地下九階の映写室   作:輪音

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【オリジナル】

今回は、黒金mark9様からいただきました設定に基づいて書かせていただきました。

オリエンタルっぽい異世界に転生した少年が、美形の上司に振り回されるお話です。







黒天王様と俺

 

 

 

俺の名は有良(ありら)。

前世での名は伏亜喜良(ふせあきら)。

クールで無口で頼れるナイスガイ。

それがこの俺だ。

同級生の女の子をかばって不細工なおっさんに刺殺された俺は彌鸞(みらん)神の慈悲によって異世界転生し、現在は人狼(じんろう)として那波(なは)大陸南域の領主たる黒天王(こくてんおう)様に仕えている。

俺自身は稀少価値の高い存在なのだとか。

領主様は眉目秀麗で、長い黒髪にすらりとした長身の所有者。

最初に黒天王様にお会いした時は、絶世の美女かと思った程。

美声の持ち主で、脱いでもらわないとどちらかわからないくらい。

しかも文武両道に長けており、沈着冷静頭脳明晰。

と、一見非の打ち所がなさそうな黒天王様の泣き所は麗しの妹君。

彼は重度のイモウトスキーなのだった。

なんてこったい。

素晴らしき波瑠沙(はるしゃ)様と並ぶと正に絶景かな絶景かな。

絵にはなるんだよな、絵には。

確かに眼福ではあるのだが、妹君のために政務を放り投げるのは止めて欲しい。

というか、早く結婚していただきたい。

この状況ではあり得ないみたいだけど。

 

下っ端。

雑色(ぞうしき)。

使いっ走り。

まあ、そんな感じで俺は日々東奔西走している。

「別に……。」と時折言いつつ。

俺はクールが売りのクレバーな男だから、少々のことではへこたれないのだ。

 

 

俺の直属の上司である黒天王様は妹君の波瑠沙様を溺愛されており、その有り余る才能を彼女に惜しみなく注ぎ続けている。

その一部でも仕事に回したらいいのに。

おまけに神出鬼没ときているので、疾風怒濤の展開が日常茶飯事だ。

これでは、周囲の者たちもたまったものではない。

お陰で日々の政務は滞りがち、文官たちに俺が問い詰められることも少なくない。

不幸だわ。

妹君にめっ、された黒天王様が離宮からとぼとぼ戻ってきたところを、武官を含む皆で輿(こし)に乗せて執務室まで運ぶのが通常業務だ。

正直、しんどい。

エナジーが枯渇しないように動きたいものだが、そうも言っていられないことが多々ある。

 

午前中に黒天王様を追いかけてくたびれ果てた俺は昼食後、体の奥底のなにかが枯渇してくることを感じる。

あ、いかん。

魔力切れだ。

どうやら、使いすぎたみたいだ。

人の形を保てなくなった俺は、狼の姿へと変化してゆく。

この姿では仕事も出来ない。

致し方ない。

今からは強制的に休み時間。

そこいらを散歩でもするか。

 

宮のだだっ広い庭園を狼のまま散策していたら、女官たちからやたらと触られた。

どきどきする。

いやいや、俺はクールな男だ。

女の子にうつつを抜かすような、そんな軟派野郎なんかじゃない。

彼女たちに腹を見せたのは親愛の印であって、決して快楽に屈した訳ではない。

尻尾がぶんぶん動いた気もするけど、気のせいだろう。

そうに決まっている。

 

やっと、女官たちの魔の手から逃れることが出来た。

いやはや、危ないところだったぜ。

 

「あ、あの……。」

 

木陰から波瑠沙様が現れた。

ま、不味い。

おどおどした雰囲気だが、逃がしまへんでといった気配も醸し出されておられる。

抵抗は無意味だ。

ならば、流れに従うしかあるまい。

 

 

結局、波瑠沙様にわしわし撫でられている最中に魔力の取り込みが出来た俺は人の姿へ戻り、非常に気まずい瞬間を味わった。

悲鳴を上げる姫様。

俺がこうなるって、前から知っている筈なんだけどなあ。

殺到してきた武闘派の女官たちから次々鉄拳を食らい、あっという間に昏倒する。

理不尽だ。

 

その後、お詫びに姫様手作りのお菓子を下賜された。

おいちい。

一個食べたところで、彼女の麗しのお兄様が現れた。

じっと見つめられる。

思わずどきどきしてしまう。

二個目を口にした時点で、黒天王様の血涙が見えた。

……えええ?

致し方ない。

無念無想の勢いにて、我が主君にお菓子を進呈した。

 

 

翌日。

黒天王様が真面目に政務に励んでいる。

ご機嫌の状態なので、溜まった書類の山が目に見える勢いでどんどん減ってゆく。

今日は、槍でも降ってくるのだろうか?

どうやら、妹君に随分叱られたらしい。

毎日とは言わないが、月の半分くらいはこうだといいのだけれど。

さあ、今のうちに皆さん、書類をたんまり持ってきてくださいな。

逃げないように見守ろう。

 

「どうかしたかね?」

 

美しい声が聞こえてくる。

俺の主の発した言霊。

この身が震えてくる。

 

「べ、別になんでもありません……。」

 

まるでツンデレ娘だな、といらぬことを考えながら答える。

不意に振り向くと、離れた柱の陰から姫様がじっとこちらを覗いていた。

嗚呼、道理で黒天王様が仕事をしている筈だ。

 

いつまでもつのかわからんが、少しは楽に仕事をしたいものだと思った。

 

 

 

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