~結芽錯綜記~   作:ひろつかさ(旧・白寅Ⅰ号)

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第七話「宿命の刀使」

一、

 その日、第二課の駐屯施設に奇妙な客が来た。

 応接間に通された二人に、神尾と結芽が対していた。

「お久しぶりデス、鎮魂祭の式典以来ですね、ユメユメ」

「おねぇちゃんも元気そうだね、でも隣の人は」

「おいおい、以前は君の敵だったんだぞ」

「まったく分かんない」

「こちらは私のグランパ、リチャード・フリードマン博士デース。ずっと舞草の幹部だった、ノロ研究の第一人者デース」

「あとS装備の開発もしている。そして最近は禍人に関しても研究を進めている」

「博士、我々のデータは活用していただけますか」

「勿論だ。神尾少佐、あなたがこうして提示した三人のデータを過去のものと照合、いずれも荒魂が憑依するのではない、人為的な荒魂化であることがはっきりした」

 フリードマンは二人の前に診断結果の書類を出した。

「まず、国府宮鶴は、外部からの大量のノロを摂取、人格障害を起こした。彼女の吐き出したノロの量から、以前に最もノロを摂取していた皐月夜見より僅かに五パーセント少ない量、つまりは大量のノロを摂取していた。高津雪那の証言ではまさしくモルモット扱いであったようだ。

 次に燕結芽、君は体内に殆どノロを見つけられなかった。だが、以前にノロによって神経や臓器に傷をつけられた跡があり、今ノロが存在する場所も君の心臓と、摘出が難しい位置にある。現状を維持できるか否かは、今のところ不明だ。

 そして孝房恵実、彼女が最も危険だ。体の大半はノロに蝕まれ、精神を維持できているのが奇跡と言えるほどだ。長い時間もノロを体内に擁した結果、肉体の寿命は限界であり、下手をすれば人の形を失ってしまうだろう」

「じゃあ、結芽は、また長く生きられないの」

「分からない、そもそも君がなぜノロによって姿かたち、そして命を蘇させられたのか、そちらに興味があるね」

「もしかしたら、あの声かもしれない」

「声とは」

「時折聞こえてくるの、結芽に生き返って何をするんだって、私じゃない声が胸の底から聞こえるの」

「それは鶴も同じことを言っていたな。ずっと心の声、殺人衝動と会話をしていたと」

「明確な答えを出してあげられないが、君の体内のノロは、君自身の希望になりえるかもしれない。君がこれからどう振舞っていくかで、ノロは君を本当の意味で救おうとしているのかもしれないね」

「ノロが、私を救う」

 結芽は苦々しく、御刀を見つめた。

 

 地下の道場で立ち合いながら、彦は結芽の無駄な動きをいなしていく。

「ほら、伸ばすな、決めろ」

「ちょこちょこ動くから」

「口が動くね」

 竹刀が胴に入り、彦の固め技が結芽の倒れた体に入った。

「ギブ」

 締め付けが解かれると、結芽は体を仰向けに息を吐いた。

「こんなものかい、まだまだやるよ」

「ま、待って」

 苦しそうにしながらも、立ち上がって平晴眼に構えた。

「よろしい」

 理心流の檄剣稽古の再現ではあるが、始めて一時間、結芽は音を上げなかった。

 それどころか、道場の傍らで梅は壁にもたれていた。

(まさか、ここまでタフだとは)

 燕結芽は免許皆伝をなされる前に、病気が原因で道場から離れていたが、

 見て、その身で味わった技の全てを使いこなした。

 それどころか、親衛隊では紫以外のあらかたの刀使に勝利を収めた。

 しいて言えば、可奈美や姫和といった、まだ剣を合わせていない強敵と、立ち会っていなかっただけである。

(このふた月で随分と、まぁ)

再び組合となり、始めは結芽が優位であったが、スタミナの有り余る彦に再び押し戻された。

「ギブ」

「よし、ここまで、面を取って水分を取ってきなさい」

「はいっ」

 結芽が上の階に水分を受け取りに行く間、

 彦は汗を拭きとりながら梅のもとへと歩いた。

「お疲れ様」

「どうも、まったくこっちが音を上げたくなりますよ」

「へぇ、彦さんが」

「あんな素早い初太刀から、続いての激しい払いに、そして組み合い。考える暇もなく対応しなくちゃいけないから、そりゃあ勘弁してもらいたいですよ」

「ふふ、どうも彦さんよぉ、あたしらは完璧に土台だね」

「頼もしい限りです」

「そうだ、あんた学校の先生になったら、教員免許は任務の合間に取得してたんだろ」

「それは、まぁ、持ってますけど、死んだ扱いで失効なっているかと」

「大丈夫、少佐に口添えしとけば、さ」

「まったく、梅さんって人は」

 

 

二、

 

 施設は表向きでは、広報事務所ということになっている。

「こんにちは、こちら刀使部隊の事務所で間違いないですか」

 白いスーツの男は受付の自衛隊員に、ここは違うと案内されると、

 小さく、しかし響く声で笑った。

「おかしいですね、ここに入ってきたお客は広報とは無縁のはず」

 その一言に隊員は拳銃を抜いたが、すぐに組み手で奪い取られ、

 三発を頭部に撃ち込まれた。

「ほら、お客が来ましたよと、恵実さんにも言ってくださいな」

 

そのころ、三人は食堂で昼食を終え、静かにお茶を飲んでいた。

食堂長カイルは三回鳴った物音に、神経をとがらせた。

「梅さん、彦さん、黒さん、侵入者のようだ」

「侵入者」

「相手は梅さんの本名を名指しで呼んでいる」

「そうですか」

 梅は歯ぎしりをしながら、机をたたいた。

「梅」

「御刀を取りに行こう」

 結芽はそれに黙ってついこうとすると、カイルに一瞬引き留められた。

「黒、逃げるべき時には逃げなさい、いいね」

「心配ないよ」

 そう言葉を返して自室に戻っていった。

 

 

 革のトランクから、一振りの刀が現れ、それを剣帯にさげると鞘から抜きはらった。

 そして、彼の前に出てきた梅を見て、彼は高笑いを上げた。

「いや、いやはや、懐かしや、恵実さん。貴女の旦那さんをバラした時以来かな」

「そうだね、せめて四肢だけにしてくれりゃあね」

「そんな器用なこと、したくてもできませんから」

「じゃあ私がいまからしてやるよ」

 双方が写シを張った瞬間、梅は間合いを詰めた。

 通路で流れる突きをいなしながら、平突きで互いを押し合い、

 自然と間合いを離した。

「ふふふ」

 途端に写しが斬り剥がされ、腕を抑えられて柄頭が彼女の上半身と頭を何度も殴った。

 そして、彼に蹴飛ばされた彼女は立ち上がれず、御刀から手が離れた。

(ちくしょう)

「こんなものでしたかね」

「今度は私が相手だ」

「おお」

 結芽は平晴眼で、倒れる梅を見て自然と手に力がかかった。

 その一瞬、一段目の迅移で男の腕を斬り、二段目で脇を斬り、

 そして背中から突きにかかった。

(浅い)

 三段の突きが受けられ、額に触れた切っ先が結芽の写しを斬り剥がした。

 その瞬間、背筋が凍り付いた。

「いいですね、恵実さんとは段違いだ」

「うるさい」

 写シを張り直し、再び相手の間合いに飛び込んだ。

 だが、全ての斬りつけが紙一重で避けられ、致命傷が見つけられない。

 そして、彼女は深く後悔した。

「恵実さんの太刀筋を習ったのですね、どおりで強い」

 近い間合いで男はひたすら突きと払いを繰り返し、ついには蹴りで結芽を突き離した。

 結芽は尻餅をついたまま、近づいてくる男から後ずさりした。

「あなたもノロを抱く人間なら、まだこんなものじゃない」

 男の吸い込まれるような真紅の瞳を見た。

 流れるように続く様々な人の顔や声が目の前を走り抜ける。

(結芽、いい子でね)

 聞き覚えのある声が、結芽に御刀を握らせた。

「梅、黒」

 二発の通路に投げ込まれた手りゅう弾が発光し、煙幕を周囲にまき散らした。

 男の脇を抜けて梅をを抱え、上の階へと逃げていった。

 階段から棚が盛大な音を立てて階下に落ちると、

 銃を持った影が、落ちた棚にバイポッドを据えた。

「今度は何ですかね」

「花火だ」

 瞬く間に銃弾の雨が正面から叩きつけられ、彼は弾幕に足を取られて床に倒れた。

 MINIMI軽機関銃を構える彦は、背中のバックから新しい弾帯を引き出し、装填した。

 暫く弾をバラまくと、立ち上がってそのまま上の階へと逃れた。

 

 

三、

 

 結芽は恐怖に怯え、梅の腕にしがみついたままだった。

「分かる、怖いよな」

 梅はただ結芽の頭を撫でた。

 ここは少佐の執務室、ここには刀使が四人、フリードマンに少佐とお付きの二人が居た。

「カイルは隊員たちの退避を完了させたそうだ、だが、奴に見つかって食堂で接待をさせられているらしい」

「我が物顔ですね」

「敵がここに来たなら好都合デース、奴を払うのが私たちの任務。そして」

 エレンは梅に目を向けた。

「ここに来たのは事情を聴くためデス、お聞かせ願えますか、燕恵実さん」

「言っちまったよ、こいつ」

 静寂の中、梅こと恵実はゆっくりと口を開いた。

「あいつは、青子屋っていうヤクザの構成員だった奴さ。青子屋は江戸時代からノロを裏取引してきた組織で、裏の世界じゃあそれなりに名を知られていたんだ。刀剣類管理局とは犬猿の仲だった、でも青子屋は十二年前に消えた」

 十五年前、恵実は署内の円がきっかけで結婚、先輩勢を追い越しての早い結婚だった。

 相手は刑事で、ずっと青子屋の事を追っていた。

 結婚から翌年には妊娠、出産を控えて夫は帰りが遅かったが、義母らが彼女を支えた。

 そして一年後に無事に女の子を出産した。

 それから二年、子育てや家事に追われながら平穏な日々が続いた。

 だが、青子屋の事件が解決し、転属を願い出た恵実の夫は自宅で殺された。

 青子屋は警察によって崩されたのではなく、内部抗争によって自壊していた。

 そのことを知っていた恵実の夫は最後の残党狩りをしていたが、

 結果として後を付けられ、恵実と娘の前で殺された。

 体はバラバラにされ、さらに途中で帰ってきた義母をも惨殺した。

 その主犯格の三人の一人が、

「田中藤次、奴は笑顔で夫の臓器を持ちながら、私に挨拶したわ」

 結芽を彦の方へ突き飛ばすと、悶えながら目をつぶって唇を噛み絞めた。

「そして私と娘は、奴らの持っていたノロを打ち込まれた」

 前髪の間から覗く赤い荒魂の瞳が、一同を見渡した。

「奴らはノロを致死寸前まで打ち込み、秘術によって刀使同然の力を手にした。その効果を知っていた組織は、ノロの争奪を始めて瓦解。でも、力を手にした三人の禍人は、その事実を知る一人の男を殺した。そしてわざと私と娘を生かした」

 言い終えると、梅は気絶して床に倒れ込んだ。

「梅さん」

 彦が傍らによって、気絶しているだけであることを確認した。

 少佐は耳に手を当て、一言二言喋ると立ち上がった。

「料理長から連絡だ。その田中藤次とかいう奴が、話は済んだかと言っているそうだ」

 そしてエレンは御刀を手にして立ち上がった。

「恩には必ず報います、いいですかグランパ」

「お前の使命のままに戦いなさい」

 そして結芽は震える手を握りしめ、立ち上がった。

「結芽も行く」

「彦は博士脱出の援護をしてくれ」

「援護は了解しました。ですが少佐も一緒に逃げてください。いざとなれば差し違える覚悟はあります」

「それはいかん、黒、エレン君、くれぐれも、もしもの時は引いてくれ」

「はい」

「ハイ」

 

 

カイルは太刀を持ち、藤次と対していた。

「まぁ、息抜きには」

「青子の奴にそう言ってもらえるのは嬉しいね」

 カイルの右足から血が流れ出していた。

「こう見ても長い間、禍人相手に戦ってきたんでね」

「それでも刀使には遠く及ばない、男の持つ刀は所詮、お飾りだ」

「結構、お前さんよりはいい男でいたいのさ」

 そんな彼らの前に結芽とエレンが躍り出た。

「黒君、それにお客の」

「ほほう」

「食堂長は逃げてください」

「…わかった」

 食堂長が退避したことを確認すると、

 二人は逃げ口を確保しながら、藤次に向かい、構えた。

 藤次の持つ刀は切先が大きく、様があまりに真っすぐな勤皇刀である。

 身をせり出し、御刀を後ろ目に構えたエレンは、

 藤次に斬りつけると思わせ金剛身の蹴りが、藤次の両手ごと吹き飛ばした。

 そして添えられるように走った康継が藤次を斬る前に、

 エレンの両腕が斬られ、片手で壁へと叩きつけられた。

「タイ捨流ですか、でもまだまだ堅いですね」

「エレンさん」

「二人同時にかかってきてもいいのですよ」

 エレンが立ち上がると、結芽は彼女と目を合わせた。

 結芽が迅移を張り、即座に突きを入れると峰を添えながら、

 突き返そうとした。

 だが、彼の横に立ったエレンは即座に逆袈裟斬りで腕を斬り上げ、

 首の写シを叩き切った。

 すかさず突きで止めを入れようとした結芽は、

腹をけり上げられ床に転げ落ちてしまう。

「ユメユメ!」

「お遊びが過ぎた」

 腕を押さえつけられた瞬間、顔面に数発の殴打が走り、

 外腕捻りによってエレンは再び壁に叩きつけられ、止めの一閃が写シを斬り落とした。

エレンは立ち上がれず、壁にもたれかかった。

 しかし結芽は屈せずにもう一度立ち上がり、平晴眼で構えなおした。

「何でもいい、力を寄越せ」

「駄目!」

 琥珀色の光が結芽の瞳から輝く、その姿に藤次は微笑んだ。

「やはり、あの時の赤ん坊にノロを打ち込んで正解だった。最強の剣は悪魔との契約と同義だ」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 結芽に藤次の動きがゆっくりに見えた。

 体の軽さを利用して腕、背中、右手を斬り捨てた。

 だが、藤次は笑顔を絶やさず、上段の一振りを受け止める。

「そうだ、ノロは全ての力の源だ、さぁ来い!」

 叫びながら今までにない速度に、体と刀が藤次に吸い込まれるように走った。

(それがあなたの剣か)

 突然に動きが鈍り、藤次は不満げに結芽を蹴り飛ばした。

「ユメユメ…」

 だが、写シは剥がれず、結芽はゆっくり立ち上がった。

「結芽は、強いんだから、だから、ノロが暴れたら、私は本気で戦えない!」

 藤次は無行の構えで結芽に相対した。

「やはり見込み違いだったか」

 体の痛む結芽は、やや呼吸を整え、平晴眼の構えで藤次をまっすぐに睨んだ。

 その瞬間、藤次の神速の一太刀は床を叩き、

 左腕の写シが落ちた時には首筋に二度の突きが入り、急所へ三度目の突きが走ろうとした。

(これほど)

 突きを避けて間合いを離すと、すぐさま窓を破って外に逃れた。

 結芽は激しく息を荒立てて床に倒れ込んだ。

 

 

四、

 

 前が分からない、でも世界は真っ赤に、黒く燃え上がっている。

 ひどく鼻をつく、目も鼻も開けていられない。

「私もこんなの初めてだもの、初めてだから困惑もするし、心配もする」

 赤く燃え上がる街の中を、黒い灰にまみれた少女が結芽に語り掛けた。

 そして突然に世界は、穏やかな景色を取り戻した。

「繰り返される記憶の世界で、私だけが時間を重ねている。あなたの中で意識を取り戻してから」

「あなたは誰なの」

「名前は分からない。ただ、あなたの御刀の片割れというべきでしょうか」

「御刀、ソハヤノツルギの」

「そう、三池典太光世作、ソハヤノツルキウツスナリは本来、兄妹刀であったのだけど、長い時間の中で別れ別れとなってしまった。一振りは貴女のソハヤノツルギ、そしてノロとなってしまった脇差のソハヤノツルキウツスナリ」

 黒髪の少女が手に持っていた脇差を見せた。

「そっか、ソハヤノツルギを手にしたときに声を掛けてきたヤツ」

 結芽のいきなりの抜きつけを、少女はあっさりと受け流した。

「ふざけるな、お前が、お前が私に」

「本当に私のせいだと思う」

「っ、うっさい」

「あなたの体に残っていたノロは貴女に力を貸さなかった。それどころか体の免疫を破壊しつくし、あなたを食い尽くそうとした」

「お前もそうだろうが」

「そうなら、今さらあなたの望みを叶えたりしない」

「私の望み」

「生きたいのでしょ、貴女はあなたを取り巻く人たちと少ない時間をもっと、長く過ごしていたい。そして、刀使として胸を張りたい。なら、私をどう使えばいいのかしら」

「え」

「決めなさい、あなたの事、わたしの事、そして貴女の母親のこともね」

 景色が霞み、何層もの虹の中を体が抜け、

そしてゆっくりと白い世界が目に移った。

「結芽さん、返事をしてください。結芽さん」

 鶴の声が遠く響く、そして間近に迫ったところで、泣き顔の彼女の顔がはっきり見えた。

「鶴さん、大丈夫だから、大丈夫」

「ははは、まったく無茶をして」

「ねぇ鶴」

「なんですか」

「梅は、お母さんはどこ」

 鶴は苦々しい顔でよそを見た。

「そっか、あいつを斬りに行ったんだね」

「あなたと似てね」

 

 あれから丸一日、

 梅こと恵実は一人で出立。

 そして、それを追うように二課の追跡部隊も出撃していった。

 結芽は鶴と共に施設に残っていた。

「少佐、そろそろ」

「待つんだ」

 結芽は耐えきれず机を叩いた。

「分かった、だがお前を一人では行かせん」

 部屋に入ってきたフリードマン博士とエレンは、二つの大きなトランクを机の上に置いた。

「博士に、エレンさん」

「体に大事はないようだね。今は禍人に相対する仲間だ、忘れないでおくれよ」

「どうもデース、私も快調ですよ」

「知ってる、おねぇさん誰よりも打たれ強いから」

「それはどういたしまして」

「さて、刀剣類管理局と二課の同盟の証として、最新型のS装備を受け取ってほしい」

「その話、待って」

 結芽はその話を遮った。

「少佐、教えて。なぜ梅は、お母さんはここに」

「博士」

「構わんよ」

「ふむ、我々の創設理由はノロを国内外に流通させていた青子屋の三人と配下を殲滅し、日本国内の全ての違法流通ノロを回収しつくすことだった。

恵実は創設時の取引で三人の抹殺を条件に隊員になった。その後に君がタギツヒメ事件の最中に命を落とした。梅は君が死にかけ、そして捨てられ、親衛隊としてさらに命を縮めたことを知った。彼女は大人しく任務にあたっていた。だが、君の墓参りに来ていた彼女の前に君が姿を現したとき、彼女は変わった」

「恵実さんは今のような気さくさは、ほとんどありませんでした。もっと殺伐としていたのが、あなたがここに来てから一変して、明るく振舞うようになりました。あなたが生き返ったことを喜ぶように」

「あいつの梅根性は大したものだ。ノロの浸食にも、足を見せない青子屋の三人を粘り強く、体の痛みに耐えながら探し続けた。だが、お前を救えなかった自分を梅自身は恨んでいた。だからお前を他人として扱おうとした。これが全てだ。ある意味、お前を忘れて復讐に走っていた。そんな彼女を母親と呼ぶのか」

「どいつもこいつも、勝手ばかり、嘘ばっかり」

 結芽は机を叩き、何度も叩いた。

 やがてその手で胸元を強く握りしめた。

「青子屋の反応がおかしいって分かってた。梅は、お母さんは、あえて結芽を突き放したことも、全部想像がついてた。でも、それでよかった。結芽は仇をとるためじゃない。荒魂を祓うために戦う。だって結芽は刀使の巫女だから!」

 神尾は立ち上がり、トランクケースを結芽に突きつけた。

「なら使え、ここにある全てを使い、お前の使命を全うするんだ!結芽」

 結芽はその澄んだ瞳を輝かせ、はっきりと応えた。

「はいっ!」

 

 

五、

 

 藤次はゆっくりと歩みを進めながら、朽ちた社に座る一人の男に目を向けた。

「よっ、息災かい」

「いいえ、大事なあと数回の写シを失いました」

「狂刀の藤次さんが、また」

「どうやら刀使も、禍人を越え始めているらしい。いや、禍人になったからかな」

「さぁ俺にはどっちでもいいよ」

 二人の赤い瞳が禍々しく光り輝いた。

「金一さん、あなたの目的は達せられそうですよ」

「俺の目的か、ははは、タバコがうまいよ」

「その火、もらえるかしら」

「お」

 恵実は階段を上りながら、その体からにじみ出る光が御刀の刃を赤く照らし出した。

「ほら」

 金一が煙草を勧めた瞬間、社の廃墟が吹き飛んだ。

「うぉ、荒々しい」

 何気なく着地した金一は、恵実の間合いでふてぶてしく立ちはだかった。

「嬉しいね。会いに来てくれたのか、ひまわりは咲いてたか」

「残念、雨だったよ」

「だれか泣いてたのかい、そうかい」

 突きを避けると、恵実の金剛身の拳が金一を殴りはらった。

 飛ばされた金一を眺めながら、藤次は笑ってビール缶のプルタブを空けた。

「あいかわらずアジャコングみたいな女だ」

 恵実は歩き進めながら、真っすぐに金一に目を向けている。

「やるかい」 

 金一は鞘を抜きはらい、その一撃を恵実に浴びせかけた。

 そして脇が開いたのを斬らず、そのまま蹴飛ばした。

「すまんね、足癖が悪くて」

 彼女の体は、少しずつ皮膚を裂かれ、荒魂化が進行していく、

 恵実は真っすぐ御刀を構えて迅移を発動した。

「お前たちさえ殺せば」

「満たされるよな、恵実」

 簡単に力を受け流されていることに絶望しながら、より体内のノロを放出する。

「お前の娘は出来なかったが、お前ならノロの力で人を越える」

「斬る」

「そうだ、来い」

「駄目っ」

 目の前に現れた結芽が恵実を階段に押し戻した。

「あれま」

 二人は階段を転げ落ちながら、鶴に受け止められた。

 その光景を見ながら、金一は追うこともせず二回手で空を切った。

「さてと、お祭りの始まりだ」

 彼らの後ろから無数の赤い光が輝いていた。

 

 

 

 

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