【オリジナル】
とある迷宮都市風の地にいることを、ある日認識した転生者らしき斥候
この過酷なセカイにて彼は生き残れるのか?
小火器と共に彼はゆく
気がつくと、木製の大きな丸机に突っ伏した状態だった。
どうやら、寝ていたらしい。
周囲を見渡すと、何人もの欧米人が談笑しながら酒を酌み交わしている。
なんだ、ここは?
欧米人がよく来る飲み屋か?
ん?
自分自身の服装に違和感を覚えた。
麻っぽい生地の簡素な長袖シャツに長ズボン。
それに加え、焦げ茶色のチョッキ。
そして、革の紐無し靴。
なんだ、これは?
なんの扮装だ?
何故、こんな恰好をしているんだ?
辺りを再度見渡す。
何処だ、ここは?
ふと、机の上にメモが残されていることに気づいた。
なんだ、これ?
さっきまでこんなものはなかったぞ。
取り上げて書かれた文章を読む。
なになに。
私は斥候?
特典として各種の生活魔法が使える?
なんだよ、特典って。
所属している集団から預かっている武具は魔法の大剣一振り、魔法の長剣二振り、魔法の鎧一領、魔法の杖一本。
魔法?
確認しようとしたら、なにも無い筈の空間から剣の柄(つか)がひょっこり現れたのにはびっくりした。
なんぞこれ?
金銭もかなり預かっていた。
持ち逃げされたらどうするつもりなんだ?
実はそんなことを考えないように思考調整されていたりして…………まさかな。
……そういったことは、なるべく考えないようにしよう。
少し落ち着いてきたら、諦め顔で殆ど動かない者が複数いることに気づく。
騒いでいる面々と落ち込んでいる面々との落差が激しい。
……服装だ。
服装が違う。
前者は羽振りのよさそうな者が着るみたいな服装で、後者は私のように簡素な恰好をしていた。
我らは待機要員?
現地の知識が頭に流れ込んでくる。
彼らは逃げ出さないのか?
逃げるという考えすら思い浮かばないのか、逃げても追っ手にヤられることが確定しているからなのか。
最低階位の探索者が担(にな)うのは、生きた無料荷物預り所。
荷物預り所の預り賃はけっこう高額らしいから、我々に持たせた方がよほど安く済むそうな。
なんてこった。
混乱しながら、自分が泊まっているらしき二階の部屋へ向かう。
馬小屋じゃないのはありがたい。
そこへ向かう者もちらほらいた。
そういや、『この素敵なる世界に祝福を』のカスマルと女神クゥエル様も初期は馬小屋に泊まっていたな。
個人部屋を借りられるということは、自分が所属している集団は相当裕福なのか?
入室する。
室内は狭く、硬そうな寝台があるきり。
そこに立て掛けている騎兵銃に噴いた。
なんでやねん!
第二次世界大戦当時、メリケンの軍隊で使われていた軽小銃か。
三〇発入る弾倉は全弾きっちり込められている。
弾倉は他に二つあった。
六発全弾込められた回転弾倉式拳銃(リヴォルバー)まである。
至れり尽くせりだな。
そばに置かれたブリキのバケツは弾でいっぱいだ。
わーい、たまらんな。
…………。
取り敢えず、寝よう。
朝が来た。
仲間らしき連中はまだ帰ってこないようだ。
軍用っぽい上着や靴下やズボンや耐刃チョッキや鉄兜を着用し、紐有りの長靴を履く。
回転弾倉式拳銃や騎兵銃の予備弾倉や銃剣や水筒や道具入れなどを装備し、吊り紐(スリング)付きの鉄砲を肩からさげた。
まるで兵隊みたいだ。
背嚢(はいのう)を装備するかどうかは少し迷ったが、早期帰還することと行動の軽快性を考えて止めた。
状況が今一つわからない以上、こちらから行動してみるしかない。
宿屋を出て、街へ出た。
街はひっそりしている。
騒いでいるのは主に武具を持った連中だ。
青白い顔をした簡素な服装の者はどこにも見えない。
武具持ちの男たちが向かうのと同じ方角へ進む。
彼らは衛兵が立っている場所に着くと、整然と並び出した。
へえ、意外とお行儀がいい。
衛兵と二言三言話し、連中は小屋みたいなところへ入ってゆく。
あそこはなんだ?
私の順番が来た。
衛兵の前に出る。
「お前、一人か?」
「はい。」
洋画の吹き替えみたいに喋る中年の髭まみれな衛兵は顔をしかめた。
「斥候か。深く入るんじゃないぞ。」
「はい。」
もう一人の若い衛兵は喋らない。
案外、あっさり通してもらえた。
小屋の中に入ると下層へ降りる階段があり、内部はやや明るい。
全体が発光していた。
光の魔法か?
ここは地下迷宮か?
頭の中に蓄えられているらしい知識が徐々に活性化してゆく。
階段を降りた先は広場になっていて、そこでは同業者が何人もたむろしていた。
串焼きの屋台まである。
帰りに買っていこうか。
彼らはちらちらと入ってくる者へ視線をむけ、品定めに余念が無いようだ。
ここで初めて、同業者が『人間』だけでないことに気づく。
魔法使いっぽい者、坊主っぽい者、鎧をがちがちに着込んだ者、覆面にふんどし一丁の者など。
銃を持った者は見当たらない。
もしかして特殊装備?
……ま、いっか。
迷宮の中を歩いている内、周囲に人が見えなくなる。
銃の遊底(ボルト)を引き、安全子(セーフティ)を解除した。
これでいつでも発砲出来る。
引き金にはまだ指を入れない。
誤射はこわいしな。
そろりそろりと慎重に歩く。
周辺に同業者はいない。
あんなにいた彼らは、一体どこにいるのだろうか?
気配が近づいてくる。
敵か?
敵だ!
足音が近づいてくる!
敵はこちらへ向かって走っていた!
見える!
見えるぞ!
確認出来た敵対的存在へ向かい、即座に発砲する。
威嚇(いかく)射撃なぞはしない。
生きるか死ぬかだからな。
頭は狙わない。
腹だ。
腹が一番当てやすい。
至近戦闘ならば兎も角、安全性を確保しつつ銃撃する時は腹部を撃つ方がいいだろう。
第二次世界大戦時の鉄兜くらいなら拳銃弾でも撃ち抜けるし、こいつらは精々革鎧くらいを着込んでいる程度だ。
板金鎧も撃ち抜けるかな?
近いうちに試しておこう。
戦闘開始から一分ほど後。
二本足と四つ足の複合団体たる敵性小集団を完全に無力化した。
やれやれ。
死にかけの存在に銃剣でとどめをさしてゆく。
なにかが体内へと入ってきた。
マナ?
これが探索者の階位を高める?
妙ちきりんなモノが体内に取り込まれてゆく。
或いは、奇妙なモノに取り込まれているのか?
よくわからないな。
少しばかり強くなった気がしないでもない。
はかなくなった敵対的存在がぼんやりとした姿に変わってゆく。
それらはしばしこの世を名残惜しむかのように見え、やがてぷつりと糸が切れるかの如くに消滅した。
小さな石が現場に残される。
なんだこれ?
魔石?
魔の力を持った石?
換金出来るらしい。
これくらいの大きさと質だと、ノタクル商会に持ち込んで経費と税を差っ引いた額が一個銅貨五枚ほどか。
昼ごはんの代金くらいだな。
合計八個ある。
これで今泊まっている部屋の一泊朝食付きくらいの稼ぎか。
その後、三回の戦闘を行った。
不定形生物や人型生命体などを次々弾の餌食にして、一週間ほど宿泊出来そうな額の魔石を稼いだ。
敵性団体を全滅させても気持ち悪くならないのはなにかに頭をいじられたせいか、もしくは私が元々そういったたぐいの人間なのか。
よくわからないな。
帰り道の途中で隠し部屋らしき場所を見つけ、突如現れた歩く死体だか亡霊だかに銃弾を何発も叩き込んだ。
えらくめかしこんだ相手だが、実にしぶとい。
貴族か?
攻撃力は低いみたいだが、耐久力が高い。
銃剣突撃に切り替え、何度も何度も何度も何度も何度も何度もぐさぐさ刺す。
何度目かわからぬ銃剣突撃のさなかにたまたま相手の首をはね、それで戦闘はようやく終了した。
やや大きめの魔石が残される。
ホッとした視線の先、宝箱が部屋の片隅に鎮座しているのを確認した。
どれどれ。
鍵穴を見る。
細い糸が張られていた。
毒針かな?
解錠用の七つ道具を腰の道具入れから取り出し、細い金属製の棒状道具を手にする。
糸を切らないようにして、棒を奥に差し込んだ。
右に捻る。
カチャリ。
よし、開いた。
罠を作動させずに無事に蓋を開け、中身を確認する。
幾ばくかの金貨に錆びた短剣。
悪くない。
さあ、帰ろう。
帰れば、また来れるから。
ちなみに一本銅貨三枚の串焼きはそこそこの味だった。
帰還後、自身の名前が『いあいあ』だと判明した。
換金のために立ち寄ったノタクル商会で何故か特売品区画にあった銃弾を購入した際、なんとなくどことなく魚っぽい店員に話しかけられて自分がそのような名前だとわかったのだ。
誰だ、こんな名前を付けたのは!
明日は朝一番で改名しに行こう。
うむ、それがいい。
追加で治癒効果のある水薬を購入しておく。
これをヤられたところにぶっかけたらいいのか。
謎がいろいろ残るけれども、あまり考え過ぎないようにしよう。
喧騒溢れるハストゥルの酒場でなんだかよくわからない煮込みを食べつつ、私はそんなことをつらつら思った。
嗚呼、それにつけてもお風呂に入りたい。
生活魔法の『清拭(せいしき)』で汚れがさっぱりと落ちるのはよいことだが、ここに浴場はあるのだろうか?
貴族しか入浴出来ないのだろうか?
明日以降、調べてみよう。
翌朝。
体がバキバキに痛い。
まさか、成長痛?
……そんな訳無いか。
階位が向上した故の痛みだと、現地の知識が頭に流れ込んでくる。
なるほどなー。
仲間、というか所属団体の面々はまだ帰って来ない。
さて、今日も生活費稼ぎにいそしみますか。