大泥棒の卵   作:あずきなこ

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03 話し合い

 コンビニでの買い物を終えて仮アジトへと到着した私達は、メンバーがメンバーなので特に騒がず、且つゆっくりと机に並べられた飲食物を消化しつつ会話をしていた。2つの長机を並べていて、片側の中央に私が座りその正面にクロロ、その右隣にシャルが座っている。

 会話の内容はというと、私が参加したハンター試験について。口に入れた瞬間に好奇心に負けて買ってしまったことを後悔してしまう程ゲロ甘いお菓子に顔をしかめつつ、大体の流れを説明し終える。ヤバいコレは駄目なやつだ、甘いだけのなんか駄目なやつだ。

 

「――――で、試験が終わってから試験中に知り合った人とラーメン食いに行っておしまい。試験自体はほぼ問題なかったね」

「他の試験内容は大分説明が省かれてるのに、なんで寿司とか卵とかラーメンとかの食い物関係のことはきちんと話すのか甚だ疑問なんだけど。とりあえず、試験は普通にクリアできたみたいで安心したよ。見送りって名目で騒いどいて、怪我させて支障をきたしてたらって皆一応少しは気にしてたし」

 

 しかしシャルが私の説明にまずツッコミを入れた。まぁ、確かに私の説明は割りと偏っているかもしれない。一次と四次試験にいたってはほぼ一言で済ましてしまっているし。だって特に何もなかったんだもの。あと名目とか言うな、わかってるけどなんか嫌だ。

 彼らも一応はウボォーにぶっ飛ばされたことを気にしてくれていたらしい。まぁ、確かに名目上は頑張れよって送り出すために集まったのに怪我させてちゃあ本末転倒で寝覚めが悪いかもしれないのだろう。一応とか少しはとか余計な言葉がくっついてたけど。本当に心配してたのか疑問である。要らぬ心配ではあるけど。

 とにかくさっき言ったように試験自体はほぼ問題なし。二次試験でちょっと躓いたけれど結局ネテロ会長が出ずとも私は合格だったわけだし。試験よりもその他の出来事に重きをおいて説明してしまうのも仕方のない事と言えなくはないだろうか。無理か。

 試験の印象が薄いぶん、相対的に食い物系の印象が濃くなった感じだろうか。とは言えそれは実際にはどうでもいい話だ。この話の本題はそんな所じゃないのだ。

 試験について言うことはもう無いので、まずは話の大前提となるクラピカのことについて話す。

 

「それはともかくとして、大事なのはクルタ族の生き残りの部分だよ。いつだっけ、確か5年前くらいに蜘蛛がやらかしたらしいじゃん」

「……あぁ、それね。そのクラピカってのがオレたちを憎んでる上に危険因子になる可能性も一応あるのは分かったけど、だったらそう思った時点でサクッと殺っちゃえば良くない?」

 

 私が僅かでも警戒した相手をその場で見逃し、且つ今も尚生きているということを疑問に感じたのであろうシャルがそう言う。反応までに少し間があったけれど、どうかしたのだろうか。

 ともあれそれはごもっともな意見。私も最初はそれこそが最善の選択だと思ったし、私が多少のリスクを負ってでも後顧の憂いは絶つべきだとも思った。しかしあれこれ考えれば実際の彼の危険度はそれほどでもないと判断し、その後のコイン占いもクロロの指示さえも彼を生かした。

 だけど試験中、やはり独断でも殺してしまったほうがいいのではという思いは燻っていた。そう、試験中は。

 ただ、それを言うのはもう少し後。まずは前提の話をきちんと終わらせねば、とシャルの疑問に対して返答する。

 

「目ん玉の事もあるけど、私もクラピカに手を出して怪しまれたくないし。協会の奴らって事情知ってそうだし勘も良さそうだから、こっち方面の繋がりがバレて面倒な事になるのは避けたかったんだよね」

「それに元々そいつが生きてるのだってこっちの不始末だしな。リスクがあるかもしれないメリーに、態々オレ達の尻拭いをさせる気はないさ」

 

 その私の返答を聞いたクロロが、更にクラピカを殺す命令を出さなかった理由を補足説明した。

 あぁなるほど、クロロの中にはそういう考えもあったのか。確かにアレは彼らの不始末だから、それを私に始末させるっていうのは多少抵抗があるようだ。まぁ、言ってしまえば大の大人が女の子に自分のミスの尻拭いさせてるようなもんだしね。

 シャルもそれを聞いて、確かにそうだね、と頷いている。単純に気を使われただけではないと知り少し安心した。けれど

 

「……まぁ結局バレちゃったんだけどね」

「何だ、バレたのか?」

 

 私が気まずさ故に目をそらしながら漏らした声に、クロロが意外そうな声を上げる。

 仕事における私と蜘蛛は、言ってしまえば依頼人と請負人のようなもの。私はクロロに仕事を頼まれ、報酬をもらっている。報酬と言っても本だけど。とにかく私達は別個の存在なのだ。蜘蛛に仕事限定で属しているわけではなく、蜘蛛と私で仕事をしている。

 蜘蛛ではない存在。私が団員として扱われているのであれば、彼は私の負う僅かなリスクなど完全に無視し、私に言われずとも蜘蛛としての指令を下しただろう。そうでないのは彼が私を仕事時でも蜘蛛としては扱っていないため。とは言え、下された指令自体も気を使ったものかもしれないのだけれど。

 私としては、緋の目を欲しがった以外でのあの判断の理由はコレだろうと思っていたのだが、おそらく私のこの考えプラスさっきのクロロの発言が正解なのだろう。気遣いのみでの判断ではないとはいえ、結局バレていたのでは駄目だ。コレについては素直に謝っておこう。

 

「うん、ごめん。イルミさん関連でちょっとあって。でもバレたのは私が”そういう存在”だってことと、ゾルディック方面の繋がりだけだから。ひょっとしたら目をつけられてて迷惑かけちゃうかもしれないけど」

「別にいい。シャルもライセンスを取った時にかなりやらかしたらしいが、それで何らかのアクションがあったわけでもない。おそらくその程度なら今回も何もないだろう」

「あーやったやった、懐かしいなー。あの時はもう血みどろのドロッドロだったよ!」

 

 それに答えたクロロの言葉を受けて、朗らかに笑いながらそう言って昔を懐かしむシャル。血みどろって、一体彼は何をしたんだろうか。まぁ聞かないけど。きっと彼にもやんちゃな時期があったんだろう。ちなみに”そういう存在”というのは、ゾルディックと同じような事してる存在ということだ。簡単に言うと悪党である。

 ゾルディックとの繋がりがバレるのはさして問題ではない。あっちはかなりの大物でプロの殺し屋、もうかなりの年月彼らの存在は黙認され続けている。他ならぬハンター協会によって、依頼があったから実行しただけで悪意は彼らにない、とか多分そんな感じのテキトウな理由で。

 協会が彼らを悪と断ずるのなら、その総力をかけて潰しているはずだ。あの家の圧倒的な武力はとんでもない脅威だから。それをしないのは、必要悪と割り切っているからだろう。と言うか、逆に仕事とか頼んだりしてそうだ。或いは、単純に潰せなかったのかもしれないけど。

 とにかく、あのハンターだらけの場で他ならぬゾルディックさん家のイルミさんが何もされなかった以上、私も何もされない可能性が高い。

 クロロも言っているし、目を付けられたりとかはやはり無いのだろう。シャルの過去には触れずに、一つ頷いてから私は話を続ける。

 

「確かに多少のことがバレても、ハンター五箇条の三かなんかがあるから何かされたりってことは無さそうだね。私がハンターな限り余程のことがなければ同業者に狩られなくて済むらしいし、問題は無さそうかな」

「それって多分、十箇条の其の四だからね。興味ないからって数字滅茶苦茶に覚えすぎでしょ。条文半分になってんじゃん」

「……、……そうだっけ」

 

 頭を捻って考えてみるも、正直興味のあった条文以外はほぼうろ覚えだから分からない。でも多分シャルの言う通り、十箇条の四番目なのだろう。

 その条文とは、”ハンターたる者、同胞のハンターを標的にしてはいけない。但し甚だ悪質な犯罪行為に及んだ者に於いてはその限りではない”というもの。コレはあってるはず。

 要するに、ハンターがハンターを狩るのは基本的にご法度なのだ。狩るにしても、相当悪質であるという証拠を集め、おそらくそれが協会側から承認されない限り実行には移せないだろう。そのようなルールがある以上、現場が独断で動いて殺した後で事後承諾、と言う形を取るのはほぼあり得ない。

 つまりイルミさんが見逃されている現状、私がゾルディックとコネがあるからといっても、彼らの定めた規定には及ばないだろう。私自身の悪行についても、その証拠は残していないため安心。

 仮に協会が私がやった盗みについて証拠をどうにか集めたとしても、私を狩るには協会の承認というワンクッションが必要になるため、その辺に目を光らせておけば逆に私が狙われる兆候を掴める。

 協会が私を見張ったりしないのであれば、この条文によって私自身の生存率はむしろ高まる。問題がないどころかプラスである。やったぜ。

 

 とりあえずこんなところだろうか、私が彼らに話すべき前提は。まぁ足りないところがあったのならばあとで言えばいいでしょ。

 いよいよここからが本題だ。ハンター試験によって芽吹いた、面倒な問題。

 

「些細な間違いは置いておいて、ここまでがクロロにも既に話している部分が多かった、前提の話。こっからが仕事の前に言った問題の話ね」

 

 ふぅ、と一つ息を吐いてから、改めて彼らの顔を見てからそう言った。

 おそらく、いや確実に彼らは私のこの言葉だけで、本題がどのようなものなのかを悟っただろう。

 それに対する彼らの反応は、それぞれ異なるものだった。

 

「あー、っと……。今までのが前提って時点で、オレもうなんか嫌な予感しちゃってるんですけど」

 

 シャルは苦笑いを浮かべ、後頭部をポリポリと掻きながら言った。少し困ったような、そうでもないような。少なくともショックを受けているようには見えない。

 クロロは表情は変えぬまま、机へと視線を落としている。その様子から彼がどんな心境なのか、私には伺えない。

 彼らもいつかこんな日が来ることは分かっていたのだろう、どちらも驚愕は微塵も感じ取れない。まぁ、確定していた事項だったわけだし当然かな。

 言う必要もないかもだけど、事実確認の意味も込めてその問題を口にする。

 

「そのクラピカに、ヒソカが接触した。しかも蜘蛛の情報を仄めかして、ね。それについては試験後に話をしたみたいだけど詳細はまだ不明。それが何にせよ、近いうちに行動を起こすと思うよ」

「やっぱそうくるよねー。あーぁ、面倒臭いなぁ」

 

 それを聞いたシャルが盛大な溜息とともにそう言い、手を前に投げ出して机に突っ伏した。

 ヒソカが参加していた試験に、蜘蛛に強い恨みを持った奴がいて、しかしそいつは問題ではなくあくまでも前提。この3つの要素にヒソカの目的を加味して考えれば、自ずと答えは出るもの。

 ヒソカの目的は強い奴と戦うことで、今回の場合だとそのターゲットはクロロ。間違いなく、ヒソカはクラピカを利用して行動を起こす。クロロと一対一で殺しあう為に。

 

「隠そうともしていないアイツの狙いは完全にクロロ。で、団長さんはコレ聞いてどうするつもり? 謀反者は処分とかそういうのあるの?」

 

 クロロの方を向きながら言う。ココで漸く彼は視線を上げ、私と目を合わせて口を開いた。

 

「そんなルールはないが、組織を統率するのならそれを乱すものは処分しなければならないな。オレも態々殺されてやりはしないしな。ただ、今はまだ一応何もしていないからそれは先送りだ」

 

 今はまだ一応、ね。確かに今は行動を起こそうとしている段階であって、何かをしたわけではないと言えるかもしれない。限りなく黒に近い、黒といっても差し支えない黒の極限状態だけれど、完全に黒ではないからまだ処分はしない、か。

 処分は先送りと言うことは、即ち行動を起こして完全に黒となったならば処分するということ。そしてこの場合の処分は、ヒソカを殺すことを意味する。

 クロロも結構性格悪いから、ヒソカの目的を知った上で、それを果たそうとした時に返り討ちにするというのはおそらく以前から決めていただろう。それも、ヒソカの理想である一対一を妨害する形で。ならば、おそらく。

 

「それじゃあ、対策を練るってことでいいね?」

「ああ。とは言え現段階では多くは決められないだろうがな。……ほらシャル、いつまでも突っ伏してないでお前も参加しろ。団長のピンチだぞ」

 

 私の問いにクロロは肯定を返し、隣で未だに突っ伏したままのシャルの後頭部にチョップを降らせた。

 んがっ! という声がシャルの口から漏れた。後頭部を叩かれたせいで鼻が押しつぶされてしまったらしい。痛そうだ。

 殴られた場所ではなく鼻を抑えながら上体を起こしたシャルは、少し目尻に泪を浮かべながらクロロを軽く睨んだ。

 

「……まぁ、クロロは殺しても死ななそうだけど相手がアレだしなぁ。処分するにもリスクを伴いそうだし、真面目に考えるに越したことはないか」

 

 痛む鼻を擦りながらそう言って、シャルは佇まいを正した。あ、鼻赤くなってる。まぁ鼻血が出てないだけマシか。

 彼の言う通り、ヒソカ相手では処分するといってもかなりリスキーだ。生半可な対応ではこちらが返り討ちに合う可能性さえある。

 返り討ちとは行かずとも失敗して姿を消されて、いつ仕掛けてくるかわからなくなるのも面倒。クロロは処分を先送りにするとは言ったけれど、実際には今はこちらもあまり手が出せないのだ。

 確実なのはヒソカが動いた所を罠にはめ、仕留めること。これはそのための話し合いになるだろう。

 

 幸運だったのは、今回の参加者が少数だったことと、その参加者がクロロとシャルで、蜘蛛の頭脳派トップ2だということ。

 理想的な案を出すのならば、彼らさえいれば十分。話がどう進むのであれ、内容をヒソカに気取られる訳にはいかないから、知る人数は少ない方がいい。特に強化系の馬鹿はすぐ態度に出そうだから駄目だ。

 

 クロロの居ない世界は、きっとつまらない。趣味を共有する者が居なくなってしまうのは淋しいし、私は私の”友達”を失いたくない。

 自分の世界を守る。そのためならば、どんな大きな壁だって超えてみせる。




忙しかったり、体調を崩したりでかなり遅くなってしまい、申し訳ないです。
寒くなってきたので、皆さんも風邪にはお気をつけて!

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