ウミのアサガオ   作:名も無き二等水兵

5 / 6
定期的に投稿しないと「どんな話だったっけ?」と話の展開が分からなくなることがあります。

個人的には艦これ二期楽しみです。



第2話(4月10日)

執務室のドアを開けると、一面の銀世界が広がっていたーーーは言い過ぎでしょうか。書類にまみれながら万年筆を手に取り、遠征報告書を睨む提督の姿がありました。

「今日の分の報告書は大淀の机に置いてあるから。僕は気にしないでくれ。」そう言われたので机に積まれている書類にざっと目を通す。一読した限り、気になった誤字脱字や計算違いは見当たらない。勿論、一文字一文字綺麗に書かれている。

「提督は人造人間ですか。いくら何でも速過ぎます。」

「こういう事務作業はいかに速く、いかにミスなくやるかが重要だ。それよりも重要な仕事があるから、一分一秒でも多く時間を稼がないといけない。」

「それは、連日ほぼ休みなくあの子たちを哨戒に向かわせていることと関係があるのですか。」語気を強める。

 

1日に着任式を行った後、提督は直ぐに艦隊を編成し、鎮守府近海へ出撃させている。各艦隊は2時間で鎮守府に帰投するが、補給・入渠した後一時間したら再び出撃させる。17時が就業時間であり、それまでに最低でも3回は出撃することになる。

 

もっとも、単に近海に出撃するだけならまだ艦娘達にとって負担ではないだろう。問題は、1km航行する度に、旗艦が停止した時点の情報を記録しなければならないことだ。夕張さん曰く、「提督は筋金入りのデータ人間です。でなければこんなことするはずがありません~」だそうだ。疲労の色を隠せないのは出撃する艦娘だけではない。間宮さんも帰還した艦娘達にアイスを配るのに大忙しだ。提督は「材料と設備は私が幾らでも用意する。この作戦遂行には間宮さんの協力が不可欠だ。お願いします。」と甘いマスク(?)で間宮さんに語り掛け、始めは周囲をキラキラさせながらアイスの仕込みをしていた。しかし、3日後に虚ろな目をして「アイスアイスアイスアイスアイス愛す愛す愛す・・・」と呟きながら卵黄と砂糖を泡だて器で混ぜ合わせる間宮さんを私は目撃してしまった。

 

「この10日間、艦娘達に苦労をさせたことについては申し訳ないと思っている。ただ必要なデータは全て集まった。今出撃している第二艦隊が帰投したら、これから5日間は全艦娘に休暇を取らせる。勿論、間宮、大淀もだ。只、明石にはもう少し働いてもらう必要があるな。」提督は万年筆を動かす手を止め、床に散らばった紙の束を見やる。紙には見慣れない数字や数式が書き殴られており、紙の端には通し番号とされる数字が記されている。近くにあった紙を手に取ると、「1024」とあった。

「それで最後だ。」提督は満足そうに言いました。「夕張や阿武隈達に情報を集めてもらったのは、羅針盤に頼らない航行をするためだ。」

「羅針盤を使わないって、どういうことですか!!」私は驚いて、つい大声を出してしまった。

 

艦娘は海域を航行するために地図と羅針盤を使うが、地図を海に持っていくことはできない。深海棲艦と交戦した時に手に持っていた場合には邪魔になり、また防水技術も発達していないからだ。そのため、海域の情報は事前に記憶し、場合によっては艤装内の妖精にも手伝ってもらう必要がある。一方、羅針盤は持ち運ぶことができ、艦娘達は適宜停止して進行方向を確認する。しかし、深海棲艦が発しているとされる電波により、海域の奥に進むほど羅針盤が正常に機能しなくなる。この場合、羅針盤を強引に回して進行方向を決定するが、これによって目的地に到着することが困難になる。もっとも、羅針盤がなければ艦隊が遭難する恐れがあるため、羅針盤は必要不可欠の道具であるが・・・

 

「何故羅針盤を使う必要があるか。それは今自分たちがいる場所を確認するためだ。逆を言えば、自分たちがいる場所が分かれば、そこから目的地への航路を計算することができる。加えて、深海棲艦の居場所が分かれば、不必要な戦闘を避けることができ資源も節約できる。海上にいる自分たちの居場所を瞬時に特定する道具、そんな夢のような道具が欲しいと思わないか、大淀?」

「それがありましたら、苦労はしませんね。」

「そこで、だ。僕は艦娘用GPSを考えた。GPSを知っているか。」

 

ーーーー

GPS(Global Positioning System)は、地上及び宇宙空間において衛星を利用して位置を決定するシステムである。システム自体の名称はGNSSと呼ばれ、GPSはアメリカが作成した位置決定システムである。他にロシアがGLONASSを、EUがGalileoの名を冠したシステムを開発し利用していたが、深海棲艦の侵攻により現在まで利用されているものはGPSのみである。そしてそのGPSも現在では利用が制限されている。

GPSは、打ち上げられた24基の人工衛星と衛星を制御する管制局(監視局、主管制局、地上管制局)とで構成される。まず、宇宙空間の軌道上を進行する人工衛星を、地上にある監視局が観測する。次に、観測データを監視局が管制局へ送信し、管制局がデータを基に軌道計算を行う。管制局は計算結果を衛星に送信し、衛星は計算結果等を信号として地上のGPS受信機に送信する。GPS受信機は送られてきた信号を解読し、受信機と衛星との距離を計算する。この一連の動作を他の衛星についても行い、受信機の位置を求める。これがGPSの仕組みである。衛星から受信機に送信される情報は主に、コードと航行メッセージの二つである。前者は疑似雑音符号と呼ばれ、衛星の識別に使用される。後者は衛星の位置を表す情報であり、位置計算に必要な軌道要素等多岐に渡る。

ーーーー

 

「GPSについては分かりましたが、それと艦娘達がどう繋がるのか、見当がつきません。」

「順を追って説明する。まず、人工衛星。これは、零式水上偵察機で代用できるだろう。予備も含めた30基を飛ばし、事前に指定した軌道上を航空させる。彩雲の方が航空能力に優れているが、秘書艦が空母でないと彩雲は開発できないとされている。うちは大淀が秘書艦固定だから、彩雲は諦めざるを得ない。」

「軌道はどのように構成するのですか。」

「ニューハノーヴァー島を北極、ムルア島と南極、ガスマタを赤道面に見立て、鎮守府近海を地球の縮図とする。近海を1440の区画に分け、一つの偵察機が60の区画を通過するようにする。四つの偵察機を1ユニットとし、全部で6ユニットとする。実際のGPSでは6つの軌道面が使用されているから、この艦娘用GPSも6つの軌道面を使用することになるな。

そして、1440の区画は、艦娘達が収集したデータを基に作成した。正直、この区画作成が一番体に応えたな。」そう言って、提督は肩を回す動作をしました。

「なるほど。衛星の位置を区画に対応させるのですね。まあ何となくは分かりました。説明の続きをお願いします。」

「後はそこまで難しくない。監視局は偵察機を飛ばした艦娘が担当する。もっとも、観測データを作成するためには装備が必要だろう。管制局は、この部屋に内蔵させる。受信機は、監視局と同様に装備を別に作り、旗艦に装着させる。装着といっても、大きさとしてはイムヤが持つスマホがベストだろう。一応、説明としては以上だ。」

「仮にこの艦娘用GPSを採用するとして、必要なものが

①決められた軌道を通過し、信号等を受信機に送信する電子機器を備えた零式水上偵察機30機

②艦娘に乗せる、監視局の代わりとなる装置

③ここに設置する、主管制局の代わりとなる装置

④艦娘が持ち運べる、GPS受信機 ですか。①は無理じゃないですか?そのようなハイテクマシンなんて私知りません。」

「だが①がなければ話にならない。それにうちには大本営から派遣された優秀な秘書艦がいるじゃないか。」

「それって私ですか?」「他に誰がいるんだ。」

 

 

一六〇〇。第二艦隊が帰投し、報告書を受け取った後私は提督と共に工廠を訪れた。提督は明石と妖精たちに同様の説明をして、「・・・であるから、証と妖精さんたちにはこれらを作ってもらいたい。期間は十日間。資源はいくら使っても構わん。頼む。」と言いました。

「提督、頭大丈夫ですか?」と明石。

「オマエハナニヲイッテイルンダ」「チョットナニイッテイルカワカラナイ」「ドウイウ・・・コトダ・・・」と妖精たち。でしょうね。

「こんなハイスペックマシン知りません!それに提督の理論はガバガバ過ぎます!私付き合って「おや、こんなところにネジの山があるな」喜んで制作させて頂きます!!!」提督が後ろに隠していた改修ネジを見た途端、態度を180度回転させる明石。

「ワイロニクッスルワタシタチデハナイ!テイトクドノニハアキラメテ「ところで、ここに冷凍した東京ばな奈があるのだが」イッショウツイテイキマス」妖精たちも陥落。東京ばな奈は東京から移動する時に朝顔の種と一緒に持ってきたもの。

「諸君らの健闘を祈っている。」敬礼をして工廠を去る提督。敬礼を返す明石と妖精たちの目は、少年のような澄んだものだった。

 

 

「機械については明石たちに任せるとしよう」散らばった紙が片付き、床が見えるようになった執務室に戻り、椅子に腰かけて提督は言う。

「後は偵察機を搭載できる艦娘ですね。軽空母は偵察機を搭載できませんし、重巡洋艦は30機も搭載できません。」

「それについては・・・」と提督が言いかけた途端、艦隊司令部のアラームが赤いランプの点灯と共に鳴った。赤いランプは、出撃している艦隊に緊急事態が生じたことを意味する。すぐに司令部へ行き、ヘッドホンを装着する。

「こちら鎮守府秘書艦大淀。第二艦隊旗艦夕張、応答どうぞ。」

 

 

 

 

「こちら第二艦隊旗艦夕張、キリウィナ島北20km地点において、漂流中の艦娘を発見しました。」

 

 

(続く)




GPSの説明については、
西修二郎『衛星測位入門』(技報堂出版、2016年)
    『図説GPS -測位の理論ー』(日本測量協会、2007年)を参考にしました。
艦娘GPSについては目を瞑ってやってください。


誤字脱字ございましたら宜しくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。