大泥棒の卵   作:あずきなこ

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06 開けた先

 アスファルトで舗装された山道。遠目からでもよく見える目的地へと向かってゆるやかにくねりながら続く坂道を駆け上がる。

 この道を車が通ることは殆ど無い。何故ならばこの道の先には私が目指している家の正門しか無く、その家に用事がある人間などほぼ皆無だからだ。せいぜい観光バスか、偶にその家の使用人が車で外出する時くらいにしか車が通ることはないので、遭遇率はすこぶる低い。

 この先にあるもの。それはククルーマウンテン。そしてその山一帯を敷地として所有するゾルディック家だ。

 

 マルメロの国際空港から飛行船でパドキアへと出発した私は、6日かけて漸くこのパドキア共和国の地を踏むことができた。

 移動中はミルキ君からもらったメカ本で読書をして暇をつぶしていたから退屈ではなかったけれど、それでも6日間ともなると流石に少し体が鈍ってくる。

 狭い空間でも出来る念などの修行やストレッチだけでは正直物足りなかったけれど、こうやって坂道を走るのはいい運動になる。

 

 走る私の左手には、パドキアに到着してから購入した、パンパンに膨らんだ大きな旅行用バッグ。旅行用とはいっても、この中に詰まっているのはそれとは関係のないものだけだ。

 中身はミルキ君に頼まれて買っておいた品物の数々。これらを全て詰め込むにはそれなりに大きいものが必要だったので、旅行用のものを使っているのだ。

 こんなものマルメロから離れるまで持っていなかったのに現在持っている理由はというと、至極単純。そもそも最初からこの荷物はパドキアに保管してあったのだ。

 プロ・アマ問わずに世界中を飛び回るのがハンターの仕事。そういった人たちのために、委託すれば業者が保存するスペースを貸してくれるというサービスが有るのだ。当然使用したスペースや期間に応じてお金がかかるけれど便利なので、そういった業者は世界各国ほぼどこでも存在し、ハンター以外の人にも重宝されている。

 私もそれを利用している。様々な国の様々な場所で本を盗み、そのついでに色々食べ物とか店を物色してる時に発見したら買い集めて、業者に委託してパドキアで保管してもらっていたのだ。お金は本のついでに盗んだ貴金属を売ってれば無限に湧いてくるから何の気兼ねもなく利用しまくれるので、期限も量も気にせず今回のように必要なときに引き取ればいい。

 ちなみに走っているからバックの中身が結構シャッフルされているけど、まぁ取り敢えず持ってきゃミルキ君も満足でしょ。

 

 そして右手には携帯電話。シャルナークお手製の一品で、たとえ無人島に居ようとも圏外になること無く、ハンター試験で大活躍してくれた私の相棒である。

 耳に当てたそれからは、コール音が鳴り響いている。コールは既に3回目になっており、普段は大体2回目で取る彼にしては遅いなと思う。

 その後も2回コール音が鳴り、5回目がちょうど終わった所で電話がつながった。

 携帯電話に掛けたので、呼び出し画面でこちらが誰なのかは向こうも把握しているだろうから、名乗りを省略して手短に要求を告げる。

 

「あ、もしもしー。今そっちに向かっててもうすぐ着くんで、執事の方に話し通しといて。……うん、後10分くらいで着くから今すぐよろしく」

 

 電話の相手はミルキ君だ。何故か普段よりもやけに荒々しい息遣いが聞こえてくるけれど、運動でもしているんだろうか。うん、良い事である。どんな運動してるのかはともかくとして。どうせ弟でもしばいているんだろうし。

 事前にミルキ君から執事に話を通してもらうのは、こうでもしないと敷地内に入る際に結構面倒なことになるからである。

 勝手に門を開けて進むと、すわ侵入者かと警戒心をむき出しにした執事がワラワラと湧いてきて、私の周囲を一定の距離を保って包囲した状態でお出迎えの対応を必要以上の人数でしてくるので、余計な時間がかかる上に居心地が悪くてしょうがない。

 その点事前にゾルディック家の人間から執事へと客が来ることが告げられていれば、出迎えに最低限必要な人員を寄越してくるだけで済むから、執事たちも面倒なことしなくていいのでお互いにとって良いのだ。

 問題点を挙げるとすれば、私がほぼ毎回後10分前後で到着するタイミングで連絡を入れる事か。

 あえてこのタイミングなのは、私から執事へのちょっとした仕返しが慣例化してしまっただけである。直前に連絡が入って慌ててしまえ、と言った感じの。

 まぁ、執事側は準備は特に必要ないから慌てる必要もないだろうし、嫌がらせとしての効果は余り見込めないけれど、毎回このタイミングなので何となく変えるのが面倒なだけだ。

 

「そういえば、お腹の傷はもう平気? ……、……あ、そぉ……あーはいはいはいはい、怒りの程は分かったんでもういいですー! じゃあまた後で!」

 

 そういえばミルキ君ってキルアに腹を刺されたよなーと思って聞いてみたら、そのことについて随分とお怒りのようだった。と言うか、予想通り加害者に対して仕返し中だったらしい。

 結構興奮してて罵詈雑言が長くなりそうだったので強引に話を切り上げてさっさと電話を切った。容態についての返事はなかったけれど、まぁ元気そうな様子だったので何よりだ。

 キルアも大変そうだ。家族刺して家出したから自業自得とは言え、ミルキ君はねちっこいから彼からのお仕置きは相当長引くだろう。ご愁傷様。

 

 移動しながらの通話を終え、用が済んだ携帯電話を胸ポケットにしまった直後、マナーモードに設定されていたそれが震えだした。この震え方は電話の着信を告げるものだ。

 誰からの着信だろう、とポケットから引っ張りだして画面をみてみると、そこに写っていたのは先程まで通話していたミルキ君の名前。

 訝しみながらも通話ボタンを押して電話にでる。一体何の用だろう。正直さっきの電話の続きだったら面倒臭いから聞きたくないんだけど。

 

「なーんなんすかー? ……、……いや電話さっさと切ったのはミルキ君がごちゃごちゃと喧しいからでしょーがそっちが死ね。……うん分かった死ね」

 

 やる気の無い声を出せば、聞こえてくるミルキ君の怒りの声。どうやらまだ言うことがあったのに通話を強制終了した私に文句があるようだった。用件の前にキルアへの悪口を並べ立てるから長引く前にさっさと切ったのに、死ねというありがたいお言葉を頂いたので丁寧に返却しておいた。

 そして告げられた本来の要件。今は自室にいないので、執事に現在地に案内させるから荷物だけ他の執事に頼んで部屋に運ばせておけということらしい。彼が再び言葉の最後につけてきた死ねを了承とともに投げ返して電話を切る。

 

 ミルキ君はキルアにお仕置き中だから、私はこれからそれが行われている部屋に案内されるのか。キルアに会うという目的は何の障害もなく達成できそうだ。

 これで試験の時にした会いに行くという約束は果たせるし、個人的にキルアとは話してみたいこともあったから好都合。

 ひょっとしたらキルアへの罰が私の予想よりも重くて会えなかったかもしれなかったし、よしんば会えたとしても、ちょろっと顔を見せる程度しか出来なかった可能性だってあったのだ。

 その点、今回はお仕置き部屋の中にはミルキ君一人だけみたいだし、邪魔だったら彼を部屋の外に叩きだしてしまえばいい。彼は割とテキトウに扱っても問題ないし。

 

 2度目のミルキ君との通話を終えた頃には、もう残す道は最後の直線。私の視界の先には、ゾルディック家の正門が見えている。試しの門と呼ばれているクソ重い門だ。

 こんどこそ静かになった携帯電話を再び胸ポケットにしまい込み、少しペースを上げて門へとさらに近づく。

 ある程度距離が縮まってきた頃に、ふと門の前に人影のようなものがあることに気づいた。4つくらいのそれが、門の前で何かをしている。

 

 思い当たる節はある。

 彼らは私より先にここへ向かっていたし、彼らの目的と私の目的の一つは同じ。

 どうせ門は開けられないだろうから、諦めて帰ったか麓の町で待機でもしているものかと思ったけれど、どうやら違ったらしい。彼らは、開けることの出来なかった門を開けようとしているようだ。

 近づいてくる私に彼らも気づいたようで、作業を止めてこちらへと体ごと振り向いた。

 そこに居たのは、ゾルディックの使用人のゼブロと、ゴン、レオリオ、クラピカの4名だった。

 

「メリッサ? 来てくれたんだね!?」

「久しぶりだな。ここまで走ってきたのか? それとその荷物は?」

「久しぶり。麓の町からここまで走るといい運動になるからね。コレはキルアとはまた別件のやつ」

 

 門の前まで来た私に、ゴンとクラピカが話しかけてくる。それに答えつつ、頭を下げるゼブロに会釈を返す。

 そして、身体はこちらに向けているけれど、門に背を凭れさせて俯きながら座り、息を切らせている上半身が裸のレオリオに視線を移した。

 周囲の声で私の登場に気づいたレオリオは、顔を上げた後プルプルと痙攣している手を軽く上げて、切れ切れの言葉で話しかけてきた。

 

「よう、案外、早かっ、たじゃねーか。お前が来る前に、この門、開けてやろー、としたのによ」

「用事自体は時間のかかるものじゃなかったから。っていうか別に無理して今喋らなくても、呼吸整えてからでいいよ」

 

 移動に時間がかかっただけで、盗み自体はさっさと終わったし。

 私の返事を聞いた彼は、また頭をガクリと落としてぜぇはぁと酸素を補給しだした。

 そんなレオリオを指さして、無言でゴンとクラピカへと視線を向けると、ゴンは苦笑いをし、クラピカは肩を竦めた。まぁ、相当お疲れのようだし、少しそっとしておこう。

 レオリオに向けていた手を下ろし、会話が出来る状態の二人に話しかける。

 

「この門、開けようとしてたんだね」

「うん。オレたちじゃビクともしなかったから、ゼブロさんに鍛えてもらってるんだよ」

「この通り、常にこれを着てここで生活させてもらっているのだ。徐々に重さを増やしてな」

 

 ゴンが、次いでクラピカが答える。彼らはキルアが出てくるのを待つのではなく、門を開けて自ら中に入ることを選んだようだ。

 クラピカが示した通り、彼らは大量の重り入りのベストを着用している。ゴンは緑色の上着を脱ぎ、同色の半ズボンと靴、青のシャツの上にベストを着け、クラピカは青を基調に橙で刺繍をした民族衣装っぽいのを脱いで、黒の靴に白いズボンとシャツの上からベストをつけている。

 半裸のレオリオは今はベストを付けていないけれど、彼のすぐ傍に転がっているのがそれだろう。下半身は試験中も見たスーツルックだ。

 私達の会話を聞き、回復力は高い方なのか既に息が整いかけているレオリオがぼやいた。

 

「ヒデー話だよなぁ、ダチに会うのにも資格がいるときたもんだ」

 

 正確には、門を開けることで得られるのは敷地内に足を踏み入れる資格なんだけどね。

 レオリオが一人で挑戦していたようだから、おそらく全員が一人で開けられるようになるまで鍛えるつもりなのだろう。

 

「まぁ友達として会うんだったら、尚更資格が必要になるんだけどね。何でか分かる?」

 

 私はそう言いつつ、ゴンを見る。私たちが別れる前に、最もキルアへのゾルディックの対応について不満を漏らしていたからだ。

 問われたゴンは悔しげな表情を見せながらも、強い意志の篭った瞳で答えを返した。

 

「……キルアはゾルディックで、いろんな人に狙われる立場で。それなのに一緒にいるオレたちが弱いままじゃ、足手まといになるから」

 

 目は口よりもよっぽど饒舌だ。だからこそ今ここで、強くなる。一緒にいられるように。言葉にはしなかったものの、彼の瞳からその思いは伝わってきた。

 ゾルディックにはゾルディックの事情がある。私のこの言葉を覚えていて、彼なりに自分で考えて出した答えなのだろう。

 友達として試される意味。もしもの事態の時に足手まといになって、互いに心身共に傷つく事の無いように。ゾルディックとしても、大切なキルアの傷つく事のないように。

 試しの門は単純に敷地内に足を踏み入れるものをふるいにかけるだけの物だろうけれど、キルアの友達として訪れた彼らにとってはその理由で十分なのだ。

 

「正解。キミら全員のためになることでもあるし、頑張ってね」

 

 彼らは私の言葉に対し、力強く頷いてみせた。キルアは高額賞金首なのだから、プロアマ問わずハンターに狙われたり、復讐目的での襲撃だってこの先あるかもしれない。

 もしキルアが彼らとともに行くことになって、そんな連中に襲撃を受けた時、自分の回りにいるのが弱っちい奴らだったら大きなマイナスだ。お荷物にしかならない。

 そうなるとキルアやその周囲が肉体及び精神的に傷つく可能性が高まるし、最悪の場合は誰かが死に至る可能性もある。ここでこの門を自力で開けられるようになれば、ただ中に入る資格を得るだけでなくそういったリスクも軽減できるのだ。

 私と彼らの到着のタイムラグはおよそ1週間。私の問いにあの答えを返したということは、その間にゴンはきちんとキルアの抱える事情について考えてあげられたようだ。単純そうではあるが、バカではないのだろう。

 

 まだ彼らに聞きたいことはあったけれど、そうゆっくりもしていられないか。多分執事さん達待たせちゃってるだろうし。

 さっさと中に入ろうと歩き出したところで、レオリオが私に質問を投げかけてきた。

 

「そういやメリッサ、お前ココに来たことあるんだよな? お前もコレ開けて入ってんのか?」

 

 キルアは3の門まで開けたらしいんだけどよ、と続けて言ったのは私が何処まで開けられるか知りたいということなのだろうか。他の2人も心なしか期待を込めたような目をしているような。

 この門は、1から7までの数字が有り、1の扉は片方が2トン。つまりは両方合わせて4トン。しかも数字が1増えるたびに重さは倍になる。門の数字を指数として2の累乗を計算し、それを2倍すれば各門を両側合わせた重さが求められる。1番重い7の門で128トンになる。

 開けることの出来た門の数字で、ある程度の身体能力が測れるのだ。まぁ、こちらとしては私がどの程度の実力なのか晒す気はないから、普段通りに中に入らせてもらおう。私が楽を出来る形で。

 

「普段は……レオリオ、ちょっと立って1の門の片側だけ押してみて」

「あ? ……おいおい、まさかそれアリなのか?」

 

 私が言うと、レオリオは慌てて立ち上がり扉を全力で押し始めた。1の門の、右側だけを。

 ぬおおおおお、と言う気合の声の後に、ギイイィィと低い音を出しながら扉はゆっくりと開いた。レオリオならガタイもいいしいけるかなーと思ったら本当にいけた。ちょっとびっくりだ。

 その様子を見て、ゼブロが顔を青くしてレオリオを止めようとしたので目で制し、レオリオへと歩み寄る。

 

「マジで開いた!! こんな裏技有りなのかよ!?」

「私はアリだよ。でもキミらはまだナシ」

 

 驚愕と歓喜と困惑とその他様々なな感情がごちゃまぜになったレオリオの叫びにそう返し、彼のズボンのベルトを掴んで後ろへ放り投げる。利用した挙句ぞんざいに扱ってしまってすまんな、レオリオよ。

 この手段は、当然不正である。試しの門はその名の通り、入る資格を持っているかを試すもの。ズルをすれば当然ペナルティーがある。

 うおぁっ!? と言いつつゴン達の居る所へ転がされたレオリオ。その近くで胸を撫で下ろしているゼブロ。私は空いている右手で開いた状態の門を抑えつつ、身体は門の先に向けたまま顔だけで彼らを振り向く。

 

「多分ミケはもう見てるだろうけど、ここの番犬ってアレだけじゃないんだよね。ほら、見てごらん」

 

 私がそう言うと、彼らは門の向こう側が見える立ち位置へと移動しだした。レオリオだけは投げられたことに文句を言いながらだが。レオリオ、投げたのは君のためでもあるんだよ。まぁそもそも私が自分で開ける手間を省いたからあんな目に合ってるわけだけど。

 彼らの表情が驚愕に彩られたのを確認してから、私も顔を正面へと向ける。視界に映ったのは、鬱蒼と広がる森とその先にある山、そして感情の篭っていない瞳でこちらを見つめる、超大型のゾルディックの番犬が2匹。同じ種類だ。

 

「ミケと、もう1匹増えたのがタマ。片っぽだけ開けると増えるんだよ、最低でも2トンの扉を押せる能力の外敵対策として」

「増える……? しかし、キミは既に敷地内に入っている。なのに襲わないのならば、増えた意味は無いのでは?」

 

 私の言葉を聞いて、クラピカが質問をした。彼の言う通り、開いたままの門を片手で抑えている私は既に敷地内へと足を踏み入れている。

 ゾルディックの番犬はミケだけでなく、他にも何匹も居るらしい。ミケと同タイプはもちろん、他の種類のものも居るようだ。ミルキ君に教えてもらったことだ。大概犬っぽい名前ではないらしい。

 そしてクラピカの疑問に対する返答も、ミルキ君に教えてもらったもの。

 

「1度でもいいから、きちんと両方開けて入れば喰われないらしいよ。こいつら開けた奴の匂いは覚えてるから。ただ、両方開けたことがないのに片方だけ開けて入ると不正とみなされて2匹に喰い殺される。だからさっきのレオリオ実はちょっと危なかったんだよね」

「なるほどな……」

「へぇー……」

「おいお前ら普通に納得してんじゃねーよ、オレ今ヒデー目に遭いかけてんじゃねーか!? おいメリッサこの野郎!!」

「ごめんごめん。で、既に開けたことのある私は何もされないから、普段こんな感じでちょっと豪華な出迎えと共にお邪魔してるわけ」

 

 私のテキトウな謝罪を受けて、反省してねぇなコイツ!? とショックを受けているレオリオは放置して説明を終える。もちろん反省はしていない。

 今回レオリオを巻き込んだのは、私がちょっとだけ楽をするのとデモンストレーション、それと私が何処まで開けられるかという疑問をはぐらかす目的を兼ねている。

 実際に体験したほうが効果はあるだろうし、こうしておけば咄嗟の思いつきで片方だけ開けて入って、2匹に喰い殺されてゲームオーバーにはならないだろう。ちょっとした忠告だ。

 立っていた状態から伏せの体制に入った2匹を確認し、再びゴン達へと視線を向けて問いかける。

 

「私はもう行くけど、何か伝言とかある? 会えたら伝えておくよ」

 

 門の向こうの犬を見た彼らは緊張した様子だったが、伏せをしたのを見て害はないと判断したのだろう、今はリラックスしている。

 聞かれたゴンは僅かな逡巡の後、笑顔でこう答えた。

 

「すぐに迎えに行くから待っててって! それだけ!」

 

 迎えに行くと言うよりは会いに行くのほうが正しいと思うんだけど、やっぱりまだゾルディックから取り戻すって心のどこかで感じているんだろうな。

 まぁ、内容自体はシンプルで非常にいい。キルアもきっと喜ぶだろう。

 

「おっけー。他の2人は?」

「ゴンが代弁してくれた。私からは特に無い」

「同じく。ごちゃごちゃ言うよりはシンプルな方がいいだろうから、ゴンの言葉だけ伝えてくれ」

 

 クラピカとレオリオに確認するも、彼らも微笑みながらそう答えた。ハンター試験中のみの短い付き合いだけれど、彼らの間にはしっかりとした信頼が築かれているようだ。

 彼らとともに過ごすキルアを見てみたい。私が諦めたその先を進むキルアを見てみたい。彼らの様子を見て、改めてそう思った。

 

「伝えておくよ。それじゃあ、また後でね」

 

 聞きたいこともあるし。その言葉は声に出さず、右手を扉から離して前へ進む。

 門の閉まる重厚な音を背に、2匹の番犬に見送られて走りだす。

 矛盾している、そう自重して苦笑しながら。

 

 あぁでも、道の先をキルアに示すのはゴンだけでも十分っぽいから、別にいいか。


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