【三次創作:『提督をみつけたら』より】
昔々の遥かな昔。
毎日毎日の深海棲艦との熾烈な争いは、艦娘をいやになっちゃうくらいの気持ちにさせちゃいました。
その過酷な戦争もとっくの昔に終わり、今や艦むすたちは平和な世界にて平穏に暮らしています。
平和な毎日を暮らす内に、艦むすのみんなはこう思うようになりました。
『私の提督を見つけなくっちゃ!』
このお話は、提督を見つけんとする猛禽系娘となりし女の子たちと必殺ロックオンされちゃった提督適性者たちのものナリ。
おそらく。
きっと。
※本作は『提督をみつけたら』を元にした
三次創作作品ですが、本家のパラレルワールドです。
そのため、設定や世界観について本家と異なる場合があります。
予め、ご留意ください。
本編に及ばぬ小品ではありますが、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
社会の時間に、この世界がしんかいせいかんとの戦いとで危うく滅びかけたことを習った。
しんかいせいかんは世界をめちゃくちゃにして、東京も名古屋も大阪も福岡もやられちゃったそうだ。
今もそれらの都市はふっこうがおくれていて、この国の今の首都の京都とそのしゅうへんに人々が多く集まってくらしている。
どこからともなく現れた艦娘と妖精さんと彼女たちに認められた提督と自衛隊といっぱいの人たちががんばってがんばってがんばり抜いて平和を取り戻したんだ。
戦争が終わった後、艦娘たちは妖精さんにおねがいをして子供が産めるようにしてもらった。
そして艦娘は大好きな提督といっぱい子供を作って、この国の人口がそれだけ増えていった。
戦争前、日本の人口は一億を超えていたという。
今とは全然違うんだけど、艦娘たちがいっぱいいっぱいがんばって提督と子供を作ったのでまわりの国の手助けが出来ているらしい。
現在の日本の文明度は、昭和五〇年代前半に近いと先生は言っていた。
地球の人口はほろびた国が多いので大体の数字になるそうだけど、現在一〇億くらいはいるんじゃないかなという話だ。
近くの艦夢守市(かんむすし)の学校には提督適性者の同級生がいて、何名もの艦娘のお姉さんと結婚する予定らしい。
艦娘は提督適性者とだけしか子供が作れなくて、その提督だけしか好きにならないという話だ。
同じクラスの女子が『運命の人』としか結婚出来ないんだね、と言ってたけど僕もそう思った。
ここは兵庫県冬木市。
海沿いの地方都市だ。
麻婆豆腐が街の名物。
僕の家は艦娘専門の銭湯をやっていて、夕方からはけっこう混んでいる。
艦夢守市を含む近隣都市から、艦娘のお姉さんたちがここを訪れるのだ。
僕とあまり変わらない感じの年頃の子から大きなお姉さんまで、艦娘が毎日わんさかやって来る。
一種のサロンみたいな場所だとお母さんが言っていた。
情報交換の場所としても活用されていると言っていた。
こんかつがどうとか言っていたけど、豚カツみたいな料理の話でもするのかな?
お母さんは昔軽空母の艦娘だったそうだけど、今は『先代』となっていて『今代』でないらしい。
その『今代』は艦夢守市にいるとか。
よくわからないけど、そういうことだとか。
番台に立つと、艦娘のお姉さんたちからよく話しかけられる。
彼女たちからすると僕は弟みたいな感じらしく、おっぱいを見られても平気らしい。
で、この銭湯にはお肌が少しくらいよくなる効果があるのだという。
効能は『有馬温泉のはとこのまたいとこ』くらいなのだと、お母さんが言っていた。
銭湯は戦闘だ。
いやいや、本当に。
掃除の時はデッキブラシでがしがしとこすらないといけないし、ボイラー室は年中暑い。
お湯と水の出てくるカランがおかしくなったらすぐに直さないといけないし、なにかあったらお姉さんたちのおっぱいの森を抜けないといけない。
学校が終わったら、毎日銭湯の手伝いをするのが当たり前のことだ。
休みの日の夕ごはんに、ホルモン焼きのお店に行くのが楽しみだったりする。
いつもの夕ごはんだと、おにぎりとおしんことちょっとしたおかずをすばやくわしわし食べるだけだ。
たまにお好み焼きやたこ焼きやたい焼きなどが台所にあったりする。
それらも急いでお腹の中に入れて仕事をするんだ。
お母さんも、それは同じことだ。
仕事を終わって、へとへとになった頃にお母さんといっしょにお風呂へ入る。
時々、小人さんもいっしょだ。
お風呂に入ったらうとうとしてきて、気づいたら朝だったりする。
お母さんのだきまくらにされていることもよくあることだ。
大変なことがいっぱいなのに、みんなにこれらの話をしたらうらやましがられる。
そして、怒られることもある。
なしてさ?
僕には夢がある。
刀匠になって、歴史に残る見事な刀を打つんだ。
小さな頃、京都の博物館の展覧会で沢山のお姉さんたちにもまれながら数多くの刀を見た。
僕はあの日からずっとずっと、刀にみりょうされ続けている。
中世の頃、中国地方の備前国や備中国などでは刀作りが盛んだったそうで、備中刀の刀鍛冶がこの冬木市に住んでいるそうだ。
市内の神社で巫女さんもしているとか。
お母さんもその人を知っているらしい。
いっしょに神社で仕事をしたことも何度かあるという。
うん、おあつらえ向きじゃないか。
ある日、学校が終わった後。
銭湯が休みの日。
僕はその人に弟子入りすべく、バスで鍛刀場へと向かった。
お母さんに書いてもらった紹介状を持って、停留場からてくてく歩く。
やがて、『ろくまるいち』という看板が見えてきた。
ここが目的地のようだ。
「私は水田一門の一三代目国重(くにしげ)。通称は大月与七郎。彗星刀を打つのが夢の、雲龍剣を使う武骨な刀鍛冶よ。」
美人のお姉さんに出迎えられ、自己紹介された。
黒い烏帽子(えぼし)に灰色の長い癖毛、白い着物に黒い袴。
胸がとっても大きい。
僕のお母さんのおっぱいよりもずっとずっと大きい。
お客さんのお姉さんたちの中でもかなり大きい方だ。
国重さんも僕を見て何故かとてもびっくりしている。
そして、彼女は口を開いた。
「私は雲。なにものにも囚われぬ雲。」
「え?」
「でも、今、その雲は慈雨をもたらす時雨と化した。雨は川となり、大海へ注ぐ奔流となって、やがては龍へと変化する。」
「は?」
「雲龍型航空母艦、雲龍、推参しました。提督、よろしくお願いしますね。」
「え? え? ええっ!?」
【刀匠見習いと雲龍剣】
刀鍛冶になろうと思って鍛刀場を訪ねたら、その師匠が艦娘で僕は彼女の提督だという。
信じられない!
オー、マイブッダ!
で、師匠は何故か僕の家にいて、いっしょにご飯を食べている。
「そうか、キミ、うちんとこのぼんを見た時にビビビと来て、艦娘としての力が顕現したんやな。」
「はい、びっくりしました。」
「そらびっくりしたやろなあ。よかったなあ、ぼん。職場と嫁さんの双方を同時に入手出来て、えらいこっちゃ。」
お母さんがぐりぐりと僕に抱きつく。
白いカッターシャツにサスペンダー付きのスカート。
今日は、『こうくうくちくかんしよう』なのだとか。
お母さんというよりもお姉ちゃんみたいな人と思う。
今日の晩は秋刀魚(さんま)尽くし。
魚屋さんで安く手に入ったのだとか。
ほっぽちゃんのとこで買ったんだな。
お鮨につみれ汁にフライにコロッケ。
刺身に蒲焼きにハンバーグもある。
「秋刀魚って、こんなに美味しいのね。旬の食べ物って、本当に素敵だわ。そうだ、今度時雨にも食べさせてあげよ。うふふっ。」
師匠が喜んでくれてなによりだ。
三人でお風呂に入って、いっしょにねた。
こうして、僕は彼女の提督適性者でなおかつ弟子という立ち位置を得た。
何故だか同級生たちにすぐ知られてしまい、めっさうらやましがられた。
同級生たちがどうしても僕についていきたいというので、社会見学という名目で学校のみんなと師匠の職場に行くことになった。
初めて見る師匠の技にみんなおどろき、師匠の手伝いに来ていた女の子は女子から大人気だった。
その子も艦娘らしく、師匠の向かい槌を巧みにこなしていた。
僕もいずれそうなってみせるさ。
師匠の刀術をみんなといっしょに見せてもらう。
ぶんぶんと音を立てて、重たい鉄のかたまりが風を切る。
きれいだ。
そう思う。
鹿島新当流と江戸柳生の技を合わせた剣術が、雲龍剣なのだと師匠は言った。
刀の使い勝手を研究していく内に、刀術を身につけたのだと教えてもらった。
ある日のこと。
師匠がなぜかまっかな顔で『おとまり会』をしようと言った。
お母さんに話してみた。
すると、こう言われた。
「その年で女殺しかあ。ウチは末恐ろしい息子を産んだんやなあ。まあ、まだその年やとアレは要らんか。よし、あんじょう気張りや。」
お母さんはなにを言っているんだろう?
「ええで。男になってこい!」と言われたのでその通りに師匠へ話したら、その日の彼女はなんだかおかしな感じだった。
おとまり会の日。
師匠はいつもとちがって、なんだかわたわたしている。
夕ごはんは僕が作ることにした。
師匠は腹ペコになりやすいそうで、おいしいごはんを食べるのが大好きなのだ。
イタリア料理店のお姉さん直伝の技、とくと見るがいいさ!
といっても、ペペロンチーノとかのかんたんな料理だけど。
トマトとリコッタチーズのサラダを一口食べて、師匠は言った。
「くぅ……やるじゃない……。」
くくく。
まだまだ。
お母さん直伝の大阪流ブタコマお好み焼きやで!
おまけに四川風麻婆豆腐あんまり辛くないやつ!
ペペロンチーノとブリヌイも合わせてどうぞや!
「直撃!? 機械室! 予備電源を!」
とどめは玉ねぎケーキとカスタードプリンを食うてみい!
ドイツとフランスの料理店のお姉さんたちから教わったこの技を!
今!
必殺の!
ファイエル!
「やられた……傾斜回復を! ……もう、沈みは……しない……。」
食後、いっしょにお風呂に入って、いっしょの布団でねた。
まちがっておっぱいにさわった時、師匠は大丈夫よと言ってくれた。
僕はすてきな師匠にあえて、とってもよかった。
【提督と雲龍】
秋晴れの風が強い日。
僕は正式に師匠の提督になることを決めた。
結婚するにはまだまだ早いけど、僕は師匠とずっとずっと一緒にいることを決めたんだ。
「師匠。」
「確かに私は提督の師匠だけど、そこは台詞が違うわ。」
「いいんですか?」
「いいのよ。提督に出会えるなんて、途方もない果報者の証なんだから。」
「では……ええと……あ、改めまして……雲龍。」
「はい、提督。」
そのしゅんかん。
パチパチパチッと、心の火花が飛び散ったように思えた。
うれしそうな顔をしていた師匠が、何故か少し悲しげな表情になる。
「私達、これからも一緒にいられるのかしら?」
「大丈夫ですよ、ずっとずっと一緒ですから。」
師匠の目を見る。
師匠も僕を見る。
「そうね。……そうよ、私もずっとそうであって欲しいと願っている。」
僕たちは手をにぎりしめあった。
そして、僕は願う。
ずっとずっと、雲龍と一緒にいられるようにと。