初期の艦これ   作:弱箔

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89 溜まっていく雑務

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

大本営所属艦:高雄

 

 

取り敢えずの急用を終えて溜まっていく雑務を片付けていた

大淀の手は借りられなかったが叢雲(旧名)の手は借りられた、これである程度は片付くだろうと少しだけ気持ちは楽になった所だった

 

雑務を片付けていたら突然に何の前触れもなく乱暴に執務室の扉が開け放たれた

 

「提督!祥鳳が深海棲艦の飛翔体を発見、迎撃の艦載機を出しました」

 

開け放たれた扉をそのままに高雄が言いながら執務机に向かってきた

 

「……数は?」

 

言いたい事は色々あるが問題にしても始まらない、対処が必要な事案について簡潔に聞く

 

「少数、偵察行動ではないかと思われます」

 

少数の偵察機?あの数を揃える戦貴棲姫達が攻勢に出るにしては地味過ぎる

とはいえ何もしない訳にも行かない

 

「見逃してはくれんか、明石に摩耶の修復をさせろ、高速修復材を使え」

 

「え?摩耶、ですか?今は遠征隊への資材の割り振りと積み込みを実行中ですが……」

 

資材管理を振ったのだからそれは想定内、今は摩耶だけでなく天龍も鎮守府内にいる

 

「それは天龍に振って良い、摩耶は修復が終了次第軽空母達と合流させろ」

 

「了解しました」

 

こちらの指示を聞き高雄が執務室を後にした

 

 

 

 

外洋-桜智鎮守府への途上

鎮守府所属艦:護衛隊_旗艦長良以下集合中

桜智鎮守府所属艦:鈴谷/熊野/時雨/春雨/海風/山風/江風

 

 

突然呆気にとられた様な顔を見せた鈴谷が無感情に呟く

 

「……撃墜された」

 

「近づき過ぎたんか?」

 

状況を察した龍驤が聞き直している

 

「違う、対空砲火じゃない、上から襲われた」

 

鈴谷は搭載機で停船状態の深海棲艦の艦隊を監視していた

勿論付かず離れずの距離は保っていた、目的は監視であって攻撃ではないのだから

 

「……彼方さんもようやっと出して来よったか」

 

鈴谷の言動から深海棲艦の飛翔体の出現を確信、事態が厄介な方向へ舵を切り出したと考える龍驤

 

「鈴谷、撃墜された場所は?」

 

熊野から確認の意味だろう質問が入る

 

「あの停船した深海棲艦たちを監視してた機体だよ、座標的にもそこで合ってる」

 

「……監視に気が付いて動かなかった?もしくは監視を引きつける為に動かなかった、のでしょうか」

 

護衛隊の艦娘から疑問調の推論が聞こえて来た

 

「どっちにしろ、これから動くっちゅう事やろ、どないする?」

 

艦隊行動中では勝手に動けない、龍驤は旗艦の判断を仰いだ

 

「どないって言われても、桜智司令官の所に行けって指示されてるし……」

 

しかし旗艦の判断は煮え切らなかった、そんな長良に龍驤が何を言う前に名取から意見が出た

 

「長良、賭けに勝ちに行くんでしょ?その為に必要なのは、桜智司令官の所に行く事なの?」

 

「賭け?」

 

賭けと聞いても何の話かわからなかった時雨が聞き直している

 

「そう、命令されるまま、指示されてるまま、従うままでは賭けに使われるチップでしかない、私達はあの戦いで闘い続けてしまった、ただのチップだった、もう、あんな闘いはしない」

 

「あの、戦い?」

 

名取の言い分に質問を重ねてくる時雨

 

「あー、時雨等はこのまま桜智司令官の所に帰りぃ、そう指示されとるんやから何も問題あらへんやろ」

 

話がややこしくなると考えた龍驤が時雨達に行動を促している

 

「……それでも良いんだけどね、あの戦いって、なにさ」

 

しかし時雨は大人しく帰ろうとはせず、質問の答えを求めてきた

 

「知らんでええことや」

 

話を打ち切ろうとしている龍驤だが、そう上手くは行かないだろうとも思っていた

 

「……もしかして、南方で行われたっていう、大規模海戦の事かい?参加艦娘が二百を超える大規模な海戦だったと聞いてるよ」

 

コレを言おうか言うまいか少しだけ迷った様子の時雨だったが言葉に出した

 

「ちょっとまて、あの海戦の参加艦娘は大本営で拘留されてるんじゃなかったか?帰還後に規定違反が発覚したとかで」

 

時雨の言い分を聞いた江風が話を補足してきた

 

「……そんな話になってるの、大本営に行かなくて正解だったね」

 

衣笠から呆れ切った感想が述べられた

 

「体面保つのに必死過ぎて話にならんからな、あそこの士官等は」

 

事態収拾を諦めた龍驤からも感想が出てくる

これを聞いていた桜智鎮守府所属艦は一様に驚きの表情を見せていた

 

「……じゃあ、本当にあの海戦の参加艦娘、なの?」

 

そんな中で海風から質問調ながら感心した様な感想が述べられた

 

「名取、龍驤、お喋りが過ぎる、余計な事を言わなくて良いんだよ」

 

ややこしい事態の発生に旗艦が文句を言ってくる

だがしかし、そんな文句を聞いてくれる護衛隊編成艦はいなかった

 

「それで?旗艦はどうやって賭けに勝ちに行くのか、聞かせてもらいたいんだけど?」

 

衣笠から今後の方針について質問が来た

 

「とても興味深いお話ですね」

 

鳥海も衣笠に同調

 

「雪風?そんなに眼の色を変えないで……」

 

そんな中で心配そうな声の羽黒

当の雪風は羽黒の心配が不満な様子

 

「なぜに雪風だけ?!天津風だって同じですよ!!」

 

「勝ちに行くんでしょ、サッサと勝ちを確定させましょう」

 

口調こそ冷静に聞こえるが、賭けに勝ちに行くと聞いて天津風まで雪風同様に眼の色が変わっている

 

「……また働くのか?お仕事終わったハズニャ……」

 

他人の所とはいえ鎮守府に向かう予定が何故かお仕事継続にすり替わった事を嘆く多摩の呟きは誰にも聞こえなかった

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

~個人携帯~

桜智鎮守府:桜智司令官

 

 

書類の山を相手にしていた所携帯に着信、桜智からだっだ

 

「おい、なんてややこしい話に巻き込んでくれたんだ」

 

応答するなり挨拶も無しで文句が出て来た

 

「ほう?そう言ってくるって事はウチの艦娘達がそっちに着いたのか」

 

「来たよ、雪風と天津風がいるじゃねーか、お前ん所には陽炎型は居なかった筈だろう、いつの間に着任したんだよ」

 

なんか言い分に違和感、何故に陽炎型に言及してるんだ?

 

「……その二人がいると、なんかあるのか?」

 

聞きたい事は色々あったが、取り敢えずはこれを聞いた

 

「佐和の所の陽炎と不知火がうちの工廠でその二人と鉢合わせたもんだから手を貸すって言い出して困ってんだよ、陽炎型は姉妹艦が絡むと見境がなくなるって佐和のヤツから泣きも入ったし、ウチの初期艦の吹雪は来たばかりだ、まだ五月雨ほどには鎮守府を仕切れない、鎮守府運営では白露達に頼る部分が多いんだ、白露達が居れば抑えられたかもしれねーけど、今そっちにに行って居ないから難儀してるぞ」

 

随分と濃い事情だ、こちらとしては必要な部分のみ濾し取って残りを押し付ける……関われない事情には自己対処を促す方向で話を進めよう

 

「佐和の所は合同作戦を続けてるのか、それで工廠で鉢合わせたと、でも白露型の半分は戻っただろ?」

 

「白露と村雨が居ねーんだよ、時雨は戻って来たが陽炎に同調して止めるどころか大型艦の協力を取り付けようと秘書艦の立場を悪用してやがる、そんな訳だから指揮権を返せ、直接抑えなきゃならん」

 

あー、自己対処しようにも指揮権を手放してるからやりようがないのか、これは困った

 

「えっとだな、今は半分しか返せないが、それで良いか?」

 

「良いわけないだろう!全部返せ!!」

 

おう、桜智が声を荒げてくるとは向こうの事情はあまり良くないらしい

が、ソレはそれ、こちらにも都合がある

 

「悪いが、こっちに来てる六名はこっちの事情で動いて貰ってる、直ぐに指揮権を返せる状況にない」

 

桜智相手に隠し事も誤魔化しもする必要が無いので都合をそのまま伝える

電話越しでも桜智が息を整えているのが聞こえて来た、声を荒げたままでは話は進まない

 

「……危ない事させてるんじゃないだろうな」

 

桜智は艦娘達の行動を内容を聞いてきた

 

「物理的な危険は大和が引き受けるだろう、大丈夫じゃないかな」

 

「おい、戦艦が物理的な危険を引き受けなきゃならん危ない事をさせてんのか?」

 

幾らか桜智の声が低くなった気もするが、話を進めよう

 

「やらせろとねじ込まんたんだ、やれと言ったわけじゃない」

 

「利根か、そっちに筑摩がいたな、まったくしょうがないヤツだ……それでおまえはどうするんだ?」

 

どうやら状況を理解してくれた様だ、話が通じる相手というのは良いな

後は桜智の質問に軽く答えておこう

 

「皆んなで職場放棄」

 

 

 

 

桜智鎮守府-港

鎮守府所属艦:護衛隊_旗艦長良以下集合中

桜智鎮守府所属艦:扶桑

 

 

護衛隊内での話しとして現状での装備、兵装が今後の行動に適していないとの結論に達し、時雨や熊野とも話した結果、それらの適正化を目的に司令官の指示通り桜智鎮守府に向かい全員で上陸した

時雨や熊野等は上陸後直ぐに護衛隊への協力行動に移っていた

 

港で待たされる形になった龍驤は直ちに情報収集を開始、同時に状況把握に努める

 

「鎮守府の方でも何やら動いとるようやな」

 

「動くから私達に桜智司令官の所へ行けって言って来たんでしょ?」

 

長良に不思議そうに聞き返されてしまった

 

「鳳翔は飛行隊をこっちに渡すのを渋っとたけど、急に物分りが良くなりよった、おそらくやけど、兵装開発の許可が出たんと違うか、今いる飛行隊をこっちに渡して自分は開発して飛行隊を揃える事にしたんちゃうやろか」

 

「つまり、鎮守府で資材の使用許可が、出たと、兵装開発にまで資材を使ってるとなるともう資材を使い切る事を見据えてるって事、だよね」

 

長良に状況を説明したら名取から応答が返ってきた

 

「問題は、なにを目的にして資材を使い切ろうとしとるかやろ、あの司令官が玉砕紛いな事しよるとも思われへんし、資材が無うなったら鎮守府所属艦娘等は身動き出来んくなる、ウチらを遠くに向かわせたからにはあの包囲網に手出しするとも思われん、どうすんねやろ」

 

あの司令官はどう動くつもりなのか、そこが分からないと護衛隊としても動くに動けない

あの包囲網に護衛隊だけで挑んでも数の上で話にならないのだから

 

今後の行動に幅を持つ意味でも護衛や偵察に最適化した今の装備は換装したいが、それをするには鎮守府の工廠でなければ無理が生じるし、何より換装する為の装備や兵装は鎮守府にしかない

この桜智鎮守府に来たのも秘書艦指名を受けている時雨の協力が取り付けられたからだっだ

 

龍驤が考え込んでいる所に声がかけられた

 

「よろしいかしら?」

 

声の主を見て応じる龍驤

 

「この鎮守府の戦艦種か、何の用や」

 

「少しお話しを、よろしくて?」

 

柔和な笑みを浮かべた戦艦種の艦娘は巨大な艤装を展開していた

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官

大本営所属艦:高雄

 

 

各方面に散っていた司令部要員の内の高雄が報告の為に執務室に戻っていた

 

「提督、五十鈴から移籍組の移動は困難と言ってきました、自衛隊は大本営からの依頼を拒否した様です」

 

報告の内容に疑問しかない司令官はそれを口にした

 

「老提督がここで自衛隊の上の方と話を着けたのに、か?」

 

「命令伝達経路の何処かで拒否され、履行不能の状態だそうです」

 

自衛隊内のゴタゴタにこちらから手出しするには憲兵隊を経由する事になるしそれには長い時間と多大な手間が必要になる、直ぐに対処出来る事案では無い

取り敢えずそこは後回しにして鎮守府内の状況把握に努める事にする

 

「ウチの艦娘の方は?」

 

「準備は順調に進行中、移動用車両が鎮守府に着くまでには終了出来る見込みです」

 

どうやら問題は起こっていないらしい

 

「長門、龍田、初春、それと阿武隈に点呼を徹底する様に伝えてくれ、置いて行ったらそれっきりになりかねない状況だ」

 

「了解しました、それと、何処に行くのかについて質問が寄せられています、何と返答すれば良いですか」

 

「移動先は大本営だ、あそこなら使える工廠がある」

 

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府所属艦:祥鳳/隼鷹/摩耶

 

 

少数で進入して来た飛翔体は発艦した艦載機で追い払ったものの後続と思われる飛翔体の群れを見つけていた

艦載機からこちらに向かってくる飛翔体の観測情報が入る

 

「不味い、結構な数が来てる」

 

向かってくる飛翔体の多さに過去の経験が重なる祥鳳の顔は厳しい

 

「ああ、コッチでも見えた、飛翔体の数からすると、三つか四つくらいはいるな」

 

隼鷹の口調こそ冷静に聞こえるが過去の経験は無くならない

 

あの戦いで遭遇した母艦能力を持つ正規空母級の深海棲艦、鎮守府所属艦の話では未だ遭遇していないそうだが、今回はあれだけの数を揃える大部隊、あの正規空母級の深海棲艦がいないと考えるのは楽観では済まないだろう

その搭載機数の多さは艦娘の正規空母以上だと分かっている手合いだ、単艦でも軽空母では数で負ける

 

「……こちらは二人……」

 

こんな状況で弱音を吐くことも出来ず言葉を濁す祥鳳

 

「鳳翔さんが夕張と工廠に籠もっちまったからな、逃げるのなら今の内だな」

 

努めて軽くした口調で答えてくる隼鷹

 

「司令官の指示は工廠の防衛です」

 

「あれ?飛行隊を収容して艤装も収納して待機、じゃなかったか?」

 

軽くした口調をそのままに隼鷹に問われた祥鳳は言葉に詰まった

 

隼鷹が口にした司令官からの指示は修復時の懸案の為に取られた一時的な対応

元々の指示は工廠の防衛、一時的な対応の結論は聞いていないが、明石から修復自体の問題は見つからないとも聞いている

この状況で待機などしていられない、ただでさえ鳳翔は当初の指示に従い防衛戦を実行している

自身も既に艦載機を放っている祥鳳としては同様に艦載機を発艦させている隼鷹の言い様からそこに含まれているであろう意図を読み取っていた

 

「……そうしたければ、すれば良いじゃないですか、止めませんよ」

 

「そうもいかんでしょ、こっちは無断で修復に割り込んだ身だからねぇ、ここで戦わないと寝覚めが悪くなるし、何よりここで逃げ出したら酒の味まで解らなくなっちまうよ」

 

軽空母二人の意見の一致が図られた所で第三者からの声がかけられた

 

「随分余裕じゃないか、こんな時に酒の品評会でもやろうってのか?」

 

「……摩耶?」

 

声の主は資材管理室の主になるはずの摩耶だっだ、先程まで駆逐艦達の資材搬出に手を貸していたが愛宕が来て入渠場に連れていかれていたのを思い出した

 

「司令官からの指示だ、軽空母と合流しろってな、で?的はどれくらい飛んでるんだ?」

 

 

 

 

鎮守府-港

鎮守府所属艦:加古/神通

 

 

深海棲艦から発せられた飛翔体の接近、その迎撃任務を帯びた三隻の巡洋艦を送り出した

残された巡洋艦達も出来るのなら海上での迎撃に加わりたかった

その希望は司令官により却下、移動後の行動に備え保有資材の温存を言い渡されてしまった

 

「無茶振るのはいつもの事とはいえ、対水上艦戦用の兵装で対空戦闘ってのは、如何なのよ?」

 

いつにも増して愚痴っぽく語る加古、資材の温存を言い渡されているからといってただ状況を眺めていられる程の神経は持ち合わせていない様子

 

「兵装開発を今から行っても人数分確保出来ませんし、無い物ねだりしている時間もありません、ヤるしかないです」

 

攻略部隊に配置された影響か、事が戦闘となれば腹を括る神通

あまりの括り様に加古としては愚痴が止まらない

 

「せめて長門と筑摩が加わっててくれればな……」

 

「長門は移動の仕切り、筑摩は上の方との話し合いの保険になっています、時間もありません、第一陣の朝潮達を無事に出発させなければ、ここで詰みます」

 

アッサリと腹を括った様に見える神通ではあるが状況が見えていない訳ではない

神通には行動が司令官の指示であり、明確な理由があり、両者に整合性があるのなら指示内容を具体化し、問題や矛盾への対処が自身に課せられた任務という解釈らしい

 

「……朝潮達と天龍を先行させて向こうの工廠を掌握するんだっけ?それが出来ないと移動しても継戦出来ないしな、理屈は分かるんだけどな」

 

苦労する性格の神通に思う所が無いでもないが、放って置くわけにも行かない加古としては愚痴から相槌的な受け答えに切り替えた

 

「わかっているのなら、ヤるしかないでしょう」

 

 

 

 

鎮守府-食堂(第一食堂)

鎮守府所属艦:大和/筑摩

桜智所属艦:利根/白露

???:戦貴棲姫

大本営所属艦:一組の初期艦二

大本営:老提督/職員複数

政府関係者:多数(防衛省、外務省、内閣府)

 

 

「砲撃音が随分と、多くなったな」

 

「ここは最前線だ、いつもの様には行かんよ」

 

「最前線で、こんな話し合いをする事になるとは想定していませんでした」

 

「そういった場に居合わせているだけだ、後方で踏ん反り返っているばかりが幹部の仕事ではなかろうよ」

 

「出張って来た先で戦線が構築されたからと言って真っ先に後方退避しようものなら、現場の連中に鼻で嗤われる、まだ、直接攻撃を受けたわけでは無いんだ、退避するには早いだろう」

 

飛翔体の接近と艦娘達による迎撃戦の発生はここにも伝えられている

そんな状況でも列席者達は話し合いを続けている、最前線にいるにも関わらず誰を見ても危機感を募らせた様子は見受けられない

度胸というか肝が座っていると解釈するか、中央特有の鈍感から来る危機感の欠如なのか、何方と解釈するかで見方が変わる

 

「つまらん事を聞く様で、アレなんだが、聞いてもいいか?」

 

そんな中で列席者の一人が戦貴棲姫に声をかけた

 

「……我等に言っているのか?」

 

列席者達の話を聞いている様子は見せていた戦貴棲姫だが発せられた口調からは心底面倒に感じていると認識させるのに十分だった

 

そんな先方の感じなどお構い無しに続ける列席者、少なくとも話し合いに来ている相手なのだから多少の受け答えには応じると判断しているのだろう

 

「そう、ここで話し合いの最中なのに何故攻勢に出ている?何か結論が出る様な話があったか?」

 

単刀直入にも程がある質問だっだ、これを聞いた他の列席者達が真顔になるくらいにはストレート過ぎる質問だ

 

「鎮守府司令官が異動命令を受けた事が理由だ、異動命令が実行される前にこちらの交渉を成立させようと焦ったモノがいる、それに引っ張っられて少なくとも足止めして交渉の時間を稼ごうと考えたモノもいる様だ」

 

真顔になった列席者達など気にも留めず質問に答える戦貴棲姫

 

「……つまり、そちらは統率された動きが出来ていない、我等の方々が各個に連携を欠いたまま動いている、そういう理解で良いのかな」

 

アッサリと回答が来るとは予測していなかったのか、質問者は驚きの表情を浮かべ元の表情に戻すだけの間を開けてからの返答になった

 

「確かに連携を欠いてはいる、だからといって過少な評価にはその身を以て対価を支払う事になる、我等のチカラを侮るな」

 

若干睨まれる感じになった質問者は言葉が継げず沈黙してしまった

そんな様子を見ていた他の列席者が後を継ぐ様に話を続けた

 

「……そう聞こえたのならこちらの言い様が悪いのだろうな、聞いたところによればあなた方はあの海戦であの数の艦娘と直接戦った勢力だと聞いている、あれだけの戦力を壊滅させた実力を過少に評価すれば如何なるか、我が身で試そうとは思わんよ」

 

これを聞いた戦貴棲姫は列席者達の誰もが判る程度には尊大な態度に出た

 

「賢明な判断だ、我だけでもこの鎮守府を相手取るだけのチカラがある、疑うのなら力押ししてみる事だ、その身で思い知る事になるだろう」

 

「鎮守府司令官は何故に武装解除しなかった、艤装や兵装が無ければやりようもあっただろうに……」

 

列席者の誰かが独り言の様に呟いた、それを耳聡く聞きつけた戦貴棲姫は態度をそのままに言葉も続けた

 

「そんな事を考えていたのか、交渉相手に鎮守府司令官を選んだのは誤りではなかったか」

 

「如何いう意味だ?」

 

鎮守府司令官を交渉相手に選んだとは聞いているが、そこにどんな思惑があるのかまでは知りようもない列席者は単純に誤りではない理由を聞いたつもりだった

 

「我は人では無い、その程度でやりようがあるなどと考えない事だ、その身が幾つ有っても足りないからな」

 

返ってきたのはあまり愉快ではない状況確認と先方の圧倒的な戦力誇示、この方向で話が進んでも良いことはない

 

これらの遣り取りを見ていた老提督が話の軌道修正にかかる

 

「戦貴棲姫さんの言う通りだ、ここは話し合いの場だ、力を振るう算段は無しにしよう、宜しいな」

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

大本営所属艦:高雄/愛宕

 

 

鎮守府を放棄する方向で行動計画を立案したものの全てが予定調和の内に収まるものではない

 

「軽空母達の補給が想定以上だな、摩耶への補給もそうだが」

 

補給艦隊からの報告と工廠に陣取る軽空母達からの報告、それらに記載された消費資材量に思わず渋い顔になる司令官

 

「数が違いすぎるからね、手数の差を練度と補給で補ってる状態、補給が尽きたらそこまでって事になるわ」

 

報告書類に目を通しながら必要な出費であることを強調して来る叢雲(旧名)

 

「皐月達に積ませた資材を降ろさせるか……」

 

このままの消費が続けば放棄する前に資材を使い切る事態も想定される、更に取り得る手段も限られている

 

「それをここで使ったら向こうでの補給が無くなる」

 

叢雲(旧名)から現行の資材分配を崩す危険性を指摘してきた

 

「そうなんだが、ここを持たせないと向こうに行く事も出来なくなる」

 

司令官としては困った事態の発生に如何に対応するか、例え持ち合わせが無くとも智恵を絞らなければならない

 

「……提督、余剰資材を使われては如何ですか?」

 

そんな中で遠慮がちに高雄から提案が為された

 

「余剰、資材?何処にあるんだ?そんなモノ」

 

鎮守府の備蓄資材は全て分配済み、そんな資材があるのなら是非とも欲しい場面だ

 

「移籍組が宿泊している船に資材が積み込まれています、使用制限も無く司令官の裁量で使えると聞いていますが」

 

「……アレか」

 

高雄の指摘で思い出した、確かにそこに資材はある、あるのだが手を付けられない事情もあった

 

「そういえばそんな話もあったわね、でもこれまで使わなかったんだから、何か理由があるんでしょう?」

 

こんな状況でも手を出さない事からワケあり資材と推定した叢雲(旧名)からその事情を聞かれた

別段隠す話でもないので素直に応じてみる

 

「移籍組の修復、運用の為の資材なんだ、アレは、こっちで継戦用に消費したら移籍組が如何動くか、読めなくてね」

 

「あー、ただでさえ修復を中断したから荒れてるんだっけ?その上に修復用の資材を使い込んだら、まあ、更に荒れそうね」

 

質問した叢雲(旧名)も手を出さない事情に納得の様子をせる、この状況で移籍組の癇癪にまで手間を取られるのはどう考えても得策では無い

 

「移籍組から見たら自分達の修復の担保だからな、それを取り上げられて大人しくしているかどうか、賭けとしては成立しないだろう」

 

二人の遣り取りに不満気な表情を見せる高雄と愛宕

眉間に皺を寄せた愛宕には異論があるらしくそれを言い出した

 

「幾ら何でもこの状況でそこに拘る艦娘はいません、黙って見ていようと資材を使われようとここから移動出来なければ結果は同じです、ご心配なら、私達が直接資材を搬出しますが?」

 

「それにはまだ早い、鳳翔の開発結果を見てからにしようか」

 

現状で移籍組の癇癪を誘発しかねない行動は出来るだけ避けたい

 

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府所属艦:祥鳳/隼鷹/鳳翔/夕張

 

 

「分かってた事だけど、厳しいねぇ」

 

どう贔屓目に見ても押されつつある制空権争い、軽空母二隻では元から苦戦どころか無理がある事は承知の上とはいえ目前の戦況に思う所は出て来る

 

「補給はまだあります、泣き言言ってる時間で発艦させて、押されてる」

 

承知の上での行動である為か、祥鳳からは同意では無く叱咤が返ってきた

 

「ヘイヘイ、摩耶が張り切ってるが、的が多過ぎるしなっと」

 

そんな祥鳳にも思う所が無いわけでは無い隼鷹ではあるが、それを口にするのはやめておいた

そこに第三の声が掛かった

 

「状況を教えてください」

 

声の方を見れば夕張を伴った鳳翔がいた

鳳翔は自身の艦載機を龍驤に譲渡、新たな艦載機を開発すべく工廠に篭っていた

 

「鳳翔さん?開発結果は?」

 

隼鷹としては軽空母が一隻増えた程度で覆せる戦況ではないと判断していた

そうであっても現状よりは幾らかでもマシな状況へ転換出来ると、制空権争いをしている時間だけは延ばせると期待していた

 

「艦載機は開発出来ました、ですが、運用する為の資材が不足しています、三人でこの艦載機を同時運用は厳しいでしょう」

 

鳳翔の返答は隼鷹の期待値を大きく下方修正させた、開発した艦載機を制空権争いに大量投入出来ないのなら現状はさして変えられないのだから

 

「……なら、鳳翔さんが使ってくれよ、練度ならあたしらより上だし、こっちは摩耶と連携した防空体制が出来始めてる」

 

「今機種転換すると、摩耶さんに影響がある、そういう事ですか」

 

「こっちは搭載全機種を動員して摩耶の対空砲火の中に飛翔体を追い込んで落としてもらってる、艦戦だけじゃ数が足らなくてね、その連携を崩したくない」

 

隼鷹にしろ祥鳳にしろ数の不利は戦端を開く前から承知の上、そこをどう補うか?

二人の出した回答はハリネズミの様な対空火器を兵装としている摩耶の火力を活用する事

戦況は自身の搭載機の火力だけでは時間稼ぎすら危うい、司令官の指示は工廠の防衛だ、目的を達成するには個別の撃墜スコアなどに拘っていられない

 

「祥鳳さんの意見は?」

 

ここまで黙々と艦載機の収容と補給、再発艦を繰り返していた祥鳳に声を掛ける鳳翔

 

「ゴチャゴヤ言ってないで早くして!制空権確保が司令官からの指示です!!」

 

何時に無く余裕の無い、苛立った様に返答して来る祥鳳

 

「……わかりました、押し戻しましょう」

 

その苛立った声に鳳翔は祥鳳の眼に何が視えているのかを察した

 

 

 

 

鎮守府-正面海域

鎮守府所属艦:初春/白雪/初雪/初霜(補給艦隊)

鎮守府所属艦:摩耶/阿武隈/木曾(防空艦隊)

 

 

「補給じゃ、必要なのは誰ぞ?」

 

海上からの対空戦闘を実施中の巡洋艦達に駆逐艦から成る補給艦隊が接触している

 

「こっちは良い、摩耶に補給してくれ」

 

初春から声をかけられた木曾は防空艦隊の中で最も弾薬を消費している摩耶への補給を求めた

 

「摩耶さん、補給です」

 

尤も摩耶には既に別の駆逐艦が補給に行っていた、それを見て木曾も補給を受ける

 

「……ワリィが、手が空かない、勝手にやってくれ」

 

駆逐艦に声をかけられた摩耶はそちらに一瞬視線を向けただけで対空戦闘を継続、何しろ軽空母二隻が自分の方に飛翔体を追い込んできている

いくらハリネズミの様な兵装とはいえモノには限度がある

だからと言って軽空母二隻に頼られている戦況を前に『出来ません』とは如何あっても言いたく無い摩耶としては手持ちの弾薬を最大効率で消費し続ける戦いを強いられていた

 

「わかりました」

 

補給艦隊の駆逐艦は摩耶に簡潔に答えた

 

補給を受けつつも摩耶には疑問が大量に湧く

この補給を持ってくる駆逐艦達は何でこうも簡単にこちらに接触出来る?

包囲網の内側とはいえ摩耶自身飛翔体を追いつつ回避行動も行っている、後ろに付いて来るだけでも困難な筈だ

なのに、ここの駆逐艦は簡単に接触して来るし補給までしていくし飛翔体の下を潜ってくるのに無傷ときた、いったい如何なってやがるんだ

それに両翼に配置された二隻の軽巡、建造艦の筈なのに自分の左右の定位置を保持し続けている、見た所練度は然程高くない、なのに自分の動きに付いてくる

始めのうちは修復直後で自身の動きが戻っていないからだと考えていたが、そうではない事が分かってきていた

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

大本営所属艦:高雄/愛宕

 

 

「鳳翔から連絡がありました、開発は成功、これより鎮守府周辺空域を掃討する、そうです」

 

高雄からの報告だ

 

「掃討?迎撃じゃないのか?」

 

聞き間違いかと思い聞き直してしまった

 

「……掃討する気なのでしょう、鳳翔は」

 

摩耶に修復命令が出された際その実行に立ち会った愛宕は工廠内で鳳翔が夕張に対し艦載機開発の相談を持ちかけているのが聞こえていた

 

「今工廠から出たのが、開発した艦載機?」

 

窓側に行った叢雲(旧名)が急上昇して行く飛行機、鳳翔が発艦させたと思われる艦載機を目で追う

 

「だと思う、艦載機の事はわからんから聞くなよ」

 

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府所属艦:祥鳳/隼鷹/鳳翔

 

 

鳳翔が発艦させた艦載機は見事としか言い様の無い働きを見せた

 

「すっげー……」

 

その働きに隼鷹は言葉を無くす

 

「……流石は鳳翔さん、ですね」

 

鳳翔艦載機の働きを見た祥鳳は漸く苛立ちが治った、あの戦いの再現を目の当たりにしなくて済んだのだから

 

「いえ、私の練度ではなく開発した戦闘機の仕様です、旋回半径以外では全て格上の仕様ですから、単葉機で複葉機を相手にするような感じになっています」

 

二人の感想をやんわりと訂正する鳳翔

 

「あー、大陸での初陣か、アレの再現になってると」

 

鳳翔の訂正に思い当たる隼鷹、それなら今回の制空権争いの結果への貢献度合いは鳳翔の練度より開発した艦載機のスペックの方が高いだろう

 

「ただ、こちらが開発出来たという事は、何れは向こうでも機種転換が行われるでしょう、その時に備える必要があります」

 

一人感心仕切りの隼鷹に鳳翔は話を続けた

 

「開発が遅れたら、ああなるのは、こっちだって、言うのかい?」

 

目前の戦況を思い返しながら問う隼鷹

 

「その通りです」

 

それをアッサリ肯定する鳳翔

 

「……そいつは、勘弁してもらいたいねぇ」

 

あまりのアッサリな言い様に異論を言い出しそうになったが、それを飲み込んで無難な返しに留めた

 

 

 

 

鎮守府-正面海域

鎮守府所属艦:摩耶/阿武隈/木曾(防空艦隊)

 

 

「なんだ、急にいなくなったぞ?」

 

唐突に的が居なくなり状況を計れず困惑仕切りの摩耶

 

「鎮守府に問い合わせました、鳳翔が開発に成功、その機体が飛来中の飛翔体を掃討した様です」

 

その困惑に阿武隈が応じた

 

「……じゃ、帰って一休み出来るな」

 

摩耶としては色々聞きたい事はあったが、正直な所修復直後の過大な負荷に疲労を覚えていた

だから摩耶としては素直な感想を口にした

 

「そうはいかない、自衛隊からの連絡では第二波が接近中、鳳翔の飛行隊だって無限に戦闘行動出来るわけじゃない、この隙に母艦に帰って補給しなきゃいけない、その時間を摩耶に稼いでもらいたい」

 

しかし状況はそれを許してはくれない、木曾から休んでいる余裕は無いとばかりに警戒態勢継続を求められた

 

「……それは、司令官からの指示か?」

 

言いながらもそうでは無いだろうと思いつつも確認を取る

 

「いや、オレの状況判断だ、異論があるのなら司令部でも司令官にでも意見してくれ」

 

摩耶の読み通り先程の要求は木曾の独断、つまり対応次第で拒否出来る要求だ

 

「自衛隊からの連絡といったな、今この鎮守府所属艦にそんな連絡を寄越す自衛隊なんていたか?」

 

例え拒否出来る要求であっても言い分に聴く価値があるのなら、無闇に拒否するのは自分の首を絞めかねない

何しろ事は鎮守府の存続に直結する事態への対応だ、修復を終え正式に所属したばかりの摩耶とはいえ所属艦として所属鎮守府が無くなるのを黙って見ているなど出来る性格では無かった

今の摩耶に必要なのは正確な状況を把握する事、命令だけで行動し、正確な情報も無いままで判断を誤るとどう成るか?

愛宕は二度と直面したくないと言っていた、摩耶としても当事者に成りたくはない

 

「鎮守府派遣隊だ、一度撤収したが艦娘部隊上部機関との交信の確保の為に再駐留している」

 

摩耶の問いに応じる木曾

 

「つまり、地上設備での索敵、監視結果、そう考えて良いのか?」

 

自衛隊の保有する索敵、観測装置類が艦娘の保有するそれらよりも精度が高い事は摩耶も知っている

その自衛隊からの第二波接近の報告、但しその報告が本当に索敵、観測結果に依る報告なのか?

摩耶には疑いの目を向けるだけの私的な根拠があったが、そんな根拠は軽巡の二隻は知りようも無い

 

「詳しくは知らないがあの鎮守府派遣隊は移動司令部なんだそうだ、司令官が憲兵から受けた説明に因ると首都防空司令部に並ぶ規模で情報集約と解析が出来るらしい」

 

「……よくわからん」

 

なにやら木曾が説明してくれたが、摩耶にはサッパリだった

 

「心配するな、オレもわからん、ただ、態々連絡して来たって事は確度の高い情報として聞いて良い」

 

「へぇ、おまえは信用してるのか?自衛隊を」

 

摩耶には木曾の言い分が余りにも意外だった、意外過ぎて思わず聞いてしまった

 

「自衛隊全部がどうかは知らんが、ここに駐留してる憲兵は当てにして良い、その憲兵が引き込んで来たのがあの鎮守府派遣隊だ、耳を貸すくらいなら、良いんじゃないか」

 

「それに自衛隊の皆さんには以前の作戦実行の時にすごく良くしてもらった、私は当てにして良いと思う」

 

木曾と阿武隈、新たに所属した鎮守府での初出撃に鎮守府側が僚艦として配した二隻の軽巡

その二隻が揃って自衛隊からの報告を当てにして良いとの判断を示して来た

 

「……それって、単に扱き使われただけじゃないのか?」

 

作戦時と聞いて思い付いた疑問をそのまま聞いてみる

 

「扱き使ったのは司令官、その負担を幾らかでも持ってくれたのが自衛隊の皆さん、色々規定があって全面支援とまでは行かなかったけど、すごく助けられた」

 

扱き使われたのは否定しないのか、とか、あの司令官は艦娘を扱き使う奴なのか、とか色々思い付いたがそれらよりももっと気がかりな部分を口にする摩耶

 

「ふーん、おまえらは良いんだな、自衛隊の印象……あたしとは真逆だな」

 

「それって、どういう……」

 

不思議そうな表情を見せる木曾

 

「おっと、お喋りはここまでだ、第二波とやらが来やがった」

 

どうやらこのまま次の戦闘に突入する事になりそうだ

 

 

 

 

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