【オリジナル】
◎MMO初心者的おいちゃん、神官戦士となる
◎おいちゃん、普通とは異なるやり方にてセカイを満喫中
◎少しレトロ風味
先月から、休みの日は新作MMORPGの『イストリア・オンライン』で遊んでいる。
これは幻想的物語を仮想体験出来るということで、大々的に宣伝していた作品である。
ここ最初の街コスタンティニエの聖霊教会に隣接する、孤児院の二階にある角部屋が私の基本的拠点並びに復活地点だ。
これは私の主職が神官戦士だからこそ出来る、裏技みたいなものだな。
宿に泊まらないので手持ちの金が少なくてもやっていけるし、地元系の依頼がいつも複数来るので教会や街に対する貢献度が上がりやすい。
私にとってはいいことずくめである。
拠点と復活地点は移動先で変更可能だし、クエストによっては教会や商会が路銀を用意してくれる。
知らない土地に行っても、私が教会関係者だとわかった時に便宜を図ってくれる人までいる。
ありがたいことだ。
ま、こういった遊び方をする人間がいてもそれはそれでかまわないだろうさ。
私は主職として神官戦士を撰び、副職として斥候を撰んだ。
単身での継戦を考えると治癒法術や支援法術が使える戦士は貴重だと思えたし、軽戦士級の戦闘能力と中位までの治癒法術が使用可能な神官戦士を選択することに躊躇する理由はなかった。
教会に所属することが必須条件になるけれども、そのために不人気職であるのは残念なことだ。
このセカイでの『教会』は悪質でも排他的でもないのに。
移動の際や野営では斥候の技能が非常に役立つし、普段の活動でも何気なく技能が高まって様々な局面で助かっている。
自分の考える遊び方に十分合致しており、この二つの職を撰んで本当によかった。
最初の設定時にチュートリアルなお姉さんと話をしながらいろいろ決めていったが、セカイに対して自分なりに貢献していくつもりだと述べたら彼女は随分気分が高陽していたようだった。
「きっといいことがありますよ。」
別れ際にそう言いつつ微笑んだ彼女は、今も元気にやっているだろうか?
彼女がくれた首飾りを着けて、日々を人々のために過ごそうじゃないか。
神官戦士の上位職は複数存在しており、その中には神官騎士がある。
自分の力が上がってゆく過程で撰べるそれは個人的に上々だと思う。
また強くなってゆく途中で敢えて神官や騎士を撰べる自由性もあり(ちなみに騎士になっても転職するまでに覚えた治癒法術や支援法術は使える)、それは実際の人生に近い気がする。
斥候は、単身での活動時に隠形(おんぎょう)や潜伏などをする上での必須技能満載な職業だ。
無闇に戦わないで済むことも必要に思えたので斥候を撰んだのだが、この職業も力を得ていく段階で上級職の選択肢が複数あるため、育て方次第で面白くなりそうだ。
単身で放浪する神官戦士となって、各地で情報収集に励んでいるというセカイでの役割を演じる者。
それが私だ。
実際、教会上層部や各地の聖職者から独自のクエストを提示されるので、一般的なプレイヤーとは言い難いかもしれない。
宿泊は教会附属の孤児院だし、たまに神官戦士隊の一員として討伐任務に従事したりしている。
プレイヤーからは、独自のAIを有するNPCと見られている節があるみたいだ。
まあ、それも悪くない。
このセカイで目覚めるといつもじきにバタバタした音が聞こえ、子供たちが室内に躊躇なく突入してくる。
そういうプログラムが組まれているのか、或いは気配かなにかを感じるのか。
よくわからないな。
「おじちゃん、起きた!」
「おじちゃん、遊ぼう!」
「おいしいお菓子、作って!」
「シスターがお話あるって!」
子供たちは賑やかに私へまとわりついてくる。
それはとても自然な感じで、作り物めいた雰囲気はまるでない。
そういった数々が、遊ぶ前以上に私がこのセカイの人々と深く関わって暮らしていこうと考えた結果につながっている。
「よーし、かくれんぼだ。」
そう言うと、子供たちは蜘蛛の子を散らすように走り去ってゆく。
様々な場所に隠れる子供たちは、斥候の技能の習熟度を上げるのに好適な存在だ。
実にありがたい。
かくれんぼの後は、厨房の窯でビスコッティを焼いた。
プレイヤーも匂いや味を感じられるこのシステムは、大変よく出来ている。
教会からの依頼で来たプレイヤーへたまに菓子を振る舞っていたら、隠れキャラ扱いされるようになった。
『イストリア・オンライン』では、プレイヤーキャラクターとノンプレイヤーキャラクターとの区別がつきにくい。
地元民風に行動しているためか、多くの場合、私は特殊なNPCと考えられているようだ。
シスターのところへ行くと、今日は子供たちが薬草摘みに出かけるので護衛任務をしてもらいたいと言われた。
クエストとして発注された訳ではないが、自然な感じが個人的に好きだ。
稼げる貢献度や熟練度が意外と馬鹿にならないし、相手の好感度の変化が如実にわかるのも悪くない。
打算だけで行動するのは厭だが、結果がきちんと出る点ではゲーム的だ。
おそらくは、そうすることでプレイヤーが損をしにくい作りなのだろう。
では、出かける準備を始めようか。
小鬼や犬頭人は近場の森だと出ないし、熊もそうそう出てこない。
念のため、革鎧と戦鎚と楯で武装しておくか。
子供たちと手をつないで出かける。
まるで遠足だ。
小学生の頃を思い出す。
子供たちは歌をうたいながら、陽気に歩いてゆく。
天気はよく、青空が広がっていた。
嗚呼、太陽がいっぱいだ。
薬草は充分あったし、斥候の技能も複数高められた。
よかんべよかんべ。
転んで怪我した子にはすぐさま初級の治癒法術を使ったし、二〇メートルほど先の茂みにいた野うさぎは石つぶて一発で倒せた。
投擲の技能もだんだん高くなってきているので嬉しい。
今夜は野うさぎのシチューかな。
子供たちと帰途につこうとした矢先。
森の奥の方から、強い気配を感じる。
敵か?
「おじさんはのんびり帰るから、先に孤児院へ帰りなさい。」
「「「「「えええ!」」」」」
なんとかなだめすかし、子供たちを帰す。
さてと、どんな相手かな?
武器や防具を装備しよう。
戦鎚を右手に持って右足は後方へ引き、左手に持った楯を真ん前へ向けて戦闘態勢に入る。
鳥の鳴き声が聞こえない。
森の囁きも聞こえてこない。
ヌシか?
或いは……。
がさっ。
物音と共に長い黒髪の娘が現れた。
顔は髪に覆われ、表情が見えない。
白いワンピースに裸足。
ふらふらとこちらへ近寄ってくる。
ゆっくり、ゆっくりと。
明らかに普通の娘ではない。
なんだ?
怪異か?
死霊か?
雑魚とは気配がまるで違う。
脅威度が非常に高い相手だ。
おそらくは相当な強敵だぞ。
高位の死霊だと負ける可能性が高い。
仮に神官が主職だとしても、彼女を祓(はら)えるかどうかは不明。
たぶん、完全武装の戦士隊とか騎士団とかで討伐するような相手だ。
額から汗が流れる。
私でなんとか出来るのだろうか?
それとも……ここで初めての死を迎えるのか?
娘はおよそ五メートル先で立ち止まった。
なにをする気だ?
魔法か?
特殊攻撃か?
エナジードレインだったら厭だな。
よし、先手必勝だ。
飛びかかろうと考えた瞬間。
突然、システムメッセージが目の前に現れた。
【彼女はあなたの仲間になりたそうにしています。】
はい?
そして、次いで現れた選択肢を見て更に困惑する。
【どちらかでおこたえください。 《はい》 《イエス》】