地下九階の映写室   作:輪音

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【オリジナル作品】

◎異世界転生したおっさん、魔王として戦いに参加する

◎負け戦の火消し役になったおっさん、まさに火の車

◎役に立たないと放逐されたおっさんの行く先は?





追放された元魔王の求めるはスローライフ

 

 

 

 

オレは戦乱続く異世界へと転生してしまった。

あおり運転してきたアホの車にぶつかってしまい、たぶんお互いに即死だっただろう状況からの驚くべき展開。

魔王型素体の適性者としてその体へ魂を強制的に封じ込められたオレは、結果から先に言うと任務に失敗した。

 

現代日本で一般人としてどうにかこうにか生きてきた人間が、三国時代や日本の戦国時代もかくやというわやくちゃな日々に対応出来る訳などない。

人を殺したくてたまらない、といった人間でも無い限りは右往左往するであろう。

実際、オレは当初そうだった。

立ち直ってからは忠実な小鬼たちと不利な戦況で奮闘を幾度も重ねてきたし、過酷な殿軍に何度も参加させられたが、残念ながら戦局を好転させるには至らなかった。

そして、専属監視員たる戦闘憲兵による査定では六等評価とされた。

それは下の下で最低評価。

明らかな捏造だと思えた。

オレに悪意を持つこの底意地悪きおっさんは上にへつらい、下に威張る輩だった。

そのおべっか野郎はオレを臆病者扱いし、戦術も戦略もわからない愚者と断じた。

結局オレは失敗作として管理者に左側の角を折られ、辺境への放逐処分とされた。

そんなに強いなら自分自身で戦場へ出たらいいのに、と思ったが口にしなかった。

以前それを口にした同郷の者が、一瞬にして原子分解されたからだ。

士道不覚悟の者には死を、か。

幕末の新撰組じゃあるまいに。

 

異世界の人間の魂を封じ込めた量産型魔王は次々に戦場へ送り込まれ、ある者は勇者群からむごたらしい拷問をされた末に死をもたらされた。

またある者は敵前逃亡して処分された。

毒殺された者、暗殺された者。

包囲殲滅戦で立ち往生した者。

殺され方は多種多様だったが、使い捨て前提の逐次投入という最悪の愚策によって人的資源はどんどん磨り減らされていった。

 

それでも、多数投入された量産型魔王は一定の戦果をもたらしたらしい。

帝国王国連邦皇国公国の五ヵ国連合軍となんとか停戦に至ったのだから。

 

辺境の何処へなりと好きに行けばいいと管理者から戦力外通告を受けたオレは、目星を付けていた寒村へ向かうことにした。

そこは僻地の山奥にあって戦略的意味がなく、実に好都合な場所だからだ。

 

行きがけの駄賃とばかりに、散々嫌がらせをしてくれた戦闘憲兵殿には『事故』に遭ってもらった。

オレをこの戦闘狂集団から外す役割を果たしてくれた功労者でもあるので、気分的には複雑なところだ。

よって、丁寧に『処理』しておいた。

江戸時代並びに中世欧州の拷問を勉強しておいて、本当によかったと思う。

 

 

 

元量産型魔王に付き従うは小鬼の親衛隊二八名。

最盛期には一〇〇〇を超えた彼らも、現在古参兵数名以外は経験の少ない若手ばかりだ。

最後の戦いは関ヶ原の島津さながらの激戦になったからな。

よく死ななかったもんだ。

自由放免を皆に言い渡したが、誰も離脱しようとはしなかった。

魔王を首になったオレに付いてくるというのだから泣けてくる。

 

「大将をほっぽいたら、熊や猪にでも殺られちまうかも知れませんからな。」

 

ケラケラと口の悪い大尉が嗤い、皆が笑って頷いた。

左目に眼帯を付けた彼は、オレと共に初期から戦い続けてきた歴戦の士だ。

肩に担いだ三八式歩兵銃を軽そうに持ち歩き、狙撃手としても優秀である。

母方の祖父が狙撃手だったので、なんとなく大尉には親近感を覚えている。

 

 

勇者は敵対する相手として、最悪の方に属した。

彼らの防御力はヒグマやサイをも凌駕するようで、三八式歩兵銃の連射を喰らっても鎧姿で全力疾走してくる様子はまさにホラーだった。

或いは象並の装甲だったのかもしれない。

それとも、シャーマン戦車並だったのか?

光線銃で体に複数穴を開けても平気で笑いながら突っ込んでくるので、あれにはほとほと参った。

 

まあ、今後はあんな化け物どもと戦う必要がないので、それが慰めといえばそうなるか。

 

 

 

角を折られて役立たずの称号持ちになったオレと、敗残兵扱いの小鬼たち。

気分は逃避行である。

大規模攻撃魔法や一〇〇〇ポンド爆弾などの影響で穴ぼこだらけの元戦場な荒野をてくてく歩いている内、辺りは夕暮れになってきた。

レシプロ式の爆撃機が何機も墜落した現場を通り過ぎ、ふと顔を空に向ける。

多彩な色彩の豊穣がそこに存在した。

赤黒くなりつつある天空に紫や青や紺などが入り交じり、瞬く間に大きく変化してゆく。

なんと、我々のちっぽけなことか。

自然のなんと雄大で壮麗なことか。

空の美しさに思わず見とれてしまい、大尉に服の裾を引っ張られて我に返る。

アメリカインディアン式のテント、つまりティピーを複数設営し、煮炊きを始めて夕食の準備に取り掛かった。

 

小鬼たちは戦闘に特化した種族でないとはいえ、手先の器用な連中だ。

それは食事の旨さにも繋がり、他の戦闘に強い種族を選ばなかった理由でもある。

その結果は追放となったが、後悔はしていない。

不味い飯ばかりで生きていけるものか。

 

 

三〇名足らずの愚連隊が向かうは牧畜が主産業の寒村。

豊かな村とは言い難いが、居心地のよさはお墨付きだ。

なんせ、僅かに与えられた休暇は全部其処で過ごしていたのだから。

村では薬師の真似事をして、無医村だったので大変重宝されていた、

ちなみに配下の小鬼たちは、近場の森で休暇を満喫していたようだ。

薬草の栽培をしていたみたいで、似た者主従だったのかもしれない。

 

 

転移魔法は便利なのだが、今は魔力がからっけつなので徒歩で向かうしかない。

薬師が新しく引っ越してきたとかでもない限りは、普通に迎えてくれるだろう。

こんな引退生活も悪くない。

 

 

 

 

村に旅の薬師さんがまた来てくれた。

今後は、ずっとこの村で暮らしてくれるそうだ。

うれしい。

薬師さんのお陰で、ユキちゃんや白靴下たちも元気に過ごしているのだから。

村の人たちは皆喜んでいる。

明日から手伝いをしなくっちゃ。

薬師さんを狙っている子は多い。

負けないんだから。

さあ、頑張るぞっ!

 

 

 

 

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