初期の艦これ   作:弱箔

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90 近づいて来る飛翔体

 

 

 

鎮守府-正面海域

鎮守府所属艦:摩耶/阿武隈/木曾(防空艦隊)

 

近づいて来る飛翔体、それらは包囲網を構成している深海棲艦の上空に到達しつつあった

包囲網が厚いとはいえ飛翔体の飛行速度を考えればこちらの射程に到達するのに然程の時間は掛からない

 

その数の多さに艦隊の誰もが同様の結論に達していた

つまり、防ぎ切れない

だからと言って素通ししてやる謂れもない、可能な限り落とす

軽空母達も搭載機を全力出撃させて来るだろう、それと呼応して落とせるだけ落とす

絶対数で劣る以上他の選択など無かった

 

摩耶は両翼の軽巡達に視線を向ける、何方の軽巡も必要以上の緊張はしていない様だ

両翼の軽巡の兵装は対空戦闘向かない対水上艦用の主砲だ、今は魚雷発射管は装備していない

一応は対空戦闘を意識しているのだろうが、それならそれで主砲ではなく機銃ではいけなかったのか疑問ではあるが、それをここで言っても始まらない

 

もう直ぐあの数相手に対空戦闘が始まる、程良い緊張を纏い戦場となる空を見る

そこに見えた光景は予想外の状況だった

 

「なんだ?同士討ちしてんぞ?」

 

見えた光景に理解が追いつかなかったのか、棒読みの感想を述べる摩耶

 

「対空砲火が上がってます、よね?」

 

疑問調というより確認する様な感じの阿武隈

 

「結構な数が落ちてるな、どういう事だ?」

 

阿武隈の確認に応じつつも見ている状況に説明が付けられない木曾

 

第二波を待ち構えていた摩耶達の目に理解に苦しむ光景が映っていた

 

 

鎮守府-食堂(第一食堂)

鎮守府所属艦:大和/筑摩

大本営所属艦:一組の初期艦ニ

???:戦貴棲姫

大本営:老提督/職員複数

政府関係者:多数(防衛省、外務省、内閣府)

桜智鎮守府所属艦:利根/白露

 

 

戦貴棲姫を交えた三者会議は特に混乱も無く行われていた、少なくとも表面的には

 

そこに外から入って来た自衛官が防衛省の人員の集まる一角に行き、何事かを伝えていた

 

「こちらが報告書です」

 

短く要件を伝える自衛官の手には書類があった、報告書と思われるが表紙に赤いインクで何かの判子が押印されている

その書類を手渡そうとした所、先方から思わぬ言葉が出て来た

 

「読み上げてくれ」

 

書類を渡そうとしていた自衛官が戸惑った様子を見せる、ここは防衛省施設でもなければ周囲に自衛官しかいない訳でもない

 

「機密指定がなされています、読み上げるのは……」

 

「構わん、問題になる様なら私が許可したと言えばいい」

 

会議場内でそこそこの音量で発せられた声に誰とも無く注目が集まった

 

「は、では読み上げます、鎮守府司令官からの問い合わせを元に自衛隊各方面に問い合わせたところ南東方向より深海棲艦の飛翔体の接近を確認、総数は算出不能、大編隊というより雲海と呼ぶべき規模だそうです」

 

「……」

 

「又、鎮守府派遣隊の観測により鎮守府へ接近中の飛翔体を確認していましたが、その多くが鎮守府を包囲している深海棲艦の対空砲火により撃墜されている状況が確認されています」

 

この報告で会議場内の注目は戦貴棲姫に移った、勿論当人にそんな事で動じる様な素振りはない

 

「言った筈だ、近づけば攻撃すると、焦るあまりに行動仕様まで忘れたモノがいる様だ」

 

相変わらず面倒そうな様子を見せてはいるが、注目された意味は把握したらしい

この戦貴棲姫の言い分から会議列席者達は事態を推定出来た

 

「言われてみれば鎮守府司令官が広域無線でそんな事を言ってましたな」

 

総数一万を越えようかという数の深海棲艦からの対空砲火、その内のどれだけが有効な対空戦闘が可能なのかはわからないが、生半可な数ではないだろう

その数が飛翔体の接近を阻んでいるのなら、突破は容易ではない

 

「……つまり、ただの自爆だと?」

 

先の列席者と違い疑わし気に聞く別の列席者

 

「我等になにを期待したのかは問わんが、己に都合良く事態が進むとは考えるな、我等に貴様等の都合などどうでもいい」

 

「それより雲海と呼ぶべき規模の飛翔体とは、何なのだ?」

 

更に別の列席者からの質問が来る

 

「この鎮守府を包囲するに当たり飛翔体を保有する個体を間引いている、その間引いた個体は我等が纏めて外洋に連れ出した、個体は我等に従っているが、保有する飛翔体までは従えられなかった、可能性がある」

 

「……つまり?」

 

先を促す列席者

 

「あれ等の飛翔体は元々いた海域に戻ろうとしているのだろう、そこに受け入れる個体はいないというのに」

 

「戻ろうと、している?雲海と呼ぶべき規模の飛翔体が?」

 

「戻る先はこの弓なりの島の海岸線全域に及ぶ、放っておけば勝手に海に帰るだろう」

 

「それは確かなのか?海に落ちて、陸には来ないのだな?」

 

「あの飛翔体とて永遠に飛び続けられる訳ではない、どこから飛んだにしろ、問い合わせなければ観測されない様な距離なら、陸までは届かない」

 

この発言を受けた防衛省の人員から報告書を持って来た自衛官に質問が入った

 

「観測距離は?通常の監視体制で観測可能な範囲なのか?」

 

「通常の観測体制で観測可能な距離ですが、観測点が最南端です、得られている資料を元にすれば航続距離としては本土まで届かない筈です」

 

防衛省の人員等は周囲の様子を窺う様な間隔を空けてから続きを始めた

 

「出動準備に入らせた方が良いだろう、万一の事態もあってはならない」

 

「そうは言うが、今の空自の制空能力で算出不能な数の飛翔体を相手にさせるのは、どうなんだ?」

 

「では、来ない事を祈れとでも?」

 

「防空体制を強化させよう、陸自の稼働率が一番確実なのだから」

 

周辺海域での殲滅戦の影響が最も少ない陸自ではあるが、対空戦装備は多くなく全域の防衛は望めない

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

大本営所属艦:高雄/愛宕

 

 

状況報告を受け、指示を出す司令官

 

「軽空母達には引き続き防衛戦を継続させろ、摩耶、木曾、阿武隈にも警戒態勢を維持する様に伝えてくれ」

 

「第三波、来ると思う?」

 

叢雲(旧名)から聞いて来た

 

「まだ、二波を退けていない、それに、本番は始まってもいない」

 

それに答えていたら司令部の仕事をしていた高雄から報告が入った

 

「天龍隊鎮守府を出ました、憲兵二名が同行しています」

 

「わかった、それにしてもあちらさんから憲兵の同行を求めて来るとはな、意外と米軍内では艦娘についてあまり知られていないのかな」

 

現地入りした米軍との折衝は司令部と憲兵隊に任せ司令官は会っていない

 

「艤装も兵装も持ったままでの陸上移動、艦娘の持つ砲火力を少しでも知っているのなら、米軍でも保険は掛けたくなるでしょう」

 

「地位協定で殆んど治外法権状態の米軍だから保険としては警察より自衛隊、なのかな」

 

 

 

 

鎮守府-工廠

大本営所属艦:一号の初期艦四

 

 

第一食堂(大本営、日本政府、戦貴棲姫の三者会合)での話に聞き耳を立てている初期艦達

参列しているわけでは無いから場内の空気が読み切れない部分も多く、判断しかねた漣が他の三人の意見を求めた

 

「どう思う?」

 

「なんとも……ただ誤魔化している様な感じは無いですね」

 

一番に応じた五月雨ではあるが、読み切れない点は漣同様の様子

 

「だからと言って鵜呑みにして良いかっていうと、そうもいかないって感じかな」

 

次いで応じた吹雪も似た様な感想だ

 

「あの包囲網を形成している深海棲艦は見境がない事がわかりました、如何にかして利用出来ないものですかね」

 

そんな中で電は絶対数に劣る戦力について意見を出して来た

 

「……軽空母達に深海棲艦の対空砲火を利用させる?どうだろう?確かに今も摩耶の対空砲火に追い込む様な事はしてるけど、アレは単艦で射線が分かっているから出来る事だ、あの大群からの対空砲火を同じ様に利用するのは、難しいんじゃないかな」

 

電の意見に考えを巡らせたものの実用性は低いと見た漣

 

「一定の距離を割り込めば見境なく攻撃されるんだし、飛行機は空で止まれない、追い込もうとすればどうやっても対空砲火に飛び込む事になる」

 

吹雪も漣と同様の見解だ

 

「主砲で高空を飛んで来る飛翔体の高度を下げられませんか?下げる事が出来れば、あの対空砲火に追い込めると思うのですが」

 

二人の否定的な見解にも関わらず電は自説の実効性を探している

 

「あー、理屈は分かる、けどそれをやるには手数がいる、この鎮守府では無理じゃないかな」

 

「戦艦の主砲なら出来ると思うのですが」

 

「……理屈の上ではね、それでも数が足らない、戦艦の主砲では発射間隔が開きすぎる、その時間で距離を詰められてしまうから理屈通りには行かない、長篠の三段構えが出来るくらいには数がいないと理屈倒れだね」

 

「その三段構えで包囲網の上を越えてくる飛翔体を相手にするには何組も三段構えを構築しないといけなくなりますし」

 

粘る電に漣だけでなく五月雨も実行上の問題を指摘、電の説は無理筋な見解を示した

 

「普通に対空戦闘に入る方が現実的だよね」

 

吹雪からもダメ出しが入った

 

「対空用の兵装も無いのに、ですか?」

 

電も無理筋な事は分かっていた、しかしそんな無理を承知で何らかの手を打たなければならない状況にこの鎮守府は陥っていた

 

「それを今言ってもね、有るモノでなんとかしないと」

 

司令官が鎮守府の放棄を決断し、既に移動が開始された状況だ

それを実行する時間を稼ぐだけで良いハズなのだから

 

 

 

 

鎮守府-正面海域

鎮守府所属艦:摩耶/阿武隈/木曾(防空艦隊)

 

 

包囲網から対空砲火は上がったが事態を好転させはしなかった

 

「くっそ!下手な対空砲火で分散され過ぎだ」

 

「少数とはいえ飛翔体が幾つも鎮守府に向かってるな」

 

「鎮守府に警告を、数が多過ぎて対処仕切れない」

 

 

 

 

鎮守府-工廠

鎮守府所属艦:鳳翔/隼鷹/祥鳳

 

 

自身の飛行隊からの報告から事態が何ら好転せず寧ろ対処が難しくなったとの判断に至った軽空母達

 

「手数が足りませんね」

 

「あの無闇な対空砲火で分散され過ぎたな、包囲網の全周から小数の飛翔体が向かってきてる、間に合うか?」

 

「間に合わせるしか、ありません、鎮守府からの対空砲として幾人かが待機してはいますが、水上艦の主砲では飛翔体を狙えませんから」

 

 

 

 

鎮守府-執務室

鎮守府:司令官/叢雲(旧名)

大本営所属艦:高雄/愛宕

 

 

「司令官、木曾から警告が来ました、数が多過ぎて対処仕切れない、直接攻撃に備える様にと言って来ました」

 

愛宕からの報告を受け指示を出して行く司令官

 

「ではその様にしてくれ、残留している艦娘全員で対空戦だ、但し、陸からだ、こちらは移動準備を終えている、車両が到着次第、順次移動する予定だ、勝手に海に出て行ったら置いてくからな」

 

「そんなつもりもないくせによくいうわ」

 

コソッと突っ込みが入った

 

「何か?」

「なんでもない」

 

「残留している艦娘、というと大和や長門も、ですか?」

 

二人の掛け合いは取り合わずに仕事を続けている高雄

 

「声はかけておいてくれ、無理に参加させる必要はない」

 

大和は三者会合出席時に大本営からの命令で鎮守府司令官の指揮系統から離された

長門は移動に関わる雑務に対処中、現状での対空戦闘参加は難しい

 

 

 

 

鎮守府-通信室

大本営所属艦:高雄

 

 

司令官の指示を全館放送する高雄

 

「告げる、こちらは司令部高雄です、残留している艦娘は陸から対空戦闘に備えてください、間も無く深海棲艦の飛翔体が鎮守府上空に飛来します、又、海へは出ない様に、海上へ出られると回収する手段がない司令部には対処不能です」

 

 

 

 

鎮守府-食堂(第一食堂)

鎮守府所属艦:大和/筑摩

大本営所属艦:一組の初期艦ニ

???:戦貴棲姫

桜智鎮守府所属艦:利根/白露

大本営:老提督/職員複数

政府関係者:多数(防衛省、外務省、内閣府)

 

 

全館放送を聞いた白露が誰とも無く声に出した

 

「対空戦?飛翔体が鎮守府に届いた?」

 

「少数と聞いている、艦娘の防空体制でも対処出来るだろう」

 

その声に誰とも知れない列席者が応じてくれた

 

「陸からのと限定されていました、海上での対空戦闘とは勝手が違いますし残留艦娘へ参加が呼びかけられました、大和は参加して来ます」

 

言い終わると立ち上がり直ぐにこの場から去ろうとする大和

 

「ここでの任務を放棄するのか?」

 

その背中に誰かが声をかけた、そこに乗せられた感情は非難なのか別のモノだったのか

 

「その為の保険ですが?」

 

少なくとも友好姿勢を感じられない声をかけられた大和、度が過ぎるお人好しと叢雲(初期艦)に評されてはいるが年単位で大本営の看板艦娘をやっていた経験値は五十鈴(大本営司令長官秘書艦)から陸での仕事は高く評されている

 

その短く交わされた言葉、それを聞き終えた艦娘が一人、椅子から立ち上がった

 

「なるほど、保険か、では、吾輩は大和と行動を共にするか、大和にだけ保険が無いという訳には行くまい」

 

それを聞いた白露は呆気に取られたのか何か言いたげに口を開け閉めしているが言葉が出てこないらしい

 

聞こえてきた言葉が予想外だったのか驚きを隠せていない大和は辛うじて名を口にした

 

「利根、さん……」

 

「この場は筑摩と白露にお任せください」

 

大和が二の句を継ぐ前に筑摩が入って勝手な事を言い出した

これには異論があるのか白露が一旦口を閉じたが、再度口を開く前に筑摩が畳み掛けられた

 

「ここは、筑摩と白露で、任務を遂行します、よろしいですね」

 

白露に皆まで言わせず行動を決定にかかる筑摩

 

「アッ、ハイ」

 

満面の笑みを湛える重巡に駆逐艦は押し切られてしまった

 

「……なにをやっているのですか」

 

事の発端を作ったとはいえここまで強引に事態が進行して行くとは思ってもいなかった大和ではあるが、この場を持ってくれるのなら異論など無く早々に会場を後にした

 

 

 

 

鎮守府-港

鎮守府所属艦:加古/神通/白雪/大和

桜智鎮守府所属艦:利根

 

 

深海棲艦の放った飛翔体は鎮守府上空に到達した

それを迎撃している艦娘達、然し乍ら成果は芳しく無く巡洋艦達から愚痴が溢れる

 

「わかってはいたけど、当たらないな」

 

根本的に対水上戦砲で対空戦の時点で無理がある、そんな事は迎撃に参加している艦娘達全員が分かってる

 

「見込み角込みで狙いを付けろと言われても、難しいですね」

 

巡洋艦には機銃があるので幾らかの弾幕を張れるが駆逐艦は主砲しかなく次弾発射までの間が開く

つまり単独での迎撃は殆ど意味を成さない

その為駆逐艦は駆逐艦で固まって迎撃態勢を取っており巡洋艦は飛翔体の進入路と駆逐艦の配置を見つつ遊撃の位置にいた

 

移動しながらの会話に第三者、駆逐艦が入って来た

 

「こちらは当てるのを諦めてます、重要区画への進入阻止を目的とした弾幕を形成する様に統制射撃に切り替えました」

 

その駆逐艦に少しだけ視線を向け直ぐに射撃目標に戻し、背中で会話を続ける

 

「その統制射撃は何人でやってるんだ?」

 

「特型の四隻と初春型の四隻、先ほど皐月と菊月が参加して来ましたね」

 

「他の睦月型は兵装を下ろしてるんだっけ?」

 

「そうです、他は資材輸送用の機材を装備して兵装は積んでいません」

 

「確か、皐月と菊月も輸送用の機材を装備していた筈ですよね」

 

対空戦の合間に確認してくる軽巡

 

「そうです、皐月と菊月の兵装は単装砲一門だけです」

 

駆逐艦がそう答えた後に新たな声が加わった

 

「統制射撃、ですか、誰が統制しているんですか?」

 

それに驚きつつも冷静な対応を見せる駆逐艦

 

「……大和?あなたは大本営や政府の人達との話し合に同席しないと、アレが何か企んだらどうするんですか?」

 

「こういう時の為に保険が掛けられています、それでどなたが統制射撃の指揮を?」

 

目前の戦艦が戦闘準備を終えているのを見て取った駆逐艦は思考を切り替え、質問に答えていく

 

「吹雪が取ってる、私は巡洋艦の方々との繋ぎを頼まれました」

 

白雪が単に吹雪と呼んだ相手が遠征組として資材集めに奔走する鎮守府建造艦の吹雪で初期艦の吹雪ではないと判断した大和は考えを纏めるだけの間を空けてから大和はこれからの行動を決める

 

「……吹雪さん、ですか、ならその指揮下で弾幕形成に協力します、主砲は撃てませんが副砲も機銃も無傷で補給も十分です、参加させて頂きます」

 

横やら背中でそのやり取りを聞いていた巡洋艦達は対空戦を維持しながらもお互いの顔を見た

 

「……大和が対空戦?」

 

「確か、大和の副砲って私の主砲以上の火力がありませんでしたか?」

 

 

 

 

鎮守府-食堂(第一食堂)

鎮守府所属艦:筑摩

大本営所属艦:一組の初期艦ニ

???:戦貴棲姫

桜智鎮守府所属艦:白露

大本営:老提督/職員複数

政府関係者:多数(防衛省、外務省、内閣府)

 

 

「大和が対空戦に加わったか、射撃というか砲撃音が凄いことになったな」

 

その言葉通り食堂の外から伝わる音も振動も激しくなって行った

 

「伊達に最強戦艦と謳われているわけではないんだ、大本営の資料でも最強クラスのスペックが確認されている」

 

列席者達が感想を述べ会っているのを聞き、不満を募らせた戦貴棲姫

話し合いの場という前提を作ったのは交渉相手の鎮守府司令官である為そこを崩す訳にも行かずに、募らせた不満を声に乗せた

 

「そんな事に興味や時間を割く余裕があるとは、貴様達は状況が解っていない様だ、我等が此処に居る意味を履き違えるな、無益と判断すれば即座に存在した痕跡ごと消し去ってやろう」

 

誰が聞いても声を発した者の感情とその意図は理解出来ただろう

列席者達の顔色が一斉に変わるのを見た漣は事態が列席者の手に渡る前に状況の主導権を取りに出た

 

「あー、それじゃあタダの脅迫にしかなってない、こういう席で脅迫は悪手だよ?」

 

「……不味い手段だというのか?では、どういう手段が有効なのだ」

 

これまでと変わらない雰囲気と口調の漣の発言に戦貴棲姫はその意図を測り出した

 

「んー、例えば有用な手段を提示したらあの飛翔体をどうにかするとか、要求と提供を鑑みた上で実現性を考慮しないと、話が終わってしまう」

 

「なるほど、此奴等を痕跡ごと消し去ってしまえば話し合いも何も無いな」

 

「……」

 

交わされる会話に不安要素しか無くここからどうやって穏当な話し合いに持ち込めば良いのか

それを考え込んだ列席者達は結果的に無言になってしまった

 

「そっちの皆さんも外が気になるのはわかるけど、折角同じテーブルに着いたんだ、この機会は貴重な筈でしょう?有効に活用したく無いですか?」

 

問われてお互いがお互いに様子見を始めたが、程なく一人が発言した

 

「……漣、だったな、おまえはどっちの味方なんだ?」

 

「ここで敵味方なんて持ち出しても意味無いですよ、双方の要求をお互いに受け入れてもらいたいだけです」

 

「……知恵を貸せ、だったな、そういった要求は詳しく話しを聞かないと、何とも仕様がない」

 

この発言は間違い無く時間稼ぎだ、これまでの話し合いはそれこそが議題だったのだから

この後に及んでノラリクラリが通ると考えていると見た漣は対応を変える

 

「そちらからの質問に戦貴棲姫は素直に応答しています、あなた方には十分な情報提供となっている、戦貴棲姫に提供させるだけで、終わらせるんですか?それが自衛隊や日本政府の方針ですか?」

 

正面から真っ直ぐに視線を向けて来た漣にこれ以上の駆け引きは初期艦の不満まで買う事態に発展すると悟った列席者だったが、そのまま引き退らずに短い疑問を言った

 

「大本営への言及はないのか?」

 

「何も期待していませんから」

 

「……」

 

呆気ない即答に大本営関係者は何ら反論の言葉を持たなかった

それらの様子を見ていた別の政府関係者が言葉を継ぐ

 

「つまり、こちらの初期艦は、まだ日本政府には期待してくれているのか、ならば大本営の様に見捨てられるのはこちらとしても避けるとしよう」

 

 

 

 







2022/05/06
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