大泥棒の卵   作:あずきなこ

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13 敵戦力を把握せよ

 地を這うように体勢を低くし、クソキノコとトーガンへと急速に迫る。

 相手の意表をついたタイミングでの接近、そして回避。一瞬だけ思考を塗りつぶすことに成功した私だけど、しかし20mという距離もあって必殺の隙には成り得なかった。まぁ一瞬だけ気を反らせても、攻撃を当てるのであれば距離が5mでも遠いくらいだし仕方ない。よほど相手が格下でないとあり得ない。

 とは言え、少なくとも先手を取るきっかけにはなった。彼らより先に動いた私を見て、彼らは攻めではなく守りの姿勢に入った。

 私としてはそれだけでも御の字。現在の私の目的を鑑みるに、どちらを狙うも私次第な状況は非常に良い。

 私の目的は、まず相手の能力を把握すること。相手とは言ってもそれはトーガン以外の2名に限られる。

 バリバリ前衛タイプのトーガンと、ヒョロい見た目のクソキノコ、そして先ほど念弾を飛ばしてきた奴。トーガン以外は彼の戦闘をサポートする役目の可能性が高い。つまりは後衛タイプの能力者。

 ならば。相手を分断し、多少のダメージは覚悟で速攻を仕掛ければ、どちらか片方であれば潰すのことは可能。3対1という状況は厳しいけれど、もとより自力では相手の誰と比較しても私が勝るのだ。後衛とタイマンに持ち込めば、ほぼ確実に、早々に仕留められる。

 分断する手段も幾つかある。その前に今からするのは、後衛のどちらが厄介かを見極めること。

 

 走りながらも腕を交差させてジャケットの内側に入れ、片手に2本ずつ小型のナイフを掴み、”周”でオーラを纏わせる。

 後方で地面に念弾が着弾した音を聞きつつ、両の腕を体の外側へ横に弧を描くように振るいながら投擲。そしてその腕をそのまま後腰へと運び、ダガーを手に取る。

 投擲したナイフの狙いは、それぞれの頭部と心臓。急所へと放たれたそれを、両者ともに最小限の動きで回避し、迫る私に備える。

 なるほど、反応も動きも悪くない。ただ、それが逆にアダとなったね。

 私の能力盗みの素養(スティールオーラ)は、直接接触とは比較にならないほど微小量ではあるけれどオーラ同士の接触でさえも効果を発揮する。最小限の動き、つまりナイフは肉体のすぐ傍を通過。確かに身体には当たらなかったけれど、彼らが”堅”で纏うオーラを掠め、奪うことに成功した。

 奪ったオーラで自己の纏えるオーラ量を強化。ただ既にウボォーのオーラのおかげで強化量が上限に定めた2倍に到達しているので、強化解除までのカウントダウンのリセットという効果に留まる。

 しかし今回の目的はコレだ。コレであと数分は別の目的で盗み続けても問題ない。なのでオーラを盗む目的を変更。

 まだ”堅”で纏うオーラは強化分を抜いた場合の私の全力の量。でも今は相手を探るだけだしこれで十分だ。

 

 最初に探るのは、クソキノコ。彼は私の攻撃を警戒してトーガンの右後方へ下がる。

 私は彼を追うための方向転換をせずに、そのまま突っ込んでトーガンの方へと向かう。このまま進めば大斧を持ったトーガンのほうがリーチが長いので、おそらく先制攻撃は向こうになる。

 しかし彼の間合いに入る手前で足の動きを変える。前へと走るためのものではなく、その場で勢いを殺すためのものに。

 右足の踵を前方斜め下に強くつきだし、アスファルトを深く抉りつつ足をめり込ませる。更にその瞬間に衝撃で前方へ飛び散った瓦礫にオーラを纏わせ、トーガンへと無数の攻撃を加える。

 

「ぐっぅ!」

 

 当然ながら威力の低いそれは、しかしオーラを纏うだけあってチクチクとした痛みはあり、また目に入れば失明ぐらいはする程度のもの。なので顔面への着弾を防ぐために、トーガンは小さくうめき声を上げつつ自身の腕でガードした。

 彼が攻撃をしようとする直前のコチラからの攻撃、更には片腕のガードが上がっている。しかしここで攻め込んでも彼は接近戦型なので、おそらくこういう事への復帰と対応が早くダメージは見込めない。

 だけど、彼が復帰するまでの僅かな時間と、今ので自分が狙われていると認識したからこその構えの変化。その隙は、私がもう片方へと接近するためには十分なもの。

 

「ッちぃっ!」

 

 地面に突き刺した足を支点にして体を捻り、進路は一転してクソキノコへ。

 トーガンの横をすり抜けて肉薄し、舌打ちとともに上から振るわれたステッキの一撃を左手のダガーでいなす。

 ステッキは私の体の横を通り地面へと刺さり、私は接近の勢いを乗せて右手のダガーで刺突を繰り出す。

 それを大きく体を捻り、全身を動かして回避されるが、そのせいで向こうは体勢が崩れている。

 トーガンの援護までまだ少しだけ猶予がある。もう少しつついてみようか。

 そう思い横に僅か一歩分だけ開いた距離を詰め、鈍く光る凶器を振るおうとしたところで、足元近くのアスファルトが突如隆起し、その形を変えて私の踏み出した足へと伸びてきた。

 元よりクソキノコに何らかの能力を使わせるのが目的の突進だったため、攻撃は特に意識していない。そのため変化を認識した瞬間に地を強く蹴って前へ跳び、危なげなくその場から離れて様子をうかがう。

 

 地面から生えているのは、腕。それも肘から先のみが、私の足を掴むべく拳を握りしめていた。

 彼らより後ろの位置へ着地。立ち位置が入れ替わったが、これはこれで次の行動には都合がいい。

 それにしても、腕か。アスファルトを変異させたみたいだけど、彼の様子からしてあのステッキから地面にオーラを流したのか。地面に刺さるほどの強い振り下ろし、その後の隙だらけの回避。私の攻撃を誘発して捕まえる気だったのか。捕まえさえすればトーガンの攻撃で一気に情勢が決まっていただろうし、攻撃じゃなくて観察と回避を念頭に行動しておいてよかった。

 能力の発動条件は……とりあえずステッキの接触。ただ、それだけだと使い勝手が悪いし、他にも何らかの手段があると見ていい。変化させるものやその形態も然りだ。

 何にせよ、あの能力は拘束系。今のはちょっと危なかったし、まだ全貌は明かされていないけど、とりあえずこっちは保留。

 

 もう一人の能力者へと思考を割く。

 この位置からならば、トーガンとクソキノコ、そして私がさっきまで立っていた位置がすべて見える。当然、一番最初に私を攻撃した”何か”と、その威力も。

 こちらへと宙に浮かびながら接近してくる5つのそれらは、握り拳ほどの大きさの目玉。血走った眼球が迫ってくる光景はちょっと視覚的によろしくない。何故目なんだ。目からビームがやりたかったのか。

 そしてそれから発せられた攻撃の威力。さっき破壊音が聞こえてたけど、深さ、そして地表の直径共に50cm程の円錐形の穴が開いていた。そりゃ破壊音も聞こえるだろうと納得の威力だ。まず間違いなく放出系に属する能力者だろう。

 衝撃タイプと言うよりは、貫通タイプの念弾か。前者なら円錐よりも半円の形の破壊になっただろうし。となると、直撃したら結構痛そうだ。

 

 こちらへと接近し、袈裟懸けに大斧を振るうトーガンの一撃を左に移動し回避。それと同時に右腕にオーラを集め、胸元から横へと振るい念弾を発射。

 トーガンは威力の低いそれを大斧の柄の部分で難なく弾く。が、その代わりに足は一時的に止まった。

 正直コイツの相手をするのはタイマンでも骨が折れる。労力的な意味では勿論のこと、物理的な意味合いでもマジで折れかねない。後者の場合は骨が折れるではなく、骨が折られるとでも言い直すべきなのだろうか。いや、どうでもいいかなそんなもん。

 まぁとにかくそんな相手と3対1の現状で戦いたくなんて無いのだ。だからここはテキトウにあしらって標的を移す。

 と言うか3対1とか言う馬鹿げた戦いに、態々付き合ってやる義理も義務もない。数的には3対1でも、私は私の土俵で戦わせてもらう。

 

「んだとぉ!? クソがァ!!」

 

 彼の攻撃を回避した流れで、私は再び走りだす。今度は先ほどとは逆の向き、私が最初立っていた方向へ向かって。標的は、空飛ぶ目玉の能力者。

 トーガンもその私の狙いに気づき毒突き、私を追おうとするも、速度は私のほうが明らかに上。初動の差も相まって、既に追いつける距離ではなくなっている。クソキノコも同様だ。一応更に念弾を撃って彼らの行動を阻害する。

 当然この動きは目玉の能力者も察知しており、目からビームという名の細い念弾を連射してくる。先程よりも威力は控えめだが、1発でも食らったら動きが止まるだろうし、その後集中砲火を食らいそうだ。

 ただ、目玉の移動速度はそんなに速くないようで、全力で駆ける私は囲まれることもなく、斜め後方から放たれるのを身体を少しずらすだけで回避し続ける。トーガンたちが居る方に動かしていたのがアダになったな。

 そして顔を上げ、とあるビルの3階の一室。窓が開いているのはそこだけでなく他にもいくつかあるけれど、相手が念能力を私に対して使ったことで正確に把握した、相手のいる場所を睨む。

 ふわりと身体を浮かせ、その部屋の窓枠へと立つ。当然私の到達を妨害しようと念弾が放たれていたけれど、撃ってくる場所がここへの軌道上だと分かっていたので、念弾を放ちその軌道を悉く逸らした。

 その室内には、真っ赤な袖なし膝丈のワンピースドレスを着て、グリーンの右目と真っ黒な眼帯で覆い隠した左目の金髪ロングの女性が、真っ赤なルージュを引いた口を忌々しげに歪めて立っていた。

 

 左目が真っ黒な眼帯で覆われている、ということは、彼女はおそらくその目の視力を失っていて、だけどあの目玉がおそらく彼女の左目の代わりをしているのだろう。あの形状はそのためなのか。態々意味もなく隠す必要ないし。

 この場合、能力発現の理由は2つ考えられる。

 1つは、彼女が能力を得る代わりに本来の視力を失った。

 もう1つは、彼女は失った視力を補うために能力を得た。

 この2つは、少し似ているようで実際は全く違う。能力発現のタイミングも、前者は視力を失うのと同時だし、後者は視力を失った以降であればいつでもだ。

 念能力とは、その覚悟が大きければ大きいほどその強さを増していく。そう、例えば能力で換えが利くとは言っても、視力を代償に能力を得たらそれはとてつもない威力になるだろう。

 ……でもまぁ、この威力なら失った視力の代わりに目の働きをする能力を得たということか。片目が使えなくなるだけでも距離感掴めなくなって大変だし。それに態々能力のために視力を失うとか馬鹿げてると思うし。

 能力のために指の先っちょを切り落としたバカなら知ってるけど。フランとかフランとか、それとフランとか。

 まぁ何はともあれ、アレは視力を補う働きがある。となると完全なオーラの集合体である放出系では無理だから、あの目は具現化能力で生み出したと考えるのが妥当だ。

 失った視力の代替品として、念で視力を持った目を具現化し、更にロマン溢れる目からビームを実現させた。私が言うのもアレだけど、中々欲張りな女性である。

 

「もう来るなんて!? でもこれで!!」

 

 女性が焦った口調で叫ぶと同時、外にあった5つのオーラが消え、直後に彼女の周囲に先ほどと同サイズの目玉が出現した。その数はまずは5個、少しの間をおいて更に5個の合計10個。これが彼女の全力か。

 半分が私にめがけて一斉に念弾を発射し、残った半分が彼女の周囲に展開され私を待ち受ける。

 

「舐めるな!」

 

 そう叫び返しつつ室内へと飛び込み、念弾を回避。

 更に放たれた念弾を天井へ斜めに飛び上がって避け、そこ目掛けて撃たれたものを今度は壁へと移動して避ける。

 私に迫る念弾。幾度も体を掠めるその攻撃を、床を、壁を、天井を飛び跳ねるように移動して回避する。このような狭い空間であれば、2次元的ではなく3次元的な回避が可能になる。なので広い場所よりはむしろ有利に動ける。

 そして先ほど彼女の能力について考えた時に気づいた、攻略の糸口。このまま一旦引いてもまぁ悪くはないんだけど、それを確かめるために攻勢に打って出る。

 

 最初に居た位置から動かないままで居た彼女目掛けて、手に持っていたダガーを2本とも投げる。

 どちらも急所へと放たれた即死級の攻撃を、彼女は周囲の目玉からの念弾で撃ちぬいて弾き飛ばした。

 そして彼女の意識が防御に向いたその一瞬の間に、私は卵を見て念を求む(ワンダーエッグ)を発動。合計4つの拳大の卵を周囲へと投げつける。

 

 当然何らかの攻撃と認識した彼女は、それを撃ちぬいた。

 しかし、既に手遅れ。対処が一瞬遅れた間に、卵は全て私の近くを離れ、部屋の中心あたりへと近づいていた。

 ワンダーエッグはオーラを卵の中に入れ、手元から離れても威力が減衰しないようにしたもの。そして飛ばされたそれは、割れると同時に内部のオーラが周囲に一気に放出され、威力は低いものの狭い範囲に衝撃波と広範囲に卵の殻をランダムで飛ばす能力。

 

 つまり。撃ちぬかれたことで割れた卵は、周囲へと卵の殻をまき散らし。

 どこへ避ければいいのかわからないほどのそれに当たった目玉が8つ、破壊された。

 接近戦に持ち込むなら、能力の目をすべて潰してしまえればベストだったけれど、贅沢は言っていられない。

 

 好機。

 先ほどまでの彼女の猛攻が止み、接近して攻撃する余裕が出来た。目玉は再度具現化が可能だろうけど、先ほどの様子から見るに少しだけ時間を要するはず。この部屋に来た時、使ってなかった目玉5個と、使ってて再度具現化した5個はそのタイミングがずれていたし。ならば2個の目玉は脅威ではない。

 この女性のような、中距離で一方的に攻撃できるような能力を持った能力者は、何らかの方法で掻い潜って接近戦に持ち込むのが効果的。近距離戦では取り回しの難しい物が多いからだ。彼女の能力も自身を誤射する可能性があるし。

 ただ、それは相手も承知のこと。私に接近された時に、彼女は必ず別の能力を見せる!

 

「甘いのよっ!!」

「舐めるなと言ったァ!!」

 

 吠える彼女の突き出した両手。その手のひらには、先程から何度も見ている目玉が埋め込まれていた。

 ”妖怪手の目”のようになった彼女の手から、先程から何度も見ている、しかしそれよりも威力が高いレーザー上の念弾が放たれた。

 しかし。しかしだ。

 彼女の間合いは中から遠距離。対して私は近距離。そして近距離戦で手の平から念弾放出というのは、ただ槍を穿つのと一体何が変わろうか。何らかの隠し球に対する心構えもあったため、不意を撃たれたわけでもないのに。

 

「くあぁぅっ!」

 

 苦しげな悲鳴とともに彼女が後方へと吹き飛び、その背後にあった窓から道路へと放り出される。

 胴体目掛けて放たれた念弾を、上体を寝かせることで回避。そしてその体制のまま、ドロップキックの要領で彼女の腹部に両足を叩き込んだのだ。

 オーラは結構込めたけど体勢が不十分だったし、ダメージはあまり大きくなさそうだ。鳩尾より下のヘソ当たりに当たったから腹筋で防御可能だし。しかし、ダメージを与えると同時に残りの目玉も消えた。

 威力はさておき攻撃を加える位置と窓の位置はコチラの予定通り。部屋から彼女を出すことには成功した。引きこもりは許さん。

 

 やはり彼女の目玉は、強度がかなり低かった。さすがにアレだけの威力の念弾は放出系じゃないと撃てないし、まぁ当然ではあるけれど。

 本来放出系に属する能力者が具現化能力を使っても、相性の悪さからかなり脆いものしか出来ない。またその逆も然りで、具現化系能力者が具現化した念を手元から離せば、その強度は著しく低下する。

 具現化系の立場から考えてみると、手元から離して運用する放出系の念は基本的には使えないが、放出系が具現化系を使用する場合はそうでもないのだ。

 その理由としては放出系の能力の代表的なものである、離れた念を維持する力と、またオーラの力で瞬間移動(テレポート)させる力に依るものだ。

 テレポートは、何を送るにしてもその転移元や転移先の設定が手間となる。ならば、そういった性質をもった物体を具現化すればいいのだ。いかに脆くとも、ただの転移先として利用するなら欠点よりも利点が勝る。

 彼女の場合は、転移の始点を自分に、終点を目玉に設定。脆くとも自由に飛び回る視力と転移先の性質を持った目玉に、テレポートで念を送って念弾を撃てば便利な強行偵察移動砲台の完成だ。

 厄介極まりない能力ではあるけれど、しかし強度は無いのだ。私のワンダーエッグの卵の殻の欠片が当たっただけで壊れてしまうくらいには。

 

 やはり1人1人、慎重に戦えばそう苦戦する相手でもない。

 まぁ当たり前か。あのヒソカが用意した戦力なんだ。あいつ交流関係狭そうだから、強力な力を持った個人は用意できそうにないし。イルミさんは別として。こういった捕まった犯罪者共か、後はどっかの組織から雇うか。

 よしんばそこそこ強いやつを用意出来ても、ヒソカなら我慢できずに摘み食いくらいはしそうだ。だからこそ、単純に戦闘能力で私に勝る相手はここに居ない。

 それでもやはり3という数字は厄介だ。正面からまともにぶつかれば私の敗北は必至だろう。全方位攻撃と拘束、更にパワータイプが相手には揃っているのだし。

 だからこそ、私は絶対に奴らと3対1では戦わない。

 

 室内に落ちていたダガーを回収して収納し、外の様子を確認してから私も部屋から飛び出す。

 降り立った位置から10m離れた位置では、敵の3人が集結してコチラを睨んでいた。

 コチラも殺気を飛ばし、威圧しあう。周囲の空気が震え、得も言えぬ緊張感が辺りを包む。

 油断ならない相手。おそらく向こうは全員が私をそう認識し、次からは完全に全力で攻撃してくるだろう。

 それでいい。私を警戒していればしているほど、私としては都合がいい。

 

 私もそうだけれど、向こうにも今までの戦闘でのダメージは特に無い。

 強いて言うなら、戦闘の前に受けたダメージが私にはある。だけど動きが阻害されるほどじゃないし、もう痛みも引いてきた。

 おそらく合流後すぐに彼女はさっき使った私の能力を告げただろうから、今のところは互いが互いの能力を幾らか把握した程度。

 むしろ3人が固まっている分、向こうの守りは先程よりも強固になっている。

 

 ……というのが、多分彼らの認識だろう。

 見た目だけで言えば、どちらかに戦況が大きく傾いたわけではない。数も減っていないし、有効打もない。

 だけど、攻撃の中で、回避の中で。私は彼らと何度も接触をした。

 たったそれだけのことは、しかし私にとって大きな意味を持つ。この後に1度きり、自分の思い描く戦況を作り出すことができる。

 その確率をさらに上げるための下準備。片鱗すら見せること無く入念に隠し、そしてさらに積み上げる。

 

「なぁんだ、やっぱ全員雑魚じゃん。……もういいや、さっさとキミら全員全力でブチ殺してやるよ」

 

 酷薄な笑みを浮かべながら宣告する。

 イニシアチブは既に私が握った。

 次で1人、確実に仕留める。

 

――――標的は、既に決まっている。


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