辞令
津 崎 守 殿
平成35年 3月 29日付で特例により日本国海軍少佐に任命する。
平成35年 4月 1日より平成36年 3月 31日まで
海軍ラバウル基地第684鎮守府への出向を命ずる。
平成35年 3月 28日
海 軍 大 臣 興 津 元 二 郎
内 閣 総 理 大 臣 秋 庭 安 成
法 務 大 臣 吉 田 良
東京拘置所所長ー有村勤は、組み伏せられたままの津崎に対し辞令を差し出す。
「平成25年8月30日、第二期北西太平洋鯨類捕獲調査のため北西太平洋9N海域に出ていた調査母船日進丸が、黒色の動的物体を発見。後にこの物体が未確認生物ーfleets living in abyssal ocean「深海棲艦」の死骸と判明。その後世界各地で同様の物体が発生し、航行中の輸送船や客船、軍艦を沈める事故が多発。各国の海軍が連携して物体の駆除を図るも失敗し、事実上の海上封鎖状態に陥る。日本は未曾有の事態に対応するため、自衛隊を自衛軍に再編成する。旧海上自衛隊、現在の日本国海軍は、研究と度重なる実験及び犠牲の末、自立式女型海上稼働兵器、通称「艦娘」の開発に成功。海軍は国内及び太平洋諸島の各地に設置した基地に艦娘とその司令官を配置し、陸地の防衛と海域の奪還にあたる・・・・ここまでは一般常識として津崎君も知っているだろう。」
「・・・・・・」津崎は無言で肯定する。
「艦娘たちが兵器なのか、或いは私たちと同じ人間であるのかという下らない論争は置いておいて、艦娘たちを指揮する司令官となるためには、特別の素質が無ければならない。
一つ、兵法への精通。三つ、不測の事態に対応する判断力。
そして最後の三つが、『妖精』との意思疎通能力だ。」
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『妖精』は、深海棲艦が発生した暫く後に存在が確認され、彼らは艦娘の装備の原型を作りだしたとされている。彼らが何者であるかは現在でも判明していない。もっとも日本では、古くから自然万物あらゆるものに神が宿るとの言い伝えがあることから、その存在を否定するものは少なく、すぐに存在を認められている。
『妖精』は日本人にとって、深海棲艦に対する一筋の希望を見出した命の恩人といえるが、彼らには難点があった。それは、自分たちと意思疎通ができる者にしか従わないことである。彼らが話す言葉は標準語と日本各地の方言が複雑に混ざり合ったものであり、一般人からすると20人が一斉に全く異なる内容を話しているように聞こえるということである。聖徳太子もかくや、という代物であり、彼らの言葉を聞き取れることができる者は50万人に1人と言われている。
そして、実際に艦娘の司令官になっている者は、現に100人もいない。三つ目の要件を満たしていても、訓練の過程で残りの要件が不充足とされるパターンが多いためである。
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「少しでも多くの司令官を前線に送り、海域を少しでも奪還すると海軍省はやる気でね。老若男女問わず司令官候補者を探している。正直な所、今挙げた要件を満たすならば誰でもいいんだよ。例えその者が死を待つだけの囚人であっても。」
津崎はギロリと所長を睨む。津崎の様子も介さず続ける。
「君はここに入る前、海軍の教育学校に通っていた。座学・実技の成績は常に一位だったから一つ目と二つ目の要件は問題ない。さらに実技演習の際、艦娘だけでなく『妖精』たちとも連携を取っていたことも確認されている。三つ目の要件もクリア。津崎君は司令官になるのに最適だってことだよ。」
「成績トップ位、別に特別なことではないでしょう。毎年必ず一人はいるのですから。それに僕は犯罪者。司令官になるような人徳者ではありません。」ようやく落ち着きを取り戻したらしい。猪俣は津崎を拘束するのを止め、彼を立たせる。
「そうだ。君は【あの事件】を起こし、階級を剥奪され一般私人としてここに収監されている。まあでも、上の意向は分からないものでね。とにかく、君は今日ここを出て、ラバウルへ行ってもらうから。じゃあ、入ってきて。」
所長は扉の外にいるであろう人物に向かって言う。
「失礼します」透き通った声と共に、橙色の眼鏡をかけた女性が室内に入る。
「大淀型一番艦、軽巡洋艦大淀です。初めまして、貴方が津崎守提督ですね?」
(続く)
近いうちにプロローグ3(ラバウル基地到着まで)上げます。
誤字脱字ございましたら宜しくお願い致します。