マダライトヒル。なんやかんやあって膀胱がヤバイ。酒飲んでれば問題なし。
膀胱で産卵するとか、孵化には安定したアンモニア濃度が必要とか、孵化さえしなければ痛みはないとか。
シャルがいろいろと言っていたけれど、簡単にいえば膀胱ヤバイから酒飲めってことになる。そこだけ覚えておけばいい。
激痛は死に値するらしいけれど、その程度でショック死するようなヤワな輩じゃない。つまりウボォーは特に気に掛けなくてもいい。
それよりも、だ。
私の手に握られた携帯電話。そのディスプレイが、なかなか面白いことを教えてくれた。
映っているのは、この携帯電話を中心とした周辺の簡易的な地図。それと、折り重なった2つの点。
クラピカの現在地を示すそれは、少し遡れば先ほど鎖が飛んできた先に彼がいた事、そして現在ではココから高速で去っていっているという事実を教えてくれた。
それは、あの鎖が高確率でクラピカの能力である事の証明にもなる。
そもそもなぜ彼の現在地が携帯電話を通して分かるのかというと、それは試験終了後のゾルディック家訪問まで遡る。
私があの日ミルキ君に要求したもの。2種類あったそれらのうち、片方が今画面に表示されている2つの発信機だ。
携帯電話に仕込まれた、薄く小さい正方形のチップ型。そしてクラピカの肩辺りに埋められた、長さが約3cmで髪の毛程度の細さの針型。
ちょうど肩に手を置くタイミング。戦闘中に急所をよく狙う関係上、ツボなども熟知しているため、手が触れる感覚に紛れて気づかれないように埋めることも可能。
そうして仕込まれた発信機は、片方は電力を、もう片方はオーラを動力源として信号をゾルディックに送信し、そこを介して私の元へと位置情報を送り続けていた。オーラが動力源っていう原理は教えてもらえなかったけど、まぁ多分能力かなんかだろう。設置後ずっとバレないのは流石ゾルディックといったところか。
山篭りしてたのも、ノストラードゆかりの地を何度も訪れたことも知っている。そこから彼の所属を割り出したのだから。
全てはこの日のために。クラピカをこちらが利用するために。
鎖は具現化されたもの。実態のある鎖を操作したのでは”隠”で鎖を隠せないから、まず間違いない。
そしてそれは捕縛用。あの距離から一撃必殺の攻撃を出来るのならば目的は違うだろうけど、具現化系だとそれは厳しい。
おそらく捉えた相手の行動を阻害できるはず。念か、はたまた肉体か。前者は具現化系のパワーだと拘束を解かれる可能性が高いから、後者のほうが確率が高い。
なにせあの戦いぶりを見せたウボォーを捉えようというのだから、それぐらいの特殊効果が無いと実行しないはず。たとえ麻痺していようとも。
捕獲に特化した能力も、彼の目的の一つである旅団の殲滅を思えば納得だ。13の団員を相手にするのだから、攻撃力の高い能力よりは拘束して尋問したり質にして利用したりできる能力のほうが都合が良い。
そう思えばこそ、あの鎖はあの場に居たクラピカ以外の仲間の能力ではなく、彼自身のものと考えたほうがしっくり来る。
とりあえず、アレには警戒しておく必要がありそうだ。
そして逃げ足の速さも目を引く。
あの距離から捕獲、そして直後の車での逃走。なるほど、成功していればリスクは少なくリターンは果てしなく大きい行動だ。
失敗しても、こっちは追うのが非常に困難。鎖を消してすぐ車に乗り込んで発進したようだし、直後に追っていても追いつけはしなかっただろう。
通常ならば彼らが逃げた時点で手が出せないような状態。向こうもそう思っているはずだ。
だけど向こうの唯一の誤算は、仲間の1人の位置情報がこちらに漏れていること。
場所が分かっているのであれば、接触するのは容易になる。
「シャル、ちょっと来て」
手をチョイチョイと動かしながら、ちょうどシズクにウボォーの解毒の指示を出したシャルにそう告げる。
他2名とは少し離れた場所。声を潜めれば私達の会話は届かない。
「なに? ひょっとしてさっきのって、そういうこと?」
聡いシャルは私が彼を呼び出した時点で大体の事情を察しているようだ。囁かれた言葉も疑問というより、確認の色合いが強い。
一度だけ彼が私の手元の携帯に目を向けた時点でほぼ確信したのだろう。彼もクラピカの発信器については知っているし。
「うん。私の方はこれからあっちを追う」
「待った。オレは今の攻撃、背後にアイツの影が見えないように思う」
仕事の範疇内、つまりはマフィアや陰獣の対応はシャルの班の管轄内。そして私の班は、それ以外の相手への対応。
仕掛けてきたのがクラピカなのだから、私が対応する。そう告げたけれど、シャルはそれに待ったをかけた。
彼の言うことも分かる。と言うより、私も今回のクラピカの攻撃はヒソカとは無関係だという気がしてならない。
そもそもクロロからの連絡がないからヒソカに不審な動きがあったわけでもないし、クラピカも失敗したと判断した瞬間逃げた。
「私もそう思う。でも、だからこそ追う意味がある。不確定要素が多い現状、確認できることはしておいたほうがいい」
あまりにもお粗末な行動。確かに成功していれば彼らにとって有利に事が運んだだろうけど、成功させたいならもっと他に方法があったはずだ。
今の奇襲には陰獣とクラピカしか関与していない。マフィアトップクラスの陰獣と末端構成員クラピカが手を組んでいるとは考えられないから、彼は陰獣が作ったチャンスを利用しただけ。そのクラピカが逃走した今、何らかの追撃があるわけでもなし。
なぜさっきの鎖だけで終わった? クラピカとヒソカが手を組んでいたのならば、捕縛の成功率を上げるためにもクラピカの行動の前後に何らかのアクションがあったはずだ。
それがないとなると、さっきのはクラピカの単独行動という可能性が高くなってくる。なぜ彼らは協力して攻撃してこない?
少なくともヒソカがクラピカをヨークシンへ誘ったのは確実。だけど、それ以外は不明瞭なのだ。
見極める必要がある。クラピカとヒソカが、どういった関係なのかを。
ヒソカはただ単に利用する腹づもりで、クラピカが行動の末にもたらした結果を見て、好機だと感じた時に漸く動くのか。
それとも矢面に立ったクラピカの行動をサポートし、自分にとって理想的な状況を作れるように手助けするのか。
もしくは完全な協力体制を敷いていて、連絡を密に取り合って連携して動くのか。
最後のやつの可能性が限りなく低いのはさっきので分かった。後はここで追えば、残り2つのどちらかが分かるはず。
その後で方針を変えてくることだってありえるけど、その兆候さえ見逃さなければ対処は可能になるはずだ。
「確かにな……じゃあ、今のが”誤報”だった場合はどうするつもり?」
「”誤報”があるくらいの関係だったらあんま利用価値ないし、殺しちゃってもいいと思うけど」
顎に手を当てて少し考えこんだシャルからの質問。”誤報”、つまりさっきの攻撃はヒソカの行動の予兆ではなく、クラピカが完全に独立して動いていた場合。ヒソカのサポートさえ無い場合だ。
クラピカに私達が接近しても何のアクションも無いようならば完全に”誤報”で、クラピカとヒソカは連絡を特に取り合わない、利用し合うだけの関係という可能性が高くなる。
ヒソカがクラピカの行動には全く興味がなく、その結果だけを欲しているならば彼に警報としての価値はほぼ無い。彼に結果を出させるつもりはないのだから。ならば今後のためにもサクッと殺っておいたほうがマシ。
それもそうだとクスクス笑うシャルに対し、更に言葉を重ねる。
「まぁ追跡することで確認できることいくつかあるだろうし、状況によっては占い師の捕獲も可能かもしれないし。それに何より、団長の言うことは聞かなくちゃね?」
「邪魔する奴は一人残らず殺せ、か。うん、追うほうがオレ達らしいね」
シャルの笑みが、楽しげだけど酷薄なものに変わる。お面に遮られて誰からも見えないけれど、きっと私も同じような表情だ。
タイミングをずらし、追手が来ないと気を抜いた相手を追跡する。奇襲の成功率はかなり高い。
クラピカはどこへ向かうのだろうか。ノストラードの下か、それとも他の協力者の下か。
前者なら、ひょっとしたら占いの娘を誘拐できる。クラピカと同じ場所に居るかは分からないけど。後者ならば一網打尽とまでは行かなくとも、戦力を削ることは出来る。どちらにせよ、邪魔者は減るのだ。
もしも占いで対応されたとしても、所詮は抽象的なもの。不利になったとしても機を見て撤退するのは容易だ。しかもこの場合、変化した未来まで予知可能というセンが濃厚になる。
「そうそう。やられたらキッチリやり返さないとね!」
「あっはは……メリーが言うと怖いなぁ、それ」
顔の横辺りで握りこぶしを作ると、シャルが苦笑いをした。
やられたらやり返す。私の信条でもあるそれは、相手が蜘蛛だろうがゾルディックだろうが誰だろうが区別なく発揮される。
私にちょっかい出しては反撃され、この間も喉仏を執拗に責められたシャルはそれをよく理解している。彼の言葉には実感が篭っていた。
私が反応を気に入ってしまったせいで、喉仏ピンポンダッシュ攻撃以降狙われることの多くなった喉をさすりながらシャルが口を開く。
「まぁ、分かった。メリー達はあっちを追ってくれ。オレたちはここで残りの陰獣を待つよ」
「おっけー。それじゃあ善は急げってことで、早速出発しようかな」
世間一般的にはどちらかと言うと、いや明らかに悪いことをしに行くわけだけれど、私にとっては善だから問題無し。
小声での会話を終えてさっきまでいた場所に戻ると、毒が抜けて自由になった体を軽い体操で解していたウボォーと、それを見ていたシズクが反応してこちらに振り向く。
「お、話は済んだみてぇだな」
「さっきから何の話をしてたの?」
「メリーがさっきの鎖使いを追うから、そっちにウボォーが加わるって話」
「おい待て、後半のは一切聞いてないんだけど」
彼らの問いかけにシレッと嘘をつくシャル。前半はあってるけれど、後半は全然違う。ウボォーの名前なんて出て来なかった。
どういうことだと顔を向けると、シャルは笑いながら説明した。
「ウボォーは蛭が居るから早めに酒飲ませないといけないだろ? ほらオレ達まだ陰獣の相手しないといけないからここ離れられないし、終わった後も梟ってやつに競売品の在処吐かせて、可能ならその回収もしなくちゃいけないし。時間どのくらいかかるかわからないんだよ」
「それ先に言っといてよ。なんでここで言うんだよ」
「だって今言えば1回で両方に話が通るじゃん? 別にいいだろ、偶数のほうが動きやすいだろうし」
私が指摘すれば、シャルは当然の事のように言った。理屈は分からないでもないけれどなんか納得いかない。
まぁ、ウボォーは膀胱がヤバイから酒を飲ませなくちゃいけないのは分かる。処置は早めのほうがいいっていうのも。
偶数なら、何らかの事態で班を2つに分ける場合に誰かが孤立することもなくなるし、それはいいんだけど。
「鎖使いを追うってことは殺っちまうんだろ? イイゼ、まだ暴れたりなかったしな!」
「いや暴れんなよバカ。連れてくのはいいけど、余程のことがない限りウボォーの仕事は酒のんで大人しくしてるだけだからね」
「アァ!? ンだよ、いいじゃねーかちょっとぐらいよぉ!!」
何故か馬鹿が無意味にやる気を滾らせてるのだけは勘弁して欲しい。
コイツ今から自分が大量飲酒するってことを忘れてるんじゃなかろうか。酔っ払いなんて何が起こるかわからないから使えない。
「さっき十分暴れたでしょーが。大人しくしてろ。……マチー! ノブナガー!」
「チッ! ……しょうがねェ、余程のことが起きるよう期待しておくか」
「何でもいいけどちゃんとメリーの指示には従いなよ、ウボォー」
溜息を吐いてからウボォーにそう言い、崖の上で待機している2名を手招きしながら呼ぶ。後ろの馬鹿の不穏当なつぶやきは無視だ。あっちはシャルに任せよう。
私の声に答えて、彼らは動き出した。あちらもあそこから周囲を警戒しながら事態を見守っていたようだ。
斜面を降り、こちらに近づいてきたマチとノブナガに簡単に事のあらましを告げる。
鎖で攻撃されたこと、今からソイツを追うこと、そこにウボォーが加わること。
「追うのはいいけどさ、もう逃げられてからだいぶ経つのに居場所分かるのかい?」
「心配ご無用、マーキング済みだよ」
マチの投げかけた当然の疑問に、その方法は告げずに答える。深く踏み込む必要もないと判断したのか、彼女はそれで納得してくれた。
ノブナガは取り敢えず仕事に有りつけたことがよほど嬉しいらしい。目は鋭く、口元は弧を描き、手は腰の刀へと自然と向かい、滾るオーラからは抑えきれない殺気が漏れている。
「くくくく、オレぁなんだっていいぜぇ。漸く退屈な待機が終わるんだからよぉ」
まぁ興奮したら大体の蜘蛛のメンバーはこんな感じになる。昔はビビっていたけれど、今はもう慣れたか、或いはビビるほどの実力差が無くなっているから特に感じることはない。
興奮すんなよ、とか戦う役目があるかは別だけど、とか言いたいことはあるけれど、今は言う必要はないか。
せいぜい滾らせておいてもらおう。そのほうが有事の際に役立ちそうだし。
半裸になっているウボォーの上着の確保や、ウボォー用のビールの用意もあるし、一旦コンビニかどこかによる必要がある。
少し余計な手間が増えたけれど、まぁいい。獲物の場所は常にこちらで把握しているのだから。
ゆっくり、じっくり。追い詰めてあげればいい。
なんかダメだ……後半部分が特になんかダメだ……。
うまく言い表せないけれど、こう、なんか駄目です。
多分近い内に修正入れます……。
スッキリした頭でチェックすれば、何が駄目か分かるはず……!
今日はなんか調子悪いので、これでご勘弁を。