14、
昼すぎ、鎌倉駅に可奈美と彼女の私服を着たフードを深く被る少女が降りた。
地下道は応急修理がなされており、『不用意に御刀を振り回してはダメ!』と書いた張り紙が張られていた。
「何かあったのか」
「あー、ちょっとトラブルがあったらしくて」
「ほぉう、そういうことにしておこう」
可奈美は誰かに気が付き、その少女に手を振った。
「ひよりちゃーん、こっちー!」
彼女は怪訝な顔で可奈美たちの前に立った。
「おまたせ」
「なんでお前はいつも…」
「小烏丸の刀使か、半年ぶりなのかのぅ」
「ほ、ほんとうに、そうなのか」
フードから覗かせた顔に思わず頭を抱えてしまった。
「あーもう! なんであんなに必死で押し込んだのにあっさり現世に帰ってきているんだ!」
「帰れるような状態に戻っている、からでは不服か?」
顔を上げた姫和はやや雲のかかった空を見上げた。
「もしかして、開いているのか?」
「正しくは層の干渉が深くなっている。今この世界はあらゆる層の力を呼び込める状態にある。それを伝えに来た。あと」
急に声色が変わり、優しい眼差しが彼女に向いた。
「娘のために動くのは母として当たり前、でしょ? 姫和」
「え、お母さん」
「驚いた? 実はタギツヒメさんの体に乗って二人も現世に来ているんだよ」
目を点にして、好きにしてくれと歩き出した。
本部の局長室に呼び集められた朱音、紫、薫、寿々花、真希、紗耶香はフードを払ったその姿に驚いた。
「久しいの折神紫」
「タギツヒメ…」
「美奈都と篝が言って聞かんのでな、お前たちに危機を伝えに来た」
タギツヒメは三人に分離し、それぞれに可奈美に話した世界の現状を伝えた。
あの紗耶香の覚醒がトリガーとなり現世への隠世の干渉が去年の状態に戻っていること、そして富士にノロの集合体が出来つつあることを伝えた。
「またヲノツチか」
「ヲノツチ? なるほど我と同じ万物の概念体か、ノロを生み出せるなら炎の権化といったところか」
「そいつが隠世のあらゆる層から力を抜き取っているんだよ、タギツヒメがしたようなことが現世でまた起きてれば、異変だってすぐにわかるわ。それにまた御刀の千鳥を通して魂が共鳴、私が復元された。実は篝も小烏丸、タギツヒメも紫の五剣から同じように復元されたんだ。なら、これを使わない手はないと思ってね。現世に降りてきたわけ」
「では美奈都さん、また大災厄が起きるんですね」
「そう! 今度のも江の島の時に引けを取らない大災厄が」
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その日の夜、ついに遊撃隊全員呼集の号令がかかった。
〔美炎ちゃんたちも招集が? 〕
〔うん、まだ鬼八を倒したばかりで落ち着かないけど、ホムラノチさんが急がないといけないって言いだしたから、本当に大変なことが起きる気がして〕
〔うん、タギツヒメが現世に降りてきてからやっと実感が沸いたの〕
〔でも可奈美は〕
〔…まだわからない。タギツヒメは前に居れば道は開けるって言っていたけれど〕
〔か・な・み! またウジウジしてるよ! 〕
〔あ! 〕
〔いいから! ぶつかれば答えは出るんでしょ! 諦めないで! 私は何度だって可奈美に言ってあげるから〕
〔ごめん! 悪い癖でちゃった! 〕
〔それじゃあ、また後でね〕
〔うん〕
脇に居た姫和は電話を終えた可奈美に目を向けた。
「私は反対だ」
「怪我したらみんなの足並みが乱れるし、それに今度のも簡単にはいかないから」
「なら」
「ありがとう、でも私の気持ちは変わらないよ」
「…馬鹿」
黙って控室を出た姫和は庭先に出ると、欠け出した月を見上げた。
「今度はダメなんだ、なぜそれがわからないんだ可奈美」
と、彼女の前に紫が五本の御刀袋を携えて現れた。
「紫様」
「姫和、お前が先鋒だろう。そのために必要なものを渡す。ついてこい」
彼女は紫についていくまま、あの御前試合会場に来ていた。
「一年前だったな、あの日タギツヒメに反旗を翻し、全てを正すきっかけになった。私は姫和に感謝している。ありがとう」
「い、いえ、私は全てを分かっていたわけではありません。仲間がいなかったら今頃は」
「そうだな篝」
「ええ」
顔を出した篝は目を丸くさせる姫和の傍に着いた。
「どうして一緒に」
「あなたに力を託すためよ」
「力?」
「私の心にはもう一人いるのわかるかしら」
混乱する姫和に見覚えのある声が彼女にかかった。
「面倒だが私を守ってくれたもののためだ。今一度、力を貸すのは当然であろう」
「イチキシマヒメか!」
「母と私と共に戦ってくれ、必要な力は私たちが技術は紫が教える」
姫和は静かに目を閉じた。可奈美を前に出させないためにはこれしかない。
「分かった」
「姫和、手を!」
篝は姫和の手を握り、体は白い輝きとなり娘の体を包み込んでいく。やがて体に光が溶け込むと、無数の雷が起こり、天高く登った。
姫和の左目には青い雷光輝きが宿った。
「よし再び神人一体となった。だが小烏丸だけでは本物には対抗できない。だからこそ」
刀袋から獅子王・丙子椒林剣・数珠丸・骨喰藤四郎・鬼丸国綱が出され、姫和に全ての御刀と繋がれと呼びかけた。
「タギツヒメはノロの力で強引に御刀の力を引き出していた。だがお前なら六本の御刀と繋がれるはずだ」
「私にできるのか」
「できる! 意識を集中させろ! 声に!」
それぞれの声、繋がる心、かき乱されそうになる精神に焦る。だが大丈夫だと、篝は姫和の背に額を当てた。
(小烏丸が知っているよ)
雷に導かれた御刀たちが彼女の周囲に纏い、結界のごとく彼女の傍についた。
「ありがとう小烏丸。お前が私を見ていてくれたんだな」
紫は頷くと、自身の大包平と童子切安綱を抜きはらった。
「香取神道流は?」
「皆伝はまだだが、両刀術は全て」
「なら結構だ」