大泥棒の卵   作:あずきなこ

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念についての独自の考察を含みます。


20 まったりサバイバル終了

 ターゲットの番号札を奪いに行った日から日数が経ち、今日は四次試験開始からちょうど1週間、つまり今日が最終日だ。

 私は番号札を盗りに行った後は、結局ずっと最初に見つけた空間でぐうたらしていた。だらけるの最高である。

 とは言え、全くそこから離れなかったわけでもない。あれからも食事は魚がメインだが、たまにちょっとだけ歩いて木の実や山菜、野うさぎなんかを狩っては食べていた。私も随分と成長したものだ。

 そして日が出ている間は本、日が沈んだら電話とメカ本。その辺は相も変わらずである。

 

 その他変わった事といえば、2日前に料理中の火を使った煙につられて受験生が一人ここに来たくらいのものである。今更来られても既に点数が集まっていた私としては何の用もなかったのだけれど。

 来たのは切羽詰まった表情をした長い黒髪の男性。見た感じ、プレート取られて焦ってたんだろうね。つまり1点分の番号札さえ無い無価値な男が食事時にやってきたのだ。

 私の聖域に土足で踏み入り、あまつさえ私の食事を邪魔した彼の罪は重い。非常に重い。菩薩のように穏やかな心を持つ私もコレには怒り心頭である。

 私の逆鱗に触れた彼は身体の自由をある程度奪ってどんぶらこっこと川へ流しておいた。頭頂部の髪の毛を剃って、リアル河童の川流れとかやらなかっただけマシだ。

 まぁ、死にはしないんじゃないかな、多分。監視役の人が、こりゃヤバイと思って救助したかもしれないし。

 そうでなくとも一応ある程度は動けるはずなので、頑張れば呼吸もできるし、少しずつなら移動できたはずだ。死んだら彼の努力とか運が足りなかったってことで、うん。

 

 そんなこんなで特に苦もなく過ごした1週間ももう終わり。これからまためんどくさい試験でもあるのかと思うと、なんだか名残惜しい気さえする。

 今度知り合いでも誘ってこんな感じのリゾート地とか、はたまた無人島でサバイバルするのも面白いかもしれない。いやサバイバルは食材狩るの面倒だからやっぱいいや。

 とは言えそこに目をつぶれば、いっそ小さな島を1つ買い取って永住するのもありかもだ。

 そんな事を考えつつ、後ろ髪を引かれる思いで一週間過ごした場所を後にし、スタート地点兼ゴール地点の方へ向かって移動を開始した。

 

 最終日ということで、やはり辺りには既に何人かの気配がちらほら。皆が息を潜めて終了の合図を待っている。

 ここで争いが起こっていないことから、既に終わったのか、はたまた点数が集まっていない人は皆何かしらの事情で行動が不能なのだろう。

 待機している中には知った気配も混じっており、察するに彼らも集め終わって待機しているのだろうことに、少しだけ安堵する。

 特にクラピカなんかは足取りがつかめなくなると困るから、合格ないしは最終試験まではいてもらわないと困る。

 

 特に隠れる必要もないので、近くの木の枝に腰を掛けてその時を待つ。

 その場でしばし待機していると、遠い海上にある船の大きな汽笛の音が島中に響き、アナウンスが入った。

 

『只今を持ちまして四次試験は終了となります。受験生の皆さん速やかにスタート地点へお戻りください』

 

 1時間の期間猶予時間以内に戻ること、と試験の終了が告げられた。

 さらにスタート地点への到着後の番号札の移動は認められないらしく、安心してぞろぞろとスタート地点に姿を現す受験生たち。

 出てきた中に案の定私のオトモダチが居たので声をかける。

 

「や、キルア。帽子の人に襲われたりしなかった?」

「は? ……あぁ、何だお前がやったのか。スろうとしたら持って無かったから聞いてみたらプレートが無いとか騒いでたな」

「キルアの方ばっか見てて隙だらけだったから超楽ちんだったよ。で、その人どうしたの?」

「ちょっと遊んだけどつまんねーから放っといた。あ、ソイツの連れ後から来てさ、ソッチのプレートでオレ合格」

 

 そう言ってキルアが99番と199番の番号札を見せてきたので、私も自分の88番とターゲットの198番を見せる。お互いにターゲットを狩ることに成功したようだ。

 そして哀れキルアと対峙した帽子の人たちは、一応殺されることはなかったらしい。よかったね。

 と、それまで普通に喋っていたはずのキルアが急に警戒心を顕にしてきた。え、なになにどうしたの?

 

「……おい、オレを尾行してるアイツからパクったってことは、お前もあの近くにいたんだよな?」

 

 一転して鋭い目で私に問いかけるキルア。

 あぁ、なんだそういうことかと、誤魔化すことでもないので私は頷いて肯定した。

 

「くっそ、あんな距離でお前に気づけねーのかよ、マジ何者だよお前!」

 

 するとちょっと不機嫌そうに表情を歪ませてそう言うキルア。

 まぁ、確かに彼からしたら、決して気を抜いていたわけでもないのにあの距離に私がいて、それに気付けないのは不服かもしれない。

 しかし彼は念を覚えていないのだから”絶”に対応できないのは仕方ない。今は、まだ。

 

「あー、その辺はほら、家の人に聞いたら教えてくれるかも? 私が何したのか、とかもさ」

 

 彼には歳相応に子供っぽいところがあるから納得できなそうなので、一応私が何かしたってことだけは伝えておこう。

 泥棒やってるのはゾルディックは大体の人が知ってるから今更だし、念については家の人に聞いてください。

 

「お前が何かしたからオレが気づけなかったってか? なんだよ、今教えろよそれ」

「やだよ、滅多なこと言ってイルミさんとかシルバさん怒らせたら私死ぬじゃん」

「オレのために死んでくれよ」

「じゃあ死ぬ前に遺言としてキルアの家族への罵詈雑言全部バラすね」

「おいマジやめろ」

 

 死なば諸共ってやつだよ。家族に聞けって言ってんのに、何故私の命をかけてまでキルアに教えてやらにゃならんのだ。

 しかし私の命を粗末にするだなんて酷いなこの子は、親の顔が見てみたい……あの親じゃこうなるのも当然ですね。

 

「つーかさ、お前そこそこ強いんだろ? 親父はともかくイルミどうにか殺せねぇ?」

 

 そんな物騒なことを聞いてくるキルア。もう私を舐めることはしないが、私の視界にはそのイルミさんが映ってるのにそんなことを聞くだなんて私を殺したいのかこの子は。

 幸いだったのはイルミさんとは距離があるし、声もキルアのお家関係の話だったから落としていたおかげで聞かれてないってことだ。

 

 しかしイルミさん、か。身体能力はあちらが上、念についてもあちらが上。基礎の能力では私が負けている。

 念に関してはイルミさんは操作系っぽいけど、あの針に操作系特有の一撃必殺的な効果があるかもだし、その場合は彼の肉体も相まってかなり厄介な相手だ。

 念能力者同士の戦闘だし、一応能力の相性次第ではどうにかならないこともないけど、それでもやはりキツいだろうね。

 やってみないとわからないとはいえ、今ある情報だけで分析しても厳しそうだと、考えた末の結論を述べる。

 

「えー、あー、んー……たぶん無理、かな」

「やっぱ無理かー……つっても一応多分なんだな。あーぁー、お前がもうちょい強ければなー」

「だってさ、キミら殺しのプロじゃん。私はそっち方面じゃないんだよ」

 

 後頭部で手を組んでぼやくキルアにそう返す。もうちょい強ければってなんだ、イケそうだったら本当にやらせるつもりだったのか。

 実際私の能力は攻撃面にも有効だが防御でこそ真価を発揮するのだ。

 私は戦闘スタイルもスピードタイプだし。腕力よりも脚力を重視して鍛えてきたのだ。

 全ては生き延びるために。だから最初から殺しのために肉体を、技を磨いたイルミさんに勝つのは難しい。

 

 というか、そもそも私の能力は実はそんなに強いわけではないのだ。オーラを盗んで自己を強化すると言うと強そうに思えるが、そうでないのは私が特質系であることに起因する。

 特質系の私はオーラの強固さでは他系統に劣る。単純な自己強化の場合、纏う量が増えようとも単位あたりの強度は変わらないから、結局は同程度の変化や放出系能力者にも劣る程度。

 しかも能力一つ使ってそのレベルの私に対し、彼らは何の能力も使わずしてそれなのだ。そこに彼らの能力が加われば、結果は言わずもがな。

 強化系相手には決定打にかけるし、操作系や具現化系のような一撃必殺やトリッキーさもないので、その系統の戦闘タイプの能力者と戦うのも厳しい。

 能力の発動条件もそれに拍車をかける。オーラの攻防力の低い私がオーラを盗むためには相手に接近する必要があるし、また盗むのは接触時しか不可能だから危険度が高く、最悪自己強化するまえにやられてしまうことだってある。

 この戦闘面での欠点は、盗むという行為が他者を肉体的に害するという行為とあまり結びつかないので仕方なくはあるが。この辺りはもう諦めて折り合いをつけている。

 このように、能力本来の性能では他系統の能力者に劣るのだ。

 牽制用の能力も、実は念弾に毛が生えた程度の威力、利便性しか無い。これはそもそも攻撃に重きをおいてないし、ある程度使えればよかったからなのだが。

 というか、同サイズの念弾と卵なら、着弾時に破裂によって威力が分散しない念弾のほうが総合的な破壊力は強かったりもする。

 追加効果もあるものの、それも効果が高いとは言い難いものだし。

 

 念能力者には、それぞれが生まれ持つ才能というものがあり、その多寡によって身につけられる能力の規模が異なる、と私は考えている。私はどちらかと言えばそれに優れていると思う。

 私の持つ2つの能力。後者はそもそもの性能から、前者は私の系統から、接近戦がそもそもリスキーなのでどちらも効果が高い能力ではない。なので能力の規模としてはあまり大きくない。

 故に私にはまだ大技1つを習得するくらいの余地があったのだが、戦闘における決定的な能力を考えていた私は、既にそれを修得することができなくなってしまっている。

 その原因は、突発的な除念能力の発現。本来除念は結構な規模の能力なのだが、自然発生だからか何なのか、原理は私には不明ではあるけれど他の2つの能力とあわせても私の才能の内に収まりきるものだった。

 とはいえ、流石に能力の行使が厳しくはなっていたので、誓約と制約によってその規模を縮小させてなんとか問題を解決したが。

 解決したとはいっても、能力が普通に行使できるギリギリのラインだ。本来は大なり小なり余裕を持たせるべきなのだけれど、これもまぁ仕方ない。

 

 便利だし、読めなかった本を読めるようになったのでいい能力ではあるけれど、私の念能力は戦闘において結局微妙な感じになっているのだ。

 世の中には、とんでもない規模の能力をバンバン使う能力者もいるにはいる。そのごく一部の人の戦闘能力はきっととんでもないものだろう。

 逆に余地があっても新たな能力を習得せず、今あるものを更に効率良く使用する方針の人もいて、実際それも戦闘能力が高い。

 

 しかしながら、微妙な感じでもそれなりにうまく活用すれば、能力の規模以上の効果を発揮することだって出来る。

 ヒソカのバンジーガムなんかがいい例だ。伸縮性と粘着性を兼ね揃えたオーラ。ただそれだけの、決して規模は大きくないであろう能力。

 だけどそれもヒソカの手にかかれば、移動攻撃防御となんでもござれなシロモノに早変わりである。あの能力は規模に反してアホみたいに高い性能を誇る。

 

 私の能力だって例外ではない。能力そのものが強くないからといって、戦闘における効果が期待できないわけはない。

 大切なのは、自分の能力を見極め良く理解し、最高の形で最大のパフォーマンスを発揮すること。自分の能力で何が出来るのかを突き詰めて考えていくことこそが重要。

 私は、そうやって自分と能力の最適化を行い、その効果を高めている。同程度の実力者でそれを行なっていない者にも勝利することが出来るほどに。

 

 だからこそ、無理だと言い切らないのは、やりようによっては勝てるかもしれないし、無理と言い切ることで自分の中でその可能性を閉ざしてしまうから。

 念は精神状態も大きく関わる。戦闘時は、自信に溢れているぐらいがいいのだ。そのほうが力を出し切れるから。

 無理だと決めつけて戦うと、念も萎縮してしまい全力を出せなくなるおそれがある。

 だから弱気な発言はしても、そうだと断定する気はない。だからいつもやればできる、私はできる子、と心で自分に言い聞かせるのだ。

 その自己暗示こそが念を安定させ、どのような状況であれ100%に近い実力を発揮することが出来るのだ。

 

 その後もポツポツと取り留めもない事を話していると、少しだけ遅れてゴンたち3人もゴール地点へ戻ってきたのでそちらと合流する。

 キルアもゴンと会えて嬉しそうだ。だからって他2名がアウトオブ眼中なのはどうかと思うけど。扱いに差がありすぎる。

 まぁいい。それならばその代わりに私があの2人に絡んで親密度を少し上げておくとしよう。

 少年たちを見守る二人に、暇つぶし目的3割、打算7割の心境で声をかける。

 

「おつかれ、レオリオ、クラピカ。3人は一緒に行動してたの?」

「おぉ、メリッサか、お前も6点集められたんだな。オレとクラピカは初日に合流して、ゴンとは昨日だ」

 

 私の質問にはレオリオが答える。そのままこの1週間の大雑把な流れを聞いた。

 ジュースおじさんトンパのとその仲間の騙し討ちを受けたこと、クラピカの介入で事なきを得、そこでクラピカの点が集まったこと。クラピカのターゲットがトンパだったらしい。

 その後は3日目にヒソカに遭遇し、番号札1枚を交換条件に戦闘を回避したこと。

 ここはマジで同情する、私は会わなくてよかった。確かその日の夜はおぞましい程の粘っこい殺気を感じた。誰だかはすぐに分かったし、触らぬピエロにたたり無し、ということで私は近寄ってきたら逃げる準備さえしていた。

 そして昨夜に漸くレオリオが6点集まったこと。その時にゴンが蛇に突っ込むというかなりの無茶をしたらしいけど、あの子はなんか凄いなぁ、思考がぶっ飛んでいると言うかなんと言うか。

 

「っていうことはさ、レオリオとクラピカは1週間ほぼ一緒だったんだね。マジでおつかれさま、クラピカ」

「あぁ、そう言ってもらえると私の苦労も報われるようだよ……」

「おい待てテメーら、どういう意味だそりゃ!」

 

 一通り話を聞いた後、神妙な顔で労う私に、これまた神妙な顔で頷くクラピカ、そしてそれを見て憤るレオリオ。一拍置いて皆で笑い合う。

 この二人もなかなかいいコンビだ。そしてレオリオは弄られた時のリアクションの良さはピカ一だ、素晴らしいね。

 だからといってクラピカがヤバいと判断したときは容赦しないけど。もしも邪魔をするなら残念だけれどレオリオも、だ。

 

 

 

 終了のアナウンスから1時間後、今現在ゴール地点に集まっている10人の四次試験通過が言い渡された。

 周囲を見渡してみると、最終試験へ進むのは私、キルア、レオリオ、ゴン、クラピカ、ヒソカ、イルミさん、頭に布巻いた人、壮年の武闘家、そして忍者。

 後半の3人は名前も知らない、特に忍者以外は印象にも残っていなかった。

 

 こうして改めて見てみると、まぁこんなもんかってメンツだ。正直頭に布巻いた人と、レオリオは予想外だけど。

 頭に布巻いた人は身体能力はこの中でも一番低いんじゃないだろうか。とはいえこの試験を通過したのだから、きっと狩り(ハント)の技術はあるのだろう。弓持ってるし、いかにも慣れてそうな感じだ。

 レオリオなんか一次試験のマラソンでバテてたのに、スタミナ以外のポテンシャルは意外に高いようだ。よくよく考えればさもありなん、なぜならヒソカも認めるレベルだし。

 武道家は、まぁここまで残ってても不思議ではないと思う。年季も入っているし、心技体のバランスもいいだろう。

 忍者は念は使えないけど身体能力はかなり高いみたいだ。二次試験の様子を見るに、少し頭が足りないかもだけど。というか彼、絶対ジャポン出身だよね、忍者だし。時間があればジャポンについて語り合いたいなぁ。

 その他は予想通りかな。イルミさんにヒソカにキルアは言わずもがなだし、クラピカは総合的に高い能力、ゴンも高い身体能力。

 

 一通り四次試験の通過者についての分析を終えて待機していると、島へとハンター協会の飛行船が近づいてきた。通過者は島にやってきたその飛行船に乗せられ、次の会場へと向かう事となった。

 四次試験開始前のパイナップルさん曰く、次が最終試験だ。長かったハンター試験も漸く終わりが見えてきた。

 思い返せば試験の期間は長かったけれど、私は試験中特に苦労した覚えはないのであっけないもんだ。私にとって一次と二次はぬるく、三次も仕掛けは特に脅威ではないし長くて面倒なだけ、四次に至ってはほとんどぐうたらしていたし。

 でもまぁ、その中でもそれなりに得るものもあったし、いい経験になったんじゃないかと思う。

 

 受験生を乗せた飛行船が飛び立ち、ゼビル島から離れて行く。飛行船の窓から見えるゼビル島は、窓に置いた左手だけで覆い隠せてしまえるほどに小さくなっている。

 あの島は私に、流星街とは違う長閑な自然の中での自給自足の経験をさせてくれた。それは決して悪いものではなかった。

 ゼビル島から視線を外し、宛もなく飛行船をさまよいながら最終試験に思いを馳せる。

 今度は何をさせてくれるのだろう。

 少し、楽しみだ。




ゴレイヌさんとか、ピトー、プフ、モラウ、レイザーとかは、ヒソカで言うところのメモリがものすごく多そうですよね。
ゴレイヌさんの入れ替えによる奇襲、ピトー、モラウ、レイザーの能力の規模、プフの物理攻撃無効の分裂などはかなり厄介なものです。
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