【原作:艦隊これくしょん】
◎深海棲艦との戦争『は』終わった模様
無縁墓地。
その一つに特別純米酒が注がれる。
青森県八戸市にて丹念に醸された逸品が惜しげもなく、小さな石に注がれた。
何名もの美しき娘たちが仏前で祈りを捧げる。
人ならざる戦士たち。
ワルキューレ。
勇敢な者たち。
彼女たちは、もってあと数週間の命。
提督の残留エナジーは半分を切った。
残った同調係数は下がる一方である。
愛故に未だ生き長らえている艦娘群。
「取り敢えずは平和になったわよ、提督。」
巨乳を振るわせ、ツインテールの軽巡洋艦が無理矢理微笑む。
「イクたちとハワイアンを踊り明かして、エッチなことをみんなとやる約束はどうしてくれるの?」
スクール水着にパーカ姿の潜水艦が、泣き笑いしながら言った。
潜水艦艦娘は全員泣いている。
ちなみに提督はそんな約束をしていない。
「もう食べてはいただけないのですね。」
料理上手な軽空母が、寂しそうに六段重箱をお供えする。
提督の好物だったお好み焼き定食。
彼はにゅうめんもかやくご飯も大好きだった。
豚カツ。
牛カツ。
重箱の中には、カロリーの高そうなものがぎゅうぎゅうに詰められている。
「また生き残ってしまいました。」
練習巡洋艦の眼鏡美人教師が微苦笑する。
「総員、敬礼!」
一糸乱れぬ敬礼が、英雄へと捧げられた。
「はい、OKです!」
撮影が終了した。
提督が死ぬ展開の方こそ視聴者に大変受けるとして、無粋な脚本が酷く書き換えられている。
事実をねじ曲げ、作品の質をどんどん落とす邦画の腐った体質は今もって改善されていない。
彼らの慢心がこそげ落とされる日は来るのだろうか?
そうした傲慢故に、加速度的に艦娘たちの機嫌も悪くなっている。
新生大本営のプロパガンダとして協力するにやぶさかではないが、不当に愛する提督が貶められる展開は許せない。
不当な扱いを行う連中に鉄槌を!
どろどろした感情が、艦娘たちの内側で醸成されてゆく。
「み、皆さん、ご、ご苦労様で御座る。」
のっしのっしぶひぶひと巨漢が現れた。
嗚呼、寒風吹き荒(すさ)ぶ北の空に晴れ間が訪れた。
擬似好天ではない、本当の麗しき光だ。
途端、表情を明るく変化させて艦娘たちは巨体に抱きつく。
体脂肪がぼよんぼよんと揺れる。
心も揺れる。
一部艦娘の山脈も大いに揺れる。
どろどろした感情は見事に雲散霧消していた。
そんなことより、テイトクニウムを早急に補充しなくてはならない。
彼女たちの頭の中はそのことで一杯。
戦争は一応終結した。
シュウケツカッコカリって感じではあるが、それでも後は散発的な戦闘が起こるくらいだろうと予測されている。
艦娘たちに待ち受けているのは、甘い生活。
ドルチェビータ。
その筈だ。
提督との新婚生活を堪能しなくてはならない。
太っちょな提督を囲み、和やかな食事が始まった。
空が青い。
透き通るような、雲ひとつない空。
飛行機雲が見える。
確か、あれは伊丹函館間の便。
嗚呼、航空便が復活したのだ。
平和。
仮初めの平和。
だが、それだからこそ愛しいのかもしれない。
それを象徴するような光景。
妻たちを眺め、男は微笑む。
嗚呼、なんて幸せなんだと。
これからの美しきセカイを夢想し、彼は嬉しくなっている。
提督は、夜に向けての暗闘が既に始まっていることをまだ知らない。