確認する

 

「はい、大和を秘書艦に戻せない代わりに手を貸して欲しいと頼まれました」

 

訪問者の一人、村雨が応じている

 

「……でも、貴方達はこの鎮守府所属ではないでしょう、事情も分からない案件に手を貸して来いって云われてるのよ?不満はないの?」

 

困った様な疑わしい様な、少なくとも訪問者を歓迎する雰囲気は無い五十鈴が訪問者達に聞く

 

「あたいらはここにタダ飯食らいに来たんじゃないんだ、手を貸して来いって桜智司令官から指示されて来たんだ、手を貸した結果として五月雨と一緒に鎮守府に帰る、それで任務完了って事だ」

 

その雰囲気に何か感じる所があった様で涼風が捲し立てるように言い放つ

 

「……五月雨?最初に配置された五月雨の事かな、桜智司令官は鎮守府に復帰させる様にと佐伯司令官に再三要請していると聞いてはいるが」

 

そんな艦娘同士の遣り取りを気にする様子も見せず涼風の言った内容を拾い出す老提督

 

「聞いているのに許可しないのは何故ですか?」

 

そう質問したのは涼風の様に言い放ったりせず口調には気を付けている村雨だ

 

「何故って、桜智司令官から大本営に要請が出されていないからだ、鎮守府司令官は同格であり代弁する必要は無いし、鎮守府運営は司令官の専権事項だからね、初期艦を他の鎮守府に配置する様に要請する事は出来ない、参考意見として上申するだけでも越権行為と判断されかねない、それでも佐伯司令官は幾度も上申している、大本営としても判断に困る状況なのだよ」

 

村雨の質問に大本営側の事情を説明する老提督

 

その説明はこれまでも聞いていた状況を補強するだけで満足な解答では無い、村雨は質問を重ねた

 

「ではウチの、桜智司令官が配置する様に大本営に要請すれば五月雨は戻って来るんですか?」

 

そう問われた老提督は暫く考える間を空けてから応じ始めた

 

「……断言は出来ない、その要請が出されれば可否判断は行われる、今は艦娘の配置に付いては再編中なのでね、最終的にどうなるのかは今の段階ではなんともいえない」

 

「再編中?」

 

疑問調に聞こえた応答に少しの疑問を感じつつも手数が欲しい老提督としては来訪者達から反感を買う様な真似はしない、自身の秘書艦があまり友好的な雰囲気では無いのも得られる手数とそれを得る手間を勘案しての結果だろうと思われるが、自身とは違う結論に辿り着いた様子に困惑もある

 

「桜智司令官の元にも何隻か移籍したと思うが、余り関わっていないのかな」

 

「あの移籍して来た子達は大本営から?畳んだ別の鎮守府からと聞いていましたが」

 

「二箇所の鎮守府から司令官が居なくなり残された艦娘達を一時的に大本営に預かり再配置したんだ、引き受けて貰えて良かった、拒否されたら又佐伯司令官に甘えなければならなくなっていただろうからね」

 

「大本営はこの鎮守府に十五隻も追加しようとしていたんですか?」

 

「既に五十隻を超える艦娘の追加配置を指示しているんだ、負担は増えるが不可能ではない数だと考えている」

 

「五十を超えるって、いきなり所属艦娘の数を倍にするんですか?無謀すぎる、と思います」

 

現状の説明を続けた所村雨からは疑問やらが異論が湧き出して来た

どうやら佐伯司令官が中心となって進めている行動に対して些か情報が足りない様だ

この不足は別の鎮守府に所属する艦娘全体になるのか、それとも一部に留まるのか、老提督には判断が着かなかった

 

「……佐伯司令官はそれを引き受けてくれた、この件は合同計画で伝わっていると聞いているが、知らなかったのかい?」

 

判断が難しい案件を予測で断定するのは凡ゆるリスクを内包する事態を招きかねず危険に過ぎる、聞いて確認と検証が必須になるのだが、聞き方には注意が必要になる

 

「合同計画は資材提供に関する共同作戦です、この計画は高練度艦の現役復帰を目的とし、復帰した艦娘は希望する鎮守府へ再配置される、と聞いていますが、佐伯司令官の指揮下に入る前提の計画なんですか?」

 

「前提ではないよ、ただ再配置するに当たって一時的にこの鎮守府に、佐伯司令官の指揮下に入る事にはなる、というだけだ」

 

「再配置の権限は佐伯司令官に、という事ですか」

 

この応答から全体の流れは伝わっていると判断、詳細な手続きの部分で齟齬というか誤解を生じさせている様に感じられる

 

「彼が、佐伯司令官は艦娘を独占したがる様な司令官かね、艦娘からはそう見えるのかな」

 

お互いにどう応じるのか、それを考える間を取る様に少しの長め間が空いた

 

「あー、数が増えると仕事が増えるから他所に行きたいって言うのなら直ぐに行かせるだろうな、引き止める様な性格してないだろ、あの司令官」

 

その間に一人で納得した様子の涼風から感想が入って来た

 

「涼風、もう少し言葉を丸めて、指揮権が変更されてるって聞いたでしょう」

 

無遠慮な感想に村雨が注意を促した

 

「……堅いよ、村雨は、こんな些細な事で目くじら立てないって、あの司令官は」

 

その注意に呆れた様な反応を返す涼風

 

「司令官はそうでも所属艦娘はそうじゃない、私達は所属違いの艦娘、ここの所属艦娘達との軋轢を生じかねない言動は慎む方が良い、移籍組といわれてる自称高練度艦達の様になってしまうのは避けた方が良いでしょう」

 

「わかったよ、心配性だな、村雨は」

 

村雨と涼風、二人の会話を聞いていたら自身の知らない状況が話題に出ていた

 

「ん?移籍予定者との間に、何か問題があるのかい?聞いていないのだが」

 

知らない状況、それも移籍組絡み、真っ先に報告があって良い案件なのに報告が無い事態に不安を覚える

 

「五十鈴?話してないの?」

 

こちらの質問に村雨が五十鈴に質問を重ねている

そちらに目を向けると苦い表情の秘書艦が見えた

 

「……上部機関との交渉の前には些事でしかない、その後でいいでしょう」

 

こちらの視線に気付いた秘書艦は平静を装い、それでも隠しきれていない僅かな動揺が見て取れた

 

「まあ、その辺りはこちらも当事者って訳じゃないし」

 

涼風からも一言あった

 

「聞かせてもらいたい、何があった?」

 

この状況は知らずに置く訳には行かない、自身の秘書艦に報告を求めた

 

 

~報告中~ (78話参照)

 

 

「なるほど、それを指揮権無視と取られ移籍予定の艦娘達からの意見を入れて代表役を降りたと言うことか、すると?今移籍予定者の代表は誰に?」

 

預かり知らぬ案件、手の届かない事象、過ぎた時間、それらは現在に如何なる影響を及ぼしているのか?

司令長官として対処が必要になるのはその点に尽きる

既に決着が着き、落ち着いた事案を蒸し返す手間も時間も大本営には無い

事は既に進行中であり、司令長官の立場からは大本営の事情が最優先される、秘書艦には冷たい仕打ちに映るだろうが、司令長官といっても臨時職では労う為に割ける時間は無かった

 

「戦艦種の伊勢と空母種の赤城、何方も司令官の指揮を仰ぐそうよ、尤も移籍組全員がそうではないけれど、取り敢えずは静観する方向で纏めてる」

 

秘書艦、五十鈴さんから冷静な報告が続く

 

「……そうか、指揮を仰ぐか、大本営への帰属は無いのだね」

 

一言、足そうとして思い止まった、今は余計な一言にしかならない

 

「大本営への帰属を求める声は聞こえてこないわね」

 

「それならそれでやり易くなったとも言える」

 

今は大本営の事情を優先させよう、その為にも秘書艦の協力は必要になる、その方向への協力ならば五十鈴さんも解ってくれるだろう

 

「やり易く、なった?」

 

「大本営と呼称されていた組織は改称して人の組織として成り立たせる、艦娘運用拠点の中心としての大本営は此処に集約させよう、佐伯司令官ならそれが可能だ、移籍予定者までも佐伯司令官の指揮を仰ぐと言うのなら間違いないだろう」

 

今後の大本営の方向性とその妥当性について私なりの考えを言う、五十鈴さんに秘書艦としての意見を求める為に

 

「買い被りすぎ、彼は民間人、組織を束ねる要としては脆すぎる、彼に頼り過ぎれば何処かで限界を迎えて一気に崩壊しかねない、リスクが大き過ぎる」

 

どうやら私の秘書艦にはお気に召さない考えの様だ、とはいえその主張の妥当性は認めなくてはいけない

いけないのだが、状況がそれ以外の選択を許しそうにない、如何にかしてお互いの妥当性を整合させなくてはならない

そんな思案をしていた所、話を聞いていた駆逐艦、涼風さんから意見があった

 

「ちょっと待ってくれ、民間人だから脆くて組織の要になれないってのなら、ウチの、桜智司令官や他の鎮守府司令官だっておんなじじゃないか、五十鈴の言い分はオカシイんじゃないか?」

 

「鎮守府ひとつなら、彼で十分なのよ、今必要とされている組織の要は、もっと大きな枠組みの話、それこそ日本に開設される鎮守府の全てを束ねる要、民間人では荷が勝ち過ぎる、それとも涼風は桜智司令官なら今後増加していく鎮守府の全てを束ねられると考えているの?」

 

「えっと、全部でいくつ開設されるんだ?」

 

「今実行中の計画でも五十箇所、今後更に増加予定、最終的には政府予算との兼ね合いになるでしょうね」

 

「単純に考えても、三桁には届くと、もしかしたら四桁に?」

 

涼風さんと五十鈴さんの話に村雨さんも加わって来た

 

「計画が順調に進めばそうなる、願望とか理想論ではなく数年あれば実現可能な数でしょう、艦娘は資材があれば無限に建造可能なのだから」

 

「そんなに、艦娘を増やすのですか?鎮守府ひとつに五十配置されたとしても百箇所の鎮守府が設置されたら五百ですよ?」

 

今度は五月雨さん、この艦娘さんは建造艦?初期艦ではない様だが

 

「全然足らない、ひとつの鎮守府で二百は指揮下に置いて貰わないと、今動いている計画では五十箇所しか鎮守府を開設しないのだから」

 

「……何をそんなに急いでるんだ?そんなに急増させる必要がわからない」

 

一箇所で二百の艦娘と聞いた涼風さんが合点が行かないと疑問というか不思議そうにしている

 

「艦娘の相手は数で押してくる、その数に対抗するには数が要る、急増でも何でもして数を揃えないと勝負以前に話にならない、今こうして鎮守府に閉じ込められているのも数が足らないから、目の前にこれだけわかり易く示されているのに対抗策を急ぐのがそんなに不思議なの?」

 

あんまりにも不思議そうな涼風さんに五十鈴さんも疑問の様子

 

「なんかおかしいっぽい、今の状況を見て対抗策を急ぐのに鎮守府の増設?まるで火事の現場で消防車を組み立てる話をしてる感じっぽい、由良なら違う事を考える」

 

この艦娘さんは、夕立さん?だったかな?雰囲気は村雨さんと良く似ている

ただ、似ているのは雰囲気だけの様だ、言葉の強さというかなんというか、何かが確実に違う印象を受ける

 

「そっちには由良がいるんだ……で、由良ならなんていうと思うの?」

 

由良?確か長良型の姉妹艦、先程の姉妹艦の話を聞いた所為か、特別な意味合いがある様にも聞こえる

 

「わかんない、でも由良の言うことは聞かないと後がないっぽい」

 

「由良さんなら、佐伯司令官が指摘していたように陸路での撤収を考えると思います、時雨達と別行動になってしまいますが、この状況での合流を無理には行わないでしょう」

 

夕立さんに続けて村雨さんからも回答があった

それを聞いた五十鈴さんが少しだけ驚いた様子を見せた、驚く要因が何処なのかが解らない

 

「なによ、彼も陸路での撤収は視野に入れてるの?それを早く言いなさいっての、変に職務に拘ってそこに気がついていないのかと思ってた」

 

「まあ、こっちから見ててもその可能性を口にしてないからな、気がついていないのかと疑いたくはなるな」

 

五十鈴さんの驚いた理由に涼風さんも同意を示す、個人的には佐伯司令官はそこまで職務に忠実というか熱心では無い事は耳にしているし、他にも聞き及んでいる事はある

 

「私が憲兵隊から聞いた所では彼は職場放棄するなら艦娘達と一緒にと言っていたそうだ、おそらく事の初めから陸路での撤収は考えていたと思う、今も鎮守府に留まっているのは相手の攻勢が予想した程ではなかったから、ではないかな」

 

その聞き及んだ話をしてみる、推測も混ざってしまったが、的外れではないだろう

 

「その場合移籍組は放置する事になったでしょうけど、それはそれで考え処ね」

 

特に態度に出ることもせず普通に返された、が、考え処とは?それを推定してみる

 

「……放置?」

 

「自衛隊に泣きついても百名近い数を一度に移動させるのは難しいと思う、鎮守府所属艦を優先するでしょう」

 

五十鈴さんが考え処とした現状が指摘された、そこまで解説されれば問題点も浮き彫りになる

 

「そうなのか?自衛隊のトラックなら一台で二、三十人くらい乗れるんじゃないか?」

 

浮き彫りになった問題点が疑問なのか涼風さんから質問だ

 

「その車両を何処から持ってくるの?自衛隊の現状を解ってる?」

 

「……先の殲滅戦で消耗しきっているんでしたね、再編と物資調達に躍起になってると聞きました」

 

五十鈴さんの問い直しに村雨さんが応えている、それを聞いていた涼風さんも疑問の解答として納得した様だ

 

「そう言う事、現場は現場で手一杯、上の方でも鎮守府派遣隊の件を始め色々揉めてる、鎮守府からの要請に素直に応じてくれるかどうか、彼がその辺りを楽観視している様ならそこが民間人としての限界でしょう」

 

「五十鈴としては佐伯司令官の限界はもう少し先だと思ってるのか、でもそれ程遠くでもないと」

 

民間上がりの司令官を脆いと評した五十鈴さんの示す限界点、それを確かめる様に言う涼風さん

 

「老提督は如何お考えなのですか?」

 

村雨さんに話を振られた、五十鈴さん示す限界点について問われてしまった

 

「私の考えか、私はもう引退する事が決まっている、なにが如何なろうとも彼に、佐伯司令官に全てを委ねる他ない、彼には不満も多いだろうが後を託せるのは彼しかいない」

 

この場で言い繕っても始まらない、この駆逐艦達は少なくとも桜智司令官から指揮を離れた独自行動を許されるくらいには司令官から信頼されている、部下を他人に預けるにも預ける相手と預けられる部下の双方に信頼がなくては拒否される、拒否されなかったとしても交渉という話し合いが必要になる

聞いた限りでは桜智司令官は佐伯司令官からの要請を即決したという

一切の躊躇いも躊躇も条件すら付けずに承諾したと聞いている、艦娘を信頼しないモノには出来ない行動だろう、艦娘の言う司令官と単に指揮を取る士官は人の組織から見た場合と艦娘から見た場合で意味合いが違う、人はその違いを学習しなければならない、学ばなければ何時迄も艦娘を消耗品として浪費するだけだ

監察官達が大本営に監査に入って指摘した多くの問題も浪費家揃いでは解決の目処すら立ち様も無い

 

「引退?老提督は艦娘部隊から身を退くのですか?艦娘部隊は勿論、上部機関にも上級籍が確保されているのにですか?」

 

驚き気味に聞き返されてしまった、そんなに変な事は言っていないつもりなのだが

 

「そこを含めて彼に託すつもりだ、もう私が艦娘達と関わる事自体が彼にとって足枷となっているんだ、人の組織との兼ね合いを整えたら私の役割は終わる、彼に託すにしても出来るだけの状況を整えて置くに越したことはない、五十鈴さんが指摘している様に彼は民間人、経歴から見ても大きな枠組みを束ねるだけの器量を持ち合わせているかどうか不明瞭だ、出来るだけの事はしていくつもりだよ」

 

「……佐伯司令官の事は桜智司令官から聞いてはいるけど、老提督がそこまで肩入れする程の司令官か?立場だけで言えば桜智司令官だって同じ筈だ、なんで佐伯司令官なんだ?」

 

こちらの話を聞きながら何かを考えいる様子だった涼風さんが浮かんだ疑問を言って来た

 

「彼は提督だ、私の様な半端な提督ではなく、妖精さんと艦娘達と、双方から提督と認識される艦娘達の言う意味での提督、そして相応の実績を伴わせている、何より元艦娘妖精、向こう側の妖精からも提督と認識されている、だからこそ向こう側から交渉に来ている、老提督と呼ばれていても私では有り得ない選択を向こう側の妖精達が選び、行動に移している、妖精さんとは切り離して考えられる存在ではないという点は向こう側とも共通しているだろう、彼はそれらのモノから相応の立ち位置を認められている、彼を認めていないのは人の組織くらいだ、直ぐには無理でも近い将来に人の組織からも認められる様な状況を整えて置くに越したことはない」

 

深海棲艦、この単語を避けて疑問に応じた、深海棲艦は艦娘の敵、そんな単純化された話にならない様に

 

「人の組織が佐伯司令官を認めなければ、それらのモノを佐伯司令官が束ねて人の組織や社会、集団と対立しかねない?」

 

村雨さんからの指摘、それは現状で最も避けなければならない可能性であり、描かせてはいけない未来図

当の佐伯司令官にそんな未来図を描く意思がない事は判っているのだから

 

「可能性はなんにでもある、それらの可能性のどれを選ぶのか、ある程度の誘導は必要だろう」

 

人の組織の誘導、それが老提督として祭り上げられた一介の司令官の最後の仕事、現役引退後の仕事としては重過ぎる責務だが、彼にこれ以上の責務を負わせようとしている老人としては逃げる訳にはいかない

 

「佐伯司令官が人の組織と対立?アレに付くって事?有り得ないだろ」

 

涼風さんから感想の様な言葉が聞こえてきた、「有り得ない」と、つまり彼、本来の司令官では無い佐伯司令官に対しての認識をハッキリと示している

 

「そう言い切れる根拠があるのかい?」

 

だから思わず聞き返してしまった

 

「だって佐伯司令官の給与は艦娘部隊から出てるんだろ?そこと対立したら誰が払うんだよ、まさか佐伯司令官が戦貴棲姫のトコでタダ働きするのか?」

 

タダ働き、確かに彼はタダ働きしてくれるタイプではないだろう、面白い視点から成る判断だ、それはそれとして気になる単語があった

 

「戦貴棲姫?」

 

「ああ、権兵衛さんって仮称で呼ばれてたけど大本営やら上部機関やらの話を聞く時間を割くって条件で佐伯司令官が個人?個体?の固有名称を付けてた、それが戦貴棲姫、今食堂にいるアレ」

 

涼風さんが説明してくれた、のは良いのだが、内容に驚かされた

 

「……そんな条件を持ち出して来たのか、益々佐伯司令官には艦娘部隊の中心にいてもらわねばならないな、同時に人の組織との繋がりをより強固なものにしなければ、間違っても人の組織から彼を排除する様な動きは留まらせなければ、彼に託す意味が無くなってしまう」

 

老提督と呼ばれた私の最後の仕事は私の予想以上に重いのかも知れない

 

 

 

 

鎮守府-旅客船(移籍組宿舎)_司令長官室(臨時)

大本営:老提督

大本営所属艦:五十鈴

???:老兵

 

 

駆逐艦達は佐伯司令官からの指示通りにこちらの手勢として動いてくれる事になった

これに五十鈴さん、秘書艦から異論が出るかと思ったが、あっさり了承してくれた

駆逐艦達には鎮守府に来ている大本営の職員やこれから来襲する政府関係の方々、自衛隊関係も含めて色々な伝達案件で走り回ってもらう事になる

 

それらに一通りの区切りが付いた頃を見計らったのだろう、私の古い友人が訪ねて来た

 

「取り敢えずはサインさせた、これで我々が直接支援出来る、退役軍人会の後ろ盾があれば経済屋は兎も角政治屋連中は軽々に手出しして来ないだろう」

 

軽く事情説明をした後に彼が契約変更に応じた事、それにより友人の目的も達成出来たと話があった

 

「艦娘部隊上部機関の主要構成員は経済屋なんだけど……」

 

しかし秘書艦には異論がある様子

 

「どこの国であれ経済と政治は密接に関わっている、経済屋が政治屋連中を無視はしないだろう」

 

「……買収されたら?」

 

遇らう様な言い様が気に入らなかったのか秘書艦が喰ってかかる

 

「疑り深いな、では聞くが経済屋が艦娘部隊から彼を追い出すと仮定して、それに幾ら出すと思う?」

 

「経済屋から見れば彼を追い出す理由が乏しい?」

 

「彼は現時点で最も実績のある司令官だ、追い出すよりこの先も実績を積み上げさせた方が経済屋には魅力的に映る筈だ」

 

友人の言い分に頷く秘書艦、どうやら友人の言い分に合点が行ったようだ

 

「自衛隊が数日で根を上げた状況を一週間以上継続させた訳だし、同期間に掛った費用を算出すれば彼を排除する事は経済屋の利益にはならない?表向きの理由も資材の枯渇であって艦娘達の限界ではないんだし、より安く状況を維持できると見做している?」

 

経済事情として納得できるのなら経済屋の動きは説明も予測も出来る、経済屋にカネを出させるにはより多くの儲けを出す前提が必要なのだから

 

「軍に深海棲艦の相手をさせると膨大な資金が必要だ、それは国家予算でなければ拠出は難しい、経済屋はインフラ整備などに興味はないからな、それを前提にしているのに剛毅な事だ」

 

「インフラって、国際航路の確保もインフラなの?」

 

「国境などという不合理で非効率なモノを作っている国家というモノは経済屋には邪魔なモノらしい」

 

「……国際経済が活発化しているとはいえ、ソレは如何なの?」

 

秘書艦には国境が要らないというのは暴論にしか聞こえないらしい

 

「経済屋には邪魔なモノだそうだ、経済圏全てを一元管理した方が合理的で効率的でより多くの利益になるそうだ、私にわからん話だがね」

 

友人も秘書艦に同意の様子

 

「グローバル化と囃し立てられている考えだね、金も物も人も自由に、何の制限もなしに行き来した方が良い、そうすれば国内経済と同様に発展させられる、それも規模を拡大して、実行出来ると主張しているそうだ」

 

実現性は兎も角方法論としては広く知られている一般論を述べて秘書艦の様子を伺う

 

「それぞれの国内事情を、無視して、経済だけで国境を無視するなんて、本気?」

 

相変わらず秘書艦には暴論にしか聞こえないらしい

 

「ある程度は上手くいくんだ、ただ、経済の発展と活性化により経済以外の問題が多発してしまう、そうなると経済自体が滞る、経済が停滞すれば物の生産もその移動も減少する、そうなれば人の行き来が自由に出来る事が返って問題となる、これらの解決には政治決着しかない、と私は思うが、そうではない人もいる」

 

暴論かも知れないが実現性が皆無という訳でもない、経済は専門外なのでどっち付かずの中途半端な事しか言えないが、事が政治や軍事に関わって来るのなら、言える事も言いたい事もある

 

「というと?」

 

「市場原理という神の見えざる手に委ねれば落ち着くところに落ち着く、らしい」

 

「……産業革命時代のイギリスに倣えと?」

 

とても疑わし気に言ってくる秘書艦、そう考えるのは艦娘としての性質なのか、五十鈴さん自身の個体条件なのか

言い様からではその判断は難しい

 

「五十鈴さんにはそう聞こえましたか」

 

「日本で言えば明治の開国政策時代だろうけど、アレに回帰しようとしている様にしか聞こえない、私の知らない論理が出来ているの?」

 

問われた私より先に友人が応えて始めていた

 

「産業革命以降の社会問題には様々な対策が取られた、現代民主主義もその一つと言えるかもしれない、それらを実行して来たのは国家だ、経済屋ではない、尤も経済屋でなければ国家予算を効果的に活用する事は難しいかも知れんが」

 

「経済官僚ね、その手綱を取るには単なる政治屋よりも経済屋の方が良いと?」

 

興味深い、艦娘が現在の国家体制をどう捉えているのか、何処まで理解しているのか、それらはハッキリとは判っていない

現状は艦娘が一方的に人との共存に尽力している、人はその尽力に引き摺られている、多くの人はそんな状態だ、そこに利益を見出して積極的に歩み寄ったのが艦娘部隊、利益追求一辺倒にならない様に私や私の古い友人達はチカラを尽くして来た、それは今後も継続されると期待している

 

「贅沢を言えば真っ当な政治家に経済官僚の手綱を引いて貰いたいが、贅沢な事になってしまっている、次善として国家の利益を計れる経済屋が台頭している、尤も経済論理が強すぎて国家の利益を履き違える事も間々ある」

 

「そうした失策のツケを払わされるのは一般の大衆、歴史に名も残らない無名の人、この国は何時からそんな事になってるの?」

 

「五十鈴さんは昔の事を覚えてはいないのですか?」

 

思い切って聞いてみた、艦娘は艦時代の記憶があるという噂話、個人的には眉唾な話に聞こえるが、相手は艦娘、人の予測可能な範囲で測れる相手ではない

 

「ああ、艦時代の事?覚えてる艦娘もいるとは聞いてるけど私は覚えいない、収容所で使えた端末から今の、現代日本の知識を得た、艦時代というのもそこに記録されていたモノしか知らない、私と不可分な妖精さんはかなりの不勉強だった様ね」

 

思い掛けない返答に戸惑った、戸惑いながらもなんとか理解を追いつかせる

 

「妖精さんが不勉強?」

 

追いつかせたもののコレだけは意味が解らない

 

「艦娘の知識は不可分な妖精さんに拠る、妖精さんが知らない事は艦娘も知らない、自己学習していくしかない」

 

「……という事は、妖精さんが知っている事は艦娘も知っている、と?」

 

「そういう事、だから、最初の初期艦の動向にアイツラが過剰に反応する、最初の初期艦を構成している妖精さんは、特別だから」

 

特別、と聞いて友人が聞き返す

 

「どう、特別なんだ?」

 

「妖精さんの知識や見識、技や術、持ち得る大抵のモノは詰め込んだそうよ、聞いた話だから確証はないけど」

 

「……聞いた?誰に?」

 

曖昧な言い様に困った様子の友人

 

「私と不可分な妖精さんがそれを知っていた、だから私も知識として知っている」

 

「……知っている事を、聞いたというのは、不自然な言い様ではないか?」

 

未だ困った様子の友人

 

「艦娘としての活動期間が長くなるとね、その辺りに区別が付く様になる、自身の知識なのか、不可分な妖精さんの知識なのか、ドロップ直後は全然わからないんだけど、段々と区別が付く様になる、私の場合はそうだったけど艦娘によるんじゃないかな」

 

艦娘に因る、それを聞いて思い当たる事案があった、特異な妖精さんによって大本営で建造されたという艦娘達の事、建造後は大本営に置かず佐伯司令官に預けられたという艦娘達

 

「……大本営で建造した特務艦、確かあの建造には何らかの変異した妖精さんが関わっていると聞いた、何でも初期艦を構成していた妖精さんが多くなりすぎて特異な妖精さんが多数発生し、その妖精さんに因り建造されたと」

 

「……老提督はソレをどこで聞いた、いや、誰に聞いた?」

 

困ったというか困惑気味に聞いてくる友人

 

「妖精さんから、という事になるのかな」

 

これを聞いた友人は益々困っている様だ

 

「妖精さんの声が聞こえる様になったのか?」

 

その可能性は無い事を知っていながらもそう聞かずにはいられなかったのだろう

 

「いや、私は今も妖精さんの声は聞く事が出来ない、ただ、妖精さんからの意思表示や情報などは受け取らせて貰えていた様でね、それを自覚出来ずに長い時を過ごしてしまった、結果として妖精さんに見切りを付けられてしまったよ、一方的に献身的に尽くし続けたのにソレに全く気付かない鈍感さに流石の妖精さんも愛想が尽きたのだろう、だからといって文句など言える立場でもない、仕方のない事だ」

 

自身に起こった異変は否応無く自覚出来た、自身から離れて行く様子がただ見えるだけでなにかが出来た訳でも無い

 

「……それで艦娘から身を引くのか、彼に全てを託して、随分と剛毅だな」

 

何か思う所があったのか友人は納得顔をしながら頷いている

 

「無理に残った所で彼をつまづかせる小石にしか成れない、私の意思とは関係なく事態は動く、その中心にいるのは彼だ、私の元には誰も来なかった、彼の元には戦貴棲姫が交渉に来た、彼を交渉相手に選んだそうだ、私と彼と、どちらが艦娘を率いるに足る立ち位置にいるか、議論の余地は無いと、私は思う」

 

「戦貴棲姫?」

 

友人から聞き返されてしまった、当然か、この名称を知っている者は少ないのだから

 

「彼の元に来ているモノはそう名付けられたそうだ、彼に依ってね、大雑把に深海棲艦としか呼称して来なかった私達とは違うんだ、彼は」

 

「名付けた?良くもアレが受けたな」

 

驚きを隠せない友人

 

「要求したのだそうだよ、彼に名を付けろとね、その代償に戦貴棲姫は此方の話し合いに参列する時間を割いた、私に出来る事だろうか?」

 

「私は無理だぞ、アレと取り引きなど御免被る」

 

お前には無理だ、とは直接言わずに自身に無理な事だとして間接的にそれをしてくる友人、その後に感想も付け加えられたが

 

「だからだ、だからこそ、彼でなければならないのだ、戦貴棲姫が彼をどうやって見つけたのか、どういう条件で彼を選択したのか、私には全くわからない、しかしこの機会を得られた上は最大限に活かそうと考えている、ん?確かに剛毅だと云われる事をしているね、私は」

 

付け加えられた感想に私なりの意見を言う、言いながら剛毅と評した友人の言い分に全く以って同意していた

 

「……どう活かそうと?」

 

秘書艦に問われた

 

「そもそも活かせるのか?」

 

友人に問われた

 

「それを確かなモノにするには同じテーブルに着く必要があるだろう」

 

 

 






八期はここまでです
次からは九期に入りますが投稿は完全不定期となります
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