【二次創作】
◎原作:『Fate/stay night』
◎士郎の前に現れたサーヴァントは女の子じゃなく、渋いおっさんだった!
「儂の名はせいばー。問おう。そなたが儂のますたーとやらか?」
渋い声が古い蔵の中に響く。
時代劇に出演するがごとき、初老の侍の身なりをした男が窓からの月の光を浴びていた。
彼の足元には魔法陣がある。
光り輝く、円形の召喚陣が。
問いかけられた少年は、その言葉に対して返事をすることさえ出来なかった。
血まみれ故に。
その声を発した彼は蔵に近づく存在を察知するや否や、ひょいと魔法陣から出て不審者へとおっとり刀で向かってゆく。
まるで、舞うが如くに。
月の光に照らされ、青タイツの青年が槍を構えていた。
常識的に考えれば銃砲刀剣類所持違反なんちゃらだが、そんなことを言える雰囲気ではない。
槍を持つ男が殺気に満ちているからだ。
少年に問いかけた男は平然とした表情で、腰の刀をすらりと抜いた。
抜けば斬る。
そんな気配で周囲を満たしながら。
まるで江戸時代の侍のごとき男が、全身青タイツの槍兵を視線だけで圧倒していた。
青タイツ男は動けない。
動けば即時に斬られる。
その予感が、悪寒的にひしひしと彼の脳内を圧迫するのだった。
意気軒昂に見える侍に問いかけられた少年は、現在生死の狭間をさ迷っている。
少年こと衛宮士郎まっこと確かな童貞高校二年生は青タイツ男に追いかけ回された挙げ句に殺されかけ、自宅の土蔵までなんとか逃げた際に偶然魔法陣が発動した。
時代劇に出てきそうな渋いおっさんが現界し、血まみれになりつつ驚愕する士郎。
そこへ青タイツ男がやって来て、今の状況に至る。
赤い外套の男と青タイツ男の激しい戦いを放課後の校庭で偶然目撃したことから、士郎は後者からずっとずっとずっとずっと追いかけられていた。
槍で時折刺されつつ。
士郎の動きのよさが致命傷に至らぬ傷としたのか、はたまたそれが故に痛みが終わらぬのか。
そして今は自宅の敷地内の土蔵で、幾つもの傷を負って虫の息だ。
魔法陣から現れた渋いおっさんへ、答を返す余力さえ存在しない。
「ふむ、どうやらますたーは死にかけておるようだの。死相が出ておったわ。まあ、人はいずれ死ぬもの。ならば、この刀を血潮に濡らすも一興。」
にやり、と笑って壮年の侍は刀を青タイツ男に向ける。
切っ先はぶれることなく長身の男の方を向き、何時でも斬り裂ける雰囲気だった。
呆れた口調で槍兵は剣士にやり返す。
「いいのかよ、ほっといたらあいつはおっ死(ち)んじまうぜ。」
「我が主になる男ならば、死線の五つや六つは平然と越えてもらわねばならぬ。」
「ひっでえサーヴァントだ。」
「お主も似たようなものであろう。」
「ちげけねえ。んじゃ、そろそろ殺り合うか。なあ、セイバー。」
「そうだの、らんさー。」
血をどばどば流しながら、彼こと士郎は嗚呼俺このまま死んじゃうのかなあとぼんやり思いつつ愉悦に歪んだ二名の闘いをかすれゆく意識の中で見守るのだった。
士郎は普通に目覚めた。
痛みは感じない。
あれほどの傷を負ったのに。
どうしてだかなにも着ていない状態だが、体の点検をするには都合よい。
体中をしばらくまさぐってみるが、刃物による傷はどこにもないようだ。
不思議なことである。
前向きに考えようと思って立ち上がる少年。
服はすべて丁寧に折り畳まれ、彼の枕元に置かれている。
ところで何故自分はなにも着ていないのだろうと思いつつ、ぎんぎんな解放感に満たされてもいた。
と、彼は違和感を覚える。
少年は耳を澄ませてみた。
激しい金属のぶつかり合う音が外から聞こえてくる。
なにが起こっているのか?
まだ日も昇らぬ暗い中、部屋の外へ出ると赤い外套の男が侍に圧倒されていた。
妙に艶々した侍が舞うように侵入者へ近づくや否や彼を袈裟斬りにし、よろめいた男は少年の屋敷の塀へ飛び上がって逃走に移った。
「浅かったか。やりおるわ。さて、ますたーよ、あやつを追って殺(あや)めるか?」
静かな声で淡々と問いかける侍。
振り向きもせぬままに。
「殺しちゃダメです、セイバー!」
「ほう? 殺めてはならぬのか?」
「そうです!」
「殺めねば殺められるぞ、ますたー。」
「うっ、そ、それでも可能な限り、人が人を殺しちゃダメなんです!」
「甘いのう。」
「正義の味方はそんなことをしないんですよ!」
「正義の味方?」
首をかしげつつゆるりと振り向く男。
異形でも見るかの如き表情をしつつ。
「そうです! 爺さんの目指した存在に俺はなるんですから!」
「ますたー。」
「はい。」
「その、正義の味方とやらの話を詳しく聞かせてもらおうか。」
と、その時。
「ごめんください。」
やさしい声が、士郎の家の玄関の外側で響いた。
「はーい。」
セイバーを引き連れながら玄関へ出てゆく士郎。
美しき人形のような愛らしい雰囲気の娘がそこにいた。
少年を見た彼女は一瞬怯んだようだがすぐに立ち直ったようで、両手でスカートの端を摘まみ、洗練された所作を行う。
それはカーテシーと呼ばれる挨拶。
「はじめまして、わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。あなたがシロウね。あなたは、わたしからファーターのキリツグをうばったちょうほんにん。だから、ここでわたしはあなたの命をうばってちょうじり合わせをするわ。じゃあおやすみなさい、えいえんに。さあ、出てきなさい、わたしのサーヴァント! だれにも負けないさいきょうのサーヴァント! やっちゃえ、バーサーカー!」
褐色の巨体の戦士が門外に出現し、士郎の前に飛び出した侍へ殴りかかる。
その手にあるは巨大な棍棒。
いや、それは石くれなのか。
一撃でも受けたらバラバラになりそうな勢いで戦士は鈍器を降り下ろした。
だが。
ひょい、と受け流しながら舞うが如くに侍は巨体の胴へ一撃を叩き込んだ。
その一刀は深い。
ぐおおお、と苦悶の声を上げる巨人。
整った顔の幼い主人が従者へと叫ぶ。
「バーサーカー!」
「ふむ、こやつ、胴を斬られて尚死なぬか。いや、死してまた生き返るのか? なんとも面妖なことよの。」
首筋へシュッと刀の先が吸い込まれてゆき、剛力溢れる感の肉体から血しぶきが発生する。
「首をはねるならば、厚重ねの肥前刀の方がよかったかの。」
巨人の振るう巨大鈍器をひょいとかわし、彼は更に足首へ一撃入れる。
「はて、これでも斬り飛ばせぬとは。浅かったか?」
いわゆるアキレス腱を斬った剣客。
だが、命を幾つも持ち自己回復力の高いバーサーカーの致命傷にはならない。
「バーサーカー! せんりゃくてきてったいをするわよ!」
少女の声がするや否や、素早く後方に跳躍して剣の間合いから離れる英霊。
主人と従者が素早く立ち去った後、侍は自身の主人へとやさしく微笑んだ。
「成程、これは面白い。今宵も楽しめそうだの。」
士郎は知った。
この温厚そうに見える侍もまた、襲ってきた連中と本質的に同類なのだと。
だが、しかし。
自分自身の正義を彼に是非とも伝えなくてはならないのだ。
秘蔵の映像作品群と書籍群を彼にすべて見せねばならない。
侍は思った。
主には早く服を着てもらいたいものだと。
明けゆく光に照らされながら、主従はまるで異なる思いに身を委ねるのだった。