初期の艦これ   作:弱箔

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ー 9 期ー
88 上部機関とのTV会議


 

 

 

 

鎮守府-食堂(第一食堂)

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:大和

大本営所属艦:一組の初期艦ニ

???:戦貴棲姫

大本営:老提督/職員複数

政府関係者:多数(防衛省、外務省、内閣府)

 

遠隔会議運営スタッフ:鎮守府派遣隊、陸海空自衛官少数

 

~大画面の向こう側~

 

艦娘部隊上部機関:在籍者多数

艦娘部隊上部機関:監察官複数

 

 

そんなこんなで鎮守府、大本営、日本政府(主に防衛省)側の面子と席を並べて艦娘部隊上部機関とのTV会議になったワケだが……

 

会議の進行は不愉快なので省くが私の主張する所の艦娘鹵獲行動への規制乃至抑止の提案は割とアッサリ通った

 

しかしながら話はそれだけで済まなかった、大本営監査中の監察官達が画面の向こうから質問責めをして来た挙句、新規仕様の艦娘だけでこれからの艦娘部隊を構築すると強硬に主張、彼等の主観で旧世代と見做された既存の艦娘達を全て私の指揮下に置くと言ってきた

 

何を如何考えたらそんな結論に達するのか、訳が解らないにも程がある

 

そんな事は無益なだけでなく有害でしか無いと散々言ったのだが、彼等の言う旧世代艦娘持つ身体的特徴が受け入れ難いのだと、話している最中に解ってしまった

彼等の言う旧世代艦娘、確かに外観は女性形ではあるが、女性形をしているだけで女性ではない

これが彼等には我慢ならないというか許容し難い、直接的な言葉にこそしないが、感情的な判断が見受けられた

妖精さんが人に似せて造った艦娘をより人に近づけた新規仕様の艦娘、それを人の判断に委ねるとこうなってしまった

 

艦娘をなんだと思ってるんだろうね

 

こちらの意図とは無関係に彼等の耳にも入った叢雲(初代初期艦)の人化処置の件も絡んで、この判断を後押ししてしまったらしい

下手に反論すると叢雲(初代初期艦)にまで上部機関の手が伸びる、寧ろ彼等はそれを狙っていた

隠しもしなかったから、言い様というか誘導が明から様過ぎて同席していた老提督までもが苦言を言ったくらいだ

日本政府関係者と老提督の主張で本来の議題に強制的に戻ったが、事ここに至っては一般の民間人ではどうにもならない、この件は上部機関の倫理観と良心に任せる事になってしまう

 

更に旧世代艦娘達を率いた私に鎮守府の移転が言い渡された

それも日本国外だ

なんでも以前から艦娘達の扱いに問題があると抗議している複数の国があるそうで、私にそこへ行って鎮守府を開設、艦娘の扱いに抗議する様な問題が無い事をアピールして来いと言うのが上部機関の命令の要旨だ

 

 

会議は続いているが話は既に政治の分野に移行して民間人の私は会場となっている食堂から追い出されていた

色々あり過ぎて何をどうしようかと追い出されたままで考え込んでいたら、老提督が会場から出て来て上部機関の命令に付いて補足説明をしてくれた

 

「太平洋諸島フォーラム?〔Pacific Islands Forum (PIF)〕ですか、不勉強で申し訳ないが知らない」

 

「太平洋に点在する島々を国土とする国の集まりだね、昔この国が太平洋に放射性廃棄物の投機を計画した際に抗議し、撤回させた事案もある、元々は南太平洋の独立国や自治政府の経済発展を目的とした地域協力機構が発端、だったかな」

 

「……何故そんな南方の国に艦娘のアピールを?」

 

「公式の記録上では最初にその存在を受け入れ、友好関係の構築に成功したから、かな?今日の艦娘との共生関係は其処を基本としている、と言うのが先方の主張だ、自衛隊というか日本の場合は色々、紆余曲折があったからね、それに非公式ではあるが、一部の艦娘が構築されたという友好関係を頼って助けを求めた、らしい事も公然の秘密として知られている

それ以降、先方からの抗議の頻度が高い、現状では日本が艦娘を独占している事からも、槍玉に上がり易い事情もある」

 

老提督の話し振りからもこの命令が覆ることはないだろう、命令を受けた私自身が拒否しなかったのだから仕方ないが

 

「……今回の決定については、どこまで話して良いんですか?」

 

移動前提でこれからの対処を考えなければならない

 

「済まないが、私には答えられない事案だ、任務と職責、私情や都合、色々あるがどれをどう取り合わせ道を造るか、司令官の判断に委ねる他ない」

 

なんだろう、老提督に若干の疲労が見える、これまで相応の雰囲気が崩れた事は無かったのに

しかしそこを気にしている余裕は無い、これまでの立ち位置を考えればこの程度の状況で根を上げる程底の浅い人ではない筈だ

 

「私の判断?ですか、隠し事は面倒なのでブチ撒けますが?」

 

「そう言えるのは、ある意味で羨ましいよ、司令官はそれをしてもついて来てくれるモノがいるのだろうから、私は、この年寄りには無かったモノだ」

 

「叢雲の処遇については?」

 

変な方向に話が進まない様にこちらの懸念事項の解消方法を探る

 

「どうしたい?連れて行きたいのならその様に段取るが、希望はあるかね」

 

アッサリとした答えだった、あの上部機関の質疑応答からすると信じられないくらいにアッサリだった

 

「正直な所……困ってます、あいつを連れて行く事は、本来の目的を放棄する事になる、でも、連れて行かなければ、あいつはこの国で孤独に孤立しかねない、幾ら何でも同期の司令官に頼む訳にも行きませんし、身の安全を考えれば、連れて行くのが妥当なんでしょうが……」

 

色々考えながら話したからか取り留めのない言葉の羅列になりかけ一旦言葉を切った

現状で私が頼れる人は多くはいない、その多くはいない内の一人が老提督、鎮守府司令官という立場上、上司でもある人がこちらに理解を示してくれているのは良い事のハズ

 

「ところで、叢雲さんの受けた人化処置というのは、艦娘なら誰でも可能なのかな?」

 

突然の問いに疑問符が一杯になった

 

「??可能な筈です、実行は明石や一号の初期艦達の手を借りることになりますが」

 

疑問はあるにせよ隠す事でもない、上部機関や監察官達からもこの話が出てくるのは大本営に提出した報告書が回っているのだから

 

「実は、叢雲さんの受けた処置を聞きつけて受けたいと希望している艦娘がいるんだが、やってはもらえないだろうか?」

 

頭の中の疑問符が増えて行く

 

「?えっと??今の状況で、老提督にそういった希望を伝える艦娘がいるのですか?あっ、いえ、他意はないですよ?疑問に思っただけで」

 

疑問が増えすぎて思わず口走ってしまった

 

「……まあ、無理もない、妖精さんに見限られた年寄りを頼る艦娘はもうあの子らだけだ、私の預かり知らぬ所であの子らは私を司令官として認めてくれた、これまでずっと支えてくれた、支えられている事に気付きもしなかった薄情な年寄りなのに、未だ私を司令官と呼んでくれている、このまま艦娘部隊に残して行く訳には行くまいよ」

 

ここで漸く疑問が解けた、司令長官の職務と並行してそんな事まで目論んでいたとは

 

「二組の初期艦、ですか、本人が希望するのなら問題ないでしょう、但し、この鎮守府に来れない現状では、実施のしようがありませんが」

 

「そうなると……陸路は自衛隊に抑えられているし、海路は、アレだから、司令官が現状を打開してくれない事には話にならない、打開出来そうかね」

 

明日は晴れるかな?くらいの気楽さで聞いて来る老提督に多少の困惑はあるが、問いには答えた方が良いだろう

 

「老提督は元海自の幕僚だったと聞いています、その見識を以って如何にか出来る状況に見えると云われるので?」

 

「無理……だね」

 

理解のある上司というのはありがたい

 

 

 

 

鎮守府-食堂(第二食堂)

鎮守府:司令官

???:戦貴棲姫

大本営所属艦:一組の初期艦二

 

 

TV会議に参加した艦娘等の中で大和だけは未だに会議場(第一食堂)に残されている

他の艦娘等は第二食堂に移動していた

 

「待たせてしまったな、申し訳ない、それでどうする?」

 

老提督と話し込んでいた為顔を出すのが遅れた事情もあり、こう切り出した

 

「なにをだ……」

 

曲がりなりにも参列して話は聞いていた戦貴棲姫、当人も考える事案が多い様で口数も少ない

 

「そちらとの交渉をこのまま続ける訳には行かなくなった、聞いていたから解説は省くが、交渉相手を変更する事をお勧めする」

 

「我等は交渉相手を司令官以外に見つけられなかった、変更は有り得ない」

 

口ではそう言ってはいるが、こちらの言い分には同意しているかの様に言葉が弱い

 

「このまま続けても、なにも妥結出来ない、私は交渉を進められる立場ではなくなってしまった、そちらの交渉相手の要件には地理的条件も含まれているのだろう?遠からず私はその要件から外れる、そちらとしても有意義とは云えないのではないか?」

 

「……司令官が艦娘部隊に妥結条件の履行を求めれば良いのではないか?」

 

どうにかしたいが、打つ手がない、そんな感じで何とか考えながら案を出しくる

 

「無理、私はいち鎮守府の司令官に過ぎない、他の鎮守府司令官は勿論大本営にもそれを履行させる術がない」

 

「何を妥結しても反故にされる、と」

 

「反故に、というか、履行する立場にないんだ、最初から……私がこのままこの鎮守府で司令官であり続けられるのなら私の手の届く範囲での履行は可能だったが、それも出来なくなった、もう私と交渉を続ける意義は、失われているのではないか?」

 

「……それを我に直接言うとは、ここで死にたいのか?我等に介錯を要求しているのか?」

 

言っている内容は物騒だが、それを言ってくる戦貴棲姫から受ける印象に変わりはない

 

「何故そうなる、何をどう考えたらその結論になるんだ?」

 

交渉の継続は無意味、この点は戦貴棲姫も理解している、そもそも交渉相手を殺したら交渉は成立しない

問題なのは、始めた交渉に如何にケリを着けるか、タダでは退かないと再三言っているのだから

論点は交渉から事態を決着させる方法論に移った

 

「我等は今回の交渉で一定の成果を必要としている、もし、仮に、仮にだ、何も、何の成果も無く、何ひとつ我等の成果と見做せるモノが得られなければ、我等は我等の智慧を、捨てる」

 

物騒で厄介な話になった、かなり不味い事態だ

 

「……なるほど、そうして何も考えることなく、なにも迷うこともなく、持って生まれたチカラを振るい続けていく、そこに持ち得た嫌悪も拒否感も、同時に捨てる事になる、ワケか」

 

こういう場合相手の主張を否定しても始まらない、確認の意味も含めて不味い事態を並べてみる

 

「司令官はそれを望むか?」

 

「望みはしないが、避ける道がどこにあるのか、判らんな」

 

どうやら戦貴棲姫は私に妙案を期待しているらしい、残念ながらそんな期待に応えられる様な知恵を私は持ち合わせていない

 

「ひとつ聞きたい、あのモノたちは上部機関のモノ達であろう、この鎮守府に我等が交渉に来ている事を知っている筈だ、同席していたのだから疑う余地は無い、なのに何故あの様な決定を下したのだ、アレは我等の行動を完全に無視している様に見える、我等がこの鎮守府に来た事も、鎮守府を包囲している事も、艦娘部隊上部機関のモノ達には、なんら関心を向ける事象ではないとしか見えん、コレはどういうことなのか?」

 

無い知恵に困っていたら別の話題が出て来たが、話に繋がりが無さすぎる

 

「……えっと、我等の方々、かな、その質問してるのは」

 

「そうだ」

 

私の予測はアッサリと肯定された、なら頭を切り替えて行かないといけない

 

「実際の所は上部機関に聞かないとわからない、私では確度の低い只の可能性の話になってしまうから、応じない方が良いだろう」

 

思う所を素直に話した、この場で取り繕っても出てくるボロが大き過ぎる

 

「いや、答えてもらおう、司令官の話の虚実はこの際問題ではない、我等の集結させた戦力を艦娘部隊上部機関が無視している事実の前には些事でしかない」

 

こういう言い分が出て来る事は我等の方々は上部機関から何らかのアクションがあると期待?していたのかな

 

「……推測の域を出ないが、艦娘部隊上部機関に妖精さんや妖精達を使役出来るナニモノかがチカラを貸していると思われる節がある、言いたくはないが、我等の方々に対してもその影響を期待しているのかも知れない」

 

「……その影響力を当てにして、我等の集結させた戦力を無視している、そう言うのか」

 

「推論でしか無い、完全に事態を読み違えている可能性も有り得る、そちらからはそういうのは分かったりしないか?」

 

私が艦娘の言う意味での提督だと知って交渉に来た我等の方々だ、何らかの方法を持っているハズ

 

「感知していない、少なくとも我等の言う提督の条件を満たしている存在はひとつだけだ」

 

「えっ?ひとつ??司令官候補の中にも提督はいる、ひとつという事はないと思うが?」

 

余りに予想外の事を言い出した我等の方々に予想外過ぎて素で返してしまった

 

「提督の条件を満たしている存在、と言った、満たしていない提督らしき存在ならそれなりに感知している」

 

「あっ、そういう……と言う事は紛れてしまって判別出来ないね、そう都合良くは行かないか、まあ、なんにせよ上部機関がこの鎮守府の置かれている状況を考慮していないのだから自己解決を目指す以外に無い」

 

相手の説明により予想外の事態では無く予測範囲のズレだと分かった

それはそれとして、どう決着を着けるのか?そこの問題は何も動いてはいない

 

「自己解決?それが交渉相手の変更か?随分と的外れな解決策だな」

 

我等の方々に嗤われてしまった

 

「タダの鎮守府司令官に提示出来る解決策なんてそんなモノだ、艦娘部隊の中では下っ端だからな」

 

元々雇われの素人、下っ端扱いには慣れてる

 

「なるほど、組織の幹部ではないとはこういうことか、何とも擬かしいな、一層の事司令官が独自の組織を立ち上げて幹部に収まったらどうか?」

 

何を言い出すのやら、下っ端扱いの後に幹部に収まれと続けるのは、如何なの?

 

「……あいにくと組織の為の人員や予算どころか、そんな面倒に割く時間が無いな」

 

「現状の面倒を解消出来るのだぞ?時間くらい幾らでも割けるだろう、コレに割かなくとも現状の面倒には時間を取られるのだから」

 

我等の方々は割と本気で言っているらしい、時間が無いと言ったら時間は作れると来たよ、どうしようか

 

「……その二つは同時進行しないと、両方コケるぞ?」

 

「鎮守府なぞ艦娘等に投げておけば良いだろう、司令官は組織の立ち上げに専念すれば良い」

 

「それをするには何よりもまず先に、この鎮守府の包囲を解かないとならないワケだが?」

 

「この鎮守府の包囲を解くには交渉の妥結が必要だ、我等は何等の成果も無く退くことは無い」

 

結局そこに戻るのか、我等の方々主張は実行不能、それをこちらに対案として出してこられてもどうしようもない

事態決着に向けた話は早速行き詰まった

 

 

この話の続きは一組の初期艦二人が引き継いでくれた、くれたというか話に割り込んで来た

どうやらあのまま私と戦貴棲姫や我等の方々で話をさせておくと包囲網からの攻勢に発展しかねないと見て取った様だ

私の見た限りでは、戦貴棲姫には迷いが、我等の方々では様々な意見が噴出して纏められない様子があった

こうなってくると多少の誘導など意味が無い、明確な成果を求める相手に手ぶらで帰れと言うしかない私に取り得る手段などないのだから

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

大本営所属艦:漣(一号)

 

 

「天龍達からの連絡?」

 

執務室で雑務を片付けていたら一号の漣が来て思いがけない事を言い出した

 

「天龍は大本営所属艦を率いて潜伏中、もし、この鎮守府で受け入れ可能なら合流したいって、どうします?」

 

「どうしますって、最終的には合流する事にはなる、但し今直ぐというのは無理だ、潜伏中なら陸路は使えないんだろ?」

 

雑務を片付けながら応じていたから耳は漣に目は書類に向けていた

 

「そうですね、そうなります、ではもうしばらく潜伏を続ける様に話しておきます、それと、伝言です『佐伯司令官の立場を補強するつもりが真逆の結果になってしまった、追い詰める様な事態を招き申し訳ない』だ、そうです」

 

「補強??とは?」

 

単純に話が分からない

 

「コッチに来てる天龍が資材不足からくる計画遅延の責任を取らされる可能性を指摘した様ですね、それで責任が佐伯司令官に集中しない様にサボタージュを実行したと言っています、大本営が佐伯司令官に泣き付いた所でサボタージュを止めれば、艦娘に対しての影響力を証明する事になります、長良達がそうである様に天龍達が率いている艦娘達も誰を支持しているかを大本営の人でも理解するでしょう」

 

漣の説明に唖然としてしまった、結果として私の手は止まり視界内に書類では無く漣が映る

ナニソレ、全く聞いてないし身に覚えなんてある訳……あれ?

 

「……あの雲隠れって、そういう意図があったの?」

 

「どこまでの比率かは置くとしてもそういう意図を含む行動ではあった、とは言えるでしょうね」

 

やっぱりだ、漣の様子がおかしい、手を動かしながら話を聞きいていただけでは気付かなかった

唖然としてしまい思わず手を止めて漣に目を向けた事で気が付けた

 

「漣?私に何か思う所でも?」

 

「……佐伯司令官の所為では無いので、言っても八つ当たりになってしまいますから」

 

「老提督、か?」

 

「……だから、佐伯司令官の所為ではないんですよ、じーちゃんには二組が付いていくそうだし、漣の中ではケリの着いた話です、気にしないで良いですよ」

 

「着いて行きたいのなら……」

 

言い掛けたら漣が言葉を被せて来た

 

「出来たらケリなんか着けてませんよ、漣は一号の、最初の初期艦です、叢雲の様な、佐伯司令官の初期艦の様な自由度は持っていない」

 

初期艦というか駆逐艦は表情豊かな個体が多い、それも個性的な表情持ちが多い、これまでに見て来た漣という艦娘自体表情で話すくらいには多くの顔を見せてくれる

その漣がこの時ばかりは無表情を通り越して作り物の顔を見せていた

 

「それは、他の一号の初期艦もか?」

 

心中は察するがそこはどうにもしてやれない、漣もそれが分かっているから「佐伯司令官の所為ではない」と言ってくれている

 

「そうです、初期艦として、艦娘として、叢雲が得る事の出来た自由度は、私達には無い」

 

それはつまり、一号の初期艦達は未だ自身の司令官を得ていない事を意味していた

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

大本営所属艦:電(一組)

 

 

一号の漣と入れ替わる様に一組の電が執務室に来た

 

「司令官はどうしたいのですか?」

 

いきなりの問い掛けだ、老提督の件もある、事は慎重に運んだ方が良いだろう

 

「……状況を動かせるカードはこちらには無い、向こうの出方を見るしか無い」

 

「電は司令官がどうしたいのかを聞いているのです、実現の可能性は聞いていません、司令官の希望はなんですか?」

 

いつに無く強い言葉、一号の電はアレなワケで、電という駆逐艦は皆こうなのかな

 

「それを聞いてどうする?今は夢を見る事も贅沢な状況だ、現状を打開して鎮守府運営の平常化と多数の艦娘の受け入れ、それらへの指揮系統を確保し移転の準備を始めなければならない、国外への移転だ、各方面と色々詰めの話も多くなるし、こちらでどこまで手間暇かける事になるのかすら見当もついていないんだ、ゆっくりと夢を見ていられる時間はいつになったら出来ることやら」

 

「そんなモノ私達に命じて下さい、司令官が私達に一声命じれば万事滞りなく遂行します、夢を見る時間は幾らでも確保出来るでしょう」

 

その言葉に迷いは感じられない、寧ろ状況を主導しない事に苛立っている様にも聞こえる

一言くれれば初期艦が主導権を取って来る、そう言ってる印象を持ちそうなくらいには電の姿勢は強かった

 

「……なにか、誤解がないか?私はお前達、艦娘達を頼らなければ今でさえこの鎮守府運営にも手が回らない、これから先はもっと艦娘達に頼る事になるし、艦娘達がそれに応じてくれなければ私は困るんだが」

 

「司令官は提督なのに、艦娘を率いる存在なのに、人の組織の流儀に従うのですか?司令官がその気になれば自立組織として艦娘を使役出来るのに、電には人の組織の都合を司令官が履行する理由がわかりません」

 

電がようやく姿勢を弱めてくれた、いつもの一組の電に近づいた事で話易くなった

 

「えっと?つまり電は私に艦娘を率いて自立組織を立ち上げろと?それは向こうの、戦貴棲姫達の言い分ではなかったかな?」

 

「同様の結論である事は分かっています、でも現状での最善策だと判断しているのです」

 

「それは私を買い被りすぎた、この場合私というより提督を、という事になるのかな、艦娘が人との共生を選択している以上艦娘を率いるモノは人の組織との接点を保持する事になる、それには自立組織としてよりも現状の様に人の組織の流儀の中で下部組織としての位置にいた方が面倒が減らせるんだ、なにしろ私にはあんな上流階級にコネもないし、艦娘達を食わせていけるだけの財力もない、自由度を確保する為の自立組織なら、私がどうこうよりも艦娘達でそれを立ち上げた方が遥かにマシだろう」

 

「戦貴棲姫達の様に、ですか」

 

即応で問い直し?して来た電、姿勢が普段のモノに近づいたとはいえ、いつもの様に安心感を持つには遠かった

 

「あいつらと同様にかは判断材料の持ち合わせがないが、まあ、アレも自立組織と見做せなくはないのか、まだ組織というよりは群の域に近いけどな」

 

「もし、戦貴棲姫達が組織化したら、どうなりますか?」

 

「こちらにはなんの選択権も無くなるだろうな」

 

電にも分かっている結論だろうが、敢えて口にした

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:大淀

 

 

上部機関との話や諸々の事案は各方面に伝わった様で鎮守府内の空気がよろしくない

ただでさえ包囲されている状況での不安が増幅されてしまっている

ここまで不安を増す方向へ話が進むとは予測していなかった

 

我等の方々も指摘していたが、上部機関が鎮守府の置かれた状況を完全に無視して艦娘部隊としての都合を推し進めるだけとは、流石に考えていなかった

 

上部機関は鎮守府の大増設計画の推進に重大な関心を向ける一方で、この鎮守府の現状には全くと言っていいほどに関心を持たなかった

彼等がこの鎮守府に関心を向けたのは人化処置を受けた叢雲くらいだ

その結果として現状は自力解決する他なくなった、勿論、そんな都合の良い解決策などどこにも無い

 

こんな状況でも何故か溜まる書類、それらを処理していたら声がかけられた

 

「司令官、龍驤から報告がありました」

 

大淀がいつも通りの報告を持ってきたのかと耳を傾けた

 

「南鳥島に着陸した偵察機からの通報によると、深海棲艦の飛翔体の大群が南東方向から接近しているとのことです」

 

「まて、その報告の前に、色々説明が必要なのでは無いか?」

 

大淀の報告には不明というよりあり得ない前提があった

 

「こちらに説明出来るだけの情報はありません、報告を受けそのままお伝えしています」

 

淡々と報告して来る大淀、元事務艦振りは健在だった

 

「……軽空母達にもその話を伝えてくれ、私は憲兵に話を聞いてくる」

 

「長門や初期艦にも伝えておきます」

 

直ぐに憲兵隊詰所行き、そこにいた憲兵に色々聞き込んだものの全く知らないと言い切られた

知らないで済ます訳には行かない状況ではあるのだが、各方面に問い合わせる様に要請するくらいしかやりようもなかった

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

鎮守府所属艦:長門/叢雲(初期艦)

大本営所属艦:高雄/愛宕/妙高

 

 

執務室に戻ると長門と初期艦、高雄に愛宕に妙高が待ち構えていた

 

「まだ遠過ぎて打てる手もないが何もせずにいるという訳にもいくまい、提督の考えを聞こうか」

 

早速長門からの質問だ

 

「遠過ぎて打てる手も無いのに、どうしろと?それでなくともあの包囲網の所為で鎮守府から出ることさえままならんのに」

 

「戦貴棲姫達は交渉どころでは無い様子だけど、事情を説明して」

 

今度は初期艦ですか、概要は大雑把に伝わっている筈なのにこんな質問が来るって事は一組の初期艦達はあの会議の内容を周囲に伝えていないのかな

 

「上部機関の命令に拠って私が戦貴棲姫達の交渉相手としての要件を満たさなくなった、これ以上の交渉は無意味になったというだけだ」

 

「そういう事なら包囲網は解かれる、のですか?」

 

疑問視しながらも期待する様子が見える高雄

 

「いや、手ぶらで帰る気は無いそうだ、土産を何にするかで意見が割れている感じかな」

 

残念そうな様子を見せる高雄と違ってずっと難しい顔をしたままの愛宕から一言出て来た

 

「土産、ですか」

 

「掛けた手間暇に見合う土産を求められてもな、私にそんな持ち合わせは無いんだ、どうしたものか」

 

「すると、あの包囲網からの全面攻勢が始まる、のですか?」

 

難しい顔のままの愛宕が眉間にシワを寄せてしまった

 

「可能性はあるし、その確率は高い、しかも回避手段は無い、正直な所潮時では無いかと考えている」

 

「潮時?」

 

初期艦が聞き返して来た

 

「所属艦娘全員で鎮守府を放棄、陸路で安全圏まで退避するなら、今しかない、と思う」

 

「逃げ出すのですか?敵前逃亡は許される行為ではありませんが……」

 

妙高がなんか言い出した、みなまで言わせず言葉を被せる

 

「それは命令に反しての場合だろう、指揮権者が逃げろと言っているのに逃げない方が規則に反しているのではないか?」

 

「そんなことをしたら司令官の立場が悪くなるんじゃない?」

 

この初期艦の言い分にあの会議での話が聞き耳立てていた駆逐艦達の又聞き程度にしか伝わっていない事が確定、一組の初期艦達は何故か話していない様だ

変に重い話にならない様に、変な方向に進んでいかない様に注意しつつ会議で伝えられた命令を話さなくてはいけない

 

「あれ?聞いてない?私は多くの艦娘を引き連れて国外に出る事が決まった、ここで無理に踏み止まる理由は乏しいんだよ、これから国外移転の話も詰めなきゃならんし、それには多くの艦娘の協力が必要だ、ここに留まって鎮守府所属艦娘を減らしたくない」

 

こちらの話に驚いた顔を一瞬だけ見せた長門、それでも直ぐに思考を切り替えてこちらの話に対応して来た

 

「……確かに戦えばこれだけの数の差だ、磨り潰されるだろうな」

 

「移籍組には五十鈴を通して自衛隊に移動の助力を求めるように伝えてもらいたい、司令部の七名は何方に同行するかを決めてほしい、所属自体は大本営なので私の一存では決められない」

 

取り敢えず長門には異論は無いと判断、当面必要な対処を司令部に指示した

 

「それで、良いのですか?提督が深海棲艦との交渉も闘いも放棄してしまって、本当に良いんですか?」

 

妙高には異論がある様で質問?疑問?の連なる返事が来た

 

「ここで闘ったらどうなる?鎮守府所属艦娘がいなくなるだけではないか?この鎮守府で艦娘を率いなければならないのなら、それも考えたかもしれない、しかし私は国外に出る事が決まった、多くの艦娘達と共にだ、まさかここで数を減らした方が後の苦労が減らせるなんて事を私が考えているとでも?」

 

取り敢えずこの場面で所属艦を減らす事は鎮守府運営には不利益、この不利益を回避するには所属艦と移籍組全てが今後の鎮守府運営に全く関与しない状況が実現される必要がある

 

「そうではありません、そういう事ではないんです、艦娘にとって闘う事は存在意義に等しいんです、それを回避する様な司令官では今後の指揮に深刻な影響が予測されます、指揮権に深刻な影響が出ればどうなるか、大本営を見ればお判りいただけるかと存じます」

 

ああ、そういう、戦えと命じられたのか、闘いたかったのか、どちらにしろソレを継続したのは艦娘だという事か

 

「死にたがりは勝手に死ねば良い、但し私の指揮下にいる艦娘を巻き添えにするな」

 

「……」

 

妙高は勤めて冷静な表情を保ってはいたが、本心は隠しようが無いらしい

 

「妙高、闘うばかりが艦娘の在り方ではない、闘う事しか知らなかった私達はあの戦いで、どうでしたか?あれを再現させたいのですか?」

 

そんな様子の妙高に高雄から声がかけられた

 

「……高雄、それでも……」

 

妙高は高雄の言葉にも納得しかねる様子を見せる

 

長引きそうな話を一切無視した初期艦が話を進めにかかった

 

「それで?潮時だとして、ここから陸路でどうやって移動するの?」

 

「当てはある、あるが、その前にお前達の意見を纏めたい、ここに踏み止まるのか、ここでの消耗を避けるのか、何方が良い?」

 

念の為の意思確認、反論やら異論が出て来るのなら相応の対処が必要になる

 

 

 

 

外洋-資材採掘地

鎮守府所属艦:龍驤/長良/名取

鎮守府所属艦:他の護衛隊

桜智鎮守府所属艦:時雨/海風/山風/江風

桜智鎮守府所属艦:熊野/鈴谷/春雨

 

 

「なんやねんな、合流しとる駆逐艦達に付いて桜智司令官の所に行けやと、どういうこっちゃ?」

 

艦載機から何か通信が来たらしい様子の龍驤に長良が応じる

 

「鳳翔から?」

 

「そうや、艦戦経由でそう言ってきよった」

 

「行くのは構わないけど、そっちの鎮守府に行った白露達は?」

 

話を聞いていた時雨から確認の意味合いだろう質問がきた

 

「なんやら暇やとウルサイから老提督に貸し出したと言っとる、お陰でアチコチ走り回ってるらしいで」

 

これを聞いた時雨は呆れつつため息混じりの感想を漏らす

 

「……ヒマって、そんな事で騒げば、用を言い付けられるよ、白露は何をやっているんだ」

 

「ああ、騒いだ中に白露はおらんようやで、後、利根もおらんかった様やな」

 

龍驤から若干の訂正が入る

 

「という事は、村雨と夕立と五月雨と涼風の四人だけかい?走り回ってるのは」

 

そういう時雨からは呆れの顔は消えていた

 

「その様や、それと可能なら天龍達とも合流して欲しいらしいで」

 

続けて出て来た話に驚いた様子の長良から質問が来る

 

「天龍?鎮守府からどうやって出てこれたの?」

 

「あー、ウチの天龍やなくて大本営の天龍やと」

 

大本営の天龍と聞いて納得顔の長良

 

「何処にいるの?」

 

「知らんで、やから可能ならちゅうとるんやないか?」

 

長良の問い掛けにアッサリと応じる龍驤

 

 

 

 

鎮守府-旅客船(司令長官室_臨時)

鎮守府:司令官

大本営:司令長官(老提督)

???:老兵

 

 

所属艦娘達から異論は出てこなかった、鎮守府放棄の手始めに老提督、直属の上司でもある司令長官に話を通しに来ていた

こちらの話を聞いて老提督から感想が述べられた

 

「鎮守府を放棄するのか、思い切ったね」

 

「戦力差が一対百を超えてるんですよ?多少の知恵があれば逃げますよ、退路は確保されているんですから」

 

「それで契約条項の履行を求めるのか、全くサインさせた時にはあんなに渋ったのは何だったんだ?」

 

老兵から嫌味とも皮肉とも付かない、もしかしたら呆れた様な感想も出て来た

 

「この程度の履行を渋る様ならこの先頼る事は出来ないでしょう、試金石には丁度良いと思い直しましましたよ」

 

そう言ったら感心した様な呆気にとられた様な何とも言い難い顔になった

そんなやり取りを見つつ老提督が口を開く

 

「……だ、そうだ、この程度と云われれば確かにこの程度だ、インフラの充実した日本で高々六十人くらいの移動の助けにもならないのでは、太平洋の真ん中では話にならないね」

 

「全く、ウチの司令官連中からも古巣に話を通させよう、自衛隊や日本政府の方は軍司令部から直接話させる、それで陸自が司令官の行動を阻止する事はなくなるだろう」

 

老提督の言い分に気を取り直したのか仕方ない感丸出しになった老兵だが、こちらの要望には応えてくれる様だ

 

「……軍司令部?」

 

聞き流しそうになったが引っかかる単語があったから聞いてみる

 

「在日米軍司令部だ、万が一にも軍の手に余る様なら大使館にも動員をかける」

 

「……大使館?」

 

えっと?この老兵は何と言っているんだ?理解が追いつかないんだが

 

「アメリカ大使館だ、ウチの司令官連中が日本滞在中に世話になったし艦娘についても十分なレクチャーを受けている、現役の鎮守府司令官が頼って来たとなれば支援してくれるだろう」

 

「……」

 

マジですか、事はそんな大袈裟な話になるんですか、一般人には馴染みが無さすぎる

私の動揺など御構い無しに老提督からも追い打ちが掛かった

 

「場合によってはイギリスやフランスの大使館からも支援が受けられるだろう、この鎮守府からの移動に関しては心配要らない、それで、何処へ移動するんだい?」

 

 

 

 

鎮守府-食堂(第二食堂)

鎮守府:司令官

???:戦貴棲姫

 

 

「おい、鎮守府司令官、我等との交渉に意味が無いからとこの鎮守府を放棄するそうだな」

 

いきなり不機嫌全開の口調で出迎えられてしまった

 

「私は国外に異動が決まった身だぞ?その準備にかからねばなるまい、なんの疑問があるんだ?」

 

聞いていたから知っているだろう状況を再度説明した

 

「ほう?すると今動いているのは異動の為の準備であって、我等との交渉の放棄では無いと、そういう事か?」

 

「交渉は進められなくなったと、話したハズだが?」

 

状況確認に手間が掛かる、しかし掛けなければならない手間でもある

 

「我等の要求は初期艦だ、今この鎮守府いる初期艦の中から五名を引き渡せばそれで足りる」

 

「私の記憶が確かなら、それは私にも利益になるという話として持ちかけられたんだが、それは何処に行った?」

 

そう言ったら戦貴棲姫の表情から不機嫌さが消えた、代わりに困った様な表情を見せる

 

「鎮守府司令官には利益となるモノがないでは無いか、ないモノはどうにもならないではないか、その様な無理難題で我等を弄ぶのか」

 

「人聞きの悪い言い様だな、利益になると提示して来たのはそちらだろう、なればその利益を示さなくてはならないのではないか?」

 

「……利益となるモノがない、という想定はしていなかった、それは我等には予想の範囲を超え過ぎた、今直ぐにそれを提示しろというのなら、出来ないとしか言えん」

 

漸く状況確認に合意が見られた、後は結論を共有出来れば良いのだが

 

「つまり、この交渉自体が既に成り立っていないのだ、私としては大人しくお引き取りして頂きたい」

 

「それは出来ない、それをすれば我等は全力でこの鎮守府を攻撃する事になる、この鎮守府だけではない、人との全面対決になる事も避けられないだろう、それは鎮守府司令官とて望むまい、智慧を貸して欲しい」

 

意外な事を言い出した、てっきりゴリ押しして来ると思っていたのに

これはこちらも対応を変えなくてはいけない

 

「……戦貴棲姫は人と戦いたくない、そう言うのか」

 

「人と戦う事に何の意味も無い、我等は生まれながらに持っているチカラを生まれながらに知っている様に振るっているだけだ、造られた時のまま、何も変わらないまま、ただ続けているだけだ、正に千年一日、そんな事をする為に造られたのか、我等は……」

 

同じ事の繰り返し、それを永遠とも思える時間の中で何の変化もなくただひたすらに続ける

そこに何の意味も見出せない作業の繰り返し、ある意味拷問にも似た環境にいる、しかも質の悪い事にソレを行なっているのは自分自身、自らを自身で拷問に掛けている様な状況、そういう認識を持ってしまったのか、戦貴棲姫達は

 

「なるほど、賽の河原で石を積む様な感じか、確かに、意味を見出せるかは、難しいな」

 

「私はどうすればいいのだ……」

 

こう言った戦貴棲姫はこれまでに見た事の無い弱い存在に見えた

 

「学べばいいんじゃないかな」

 

「……学ぶ?」

 

未だ戦貴棲姫は弱いままに見えた、実態とはかけ離れた見え方、今回の交渉は我等の方々に取ってそこまで深刻な問題らしい

 

「戦貴棲姫はこの交渉に当たって色々学習したと言ってなかったか、それを続けてみてはどうか」

 

「続けて、どうなる、交渉は纏まらず、どう評価しても失敗としか判断出来ない、それを決定付けたのが艦娘部隊上部機関の指揮権の行使だとしても、結果は、動かしようが無い」

 

「結果が想定通りにならなかった、予測の範囲内に収まらなかった、だから失敗、そんなカンタンな判断基準の方をどうにかしてみるというのは?」

 

「……何を言い出す、失敗は失敗だ、失敗を理屈で厚化粧して成功だと思い込めとでも言うのか」

 

「継続は力、って言い様もある、この先戦いを続けるのか、学習を続けるのか、二者択一にする事もない、もっと選択の幅を広げてみてはどうだろうか」

 

「選択の幅……私の選択の幅が狭い?」

 

「選択の幅の広さは視野の広さとか視点の高さ、他にも主観の多様さとかにも左右される、いろんなモノをいろんなところから観察してみるのも有りだと思う、戦貴棲姫には千年一日という程の持ち時間があるのだから」

 

「……我等は、鎮守府司令官との交渉に拘り過ぎたのか?その為に視野を狭くして選択の幅を自ら狭めた、鎮守府司令官は大本営や日本政府との交渉を勧めて来たが我等はコレを拒否した、この判断こそが視野が狭くなっている証左、そういう事、なのか?」

 

「そう思うのならそうなんだろう、少なくとも私がどうこう言うことでは無い」

 

「……我等を弄んでいるのか」

 

おお、戦貴棲姫が相応に見え始めた、あの弱ったままでは困りモノだが、これなら向こうに投げられる

 

「なぜそうなる、それに智慧を借りたいのなら私よりも遥かに適任のモノがいる、なんなら紹介しようか?」

 

 

 

 

鎮守府-食堂(第一食堂)

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

???:戦貴棲姫

日本政府:各所関係者(多数)

大本営:司令長官/職員

鎮守府所属艦:筑摩/大和

桜智鎮守府所属艦:利根/白露

 

 

第一食堂に入るとTV会議を終えた列席者達が会議内容の検討やら対処を纏める為の会議を始めていた

上部機関からの無茶振りやら今後の艦娘部隊の運営方針やら大本営と政府関係者等で協議すべき内容には事欠かない

 

取り敢えずは改めて戦貴棲姫を紹介、この場に連れてきた理由を説明した

 

「……今この鎮守府の扱いについて意見交換をしている最中なのだが」

 

政府関係者からは困惑と戸惑いがハッキリ見て取れるが、戦貴棲姫に対して拒否反応らしい態度は見られない

事態が予想を超え過ぎて感情が追いつかないのかも知れない

 

「なら、丁度良い、政府関係者と大本営が智恵を絞っている所と云う訳ですから、その知恵をお貸し願いたい」

 

ここは間を置かずにいサッサとこちらの目的を果たす方向へ誘導する

 

「……その、そちらに、か?」

 

思考が追いつかない様で言葉には応答して来るが、表情は変わらない

 

「大本営だけでなく政府側も交渉を希望していると聞きました、何か不都合が?」

 

「不都合というか……」

 

ここは下手に理屈を捏ねさせると面倒になりそうなので、畳み掛けた

 

「大和が同席していますし、他にも希望者がいるのなら同席させます」

 

「ならばあの初期艦等を同席させよ、我等と話していた時間が長い」

 

希望を言って来たのは政府関係者ではなく戦貴棲姫だった

 

「一組の二人?確認するが、他意は無いな?」

 

戦貴棲姫の目的は初期艦の入手、同席させて力尽くに出られるのも困る

 

「……心配なら保険を掛けよ、我等は人ではないのだからな」

 

こちらの懸念を察したのか提案があった

 

「戦貴棲姫相手に効く保険なんてあるわけ……」

 

「話はわかった!吾輩の出番じゃな!!」

 

こちらが言い終える前に高らかに宣言する輩が場に乗り込んで来た

 

「えっと?」

 

状況が不明過ぎて言葉が続かない

 

「吾輩等が保険となろう、良かろう?」

 

宣言した艦娘は尚も言葉を足してくる

 

「司令官、言い出したら聞かない性分なので、許可していただけませんか」

 

その艦娘と並んでいる別の艦娘からの台詞で漸く状況が見えて来た

 

「筑摩、保険の意味を承知しているのか?重巡ではかなり厳しい条件になるが」

 

「何かあったら直ぐに知らせますよ、これでも私と利根は艦隊旗艦に指定されています、相応な対応が出来ると、桜智司令官から太鼓判貰ってるんですよ?任せてください」

 

並んでいる別の艦娘からも宣言を履行すると主張があった、こうなれば艦娘を説得するよりなり行きに任せて列席者達に畳み掛けからの押し込み材料にさせてもらおう

 

「そういう事になった、大本営と政府関係者の方々に異論が無ければ、こちらの艦娘と戦貴棲姫をこの意見交換に加えて頂きたい」

 

「老提督……」

 

そう言った政府関係者達は老提督に何を求めたのかは定かでは無い、事態の収拾なのか、状況の説明だったのか

 

「断る理由はないだろう、交渉を望んでいるのは確かなのだ、戦貴棲姫さんがその席に着いてくれるというのなら、ある程度の条件は受け入れても良いと考える、勿論、そちらに異論があるというのなら、大本営だけでその席に着こう」

 

政府関係者達の視線を集めた老提督は戦貴棲姫に知恵を貸して欲しいという無茶振りを同じテーブルに着くのなら受け入れる考えを示した

 

「そんな訳に行かないでしょう、わかりました、兎に角、皆で同じテーブルに着きましょう」

 

政府関係者達は老提督というか大本営だけをそのテーブルに着かせる訳には行かない事情もある様で、兎も角三者が同じテーブルに着く運びになった

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

大本営所属艦:高雄

 

 

動き回る途中で見つかって仕方なく一緒に行動していた叢雲(旧名)

ここまでは大人しく事態を見守っていたが執務室に戻るなり口を開いた

 

「アレ、大丈夫なの?」

 

開口一番出て来たのは先程の件、戦貴棲姫をあの会議に参加させた件だ

 

「大丈夫なんじゃない、知らんけど」

 

「ちょっと、何かあったらどうするつもりなの?アイツがその気になったら政府関係者と大本営の人がまとめて物理的に無くなるわよ」

 

懸念が拭えないらしく重ねてソレを口にする

 

「そうはならんだろうよ、その為に大和を同席させてるし、保険で三人も付けたし」

 

「……効くと良いわね、その保険」

 

そういう叢雲(旧名)の顔は投げやりというか呆れていた

そんなやり取りをしていたら執務室の扉が開いた、顔を出したのは高雄だ

こちらの指示の進捗具合を報告に来たのだろう

 

「司令官、鎮守府所属艦娘に事情説明を終えました、これより移動の準備にかかります」

 

「わかった、老兵の言い分では移動に必要な車両の手配は済んでいるそうだ、今各方面との調整に入ったと連絡があった、思っていたよりも早く移動出来るかもしれない」

 

「連絡って、まさかあんたの私用携帯?そんなのでやりとりしてるの?」

 

驚いた様子の叢雲(旧名)

 

「この際自衛隊には聞かせた方が有効じゃないかな」

 

自衛隊がまともに仕事をしていれば民間仕様の携帯電話の通話くらい聞き耳立てているだろうしな

 

 

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