短期決着を決意したが、急いては事を仕損じると言う諺にもあるよう、さっさと終わらせたいからといって性急に事を運ぶのは愚策。
相手が3人から2人に減った時点で自力での戦力差は覆ったようなものなので、正面から突っ込んで攻めまくっても一応勝てるだろうけど、その場合は確実にこっちも手痛いダメージを受ける。
回避に専念するのと、それに反撃も加えるのとでは回避率に大きな差が出る。攻撃を受けないためにも、コチラからの攻撃は反撃の来ない状況を狙い、殺意を込めた一撃を確実に当てて終わらせるのが理想。
それを実現する土台作りのために、私は攻撃ではなく牽制に留め、基本は相手の攻撃を避けることに専念している。
トーガンの攻撃は最初の交戦時よりも激しさを増している。あの大斧による高威力且つ広範囲攻撃能力は先ほど避けたのが5発目。既にこの近辺は道路としての機能を失い、また周辺の建物は崩れたり抉れたりと甚大な損害を被っている。
クソキノコの方は足を絶え間なく動かし、攻撃位置を変えながら遠距離攻撃を放ってくる。更には機を伺い時折灰色の能力をその身に纏って近接戦闘を挑んできたりと、戦闘スタイルをガラリと変えてきた。
共通した変化といえば、攻め方が大胆になったところか。多分潜伏中に話し合って決めたんだろうけど。
トーガンの攻撃は速度的に当てるのが難しい。キノコは遠距離攻撃が攻撃の着弾点から更に能力を遠隔発動できる2段構えだけど、発動地点が着弾点固定という性質上回避が容易い。
圧倒的な手数と索敵能力を持つドレスの女が掛けた時点で、攻撃面ではかなりの損失だし、しかも私の”円”があるから隠れても私が見つけるほうが早いため潜伏しての奇襲も不可能。
下手を打てば戦力の要であるトーガンさえも一瞬で大ダメージを受けかねない現状、それをカバーする意味でもキノコが前に出てきたのだろうけど。
「ッハ、クソッ、何で当たらねぇんだ!!」
「いい加減、鬱陶しい蝿ですねぇ……!」
トーガンとクソキノコの焦燥と苛立ち混じりの声が、鳴り止まない風切り音と破砕音に混じって夜闇に消えていく。
反撃できる隙こそ少ないけれど、手数が減った分先ほどよりかなり楽だ。掠る頻度も低下している。
袈裟懸けに振り下ろされた大斧からバックステップで範囲外に逃げ、後方から胴体目掛けて放たれた剣の突きを体を捻って回避。
その勢いのまま生首の髪を掴んだ左手を振るい、”周”で覆った女の頭部を振るう。キノコはそれを後方へ下がってやり過ごし、その隙にトーガンが私に攻めてくる。
先程から似たようなやり取りが続いている。彼らの攻撃を躱しがてら、牽制程度にキノコにのみちょっかいを出す。
ほぼ相手にされていないトーガンは怒り、キノコは次に狙われているのが自分であると悟って警戒し、そして恐怖している。
そう、その調子だ。もっとその感情を増幅させろ。
「キミら遅すぎて相手になんないなぁ。私も暇じゃないし、そろそろ終わらせよっか?」
「――――ほざけェ!!」
つまらなさ気に眉をひそめながらの私の挑発。それに激高したトーガンの放った斬撃が、私が持っていた生首の髪を頭部の根元付近で切り裂き、髪を掴んで振り回されていた生首が私の手元を離れ宙を舞った。
放物線を描き
距離を取りつつそれを一瞥し、左手がフリーになったのを切掛にコチラも動きを変える。私は左手に
サッカーボール程度の体積のそれを態と手から零し、即座にもう一つ同じサイズで左手に具現化させる。
左手のものをトーガンに投げつけ、それをトーガンが横に避けたタイミングで破裂させる。
トーガンが衝撃に煽られてバランスを崩し、そこに先ほど手から零したものを足の甲で受け止め、割れないように押し出して飛ばす。
が、トーガンは前面に構えた大斧でガード。さすがに直径1mの円は飛び散る卵の殻を通さなかったが、衝撃によってトーガンの体は後ろに下がる。
「チッ、厄介な……!」
口元を憎々しげに歪めて漏らすトーガン。
強化系ゆえの防御力により、1発目は殻も幾つか当たったけれど無傷。ただ、私次第でいつでも殻と衝撃を撒き散らせる厄介さは悟ったようだ。
体勢を崩したところで仕掛けられたら危険であるとしっかり自覚させる。今のところ仕込みは上々だ。
今使った能力はドレスの女が簡単に説明していただろうけど、それを実際に見て、防がせることに意義がある。
……さて、後は位置と向き、そしてタイミングを合わせるだけだ。
「っふふ。ねぇ、全ッ然当てられない上に躱せなかった気分はどう? 割と楽しかったりすんの?」
「舐めた口をォ!!」
薄く笑ってトーガンへと問いかけると、彼ではなくキノコが叫び灰色の球体を射出してきた。
外した後に地面に落とし、そこからアスファルトが針のように鋭く尖って伸びてくる。狙いは心臓部。
それを足で蹴って破壊してトーガンのいる方向へ飛ばし、反撃に頭大の卵を投擲。彼はそれを灰色の球体を放ち空中で撃ち落として対処。
飛んできた物体を腕を振るって壊し、私が攻撃した隙を狙い突撃してくるトーガンの攻撃を下がって回避、再び卵を投げつけて破裂させる。
攻撃直後のため回避距離を稼げず、直撃こそ免れたもののまた衝撃と殻に煽られたトーガンに再び声をかける。
「聞いてんだから教えてくれたっていいじゃん。私ウスノロじゃないからそういう経験なくて分からないんだよね」
「ケッ……! 最ッ高の気分だぜクズ野郎!!」
「なるほど、ドMちゃんなわけね」
引きつった口元だけの笑顔で言われた皮肉に、更に挑発で返す。どうでもいいけど私は野郎じゃない。
私は基本的に速度重視だから当てられないことはないし、ワンダーエッグも命中重視の牽制か補助攻撃の能力なので基本的に命中率は高い。一応単純な疑問を1割り程度含めての問いは、しかし望んでいた方向の回答は得られなかった。まぁ怒らせるのには成功したから十分だ。
攻撃は当たらなくちゃ何の意味もない。そういう意味ではドレスの女は相当厄介で、アレが1発当たれば連鎖的に他の攻撃が当たる危険もあったのだ。傷を負ってでも倒した価値はある。
トーガンはもう喋らず、しかし顔面に浮き出た血管の数を増やして怒りを顕にし、これまで以上に殺意の篭った連撃を繰り出してくる。
それを私は最小限の動きで避ける。右手に持って居る死体の片足が、そして残っていた腕が切り飛ばされる。もう私が持っている足しか四肢は残っていない。
この位置、この向き、いい感じだ。トーガンに目線は固定しつつ、意識は後ろにいるクソキノコへと。
さぁ来い。死体にだけど当たっている。畳み掛けるチャンスだぞ、来い――――来た!
「――――ドMなキミにプレゼントをあげよう」
クソキノコが私の背後で能力を自身に纏い近接戦闘をしようとしたタイミングで、私はトーガンの攻撃を上に飛んで回避。高さは1m程度。
振り切った体勢で上にいる私を見上げるトーガンに、彼だけに聞こえるような声量で優しく囁くと、彼はその目を最大限に見開いた。そして更に私は能力を発動する。
基本的に動きが制限される空中にいる私をトーガンと同じように見、好機であると思ったキノコが後方からまっすぐに向かってくるのを感知する。
トーガンから見えるキノコの姿、そして隙だらけの空中から囁かれた声。そして、トーガンの目の前に突如出現した、一度に具現化できる限度である私の体積に僅かに届かない程度の巨大な卵。
ワンダーエッグで具現化可能な最大サイズに近い。最大級の威力と攻撃範囲のそれに、更に
私の左手が添えられたその卵を見て、トーガンはこの状況が私によって意図的に生み出されたことを瞬時に悟る。狙いが囁かれた自分ではなく、作られた状況だと知らぬ味方であることも。
そして思うのだ。ダメージ覚悟で初動を遅らせつつも味方に注意を呼びかけるか、それとも自身を再優先にし只管に回避するのか、どちらがいいのかを――――そう、今のように。
私の能力の性質を考えれば、卵の周囲全体が攻撃範囲なので、その影響でこの位置関係のまま破裂させると私はトーガンを追撃できない。私も食らうからだ。だからこそ、彼は死なない自分より死ぬかも知れない味方を即座に優先すべきだった。
しかし彼は考えた。考えてしまった。その一瞬の間が命取り。
反射的に味方を優先すべき場面。しかし今まで味方のいなかった彼には、その選択が出来ない。
結果、味方を守れない。そしてそのことを自覚し、動きが鈍る。思考に費やしてしまった僅かな間のせいもあって、彼はこれを正面から受けるしか無い。
巨大な卵に対し足を使い身体の向きを微調整しつつ、即座に新たに具現化した拳大の卵を死体の腹に詰める。
割れないように卵を軽く足で蹴り、体をクソキノコの居る方向へと流す。
そして彼と目があった瞬間、卵を破裂させる。
強力な衝撃が背後から強かに背中を打ち付け、それを受けて私の身体はまっすぐに飛んで行く。正面のキノコ目掛けて。
卵の殻の飛ぶ位置はランダム。しかし衝撃は卵の形に忠実に、規則正しく円形に広がっていく。それを利用し、私は私の狙い通りの向きへ飛ぶ。
突っ込んでくるクソキノコと、更にそれに向かっていく私。
表情を驚愕に染めつつも彼は迎撃を選択。体勢の崩れた私と彼では、攻撃面では向こうが有利。
しかし、関係ない。私はたたこの右手に持った肉塊を振るえばいいだけだ。当てる必要さえもない。
互いが互いを射程内に収める前に、私は死体をキノコ目掛けて振り――――それを爆散させた。
飛び散る肉片と骨、そして血液。卵の殻よりも高密度な人間の残骸は、私の方にも多少飛んできたけれど、慣性に従ってその多くは敵へと向かう。
相手からすれば、突然視界が肉片の朱に染められたのだ。前は見えなくなるし、目への飛沫の侵入を防ぐためにどうにかして防がないといけない。
それはつまり自ら完全に視界を閉ざすこと。予期せぬ攻撃とその状況ではもはや彼に攻撃の選択肢は残っていない。
視えないのであればこの場を何とか離れるしか無い。前に向かう肉体に逆らい、彼が能力で強制的に動かす方向は――――真後ろだ。
彼が前衛に出てきたのがそもそもの失策。
能力を使って動きを補助している以上、どうしたってその動きはぎこちないものになるし、また能力で操作する関係上動きはすべて意識して行う必要がある。
どうしたって動きの自由度は減ってしまう。選択できる行動の数が少ないのだ。
その状況で何度か間近で交戦すれば、動きのパターンは見えてくるし、特定の状況下での行動選択の癖も把握できてしまう。
そう。彼は危険な状況や、当たりたくない攻撃をされた時に――――絶対に後ろに下がって距離をとるのだ。
近接タイプじゃないために、多少危険な攻撃に対しても距離を保って避ける癖と胆力が付いていない。また危機から離れるという生存本能、そして全箇所の物体を後ろに向けて動かせばいいという単純さ。
癖の裏付けだって簡単に推察できる。故に自信を持って私は行動でき、そして見事にキノコは策にハマる。
血肉を浴びて後方へと下がったクソキノコへ、着地した私がそれ以上の速度で追い打ちをかける。
迫り来る私を彼が意識し、次の行動を選択しようとした瞬間を狙い、私はその場に仕掛けてあったトラップを発動する。
彼から見て斜め正面の地面。そこに先ほど切り飛ばされて転がっていた生首が――――突如として彼の顔面めがけて頭頂部から飛んで行く。
トーガンを完全に足止めできて、更にこの付近へとクソキノコを誘導する。これこそが私の思い描いた状況。
トーガンと違い、彼は死体や血肉に完全に慣れきっていない。それは私が死体を武器にしてぶん回しているのことに対する反応から予想。
予想が当たれば楽になる。当たってなくてもそこまで問題はなかったけれど、果たして予想はあたっていた。
夥しい量の血肉をその身に浴び、全身から死の匂いを感じ取り、更に何故か自分へと目掛けて死んだ仲間の生首が、何の予兆も無しに突如飛んでくる。
最期のだけでインパクトとしては十分なそれに、彼の精神がかなり不安定になる。更に追い打ちで頭部を爆散。目玉が、脳が、脳髄が飛び散り彼を汚す。
身に纏った能力が揺らいだ。それは彼が私の術中に完全にハマったことを意味し。
「うっ……、うわああァァーーーーッ!!」
狼狽し、思考を塗りつぶされながらも何とか体を動かし、その手に持った剣で斬りつけてくる。
しかし彼の攻撃は、確かに能力のお陰で速度は上がっているけれど、ただ振り回すだけの技術もへったくれもないものなのだ。
トーガン以上の鋭さの攻撃が全く私に当たらなかったのもそれが原因。力任せにブンブンと振られても当たるわけがない。
予想通り単純な軌道で振るわれたそれを難なく避け、懐に潜り込み、彼の顔に私の顔を思いっきり近づける。
限界まで見開かれた瞳。恐怖に慄く唇。青ざめた色彩。血にまみれた顔。絶望を映した表情を間近で見て、私の口角が自然と釣り上がり。
「――――っ!!」
そのまま足を思いっきり振り上げ、彼の股間を蹴り潰した。
哀れ声にならない悲鳴を上げて、白目をむいてその場に倒れこんだクソキノコ。もう彼のモノは使いものにならないだろうね。
まぁ、別にもうすぐ死ぬわけだし、頭のシルエットは似たようなものだから大丈夫だろう。何が大丈夫なのかは知らないけど。
……とりあえず、ショック死していないかだけ確認。どうやら脈はあるようなので安心。即死されてはちょっと困るところだった。
ピクピクと痙攣する肉体の足首を掴み、オーラを奪う。生きている念能力者であれば、たとえ失神してようが奪取は可能なのだ。
一部機能を完全に殺したとはいえ、一応は生け捕りに成功したのだから、残り少ない余生は私専用のオーラタンクとして有効活用させてもらう。
しかし間もなく、背後でコチラに近づきつつ膨らんだオーラを察知して横に大きく飛ぶ。
これで6度目。トーガンが破砕の能力に依る力の奔流が、轟音をたてて私が立っていた場所を飲み込んだ。
「ハッ、ハァ……、……フン、懲りずにまたそれを武器にすんのか? ワンパターンじゃこっちも飽きちまうぜ」
乱れた息を整えつつ、大斧を振り下ろした体勢でコチラを睨むトーガン。
大斧を盾にして何とか殻が当たるのだけは防いだのか、小さな切り傷が多少見受けられるもののダメージ自体は大きくなさそうだ。
ただ強い衝撃で吹き飛ばされたため、その際の踏ん張りなどでスタミナは幾らか消耗しているみたいだ。
……まぁ、ぶっちゃけアイツのダメージとかもう関係ないけど。彼の様子を見るに、もう決着は付いた。
「また仲間助けられなかったね。もう勝負付いちゃったよ?」
「……馬鹿言ってんじゃねえよ。このオレがサシでテメェに負けるとでも?」
私の言葉に、彼は視線に憎しみを込めて強気な姿勢で返す。
念能力者として、戦闘時に常に勝ち気で居るのは大切なこと。
だけどもう遅いのだ。もう戦闘と呼べるものは終わっている。
「そんな熱の篭った視線で見られると照れちゃうなぁ、私の事意識しすぎだっつーの。惚れてんの?」
「あぁ、意識しまくってるぜぇ。どうやってテメェをぐちゃぐちゃにしてやろうかって思うぐらい、テメェに惚れ込んでるぜぇ……!!」
私の軽口に彼は更に表情を歪ませる。余裕の態度が気に入らないのだろうけれど、口調にも力が篭っている。
これ見よがしにため息を吐いてクソキノコを手から離す。失神している彼は糸の切れた人形のように抵抗なく地面に落ちる。
右手にダガーを構え、左手には拳大のワンダーエッグを具現化。更に右腕にはついさっきキノコから奪ったオーラを転用し、全身の”堅”を保ったまま右腕に更に大きなオーラを纏う。
右腕に集まった大量のオーラ。そして彼を今まで苦しめた卵。彼の私に対する警戒度が高まる。
スティールオーラは盗むのが目に見えないという性質上、発覚に時間がかかる。トーガンはキノコを掴んだ私を見て、ただ武器にするとしか思っていないため能力に気づいていない。そのため、彼が感じる威圧感はかなりのものとなる。
見えていないのだから気づかないのは仕方がないのだけれど。ただまぁ、何も知らずに死ぬのは少し哀れでもあるかもしれない。
あぁ、そうだ。私は優しいから、冥土の土産に1個だけ彼の知らない私の能力の真実を教えてあげよう。
どうせこれから始まるのはただの消化試合だし。
「そういえば、言ってなかったことがあったんだけどさ」
「あ゛? ――――がはァ!?」
私の呼びがけに、トーガンが眉間に皺を寄せながら相槌を打った瞬間。
彼の後ろから、”隠”で姿と気配を隠されたワンダーエッグが背中に斜め下から、身体を浮かせるように直撃し。
同タイミングで飛び出した私が、意識していなかった背後からの奇襲に体勢を完全に崩したトーガンに肉薄し。
なんとか私の攻撃を防ぐために動かそうとした大斧は、その手元に高速で飛来した小さな卵によって妨害され。
無防備になった彼の心臓へと、私のダガーが吸い込まれるように刺さった。
「ごッ……!」
「私の能力って、別に投げなくても飛ばせるんだよね」
口から血を吐き、体の力が急激に失われたトーガンの耳元へと、口元を弧にして甘く囁く。
今夜の戦闘中、彼らが見ている前で。その時に使っていたワンダーエッグは、全て手元に具現化し、投げるか蹴るかして飛ばしていた。だけど、それはカモフラージュ。
ワンダーエッグは”スティールオーラで強化した分、同サイズでも込められるオーラの量が増えて、弾速や威力などが上昇して強くなる”のだ。
弾速が上昇するという事は、速度もオーラに依存しているということ。単純に投げるだけではオーラが増えたところで速度が上がるはずもない。
つまり、この能力はオーラで
女の生首が地面に落ちた時に音がしなかったのは、口の中に詰めた”隠”で隠された卵が衝撃で割れないように、中のオーラを動かして勢いを殺したため。
そして中に卵が入ったままの生首の位置を確認し、その近くへと誘導されたクソキノコ目掛けて飛び、その精神を大きくかき乱した。
そしてそのシーンをトーガンは見ていない。彼はあの場で防御のために最適な行動を選択したからだ。
彼は直径1mの円を持つ大斧にその身を隠した。事前に同じ能力に依る攻撃をされ、その防御方法を学んだからだ。
しかしそれは正面が見えなくなることを意味する。加えてあの規模の卵だと目を開けていることはほぼ不可能。だから彼は生首が飛ぶのは見えていなかった。
そして彼の後ろから急襲した卵。アレは彼が6度目の能力使用時に”隠”で上空に放り投げ、山なりに彼の後ろへと回りこんで攻撃させた。小型のものも同様。
「私の事意識し過ぎだって言ったじゃん、バーカ」
結局それが彼の死因。
何度と無く繰り返された言葉での挑発。相手にされない苛立ち。攻撃が当たらない憎しみ。
執拗に私を意識させ、執着させ、視界を狭め。
最初に仲間が死ぬきっかけとなったでかいオーラ。自身を傷つけた手の中の卵。
それを魅せつけることで彼の意識を正面の私に固定。結果、奇襲は難なく成功した。
この私がせっかく忠告してあげていたというのに、全くバカな男である。
心臓に突き刺さったダガーはそのままに、開いている左手でもう1本のダガーを持つ。
ごぽり、と喉奥から血が吹き出すトーガンの表情を一瞥してから、その首を切り落とした。
キノコの人に前2文字が付くか否かは、主人公が悪感情を込めているかどうかで区別しています。
多分何箇所かミスってると思いますが、ミスと思わず気にせず読んでください。