この世界の技術なら、きっと珍兵器も輝けるはずだ。そうだろう?束博士!! 作:菊池 徳野
私がIS学園に来た理由は束博士から社会勉強として送り出されたからだが、束博士は私にIS学園で何をしろとは言わなかった。だから私は姉に相談しつつも自分なりのやりたい事を決め、目標を掲げた。
その為に先ずは目立つように動いた。気に食わなかったというのもあるが、オルコットの件は渡りに船だったと今なら白状できる。国家の代表候補という分かりやすい強さの基準を余裕を持って、なおかつ奇抜なISで打ち倒す様は客引きとしては満点であった。
とはいえその後客を逃してしまっては意味がない。ならば次は飽きられる事のないようにと立ち回った。束博士曰く、凡人は理解の外にあるものは手の届かない物と判断してしまうらしいので、あくまでも人間らしく立ち回った。
最先端の先を行くが手の届く技術を見せながらも、誰でも思い付くような事を既存の技術でやってのけ、世界が一番理解しやすいロマンの可能性を示唆してきた。それもこれも私の目標を達成するためだった。
そこには我慢も妥協も有ったけれど、やりがいと楽しさは常に一緒だった。少なからず興味を持った学生が話を聞きに来る事もあって、これから更に良い方向に動いていくのだと楽観的になっていたのだ。
だが、その体たらくがこの有り様とは笑えない。
――箒、怪我はないか?
何があるか分からない環境で、最大の盾を手放すのは平和ボケの証である。
高熱で灼ける背中の皮膚の異常な感触を無理矢理シャットアウトする。少しでも余裕な態度を見せないと皆が不安になってしまう。今ISが倒れたら、私の夢は遠のいてしまう。
メンテナンスや開発で中途半端な装備しかないからと初擊だけは『玉兎』で受け止めたが、それもこれも積んでいたパッケージが原因と言って相違ない。
『超々重量戦車 ラーテ』。そう名付けた要塞型迎撃用ISの換装パッケージである。物理的に厚い装甲と余剰エネルギータンク、空中移動以外の一切を取り払った難攻不落の長期戦対応型要塞。それがこのパッケージのコンセプトである。
会場のバリアなんかよりも余程耐久性に優れたその装甲を生徒達が隠れる様に壁として設置して、エネルギータンクからの供給が切れるまでの間は無敵の要塞として機能するよう動かした。
ISの安全神話が崩されなければそれで良いと判断しての事だったが、それで全てをカバー出来ていなかったのがマズかった。避難できていない生徒がいた事。その中に箒が含まれていたこと。よりにも寄って箒が狙われた場所に装甲が展開出来ていなかったこと。挙げればきりがないが、ただ運が悪かったと言うには厳しすぎる条件が並んでいた。
周囲で何か言っているのが聞こえるが、箒を逃がすことが先決である。本来ならこのままイチカ達の援護に出るつもりだったが、それはオリムラ先生達に頼ることになりそうだ。
今私が気絶でもすれば、展開した装甲が消えてしまう恐れがある。なればこそ今は無茶なことは出来ない。幸いなことに身体は丈夫に出来ているので、防衛に徹しさえすれば敵の攻撃を受けることは無い。
あとは生徒達の避難が済むまで耐えるだけである。
それが終わりさえすれば、目の前で飛び回っている馬鹿野郎を殴り飛ばすことができる。私に喧嘩売ったこと、地獄で詫びるといい。
そう思っていただけに少しばかりやり過ぎた。
「あんた、そんなこと考えてたのね」
私が横たわるベッドの横で何かを責めるように背中に乗せた氷をつつくリンがいる。その表情は呆れています、と言わんばかりで、人の顔色など気にしない私でも少し堪えるものがあった。
ついカッとなってやった。反省はしていない。
「反省しなさいよ、バカ」
そうは言うが相手が無人機であったのは間違いない、という確信があったのだ。ならば覗いてる悪趣味な奴らに手を出したことへの後悔をさせようと思っただけなのだ。
確かにスクラップにする必要も無かったし、速さや硬さを一切無視してラーテの鉄拳を叩き付けたことはやり過ぎたと思う。しかし敵に「お前らなど羽虫の様に簡単に叩き潰せる」と示すにはあれが手っ取り早く、かつ効果的だったのだ。
なればこそ、オリムラ先生のお叱りの言葉も反省も不要ではないと思わないか?
「その言葉、千冬さんに伝えておくわ」
分かった。私の言葉が間違っていたよ、リン。私は大ケガを負いながら戦うべきではなかったし、必要以上に敵を痛め付けるべきではなかった。
冒す危険を最小限にするよう注力するべきでした。すみませんでした。拳骨は勘弁してください。怪我人を殴るとか非常識だろう。
「じゃあさ、あんたの夢ってやつ教えてよ」
夢、目標のことか。大したことじゃないんだが、改めて言うとなると少し気恥ずかしいな。
私の夢は『ISは皆が触っても危なくない玩具だと世界に広めること』。変な言い方だが他の表現が思い付かなくてな。
要は、ISが危険な兵器であるという概念を払拭したいのさ。暴走しても悪用しても、直ぐに止められる。ある種の芸術作品を作る舞台装置としても使えるし、医療や移動手段としてもデザインしだいで思うがまま。子供がカッコいいロボットを想像するように、大人が便利な秘密道具を望むように、ISはその想像を形にできる手段の一つなのだと思わせたいんだ。
束博士は宇宙開発を夢見て作ったけれど、深海だって、電子世界だってISは航行を可能にする。ならば世界に発想を、技術屋に情熱を。ISの魅力を形にすれば振り向いてくれる人がいるんじゃないか、とね。現に何人か開発関係に興味のある生徒が話を聞きに来た。
博士は見限った様なことを言っていたけれど、それでも思いを共有できる存在は多い方がいい。
「確かに、私と模擬戦した後にも何人かと話してたわね」
失敗兵器を成功させるのも技術の進歩を世界に示す一環。今回の無人機を叩いたのも、生徒の安全を守ったのもISの安全性を示すためだ。
もしあそこで人命に被害が出ていたら、ISは兵器としか認識されないからな。せめて私という技術者がいる間は安全だと思わせたかったというわけだ。
まぁ、失敗兵器を作るのは趣味の面がかなり強いがね。
「…何となく、あんたのことが分かった気がするわ」
それは何よりだ。現にハボクックは溶けない氷を冷えすぎない程度に自動で供給する医療機械に早変りしている訳だし、これが一般化するのもそう遠くないと思うのだけどね。
「でも、やっぱり悪用する奴が出てくるんじゃないの?あんたの夢は凄くいいと思うけど…」
良いも悪いもリモコン次第、というやつさ。私の目の黒い内は誰にも渡しはしないし、何よりISを悪魔の手先にするなど言語道断だ。警察組織がしっかりするまでの間は私がリモコンを守りきるとするさ。
それに何より、
――私の鉄人は格好良かっただろう?
『超々重量戦車 ラーテ』別名『鉄人28号』。
物理的に非効率と言われる二足歩行人型兵器の個人的なベスト版である。
ただ、リンには再び呆れた目で見られてしまった。
解せぬ。
次回、『強襲白兎!』