この世界の技術なら、きっと珍兵器も輝けるはずだ。そうだろう?束博士!! 作:菊池 徳野
転入生がやって来た。
明らかにおかしい企業スパイだとか、オリムラ姉弟の厄介事だとか、色々と面倒なことになりそうではあるが私にとってはそんなことよりも頭を抱えるべき案件が他にある。
「貴様が篠ノ之博士の子飼いのIS操縦者だな?」
ラウラ・ボーデヴィッヒ。独国の軍属の幼い見かけの少女である。事前に調べた情報通りの人柄らしいが、そんなことよりも気にするべき部分があった。
銀の髪に顔立ち、雰囲気や目の色こそ違うもののボーデヴィッヒのそれは私のよく知る人によく似ている。似ているのはラウラは姉の妹なので当たり前なのだが…どうにもやりにくい。
適当に自己紹介を済ませるが、動揺が隠しきれなかったようでボーデヴィッヒから侮蔑の篭った視線を送られる。おそらく腑抜けた男と思われているのだろう。
「腑抜けた奴だな。もういい、興味が失せた」
誤解を解いてもよいのだが、気持ちの整理が着くまではこのまま流しておくとしよう。ボーデヴィッヒの方もイチカにご執心のようだし、それがいいと思うのだ。
休み時間にデュノアが何やら言っていたが、それどころではなかったのでイチカに押し付けてさっさと撤退した。デュノアの方には技術を学ぶのは自由だが結果だけ浚っていく気なら来週には物理的に会社が無くなると、伝言を頼むか。あれは嫌がらせが出来るような質では無さそうだし、最悪こちらに引き込んでしまえばいいだろう。
なんにせよ、取り敢えずは事態が落ち着くか動きがあるまで待つとしよう。
イチカの指導もあるし、考えるのは後でいい。
それは咄嗟の行動であったし、やった今でも間に合うか微妙なラインをよくぞ通したと自分を誉めたい。それが玉兎で蹴りをぶち込むというスマートさの欠片も無いものだとしても、だ。
黒いIS、ボーデヴィッヒがイチカ達へ大口径のレールカノンを打ち込もうとした。自己紹介での口振りを鑑みるにイチカの排除を目的としての事だろうがこれは黙っているわけにはいかない。
――軍属であることは無暗に暴力を振りかざしてもよいことの免罪符にはならない。
これ以上何かするなら容赦はしないと言外に告げるが、ボーデヴィッヒは余裕な態度を崩そうとしない。むしろ今の不意討ちで興奮しているのか、謝罪や撤退を促せる状態ではなさそうだ。
全くもって面倒くさい。
「篠ノ之博士の犬のくせにやるじゃないか。IS技術だけは一流の様だな」
喧嘩売ってる、つもりなのだろうな。正直何と言われようがどうでもいいので再度撤退を促す。
「はっ、やはり腑抜けか。その貧相なISでは私のシュヴァルツェア・レーゲンには太刀打ちできまい」
今のは少しカチンときた。個人的な想いから多少なり蛮行には目を瞑っていたが、どうやら貴様には気遣いよりも教育が必要なようだ。
きっと姉だって許してくれる事だろう。勿論手加減はするつもりだが、痛い目を見てもらうとしよう。
――…教育の時間だ、
試験運用と言わず、本装備で戦ってやる。
わざと挑発にのったフリをして近接戦を仕掛けにいく。余裕そうに笑みまで浮かべているところ悪いが、貴様のISデータは獲得済みだ。
AICを発動して一蹴するつもりだったのだろう。突きだしたままの腕が何とも滑稽である。わざと先程と同様に大袈裟な跳び蹴りを叩き込む。
困惑しているところ申し訳ないが、AICなら既に私が学園の模擬戦で見せている。独国のそれは既に世界共通の一般技術である。
ハボクックの時に少し見せたのだが、どうやら世界には伝わっていなかったらしい。やはり一度、世界に向けてプレゼンの一つでもするべきなのだろうか。
わざと距離を取れる様に飛ばしたのだが、どうやら気づいていないらしい。なにやら文句を言っているが軍人としては下の下だな。
AICの弱点は分かっているだろうに、距離を詰めずに講釈垂れる余裕なんてないだろうに。
――ISでの一対一というのはこうやるんだ。新兵。
そう言いながら手元の銃から弾をばら蒔いて牽制をかける。リン相手にやった戦法だが、流石に同じことをやるつもりはない。
ボーデヴィッヒもレールカノンやらで打ち返して来るが、所詮は近接メインのISである。距離を詰められなければ怖いことなどない。時間を稼ぎながら少しずつ装備を展開していく、そろそろ数は十分だろう。
大量に展開したミサイルポッドから誘導ミサイルを射出する。その数優に60発。とてもじゃないがAICで捌ききれる数ではない。
――ほら、AICを使えば止められるのだろう?無理だなんて言わないよなぁ?
とはいえボーデヴィッヒもAICの弱点は理解しているらしく、その回避能力は目を見張る物がある。目がいいのか落とせる物は落としているし、低空で回避してミサイルの目標から自分をはずしたり、ジャミングで外したりと技量は低くないのだろう。
だがまぁ、普通のミサイルを私が使う筈もない。
『イ号一型乙無線誘導弾』、大日本帝国の作った無人ミサイルだ。ただまぁ、私のそれは操作は全自動のうえ弾数は必要以上に多いかもしれないが。
予想はしていたが一部のミサイルをこちらに向けてきた。目標を失ったそれを武器に転用するつもりなのだろう。有効的な手ではあるが、それ相手には効かない。
そのミサイルの別名は『エロ爆弾』、そのミサイルは凄いぞ。なんせ…
――
目標を失った筈のミサイルが再びボーデヴィッヒを捉える。ハイパーセンサーがあろうが数の暴力の前にはどうしようもない。背中に一撃を貰えば、後はなし崩しである。
AICを使う人間なら、対峙している人間がAICを用いたIS開発をしたという事実を知った時点で、その対策が済んでいる事を警戒して然るべきだったな。
爆風で浮いているボーデヴィッヒに接近してダメ出しを一つ。それとこちらが本命。
――あと、兎さん馬鹿にしてんじゃねぇ。
『爆・洲ジ導弾脚(ゾウジダオダンキャク)』。脚部に取り付けた爆薬を炸裂させ、玉兎の強靭な脚力を数倍にして叩き込む回し蹴りである。
上空から地面に向けて叩き込む様に打ち出して、残っているエネルギーとISの装甲の一部を削り取る。
これで少しは懲りたろう。
ボーデヴィッヒに関しては、暴走したときに何とかする事にしよう。相手も今回のことで距離を取るだろうし、ちょうど良かったような気がする。
伸びているボーデヴィッヒには悪いが、後の処理は他の人間に任せよう。
後日、ボーデヴィッヒからトーナメント戦のタッグパートナーに誘われて頭を抱える事になるのを私はまだ知らない。
次回、『シャルロット泣く』