一、
「ねぇー梅」
「うるさい」
「つれない」
「うるさい」
「講壇は読むんじゃなくて聞きたいの」
「うるさい、私もそうだから黙ってろ」
二人と少佐のお付きが二人、
机を囲みながら手分けして一枚一枚の書類に目を通していく。
「これいつまでやるの」
「そこの段ボールあと四個」
それは全国からの通報の書類から、各地の所轄が放り投げたものを一件ずつ確認している。
今までの禍人であった人間は幾度も通報はあっても、警察が危険性を確認しえなかったことで
注意程度に終えてしまった案件であった。
二課はその可能性のある通報を再度確認し、そこから調査を進めた。
根気はいるものの、重要な通報が見つかることもあり、それがノロを人が取り込むルートの割り出しでもあった。
「それでも多すぎ」
「ストーカー、隣人不信、浮気、猫の糞や鳩の卵、お化けの目撃に、終いにはネッシーを見つけたまで、バリエーションには事欠かない」
「警察官って大変」
「一応お前も警察官だったんだぞ」
「知っているけど、そうだけど、荒魂倒すことしか知らなかった」
「刀使も大半は適任期間を終えたら交番勤務や、地方の所轄勤務、それに刑事になる奴もいる」
「じゃあこの情報はその人らから」
「そんなとこだ、刑事になっている奴らは特にノロの裏取引に警戒しているからな」
「禍人が捜査の糸口になるってわけね」
「話が分かったら、今度は関東だ」
「はぁ」
書類数枚を撮り出すと、ホッチキス止めにされた書類が何件も姿を現した。
「荒魂の通報だ、しかも一か所から何度も」
結芽は書類をめくりながら、それがどれも一か所でありながら荒魂の姿が一致していないことに気が付いた。
「黒、その書類、場所はどこだ」
「鎌倉市内」
「古谷二曹、恵土二曹、これを」
一同が手を止めて書類に目を通し始めると、黒の持っていた書類にも目を通した。
「梅さん、これは当たりですよ」
「ええ、鎌倉市内でノロの強盗、それに合わせて姿が不一致な荒魂たちの出現、行先は決まったな」
「鎌倉に関しては実は機動隊からも応援要請が来ている」
「へぇ」
梅は手渡された書類に一瞬で目を通し、結芽に渡した。
「あちらさんも鎌倉市内でずっと荒魂を探しているそうだが、珍しくスペクトラファインダーに反応しないそうだ。余りにも微弱なのか、それとも虚偽の通報だったのか、そこでだ私服任務に慣れ、顔も忘れ去られたお前たちなら真偽を明らかにしてくれるだろうとのことらしい。遊撃隊の応援つきだ」
「ま、大災厄以降の頻出のせいで、ある程度顔を覚えられているのは仕方ないか」
「鶴、いや彦は原隊に復帰すると言っているが、上の顔を立てなければならんから、二週間の謹慎を名目に故郷に帰らせた」
「彦が文句言ってたよ、少佐は私を甘やかしすぎだって」
「ま、お前たちと合流できるだろうから大丈夫だろう」
「おい少佐殿よ、あんたは行かないのか」
「ちょっと刀剣類管理局との談合があってな」
「はぁ、ま、私と黒が居れば、大抵はなんとかできるだろうがな」
「何か不満か」
「懐」
「おいおい、まさか」
「降ろしてくれますよね、二人分の休暇分も」
梅は笑顔で少佐を見下ろした。
「分かった、好きにしろ」
二、
鎌倉市、名所として名高いこの土地は刀使たちにとっても、ある意味で聖地と呼べる場所である。
折神家および、刀剣類管理局のお膝元。
由緒あふれる土地であることからも、観光客の絶えない土地だ。
「ここか、待ち合わせ場所は」
鎌倉駅前のバス停の前。
旅行鞄に、ワンピースと完全に観光目的の格好で、
手には目印になる刀袋に包まれた御刀を持った。
「すみません、梅さんと黒さんで間違いありませんか」
その小さくぎこちない挨拶が、隣から聞こえてきた。
「あ、紗耶香ちゃん」
夏らしいラフなスタイルに刀袋を持っている異常さは、二人とさほど変わりはなかった。
「で、後ろのでっかいもの背負っているのは」
「遊撃隊の益子薫だ、こっちはネネだ」
「ネネっ!」
「そこの小さなのはいつものとして、祢々切丸は目立つだろうに」
「仕方ないだろう、さっきここに着いたばかりなんだ、さぁバスに乗ろう」
案の定、乗車を拒否されて、一同は歩き始めた。
「なんでこうなった」
「いいだろうが、ここから30分だ、並みの刀使ならお茶の子さいさい」
「いやな、薫さんよぉ、もっと身の丈に合った御刀を持つ刀使は呼べなかったのかい」
「仕方ないだろう、だって相手は体長二十メートルになるって話だ」
「いや、こっちの統計では体長三十五メートルって話だ」
「なぁ梅さんよぉ、荒魂退治って東宝特撮だっけ」
「うんにゃ、大映特撮だな」
「もう日活とか円谷とか何でもいいから、あそこでアイス買おうよ」
音を上げた結芽が思わず立ち止まった。
指さした先にある駄菓子屋を見つめつつ、一同は即座に決断した。
「さっさと旅館行こう、ビール飲みたい」
「同感、風呂入りたいぞ」
「私はアイス食べたい」
「さ、紗耶香、裏切るか」
「薫、私にも限界がある」
「じ、じゃあ俺も」
「ネネッネ!」
「はぁ、わかったよ」
梅は駄菓子屋の主人から釣銭を受け取ると、
好きなアイスを取らせて再び歩き出した。
だるそうな梅と薫を横目に、結芽は紗耶香と隣り合って歩き始めた。
「紗耶香ちゃん、チョコミントなんだ」
「うん、これ、姫和が前においしいって」
「どうも周囲が毒されてきてるね、さすがに一度は神になった刀使、コワいコワい」
「結芽は」
「私は王道のバニラ、だって私は刀使で一番強いから、一番のアイスを」
「でもバニラって、スタンダードの一番じゃない」
「スタンダード、ふむじゃあ私はみんなのスタンダードになるんだね」
「ふふふ、おかしいね」
「ふふふ」
楽し気な会話をよそに、旅館に到着早々に二人は部屋に倒れ込んだ。
「二人がこんなのじゃ、この先心配だよ」
「旅館の人に、挨拶してこなきゃ」
「そうだね、今回の件も最初に被害を受けたのはここらしいし」
「うん」
「ネネッ」
「ネネは旅館の人が怖がっちゃうから留守番してて」
「ネェ…」
既に酒盛りを始める梅に一言断っておくと、
結芽と紗耶香はさっそく挨拶がてらに調査へと赴いていった。
三、
翌日の昼、暑い中を旅館裏手の洞窟や切通しを、丹念に回っていた。
「黒、なぁ、時間あるし、江の島行って、しらす丼食べようぜ」
「それ、任務が終わってからでも大丈夫じゃん」
「お前はなめている、こういうことになると、大抵は調査の描写で間延びする。そこをだ、そこを観光シーンでカバーするんだ。俺たちが証拠見つけないと、本部人員は動かないけど」
「何の話しているの」
「今は吉永小百合が若いころの『伊豆の踊子』みたいな時代じゃない!もっと日本沈没みたいにフレッシュに行こう」
「梅さん、例えが不吉すぎるぞ」
「旅館の証言も十分に不吉だろうが」
協力を取り付けた旅館の主人曰く、
女将が夜遅くに風呂に入ろうとした時、人間大の昆虫のような怪物が十何体も現れ、
彼女は気絶してしまった。
そして厨房に入ったと思われる彼らは、砂糖を食い散らかして消えていったという。
「でっかい親玉でも居るんじゃないか」
「居るかどうかはこれからだぜ、梅さんよぉ」
紗耶香は肩に乗るネネが何かを見つけたことに気付いた。
「薫、結芽、梅」
切通しの端に落ちているビニール袋をつまみ上げた。
「砂糖の袋か」
「ねぇ薫、この傷あと、スッパリと切れすぎなんじゃない」
「うん、結芽の言う通りだ、まるで刃物で居合切りしたような見事さだ」
梅は顔を上げると、道端に所々に散らばる白い砂状のものが、一本になっていることに気付いた。
「見ろ砂糖の道だ」
四人が砂糖の道を遡っていくと、そこに人が一人通れる小さな穴があった。
「これは」
「大当たりかもしれんな」
「薫、どうするの?」
「どうするってそりゃあ」
夜中を待ち、四人は洞穴の見える位置にバラバラに配置して、動きを監視した。
梅は無線のスイッチを入れた。
「こちら梅、感度良好どうぞ」
「こちら薫、動きはあるか」
「紗耶香、今のところは」
「黒、何か出てきた」
それは話にあった通りの姿で、アリのようなコオロギのような荒魂が、何匹も洞穴から姿を現した。
「こちら薫、指揮は梅に任せる」
「梅、諒解した。黒が最初に誘導地で襲撃、逃げようとしたところを洞穴前で紗耶香が止めろ、そして私は洞穴に入ってやれるだけやる」
「こちら薫、私は」
「あんたは散らすから待機」
「え」
「ネネっ」
「梅、黒はもう行きな」
「黒、諒解」
突撃した結芽が三体の荒魂を即座に斬り捨てた。
足が止まった残りの五匹は、紗耶香が立ち塞がって逃げ場を失って襲い掛かった。
「おやすみ、みんな」
紗耶香と結芽は梅が洞穴に突入する前に、表の荒魂を片付けてしまった。
「よっこいせ」
洞窟に入り込んだ梅は高ルーメンのフラッシュライトで、内部を照らし出した。
そこでは残っていた八匹が、何故か麻雀に勤しんでいた。
「ふざけるな」
処理が終わり、見分をする三人の前にやや切れ気味の彼女が、
麻雀牌を持って洞窟から姿を現した。
「なんで牌」
「私が聞きたい」
四、
ノロの回収が終わり、事後調査と言い訳をして彼女らの鎌倉観光が始まった。
「海だぜヒャッホー、事件も解決、荒魂も討伐、給料分働いて、給料分休んでハッピーっ」
晴れ渡る空、海岸には多くの男女、
青春の園、魂の洗濯場、四人の水着姿を見れば誰も文句は言うまい。
「久しぶりの海だーっ」
浮かれる結芽をよそに、何か不安が解け切らない紗耶香は口を一文字にさせていた。
「どうしたの紗耶香ちゃん」
心配になった結芽は梅と薫を先に行かせて、
パラソルの下に並んで座った。
どういうわけか結芽の頭の上にネネが居た。
「ふぅーん、まだ荒魂は居るかもってことね」
「うん、報告書にもあの虫みたいな荒魂の記述があったし」
「それに、それがでっかくなったみたいな奴や、カニみたいな奴とか」
「それがわかってて」
「分かってても、焦ってもしょうがないじゃん」
「私は早く荒魂を祓って、みんなを安心させたい」
「なるほどね」
「でも、たまには息抜きしないと」
「本当にそう思うの」
「うん」
「じぁあ泳ごう、泳いで夜は荒魂を探そう」
結芽の手を取って立ち上がると、紗耶香は笑って頷いた。
そして、二人の前に息を荒立たせる梅と薫が、何かを言いたげに二人に迫った。
「ど、どうしたの」
「あれ見ろってんだ、あれ」
「ネネッ」
二人と一匹の指す方向を見ると、カニ型の巨大な荒魂が海岸前の海から姿を現した。
その光景に呆然としながら、
逃げ惑う人々の中で立ちすくんでいた。
「あー、確かにこれは、二十メートルあるわ」
「薫さんよぉ、御刀、あそこ」
「取ってくる」
駆け出した薫に、結芽と紗耶香も追った。
「結芽も」
「私も行く」
「待ちなさいあんたら」
やや静かになった海岸に向かって進むカニの荒魂に、四人が立ちはだかった。
「紗耶香の言うこと聞いておくべきだった」
「じゃあ、個別に休暇を潰された鬱憤をあいつに叩きつけろ」
一斉に写しを張った時、カニはついに砂浜に足を踏み出した。
だが、その一歩目を無慈悲にも梅の太刀が切り裂いた。
反撃の大きな鋏が走るが、薫の雄たけびが叩き落された右腕に木霊した。
そして海中から姿を出す数本の足を、紗耶香の村正が切り捨てた。
「止めだ」
胴体に突撃する結芽を、口からの泡が動きを止めてしまった。
次々と吐き出される泡に飲み込まれた一同は視界を失い。
カニの荒魂は海の中へと逃げ去っていった。
泡を脱した彼女たちは、砂浜に突き刺さった巨大な鋏を見上げながら呆然とした。
「逃がした、四人いて」
梅は舌打ちして、海の家に残っていた店員にビールを注文した。どうも逃げおくれた様子であった。
「お、お嬢さん、刀使なの」
「そう、あいつが現れさえしなかったら、ただの水着ギャルで終わっただろうよ」
そんな梅の独断行動を尻目に、鋏が動かないことを確認していた。
「紗耶香ちゃんの言う通り、荒魂はまだいたけど」
「まさか報告通りの桁違いなデカさだったとは、予想だにしなかったぜ」
「昨日の虫も、大きい個体がいるって」
「じゃあ、あのカニも小さいのが居るっていうの」
「俺の休暇プランが台無しだ」
「でも任務だよ」
「ごもっとも」
「ネネッ」
五、
あれから二日が経過した。
「いやぁお待たせしました。各務原土産のひそまそクッキーです」
「ありがと」
無愛想に土産を受け取ると封を開けて、結芽と食べ始めた。
「で、なんでも南海怪獣大決戦になっているそうですね、黒」
「いや、荒魂だよ」
鶴改め彦は、旅館に到着早々に梅と結芽を合わせた三人での応酬が始まっていた。
「いやぁ地味な特撮表現って、結局地味なんですよね」
「鶴、言っていいことと悪いことがある」
「でもそうでしょう、アリ型巨大昆虫荒魂とカニ型巨大海中荒魂、絵面は地味なのにパニックとはこれ如何に」
「それでも私らは地球防衛軍然り、有事には対処しなきゃいけないの」
結芽はタブレットに例の荒魂の痕跡を見せた。
「全部、刀使任せだもん、でも結芽は楽しいよ」
「だろうな、お前だったらギララの三作目で、増殖したギララを滅多切りにしているよ」
「それいいですね」
「のるな彦」
一枚ずつめくる彦は、もしやと一枚の写真に目を止めた。
「この旅館は江の島方面とは逆方向、こちらに例のアリリがいたのですね」
「おい」
「で、反対方面の湘南にカニラが現れた」
「もういいよ、続けて」
「この二匹は、相争っているのでは」
「まだ特撮が抜けないらしいな、今度はVSシリーズか」
「なるほど」
「梅、ちょっと黙ってて」
「ここらは二十年前の大荒魂出没地域、その残り香に惹かれてアリリとカニラの一大勢力が対し、雌雄を決しようとしているのではありませんかな」
「はぁ、残り香ってなによ」
「大荒魂に関する何か」
「江の島に行けばわかるかな」
「じゃあ、江の島に行くか」
いつの間にか梅の後ろに立っていった薫は、唐突に話に割り込んできた。
「今から」
「応よ、しらす丼食べに行こう」
「食い意地張るね」
「あんたもだろう」
「もちろん」
一人を加えて五人と一匹になった一行は、夕時の涼み客の集まる江の島へと到着した。
「お待ちしておりました」
静かに頭を下げた巫女を前に彼女らも頭を下げた。
「どうも、連絡を入れていた益子薫だ」
「存じております。私、鶴岡八幡宮に出立しております刀使の巫女、足利平子と申します。わざわざ益子隊長のお出向きには感謝に絶えません。ただ隊長さん糸見さんの他には、ここの事をご存じではないかと思います」
「ここのこと?」
「では着いてきてください。祠の中をご案内いたします」
江の島の立ち入り禁止と書かれた二重扉を抜け、暗い中を平子の持つランプが先を照らす。
「ここはなんなの、足利さん」
結芽の問いに、前を確かめながら話し始めた。
「ここは二十年前、大荒魂が侵食した地脈の跡です」
「ええ」
「ここが」
「大荒魂はタンカーから噴出し、この江の島上空で一体となり、周辺に大災厄をもたらしました。今は大荒魂は封印されましたが、高濃度のノロはこの江の島の内部に一部が封印されており、その力は通常の荒魂をゆうに超えると言われております」
「ここは昔、鎌倉の鍛冶たちがノロを安置していた場所で、今でもノロを祀る聖地なのさ」
「薫さんの言う通りです。なので大社は早い段階から、最悪を防ぐ措置を講じてきました。でも、強力な力のある大荒魂のノロを求める荒魂が、集まるようにもなりました」
「じゃあ、封印された大荒魂のノロが」
「ここにあります、島の中は四分の一がそうです」
「そ、それって、また荒魂化するんじゃないの」
「そのために私がいるのです」
一同が着いた先には、抜き身を輝かせる三振りの御刀が、石戸の前に封じられていた。
「これは」
「ここには大荒魂のノロを封じる三振りの御刀があります、まず左手に平安期の御作と伝えられる菊花紋毛抜太刀、右手には室町期の奉納刀である諸刃の脇差、そして正面は源氏の重宝『髭切』です。本来なら国が宝とする重大な御刀ですが、こうしてノロの封印のためにここに封じております」
「なるほど、荒魂対策どころか封印も万全か」
「以前は毛抜太刀のみでしたが、調査のために持ち出して最悪の結果を招いたことがありますので、三振りとそれに私を着けているのです」
「だが、一人の強力な刀使が居ても、ここを離れれば隙ができてしまう」
「なるほど薫さん、そのための私たちってわけか」
「元々不確かな情報だったが、それでも俺たちが派遣されたのは、大荒魂に関わる全てのためなら、何でもありだからだ」
「じゃあ、私らがやることは一つだな」
六、
その巨体が海岸から身を乗り出し、咆哮が響き渡った。
「こちら第三小隊、カニラが動き始めました」
それに応えるように、暗闇の七里ヶ浜を巨体が素早く動いていく。
「こちら黒、アリリが動き出したよ」
「梅、各員は作戦どおりに、黒、観てるだけでも良かったんだぞ、ポップコーン食べながら」
「まさか、お祭りは始まったばかりだよ」
「ふふ、上等」
カニラの前に躍り出た梅は、御刀を抜かず写しを張った。
そして四股を踏んで、右拳を着くと自分を無視して進むカニラの腹を、空高く突っ張った。
「わお、どっちが怪獣かわかったもんじゃねぇ」
刀使にはいくつかの戦闘術があり、
どれも御刀の神秘の力と、使い手の能力が無ければ使いこなすことが難しい。
その難関な二つが、肉体の強度を上げる金剛身と、破壊力を向上させる八幡力である。
短時間の持続こそ、どの刀使でも可能であるが、
「こちら梅、なんか言ったか薫さんよぉ」
「いやいや何でも」
「こっちは剣術よりも、練度が売りなんだね」
さらに重たい張り手がカニラを前方へと吹き飛ばした。
砂煙の巻き上がる中、ついに梅は鯉口を切った。
「こちら梅、ちっこいのは第一小隊に任せたよ」
「第一小隊玉城、諒解しました」
錬府の制服を着た刀使たちが、
ひっくり返ったカニラから現れた、カニ型の小さな荒魂たちを斬っていく
「さて薫さんよ、準備いいかい」
「こちら薫、いつでも、ネネ頼むぜ」
「ネ!」
カニラの腹に飛び乗った梅は、丁寧に堅い足を一本ずつ切り捨てる。
苦しみの咆哮を上げるカニラが梅を挟みで攻めるが
その大バサミを金剛身となって受け止め、次いで八幡力で弾き飛ばし、
ついにその左腕を叩き斬った。
「今だ」
急いで腹から逃げた梅は、月を背に輝く大きすぎる太刀の刃が輝くのを見た。
「キェ――――――――――――っ」
胴体を一文字に割く大太刀が、カニラを斬り伏せた。
動きが止まり、割れた胴体からノロが流れ出すのを確認すると、
「食べれなかった限定ジェラートの仇だ」
「ネッ!」
そうカニラに文句を言った。
「来ましたよ、お二人とも一瞬しか動きは鈍りませんから、要注意ですよ」
「はい」
「はーい」
彦は山からゲパードを構えながら、暗視照準眼鏡にアリリがはっきりと見えた。
「紗耶香ちゃん、一緒に」
「うん」
七里ヶ浜を越え、海岸線沿いを突き進むアリリに向かって、
迅移を発動した二人が真っすぐに突っ込んだ。
対物ライフルの一発が前に出る足を撃ち抜き、
走るペースが荒れだした。
そして、アリリが二人に気付いたのもつかの間、左右八本の足が一瞬で斬られ、
バランスを崩して線路と道路に火花を散らしながら滑った。
「紗耶香ちゃん、先にいくよ」
結芽はすぐさま胴体を駆けのぼり、頭の触角を斬り捨てると、
暴れる頭と口ばしを相手に戦い始めた。
紗耶香は息を静かに吐き、『無念夢想』の発現とともに、
アリリの胴体は尻から順番に輪切りになり、
最後は暴れていた頭を斬り落とした。
(やっぱり、紗耶香ちゃんは強い)
「これで、おしまいだよ、もうおやすみなさい」
その荒魂に呼び掛ける穏やかな声に、結芽は静かに御刀を納めた。
「いい夢を見てね」