【オリジナル作品】
◎『スター・ウォーズ コンプリート・ロケーションズ』から大いに創意を得ました
◎プロボット(プローブ・ドロイド)みたいな探索機の話にしようかなと思っていたら、いつの間にかこんなお話になりました
◎『艦隊これくしょん』成分も多少含んでおります
二度目の人生の始まりは、砂の星だった。
暗黒系企業を転々として、魂を磨り減らす一方だった前世。
結婚することもなく、彼女も存在せず、薄ぼんやりとした日常的絶望の中で齷齪(あくせく)しながらなんとなく生きてきた。
月に二日あったらいい方の休日は、惰眠を貪るかなんらかの手続き関係でいずれも呆気なく潰れた。
特売品で買ったかちこちのパンや半値になった弁当に慣れ親しみ、青白い顔のコンビニエンスストアの店員にそれとなく同情する深夜。
ゆるやかに壊れてゆく己。
平和な日本にて、ゆっくり崩壊してゆく。
豊かな日本。
素敵な日本。
確かに、そうなのだろう。
一部の人にとってはだが。
社会の奥底に蟠(わだかま)るような生活でいつの間にか倒れてしまう人間のことなど、誰にも省みられないのが普通なのだろうさ。
すべてお前たち自身が悪いのだと、したり顔の連中に糾弾されるのが関の山。
意識高い系のキャンキャン喚く連中が大きな顔をしながらのさばる格差社会。
悲しきかな我が拙き人生。
ある夜、サービス残業中の最中に心臓が痛くなって苦しくなり、七転八倒している内に気を失った。
嗚呼、このまま死ぬのか。
四〇年少々生きてきた証を、なにも残せないままに。
…………。
まっ、致し方ないわいな。
サヨナラだけが、人生さ。
海を渡っていた気がする。
誰かと一緒に。
それは艦橋のような場所。
遥かなる星の海原を泳ぐ。
傍らに誰かと。
彼もしくは彼女と一緒に。
進め進め何処までも進め。
そして……そして………………。
気がついたら、見目麗しき欧米人の夫婦らしき人物たちが私を見つめている。
誰だ、この人たちは?
一体、私の身になにが起きたんだ?
「大丈夫? 我が愛し子のクルッシュクルよ。」
女性が私に語りかけてきた。
誰だ、それは?
ちょっと古風な感じがする。
再び語りかけてくるご婦人。
綺麗な青い瞳の色白の女性。
少しくすんだ金髪のご婦人。
ロシア系か、ウクライナ系か、ベラルーシ系か。
もしかしたら、スウェーデン系かエストニア系?
わからないな。
どうやら、今の私の名はクルッシュクルというらしい。
クルッシュクル・ハリエラス。
それが今生(こんじょう)の自分の名前だそうな。
ドッキリにしては手が込みすぎているし、なにより自分自身が白人系の少年であることに気づいてしまった。
鏡を見せてもらうと、私自身は美少年でもないが不細工でもない。
母は勿論のこと、父も美形だが、あまり似ているとも思えないな。
一応近似的片鱗は無いでも無いから、血脈的に繋がりはあるのか。
隔世遺伝かもしれない。
硬度が気になったが、前世並の硬さは維持出来ているようだった。
先ずはひと安心。
後程、性能試験をしなくては。
自分の住んでいる惑星の名前を両親に聞いてみたが、タトゥイーンでもデューンでもサンサでもなく、『忘れ去られた、砂の星』なのだと言われた。
どうも、ここはぶっちぎりの辺境らしい。
マッドマックスや北斗の拳的世界でもないみたいだ。
惑星の開発途中で戦争になり、開発計画を担当していた会社は本社のある大陸ごと激しい砲火で火の海に沈んだのだとか。
宇宙船の定期航路は無く、一応宇宙港の一角に帝国軍の駐屯地が存在するそうだが兵隊たちの錬度は低く、チンピラよりはマシといった程度の手合が一個小隊ほどたむろしているそうな。
この星自体の治安は『そこそこ』で、宇宙港近くの市場にある店舗はどこも『割と危険』なのだと教えられた。
昔々のその昔。
近隣の宙域で帝国軍と反乱軍との間で激烈な戦闘が繰り広げられ、この農園の近くにも艦船の残骸が降り注いだり、地上戦になって破壊された四足歩行型の戦闘兵器の残骸が近所に転がっているという。
若い頃探索者だった父はお宝探しの専門家で、母というお宝をこの星で発見したのさと話の締めくくりでのろけてくれた。
あの毎晩漏れ聞こえてくる激しい音声からすると、妹か弟が近い内に産まれるのかも知れない。
この世界がスター・ウォーズっぽい世界なのか、銀河英雄伝説っぽい世界なのか、それ以外かはなんとも気になったが、両親が平民の庶民でその身分を特に気にしていない風でもあったので、それなりに平和な世界なのだと思う。
そうだよね?
両親の所作の端々に洗練されたところが散見されるのだけど……まっ、いっか。
気のせい、気のせい、きっと気のせい。
そうに違いない。
気分転換も兼ねて、近い内に探索へと出掛けてみよう。
驚いたのはうちの使用人のサニトゥが帝国軍の脱走兵だということで、この陽気で頼りになる腕っぷしの強い巨漢がクローン兵士なのは私を驚かせるに充分の事実だった。
悪しき洗脳教育以前の兵士なので、自分自身で考えることの出来る兵卒なのが本人曰くちょっとした自慢だとか。
ふーん。
もしかしたら、ここはスター・ウォーズ系の世界なのか?
少なくとも、アストラギウス銀河的世界ではなさそうだ。
私が私としてこのなんともSF的世界に覚醒した六日後。
一三歳の誕生日を迎えた私は、専属家政婦としてTAT-6、KAS-4、KA-2、NA-20という、人間の少女そっくりなドロイド四体を与えられた。
アッチョンブリケな贈り物だ。
オー・ヘンリーもびっくりだ。
製品番号的な呼び方はなんだか厭なので、それぞれシックス、フォー、ケーツー、トウェンティと仮称を与えた。
シックス、ケーツーは私より少し歳上、フォーはもうちょっと歳上、トウェンティは私と似た年齢のような姿をしている。
三体は胸部装甲が豊かな感じで、残る一体も衣装をパージしたら存外おっきいのかも知れない。
私自身は大きさにこだわらないが、製作者が凝り性だったのかもな。
彼女たちは人型ドロイドを証明するヴィクトリア朝風メイド服を着用し、まるで私は貴族の御曹司みたいだ。
我が家は至って普通っぽいのに。
……普通なんだよね?
何故四体もの貴重と考えられる人型ドロイドが私へ無造作に与えられたかというと、ドロイドたち自身が私を主人として認識したからだという。
よくわからないな。
遺棄された超大型戦闘艦艇(艦隊旗艦か?)の中で彼女たちは奇跡的に無事な姿で見つかり(カプセルの中にいたとか)、他はすべて駄目になっていたとか。
先日、やっと彼女たちは覚醒したのだ。
それは私の目覚めに合わせたかの如く。
その夜。
寝ようとしていたら、彼女たちが簡素な私の部屋に入室してきた。
呼んでもいないのに。
全員、どうしてだか薄着だった。
ドロイドだから暑さは関係なかろうに。
「マスターから与えられるモノが、私たちには必要なのよ。ふふふ。」
シックスが妖艶に嗤う。
次いで、フォーがもじもじしながら言った。
「あ、あの、マスターから供給していただかないと、私たち、動けなくなっちゃうんです。」
なにゆうとんねん。
ほんまかいな。
疑惑を感じていると、ケーツーが平坦な調子で話しかけてくる。
「出してもらえたら、それでいいの。」
出す、ってなにをさ。
金なら無いぞ。
トウェンティがにこやかに言った。
「て……じゃない、マスターがばんばん出しちゃえばいいんだよ。ほら、こうしたらわかりやすいか?」
はしたない仕草を始めるトウェンティ。
にこやかな顔をしながら、そんなことをするんじゃない。
「マスターを見ていると、なんだか懐かしくなってくるのよね。」
ガシッと右腕をシックスに掴まれる。
「大丈夫、すぐに終わるわ。」
ガシッと左腕をケーツーに掴まれた。
「すぐ終わったら、ダメじゃんか。」
トウェンティが両足を掴んでしまう。
これでは、逃げられないじゃないか。
「じゃ、じゃあ、始めますね。て……じゃなくて、マスター。」
フォーは私に近づくと、頬を赤く染め上げながらとてもとてもやさしく微笑んだ。
翌朝、両親は私に対して大変やさしかった。
うちの農園では紅茶と珈琲と複数種の果実と香辛料が栽培されており、この星ではそうした農園が複数存在する。
気候的には、アフリカか南米辺りが近いのだろうか。
嗚呼、チタマが懐かしい。
そして特産品は、あちこちの惑星に輸出される程の人気があるとか。
貴重な物資の供給基地とのことで、それ故に戦乱から遠い位置を確保出来ているのだ。
まあ、ここを占拠しても、戦況を好調にするのは難しいだろうなあ。
うちの農園でカレー粉を販売しているのには吹いた。
カレーがあるのか、この世界。
ついでに言うと、ご飯もある。
しかもインディカ米ではなく、ジャポニカ米だぜ、ジャポニカ米。
もしかしたら、異世界から来た誰かがチートだかなんだかでやらかしたのかも知れない。
まさか、うちの親が……そういえば……いやいやまさか。
でもたまに…………ま、まあ、たぶん気のせいだと思う。
一皮剥けてしまった私は、むっちゃ悪い奴になってしまうのかもしれない。
昨夜もあんなことをしてしまったし、今宵もおそらくは……。
いよいよ、探索に向かう日がやって来た。
ドロイドたちの調子も万全みたいである。
いざ行かん、お宝の山へ。
砂船と呼ばれる反重力的なエンジンで動く乗り物に乗って、壊れた艦艇や戦闘兵器の中をまさぐるのだ。
まあ、ろくなモノが見つからないだろうけれども。
娯楽の少ない生活なので、ほんのりした冒険は生活の中の香辛料になるのだ。
砂船の舳先(へさき)には、『さかみ』と読める文字が記されている。
えっ?
えっ?
まさかの日本語?
た、たまたまなんじゃないか?
み、見なかったことにしよう。
そして、農園から出発する時。
ドロイドたちは高らかに叫ぶ。
私にその体を密着させながら。
「「「「抜錨!」」」」