【オリジナル作品】
◎アラフォーおっさん、異世界へ女体化転生す
◎邪な神たちの介入、ありました
◎大人しい娘さんは病から癒えた後、中身はおっさんな『姐さん』に転職しました
◎尚、弟や妹やちっちゃな子やお姉さんたちからは好評の模様
「あーあ。」
わたしはため息を吐く。
川面に映る自分の裸身。
思春期直前らしき肉体。
凹凸(おうとつ)は極めて少ない。
見映えがよいとはいえない顔つき。
薄い胸。
がりがりひょろひょろに痩せた体。
わたしはぱっとしない村娘その一。
物語の脇役として一瞬出るか否か。
そんな田舎の赤毛の娘。
四〇代のおっさんは、そんな少女に転生したのであった。
……なんじゃあ、そりゃ!?
つい数日前。
職場で倒れたわたしは緊急入院し、適切な処置によって一命をとりとめたと思っていたら深夜に症状が再発して敢えなく死亡したようだ。
心臓への負荷が知らない内に溜まっていたのかもしれない。
人って、実に呆気なく死ぬんだな。
幾ばくかの時間、苦しみもがいた。
耐えられるだけ耐えようとは思ったが、それは七転八倒する程の痛みだった。
家族も医者も看護師も誰もいない。
ナースコールを使うことさえ、出来なかった。
あと一センチほど、もう一センチほど手が伸びたならば、違った人生を迎えたかもしれない。
個室で散々苦しんだ挙げ句、わたしは意識を手放す。
そうして死んだ筈だが、気づくと村娘になっていた。
「かーちゃん! かーちゃん! ねーちゃんのめがさめたっ!」
「おねーちゃん! おねーちゃん! からだ、だいじょうぶ?」
天使二名がわたしの傍にいる。
どうやらもう一回、あの世にいかなくてはならないようだ。
天使二名はドタバタと扉を抜け、どこかへ旅立っていった。
ふと右手を見ると、なにか握っている。
なんだ、こりゃ?
おっ、これは噂に聞く羊皮紙とやらか?
国産だと小樽で作られているんだっけ?
なになに。
《邪神一同からの贈り物》
【欺瞞】
【阻害】
【怪力】
【鉄拳】
【治癒】
【酪農】
【解体】
【熟成】
【発酵】
【農業】
【漁業】
【鍛冶】
【軽業】
【超高速】
【投擲】
【鉄身】
【火炎放射器】
【洗浄】
【浄化】
【鑑定】
【偽装】
【モフモフ】
【調教】
【冷蔵】
【飛脚】
【夜目】
【気配】
【洗脳】
【支配】
【温泉】
は?
はあっ?
邪神?
贈り物?
わたし、もしかして生け贄かなにか?
なにこれ?
羊皮紙がすうっと溶けてゆく。
父母と祖父母らしき人々が入室してきて、部屋は一気に賑やかとなった。
喜びにわく室内。
この人々を新たな家族として生きてみるか。
それが、たぶん成仏した『彼女』への供養となるだろう。
生きねば。
そして、わたしの異世界生活が始まった。
森の中。
猪が迫ってくる。
豚カツに出来ないかな?
嗚呼、カツ丼食べたい。
よし、コロッケとミンチカツは作るぞ。
麦飯にするって手もあるし、悪くない。
ソースは野菜を兎に角煮込んで作るか。
突っ込んできた猪に正面蹴りをかます。
五メートルほど吹っ飛んだ猪が、ドサリと地面に落ちた。
走り出す。
殺らねば。
ひのきの棒を持って近づく。
勇者系女子だな、わたしは。
大きく振りかぶって、とどめの一撃を喰らわした。
往生せいやっ!
よし。
食料確保だぜ。
「ねーちゃん、やったー!」
弟がキラキラした目でわたしを見つめていた。
うん、確かに殺ったな。
「弟よ。」
「うん。」
「この猪は愚かにも、転んで石に頭をぶつけて死んだのだ。」
「えっ? ねーちゃんが、こいつをみごとにたおしたのに?」
「みんな、信じない。」
「ぼく、しんじるよ!」
「猪は普通、か弱い女の子では倒せないんだよ。」
「でも! でも!」
「それに、この力を人に言ってはいけないのさ。」
「ど、どうして?」
「人の力じゃないから。」
「わかった! ねーちゃん、かみさまからちからをもらったんだねっ!」
「弟よ。それは誰にも言ってはいけないからね。」
「うん、わかった!」
言うな、と言ってもついつい言ってしまうのが子供。
まあ、その時はどうにか誤魔化そう。
猪を背負って運びながら、少し困ったなあと考える。
まあ、なんとかなるだろう。
今度、荷車でも作ろうかな?
村に着いたのは夕方だった。
ここは山の中の小さな村、カッツェン。
森林が近く、湖によって水源は豊富だ。
冬は陸の孤島になるのが難点だが、致し方ない。
川も流れているし、蕎麦や葡萄や林檎も取れる。
コケモモのジャムや果実水もなかなか旨い。
蕎麦茶を教えると先ず村で大流行し、次いで伯爵様の領都でも飲まれるようになった。
その内、王都でも飲まれるかもしれない。
焦がし麦の代用珈琲の普及率は今一つだが、麦茶は普及が始まっている。
さあ、みんな目覚めるがいい。
酪農と狩猟によって、乳製品や腸詰めなども日常的に楽しめるのはよいことだ。
カエデの樹液を煮詰めた糖蜜や蜂蜜や砂糖大根から取れるてんさい糖が豊富で、行商人が毎日のように訪れていた。
麦芽糖も作っているし、地酒の麦酒や林檎酒や穀物酒(コルン)などは伯爵様が楽しんで呑む程という。
わたしの家の裏庭も随分耕したので、収穫物はけっこう多い。
馬鈴薯万歳!
じゃがバターは最高だぜ!
あちこちから葛を集めてきて作った葛餅も好評だ。
葛を作るのは手間暇かかるが、女性陣が積極的に作ってくれるのでありがたい。
冬に収穫し加工しておけば、保存性の高い品として重要な位置にいるからだな。
温泉を掘り当てられたのもよかった。
異能のお陰らしいのだが。
温泉の蒸気を使った料理は、村人にも兵士にも行商人にも好評だ。
蒸し野菜、蒸し玉子。
蒸しプリンは村の女性陣の心を捉え、蒸し菓子が村の名物になる日は近いだろう。
今度は蒸しパンに挑戦してみるとしよう。
中身は芋餡だな。
唐芋は改良中だ。
小豆はまだ見つかっていないが、ずんだ餡は旨かった。
米もまだ見つかっておらず、見つかってもかなりぼそぼそした食感かもしれない。
それはそれで利用価値がある。
上新粉にしてしまう手もあるし、米粉でパンを作るという手法も残されてはいる。
もち米があれば、白玉粉も作れる。
夢はでっかく果てしなくだな。
辺境伯の領地として兵隊も常駐しているから、この村は治安の面でも安全性が高い。
村人と兵士との関係も良好。
ありがたいことだ。
邪心を持たねば、邪神から与えられた力に屈することも無いだろう。
たぶん。
猪は村の衆に歓迎され、さっそく解体されてゆく。
みんな顔馴染み。
気のいい連中だ。
父と母にちょっとばかし怒られ、妹からはなんで連れていってくれなかったのかと猛抗議された。
祖父母はにこにこしている。
明日は森に行くので、その時は連れてゆくと約束した。
この村を守るのが、わたしの使命。
そう思いながら、夜の空を眺める。
大きな月が青く光って、わたしたちを照らしていた。