大泥棒の卵   作:あずきなこ

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09 友達

 夜の闇の中、建物から漏れてくる明かりだけを頼りに目的地に向かって走る。口から漏れる白い息が夜闇に溶けて消える。

 私の右隣にはクロロ、その更に右隣にパクノダ。私達3人がいるのは今回のターゲットの屋敷の庭。

 建物の内部からは破壊音や悲鳴が途切れることなく聞こえてくる。他の参加者であるフィンとシャル、コルトピとノブナガの2組のペアが大暴れしているためだ。

 参加者は合計7人。今日も私は蜘蛛の仕事に参加していた。

 

 

 幻影旅団の仕事に初めて参加したあの日から半年ほどが経過し、季節は冬になっていた。

 あの日、理不尽な連戦を強いられて死にかけた私はそれまで滞在していたクロロの家に戻り、2週間ほど痛む体を休めてから自宅へと帰り、それに合わせるようにクロロもその家を離れふらりと姿を消した。

 今は数多有る自分の家を転々としているか、ホテルにでも泊まって暮らしているようだ。たまに携帯に来る着信がそれを教えてくれる。ちなみに携帯は今まで持っていなかったけれど、クロロの家を離れる前に買っておいた。

 

 あれからも何度か仕事に呼ばれ、気が向いた時には参加をしている。もちろんお面を装備してはいるが、仕事中に足手まといにはなってはいないので特に何も言われない。やることさえやればその辺は自由なようだ。

 私に対する報酬が安上がりなのも、特に文句が出ない一因かもしれない。私が呼ばれるのは毎回ではなくて基本的に本が絡んでいる仕事の際のみ、そして報酬はその本を読ませてもらうこと。所有権は蜘蛛にあり私はそれを借りるだけなので、蜘蛛からしたらほぼ無償である。

 彼らとの関係は良好。世間一般的にはとんでもない犯罪集団で、容赦なくぶち殺しまくるので近づくことさえ忌避するような存在だけれど、その容赦の無さは敵か邪魔者にのみ向けられるものなので一応仲間となった私は特に酷い目にあわされることは無い。

 いや、無いと言い切るには語弊がある。正確には悪意のもとに酷い目にあうことはないだけで、純粋に彼らと手合わせすると私は酷い目にあうのだ。仕事の後に行われるそれに未だに一度も勝った試しがなく、毎回ボロボロになっている。誰が相手だろうとそれは変わらない。

 おかげでかなり鍛えられてはいるものの生傷が絶えない。まぁやられるのわかってて参加してるんだから自業自得だし、死のリスクを負うことなく戦闘経験を積んで強くなれているからいいんだけど。

 ちなみに彼らを私の仕事に呼ぶ気はない。あいつらを呼ぶと騒ぎが大きくなりそうだからだ。私は盗みがしたいのであって殺しがしたいのではない。

 

 彼らとそうして過ごす以外は、以前とあまり変わらない。本を買ったり盗んだりしてそれを読んで、読み終る前に補充して不要なものは処分して、というのを繰り返している。

 これだけだったら何も変化はないけれど、少し変化した部分がある。それは、たまに私の家の近くに来た蜘蛛の誰かがふらりと立ち寄ってくることだ。誰か、とは言ってもこの半年で来たのはクロロとマチとパクがそれぞれ1回か2回程度のものだけど。

 基本的に蜘蛛は同じ所に留まらない。宵越しの銭は持たないと豪語しているタイプの連中は基本的に食い物盗んで空き家で寝泊まり、家を持たないタイプはホテルなどで生活、家を持っているタイプでもバレると困るのであまり自宅に寄り付かないからホテルがメインで、クロロのような家を複数所持しているタイプは住所が多すぎて逆に住所不定なので、普段誰がどこにいるか分からない。仕事があるときだけ集まり、それ以外で会うことは殆ど無いらしい。

 その点、私は普段一つしか無い自宅であるマンションの1室で生活しているし、一度引っ越ししたけれど前の部屋は処分済みなので結局住所は一つだけ。住所は聞かれれば大抵は教えているし、私の現住所に来れば高確率で私はいるのだ。

 なので何かの用事で私の家の近くに来た時、知り合いがいるということで立ち寄るのだそうだ。マンションは広い所を選ぶので部屋も余っているし、暇も潰せるので私としては歓迎だ。暴れそうな奴らは来たら追い返すかもしれないけど。

 そんな感じで、そこそこ充実した生活を送っていた。

 

 

 思考を過去から現実へと戻す。

 建物内部の陽動によってこちらは完全に手薄になっていて、今までは警備の連中と遭遇することはなかったのだが、前方に2つの気配を感じる。それも、そこそこの手練のようだ。

 

「警戒しろ。二人いるぞ」

 

 クロロの声に、私とパクは了解と短く答える。

 そもそもなぜ陽動などという面倒な手段を使ったのかというと、事前に入手していた雇われハンターの存在があったからだ。

 プロかアマかは知らないが実力はそこそこなようで、おそらく念能力者だと思われていた。今感じている気配からして、どうやら当たりなようだ。

 雇われの連中は、大概が大して強くない。強い奴というのは誰かに雇われずとも自らの実力のみで大金を手に入れることができるからというのもあるが、そもそもこんな形で安定した収入を得ようとするものは得てして小物が多い。

 多分コイツらはその中では上位の存在だろう。あくまでもその中では、だ。陽動に気づいたからといっても、それは少し冷静に考えれば分かることではあるし大したことではない。戦闘能力ではこちらが圧倒的に優位だろう。

 とは言え、念能力者同士の戦闘とは何が起こるのかわからないものなので、不測の事態に対応できるようにこうして団長の傍に二人がついているわけだ。

 

 進行方向に見えてきた2つの影。私も夜目が利く方だけど、薄暗くて距離もあるためハッキリとは見えない。どちらも男ではあるようだ。

 どうやらクロロはあの二人の相手に時間をかけるつもりは無いらしく、速度を落とさずに真っ直ぐ走り続ける。

 私とパクもそれに倣う。彼らの実力はそれなりだろうけれど、やはりこの二人と比較すると数段劣る。相手の能力次第でもあるけれど、決着はすぐに付くだろう。

 距離を高速で縮めながらも私達に油断はない。”凝”を維持し、能力発動の瞬間を見逃さないように神経を研ぎ澄ます。

 

「こっちに来て正解だったぜ! お前がリーダーだな!?」

「頭を先に潰しちまえば後は楽なもんだ。ここを狙ったことを後悔するんだな、コソ泥!」

 

 その人相が確認できる程度の距離まで来たところで、前方の二人が声を発した。

 こちらから見て左にいるのが眉毛の太いハゲで、その手には大振りなハンマーが握られている。右がつり目で赤い髪を逆立てた男で、右手には無骨なナイフと、左手に黒い何か。

 コソ泥は私だけだと思うけれど、彼らの言葉には反応しない。こちらは既に臨戦態勢だし、向こうの会話に付き合ってやるつもりもない。

 

 武器を見るに、おそらく両方共近接戦闘タイプか。ハンマー持ってるハゲはほぼ確実、赤髪も遠距離ならばこの距離で武器を構える利点がないので多分間違いないはず。

 とりあえず、戦闘は二人に任せて私はサポートと遊撃に回るべきだろう、と”凝”から”円”に切り替える。”円”だとオーラを薄く広げるので体を守る分が少なくなるし、そのオーラを戻す手間があるため咄嗟に防御することができないので戦闘中の使用には危険が伴うけれど、視覚に頼っていてはあの黒いものの正体がつかめない。

 戦闘能力では二人に劣るが速度には自信があるし、牽制としてはそれなりの効果のある能力も有しているので、万が一あの二人を突破した敵に狙われても回避できるはず。

 

 しかし私がそう判断した直後、声を掛けられても回答どころか立ち止まるつもりさえ無い様子の私達を見た赤髪が、舌打ちととも左手をこちら側へ水平に持ち上げた。その手には、あの黒い何か。

 彼我の距離は20数メートル程度、私の”円”は発動直後なのでまだ半径数メートル。あの黒いものの正体を把握する前に、それを使用されてしまった。

 能力の発動か、とそれを注視した私達の目に次の瞬間に飛び込んできたものは、強烈な光だった。

 

「くっ!?」

 

 暗闇に慣れた目にいきなりの光。強烈なその刺激に、思わず苦痛の声が漏れ、目を瞑りお面越しに腕で覆い隠してしまう。

 やられた。あの光は私に向けられたものではないが、それでも少しの間目は碌に使えないだろう。

 おそらく正面から向けられたのはクロロだ。”円”で感知している彼の状態も、殆ど私と変わらず腕で目元を覆い隠している。タイミング的には防御に成功したのかどうかは微妙だが、口元が苦しそうに歪んでいるので多分失敗だろう。パクも同様だ。

 ”凝”をしていたクロロとパクは周囲の状況が把握できなくなったため、接近を諦めて一旦立ち止まらざるを得ない。

 唯一”円”によって、未だ広がりきっていないので狭い範囲ではあるけれど感知できる私も、奇襲に備えて立ち止まる。

 

 罠に備えて飛び退くか、潰された視界をカバーするために”円”をするか。

 その判断をするための、刹那の一瞬。

 その一瞬を縫うように、クロロの後ろに唐突に人影が現れた。

 

 ”陰”の状態で気配もなく現れたのは赤髪。

 振り上げられたその右手には、無骨なナイフ。

 目潰しと瞬間移動による奇襲。

 クロロは気づいていない。このままでは深手とはいかずともダメージは必至。

 

 奴の攻撃を潰すのは不可能。攻撃を届かせるには距離が一歩分ほど足りず、能力や念弾は発動までのラグがあるため間に合わない。

 咄嗟に右足でクロロの横っ腹を思い切り蹴りつけて吹っ飛ばす。ナイフでの攻撃よりはマシだろう。

 加減する余裕がなかったけれど、吹っ飛ばした先にはパクもいるし、受け止めてもらえば追撃には対応できるだろう。

 

 蹴り出した右足が伸びきった状態のまま、その足を引く前にナイフが私の足を掠めた。

 咄嗟に出したからその後のナイフの回避の事をすっかり忘れていた。傷が浅いのが不幸中の幸いか。

 迂闊であると反省するのも束の間、標的が横に吹っ飛んだせいでほぼ空振りして体制の崩れた男に対し、右足を地面に降ろしてそれを軸に左の回し蹴りを放つ。

 綺麗に横っ面に直撃して真横に吹っ飛んだ赤髪に追撃するため、地面を蹴った。

 

 接近しつつも後腰に着けたナイフを2本取り出し、それを1本投擲する。赤髪は足でブレーキをかけながらもそれを右手のナイフでギリギリ防ぎ、漸く止まってこちらを睨みつける。

 私の武器もナイフだけれど、赤髪は殺気を滾らせながらも今は”堅”をしているので、”円”の状態の私でダメージはあまり与えられないだろう。

 相手もそれが理解できているのかニヤリと嫌な笑みを作る。今にもこちらを攻撃してきそうな赤髪に対し、次の一手のために腰を落とし、いつでも飛び出せるようにする。

 

 しかし、私の口元に浮かんでいるのも笑みだ。

 何故ならば勝利を確信しているから。

 

「がァっ!?」

 

 赤髪が、突然の銃声と自身の体に走った衝撃に目を見開き、苦悶の声を発した。

 私の予想通り、私へと一歩踏み出した赤髪の右肩を、後ろからパクの銃弾が撃ち抜いたのだ。

 

 私に蹴られたクロロを、パクは受け止めつつ右へと飛んで距離を取っていた。

 蹴られたクロロも飛んだパクも右へと移動し、赤髪も右へと蹴り飛ばされた。当然パクたちの移動距離のほうが大きく、私と赤髪が対峙しているときにパク達は赤髪の後方に居たのだ。

 後は簡単。殺気とオーラを滾らせた存在の居場所なんて、蜘蛛であれば目をつぶってても察知出来る。故に、パクは片腕にクロロを抱えたまま、オーラを込めた渾身の一撃を赤髪に打ち込めたのだ。

 

 前進しようとした瞬間に後ろから衝撃を加えられて大きくバランスを崩して赤髪が前に傾いだ瞬間、待ってましたと地面を強く蹴って肉薄する。

 ”円”によってパク達の状態を正確に把握できていた私にとって、この状態は完全に読めていたもの。

 予想外の状態に対応できていない赤髪の顎に私の前蹴りがクリーンヒットして、その意識を刈り取ったのは当然の結果だった。

 

 

 

 結果としてその後の戦闘も盗みもあまり問題無く終わった。

 残ったハゲの能力はハンマーで壊した土をある程度操り飛ばす能力、戦闘スタイルは近接タイプのパワー馬鹿だった。攻撃範囲の広い面倒な能力だったけれど、例え”円”でも、私と比較して元々の肉体とオーラが強靭なクロロとパクならば結構ダメージが与えられたので攻撃も潰せて楽だった。

 唯一の問題点を挙げるとすれば、戦闘中に私の身体が思うように動かなくなったので戦線を離脱したくらいか。

 とは言え体の変調も痺れ程度のものだったし、移動できないほどでもなかったので特に心配もせず、ハゲをボコる二人を見守っていた。

 

 ハゲの死亡後、赤髪を文字通り叩き越したパクが私に使用した毒について尋ねたところ、即効性の麻痺薬だったらしい。哀れ赤髪は顔も真っ赤には腫れ上がってしまっていた。私としては足を浅く切られているのでそれを見て気分爽快だったけれども。

 更にパクによって引き出された男の能力は、念字を刻んだライトで生み出した影の上に瞬間移動するものだったらしい。黒い物体は、黒い布に覆われた大きな懐中電灯だったのだ。

 他にも条件はあったけれど、クロロが一応能力を貰っておくと言ったため、赤髪への拷問が決定した。詳しくは知らないけれど、クロロが直接聞き出す必要があるようだ。

 クロロの能力は、幾つかの条件を満たすことによって相手の念能力を盗み、それを自身で使用することが出来るというもの。まぁ、直接聞き出すのも盗む際の条件なのだろう。

 盗んだ能力は元の持ち主が死ねば使用不可になるから殺せないらしいけれど、その辺の対策は問題ないらしい。記憶を消す能力もどこかで盗んでいたりするのだろうか。

 ちなみに麻痺の効果はあまり強くはなかった。薬としては強力だったみたいだけれど、私が伊達に流星街で暮らしてない、といえばクロロとパクも納得した。あそこは空気も植物も生き物も大概毒なので、ある程度の耐性はついていたのだろう。とは言え、毒が厄介なことには変わりない。

 

 そんな感じで雇われ二人を処分し、盗んだモノと増えた荷物を抱えて仮アジトに戻り、現在はそこで仕事の打ち上げをしている。増えた荷物はそこら辺に雁字搦めにして転がしたまま。気を失っているので静かである。

 即効性の薬だったため効果時間も短く、既に体の痺れはない。お酒は飲めないため、少し離れた位置でジュースをちびちびと飲みながらお菓子を食べて、酒盛りをしている連中をぼんやりと見つめる。

 今日の私は、少しらしくなかったなぁ、ともの思いに耽っていると、隣に誰かが座った。クロロだ。

 クロロは私と同じように、酒盛りをしている連中を見て少し笑ってから話しかけてきた。その姿は何やら子を見守るお父さんみたいだ。いやお父さんってどんなだかよく知らないけど。

 

「今日は済まなかったな、だがおかげで助かった」

 

 突然の謝罪から始まったため、何を言われたかピンと来ずにキョトンとしていると、苦笑したクロロにそれ、と包帯の巻かれた私の右足を示された。

 なんだ、そういうことか。でも、これは別にクロロが謝ることではないのだ。

 

「気にしなくていいよ。私が何もしなくてもクロロなら避けてたかもしれないし、必要もないのに私が勝手にやったことだから」

「それでも、だよ。仮定がどうであれ、助けられたのが事実だ」

 

 思ったままのことを告げてみたのだけれど、クロロも譲る気はないようなので、膝を抱えて口を閉ざしてそっぽを向く。何だか面と向かって感謝されると気恥ずかしい。

 その私の頭をポンポンと叩いて子供をあやすかのような行動をしてくるクロロの手を抓ると、イテテテテと情けない声が漏れた。

 ジト目でクロロを見ると、彼はまたも苦笑しながら抓られた手を擦りつつ口を開いた。

 

「それにしても、意外だったな。まさかメリーがオレを身を挺して庇うとは」

 

 その言葉に、私は少し俯いた。自分でも何故かは分からない。

 自分が生き延びれば、それでよかったのに。自分のためならば、他人から何を奪っても気にすることなどなかったのに。ずっと自分のために、自分のことだけを考えて生きてきたのに。

 なのに、自分が怪我をする可能性もあったのに誰かを助けた。

 

「私も意外だった。咄嗟の事だったんだ。……ねぇ、私達の関係って何なんだろう?」

 

 そう言ってクロロを見る。分からない。分からない。分からないのが、気持ち悪い。

 私と蜘蛛の関係。ただの仕事仲間なのだろうか。でも、その程度の関係なら何故私は彼を庇ったのだろう。この関係が明確に言葉にされれば、この気持ち悪さもなくなるのだろうか。

 その思いで問いかけた言葉に対して彼は、無理に言語化する必要もないとは思うが、と前置きしてから回答した。

 

「困惑しているのか? 自分以外との関係なんて、自分でそれらしい定義を決めてそれに当てはめればいいんだ。俺なんて味方か敵か他人しか無いからな」

「なにそれ、超少ないじゃん」

「だが、簡単だ。味方は大事にするが、敵は容赦しない。他人なんかどうでもいい」

「ふぅん……。なら仲間とか、かなぁ。いや、でも少し違う気が……」

 

 無駄に胸を張って言われたそれは、確かに私達はそんな感じでいいのかもしれない、と思えるものだった。

 こんなものの定義、今まで普通とは言い難い生活をしてきた私達にとっては、既存のものに当てはめるのは相当難しいだろう。

 とは言え定義付けと言われてもどうすれば、とうんうん唸って考えこんだ私にクロロが助け舟を出した。

 

「仲間だの同業者だのの表現を淡白と感じるようなら、友達とかでもいいんじゃないか」

「ともだち」

「ああ。それにどういった性質を持たせるのかはお前次第だけどな」

 

 言われ、ポツリと呟いた単語。ともだち。

 友達。本を読んでてよく出てきたそれは、確か心を許していたりとか対等で仲がいいとかそんな感じの存在だった気がする。

 私の蜘蛛への感覚も、それに近しいものだと思えなくもないけれど、やっぱりどこかしっくり来ない。

 ならば、そう。逆に、私の感覚を友達という言葉に当てはめてしまえばいい。

 

「そっか、なんとなくわかった気がする。今日やったみたいに、私が体を張るほど大事な存在を”友達”と呼べばいいんだ」

 

 ”友達”だから、私はその身を身を挺してクロロを庇った。”友達”を助けることは、極自然なことだ。

 私と蜘蛛は”友達”。そう思えばこそ、私の不可解だった行動にも不自然な点は見当たらないし、故に先程まであった不快感も嘘のように晴れていく。

 心がスッキリし、自分の答えに満足した私は、さらにさっさと自分の中の不明瞭な点を明確にしていく。

 

「うん、結構しっくり来る。後はそうだね、そこそこ仲いいとか体張るほどじゃないのを”オトモダチ”にして、後は敵と他人でいいや」

「随分とテキトウだな。と言うかお前も少ないじゃないか」

「適当なんだよ。会話したりはするけど特に大事じゃない、微妙なものは”オトモダチ”にカテゴライズすれば変に迷うこともないし、その他の存在はどうでもいいからテキトウ。後少ないのは単にクロロのを参考にしただけ」

 

 表情の晴れた私を確認し、そうかとだけ呟いてクロロはまた彼の仲間たちへと視線を向けた。

 こんなものの分類は、私にとっては少ないくらいでちょうどいい気がするのだ。

 ”友達”は大事にして、”オトモダチ”はテキトウに扱って、敵は殺して、他人はどうでもいい。

 たったの4つ。このたったの4つが、私の新しい、ちっぽけな世界。

 

 クロロに倣って、私も蜘蛛の皆へと視線を向ける。

 蜘蛛は、私に新しい世界をくれた。

 仕事仲間、だなんて淡白なものではない。自分だけがそう思っているだけかもしれないけれど、彼らは私の”友達”になってくれた。

 何だか世界が違って見える。今ならあそこの酔っぱらい共も何だか多少は愛おしく思える、ような、気がする。

 いや、少なくとも何故か半裸のフィンとノブナガは除外させてもらおう。アレはない。バカか。

 

 私は呆れ眼で彼らを見ながらも、今度は口元が弧を描いていた。




これで終わりだー、と詰め込んだら長くなってしまった。
10話で終わらせるぞ、と思って詰め込んだのに、いざ投稿してみたらこの話が過去編の9話目という罠。酷い。

一先ずこれで過去編の蜘蛛編は終了です。急ぎ足で書いたので出来はちょっと微妙そうなので、落ち着いたら修正とか入ると思います。
次はゾルディックを消化せねば……。とりあえず作るのが最も厄介な出会い話を考えておきます。

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