~結芽錯綜記~   作:ひろつかさ(旧・白寅Ⅰ号)

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第二話「神刀」

 奈良県警所属のヘリが二人を乗せて夕暮れの落ちきった奈良県、明日香村に到着した。

 二人は地元警官から事情を聴き、さらに新たに現地に到着した刀使と合流した。

「可奈美~! こっちー!」

「美炎ちゃん、それに智恵さんにミルヤさんまで」

「メンバーは足りないですが調査隊がここの発掘現場で赤羽刀が出たというわけで、昼から埋文の方々と一緒にいるのですが」

 ミルヤの彼女らしくない濁し方に可奈美と早苗は互いに顔を見合わせた。

 見ればわかる。そう言われて工事用ライトに包まれた発掘現場に入るなり、二人は息をのんだ。

 銅鏡や貝飾りの並ぶ中に三振りの錆に覆われながらも輝きを保った鉄剣と直刀が並び、その威圧的な力に早苗が一歩怯んだ。

「私にもわかる。あれは普通の赤羽刀じゃない」

「三振りともは古墳時代によく見られる物です。でも、形状と文様から日本で珠鋼が作られる以前のもの……中国からやってきた神代の御刀だと思われます」

 ミルヤの言葉に信じられず見まわすが、先に来た三人、そして可奈美の表情が嘘をつかなかった。

「ほぅ見事なものですね」

 何食わぬ顔で入ってきた白衣姿の女学生に瀬戸内智恵は肩をすぼませた。

「エミリーさん、来たなら来たっていってほしいわ」

「いやごめんなさいね。異動前の最後の赤羽刀の調査ですから、スキンシップは最小限にしたいのです」

「まったく」

 学芸員の案内で御刀の傍に降り立つと、そっと地中から御刀を掘り出した。そうすると刀身に薄っすらと白い輝きが纏っている。一同が息を飲む中、渡邊エミリーは笑顔で状態を舐めるように確認した。

「ふふふ、火傷しちゃいそうですね~」

「エミリーさんこれはどういう御刀なのかしら」

「来歴はともかく、隋の時期に大陸でも珠鋼とノロが存在した。しかし仙人たちは荒魂の発生そのものを消すために珠鋼から神力を抜き取り玉鋼にしてしまった。だが、同じ時期に珠鋼の製法は日本列島に渡り、今は日本でしかノロと荒魂はない。つまり日本国内外で作られた世界的に貴重な作例なのですよ!」

「なら! すぐに特祭隊本部に連絡しないと」

「それができないのよ美炎ちゃん」

「え」

「学長たちは一斉に鎌倉での会議に向かってる。理由は」

「与党議員会館前の刃傷沙汰未遂事件ですね」

 早苗、可奈美、美炎は初耳であった。それにエミリーは拍車をかけた。

「だからこそ、皆さんにはこの御刀の回収と長船への護送をお願いします。これは学長、学長代理からも命じられていますんで」

 と傍にいた学芸員の男性が気になることを言い出した。

「この石室は上面を覆う蓋が存在していたとみられますが、この古墳の発見時、石室が内側から掘り返されたような跡があったんです」

「盗掘ではなく?」

「盗掘があったら副葬品が全て残っているはずがありません。しかし蓋がなく、それでいてわざと埋め戻したと思しき周囲の盛り土。今までの発掘例ではありえないことです」

 ミルヤはいぶかし気に周囲を見渡すが蓋らしきものはない。

「もしかしたら、この規模。蓋は酒船石では?」

「ここから西の場所ですよ!?」

「もう少し調査をお願いします。今は三振りの御刀を回収します」

「わかりました。何かわかれば早めにお教えしましょう」

 御刀は厳重な箱に収められたが、威圧的な空気は箱を越えて彼女たちに浴びせかかった。

 美炎はその威圧的な空気の中に、ほんのりと、何か違和感があることを感じ取った。

「不思議な感じ、まるで誰かを探し続けているような雰囲気」

「誰か?」

「うん、ほら可奈美たちが鎌倉へ向かう直前に世界が歪むような感覚があったじゃん? それと似ているけど……これは力じゃなくて声のように感じるの」

 問いかけるような目に可奈美は首を横に振るしかなかった。

「私にはわからない。でも美炎ちゃんは私と違う感じ方をしているから、この御刀の由来を解くヒントになるかも」

「この遺跡といい、御刀といい、不可解なことばかりです。ですから、私たちはそれが大事に及ばぬよう対処していくのが任務。必ず解き明かして見せましょう」

「はい!」

「さっすがミルヤさん!」

「じゃあみんな、ヘリに向かうわよ」

 彼女たちが東京と鎌倉での一件を知ったのは長船の寮でであった。

 

 

 2、 

 

 この特祭隊本部には大小いくつもの道場があり、流派や隊ごとでの稽古に頻繁に使われる。

 時を同じくした一室に、大ぶりの木刀で刃を合わせる二人と、それを見守る一人の刀使がいた。

「きぇえええええええええええ」

 強烈な打ち廻りを素早く逃げていきながら、切っ先が背の低い彼女に走る瞬間が何度も起こった。

「ほぉらほらほら、いつにも増してかっこかわいいよ」

「ああもう!」

 息を切らせた瞬間、青い髪の刀使は刃を静かに滑り込ませ、のど元に二度軽くたたいた。

「ぐっ、参った」

 剣を置くと二人は汗をぬぐいながら、古波蔵エレンが用意してくれたスポーツドリンクを口に流し込んだ。

「これで三勝一敗、どう? これで私とデートに行ってくれるよね薫」

「えぇ~」

「じゃあ私がこれから五連勝したらデート、いい?」

「おい山城、俺は遊撃隊隊長だ。そう簡単に負けられるかよ」

「よし、約束だよ! いざ尋常に勝負! しょーぶっ!」

 立ち上がった山城は木刀を手に素振りをはじめた。

「随分とパワフルですネ、力み過ぎとも言いマス」

「ああ、腕の振るえが、まだ収まらなくてな」

 エレンは小太刀ほどの木刀を薫に差し出した。

「なら、私に見せてくだサイ!」

 薫は大太刀の木刀を置くと、エレンから小太刀の木刀を受け取った。

「おい山城」

「何?」

「お前が五連勝したらデートだな」

「おお! そうだよ」

「連勝が一試合目で止まっても文句は言わないな」

「ふふん、自信あるんだ」

「ちょっとな」

 薫は小太刀を腰に収めたまま、やや体を前傾にし、大太刀を構える山城を睨んだ。

 エレンが試合開始を叫んだが最後、長い木刀は宙を舞い、切っ先は彼女の喉笛下に滑り込んでいた。

「え、参った……そ、そんなぁ~!」

 薫がどうしても大太刀を使わざるをえない。それは彼女が祢々切丸を扱うことを定められていたからである。だが、彼女の副刀となった御刀は総じて脇差であった。そして脇差の御刀をわざわざ任務に使うことは無きに等しかった。

「斬りすぎちまうんだ。祢々切丸を使うのとは違って、祓う荒魂を傷つけすぎちまう。終わらせるときは一太刀じゃなきゃダメなんだ」

「なら、せめて御前試合の時くらいは虎徹使ってもいいんじゃない?」

「俺は刀使だ。荒魂を払うことこそが大事。それだけさ」

「うーん、かっこかわいい……」

 結果、四勝一敗。もちろん薫の戦績であり、山城は小太刀を扱う薫の太刀筋に慣れていないこともあってか、一本を取るのが手一杯であった。最後の一番が終わったところで、道場の出入り口に見慣れた顔がいることに気が付いた。

「こんにちは寿々花サン!」

「こんにちは、薫さんにお話しがあって」

「ん、俺がなんだって」

 タオルを首にかけたままであった。

「ええ、薫さんに昨日の件についてお話があります」

「ん、二人だけのほうが良さそうだな。すまないがエレン、山城」

「構いませんヨ」

 山城も木刀を片付けながら大きく手を振って見せた。

「次こそはデートに付き合ってーぇ!」

「わるいな、こんどな」

 本部指揮所ロビー脇の休憩所。周りに人はなく二人で向き合った。

「そういえば、ネネとご一緒ではないのですね」

「あいつは鎌府にある研究室にいるんだ。本格的に荒魂の構造を解析するためだそうだ。紗耶香が世話を見てくれているし大丈夫だろう」

「さみしくはありませんの」

「まぁな、こうるさいのがいなくてちょこっと」

「ふふふ、じゃあ」

「ああ、本題に入ろうか」

 寿々花はまず既に事情聴取の行われた暗殺未遂の一件について、当時の状況を薫に語ってもらった。

「朱音様が会館の入り口に歩みを進める中、組織の幹部陣に目を向けたら朱音様を見つめ続ける目があった。全員が朱音様に頭を下げていたんだから、すぐに目が付いた。その瞬間だった。大村の懐からかがやく短刀が見えた。安全と踏んでいたから、刀使の警護は俺一人、周りに十人も警官が張っていたんだ。だが、大村を押さえつけた警官があっという間に斬られた。だから俺は朱音様の背につき、脇差を抜いた。止まれと叫んだが、大村は全力で駆け込み、俺めがけて突進してくる。手始めに胴の急所外を斬ったが。逆手に突くように脇で構える動作を見て命の危険を感じ、こう切っ先を滑り込ませた」

「そして、ノロが胸から吹き出した。手、震えていましてよ」

 薫は震える手でカップを手にし、茶を一口飲んだ。鎌倉の澄んだ空を見上げた。やや白い。

「頭が真っ白になったよ。さすがに人がノロになるなんて初めて見たからな」

「でも、人となった荒魂が潜んでいた、そのことに疑問は感じませんでしたか」

「ああ、禍人が管理局内に潜んでいたとはな」

 薫の問いかけるような目に寿々花は首を振った。

「私自身、大村喜之助が荒魂であったことは知りませんでしたわ。朱音様の手元にあるアンプル配布者の書類にも大村の字はありませんでしたわ」

「それでおばさんや朱音様が?」

「ええ、私とあなたに肝いりの調査を依頼されましたわ」

「ん、俺も」

「あなたでなくてはと、朱音様がおっしゃっていらしたので」

「ううん、いや、手伝わせてくれ。納得できないまま日を費やしたくはない」

「本当によろしいのですね」

「刀使に二言はねぇ、それに管理局が必死に取り戻してきたものに泥をかけるような真似をされたのが一番気に食わねぇ」

「私も思いは同じですわ」

 二人は息をそろえたように立ち上がった。

「まずは資料調査といきますか」

 

 

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