この世界の技術なら、きっと珍兵器も輝けるはずだ。そうだろう?束博士!! 作:菊池 徳野
それは何もなく、次の休みに出掛けないか、傷の治りはどうだなどと話題が出るほどに平穏な日常の一コマに投下された、殺戮兵器であった。
「玉兎って案外脆いよな。実際のところISとしての安全面はどうなんだ?」
言葉だけを捉えれば普通の疑問である。しかし、私の怪我の多さについて話していた最中の台詞であれば意味が変わってくる。
その時の私の戦慄は言葉では表せないものであった。つまるところイチカが言いたいのはこういうことである。
私の!可愛い!ISが!不良品かと思われている!!
見ず知らずの人間に言われた場合、控えめに言って極刑である。パンジャンに乗せるかロンドン砲の大砲決定。
しかし、今回は友人の、しかもISについて殆ど知らない人間からの言葉であれば喉から出掛けた言葉も飲み下せるというもの。
殺すぞ、とか食事中に言っていい言葉ではない。当然良識のある私は分かっている。皆で弁当を囲む状況では尚更である。
しかし、それでも収まらないのが私の愛…と趣味。
幸い多くの人が玉兎のスペックに興味があるようなので講習会と参ろうか。
というわけで助手の二人、よろしく頼むよ。
「まぁ、模擬戦の相手は良くしてたから。別にいいわよ」
「任せてキャララン」
うむ。リンもノホホンもありがとう。本当ならラウラにも協力をお願いしたいところだがISの修理中であれば仕方ない。
ノホホンにはスペック関連の説明を、リンにはいつもの様に模擬戦の相手を担当してもらう。
一先ず全ての余剰パーツをパージして拡張領域に仕舞っておく。あまり完全な素の姿は見せないからか通信から感嘆の声が上がる。
というよりノホホン位しか見たことないんじゃなかろうか。
「キャラランの玉兎はねー、所謂ヒット&アウェイ戦法を得意とするオールラウンドタイプなんだよ」
持ち前の機動力を活かして、距離のイニシアチブを握ることが出来るのが分かりやすい特徴だろうか。そのためにスラスターが多く着いる他、背中にも通常のバーニアの他にカートリッジ式のものが標準装備となっている。
試しに少しばかりスパーリングと行こう。
「いつでもいいわよ」
大変結構。追加の脚部装甲と肩のミサイル、手にはライフルを展開する。これで機動力が落ちるわけではないが、念のため軽くバーニアを吹かして機体を温めておく。
いつもはリンの攻撃を受けるが、今回は玉兎の紹介なのでさっさと接近して攻撃を仕掛ける。
「あんな感じで接近したらキックとライフル。今みたいに距離を取るときにはミサイルとライフルの弾で相手を撹乱して遠距離に持ち込むのがカタログスペックを元にした動き方だよ」
「なんか思ったより地味なんだな」
まぁ、これだけなら速いラファールと言ってもいいレベルである。しかし専用機の持ち味はカタログには無いところにあるものだ。
それが単一能力。私だけのISの進化である。
ビギナー装備を仕舞って、いくつか本装備を展開するが、目玉はこいつだろうか。
『ドイツ式空力砲 腕部壱型』。旧ドイツ軍が開発した水素と酸素の混合気体を圧縮したものにより空気を打ち出す、そのシンプルな構造を丸っと採用して手を加えた空気砲である。
「巨大な手?」
掌に射出孔、指の見た目をした気体カートリッジ、冷却用の腕部の機構。良くある腕のパーツを換装した装備である。
ただ、そのサイズが機体と同等であることを除けばであるが。
「おっきいねー。たぶんだけど水素爆発による圧縮空気の打ち出し…オリムーに分かりやすく言うなら凄い空気砲かな」
流石に同じ畑の人間には分かるらしい。とはいえ一度も使っていない状態から正体を見破られるのは私としては少し悔しい。やはりノホホンは彼女の姉同様にただ者ではないようだ。
リンの乗る甲龍とは違って見えるタイプの空気砲であるが、最大の特徴がその使い方だろう。
――ただ、押せばいい。
出力を抑えているが、リンが何かに押されるように少し後退する。それに対し、私は少しだけ腕を前に出しただけである。
空気の圧縮、空気の切り取り、空気の射出、どれもこれもナンセンス!!そこに存在するのならばただ押し出せばよいのである。
腕の動き、搭乗者の思念を読み取り、その威力と分量を算出し、ほぼノータイムで空気の壁を押し出すことで不意の一撃や物理攻撃への防壁の一つとして機能させることが出来るのである。
実は掌の射出孔はブラフであり、手のどこからでも空気砲は射出可能である。掌のそれは威力が一定以上の空気弾を射出する為のもので、牽制や普段の攻撃以外では使わなくてもよいパーツなのだ。
――そしてこれに『エロ爆弾』こと『イ号一型乙無線誘導弾』、『ハボクック』の氷生成機能をフルに使った図を想像してほしい。
勿論他にも装備はあるが、一度見たことのある物の方が想像しやすいだろう。現にセシリアなんかは頭を抱えているし、イチカも心なしか表情が硬い。
「キャラランのISはどれもえぐいからねー。本当なら遠距離から敵を翻弄して叩き潰す事だって簡単なんだよ」
「あんた絶対それ以上に展開できるでしょ。あからさまに脚と背中のスペースが空いてるんだけど」
おや鋭い。当然本来なら装甲の薄い玉兎の補強パーツや必殺技の為の装備だってあるのだ。ラーテやモンスターのような巨大なパッケージを使わずに装甲を展開出来ねば使い勝手が悪すぎるからな。
ま、今はお披露目は無しだがな。
これでわかってもらったかな。私の玉兎が優秀なISであることが!
「お、おう。何か馬鹿にしたみたいになってごめんな」
いや、元々これは私の意地の問題であるからして。イチカに悪気があったとは思っていないとも。
玉兎の単一能力である拡張領域の超拡大と私謹製のエネルギーポッドがあってこその戦術だが、相手したくないだろう?相手の戦意を無くすこと、これも勝利のひとつの形だよ。
さぁ、イチカ。君の白式にも飛び道具が欲しくなってきた頃じゃないか?遠慮するな。好きな試作品を取り付けてやろう。
実は『ラフレシア計画君2号』が完成してな。形は八方手裏剣なんだが実際は自立タイプのファンネルだ。あれならセシリアのブルーティアーズにも負けんぞ。
え?エネルギーが既にカツカツ?拡張領域の空きもない?一体どんな変態機能のついたISだそれは。
次回、『水着を選ぶのに必要なのはセンスより自制心』