地下九階の映写室   作:輪音

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【オリジナル】

◎横浜市港北区に地下迷宮現る
◎ソロは基本的に不可
◎クリティカルヒットはおそろしい
◎*おおっと*
◎魔物の体内に魔核とか魔石とかは無し
◎地下迷宮の換気方法は魔法?
◎何人も探索初日に死にます
◎魔物を殺して平気なの?




獅子王の試練宮

 

 

 

東急東横線綱島駅周辺に、新しい迷宮が出来たという。

数日前のことだそうだ。

朝のテレビ番組で、興奮気味に若い女性の報告者がペラペラ喋っていた。

へえ。

ちょっと行ってみるか。

そんなに遠くないしな。

丁度がらがらになった、平日の午後の汽車に乗って現地へ向かう。

混雑時とはまるで違う状況だ。

やがて、駅に到着する。

後で温泉に寄ろうかな?

汽車を降り、改札機を抜け、西口から左に折れて線路沿いにてくてく歩いた。

昔と変わっていたり変わっていなかったりする風景を眺めつつ、目的地へ向かう。

ごちゃごちゃした駅前から離れてゆくと、確かにぽっかりと黒い穴を開けた迷宮が見えてきた。

土手がくり抜かれたみたいになっていて、なんとなくトンネルみたいにも見えるな。

 

中へ入ると、左側の隅にノの字型のカウンターにいる中年男が見えた。

私と似た年齢かな?

そこから奥に入れるみたいで、中は倉庫になっているのかもしれない。

空間は意外と広く、白いテーブルが三つ置かれている。

もしかして、ここでは喫茶店もやっているのだろうか?

更衣室や手洗い場やシャワールームまで、周囲にある。

ネットカフェみたいな感じもするな。

あのゴツい金属扉が迷宮への入口か。

 

「やあ、いらっしゃい。」

 

男が声をかけてきた。

田舎の喫茶店の親爺みたいな感じだ。

 

「こんにちは。今やっているんですか?」

「ああ、やっているけど、あんた一人?」

「時間の合う友人知人がいないもんで。」

 

男は眉をひそめる。

 

「一人で行くと死ぬよ。あんた、迷宮は初めてだろう?」

「はい、今朝のテレビ番組で知ったので来てみました。」

「ああ、あれ。散々断ったんだけどさ。」

「大変だったみたいですね。」

「即席パーティを組ませて行かせたけど、もうあんなのはこりごりだ。」

「お察しします。」

「うーん、迷宮ってのはさ。魔物が出るんだよ、魔物が。」

「出るんですか。」

「出るんだよ、当たり前だけど。それに、迷宮内は罠があるから斥候を必ず一人入れること。入れずに全滅したってこっちの責任にはならないが、寝覚めが悪くなるから忠告しておく。」

「一人はダメですか。」

「うーん、斥候ならある程度は潜れるけど、重い武器は使えないし魔法も使えないから、結局中途半端にしかならないよ。集団の敵に襲われたらすぐ死亡さ。悪いことは言わないから、やめときな。」

「何人が基本構成なんです?」

「六人構成だね。斥候、戦士、僧侶、魔法使いの基本職四つと組み合わせて潜るのが、この『獅子王の試練宮』を含めた探索方法さ。」

「職は四つしか選べないんですか?」

「上級職もあることはあるが、大抵基本職を成長させてからの転職となる。成長速度が遅いから、計画的に育成しないと時間の無駄になりかねない。」

「難しいんですね。」

「この玄関で他の人間を待っての即席パーティ編成も可能だが、その即席パーティでどれだけ上手くやれるかはテレビ番組で証明されていただろ。屁理屈をこねて喚く奴には、アレを見せることにしている。だからまあ、アレ自体は無駄じゃなかった。他の管理者にも通達しといたから、よそでも似た対応になっていると思うよ。」

「ええまあ、あれは酷かったですね。」

「素人同士が組んだらあんなもんさ。」

「うーん。」

「昨日、高校生の男の子が来てね、独自理論を延々語りだしたんだ。」

「はい?」

「その子は『悪』の僧侶の適性でね。それを聞いた途端、ぶちギレちゃって。誰もいなかったからまだよかったけど、そうでなかったらもっと大変な事態になっていただろう。基本職が四つなんて有り得ないとか、ソロは不可なんて認めないとか、なんでガチャガチャが無いんだとか、勇者がどうしたとか、チートがなんちゃらとか、六人必要なら足りない人間をそっちで集めろよとか訳わかんないことばっかり言うから弾き出して二度と来られないように設定したんだけどね。」

「うわあ。」

「それでほら、今はネットで幾らでも悪口言えるじゃない。その子、あんまり酷かったから、まあ、そんなことが出来なくなるようにしたんだけどさ。そういうのはあんまりしたくないんだよねえ。酷い奴はすぐわかるから登録前にお断りするんだけど、そういうのに限って平気で罵倒したり脅迫したり暴力を振るったり粘着質だったり偏執的だったり独自の考えを改めないから困るんだよね。『掃除』ばかりする訳にもいかないしさ。二桁もそんなことをし……おっと今の発言は忘れてくれ。」

「え、ええ。」

「取り敢えず、適性見とく?」

「は、はい。」

「ええっと………………ほい、わかった。あんたは斥候か戦士に適性があるね。戒律は『中立』か。」

「どっちがオススメです?」

「そうだなあ、あんたが注意深い性格なら斥候、腕力に自信があるなら戦士かな。」

「ここで待っていたら、そのうち誰か来ますかね?」

「可能性はあるよ。でも、いつ来るかとかその連中があんたと組んでくれるかどうかは一切保証出来ない。」

「そうですね、じゃあ、斥候で登録をお願いします。」

「いいのかい?」

「最悪、一人で浅いところを潜ってから帰りますよ。」

「そういう選択肢もあるか。」

 

男が古いSF作品に出てきそうな端末らしきものを操作すると、程なく一枚の薄い板が出てきてそれを渡された。

それはおそらく樹脂製で、クレジットカードくらいの大きさだ。

 

「ほらよ。これが探索者証明票だ。無くさいようにしてくれ。」

「ありがとうございます。発行手数料はお幾らになりますか?」

「初回発行手数料は無料。再発行手数料は五〇ゴールドだ。気を付けろよ。」

「五〇ゴールド?」

「そうだ。」

 

男が硬貨をカウンターに載せる。

 

「この小銅貨が一ゴールド、大銅貨が一〇ゴールド、銀貨が一〇〇ゴールド、金貨が一〇〇〇ゴールド。迷宮からの持ち出しは出来ないようになっているから、気を付けてくれ。」

「持ち出せないんですか。」

「そうさ。その代わり、その探索者証明票に記録されるから、支払いや受け取りはそいつをかざすだけで可能だよ。こいつはどの迷宮でも共通して使える。」

「スイカみたいですね。」

「まあ、そうなるな。」

「意外とデジタル化されているので、驚きました。」

「そうだな。で、あんたが登録することで得られたゴールドは…………おお、やるじゃないか。二八五三二ゴールドだ。」

「それ、多いんですか?」

「多いな。普通は精々二〇〇ゴールドまでだ。」

「その端末、もしかしてバグっていませんか?」

「稀にあるんだよ、そういうことが。」

「へえ。」

「で、こいつがあんたの初期装備だ。」

 

短刀と革鎧、並びに道具類がいろいろ詰まった革袋を渡される。

 

「来た時に俺が渡し、帰る時に預ける。わかったか?」

「わかりました。」

「付着したり染み付いた汗や血や体液は次回までにキレイにしとく。刀剣類の刃こぼれも手入れしておく。これは無料サービスだな。仮にこれらを持ち出したら、銃砲刀剣類所持取締法違犯になるからな。注意してくれ。」

「もしよその迷宮に行くと、装備はどうなるんです?」

「転送機で送るから、問題は無い。」

「成程。」

「では改めて、『眠れる獅子亭』へようこそ。」

 

なんぼなんでも初期装備じゃ不味かろうと思い、短刀と革鎧を下取りに出して短剣+2と革鎧+2と鉄の盾+2と携帯食料を購入する。

どの装備も一点限りだったそうで、よい買い物が出来たと思う。

窒息の指輪という強力な魔法具を特別提供価格の五〇〇〇ゴールドで販売してくれると言われたので、それも買わせてもらった。

おまけとして、蛇の牙とかいう奇妙な品を貰う。

魔物の攻撃を僅かながらも軽減してくれるとか。

ありがたくいただく。

更衣室で武具を装備し、衣類や荷物を男に預ける。

なんだかコスプレみたいだ。

何故か装備が体に馴染んでいるのだが、男に聞くとそういうことがあるのかもしれんなとはぐらかされる。

 

 

男の淹れてくれたカプチーノと手作りのパウンドケーキを食べながら(存外旨く、双方で六ゴールドだ)、雑談をかわす。

案外、人はこない。

そもそも適性の無い人間にはこうした迷宮が認識し難いそうで、立ち寄ろうという気分にもなりにくいそうだ。

つまり、興味を覚えるのは適性者ってことか。

 

 

夕方前に中学生の女の子三人組がやって来て、彼女たちは即席の戦士僧侶魔法使いとして登録を行った。

男が斥候の重要性を女学生たちへ話し、私を紹介してくれる。

あれ?

さっき、即席パーティなんてのはアカンてゆうてへんかった?

ま、まあ、ありがたいことさね。

戒律は全員『善』とのことで、私と組むのは問題ないようだ。

彼女たちは即座に受け入れてくれた。

判断、はやっ!

人気のライトノベルで似た展開があるそうな。

おっさんにはよくわからないな。

でも、とってもありがたい。

ノリノリの女学生と組んで、早速地下迷宮へ潜ることになる。

てっきり嫌がられるかと思っていたのだけれども、そういうことも無いらしい。

男にこっそり聞いてみたが、相性がいいとこういうこともあるのだと言われた。

男にはそういったこともわかるらしい。

彼女たちと私の相性はかなりいいとか。

それで勧めることにしたと男は言った。

 

迷宮仕様の貸出式魔法水筒(約一リッター入り、鮮度と温度を簡易的に保つ働きがあるらしい)にお茶を入れてくれるのが一ゴールド。

携帯食料としての焼菓子が一枚一律二ゴールドで、ビスケットとかクッキーとかシリアルバーとかがある。

バウムクーヘンがあったので、それを購入した。

 

 

初回なので、第一階層の浅いところを潜ってみる。

動く骸骨やちっさいゴーレムや這い回る硬貨などと戦い、幾ばくかの経験を得た。

彼女たちの動きは大変よく、勘働きも冴えているようだ。

私も意外な程に体が動き、物陰から敵を仕留めたりした。

罠の存在がなんとなくわかるし、道具はまるで何年も使ってきた品のようにしっくりくる。

不思議だなあ。

幾つか罠を解除すると女の子たちから褒められ、その開けっ広げな称賛に照れてしまう。

宝箱を四つ見付け、運のいいことに四つとも無事に開けることが出来た。

迷宮内の小部屋にあるそれは非常に頑健な作りをしており、かなりの年数使われた雰囲気を有している。

それぞれの罠は毒針、爆弾、毒針そしてガス爆弾。

中身は古びた銀貨二枚、水薬、巻物、大銅貨一五枚。

大銅貨を貰って、後は彼女たちの分け前としとく。

彼女たちはそれらをパーティ管理するのだ と言った。

それがいいだろう。

 

バウムクーヘンは食べやすく素朴な感じがいい。

途中の小部屋で小休憩しながら、少女たちと雑談する。

開けっ広げなのか、彼女たちはけっこうおませな発言をするのでどぎまぎした。

最近の女の子は進んでいるなあ。

 

 

何組かのパーティがやって来たのを見かけ、それと時間が遅くなるといけないからというので本日の探索を終了した。

『眠れる獅子亭』に立ち寄って端末で確認してもらうと彼女たちの階位とやらは一つずつ上がっていて私のそれは二つ上がっていた。

大興奮する女の子たち。

我々おじさん組はちょっと引き気味になったが、彼女たちを誉めておく。

そして、彼女たちと共に迷宮を出た。

見張りもなにもいない迷宮の出入口。

ぽっかり口を開けた巨人にも見える。

 

 

駅舎に近い、今風なパン屋兼喫茶店で彼女たちに軽食を奢った。

大変女性に人気のある店らしく、男は私唯一人しか居なかった。

少女たちと電話番号とメールアドレスを交換し、また一緒に潜れそうならば手伝うことを約束する。

無邪気に喜ぶ思春期の娘たちは、実に可愛いものだ。

 

さて、温泉に入ってから帰ろうか。

 

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