地下九階の映写室   作:輪音

16 / 36



【オリジナル】

◎北の街に住むほんのりショタ系のお姉さんの元へ、可愛い甥っ子来訪

◎お姉さんと甥っ子は朝も夜も一緒



北の街から

 

 

 

あ~あ。

婚活にまた失敗した。

流れ作業的に、男と女がほんの数分ずつ会話してお互いによい人を見つける。

そんなやり方で上手くいくのかと疑問に思いつつ三度挑戦したが、すべて見事に空回りしてしまった。

今回もそうだった。

まあ、運命の出会いなんて現実にはなかなかないよね。

 

暗い街。

凍る道。

帰り道。

路面電車やバスや車がばんばん行き交っているけど、人口流出に悩む地方都市。

地元の人々は他の都府県をあまり知らず、観光客は訪れるものの外国語ばかりが飛び交っている。

珈琲の街。

パンの街。

ソフトクリーム天国。

海の幸。

乳製品。

お米。

いいところもいっぱいあるのだけど、近隣の市や町に人々が移り住んで駅前の賑わいは遠い昔になりつつある。

駅近くにある百貨店も来年には閉まってしまうし、そうなると周辺は更に酷くなるだろう。

新幹線が完全に出来たら、一体どうなるのかな?

JRが第三セクターになるって話もある。

図体と財布が噛み合っていないんだよね。

嗚呼、地方創生うんたらって、どこで売っているのかしら?

私を包み込んでくれる愛って、どこで売っているのかしら?

 

男の子好きなのが、いろいろと上手くいかない要因なのかも知れない。

教室になにも着ていない男の子たちがずらりと並んでいる風景を想像しただけで、ご飯三杯はイケる。

教員免許は取れたものの周辺の教育機関で空きが無かったため、伝(つて)を頼って小さな会社に就職した。

まあ、教え子にきゃあきゃあ言う教員など問題だらけだろう。

これはこれでよかったのかも。

 

 

秋田美人の伯母上から電話があって、甥っ子の翔太君をこの年末三連休の間預かって欲しいと言われた。

えっと、小学四年生だっけ?

伯母夫婦が仕事の都合で家におらず、お姉ちゃんの小都子ちゃんも陸上部の遠征でいなくなるのだとか。

私も仕事が休みなので、引き受けることにした。

 

新幹線の駅まで、翔太君を迎えに行く。

三年ぶりに会った彼は、なかなか可愛らしく成長していた。

お腹が空いたという少年を連れ、駅舎に隣接する土産物屋群の中のラーメン屋で食事をする。

うまいうまいと勢いよく食べる甥っ子。

可愛い。

都心で走ってもおかしくなさそうな、ピカピカの快速の汽車に乗って帰宅する。

翔太君は興奮しているようだ。

私からすると見慣れた情景だけど、彼からすると新鮮度が高いらしい。

かつて要塞があった山へ向かうバスが丁度出るところだったのと、私の手を握って行こう行こうと言う少年の勢いに負けたのとで山頂へ向かった。

人がみっしり乗り込んでいて、車内では外国語がばんばん行き交う。

アジア、ヨーロッパ、様々な国の言葉。

ロープウェイに乗って、いざ山の頂へ。

 

 

世界三大夜景のひとつは確かにきれいだった。

 

 

翔太君と共に路面電車に乗って帰宅する。

お風呂は普段どうやっているのかと聞いてみたら、お姉ちゃんといつも入っているのだとか。

よし、ならば一緒に入ろう。

少年の背中を洗ってあげた。

尊い。

 

布団は一組しかないので、一緒に寝るしかない。

仕方ないよね。

その夜は大変暖かに過ごせた。

 

ふわふわパンとコーンポタージュと低温殺菌牛乳という朝食を摂取して城郭へ向かう。

旧幕軍と賊軍が戦い、そして古い体制が終焉を迎えた地。

賊軍は官軍を詐称し、やがて新たな国家を作って世界戦争へ参加するようになる。

この国の近代化は、人を幸せにする目的で行われたのだろうか?

歴史を知る度に、なんだかもやっとしてくる。

まあ、その辺りは少年に言わないことにしようか。

彼は彼で別の切り口を見つけるだろうし。

かつての激戦地も、今はこの街を象徴する建築物だ。

 

この街を拠点として走り回る仮面戦士三人衆が、城郭内でお出迎えをしていた。

なにかの催しかしら?

ホッパー・アインス、ホッパー・ツヴァイ、ホッパー・ドライの三人に翔太君も大喜びで何枚も撮影させられた。

ふふふ、やっぱり子供ね。

……私くらいやそれ以上の年齢の男性も大喜びしているみたいだ。

ま、まあ、平和なのはいいことね。

黒タイツの戦闘員たちが続々と現れ、寸劇……もとい、正義の戦いを繰り広げてゆく。

怪人役の人も幹部役の人もまるで本物みたいに気合い充分で、とても見応えがあった。

 

何ヵ国もの言葉が行き交う場所で、翔太君はとても輝いている。

それはもう、キラキラとしていた。

可愛い。

奉行所では衣裳の貸し出しまであって、彼は幕軍の恰好となる。

尊い。

人懐っこい仔犬のような目で私も変化を要求され、町娘のような恰好となった。

考証的におかしい感じもしたが、観光地でそういったことを言うのも野暮かな。

幕末やら明治やらが混在したような人々の中で撮影された。

外国の観光客にも沢山撮影される。

キュートだとかプリティだとか言っていたが、あれは翔太君のことだろう。

 

往時の姿の一部を復元した建物の中に入って、当時の人々に思いを馳せる。

洋装の鬼の副長によく似た……たぶん役者の卵なのだろう……男前の人からとても丁寧な説明を受けた。

翔太君はどうやら本物だと思い込んでいるようで、目を輝かせながら勢いよく質問の嵐をぶつけている。

青年は厭な顔ひとつせず、子供にもわかりそうな言葉で簡潔に説明していった。

いい人ね。

そして、惜しみつつ要塞跡を離れる。

 

 

さて、これからどこへ行こう。

トラピスチヌ修道院。

トラピスト修道院。

大沼公園。

江差や松前はちょっと遠いな。

汽車が走っていたらまだしも。

お昼は郵便局近くの市場で、噴火湾のズワイガニのお寿司を食べるのもいいだろう。

 

そして私は、笑顔でいっぱいの少年に向かってやさしく話しかけた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。