地下九階の映写室   作:輪音

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【オリジナル作品】

◎古典的SFを加味した仕様にてお送りします




「人生は汽車ですよ、マドモアゼル。走り続けるんです。それはいいことですよ。」
(アガサ・クリスティ作『青列車の秘密』より)






帰郷

 

 

 

 

種子島宙港へ戻ってきたら、この国もずいぶん様変わりしたものだと感じた。

もしかしたら、ここだけなのかもしれないけれども。

『あっち』の連中までいる。

昔のSF映画に出てきそうな雰囲気だ。

ある意味レトロっぽい。

日差しが強く、熱風が全身にじわりじわりと食い込んでゆく。

嗚呼、地球に帰ってこれたんだ。

なにもかもみななつかしい。

なんてな。

感覚的には一年経ったくらいだが、実際には二〇年の時間が経過している。

父も母も老いたことだろう。

副船長兼雑用係のティーナに連絡し、自宅へと向かう旨を話しておいた。

人造人間としては異例な程に感情豊かな彼女だが、時には離れたくなる。

まあ、そういうことだ。

最新鋭の反重力型高速船ではなく、昔ながらの連絡船で鹿児島へ向かった。

地元の言葉でかごんまと呼ばれるこの地域だが、今も桜島が噴煙を上げている状況にはなんとなくホッとする。

繁華街で鹿児島ラーメンを食べ、かき氷の白熊を食べ、かるかんを買って鹿児島中央駅発の九州新幹線に乗る。

本州に入り、途中の駅舎で在来線の鈍行に乗り換えて地元へ向かった。

昔のSFに出てくるジャンプスーツみたいな姿の人など誰もおらず、Tシャツにジーンズにスニーカーが相も変わらず若者の衣装のようだ。

年配の人々は方言を話し、機械や他国人や『あっち』の連中と意思疎通する難しさに連日直面していた身としてはなんとなくじんわりしてきた。

ディーゼル機関を使用した汽車は、ひなびたなつかしい風景の中を走ってゆく。

時折駅舎で待ち合わせをしては、特急列車が勢いよく通過してゆくのを眺めた。

ゆっくり走ってゆくのが、なんとも心地よい。

体内時間が現地時間にじわじわ変化してゆくのを肌で感じた。

学生たちの明るく賑やかな声が聞こえる。

 

 

 

 

無人駅の改札を、ICカードをかざして通り抜けた。

線路近くで響く波の音が、気持ちを揺さぶってくる。

駅舎前は以前よりも寂れているが、それもまた致し方あるまい。

キョロキョロしていると、クラクションの音がした。

振り向くと、記憶よりも二〇年加算された顔立ちの弟が軽四で迎えに来てくれている。

こんなにうれしいことはない。

見知らぬ女性と女の子が一緒にいた。

どうやら弟は結婚したらしい。

挨拶して、車内の人になる。

土産を渡した女の子のテンションが高く、昔の弟を見ているようで微笑ましい。

ハイブリッドがどうとか電気自動車がどうとか言っていたように覚えているけど、まだまだガソリン車の需要は高いようだ。

新車かと思ったが、中古車だとか。

景気はあまりよくないみたいである。

質問は主に弟の娘が担当みたいで、彼女は矢継ぎ早に質問してきた。

なかなか鋭い。

過疎化が進む田舎町の中心部を通り過ぎ、やがて実家が見えてくる。

嗚呼、昔のままだ。

女の子は軽やかに車を降りると、てってっと家の中へ入っていった。

代わりのように柴犬が出てきて、こちらをじっと見つめてくる。

近寄っても吠えないので、撫で回した。

おお、久々のモフモフだ。

わんこがビクンビクンした頃、父母が出てきた。

老けたなあ。

思わず、涙が出てくる。

両親も、泣いていた。

 

 

待望の夕食の時間が訪れた。

なつかしの家庭料理満載だ。

ハンバーグに唐揚げ。

ポテトサラダに刺身。

カレーにきんぴらごぼう。

筑前煮にウインナー。

などなど。

カレーは弟が昨晩から仕込んでいたとかで、月日は彼をカレーの達人にしていた。

やるなあ。

デザートはバウムクーヘン。

しっとりむっちりの名品だ。

あの店で買ってきてくれた!

嬉しい!

旨し!

 

 

風呂に入ってのんびりし、父と少し話をした後、寝床に入った。

明日はなにをしようかな?

虫の声を聞きながら、眠りの舟に乗る。

わくわくした気持ちを胸に秘めながら。

 

 

 

 

目覚めるとティーナの顔がすぐ近くにあった。

味気ない宇宙船内のベッド。

否応なしに現実へと引き戻される。

 

「どうでしたか、船長? 最新鋭の擬似現実発生端末機の使い心地は? まるで本当のことのように使用者の五感に訴えかける、高性能な製品と聞き及んでいますが。」

 

目をくりくりさせながら、明るい声で問いかけてくる相棒。

彼女は夢を見ない。

ロボットだから。

マシーンだから。

 

「まあ、そうだな。大変よかった。」

 

そうこたえ、ティーナの頭を撫でる。

彼女はこの端末機を手に入れるため、最大限に張りきってくれたらしい。

何気に承認欲求の強いティーナは、むふぅと自慢気な表情をした。

地球は既に死の星になってしまったが、現在は彼女がそばにいる。

ベッド周辺に散らばっていた数葉の旧い写真を拾い、ティーナと新しい仕事についての打ち合わせをした。

寝た時に再び故郷を夢見ることが出来たらいいな、と考えつつ。

あのバウムクーヘンをもう一度食べたいなあ、と切望しながら。

 

 

 

 

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