地下九階の映写室   作:輪音

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【オリジナル作品】

◎おっさん、異世界に転移する
◎異世界は過去の転移者たちによって、しっちゃかめっちゃかにされていた
◎おっさんは勇者や領主になりたくない模様



開拓村からこんにちは

 

 

 

夏が過ぎても暑さのさほど変わらない、秋晴れの午後。

ゴブリン、コボルト、オークの子供たちと木陰で涼みながら遊んでいたら、副官でゴブリンのコロ助がオレの傍まで走ってきた。

謹厳実直な彼は、しゃちほこばった様子で言った。

 

「キング、ニンゲン、キマシタ。」

「お前らなあ、オレをキング呼ばわりすんの止めろよな。オレ、人間なんだからさ。」

「キングハキング。ナニカモンダイデモ?」

 

不思議そうに首をかしげる中年ゴブリン。

可愛くねえな。

こいつ、こんな顔して妻が五名いるのだ。

ようわからん。

 

「まあ、その話はまた今度にするか。で、その人間はどこにいる?」

「イツモノギョーショーニンナノデ、キングノイエデス。」

「相わかった。」

 

いつもの、ということは行商人のミョルン爺さんか。

あの爺さん、いつも元気だよな。

オレもこちらの世界に転移して以来、随分と世話になっている。

とっとと行こうか。

オレは隣の女盗賊ゴーレムと共に、自宅へ向かった。

 

「村もでえぶん盛況になってきたのう。」

「ミョルンさんのお陰です。」

「いやいや、あんたと村の連中の力じゃがな。」

 

小柄なミョルン爺さんは胡麻塩頭を揺すりながら、かんらかんらと笑った。

彼は珈琲を旨そうに飲んでいる。

今回は浅煎りだが、反応は上々である。

増産に舵を切っても問題は無かろうて。

彼は精力的でお人好しで商機に目敏い。

やり手の商人でありつつ、あちこちの人々から慕われている。

流石は元商会の会長。

実に興味深い人物だ。

訛(なま)りは強いのだが。

 

「またまた、異世界人がエラムスに転移してきてのう。」

「そげですか。」

「若いもんたちは揃いの制服を着とる。上役みたいなもんたちも何人かおったな。ええと、若いもんたちはガクセイという連中じゃったか。今は領主様の館に全員おるよ。」

「辺境伯様の館ですね。何人いるんです?」

「一三〇人ほどかのう。」

「ほほう。」

 

すると、一学年か?

『クラス召喚』か『学年召喚』辺りか。

どこの国の人間だろう?

国によってはかなり面倒くさいからな。

今のところは日本人に限られているが。

なにかしらの法則性はあるやもしれん。

 

「じゃあ、行くとしますか。ミョルンさんの仕事は済みましたか?」

「あんたのとこのゴブリンたちやゴーレムたちの動きがよいから、黒糖も珈琲も既に荷馬車に積まれとるわ。」

「では行きましょう。」

「うむ、その前にじゃな、もう一杯貰えるかの。今度は深煎りで。牛の乳もあるとよりええな。」

「はい、喜んで。」

 

その後、村長宅を出た。

以前の世界ではうだつの上がらなかったこのオレが、現在は開拓村の村長だ。

はは、笑えるよな。

『人間』がこの村にオレだけなのは残念だ。

……残念かな?

まあ、村の面々に慕われていること自体は悪いことでもなんでもない。

むしろ、いいことだと思う。

信頼がこわいくらいだがな。

 

開拓村は領主様の意向もあって、拡大政策の真っ最中だ。

ゴブリンやコボルトやオークに交じって、褌(ふんどし)一丁の盗賊ゴーレムと土ゴーレムと岩石ゴーレムとが村の畑を耕したり、荒れ地を開墾したりしている。

遣り手且つ寛容な辺境伯様のお陰で、この村の発展は約束されているようなものだ。

なんせ、砂糖黍(さとうきび)からの加工品である黒糖やラム、それに珈琲や紅茶は他所で作れない高品質の品々だからな。

ちなみに上白糖は研究中だ。

焦らず、ぼちぼちやろうか。

 

村の連中のやる気は極めて高い。

それは、オレがゴブリンやコボルトやオークたちを差別しないからかも知れない。

自治権さえ与えておけば、不満など生じないのだ。

例え、村から出る権利さえ殆ど無くとも。

まあ、村周辺は森と荒れ地が広大に広がっているから街に出る必要すら感じていないのかもな。

必要物資はミョルン爺さんが持ってきてくれるし、最近は行商人が不定期に何人か来たりする。

下手に重税をかけたり、兵隊を送ってこないところが賢いやり方だ。

一度エラムスの街の防衛戦でゴーレムを何体も送り込んだことがあるし、盗賊団を討伐し壊滅させた話も伝わっているだろうから特に問題ないだろう。

 

オレの傍に常時存在する赤毛で長身で胸の大きな美人女盗賊ゴーレムは、術式を重ね掛けしているからとても強い。

生前よりも強いんじゃないかと思う。

青白い肌がここ数日で色を取り戻しつつあるのは、術式の影響なのか?

肌色に関しては村の女性陣がやいのやいの言ってきて、化粧を施されている。

全員人間じゃないのだが、美へのこだわりはそういった種別を超えるらしい。

そんなの必要か? との疑問を彼女たちに伝えたら二時間ばかり説教された。

解せぬ。

 

 

日が落ちきる頃、無事にエラムスの街へ到着した。

街道筋に盗賊野盗強盗の類が出なくなって、安全性が高まっている。

徘徊させている褌盗賊ゴーレム一名で並の盗賊なら五、六人相手に出来るし、少々数が多くとも、岩山に擬態させている岩石ゴーレムや複数設けてある屯所から褌盗賊ゴーレムたちを出撃させれば大抵容易に打ち倒せるしな。

結果によっては、戦力が増強される。

実によいことだ。

 

先日潰した盗賊団は我が村に様々な恩恵をもたらしたし、辺境伯様からは褒賞金まで頂いた。

奴らは近隣の村々や街道などで暴れていたらしい。

領主様から討伐の命令をいただき、盗賊どもは村の軍勢で攻め滅ぼした。

普段大人しく勤勉な村の連中は、戦となるとかなり激しかった。

本隊は死体をゴーレム化したすっぽんぽん盗賊ゴーレムで村の連中は迂回させて遊撃隊としたが、まあ、なんとも勇猛果敢なことだった。

オレは転移特典の.22LR(ロングライフル)仕様たるドイツ製小銃で狙撃に回ったが、敵に当てるのが割合難しかった。

等倍の光学式照準器と二.五倍の光学式照準器が標準装備されていて、後者の方は五〇メートル先の標的が丁度視野の真ん中に来るように調整してある。

弾自体は長さ三センチ未満のちっちゃなモノだが、革鎧や鎖かたびらくらいならば簡単に貫通するので当たれば大きかった。

第二次世界大戦時の鉄兜くらいならば容易に貫通出来る弾丸なので、近接戦闘時に喰らった大抵の盗賊は身悶(みもだ)えして村の猛烈な勢いの戦士たちに追撃され打ち倒されていった。

 

盗賊団の首領である女盗賊はおそろしく素早く、そして強かった。

撃った弾や放たれた矢はことごとく避けられるか斬り捨てられ、ゴーレムもどんどん倒されていった。

多大なゴーレム的犠牲を出しながらも人海戦術で四肢の自由を奪い、オレがとどめを刺した。

敵ながら天晴れな女だった。

 

 

「当たらなければ、どうということは無い。」とある作品に出てくる某少佐がのたまっていたけれども、銃を撃って標的に当てることは存外困難だ。

その標的が動くならば尚更である。

某機動警察のとある巡査が弾を当てられないのは下手な訳じゃなく、実戦での百発百中など虚構の産物であることを端的に示しているのだ。

監督が銃器や兵器に一家言ある人物であることを考慮すれば、現実性を重んじていることが理解出来るだろう。

 

まあ、それはそれとして。

 

鴨や兎はそこそこ当てられるが、まだまだ精進が必要だなあ。

たまたま大猪を一発で倒した時、一緒に狩りをしていたゴブリンたちは大興奮していた。

狩りの名手揃いたる彼らが以前惜しくも取り逃がした大物を、素人猟師のこのオレが一発で打ち倒してしまったのだ。

村に帰ると彼らの興奮は容易に村の面々に伝播してゆき、結果、オレはキングと呼ばれるようになった。

ちなみにオレの容貌はごく平均的な日本人顔であり、ゴブリン顔ではない。

ないんだってばよ。

 

 

領主様の館に着くと、ぐったりした顔の辺境伯様に出迎えられた。

たまらんよな。

別に魔王討伐のために呼んでいる訳でもないんだから。

この世界には魔王が存在しない。

召喚魔法も現在は存在しないとか。

どこかの誰かが愉快犯的に送り込んでいるのかも知れない。

そうだとしたら、とても人騒がせな奴だ。

 

 

オレがこのセカイにやって来て、およそ半年。

その間にこのセカイへ転移してきた地球人は、おおよそ三〇〇人。

ぜーんぶ日本人だ。

その殆どが高校生男子で、残りはあんちゃんとかおっさんだった。

まあ、オレもおっさんだが。

生き残っているのは一割に満たない。

領主様もオレも散々注意喚起するのだが、やんちゃな彼らは短期間で無茶をしてあっさりくたばってしまう。

冒険だなんだと騒いでろくな装備も無しに野外へ飛び出し、野性動物や盗賊などの餌食になってしまうのだ。

アフリカの奥地でろくな武装なしに猛獣を相手にするようなものだというに。

生き残り組は王都へ向かう者、他国へ向かう者、エラムスの街に残る者と三者三様に別れた。

意識の高い者、野心を秘めた者、安定性を求める者。

彼らの選択のなにが正解かは、二〇年くらいすればわかるだろう。

 

今回召喚された日本人は四組一二八人。

一組に付き三〇人の学生と担任副担任。

高校二年生が始業式の当日に召喚されたのだとか。

季節のズレがあるな。

学生服の男子とセーラー服の女子。

今回は共学か。

慣れた感じでよどみなく、エラムスの役人が状況説明してゆく。

動揺する彼ら。

半年の間は生活保障するので、その間に技能を身に付けるなりどこかへ就職するなりするようにとの通達が為される。

そしてオレには、教師たちや級長副級長との話し合いが待っている。

拒否権が欲しいところだけれども、普段辺境伯様からあれこれ便宜を図ってもらっているために断れない。

常識がまるで異なる相手なんて、あまりやり取りしたくないだろう。

たまに領主様と酒を一緒に呑んでいたら盛大に愚痴られるので、ストレス発散がある意味急務だ。

奥さんたちとの夜もうはうはに程遠いとか。

苦労してんだよな。

王室は完全放置を決め込んでいるし、周辺国の反応も芳(かんば)しくない。

過去にやらかしまくったのが、今も色濃く響いているのだろう。

生卵納豆混成掛けご飯を食べるなど、夢のまた夢となっている。

 

今回召喚された面々は大変理性的で、論理的だった。

前回、前々回が非常に酷かったので、個人的に嬉しい。

今回も特別な異能を獲得した人間はいないようで、どうやら世界の危機には繋がらないようだ。

オレの背後にいる女盗賊ゴーレムが気になる人間は多いようで、彼女に関する質問が存外多かった。

手にしている小銃の口径が小さいので以前召喚された連中にはめっさ馬鹿にされたものだけれども、対人戦を想定した火器ではないのでこれでいいのだ。

それに人間だって、この口径の弾でよく死んでいるんだぜ。

.22LRは外国に於いて幅広く使われている弾なのだが、馴染みの薄い弾なのかいまいちよくわからないみたいだ。

 

話が一応終わり、翌朝また話をしてから開拓村へ帰る手筈となった。

伸びをしながら小銃の負い紐を肩に掛け、女盗賊ゴーレムと共に宿舎へ向かう。

ちなみに銃口には麻の小袋をかぶせてある。

ぶらぶら歩いていたら、女学生から声を掛けられた。

さっき話し合いをした中にいた娘の一人だ。

賢そうに見える彼女は言った。

絶対に元の世界へ帰れないのかと。

わからないと答えておく。

可能性は低いかも知れないが、帰る手段が絶対無いとも言い切れない。

難しいところだ。

おかっぱ頭のちょっと可愛い系眼鏡っ子女学生は、開拓村を見てみたいと言った。

領主様の許可が下りたらな、と彼女に伝えておく。

帰ったら、珈琲や紅茶の原木探しに向かおうかな。

ぼんやり考えていたら、女学生がオレは独身なのかどうか聞いてきた。

そんなことを聞いてどうするのかね?

 

「なんでそんなことを聞くんだ?」

「『彼女』がきちんと化粧を施されていて、髪や装備も手入れされていて、大切にされている感じがしたからというのが第一点です。」

「は?」

「『彼女』があなたにとってとても大切な人なのか、別のあなたの大切な人が『彼女』の手入れをしているのか。それは似ているようで、異なる話です。」

「村の女たちがいつも化粧をしてくれているよ。鎧とか装備は専門家に丸投げ、身だしなみは整えるようにしている。」

「ゴーレム、なのにですか?」

「ゴーレムだからなんだよ。」

「少なくとも、『彼女』は消耗品じゃないんですね。」

「オレが直接命を奪った女だからな。」

「……そうですか。」

 

 

 

七日後、彼女は八人の女子と一人の新人女性教師を率いて開拓村へとやって来た。

当分この村で働くつもりらしい。

先触れくらいは欲しかったなあ。

仕方がないから、オレの家で住まわせることにする。

村唯一の宿屋を兼ねた造りだし、急場を凌ぐには丁度いいだろう。

その内に飽きて戻るだろうしな。

男子が色目を使ってくるのでうんざりしたとか言われたけれども、若いしそんなもんだろ。

取り敢えず、うちのかしまし女性陣に預けて様子を見ることにしよう。

あいつら、オレを見てにやにやしていやがった。

絶対、なにか勘違いしていやがる。

 

更にその七日後。

領主様から、追加で女子を二〇人ほど引き受けられないかとの連絡が来た。

断れないじゃん。

先住民とのいざこざ的な確執があると困るんだけどな。

あちらがダメでこちらもダメとなると、この先大変だ。

ほんと、わかっているのか?

ま、なんとかしてみせるさ。

うちの連中が受け入れられるなら、この世界でもなんとかやれないことはないと信じたい。

 

あ、こら、ガキんちょ共。

服を引っ張るんじゃない!

あ、泣くな!

泣くんじゃない!

わかった!

わかったから!

はいはい、森の探索だな。

ゴーレム作成!

よし、行くぞ!

 

 

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