地下九階の映写室   作:輪音

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【オリジナル】
◎ややエグめです
◎食事中または食後すぐの時に読まれない方がよろしいかと愚考します



小鬼小隊

 

 

先日、王国に異世界召喚された勇者一二三人。

その中の九八人が、近隣の森に出没するゴブリンの討伐を行うこととなった。

多数派の思い上がった青年たちや少年少女たちは少数派を侮り、さんざっぱら侮辱した後にゴブリンが二〇体巣食うという森へ出陣する。

異世界転移者たちからすれは過剰戦力に思えるが、彼らにとっては今回が初陣だ。

訓練漬けの毎日にうんざりしていた彼らは深く考えることすらないまま、気軽に参戦する。

まさにゲーム感覚。

ステータスとかレベルとかの無い異世界をショボいと思っていた彼らにとっては、娯楽的な暇潰しにさえ思われた。

それは明らかな間違いであったが、物語的展開を疑わない者たちにとって定型的なイベントにさえ感じられている。

王国側の担当者は初め彼らへ丁寧にゴブリンの脅威について説明しようとしたが、あまりにも勇者側の態度が悪いことに内心憤激した。

一部の真面目な勇者たちには情報提供したが、まともとは到底思えない面々への助力は極力行わないことが王国関係者一同で即座に決定される。

このことが後の明暗を分けたことは、まだ勇者たちには分かっていなかった。

 

 

王都から目的地の森まで馬車で約三日。

西へ西へと彼らは進む。

主に高校生で構成される討伐隊は一部大学生と社会人を含んでいるため、統制が取れるだろうと初期は思われた。

だが、初日の夜からそれは崩れる。

討伐隊に於いて女性は九人いるが、その内の七人が仲間の男性と放埒な夜を過ごした。

中には、複数の男性を相手にした者さえいたという。

馭者や手伝いとして付いてきた手練れの王室諜報員たちは全員、その事態に呆れ果てた。

まるで遠足気分だ。

或いは行楽気分か。

彼らの大半はゴブリンを倒すことよりも、その過程を楽しむ方に重点が置かれているかにさえ見えた。

 

森から歩いて一時間程の地点に、王国側の防衛陣地を構築することになった。

そこは平原になっていて、弓矢で狙い撃ちしやすい場所である。

待ち伏せには絶好の場所と思われた。

馬車を利用しての陣地構築は手慣れたものだったので、馭者たちは勇者一党を見送った後、直ぐに強固な宿営地を設けようとする。

ゴブリンとはそれだけおそろしい相手なのだから。

異世界から来た者たちの中には、彼らを雑魚だの知性に乏しいだのと言う者さえ存在する。

王国側はその固定観念を何度も覆そうとしたが、『常識』に凝り固まった人間を説得するのは至難の業だった。

聞き入れたのは一部という結果から、如何に固定観念がおそろしいかがわかる。

 

勇者の代表を自認する大学生が、ここでとんでもないことを言い出した。

森のすぐ近くに陣地を作るべきと。

それにすぐさま唱和する勇者たち。

彼らがなにも考えていない証拠だ。

すぐ近くに陣地を作れば勇者たちにとっては便利かも知れないが、直ぐ様ゴブリンたちが襲ってくる危険性は高くなる。

ゴブリンが如何におそろしい相手かを、まるで理解していないのが窺い知れた。

散々説明した筈だが、まともに聞いた者はこの主流派の中に殆どいないらしい。

もしくは理解すら出来なかったのか。

結局、王国の戦術を説明し、若者たちの罵倒を浴びつつ彼らは陣地構築に励む。

これが正解だとわかるのは、もっと後の話だ。

 

まともそうな面々は、主流派から少し離れて装備の点検をしている。

極力関わり合いになるのを避けている節が見られた。

大幅な価値観のズレは決定的亀裂を生み出している。

事実彼らは遊撃戦力であって、主力とは同行しない。

人数は六人二隊。

斥候で慎重に調べつつ、魔法使いや治癒師を守りつつ調査する方針だ。

 

 

簡単な打ち合わせが行われる。

主流派には戦術すらない状況。

 

「ガーッといって、パーッとやればいいんだよ。」

 

自称隊長でさえも 、そんな程度の認識。

完全にお遊び感覚である。

主力隊は数で押し切るつもりのようだ。

八六人が、適当に仲のよい者同士でぺちゃくちゃ喋りながら森へ入ってゆく。

大声を出し、大きな物音を立てながら。

緊張感の断片も危機感の欠片もそこには存在しない。

魔法使いや治癒師は後方、剣士や戦士など前衛系が兎に角前にいる。

最前列には、隊長を自認する大学生剣士と友人の魔法使いと女性の治癒師。

彼ら三人がこの主流派の中に於いて、最大戦力なのは間違いなかった。

その魔法使いは探索魔法を唱え、ゴブリンを追い詰める予定だ。

見付け次第、殲滅。

なんかそう言った方が恰好いいじゃん、と彼らは物見遊山の気分で森を歩く。

 

 

森の中へ入っておよそ二時間ほど。

鬱蒼と茂った森は方向感覚が狂いそうだ。

くっちゃべりながら危機感なく歩いていた彼らに、突如風切り音が聞こえる。

 

「ん? なんだ?」

 

隊長の隣にいた長年の親友が肩に矢を受け、次いで頭部に石弾を受けて倒れる。

 

「お、おい! ケン! しっかりしろ! ミナ! 直ぐに治療しろ!」

「やってるよ!」

 

治癒師の手から、白い光は確かに発せられている。

しかし、それはさほど効いているように見えない。

顔色が瞬く間に悪くなり手足をばたばたさせ、最大火力を自他共に認めていた青年は実力を発揮せぬまま、泡を吹きつつ呆気なく事切れた。

 

「お、おい! な、なんでケンは死んだんだ?」

「わ、わからないよ! 治癒魔法は効いていたんだから!」

 

次々に飛んでくる矢と石弾。

それらをすべて切り落とし、青年はそれらが飛んできた方へすっ飛んでゆく。

茶髪の新人治癒師が叫んだ。

 

「ジョー! ダメだよ! 離れたら!」

「ゴブリンごときになめられっかよ! すぐにぶっ殺してやらあ! お前はケンを連れて陣地へ戻れ!」

 

蛮勇にして愚かなる若者は、そうして自ら死地へ飛び込んでいった。

ガサッ。

繁みの中から聞こえた音にビクッとして振り向いた治癒師は、違う方向からの一撃によって敢えなく昏倒する。

 

 

突如後方から放たれた複数の矢と石弾によって、主流派の魔法使いと治癒師は瞬時に全員無力化された。

勇者たちは全員毒耐性を有するが、小鬼秘伝の猛毒や麻痺毒への耐性はなにも有していなかった。

遊撃隊は事前にそのことを担当者から聞いていたため、それらの毒に対抗するための水薬を全員所持しているが、主力隊でそれらを持っている者は誰もいなかった。

小鬼小隊は五名一組で、四分隊がそれぞれ素早く移動しながら自称勇者たちを迎撃していた。

敬愛し信頼する上官からは、無理をしないことと危地に陥る前に撤収することを約束させられている。

侮るつもりも無いが、必要以上におそれることも無い。

一撃離脱を心掛けながら、彼らは戦術を駆使してゆく。

それは例えば、侵略者を迎え撃つ勇敢な兵士の如くに。

 

 

小鬼の発見に成功した隊長は怒り狂いながら剣を振って、鋭い風の刃を飛ばした。

だが、密集する樹の枝や葉などに遮られ、魔法の威力は否応なしに減衰してゆく。

彼は一体すら討ち取れていない。

その事実に激怒した若者は、感情のままに突撃する。

足元を注意せずに走った結果、隊長は落とし穴に落ちた。

かなりくさい。

殺す殺す殺す!

怒りのままに若者は穴を出ようとした。

青年は足に焼けるような痛みを感じる。

足元にはいつの間にかスライムが巻き付いていて、隊長を捕食しようとしていた。

即座に剣を振るって斬ろうとするものの、スライムは直ぐに体が復活する。

風の刃も同様だ。

火で焼き尽くすのが基本的な対抗手段だが、それを得意とした彼の友人は既に死んでいた。

 

「こんな馬鹿な話があるかよ! 俺はケンと一緒にこの国を乗っ取って、姫様と結婚するんだ! あの侍女たちも俺のモノだ! チートでハーレムで贅沢三昧して、酒池肉林な毎日を過ごすんだ! なめてんじゃねえぞ! こんなつまんねえ雑魚相手の序盤戦で殺られてたまっかよ!」

 

無茶苦茶に剣を振ってなんとか穴から出ようとした隊長の首筋に、吹矢が刺さる。

その先端は紫色に濡れていた。

 

「あ? なん……だ、こ……れ……。」

 

どさりと穴の底に落ちる勇者。

即座に覆い被さるはスライム。

びくんびくんと何度か跳ねた後、やがて彼は動かなくなった。

 

 

バラバラになった勇者たちは、恰好の攻撃目標だった。

分断され、各個撃破。

女性は麻痺毒と思われる毒を受け、全員連れ去られる。

別行動を取っていた遊撃隊が本隊に接触した時、彼らの見たものは死屍累々となった仲間たちの成れの果てだった。

既に小鬼たちは撤退したようで、気配は一切感知されなかった。

 

 

死者六九人、行方不明者一七人という無惨な結果。

行方不明者の生存は絶望視され、残された勇者たちは新たな秩序の元に団結し、以降このことを教訓にしながら彼らは戦歴を重ねたという。

 

 

 

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