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ソロモン海、ムルア島沖。
提督から指示された最後の哨戒を終え、私ー軽巡夕張ー達第二艦隊は鎮守府のあるラバウルまで帰投しようとしていた。
「出撃もこれで終わりですね。皆さん、本当にお疲れ様です。」三日月ちゃんが言う。
「10日連続出撃は流石に疲れたね。明日から5日間休みだから久しぶりにゆっくりできるかな。」と時雨ちゃん。
「司令官は一体何をお考えなのでしょうか・・」と磯波ちゃん。哨戒中に駆逐イ級の魚雷攻撃を喰らってしまい、制服が破けてしまっている。
「恐らく、このソロモン海について調べているのだと思います。彼を知り己を知れば百戦殆うからず、と昔の人が言っています。」白雪ちゃんが言う。彼女は博識だ。この鎮守府の委員長キャラは間違いなく白雪ちゃんだ。この10日間の海域調査も彼女がいなければ出来なかったであろう。
「かれをしり・・・とは何ですか??雪風はカレー大好きです!!!」雪風ちゃん。そういえば今日は金曜日。
「勝負に勝つには、自分たちのことだけではなく、相手のことも知る必要がある、という意味ですよ。雪風ちゃん。」隊の後ろから聞こえてくる。薄紅と紺の弓道着を着た、軽空母の鳳翔さんだ。鳳翔さんは、先程の敵艦隊を撃滅した時に雪風ちゃんが発見した。総司令部に報告し、鳳翔さんを連れて帰投するよう指示が出たため、このようにしている。
「自分たちが出撃する海のことを知っておくことは重要です。何処に深海棲艦が現れるのか、どの時間帯で天気が悪くなるのか、不安材料を少しでも無くすことによって航行に集中できます。最も、慢心はいけませんけどね。」
「鳳翔さんの言葉には説得力があるなあ。提督もそのように話してくれたら良かった。」時雨ちゃんが口を膨らまして言う。
「鳳翔さんって、私たちのお母さんみたい。」
「おっ、、、お母さんででですかっ!!!???」鳳翔さんはボンッと頭から火を出して叫ぶ。分かりやすい。と皆リラックスして航行しているとーーーー
ビビビッビビビッ。
電探が深海棲艦らしき物体を発見した旨の信号を発する。
「深海棲艦を発見。各自戦闘準備。」各艦に指示を飛ばす。キリウィナ島方面へ向かい、索敵を行う。
(深海棲艦の気配が見当たらない。先程の信号は誤りだったのかしら・・・)電探の妖精に尋ねるも、首を横に振るばかりだ。誤りでなければ、考えられるのは2つ。1つは、深海棲艦の死骸を生きていると報告した。これはまだいい。もう一つは、はぐれ艦娘だ。これは好ましくない。轟沈した艦娘が深海棲艦になり替わろうとしていることと、深海棲艦が擬態していることがあるからだ。
「夕張さん、深海棲艦を発見しました!まだこちらに気づいていません!」双眼鏡を覗いていた雪風が叫ぶ。
「よし、みんな、ゆっくりと近づくわよ。鳳翔さんは艦載機発艦の準備をお願いします。」速度を落とし、深海棲艦に近づく。
漂流する深海棲艦、いや、艦娘を見て私は思わず目を背けてしまった。
頭と右肩から流れたとみられる血の跡が全身に広がり、衣服は黒ずんだ朱色に染まっている。左目は完全に潰れ、右ひじから先が千切れて骨が突出してしまっている。衣服で隠れていない顔面や左腕、両脚には打撲の跡が見られ内出血を起こしている箇所は数えきれない。
(これは深海棲艦にやられた傷じゃない。誰かが意図的に行ったものだわ。)私は司令部に対し信号を発する。
「こちら第二艦隊旗艦夕張、キリウィナ島北20km地点において、漂流中の艦娘を発見しました。艦娘の損傷極めて甚大。既に轟沈している可能性あり。」
『こちら鎮守府秘書艦大淀。艦娘の種類は分かりますか?』
「飛行甲板から、空母であることはわかるんですが・・・」
すると鳳翔さんが、「この子は加賀。正規空母、加賀型1番艦加賀です。」と言った。たしか私たちの鎮守府は正規空母を持つことが禁止されているんじゃなかったか。疑問に思いつつも応答する。
「えっと、正規空母の加賀です。」
『そうですか、分かりました。一旦上陸し、応急措置を・・・って待ってください!提督!』
『津崎だ。夕張、加賀が生きているか確認してくれ。』提督が大淀さんから変わったらしい。直ちに呼吸と脈を確認する。
「ほんの僅かですが、脈があります。呼吸もしています。」
『加賀を連れて帰投せよ。陣形は輪形陣。加賀を夕張と鳳翔で挟み、駆逐艦で囲め。』信号が途切れる。なぜ鳳翔さんがいることが分かったのだろう。
「加賀さんを連れて帰投します。陣形は輪形陣です。急ぎましょう。」ラバウルへ向けて出発する。急がなくては。
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「提督!!何故そのような真似をしたのですか!」
「大淀、君は僕に加賀を見殺しにしろと言うのか。それは野暮な注文だな。」提督は通信用のヘッドホンを取り、椅子に座ったまま頭をこちらに向けて言いました。
「いえ、それは・・・ですが、加賀さんが既に深海棲艦と化している可能性があるのですよ?もしそうだった場合、あの子たちでは手に負えません。」
「夕張の言葉を僕は信じる。それに、キリウィナ島からここまではそれほど離れていない。深海棲艦となる前に陸に引き上げてしまえば無力化は可能だ。まあ、僕の判断が間違っていたらそれまでだ。大淀、警備隊の二人に刑場の準備をするよう連絡してくれ。僕はドックへ行く。」提督はそう言った途端、出撃棟へ走っていった。
「そんなこと、出来るわけないじゃないですか…提督は卑怯です。」主のいなくなった部屋で、私は立っていることしかできなかった。
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底知れぬ人喰い沼のような、暗く深い海。私はその中でプランクトンの如く漂っている。否、実際に漂流しているのではない。無意識の深層に存在する心象風景なのだろう。怨恨入り混じった罵倒が私の身に絡みついて離さない。
『何故司令官に従わないのですか。貴方は間違っている』
『あんたが居るから、私たちが辱めを受けることになるのよ』
『近づかないで。穢らわしい』
『何の役にも立たない産廃空母め』
『失せろ』『邪魔』『来るな』『消えろ』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』『沈め』・・・・・・・・
嗚呼、誰か私を殺して頂戴。
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4月16日。〇九〇〇。私がドックで艤装の整備をしていると、提督が話しかけてきた。
「すまない明石。さらに作業を押し付けてしまって。」
「提督が加賀さんをおぶってここに来た時には流石にびっくりしました。何しろ正規空母がこの鎮守府に来たんですから。加賀さんの治療分も追加でネジを請求しますよ。」
「そうだな。明石が居なければ加賀は助からなかっただろう。感謝する。彼女の容体はどうだ?」提督は頭を下げる。
「ちょちょちょっと、ネジは冗談ですよ!!・・・加賀さんは一昨日意識を取り戻し、現在は隣の部屋で休んでもらっています。ただ、左目と右腕は修復できませんでした。ごめんなさい。」
「明石は悪くない。謝らないでくれ。」提督が慰めてくれる。
ドックで治すことができる艦娘及び艤装の傷は、深海棲艦の攻撃と艦娘の装備によって付けられたものだけだ。深海棲艦以外の生物ー人や鮫等の魚類ーによって付けられた傷は修復することができない。高速修復材を使っても、だ。加賀さんの損傷の殆どは後者によってなされたものだ。頭部と右肩からの出血が特に酷く、後数分止血が遅れていたら助からなかった可能性があった。
そして、左目の眼球はひび割れを起こしており、止む無く取り出して艦娘用の義眼をはめ込んだ。右腕については前腕の部分が千切れてしまっていたので、切断面を縫合した。
「右腕の欠損以外に身体障害は特に無いので、打撲が引けば退院できると思います。会話をした限り、記憶の喪失や混濁も見られません。ですが、問題が起きてまして・・・」
「問題とは?」
「加賀さん、食事に全く手を付けないんです。このまま餓死してやると言わんばかりに。」
「分かった。加賀の身体については概ね把握した。艤装はどうだ?」
「これもまた問題でして、まず飛行甲板と格納庫いずれも身体と同様に損傷を受けており、甲板は使い物になりませんでしたが、格納庫は使える部分を継接ぎして何とか直しました。ですが、その分搭載機数が約3分の1に減少しています。でも艤装の損傷は仕方がありません。一番のネックが、」
「
「加賀さんは、矢に艦載機を封印し、弓を用いて矢を放つ衝撃でその封印を解除するという手順で艦載機を発艦しています。弓矢が使えなければ、艦載機を発艦できません。」
「龍驤や飛鷹は巻物を、大鳳はクロスボウを使用している。あれを加賀に応用できないか。」
「クロスボウはともかく、巻物は無理ですね。艦種が違いますから。」艤装を全く別の物に変えることは、いくら妖精と私が頑張っても駄目だろう。
「分かった。明石は引き続き、加賀の治療と、余力があったら前の零式の開発も頼む。後、加賀の艤装データを貸してくれ。3日後に返す。」
「提督、また何か企んでいますね?」
「それはおいおい話す。お疲れさん。」そう言って、提督はドックから出て行った。私に話してくれないのは、どうしてだろうか。
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4月19日。一六〇〇。設計図がやっと完成した。後はこれを明石の下へ持っていくのみ。
コンコンコン。感慨にふけっていると執務室のドアをノックする音が聞こえてきた。「大淀です」「入れ」「失礼します」
「提督、海軍省から電文が届きました。」そう言って、大淀が紙を差し出す。
通達
ラバウル基地第684鎮守府
津 崎 守
上記の者は、4月24日迄に貴鎮守府が保管している正規空母加賀を解体すること。
之に従わない場合、同月25日午前9時に警備隊及び艦隊を貴鎮守府に派遣し、加賀及び貴
君を拘束する。
平成35年4月18日
海 軍 大 臣 興 津 元 二 郎
(続く)
説得力無いかもしれませんが、艦娘の中で加賀さんは2番目に好きです。(1番は終身名誉初期艦兼秘書艦の叢雲)
次回で4月の終わりまで進めたいところ
誤字脱字ございましたら指摘の程、宜しくお願い致します。