???「(新人提督には)つらいです。駆逐艦が好きだから...」
今回から自の文の主観が原則 第三者⇒津崎 に変わります。
「大淀型一番艦、軽巡洋艦大淀です。初めまして、貴方が津崎守提督ですね?」
自らを大淀と呼んだ女性は、敬礼をしつつこう言った。
「あっ、はい。津崎守と申します。」敬礼はしなかった。いや、出来なかった。僕は一般庶民、それどころか人間以下のゴミクズと認識していたから。
「おいおい。敬礼されたら敬礼で返すのが軍人としての常識だろう?いつまでも犯罪者気取ってばかりいても困るよ。まっ、別にいいけど。津崎君、彼女が大淀で、君の秘書艦兼監視役だ。」所長はどうでもいい感じで窘める。
監視役、という言葉が少し引っかかったが、当然といえる。死刑囚を鎮守府の長に据える以上、その者が艦娘たちを利用して反乱を起こす可能性はゼロではない。また、死刑囚が脱走、逃亡することもある。もっとも、脱走は鎮守府の構造上困難ともいえるが。
秘書艦、については何も言うまい。提督の秘書官が艦娘、略して秘書艦。個人的には別に軍人を一人雇った方がやりやすいのだが。
「彼女は海軍省直属の艦娘でね。通常は各鎮守府と省庁の情報通信、査察業務をやっているんだが、今回君が特例で鎮守府に着任するということで、彼女が直々に秘書艦を申し出たんだよ。」
「通常、初めて着任する提督には最初に着任する艦娘を選択する権利があるのでは?」駆逐艦吹雪、叢雲、漣、電、五月雨の5人。いや、正確に言えば5「基」か。
「そうなんだが、
「所長。提督に着任の説明を行って宜しいでしょうか。」大淀は言う。「ああごめん。じゃあ、津崎君、彼女の説明をしっかり聞くんだよ。僕は下で会議があるから、ここを出るね。あっ、それと、猪俣君もここで待機するように。」「はっ」猪俣が返事をするのを確認すると、所長は警備隊3人を連れて部屋を出た。
「はぁ...、コホン。それでは提督、これからラパウル基地第684鎮守府着任の説明を行います。」
大淀は、所長が部屋を出たのとほぼ同時にこう切り出した。
「大淀さん、お疲れですか。」
「いえ、何でもありません。「物」扱いは慣れていますし。そこは割り切っています。あと、敬語は止めてください。私は貴方の部下ですから。」
「そうか、分かりまし・・・分かった。」他人に遜る癖が身に染みついてしまっている。
「まず、任期ですが、辞令に書いてある通り今年の4月1日から来年の3月31日の1年間です。通常の場合、鎮守府に着任後は死亡、行方不明、犯罪その他業務を継続することが著しく困難な事情が生じるまで業務を行って頂くもので、任期は存在しません。ですが、提督は特例で鎮守府勤務が認められていますので、任期が設けられています。」
「なぜ1年間なのですか。」素朴な疑問を口に出す。
「それは機密情報ですので詳しくは言えませんが、端的に言いますと時間稼ぎと反乱の防止です。」
時間稼ぎと反乱の防止、その言葉を反芻する。後者は分かりやすい。業務年数と提督艦娘間の信頼関係の強さは比例する。また、艦娘は「提督」の言動に対し不服従、といわずとも全面的に賛同する傾向を有する。
つまり、僕が「俺は死刑囚だから、脱走に協力しろ」と艦娘に命じれば、脱走ルートの構築・他の鎮守府に対する工作・内地への反攻作戦等あらゆる手を尽くして脱走「作戦」を完遂しようとするーーその可能性もないではない。
もっとも、1年間でそのような関係を構築することは艦娘に対し外的要因、例えば洗脳を加えない限り不可能であろう。・・・洗脳に対しては苦い記憶があるが。
しかし前者については分からない。時間稼ぎというからには、轟沈上等の特攻作戦でも仕掛けるのだと思ったが、ラバウル基地は前線基地でもないし、人間の領域と深海棲艦の領域の境界でもないはずだ。
「・・・ですから、主な業務は海域の奪還ではなく主に資源の輸送を・・って、提督、私の説明を聞いていますか?」大淀が少々責める口調でいう。
「すまない。少し物思いに耽っていた。で、業務が海域の奪還でないことは聞いている。」
「しっかりして下さい。艦娘とのコミュニケーションは業務の基本中の基本ですよ!まあ、聞いていてほしくない所を聞き流して頂いたことは助かりますが。」
何か不穏な言葉が聞こえた気がするが、敢えて聞かなかったことにする。
「提督の業務は他の鎮守府及び内地への資源輸送です。艦隊に対する遠征の指示と資源の管理を行って頂くことになります。業務内容に合わせ、鎮守府が保有する艦娘の種類と数にも制限が課せられています。提督が保有できる艦種は、駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、水上機母艦,軽空母艦及び潜水艦です。重巡洋艦と軽空母は各2艦まで保有できます。艦数は最大30艦です。例外は一切認められません。」
先程の言葉の意味が分かってきた。艦種・艦数を制限することで大規模な勢力になることを防ぐ。遠征に専念させることで、艦娘の急激な熟練度上昇を防ぐ。全て反乱の防止に繋がる。
「ここまでの説明はそれ程重要なものではありません。提督、これからの説明は絶対に聞き落としの無いようお願いします。」大淀の表情が鬼気迫ったものになる。
「提督、貴方が確定死刑囚であること、及び一年後に死刑に処される身であることを私たち以外の者に、特に艦娘たちに知られてはなりません。」
死刑執行ーその言葉が意識を否応なく現実へと引き戻す。大淀の言葉に、部屋の隅にいた猪俣さんも表情を曇らせる。
「もし、死刑囚であることを艦娘たちに知られたらどうなるんだ。」僕は恐る恐る大淀に尋ねる。
「情報が漏洩した時点で提督を逮捕、階級の剥奪、鎮守府の閉鎖及び全艦娘の移動を行った後、
津崎守死刑囚の刑を鎮守府内で執行します。」そう言って、大淀は法務大臣の署名と押印がされた死刑執行命令書を呈示する。
「日々戦場に赴き、死と隣り合わせにある艦娘達にとって、身近な者の死亡は非常にデリケートなものです。加えて、この鎮守府に配属される艦娘は、人間で言えば小学生或いは中学生相当の精神を持ち合わせているに過ぎない者が殆どです。もし提督が近く死亡することが彼女たちに知られれば、鎮守府全体が混乱状態に陥ることが予想されます。従って、提督が死刑囚であることは断じて知られてはいけません。この紙も、できれば使いたくないものです。」憂いを帯びた表情で、大淀は命令書をしまう。
僕は、国家に殺されることに何の恐れも感じていない、自らの過ちを清算するには、僕の命を差し出しても足りないくらいだ。でも、僕のせいで艦娘たちが悲しむことは避けなければならない。あの表情を見るのは、もう御免だ。
「先程私たち、と言ったが、猪俣さんも含むのか。」大淀に質問する。
「それについてですが、提督を監視するために、私の他に2人が鎮守府に着任することになっています。一人が海軍特別警察隊の者で、もう一人が猪俣淳さんです。猪俣さんは今日付けで東京拘置所から第684鎮守府に移動となります。」
「それについては既に聞いている。移動の理由について、所長は何も説明して下さらなかったが。」猪俣さんはそう言って、大淀の傍に移動する。
「猪俣さんも守秘義務を負います。違反した場合重大な処罰が科される場合がありますので、十分注意してください。」
その後も大淀の説明は続いた。一日のスケジュール、任務の受託・達成の報告方法、ラバウルの地理など。3時間ほどした後、最後に大淀が言った。
「以上で説明は終了です。これからラバウルに出発となりますが、何かご質問はございますか。」
「質問はないが、欲しいものがある。何、大したものではない。」
「可能な範囲で調達しますが、何でしょうか。」
「朝顔の種だ。」僕の意図する内容を察した猪俣さんが、小さく微笑んだ。大淀は困惑する。
ーーー
二日後。飛行機と輸送船を乗り継ぎ、パプアニューギニアニューブリテン島に上陸した。ラバウルの鎮守府に到着したのは、日本時間の午後11時だった。ラバウルと東京の時差は1時間であるため、現地では既に4月1日となっている。
第684鎮守府の門の前に、僕と大淀、猪俣さんが立つ。もう一人の監視員は既に鎮守府に着任し、僕等を受け入れる準備をしていたという。
「娑婆の空気を吸えるなんて、流石に気分が高揚します。」冗談交じりに、この鎮守府に着任することはないであろう正規空母の口真似をしてみる。
「ここは拘置所みたいなものだ。お前が何かやらかしたら、とっちめてやるから安心しろ。」猪俣さんが返す。
「お二人とも、お静かに。」大淀が窘めながらも、静かに宣言する。
「提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を執ります。」
ーーー
『速報です。東京拘置所に収監されていた、津崎守死刑囚が移送され、先程身柄が広島拘置所に移されたとの情報が入ってきました。津崎死刑囚は8年前に当時45歳であった・・・・海軍大将ら4名を殺害し、5年前に死刑判決が確定していました。司法関係者の間では、刑の執行準備のため移送したのではないかとの見解が広がっています。繰り返します・・・』
(続く)
情報統制は基本
プロローグ終了。(3話投稿の時点で艦娘が大淀しか出てこないのは仕様です)
誤字脱字ございましたら宜しくお願い致します。