大泥棒の卵   作:あずきなこ

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26 暗殺一家のお家事情

 正義の変身ヒーローもビックリな変身方法によって、針まみれのゴツい顔から猫目の美青年へと脅威の変貌を遂げたイルミさん。

 彼はあまりの事態に困惑する周りの人間を置き去りに、マイペースにキルアに軽く挨拶をして、問いかけた。

 問うとは言っても、ただの事実確認だけど。

 

「母さんとミルキを刺したんだって?」

 

 イルミさんの言葉に、まぁね、とだけ返してキルアが肯定する。随分と余裕がなくなってしまっている。

 まぁ、無理もないか。キルアを扱くイルミさんは、彼の話を聞く限りでは百鬼夜行さえも方向転換したがりそうなほどの恐ろしさだ。

 母さん泣いてたよ、とイルミさんが言うと、漸く立ち直ったらしいレオリオが口を挟んだ。

 

「そりゃそうだろうな、息子にそんなひでー目に合わされちゃ。やっぱとんでもねーガキだぜ」

「感激してた。”あの子が立派に成長してくれてて嬉しい”ってさ」

 

 だけどそのイルミさんの発言にずっこけるレオリオ。いいリアクションしてやがる。

 ミルキくんのメールでキキョウさんの言葉はだいたい知ってるけど、マザコンだからかなりの嫉妬が混ざっていた。

 やっぱりゾルディックはかなりぶっ飛んでいる。大人の男性陣はともかくとして、個性派揃いって次元ではないよねアレ。

 

 イルミさんがキルアに受験動機を問いただすけど、その答えは私も聞いた通り、なんとなく。

 その言葉を受けて、安心したよ、これで心置きなく忠告できる、と安心したのかどうかさっぱりわからない無表情で言うイルミさん。

 

「お前はハンターには向かないよ。お前の天職は殺し屋なんだから」

 

 キルアは熱を持たぬ闇人形で、人の死を唯一の歓びとするように、自分と父親に作られた、と。

 そんなお前が何を求めてハンターになるのか、と。

 聞いてる側からすれば酷い暴論にしか聞こえないようなことを淡々と言うイルミさん。

 

 ちょっと、いやかなり行き過ぎな気もするけど、暗殺一家ゾルディックとしてはそう間違った教育方針ではない。

 子供の頃に徹底的に植えつけねばならないのは、平然と命を奪えるようにすること。

 僅かでも情けをかけたり、一瞬でも迷いがあれば、ターゲットの戦闘能力次第では逆に命を落とすこともある。

 日常的に殺しをする家なので、狙われることだって多い。復讐者がわりと酷い境遇であったとしても淡々と殺せるように。

 彼らの一族はきっと、全員が感情を殺し、命を事務的に摘み取れるように、小さな頃から教えこまれてきた。

 例え殺しをして感情が動こうとも、それは愉悦などの快楽で無くてはならない。その行為に後ろ暗さなど微塵も感じてはいけない、と。

 

 それは、ゾルディックに生まれたキルアにとっても宿命であり、生き延びるためには必要なことだ。

 生まれた瞬間から、家柄のせいで彼にとって世界は敵だらけの場所だ。

 普通に生きることは叶わない。殺しも何もしてなくとも、ゾルディック生まれってだけでもうアウトだから。

 殺しの英才教育も、彼の身を守るためには必要不可欠だ。とは言え先程も思ったように行き過ぎ感はかなりあるし、それが愛情ってやつなのかどうかも私にはよくわからないけれど。

 

 キルアは確かにハンターになりたいわけではない、とイルミさんの言葉の一部を肯定した。

 けれど、気圧されながらも反論をした。

 

「だけど、オレにだって欲しいものくらいある」

 

 あのキルアが、この状況でイルミさんに反論。かなり勇気のいる行動だったろうなぁ、と思う。

 だけどそんな勇気を振り絞った言葉も、ないと断言された。お兄ちゃん鬼ですね。

 それに更にキルアが食って掛かり、今望んでいることもある、とも言ったけど、ふーん、だなんてどうでもよさそうな反応だ。

 

「言ってごらん、何が望みか?」

 

 その問に、数秒迷った後、意を決してキルアは言った。

 ゴンと友達になりたい、と。

 

「もう人殺しなんてうんざりだ。普通に、ゴンと友だちになって、普通に遊びたい」

 

 彼が漏らした本音。家を出て、外の世界を知って、触れ合って、漸く見つけた自分の願い。

 闇にどっぷり浸かった彼が、それでも光に手を伸ばした。

 

「無理だね。お前に友達なんて出来っこないよ」

 

 だけどそれもその一言によって一刀両断される。

 普通を望み、求めた。小さくとも強いその願いはイルミさんに届かなかった。

 さすがにこれはキルアが可哀想だ。ゾルディックとしての意にそぐわない願いだからと言って、こうもあっさりと踏みにじられたのでは家出だってしたくなるだろうね、こういうことはこれが初めてじゃないだろうし。

 生きるために必要とはいえ、ここまで徹底されるのは非常に窮屈だし、私ならそんな退屈なら死んだほうがマシかもしれない。

 仕事はきっちりこなしているとはいえ、ミルキくんなんかわりとフリーダムだし。

 もうちょっとその辺を緩めてあげてもいいんじゃないだろうか、次期当主として期待されてるのは分かるんだけど。

 まぁ、ゾルディック的には少なくともゴンみたいな友達は困るんだろうけどね、後先考えない猪突猛進タイプだし。

 

 キルアはゴンが眩しすぎて測りきれないだけであって、友達になりたいわけではない、とイルミさんがキルアに追い打ちをかける。

 違う、と否定の言葉を発するキルアだけど、その声は酷く弱々しい。

 そうやって育てられたのだから自分にそういう部分があるのは理解しているからか、ハッキリ否定出来ない事に対し悔しそうに拳を固く握り締めている。

 

 更に言葉を重ね、キルアを追い詰めていくイルミさんに対し、耐えかねたレオリオがついに動き出した。

 当然黒服に止められるが、手は出さないと宣言し、こう叫んだ。

 

「キルア!! お前の兄貴かなんか知らねーが言わせてもらうぜ。そいつはバカ野郎でクソ野郎だ聞く耳持つな!」

 

 勇猛果敢にイルミさんに暴言を吐くレオリオ。

 キルアの強さを知っていて、その彼が頭の上がらないイルミさんの実力の程も察しはついているだろうに、大した度胸だ。

 

「ゴンと友達になりたいだと? 寝ぼけんな!! とっくにお前ら友達(ダチ)同士だろーがよ!」

 

 続けてそう叫ぶ。もうキルアの望みはとっくに叶っているのだと。

 私もそう思う。友達っていうのは、なるものと言うよりはなっているものなのだ。

 ゴンとキルアは、私から見ても仲の良い友達に見えた。そして二人が互いに友達でありたいと思ったならば、それだけで十分なのだ。本来ならば私がキルアにしたようにわざわざ口に出したりする必要なんて無い。

 キルアはその言葉に体をわずかに揺らして反応し、しかし逆にそれに何の反応も返さなかったイルミさんは、次のレオリオの、少なくともゴンはそう思っているという言葉には敏感に反応し、そうなのかと問い返した。

 それを荒々しい口調に罵声を加えてレオリオが肯定する。度胸があって凄いとは思うが、無謀も甚だしいので見習いたいとは思わない。

 

「そうか参ったな、あっちはもう友達のつもりなのか」

 

 そう言いつつもやっぱり参っているようには見えない表情で、顎に手を当てて考えるようなポーズを取るイルミさん。

 数秒の後に答えが出たのか、さも名案であるかのように人差し指を立てていった。

 

「よし、ゴンを殺そう」

 

 殺し屋に友達なんて邪魔なだけだからいらない、と衝撃的な発言に驚愕している一同を尻目に、針を持ちゴンの元へ向かおうとする。

 試合中にも関わらず会場から出ようとしたイルミさんを止めようとした審判に針を投げつけその顔を変形させ、さらにゴンの居場所を聞く。

 予備動作もなく投げられたそれを避けることも叶わず、哀れ顔面を歪ませながら聞かれたことに素直に答えてしまう審判。簡単に喋ってしまったのはあの針のせいだろうか。

 何あの針超怖い。

 

 顔面が大惨事な審判を放置して部屋を出ようとするイルミさん。しかし扉の前に受験生と黒服たちが立ちはだかる。

 私はというと、参加しないつもりで居たのになぜか参加してしまった。

 原因はハンゾーとボドロさんだ。その場を動かずに突っ立っていた私の背中を、ボドロさんが自分に構わず行ってこいと言い押し出し、しかし尚も動かずにいたらハンゾーが襟首掴んでここに強制連行したのだ。

 マジですか、と心で嘆きながらもズルズルと引きずられた。戦力的にアテにしてるのか何なのか知らないけど、私を巻き込まないで欲しい。

 

 ちょっと待ってくれハンゾー。私はイルミさんと面識があるって知られたくないからこの状況はマズイんだ。

 故に逃げたいけれど、この場の空気がそうさせてくれない。ここからスススっと離れたりしたらそれはもう究極のKYだ。

 連れてこられる段階でも、アレ以上グズればお前空気読めよってなるし、ならばとイルミさんがスルーしてくれる可能性にかけてはみたけど、この状況になった時点で詰んだ感は否めない。

 ボドロさんも動けないことを口押しそうに、なんか自分の分も代わりに頑張ってくれ的な視線を私に注いでくるし。

 違うんです塩老師、確かに仲良かったけど何かする気なんて私にはないんです、保身のためにも。

 

「参ったなぁ……、仕事の関係上オレは資格が必要なんだけどな。ここで彼らを殺しちゃったらオレが落ちて自動的にキルが合格しちゃうね」

 

 自分を止めようとする面々に対し、邪魔をするのならお前らも殺す、そんな事を包み隠さずに言うイルミさん。

 どうせこの状況を利用してキルアを追い詰めるためのことで実際には殺らないだろう。それはヒソカも理解しているからか動いていない。単にそこまでする価値をゴンに見出していないだけかもしれないけれど。

 なので私の懸念はイルミさんが無償労働をしだすことではなく、私個人になにか言ってくることだけだ。

 どうかこのまま私には触れないでいただきたい。そんな儚い願いは、次の瞬間にあっさりと粉々に砕かれてしまった。

 

「というかメリッサ、お前も邪魔するの? お前も分かるだろ、暗殺一家に友達はいらないって」

 

 うわああああああぁぁぁぁぁイルミさん何言ってくれちゃってんの!? 視線向けてくるだけならまだしも、必要ないのに私の名前まで出すなんて! 

 今のイルミさんの発言のせいで私に視線が集まる。お前知り合いだったのかよ的なものが。

 最悪だ。私が快楽殺人ピエロのヒソカと知り合い程度なら、まぁ、ただ単に目をつけられた幸薄い少女で済んだだろうけど。

 でもそこにイルミさんと知り合いってことまで追加されるのは駄目だ。この二人と知り合いって、もう同業者とかの線がかなり濃厚になってくるから。

 

 おのれイルミさん、恨むぞイルミさん。目線だけでも私に向かって言ってるってことは十分理解できたのに。

 なるべく悪さしてない善良な人間を装っていたというのに、ここに来てそれを崩されるとは。

 せっかく合格も決まって私の試験は実質終了したというのに、まさか試験終了後にこんな目に遭うだなんて。

 

 しかもこんな大勢のハンターの前で。これが切っ掛けで私の素行調査とかされたらどうするつもりだ。

 いや、試験にゾルディックが参加していようとも、明らかに社会的には害悪でしかないであろうピエロがいようとも、何もせずに放置しているのだから多分そんな事されないんだろう。

 その辺のことを考えれば私も調査とか何もされないと思うけれど、かと言って断定はできないし、万が一ってことがあるんだから気を使ってたのに。

 巡り巡ってジャポンにいる私の友達が危険な目に遭う可能性だって、ほぼないだろうけど0ではないのだからずっと警戒していたのに。

 おかげでその可能性がまたほんの僅かに上がってしまった、かも知れない。

 

 悪気がなかったのかどうか知らないけど、いや彼もバカじゃないから絶対わかっててやったし悪気もあったな。愛する弟と会話していて、しかもその時自分への悪口まで弟に言われてたのだから。

 だけどそれは私が言ったんじゃないのに。もういい、ソッチがその気ならこちらも徹底抗戦だ。

 意識的だろうが無意識的だろうが最早どうでもいい。先に私に不利益な行動を取ったのはイルミさんの方だ。

 それに、キルアの望みは真に叶うことは決してない。そして私はそれを身にしみて理解しているからこそ、少しなら叶えてあげたくなるのだ。

 だから私はこの場で、キルア側についてやる。

 

 見ていてください塩老師、私の勇姿を。

 いやそんな勇姿ってほどのもんじゃないだろうけどね。

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