この世界の技術なら、きっと珍兵器も輝けるはずだ。そうだろう?束博士!! 作:菊池 徳野
「私は!何も悪くない!!」
珍しく大きな声をあげて己の無実を訴える男が一人。
「作ったのはアンタでしょうが!」
「それは勝手に使った奴の責任だろう!」
咄嗟に光学迷彩を使用したが、惜しくもラウラによって囚われの身となってしまったキャラは簀巻きで地面に転がされてなお無実を訴え続ける。ちなみに一夏は既に粛清され、今はキャラの嘆きに顔を背けている。一夏の頬に張り付く紅葉の葉が、物悲しさを感じさせる。
「謝罪をする気持ちはあったが、謝罪を要求されるという理不尽を食らうとは思わなかった」
「それは、そうかもしれませんが…」
その言葉にセシリアだけでなく、周りで話を聞いていた女性陣も目を背ける。今回の騒動において、確かに本質的にはキャラは何もしていないのだ。ただ不用意に一夏に発明品を触らせてしまったこと以外、責任と呼べる部分はない。
「謝りにきた所を簀巻きにされるなど思いもしなかった!貴様らは話し合うという文明的な行動も取れないのか蛮族め!」
そう。実はキャラ、謝罪の為と詫びの品まで用意して持参しているのだ。残念ながらラウラたちにより発明品に類する品は一切没収されたため、詫びの品と認識されてないうえ、それまでの逃走劇のせいで発見=確保の術式が頭にあった彼女らのせいで地面に叩きつけられることになってしまったが。
なお、この場に居らぬのはキャラの意図に早々に気付いた箒とシャルロットだけであり、彼女達は簀巻きにされたキャラに一言謝罪を述べて自室に帰っていった。賢い選択であるが残された者達にとっては最悪の選択である。
よもやこんな扱いを受けるとは思いもしなかったと怒り心頭のキャラの声を聞いて場の空気は重い。そしてこんなことの原因となった一夏は、既に罪悪感と反省の念で死にそうになっている。たまにはしこたま反省すればいい。
「私は無実だ!」
ことの発端は前日にまで遡る。
――疲れた…栄養補給して寝よう。
折角の林間学校だからと休日をフルに使って水着やなんやと買い出しに行ったのだが、ついはしゃぎすぎた。久しぶりの海ということと、イチカを狙う女性陣の熱にあてられたことが原因だった。
そのためいつもよりも体力を多く使いすぎてベッドに沈む羽目になったのである。
しかし先程まで人と居たせいか、頭はいつもより回ってしまって仕方ない。キャラの場合はシャボン玉もかくやというペースで発明品の案が浮かんでは消えていく。
例えばホログラムのリアルタイム小型映写装置。…送信者の側から何を送るかの設定が面倒かつありきたりなので却下。
では接触式の光学迷彩装置ではどうだろうか。雑に作っても携帯電話サイズにすることができるだろう。…作ってどうする?悪用されるのが関の山、せめて何かにホログラムを被せる装置の方がましだろう。
疲労というのは厄介なものである。気力は無い筈が頭はいつもより動いて、しかし判断は激甘になる。妙な事を思い付いても動けないだけマシなのだろうが。
しかし流石にそろそろ巨大兵器で推しすぎである。当然ロマンであるが、小型化も別種のロマンがある。合理性だって珍兵器には必要なのだ。
ホロに迷彩、あとは何だ?ホイポイカプセルでも作るか?
――助けてタバーネン…。なーんて。
本格的に疲れが酷くなってきた。意味の無い独り言などその最たる兆候であればこそ。
こういうときは無心になって寝てしまうのがいい。静かに、落ち着いて…。
静か…。
――なるほど、耳栓か。
「で、作ったのがこれか」
呆れた風なイチカの言葉を軽く無視して説明を始める。だって今日が休日なのをいいことにほぼ徹夜で仕上げていたのだから。私のテンションは異常なほどにハイなのだ。
高性能ステルス装置『SWAO 53』試作α型。使い方はとっても簡単なうえ、左右非対称になってるからどっちが精度でどっちが範囲指定のスイッチか丸わかり!手乗りサイズなので持ち運びも楽々。
ただバランスが悪いので水平な所には置きづらいし、元ネタのような潜水関連の機能はないが。
ではイチカ、これに適当な言葉を言ってくれるか?
「…本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」
あぁ、イチカも中々に染まってきているようで私としては内心でガッツポーズを隠せないが、今は『SWAO 53』を試す方が先決である。
範囲を…に、精度を…よし。『SWAO 53』起動!
「……。…?!…!!」
これは集音した音を自動解析し、指定した範囲で消音するのだ。精度や範囲を細かく調整すれば敵の無線は全滅。勿論こちらの無線も全滅だがな。
本当は姿も消せるのだが、試作なのでそちらの方は別途このオプションパーツが必要だ。それだけだと地球に優しいジャミング装置とでも思ってくれ。はい、切り替えスイッチ。
「…せめて説明してからやってくれ」
謝るから睨まないでくれ。だが騒音問題はこれで解決できるわけだ。凄いだろう?
「あぁ、凄いな。コスパを考えないとだけどな」
私が作って私が使うんだからかかるコストはゼロ円だとも。コスパが最高だろう?では私は少し寝る。そこの壁の付近で寝ているから皆が来たら直接触って起こしてくれ。
なんなら一つ渡しておくから先に使って実演していてくれても結構だ。
ただし、調整中なので光学迷彩の方は触らないように。では。
食堂の椅子をいくつか失敬して、『SWAO 53』を起動。更にオプションパーツを取り付けて自分の周囲に壁と同じホロを被せておく。これで不用意に起こされることもないだろう。
キャラが椅子に横になったと思えばフッと姿を消した。よく見たら壁に不自然な切れ込みらしきものが見えるが、気にして見ない限りは気づかないレベルである。
「忍者かよ」
完全に忍者である。
行き過ぎた科学は魔法と見分けがつかないと言うが、思わぬところで師と同じ評価を受けることになったキャラであった。
「でも消音装置なんて何に使うんだよ」
いつになく普通のものを作ったと思えば使い道に困る品。普段は使えるが難のあるものしか作らないくせに普通のものは汎用性がないとは、何ともアレな発明家である。
思いつくのは耳栓か、あとはドッキリに使えるか?
「このつまみが精度か。範囲は…学園まるっと覆えるのか?変なところで高性能だな。取り敢えず最小でいいだろ」
この時イチカは気づいていなかった。精度が100%になっていたこと。範囲が現在の所持者のみ、つまりイチカのみであったこと。起動と同時にセシリア達から声を掛けられていたこと等々。
不運と呼ぶには笑いの神に愛され過ぎた男の運命力が強すぎた騒動の幕開けであった。
細かい話?ラッキースケベと透明と来ればさわる逆鱗は一つだろう。
『SWAO 53』が破壊されるまで、あと数時間。
次回、『親子喧嘩その1』