~結芽錯綜記~   作:ひろつかさ(旧・白寅Ⅰ号)

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第十六話「会議」

 刀剣類管理局の警備隊は遊撃隊所属であるが、管轄は分けられており、薫とは別に警備隊長も選出されている。

 この日の夜、酒田での一件も醒めやまぬ合間に、次々と五箇伝学長と関東近辺の刀剣類管理局の地方司令たちが会議室へと集まっていく。隊長の錦貫和美は親衛隊の茶の制服に銀の飾緒をつけ、無線のこまごまに連絡を入れながら、鎌府女学園代理学長の湖衣姫優実と遊撃隊隊長益子薫へと頭を下げた。

「ご苦労様やな」

「はい、湖衣姫先輩も」

「薫ちゃんたちが仕事してくれたおかげで私らも本腰を入れられる」

「期待しています」

「うんうん、しといてな」

「いいや、もっと面倒ごとになるかもしれねぇぜ」

「薫さん、そう悲観的にならんと」

「益子隊長! そういえば帰ってきてばかりでしょうに」

「心配いらねぇ、帰りの新幹線で米沢牛弁当食ったから元気いっぱいだ」

「ならよかった」

 

 議場には五箇伝の鎌府学長代理兼神奈川県刀剣類管理局県支部長・湖衣姫優実、美濃関学長・羽島恵麻、綾小路学長・相楽結月、長船学長兼特祭隊本総副司令・真庭紗南、これに長船学長代理で総九州刀剣類管理局対荒魂司令室長の嘉納大海がテレビ電話で参加。そして東京、千葉、群馬、埼玉、静岡、栃木各県警の刀剣類管理局各都道府県支部長、警視庁捜査部一課13係(ノロ関係特科部署)係長そして遊撃隊隊長益子薫が集合した。

(まるで同窓会やわ)

 そう思った湖衣姫は画面越しの嘉納大海と目が合い、互いに微笑した。

 刀剣類管理局局長及び折神家当主及び特別祭祀機動隊総司令の折神朱音が入室すると全員が起立し、注目した。

「みなさんご足労様です。どうぞ座ってください」

 幹部たちへの報告はまず連日の外事課に関する一連の事件についての現時点での詳細報告、新潟県警の協力で外事課職員で事件に関わった加瀬多美子の神奈川県警への移管が決定した旨を発表し、今後の問題としてノロの民間への流出とそれを用いた犯罪の増加傾向について、刀使十条姫和からの柊家文書の盗難未遂とノロを用いた密迹身について議論が持たれた。

「ノロのアンプルは数ミリリットルでも絶大な効果を持つ、全国から集めたノロを全国に打ち上げることになってしまったタギツヒメ事件の裏で、その3パーセント、約280リットルが行方不明になった。その経路については一つの証言が加瀬多美子の口から出た」

 紗南は端末でスクリーンに新聞記事を表示、十三年前の一月二日のものだった。

「また随分と前の事件やないの」

「ええ、大村喜之助は頻繁に多田篠子なる人物へ接触していた」

「多田……まさかな」

 結月はいぶかし気にしたが、話は続く。

「彼女の本名は青子屋篠子、十三年前に壊滅した暴力団青子屋の総元締めの娘だった。彼女はノロを使った人体強化の実権を父親のバックボーンに進め、組が壊滅してからも彼女は部下を使い、刀剣類管理局にコネクトを作ることで研究組織を生き永らえさせてきた」

「それが大村喜之助だったのね」

「はい恵麻先輩、自分の息子とともに当時ノロの回収に躍起になっていたタギツヒメに協力、代価としてノロを得ていたと考えられます。そもそも青子屋が壊滅したことも、ノロを使った人体強化の話が原因で内部瓦解したという噂がある。現に大村喜之助は遊撃隊隊長益子薫に斬られることにより、魂だけで彼女の精神に侵入し記憶操作などをしていた。それも密迹身の能力が成せること」

「しかし真庭学長、密迹身とは普通のノロ服用とどう異なるのです?」

「それは私が説明しますわ」

 湖衣姫は資料を各幹部の端末に転送、その内容は薫の端末を経て、遊撃隊控室の寿々花の端末へも送られた。

 四人は輪となって椅子に座り、寿々花の読み上げに耳をすました。

「全身に呪文を彫り込み、時間をかけてノロを流し込むことで人体とノロを一体化させ、御刀の神通力を強引に引き出す。ただ、十条姫和の柊一族は戦国時代終わりに貴重な神力を有する御刀を多数消耗、最悪刀身が折れることが相次いだため折神家とともに密迹身の技術を抹消した。その能力はノロ服用者の持つ荒魂の生成能力の他に、個体の潜在能力を具現化する力を持つ」

 真希、紗耶香、姫和の面持ちは暗かった。

「今度の敵もまた人か」

「僕たちはどうしていつも後手何だろうね」

「今回のことも考える暇もなかった。ずっと無我夢中だった」

「今までよりも相手がはっきりしていますわ、でも、大村喜之助のヲノツチとはなんでしょう? 安桜美炎さんと共にいるという炎の精と関係があるのかしら」

 紗耶香は大きく深呼吸し、ポケットに入ったままだったあの空のアンプルケースを取り出した。

「それが新宿の時のか」

「うん、体を検査してもあの時打ち込んだノロは見つからなかった。高津先生の言ったことは正しかった」

「ノロを消化しそれを糧に神化状態になる。それが完成された無念無想」

「やっと自分のしたことの意味を自覚した。これは禁忌の力」

「でも舞衣の命には代えられなかった。私は責めない」

「姫和」

「あの場で人を斬る選択を最後まで選ばずにいた末だったんだ。だれも紗耶香を責めれない」

「でも私は背負う、そして会う。花梨のおねぇちゃんに」

 その言葉に真希は声を荒らげた。

「会って聞くんだな」

「うん、自分の事そしてノロで何をしようとしているのかを」

 彼女の硬く決意した表情は、タギツヒメとの戦いの時よりも強さを感じさせた。

「それで会議は」

「今は刀使殉職者慰霊祭の通常開催、参加関係省庁に自衛隊の第五特殊作戦班が参加するそうですわ」

「来る、あの子が」

「ああ、結芽が来る。十条は新宿以前に会ったっと聞いたが」

「獅童さん、あいつには優しくしてやってくれ、結芽は恐らく禍人の討伐をしている。荒魂ではない」

 真希は静かに頷いた。

「ねぇ姫和、可奈美の様子は」

「打撲による一時的な気絶、病院のベットに寝かせるのに一苦労した」

「よかった」

「だが、あいつはもう写シを」

 各々の表情がまたも暗く落ち込んだ。

 会議は民間流出ノロの回収対策室設立の計画、および青子屋残党捜査への協力要請、七月初めの殉職者慰霊祭および演武交流会の開催、その参加刀使の選定を機関に任せる旨を決定し、会議は終了した。

 

 9、

 

「はぁーっ」

 呼吹の大きなため息に書類を書いていた智恵の手が止まった。

「どうしたの呼吹ちゃん、お腹すいた?」

「ちげぇよ! どうしてまたこの調査隊が全員集まってるんだ。解散じゃなかったのか?」

「あれは一時的にですよ七之里呼吹」

 ミルヤが美炎、清香とともにお茶とお菓子を運んできた。

「4月に入れば進級、卒業に部署替えがあります。その庶務のために書類上では解散にしたのです。でもほぼ一年に渡り活動してきた我々を折神朱音様が手放したがらないのですよ」

「手放さないぃ?」

「それなりに成果を挙げて、五箇伝や管理局の人事に左右されず動ける部隊だったから、私たちは頼りにされているのよ呼吹ちゃん」

「チチエは高等部卒業したんだろ? ならなんで長船の制服着ているんだよ」

「長船所属の刀剣調査員になったのよ、真庭学長隷下のね。今後は時期を見て遊撃隊所属になるけどそれまでは長船の所属だからよ」

 美炎が運んだお茶に礼を言った。

「ちぃねぇが遊撃隊か、しかも小隊長なんでしょ?」

「私、そうなるんじゃないかと思っていたんです」

「瀬戸内さんはメンバーへの世話身が良く、実力も今年度長船卒業生主席、あなた以上に頼りにできる人はいませんよ」

「ありがとう美炎ちゃん、清香ちゃん、ミルヤさん」

「なぁ、あたしが聞きたいのは、なんで集められたかだよ」

「それは~私とお泊り会だからぁ~だー!」

 呼吹に抱き着いた山城は彼女が、暴れられないほどに固く締め付けた。

「うわぁあ! おい見てないでこいつを!」

「ミルヤさん、頼まれたものを刷ってきましたよ」

「ありがとうございます鈴本葉菜さん」

「無視するんじゃねーよ!」

「尊い犠牲だよふっきー」

「呼吹ちゃんのこと、おねぇさん忘れないわ」

「どうか安らかに」

「ちぃーん」

「お前ら! 勝手に殺すなぁー!」

 着席した隊員にミルヤはすぐにプリントした冊子を配った。題には『調査隊鬼八法師対策資料』とある。

 鬼八法師は九州の伝承に出てくる妖怪で、霞を操り、不死体質の猛威を振るった存在。討伐こそされど、その怨念を恐れて九州の地域には鬼八法師を祭る風習が存在する。

「でも、ヤマトの朝廷は故意に記述を変えている。それを美炎さんの魂にいる炎の精ホムラノチが証明してくれた」

「おい! 初耳だぞ」

「順を追って説明します。我々が明日香村の古墳から奇妙な御刀が見つかった旨を受けて、最初は安桜美炎さん、瀬戸内智恵さん、そして私の三人で向かい、そこで古代の三本の御刀が発見されました。資料の三がそれです。御刀には神代の力がまだ残っており、三本の御刀を回収し長船の研究所に運びました。しかし、三本の内二本が強奪され、私たちは辛うじてこの十束剣を守り切りました。この十束剣が美炎さんの魂、清光の玉鋼と共鳴する可能性があり」

「共鳴して御刀の精が出てきたってか」

「そうです。仮称で彼女の名はホムラノチ、古事記で母神イザナミを殺すきっかけになった子神ホノカグツチの分身。ホノカグツチが斬られるとき父の手にしていた十束剣に付着、そのまま剣の守護精になったと聞いています。そうですね安桜美炎」

「はい、ホムラノチも間違いないと言ってます」

「ほぉー、では九州の妖怪である鬼八法師とどのような関係が?」

 鈴本葉菜はお茶を一口飲みながらミルヤに尋ねた。

「ホムラノチは自身は三本の宝剣を支えに明日香の地に鬼八法師を封印したと」

「ん? 九州の地で討伐されたのですよね?」

 ミルヤは次のページを示し、そこには酒船石の写真があった。

「鬼八という妖怪は討伐されたと見せかけ、四国伝いに関西、朝廷のあった飛鳥の都を襲ったのです。大神の社の巫女が朝廷の守護剣であった十束剣、草薙剣、分景を用い、ホムラノチの協力を得て御破裂山西部に封印した」

「なら、この写真や学芸員さんの話でははるか前に石室の蓋が無くなっていたって」

「瀬戸内智恵、この御破裂山西部に用途不明の古代石があります」

「酒船石!」

「そうです。ホムラノチと三本の宝剣は封印の力を持っていた、しかし鬼八法師は体を気の遠くなるような時間をかけて霞にし、封印を抜けて酒船石を破壊し脱出。だがその時代には鬼八が封印されたことを覚えているものはおらず、宝剣と古墳は埋めるに任せるしかなかった。鬼八を今一度封印し、その事実を知っていた強奪者の存在を明らかにするのが私たちの新たな任務です」

「荒魂なんだな」

「ええ、間違いなく」

 微笑んだ呼吹にミルヤは静かに頷いた。

 会議終了と同時にすぐに彼女たちは西へと出発した。

 

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